おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
青い空、
照りつける陽射し、
足をくすぐる砂浜
きらめく海、
そして
陽射しに照らされ、
焼き肉の鉄板くらいに熱くなったクルセイダー戦車
「・・・」
改めて見ると、
どうしてこの状況になったのか自分でも少し分からなくなる
普通、夏の海と言えば
水着、浮き輪、海の家、スイカ割り
そんなものが浮かぶはずなのに
目の前にあるのは
砂浜に堂々と停車している戦車
「"・・・うん。"」
("やっぱりキヴォトスだなぁ・・・")
そんなことを考えながら、私は周囲を見渡す
今私達はビーチに来ていた・・・
「わーっ!海ですよ!海!」
「ようやく着きました!本物の海ですよ!アズサちゃん!」
ヒフミが、まるで初めて見る景色を全身で喜ぶように声を上げる
普段から穏やかな彼女だけど
今だけは完全に年相応の少女の顔をしていた
「・・・うん、海だ。」
対してアズサは
表情こそ大きく変わらない
でも
その視線は
普段の警戒するようなものではなく
ただ純粋に、目の前の景色を見ていた
「あ、あれ・・・?」
「はしゃいでるの私だけです・・・?」
ヒフミが少し不安そうに首を傾げる
「アズサちゃん、海に来るの初めてなんですよね?」
「どうですか?この視界いっぱいに広がる海!」
「"い、良いよね、海!テンション上がるね!"」
私も思わずフォローを入れる
せっかくの初めての海だ
少しくらい一緒に楽しめたらいい
「・・・うん、これでも結構感激してる。」
「なかなか悪くない。」
アズサは短く答える
その声はいつもの淡々としたものだけど
きっと本人なりに、
かなり楽しんでいるのだと思う
「・・・ただ、ここに来るまでに色々問題があったせいで、というか・・・」
「・・・今も絶賛進行中というか・・・」
そう言ってアズサが視線を向ける
私達から少し離れた場所
そこには――
「そ、そういえばそうでしたね・・・」
そう
今回の最大の問題児がいた
そういって私達は少し離れたところの砂浜に居る人物達を見る
「きへへ・・・ぐへへへへへ!!」
砂浜を踏みしめながら、
明らかに普通ではない笑い声を上げている少女
「・・・ふぅ、ようやく着きましたね。」
マシロはそんなツルギを見ながら、
どこか達観した表情を浮かべていた
「けへへへへへ!!」
そして――
「きひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃーーーー!!!!」
「海ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「夏ぅぅぅぅぅ!!!」
("今日のツルギ、すっごいテンション高い・・・")
「「・・・」」
ヒフミとアズサも、
流石にどう反応すればいいのか分からないようだった
「えっと・・・」
「わ、私達、この後どうしましょう・・・?」
ヒフミが小さく呟く
その視線の先には
ツルギが海を見て狂喜乱舞していた
~数日前~
【トリニティ総合学園・正義実現委員会教室】
「こちらに入ってください、抵抗はしない方が良いですよ。」
正義実現委員会のマシロに拘束されながら、
二人の少女が連れてこられる
「きゃっ」
「っく」
片方は困ったように
もう片方は周囲を警戒するように視線を動かしていた
教室にいた委員達は、
疲労の色を隠せていない
当然だった
少し前まで――
彼女達は、とある一件の対応に追われていたのだから
二人を拘留してからマシロがハスミに報告をしていた
「お疲れ様です、ハスミ先輩。」
「ふぅ、困りましたね・・・」
ハスミは小さく息を吐く
落ち着いた表情を崩してはいない
しかし
机の上に積まれた報告書の量が
事態の大きさを物語っていた
「現在把握している限りですと、被害は正義実現委員会のメンバー30名あまりが重軽傷、」
「東の学園広場が半壊、第12校舎が全壊、それから――」
「ありがとうございます」
ハスミは報告を遮る
「詳しい被害についてはまた後程聞かせてください。」
一度、目の前の二人を見る
そして少しだけ首を傾げた
「ちなみに・・・」
「それらは、本当にこのお二人による被害の規模で間違いないのですよね?」
「武将集団や、大型の何かと戦ったわけではなく?」
マシロが少し困った顔をする
「はい・・・間違いありません。」
「まるでブリッツクリークのように機動戦を仕掛けられてしまい、」
「対戦車兵器PIATを確保するまでの間、ずっと後手に回る事になり・・・」
「素早い機動力、それに加えてピンポイントに擲弾兵ばかり狙われてしまった事もあり、」
「動きを止めるまで時間がかかってしまいました。」
「驚くべき戦術です。」
ハスミは真剣に頷く
戦術として聞けば
確かに合理的だった
・・・問題は
それを実行したのが、
そんな事をするとはまったく思ってもいない生徒という事だった
「そうでしたか・・・それにしても、まさか堂々と学園の戦車を盗み出すなんて。」
「お二人共思ってた以上に大胆な所があるのですね。」
「い、いえっ、その・・・!」
ヒフミが慌てて手を振る
「ぬ、盗んだわけではありません!」
「ちょっとだけ借りて、また戻しておこうかなって・・・」
「世間ではそれを盗むと呼ぶのだと思いますよ・・・?」
ハスミは淡々と返す
「阿慈谷ヒフミさん、白洲アズサさん。」
「予め決められたものは、きちんと守らねばならないのですよ。」
「それが規則であれ、なんであれ。」
「取り敢えず、皆さんの処遇について話し合って来ますので、少し大人しく待っていてください」
ハスミとマシロが部屋を出ていく
残された二人
しばらく沈黙が流れる
「あ、あう・・・なんだか物凄く誤解されちゃった気が・・・」
ヒフミが頭を抱える
「でも惜しかったよ、ヒフミ。」
「最後の狙撃手の待ち伏せにさえ気づいていれば、まだまだ立ち回れたはず。」
「あ、アズサちゃん、そうじゃなくて・・・」
ヒフミは困ったように眉を下げる
「そ、そもそも、どうして正義実現委員を攻撃したんですか!?」
「大人しく投降した方が良かったんじゃ・・・」
「追いかけてくるから反撃しただけ。」
「それに、ヒフミが戦車を上手く操縦してくれたおかげでかなりの数を倒すことが出来た。」
「特にあの、急加速後に見せたコーナーでのドリフト。」
「あれは良かった、誰にでも出来る動きじゃない。」
「いやいやいや・・・!」
ヒフミが勢いよく首を振る
「あれは操縦って言うより、適当にあちこち触ってたらああやって動いちゃっただけで・・・」
「あ、あうぅ・・・」
「ど、どうしましょう!?」
「このままだと戦車を盗んで、戦車で校内を疾走しながら、」
「正義実現委員会のメンバーを何十人もやっつけたただの悪党になっちゃいますよ・・・!!」
「何一つ間違ってない。」
「ま、間違ってますって・・・!」
「うぅ、こんなはずじゃなかったのに・・・」
アズサは静かに考える
そして
「さて、これからどうなるのか・・・」
「爪でも剥がされるのかな?」
「ヒフミ、拷問に耐える訓練はしてある?」
「そんな訓練はしてませんせんし、したくもありません・・・」
「それに正義実現委員会の人は拷問とかしないと思います・・・・・・多分。」
「正義実現委員会の委員長も?」
「いや、あれは拷問というより処刑か・・・」
「あ、あうぅ・・・確かにその噂は、私も聞いたことありますけど・・・」
ヒフミの顔がさらに青ざめる
「こうなったら、全部正直に話して許してもらうしか・・・」
「つまり、まとめると・・・」
「アズサさんに海を見せたくて、戦車を盗んだ・・・と言う事であってますか?」
ハスミは確認するように、ゆっくりと言葉を選ぶ
目の前にいる二人の表情を見る限り、少なくとも悪意があったようには見えない
だが、それとこれとは別問題だった
戦車を持ち出した
学園施設内で使用した
そして正義実現委員会と交戦した
聞けば聞くほど、頭の中で整理する必要がある内容だった
「はい・・・ちょっと学園の備品をお借りして、行ってこようかなと・・・」
「決して盗みたかったわけではないんです・・・」
ヒフミは申し訳なさそうに肩を落とす
本人としては本当に少し借りる程度の認識だったのだろう
その純粋さが余計に頭を悩ませる
「ヒフミさんの事ですし、嘘をついてるとは思いませんが・・・」
「普通に海に行けば良かったものをどうしてわざわざ戦車で・・・?」
ハスミの問いに、ヒフミは一瞬だけ迷う
そしてまるで当然の事を説明するように口を開いた
「そ、それではダメなんです!」
「アズサちゃんは海を見た事が無いんです。」
「これが初めての海になるんですよ!?」
「は、はい・・・ですが、それでどうして戦車を・・・?」
ハスミの表情が僅かに困惑する
話の方向性は理解できる
友達に初めての経験をさせてあげたい
そこまでは分かる
だが、その手段がどうして戦車になるのか
そこだけがどうしても繋がらなかった
「せっかくの夏休みですし、シチュエーションとしてはバッチリです。」
「照りつける陽射し、足をくすぐる砂、きらめく海・・・そうとくれば――」
ヒフミは力強く語る
まるで最高の思い出を説明するように
その隣でアズサは静かに聞いていた
特に否定する様子はない
むしろ、少しだけ納得しているようにも見えた
「そうとくれば・・・?」
ハスミが続きを促す
そして
「戦車に乗って行くしかないじゃないですか!?!」
正義実現委員会の教室が静まり返った
「「「・・・・・・」」」
誰もすぐには反応できなかった
あまりにも迷いのない答えだったからだ
「理解しました。」
「夏休み、光る海、輝く砂浜。」
「友達と行く旅行・・・」
マシロが静かに頷く
「そして、戦車から見渡すそれらの光景。」
「確かにこれは外せませんね。」
「海に戦車はつきもの、ロマンとすら言えます。」
マシロのその発言に、ヒフミが大きく頷く
「そ、そうですか・・・?」
「そうなの?」
この空間にまともな感覚を持っているのはハスミとアズサだけだった
「友情、海、ロマン、要するに――」
ゴゴゴゴ
建物が少し揺れる
「え、えっ?な、なんですか!?地震!?」
「いえ、おそらくこの音は・・・」
ヒフミが慌てて周囲を見る
「青春んんんんんんーーーーーーーー!!!!!!!!」
ドガーン
ガシャンッ、ガシャン!!
何かが奇声を上げながら部屋の壁をぶち破って入ってきた
「きへへへへへへっ!!」
「ひっ!?か、壁を突き破ってきました!?」
ヒフミが反射的に後ずさる
「ツルギ・・・?」
ハスミは額に手を当てる
「あ、ツルギ先輩。今までどこに居たんですか?」
マシロだけは比較的平静だった
・・・慣れているのかもしれない
「きへああぁぁぁぁっ!!」
「海ぃぃぃぃぃぃぁぁああああああっ!!!」
「夏ぅ!!友情ぉ!!きひゃああぁぁぁぁっ!!!」
「・・・?」
教室にいる全員の視線が、自然とツルギへ集まる
普段から正義実現委員会の中でも特に印象の強い人物ではある
だが、今日のツルギはいつもとは少し違っていた
いつものような戦闘前の狂気ではない
何かを楽しみにして、抑えきれなくなっているような――
そんな勢いだった
「すみませんごめんなさい許してください!爪は痛いので剥がないでください!」
「多分楽しくないと思いますっ!!」
ヒフミは完全に怯えきった様子で、両手を胸の前で振る
どうやらツルギのテンションの高さと、普段の印象が頭の中で結びついてしまっているらしい
「ツルギ先輩、何だか今日は特にテンションが高いですね・・・?」
マシロが首を傾げる
正義実現委員会の中でも、ツルギの普段の様子を知っているからこそ分かる違和感だった
「・・・なるほど。」
「もしかしてこれは・・・」
ハスミは少し考える
そして、ツルギを見る
今まで見たことのある彼女の姿
戦闘時の狂気
仲間を守る時の強さ
そして――
普段は隠している、不器用な少女らしい部分
「ツルギ。」
「くけけけけ・・・!」
「・・・へ?」
名前を呼ばれた瞬間
ツルギの動きが止まる
さっきまで壁を破壊する勢いだった少女が、急に静かになる
その変化に、ヒフミ達も少し驚いた
「ちょっとこちらへ・・・」
「ああん・・・?」
そう言って奇声をあげていたツルギを別室までハスミが連れて行った
扉が閉まる
残された三人の間に、少しだけ静かな時間が流れる
「ふぇぇ・・・」
「こ、怖かったです・・・」
ヒフミが小さく息を吐く
安心したような、まだ警戒しているような複雑な表情だった
「・・・まだ終わってない。気を緩めないで、ヒフミ。」
「ここからまた強襲されて戦闘になるかもしれない。」
アズサは真剣な顔で周囲を確認する
冗談ではなく、本気で警戒している
その姿を見て、ヒフミは余計に不安になる
「え、えぇっ!?そうなんですかマシロさん!?」
「私に聞かれてもちょっと分かりませんが・・・」
マシロは困ったように答える
「ただ、確かにここ最近のツルギ先輩は、少し元気がなさそうな日が多かったです。」
「今日のテンションは高そうですが、なんとなくキレが悪いと言いますか・・・」
「そう考えると確かに、ちょっと危ないかもしれませんね・・・」
「・・・」
ヒフミの顔から血の気が引く
「つまり、今の状態は・・・」
考えたくない方向へ想像が進んでいく
「あ、あうぅ・・・やっぱり・・・」
そんな会話をしている間にも、別室ではハスミがツルギへ何かを話している
しばらくして――
少したってからハスミだけが部屋に戻ってきた
「・・・ただいま戻りました。」
その声に、ヒフミの肩が跳ねる
「ひぃっ!?せ、せめて遺言だけでも残させてください・・・!」
「・・・何のお話ですか?」
ハスミは本当に分からないという顔をする
「ツルギには説明をして今日は帰ってもらいましたので、ご心配なく。」
「話を戻しますが・・・お二人にお願いがあります。」
ハスミは改めて二人を見る
先ほどまでの騒がしさとは違い、今度は真剣な空気になる
「え、はい!?わ、私達にですか?」
「・・・なるほど、司法取引か。」
アズサが淡々と言う
「不問に付す代わりに、何か危ない事をさせようと。」
ハスミは少し困ったような表情になる
確かに状況だけ見れば、そう思われても仕方がない
少し歯切れが悪く答えるハスミ
「えっと、恐らくそんなに危なくはないかと思うのですが・・・」
「ボランティア活動と言いましょうか、処罰の代わりにやっていただきたい事があります。」
「諸経費はもちろん、戦車も正式にお貸ししますので。」
「ぼ、ボランティアですか・・・?」
ヒフミが聞き返す
怒られると思っていた
責任を問われると思っていた
だからこそ、その言葉は少し意外だった
「はい。決められたことを守れなかった代わりに、」
「今度は決められた通りのことをして頂ければと。」
ハスミは静かに告げる
それは罰というよりも――
~現在~
「・・・それで、まさかこうなるとは・・・」
ヒフミは苦笑いを浮かべながら、改めて事情を説明してくれていた
その表情はいつもの明るいヒフミらしいものだったが、どこか困惑が混ざっている
恐らく本人も、数日前の出来事がここまで大事になるとは思っていなかったのだろう
「【ツルギと一緒に海に行って、リストに書かれた事をその通りに実行してきてください。】」
「【証拠として、写真を取って提出するように】・・・」
「今でもまだ、何が何だか分からないのですが・・・」
「とにかく私達二人ではちょっと上手くやれる自信が無かったので、」
「それで、先生にお願いを・・・」
「"な、なるほど・・・"」
「"ヒフミ達がトリニティの校舎を半壊させたくらいしか判らなかったけど分かった・・・"」
「あ、あはは・・・そこは忘れて欲しいな・・・と。」
「まぁでも!来てくださって心強いです!」
ヒフミはいつものように笑う
その笑顔を見ると、どうしても怒る気にはなれなかった
「・・・」
その時だった
マシロがこちらをじーっと見てきていた
無言
しかし、その視線には何かを考えているような雰囲気がある
「・・・理解した、こっちは監視役だな。」
「私達が逃げない様に見張るつもりか。」
「流石に徹底してるな、正義実現委員会。」
「いえ、別にそういうわけではないのですが・・・」
マシロが否定する
「油断はしない。監視と言いつつ、後ろから撃たれないとも限らないからな。」
「・・・なんだかすごい誤解されてる・・・」
マシロが困惑していた
「こ、このミッションを上手く達成できなかったら、やっぱり爪を・・・あうぅ・・・」
「或いは、MIAになる事を狙ってるのかもしれない。」
「"あはは・・・ちなみにそのリストちょっと見せて貰っても良い?"」
このままだとヒフミの不安だけが膨らんでいきそうだったので、私は話題を変えることにした
「あ、はい!こちらです。」
渡された紙を見る
「"ふむふむ・・・"」
「"砂のお城と砂風呂、泳ぎの練習、ビーチバレー、花火、スイカ割り、海の家・・・"」
「"なんか夏の海の定番コースだね。"」
どこからどう見ても、普通の夏休みの予定
むしろ、かなり王道だ
「・・・先生は相変わらず素直すぎる。」
「もし素直に目的を書いて、そのリストが誰かに奪われでもしたらどうなる?」
「暗号はやり取りの基本。こういう書き方がされていても、裏には何か意図が隠されてるはず。」
「なにせ相手はほかでもない、あのトリニティ正義実現委員会・・・」
「一度与えられたチャンスで使い物にならないと判断されたら、明日の朝日はきっと拝めない」
「一瞬たりとも油断はできない。」
「"正義実現委員会が禁酒時代のマフィアみたいな扱いに・・・"」
思わず苦笑する
確かに、アズサの中では正義実現委員会への警戒心がかなり強いらしい
「あ、アズサちゃん、そうやってまた怖い事を・・・」
「で、でも、受けた以上はやるしかないですよね・・・」
ヒフミは気持ちを切り替えるように頷く
「こうしてクルセイダーちゃんまで正式に貸してもらえましたし・・・えへへ・・・」
その視線の先には、今回の移動手段
クルセイダーちゃんこと、クルセイダー戦車
「"・・・"」
("戦車の装甲に陽炎出てる・・・絶対触りたくないなぁ・・・")
夏の日差しを浴びた鋼鉄の車体からは、明らかに危険そうな熱気が立ち上っている
「海、水着、陽射し、そして戦車!」
「これこそ私が求めていた、イメージ通りの完璧な夏休みです!!!」
("ほんとになんでこの子トリニティに居るんだろう・・・・・・")
その純粋な感性に、改めて疑問を抱く
「・・・ヒフミがそれでいいなら・・・良かった。」
「ですので、一旦難しい推測は止めにしましょう!」
「まずは一つずつ、書かれた通り進めてみて――」
そんな話をしていると
ビーチの奥の方から、微かな声が聞こえてきた
最初は、遠くの誰かの声だと思った
でも――
「きひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!!」
「海!海だぁぁぁ!!!!くはははははははは!!!!」
「"・・・"」
聞き覚えがありすぎる
「な、なに!?怖いっ!?」
「それで――」
「お、お化け!?お化けよ!?みんな逃げて!!!」
「きゃははははははああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「「「"・・・・・・"」」」
三人の視線が自然と同じ方向へ向く
「・・・先生。」
「やっぱり、諦めても良いですか・・・?」
その瞬間、
補習授業部の騒動すら乗り越えたヒフミの精神が、静かに限界を迎えた
「"が、頑張って!ヒフミ!ファイト、ファイトだよ!!"」
「うわああぁぁぁぁぁーーーん!!助けてくださいせんせぇー!!!!!」
「・・・うん。」
「いつもより、平和な夏休みなりそうですね。」
マシロが小さく呟く
("うそでしょ!?これで平和なの!?")
――その基準だけは、まだ理解できそうになかった
その後、ヒフミを何とか落ち着かせて
取り敢えずリストを埋めていこうと説得に成功した
まだ少し顔色は悪い
しかし、逃げ出さずに向き合おうとしている辺り、やっぱりヒフミは強い子だと思う
「・・・では、一番簡単に出来そうなことから始めていきたいと思います・・・」
「えっと、この中で行くと・・・」
ヒフミはリストを確認する
書かれている内容を一つずつ確認していく姿は、
まるで大事な仕事の予定を確認しているようだった
「"砂のお城と砂風呂はどう?今ちょうど砂浜にいるんだし。"」
「そうですね!確かにこれなら直ぐに出来そうです!」
「では、まずは私が作ってみる事にします!」
ヒフミは少しだけ表情を明るくする
やっぱり、こういう普通の遊びなら安心できるらしい
「先生、良い感じのタイミングで写真を取ってくださいね!」
「"まかせてー!"」
ハスミから預かったインスタントカメラを準備する
「楽しそうな感じで写るようにお願いします!」
「"・・・楽しそうな姿じゃなくて、楽しそうに写るように・・・?"」
少し引っかかる言葉だった
「も、もちろん純粋に楽しみたい気持ちもあるのですが、」
「まずはミッションをこなさないとですし・・・!」
「失敗して爪剥ぎは嫌なので、どうにか成功させないと・・・!」
("多分、ハスミがツルギに高校最後の夏を楽しんで欲しいだけだと思うんだけどなぁ・・・")
ヒフミは本気で任務として受け取っている
それが少しだけ微笑ましくもあり、少しだけ切なくもあった
そんな話をしていると、ツルギが口角を上げてヒフミを見ていた
「・・・」
その視線に気付いたヒフミの動きが止まる
「ひいぃっ!?す、すみません!な、何かご気分でも害しましたか・・・!?」
("本当に良い子なんだけど・・・如何せん普段の印象が・・・")
ツルギ本人には、全く怒っている様子はない
むしろ――
楽しそうにしている
ただ、普段の彼女を知っている人間ほど、
その笑顔を怖がってしまうのも分かる気がした
「"大丈夫だよ、ヒフミ。ツルギも凄く楽しそうだし。"」
「そ、そうなんですか・・・?」
少し不安そうにツルギを見る
「では改めて、水を入れて・・・」
ヒフミは気を取り直して作業を始める
砂を集め、水を混ぜ、形を整える
単純な作業
けれど、こういう時間こそが海遊びなのかもしれない
ヒフミが砂を盛り、その砂に水を入れて固め
砂山を削り形を作っていく
「ここに穴を・・・んしょっ!」
砂山にスコップを突っ込み穴を開けていく
「・・・」
ツルギは何も言わない
ただ、じっと作業を見ている
戦場で見せる鋭い目ではなく
何かを待っているような、子供のような目だった
("黙ってヒフミの作業を見てるけど、ツルギも楽しそうだね。")
「少しずつ濡らして・・・崩れない様に・・・」
「・・・」
時々、ツルギがそっと砂を押さえる
ヒフミが作る小さな城を壊さないように
慎重に。
不器用に。
そうして。
40cmくらいのこじんまりした砂のお城が完成した
「出来ました!!完成です!!」
ヒフミが嬉しそうに声を上げる
小さい
決して立派なお城ではない
でも、そこには二人で作った時間が詰まっていた
「・・・」
ツルギも嬉しそうな顔でプルプル震えていた
その姿を見て、少し驚く
戦闘の時とは全く違う
感情を抑えきれず、ただ喜びが溢れている
「い、いかがでしょうツルギさん?お気に召しましたか・・・?」
ヒフミが恐る恐る尋ねる
その瞬間
【ダダダダダダダダッ!!!!】
先ほどまでヒフミとツルギが作っていた砂のお城に着弾し――
砂の城が吹き飛ぶ
「きゃっ!?」
「あぁっ!せっかくの砂のお城が!?」
舞い上がった砂が、ゆっくりと降り注ぎ
数秒前まであった小さな夏の思い出が
あっという間に崩れ落ちた
「あははははっ!!」
遠くから笑い声
「誰の許可貰って、ここで砂遊びなんかやってるわけ?あぁん!?」
「この無為ヶ浜は、昨日からあたしらのもんなんだけど!ショバ代はどうしたよ!?」
先ほど銃を撃ってきたスケバン二人がコチラを恫喝してきていた
「えっ、えぇ・・・!?」
ヒフミが困惑する
あまりにも突然すぎる
さっきまでの穏やかな時間が嘘のようだった
「・・・」
そしてツルギが立ち上がる
ゆっくりと
けれど、明確な意思を持って
その視線の先には――
壊された砂の城
「"はぁ・・・ほどほどにね・・・"」
私は小さく呟く
嫌な予感がする
でも、止める理由もなかった
瞬間
チンピラ二人の片方をツルギが掴み遠くへ放り投げた
「ええええぇぇぇぇぇぇぇ―――グエッ」
20mほどは飛んだところでビーチに突き刺さる様に着弾する
「吹っ飛んだ!?なんつう怪力だよ!?」
「てめぇらあああぁぁぁーーーーー!!!!」
「・・・よくも、ヒフミが作った砂の城を壊したな。」
その声は低い
いつもの奇声ではない
純粋な怒りだった
あと、いつのまにかアズサも銃を取り出していた
("あー・・・アズサも結構キレてる・・・")
普段は冷静なアズサ
でも。
ヒフミが大切に作ったものを壊されたことだけは、許せなかったらしい
「え、はい・・・!?」
「許せない・・・協力するよ、正義実現委員会の委員長。」
「きしゃああぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」
こうして
砂浜で始まった小さな騒動は――
あっという間に終わった
二人により、スケバン二人組は蹂躙され
捨て台詞を吐きながら逃げていく
「ぐぅっ!」
「くそっ!覚えてろよ!?」
「ふん、あんな戦術も戦略も無い動きに負けるわけが無い。」
「・・・」
("戦術とか戦略とかの話なのかな・・・?")
「あ、あうぅ・・・ど、どうしてこんな事に・・・」
ヒフミは困惑したまま、砂浜を見る
完成したばかりだった砂の城
短い時間だったけれど、確かに楽しい時間だった
「・・・っ!!」
その時
ツルギの表情が変わった
「"・・・?ツルギ、どうしたの?"」
「こ、こんなはずでは・・・」
「海が、夏が、友情が・・・」
ツルギは呟く
求めていたもの
想像していたもの
本で見たような、普通の夏
でも、現実は――
やっぱり少し違った
「"ふふ、ツルギは今それをちゃんと守ってくれたんだよ。"」
「あ、えっと・・・・・・は、はい。」
ツルギは少し戸惑ったように返事をする
でも
その表情は、どこか嬉しそうだった
その後、写真を撮る為に
再度砂のお城を作る事になったが、
「・・・あ、あの。」
「"ん?どうしたの?ヒフミ。"」
「す、すみません・・・ちょっとだけ、お手洗いに行ってきても良いでしょうか?」
「"もちろん。"」
「"さっきは、ヒフミとツルギが砂のお城作ってくれたからね。"」
「次は私とアズサとマシロが砂のお城を作っておくからゆっくり行っておいで。"」
「ありがとうございます!」
そう言ってヒフミは、小走りで海の家の方へ向かっていった。
「・・・」
「・・・」
残された私達の間に、少しだけ静かな時間が流れる
「・・・先生。」
「"うん?"」
「せっかくだ。」
「さっきの砂の城・・・もっと強化して作ろう。」
「"あ、いいね。"」
そう言うと
アズサは何の迷いもなくクルセイダーちゃんに付いていた
土木建築用のスコップを手に取った
("え、強化って言ってもスコップ大きくない・・・?")
ザッ
ザッ
黙々と砂を積み上げ始める
("うーん・・・とりあえず、私は海水汲んでくるかな・・・")
私が海水を汲みに波打ち際まで来ていると
「・・・その積み方だと強度が足りない。」
アズサの砂のお城建築予定地で
マシロがぽつりと呟いた
「土台はもっと広く。」
「水を混ぜる量も少ない。」
「・・・なるほど。」
アズサは素直に頷き
今度は砂を大きく掘り始めた
("え・・・いや、それ広くない・・・?")
「こっちは私が固めます。」
「頼む。」
二人はそれ以上ほとんど会話もせず
淡々と
ただひたすら砂を積み上げていく
ザッ
ザッ
ザッ
砂山は少しずつ大きくなり
やがて高さが私の腰ほどになった
("・・・あれ?")
さらにその周囲には壁が伸び始め
角には見張り台のような四角い塔まで出来ていく
("・・・・・・あれ?")
「城壁は二重に。」
「その方が防御しやすい。」
「・・・確かに。」
「この辺りには空堀も作る。」
「敵が接近しにくくなる。」
「了解。」
("まって、強化って何を想定してるの!?")
砂山だったものは、いつの間にか"城"ではなく
砂で築かれた要塞へと姿を変え始めていた
広い外壁
綺麗に整えられた通路
左右対称の塔
中央には天守のような建物まで建設されていく
「・・・。」
「ここに砲台。」
「・・・それなら射界も確保できる。」
「うん。」
("砲台!?")
しかも二人とも楽しそうに作っているというより
軍事施設でも建設しているかのような真剣な表情だった
「"・・・。"」
私は思わずその光景を眺める
("・・・・・・。")
("これ、本当に砂遊びだよね?")
気付けば、さっきまで四十センチほどだった可愛らしい砂のお城は跡形も無く
そこには子供が作るにはあまりにも完成度が高すぎる
小型の城塞都市のような建造物が少しずつ出来上がり始めていた
("ヒフミ帰ってきたら、絶対びっくりするだろうなぁ・・・")
「すみません!お待たせしました。」
「ちょっとお手洗いが遠くて・・・」
「その後の調子はどうですか?」
ヒフミがそう問いかけてくるも、私はある一点から目を逸らせなかった
「"・・・・・・"」
「・・・?先生?どこを見てるんですか・・・?」
そういってヒフミも私と同じ方向を見つめる
私の目線の先には、
砂のお城ではなく、砂で建築された城塞が完成していた
「ふええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!」
「こ、これは一体どうしたんですかアズサちゃん?!」
「どうしてこんな大きさにしちゃったんですか?!」
「いえ、それ以前にいったいどうやって?!」
「リストからの指示は砂のお城だった。」
「つまりはフォートレス。」
「どんな攻撃を受けても対応できるようにした。」
「間違ってないですけど、違うどころか間違ってますよ!?」
「ちょうど良かった。」
「この海岸、遮蔽物も塹壕も無くて不安だったから。」
「これなら敵の攻撃があっても大丈夫、安心してヒフミ。」
「同意します。逆にこちら側は狙撃がしやすい作りにもなっていて、」
「とてもいい感じです。」
自身の愛銃を構えて高台から狙撃の準備をしているマシロ
「マシロさん!!?マシロさんもノっちゃったんですか?!」
「・・・・・・ふふっ」
マシロが楽しそうに不敵な笑みを浮かべる
「・・・!?」
「楽しそうですね?!?!」
「これ、写真に納まるんでしょうか・・・」
「もう少し、小さくてかわいい感じには出来なかったんですか・・・?」
「いや、敵襲の事を考えるとこれでも最小限サイズだ。」
「これ以上小さくすると、身の安全を保障できない。」
「素材が砂だけという事はともかく、こうして高い所に居るのは気持ちが良いですね。」
「"多分それはスナイパーの性じゃないかな・・・"」
「"まぁ、とりあえず。ヒフミも帰ってきたし皆ー!"」
「"写真とるよー!笑ってねー!"」
カシャッ
ハスミから渡されているインスタントカメラで、
この超ド級の砂の城で楽しそうな笑顔を浮かべてる皆を写真に収めた
「はぁぁ・・・思わぬ形で、お二人が意気投合しましたね・・・」
「それにしても、攻撃ですとか敵襲ですとか・・・」
「こんな平和なビーチで、そうそうそんな事――」
「"あ、ヒフミそれはフラグ・・・"」
ヒフミのそのセリフが終わった瞬間に
ドカアアァァァッァン!!!
私達の近くに爆発物が撃ち込まれた
「・・・え?」
「"あーあ・・・"」
ダダダダダダッ!!
ダンッ!ダンッ!
こちらに向けて銃弾が撃ち込まれる
砂の高台からマシロが索敵結果を伝えてくる
「敵を発見、三時方向!水着のスケバンが多数!」
「ね、敵襲があったでしょ。」
アズサがどこかドヤ顔でヒフミに言って来た
「・・・・・・」
「さっきの仕返しだ!!」
「こんだけいりゃあ負けねえだろ!覚悟しやがれ!」
「望むところだ。」
「狙撃手、後ろは頼む。」
「お任せください、私の実力をお見せします。」
「・・・どうしてこんなことに~~~~!?」
「ヒフミ!」
「防壁の内側へ!」
「は、はいっ!」
ヒフミが慌てて城壁の中へ飛び込む
その直後、
ダダダダダダダッ!!
大量の銃弾が砂の城壁へ撃ち込まれ、砂が舞い上がる
「右側、敵八名。」
「ライフルのみ。」
アズサが冷静に状況を整理する
「問題ない。まだ耐えられる。」
「狙撃を開始します。」
マシロが城壁の上からライフルを構える
パンッ!
パンッ!
敵の武器だけが次々とはじき飛ぶ
「うわっ!」
「銃が!」
敵の攻撃が一瞬止まった隙を見てアズサが銃眼から射撃を開始する
ダダダッ!!
敵は少しずつ押し返されていった
しかし
「おい!」
「正面突破は無理だ!」
「RPG持って来い!」
その声を聞いた瞬間
「・・・!」
アズサの表情が僅かに変わる
「先生。」
「まずい。」
「"うん。"」
RPGを構えたスケバンが二人
砂の城へ照準を合わせる
「撃てぇ!!」
シュゴオオオオッ!!
ロケット弾が飛び
ドガァンッ!!
砂の城壁へ直撃する
「右側城壁損傷。」
「次は抜かれる。」
だが、その瞬間
「きひゃああああああああああああ!!!!」
砂浜を一直線に、一つの影が駆け抜けた
「えっ」
「なっ!?」
ツルギだった
常人ではあり得ない速度でロケット弾を発射したスケバンへ一瞬で肉薄する
ドゴォッ!!
一人
バキィッ!!
二人
三人と
RPGを持っていたスケバンが宙を舞う
「きしゃあぁぁぁぁ!!!!」
「みんなが作った城を壊すなぁぁぁぁぁ!!!!」
「「「・・・・・・」」」
私は思わず目を丸くする
("・・・ちゃんと守ってる。")
「・・・。」
アズサも少しだけ驚いたようにツルギを見る
「頼もしい。援護を続ける。」
少しして、スケバン全員を倒し静寂が戻る
「終わった・・・」
ヒフミがゆっくり周囲を見渡す
砂浜には倒れたスケバン達
遠くではツルギが満足そうに笑っている
「・・・」
そして皆で作った砂の城へ視線を向ける
「・・・」
そこにはもう
立派だった城塞の姿は無かった
城壁は撃ち崩され
塔は半ばから崩れ落ち
天守は跡形もなく砂山へと戻っている
あれほど見事だった城は戦いを終えた今
ただの砂浜へと姿を変えていた
「ああ・・・」
ヒフミが小さく呟く
「せっかくアズサちゃんとマシロさんが作ったお城が・・・」
「仕方ないよ、ヒフミ。」
「すべては虚しく、形あるものはいつか壊れてしまうもの。」
「で、でも・・・」
「・・・砂のお城なら、また作ればいい。」
「虚しい事ばかりのこの世界、それでも抗い、戦い続ける事にきっと意味はある。」
「その通りです」
「悪は何処にでも存在する物。」
「私達は常に備え、立ち向かわねばなりません。」
「も、もう私には何も分からないです・・・」
「本当に、こんな感じでいいんでしょうか・・・?」
ヒフミがそう言うと丁度ツルギがこちらまで歩いてきた
「つ、ツルギさんはどう思います・・・?」
「きへへへへへへ!!」
「きゃははははははっ!!!」
「"うん、ツルギもすっごく楽しそうで良かった。"」
「そ、そうでしたか・・・なら良いのですが・・・」
「あ、そういえば砂のお城は出来ましたが、砂風呂の方はまだですね。」
「"あ、砂風呂ならすでに撮ってあるよ!"」
「え、いつの間に、一体どなたが・・・?」
そして私はさっきの戦闘中に撮った写真をヒフミに見せる
「・・・だ、大丈夫でしょうか。これ、砂風呂というより・・・」
「砂に埋められてるという感じですが・・・」
「"多分大丈夫。アビドスでもたまに見るから。"」
「そ、そうなんですね・・・」
「"とりあえず、これで砂のお城と砂風呂はクリアだね。"」
「"次は・・・目の前に海があるし、泳ぐ?"」
「そ、そうですね。」
「では、せっかく海に来たわけですし、泳ぐとしましょう!」
「あ、でもリストには泳ぎを習得すると書かれてますね・・・」
「ただ、泳いでいる写真を取るのではなく、」
「泳げない人に教えている所を取らないといけないのでしょうか?」
「こ、この中に、泳げない人っていらっしゃいますか?」
「私は、泳げないと言う程ではないので・・・」
「海に来たのは初めてだけど、訓練としての水泳なら習得済み。」
「私も、ある程度泳いだことはあります。」
「・・・ひひっ」
「"どうやら皆泳げるみたいだね。"」
「だ、だとすると・・・」
「これはどう頑張っても実行できないと言う事ですか!?」
「・・・!」
「なるほど、そういう罠か。」
「昔の物語にもある、珍しくもないやり方だ。」
「遠回しに拒絶する為に、あえて無理難題をふっかける・・・」
「っく!やられた・・・!」
「さ、流石にそういう事ではないと思いたいですが・・・」
「にしても、困りましたね・・・」
「!、習得しているように見える写真なら、【出来ないふり】、でも良いのでしょうか・・・?」
「なるほど。書かれていることは泳ぎを習得するだとしても、」
「ミッション自体は【そういうシーンの写真を撮る】こと。」
「毒を以て毒を制す、そういうことか。ヒフミ、その考えは悪くない。」
「問題ないな、監督役?」
「え、私ですか?」
「まぁ、大丈夫なんじゃないでしょうか。多分・・・」
「よし。じゃあ監視役の許可も下りた事だし、始めるとしよう。」
「ところで、教わる役と教える役は誰がやる?」
「やっぱりここは、先生じゃないでしょうか・・・?」
唐突に私に話が飛んできた
「"え?!、私・・・?"」
「ふりだとバレないように、説得力の事を考えると・・・」
「教えると言ったら先生かなと思いまして。」
そう言われ、自分がラッシュガードの下に着ている水着を思い出す
("いや、どうしよう・・・")
("海に入るって思ってなくて皆みたいな可愛い水着着てきてない・・・")
("ラッシュガードのまま入っちゃうか・・・")
「"あ、あはは・・・うん、分かった。頑張ってみるよ・・・"」
「あ、ありがとうございます!」
「それではえっと、あまり深くないところで、先生に手を繋いでいただいて・・・」
「それで、適当にバタ足をする・・・」
「そんな感じで良さそうですね?」
「えっと・・・では教わる方を・・・」
ヒフミがそう言って辺りを見渡した瞬間――
「・・・?」
「あ、あれ?」
「皆さんどこに・・・?」
ついさっきまで隣に居た三人の姿が綺麗さっぱり消えていた
「そういえば私泳げないんでしたー。」
「溺れそうですー。」
「先生助けてくださーい。」
滅茶苦茶棒読みで、海面をばしゃばしゃ叩いているマシロ
「緊急事態につき支援を要請する。」
「繰り返す、緊急事態につき支援を要請する。」
両手をぷかぷか浮かべながら、至って真面目な口調で救援要請を送るアズサ
「くへぁっ!?あぶっ!!」
「ごぼっ!!ぐへぇっ!!」
「けへっ!!うぇっ!?ぎゃぶっ、ごぼぼぼぼっ!!?」
一方その頃ツルギは
何故か本当に溺れかけていた
「・・・?」
「"・・・ツルギ、もしかして本当に溺れてない?"」
「いえ、み、皆さんさっき泳げるって・・・」
ヒフミが困惑した表情で海を見る
その直後だった
ダダダダダダダッ!!
「きゃっ!?」
ヒフミのすぐ近くへ銃弾が撃ち込まれる
「見ろ!!」
「あいつら何だか知らねぇけど溺れてやがるぞ!!」
「ナイスタイミングだ!」
「今ならやれる!」
「さっきの仕返しだ!!」
「おい!皆呼んでこい!!」
スケバン二人組が得意げに笑う
「今度こそ終わりだ!」
その声を聞いた瞬間
さっきまで海でばしゃばしゃしていた三人が
何事も無かったかのように立ち上がった
「・・・?」
「ふー・・・ふー・・・」
ツルギが濡れた前髪をかき上げ
「ああん?」
と低い声を漏らす
「・・・戦闘ですか?」
アズサも静かにライフルを持ち直す
「・・・え?」
スケバン達が固まり周囲を見回す
「あれぇ・・・?」
と首を傾げた
「あ、そういえば。」
「この辺り、膝くらいまでの深さしかなかったな・・・」
その瞬間
「逃げ――」
言い終わる前に三人が同時に動いた
「「「捕まえた。」」」
「ぎゃあああああああ!!?」
頭を掴まれたスケバン達は、
膝下ほどしかない浅瀬へ顔面から押し込まれる
「ごぼっ!!」
「た、助け――」
「ごぼぼぼぼっ!!」
「み、水が浅――」
「ごぼっ!!」
「・・・・・・。」
私はその光景を眺めながら、小さくため息をつく
("膝までしかない海で溺れさせられる人、初めて見た・・・。")
波の音だけが静かに聞こえる
さっきまで銃声が鳴り響いていたとは思えないほど
ビーチにはいつもの穏やかな景色が戻っていた
沖の方では、
さっき襲ってきたスケバン達がぷかぷかと海に浮かんでいる
「・・・スケバンのみなさん、全然凝りませんね・・・」
ヒフミが苦笑しながら肩を落とす
「"あのガッツは凄いね。"」
「"普通なら二回くらい心折れててもおかしくないんだけど・・・"」
「・・・確かに。」
アズサも小さく頷く
「戦力差を理解してなお突撃する。」
「ある意味、見習うべき精神力。」
("そこ褒めるところなんだ・・・。")
私がそんな事を考えていると
マシロが沖を指差した
「あの気絶したまま海の上に浮かんでる人達、どうします?」
「・・・・・・」
全員で同じ方向を見る
ぷかぁ
ぷかぷか
「・・・・・・と、とりあえず浜辺まで引っ張ってきていただけると・・・」
ヒフミが少し申し訳なさそうに答える
「"了解。"」
「"流石にあのまま流されるのは可哀想だしね。"」
「なるほど。」
アズサが静かに海を見つめる
「こういうのが海か。」
「悪くない。」
("アズサの海のイメージがゲヘナみたいになってる・・・。")
「違います、アズサちゃん。」
「違うんです・・・」
ヒフミが慌てて首を横に振る
「普通は海って、もっと平和なんですよ・・・?」
「銃撃戦もありませんし、ロケットランチャーも飛んできませんし」
「スケバンさんが溺れる事もありませんから・・・!」
「そうなの?」
「そうなんです!」
「"私もヒフミに一票かな・・・。"」
そう言って私は海へ向かって歩き出す
ぷかぷか浮かんでいるスケバン達の腕を掴み
波に揺られながら砂浜まで引っ張っていった
「"うーん・・・"」
「"今日は救助してる時間の方が長い気がするなぁ・・・"」
ナン☆ザン
やっぱりほぼ100%オリジナルストーリー書いてる方が、
クッソ筆が乗るよ!
オリジナル書いて暴れたいよぉー!
というかおっさん出さないと作者のキチゲが解放出来ない!!
今日のセイアは、真夏のウィッシュリスト後編に書いてます!