おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
串打ち三年、裂き八年、焼き一生
今日は仕事が早く終わったからいつもより早めに投稿!
たすたす
【祈願屋・オフィス】
静かなオフィス
聞こえるのは、紙を捲る音とペンが走る音だけ
山積みになっていた書類も、ようやく半分ほどまで減っていた
(・・・もう二週間か。)
ビナーを潰してから
もう二週間が経っていた
書類へ判を押す
次の書類を開く
身体は仕事を続けている
せやけど、頭ん中は別の事ばかり考えていた
(出来る事なら、今すぐデカグラマトンを殺したい。)
あいつはアリスを狙っとった
それだけで十分や
理由なんぞ、それ以上要らへん
俺にとっては娘へ手を出そうとした時点で、存在価値はゼロや
見つけたら殺す
それで終わる話やった
「・・・」
せやけどそれは出来へん
(今、殺したらあかん。)
デカグラマトンを今ここで消せば
マルクトは生まれへん
アインも
ソフも
オウルも
そして
ケイ
あの子達が身体を得る機会そのものが消えてまう
(・・・それだけは絶対にあかん。)
あの子らは
まだ何もしてへん
生まれる前から存在を消すんは、俺の流儀やない
だから今は我慢するしかない
「・・・チッ。」
自然と舌打ちが漏れた
せやからせめて
デカグラマトン本体やのうて
その手足、預言者だけは潰す
ビナーみたいにな
あいつらさえ動けんようにしとけば
アリスへ届く手も減る
そう思っとったが・・・
「せやけど・・・」
そこで手が止まる
(それも、迂闊には出来へん。)
ビナー
あれを、おっさんが先に潰した
本来なら
先生達が調査して
辿り着いて
戦うはずやった流れを
おっさんが途中から全部すっ飛ばした
その結果、この世界がどこまで変わったんか
もう読めへん
先生が
今、何処まで進んどるんか
次に何へ向かっとるんか
それすら分からへん
(下手に先回りして預言者を潰したら。)
先生達が調査するはずやった対象まで消してまうかもしれへん
そうなれば
未来を守るつもりが
逆に未来を壊す事になる
「・・・ホンマ難儀やな。」
先生から連絡でもあれば話は早い
せやけど、何も無い今は勝手に動く訳にもいかへん
結局
今出来る事は書類仕事を片付けながら
次に備えるくらいしか無かった
紙を一枚めくる
判を押す
また一枚
静かなオフィスには、紙を捲る音だけが響いていた
その静寂を
「・・・アンラ。」
後ろから、どこか力の抜けた声が破った
応接用ソファー
そこへ、お嬢様とは到底思えない格好で身体を投げ出したセイアが
ぐったりと天井を眺めている
ネクタイは少し緩み
長い髪もソファーから垂れ下がり
普段の気品は何処へやら
今の姿は、完全に燃え尽きた人間やった
「なんや。」
書類から目を離さんまま返事をする
「一つ、聞いても構わないかい。」
「聞くだけならええで。」
少し間が空く
「この計画。」
「・・・些か、過激ではないかな。」
「何がや。」
「一日に一万キロカロリー近い食事。」
「その全てをユメと君との組手で消費。」
「正直その組手だけでも私は何度死ぬ思いをしたか・・・」
「流石にこれは・・・」
セイアは小さく息を吐いた
「肉体改造と言われても、否定出来ない内容だと思うのだが?」
「そら肉体改造やからな。否定する理由があらへん。」
「・・・。」
セイアは静かに目を閉じた
「随分と潔いね。」
「しゃあないやろ。」
ようやくペンを置き、肩を竦める
「お前も分かっとるはずや。」
「お前が未来弄っとるんは、おっさんも承知で協力しとる。」
「せやけどや。トリニティ戻った後。」
「お前が未来弄っとった事、ミカとナギサにバレたらどうなる。」
「・・・。」
セイアは何も答えない
答える必要もなかった
「間違いなく、本気のグーパン飛んでくる。」
「せやから今、お前の身体を、それに耐えられるようにしとる。」
「・・・。」
静かな沈黙
やがてセイアは、諦めたように小さく笑った
「成程。理屈は理解出来たよ。」
「しかし、その未来だけは出来れば観測したくないね。」
「無理やな確定事項や。」
「未来視を持つ私に対して、随分と言い切るじゃないか。」
「言い切れる理由がある。」
おっさんは机へ肘をつきながら、呆れたように言う
「セイア、まずお前は嘘がクソ下手や。」
「そして、お前の親友達はお前のその嘘に即座に気づける程お前と親しい。」
「これが理由や。」
「・・・。」
「それと、セイア。」
「お前ミカに神秘の使い方、洩らしたやろ。」
「あのゴリラ、今は腕力だけでコンクリートの柱引っこ抜いて、そのまま投げるぞ。」
「・・・・・・。」
セイアの思考が止まった
脳裏に浮かぶ
満面の笑みを浮かべるミカ
その笑顔のまま、校舎の柱を軽々と引き抜き
もう、セイアちゃんはしかたがないじゃんね☆
などと言いながら自分に振りかぶる姿が
「・・・・・・・・・。」
「どないした、急に顔色悪なったぞ。」
「・・・少し。」
セイアはゆっくりと目を閉じる
「自ら蒔いた種とはいえ。」
「その光景は、出来れば未来永劫見たくないね。」
「安心せぇ、ナギサもおる。」
「・・・。」
「多分、二人掛かりや。」
「・・・君は。」
セイアは天井を見つめたまま、乾いた笑みを漏らした
「人を安心させる才能だけは、絶望的に欠如しているようだ。」
「褒め言葉として受け取っとくわ。」
「褒めてはいないのだけれどね。」
「細かい事は気にすんな。」
おっさんは再び書類を手に取る
「とりあえず、晩飯まで休んどけ。」
「ミネ達が戻って来たら、また食わされる。」
「・・・。」
その一言でセイアの表情が、さっと青ざめた
「アンラ。」
「なんや。」
「今だけは。」
「エデン条約よりも、ミネの足音の方が恐ろしいよ。」
おっさんは思わず吹き出した
「まぁお前が死なん為にミネも協力しとるからな。」
「命が絡んだ時のミネだけは、誰にも止められへん。」
「・・・その事実が、今日一番の絶望だね。」
再び静寂がオフィスへ戻る
紙を捲る音だけが響く中、
ソファーの上では一人のぐーたらフォックスが、
夕食という避けられない未来を前に静かに項垂れていた
その時だった
「ただいまー!」
勢いよく事務所の扉が開く
「あ、二人とも居た居た!」
大量の買い物袋を抱え、
仕事モードがオフになったユメが明るい笑顔で戻ってきた
「ミネちゃんと買い出し行ってきたよ!」
「おかえり。」
ソファーの上から力なくセイアが返事をする
その声を聞いたユメは首を傾げた
「・・・あれ?」
「今日はまだ魂抜けてる。」
「当然や。」
アンラは書類を捲りながら苦笑する
「昼飯食って、そのまま組手した直後や。」
「あー。」
ユメは納得したように頷いた
「今日は結構頑張ってたもんね。」
「最初の頃は逃げ回るだけだったのに。」
「最近はちゃんと受け流せるようになってきたし。」
「私、びっくりした!」
その言葉にセイアがゆっくり身体を起こす
「・・・君が成長を認めてくれるのは嬉しい。」
「しかしだからと言って。」
「出力を上げるのは止めてくれたまえ。」
ユメはきょとんと首を傾げる
「え?だって強くなったら、その分負荷も増やさないと鍛えられないでしょ?」
悪びれもなく言ってのける
「だから次はもう少し出力上げようかなーって!」
そう言った瞬間
ユメの右腕へ赤い神秘が迸った
《バチッ・・・!》
空気が震える
部屋の温度が下がったような錯覚を覚え
ソファーの上のセイアが固まる
「・・・・・・。」
「どう?」
「今くらいなら受け流せそう?」
「・・・・・・・・・。」
数秒の沈黙
そして
「い、いえ。」
「その。」
「現在の出力で十分です。」
「どうか、お気遣いなく。」
綺麗な敬語だった
「えー?」
ユメは少し残念そうに肩を落とす
「まだ余裕あると思うんだけどなぁ。」
「ありません。」
「全くありません。」
「そう?」
「はい。」
「断じてありません。」
即答だった
その様子を見ていたおっさんは、とうとう吹き出した
「ぶっ・・・!」
「お前、さっきまで偉そうに嫌味言うとったのに。」
「急に敬語になるやんけ。」
「命が掛かっているのでね。」
セイアは真顔で返す
「礼節は重要だとも。」
「現金な狐やなぁ。」
「生存本能と言ってくれたまえ。」
「どっちでもええわ。」
おっさんは笑いながら再び書類へ手を伸ばす
その時だった
ブブブブ・・・
机の上に置いてあったスマートフォンが震える
「・・・ん?」
画面へ視線を落とす
表示されていた名前を見た瞬間、アンラは僅かに目を細めた
【聖良先生】
「・・・やっと来たか。」
その一言に
ソファーで項垂れていたセイアが、ぴくりと肩を震わせた
「・・・・・・。」
次の瞬間
そこに居たはずのセイアの姿が、すっと空気へ溶けるように消えたように感じた
「・・・。」
「・・・お前。」
アンラは思わず苦笑する
「そこまで隠れんでもええやろ。」
返事は無い
気配も、神秘も存在感すら感じられない
普段ぐーたらな狐が、本気で隠形を使えばここまで消える
「・・・。」
(絶対、ミカとナギサに未来改変の話が漏れるん嫌なんやろな。)
「まぁ、気持ちは分からんでもないけんど。」
肩を竦めると、そのまま通話ボタンを押した
「もしもし、先生。」
『"アンラさん?"』
「おう。」
「ビナーぶりやな。」
『"急にごめんね。"』
「気にせんでええで。」
「電話掛けて来たっちゅう事は、何か動きあったんやろ?」
先生は小さく息を吸う
『"うん。"』
『"ケセドの正確な居場所が分かったの。"』
「・・・ほぉ。」
アンラの口元が僅かに緩む
(ようやく見つけたか。)
(ほな、あの
心の中だけで呟く
声には出さない
未来を壊さん為にも、余計な情報は与えへん
『"それとね。"』
先生の声色が少しだけ真剣になる
『"デカグラマトンが、特異現象捜査部へ直接ハッキングしてきた。"』
「・・・。」
おっさんの言葉が止まる
(来たか。)
時期は多少前後しとる
せやけど原作の流れそのものや
デカグラマトン自身との接触
シッテムの箱へ干渉
そこまでは想定通り
「・・・それで?」
静かに続きを促す
『"私のタブレットにも干渉しようとしてきたんだけど。"』
『"アロナが追い返してくれた。"』
「そらそうやろ。」
思わず苦笑する
「そう簡単に突破出来る相手ちゃうやろしな。」
『"うん・・・。"』
先生は少しだけ間を置く
そして
『"その時ね。"』
『"デカグラマトンが、私の事を。"』
『"悪神の巫女って呼んだの。"』
「・・・・・・は?」
おっさんから表情が消えた
悪神、それは――
思考が高速で巡る
(誰の。)
(何の。)
(俺はそんなもん指名した覚えあらへんぞ。)
契約
眷属
加護
どれとも違う
先生へ何かした覚えは無い
なのにデカグラマトンは、先生をそう認識した
(・・・なんや、それ。)
理解出来へん
いや、理解出来る材料そのものが足りへん
数秒
完全な沈黙
『"アンラさん?"』
先生の声で意識が戻る
「あぁ・・・すまん。」
「ちょっと考え事しとった。」
今ここで考えても答えは出ぇへん
分からんもんは、一旦置いとくしかない
それより優先する事がある
「それで先生。」
「今回は救援要請、っちゅう認識でええんやな?」
『"うん。"』
『"ケセドだけならまだしも。"』
『"私が知ってる未来から少しずつズレてきてる。"』
『"だから、今回は念には念を入れたいの。"』
「了解。」
アンラは即答した
「ほな今回は、おっさんも同行する。」
「ケセドは無力化したる。」
『"ありがとう。"』
先生の声が少しだけ柔らかくなる
アンラは続けた
「集合場所は?」
『"ミレニアムサイエンススクールのモノレールステーションで。"』
『"そこで合流して、そのまま廃墟へ向かう予定だよ。"』
「分かった。」
「時間までには着いとく。」
『"よろしくね、アンラさん。"』
「任せとき。」
短く答えると、通話が切れる
静まり返った事務所
アンラはスマートフォンを机へ置き、小さく息を吐いた
「・・・悪神の巫女、か。」
その一言だけが
静かなオフィスへ、ぽつりと落ちた
【ミレニアムサイエンススクール・モノレールステーション】
モノレールが静かにホームへ滑り込む
人の行き交う駅
そのホームの端で、ローブ姿のおっさんは腕を組みながら
到着する車両を眺めていた
(まだ少し早かったか。)
先生との約束の時間までは、あと数分
別に急ぐ理由も無い
ホームへ吹き抜ける風を受けながら、
ぼんやりと景色を眺めていると――
「"アンラさん!"」
聞き慣れた声が飛んできた
振り返る
先生がこちらへ小走りでやって来る
その少し後ろには、エイミの姿もあった
「おう、時間ぴったりやな。」
「"お待たせしました。"」
「全然待っとらんよ。」
先生はほっとしたように笑う
その横で、エイミがいつも通り抑揚の少ない声を出した
「久しぶり、元気そう。」
「おう、エイミも変わらへんな。」
「ちょっと暑いけど。」
「うん。元気。」
「お、おぅ・・・まぁ無理せんようにな?」
相変わらず分かりやすいようで分かりにくい
そのままエイミは自分の服を見下ろす
「先生、やっぱり暑い。」
「もう一枚脱いでもいい?」
「"ダメ。"」
先生が即答した
「"ここ駅だから。"」
「・・・そうだった。」
「外だった。」
エイミは素直に頷く
「任務終わるまで我慢する。」
「それがええわ。」
アンラは思わず笑った
「ほな、行こか。」
三人はそのまま軍需工場跡地へ向かって歩き始める
【ミレニアム郊外・廃墟】
軍需工場へ続く道
静かだった
妙に静か過ぎる
先生も、それに気付いていた
「"・・・おかしい。"」
「"前に来た時は、この辺りにも警備ロボットがいたはずなのに。"」
「ほーん?」
おっさんは何食わぬ顔で歩く
エイミも辺りを見回した
「反応・・・無し。」
「敵、見当たらない。」
そのまま角を一つ曲がった瞬間だった
「"・・・あ。"」
先生が足を止める
道の中央
飛行ドローンが壁へ縫い付けられていた
胴体を貫く一本の白い西洋剣
貫かれたドローンは完全に停止していた
「・・・。」
「・・・。」
先生とエイミの視線が、ゆっくりおっさんへと向いた
「おん?どうした。」
「"アンラさん。"」
「なんや。」
「"これ、アンラさんですよね?"」
「せやな。」
即答だった
「"やっぱり。"」
先生が小さくため息を吐く
「"ビナーの時と同じ剣ですもんね・・・。"」
「面倒やったし先に片付けただけや。」
「効率的。」
エイミが淡々と頷く
「でも、まだ入口。」
「おぅ、せやな。」
さらに奥へ進む
すると
一本どころではなかった
ロボット、ドローン
様々な無人兵器があちこちに転がっている
その全てが、白い西洋剣で地面や壁へ串刺しにされていた
まるで巨大な剣山の中へ放り込まれたような惨状
「"・・・・・・。"」
先生が言葉を失う
「うん、壮観だね。」
エイミだけが妙に冷静だった
「この数、全部アンラさん?」
「せやな。」
「索敵に引っ掛かった順番に刺しただけや。」
「"索敵に引っ掛かった順番に・・・"」
先生が苦笑する
「"だからここまで静かだったんですね。"」
「戦闘音、一回も聞こえへんかったやろ?」
「"はい・・・"」
「"そういう理由だったんですね・・・"」
さらに奥へ
大型搬入口へ差しかかった瞬間
先生とエイミの二人が同時に止まった
そこに横たわっていたのは――
ゴリアテ型無人兵器。
以前、先生達が総力を挙げて撃破した大型兵器だった
しかし今、その姿は見る影もない
両腕、両脚
全て白い西洋剣で地面へ縫い付けられ
胴体には十本近い剣が突き刺さっている
まるで巨大な昆虫標本だった
「"・・・。"」
先生が無言になる
エイミも珍しく数秒黙った
「・・・強い。」
ぽつりと呟く
「この前先生と二人で頑張って倒した。」
「結構苦戦した。」
アンラは肩を竦める
「まぁ、生徒相手にこれは出来へんしな。」
串刺しになったゴリアテを親指で示す
「こんなんやったらキヴォトス人でも流石に死ぬやろ?」
「だから普段はだいぶ加減しとる。」
先生は苦笑しながら頷いた
「"アビドスでも。"」
「"ミレニアムでネルと戦った時も。"」
「"今思えば、本当に手加減してくれてたんですね。"」
「当たり前や。」
アンラは笑う
「おっさん、生徒殺しに来た訳ちゃうんやし。」
「全力で殴る理由なんかあらへんわ。」
エイミは串刺しになったゴリアテを見つめたまま、小さく呟く
「C&Cのダブルオー、これ見たら絶対怒る。」
「多分『今度は本気でやれ!』って言う。」
アンラが笑う
「ははっ絶対言うやろな」
先生も思わず吹き出した
「"ふふっ・・・確かに言いそうです。"」
少しだけ和んだ空気のまま
三人はさらに工場の奥へ歩みを進める
やがて巨大な隔壁が視界へ現れた
その向こう側からは、機械が駆動する重々しい振動音が響いてくる
先生はタブレットを握り直した
「"・・・ここから先だね。"」
その隣で、エイミが静かにしゃがみ込み
腰のポーチから、小型の観測ユニットを取り出し、床へ設置した
《ピピッ》
《観測開始》
「ん?なんや、それ。」
アンラが横目で見る
「記録用。」
エイミは短く答えた
「あとデータ収集。」
「なんとなく。」
「アンラさん、普通に入らない気がする。」
「・・・。」
おっさんは数秒だけ黙り
口元を緩めた
「ようわかっとるやん。」
先生は苦笑する
「"もう何をするか読まれてるね。"」
「うん。」
エイミは頷く
「何するか分からないけど。」
「絶対何かやる。」
「だから先に撮る。」
「さよか。ほな準備万端やな?」
おっさんは笑いながら巨大な隔壁の前へ立った
そして
コン、コン
軽く二回ノックする
「ケセドさーん。」
「ご在宅ですかー?」
返事は無い
「配達物でーす。」
当然、返事は無い
数秒待ち
おっさんは一つ頷いた
「留守ですかー?」
右脚をゆっくり引く
「ほな。」
「不在票、入れときますねッ!」
ドゴォォォォォォォォォォォン!!!!!
轟音
蹴り一発
それだけで、数メートルはあろうかという巨大な隔壁が中央からひしゃげ、千切れ飛ぶ
鉄塊が弾丸のように工場内部へ吹き飛び、猛烈な爆風が粉塵を巻き上げた
「"・・・・・・え。"」
先生の思考が止まる
「・・・・・・」
エイミも完全に固まっていた
目だけがゆっくり吹き飛んだ隔壁を追い掛ける
数秒
沈黙
「・・・。」
「扉、無くなっちゃった。」
ぽつり
「おう、扉開いて解放感でたな。」
おっさんは何でもないように言う。
「"そういう問題じゃないですよ!?"」
先生が思わずツッコミを入れる
エイミはまだ吹き飛んだ隔壁を見ていた
「・・・予想少しだけ当たった。」
「でも。」
「ここまでは予想してない。」
「ははっ期待に添えれて恐悦至極やわ。」
アンラは満足そうに笑う
吹き飛んだ隔壁の向こう
巨大な空間の中央
純白の球体が静かに浮かんでいる
《WARNING》
《WARNING》
《TARGET DETECTED》
赤い光が球体全体を駆け巡る
球体の周囲が展開し、無数の生産ポートが姿を現した
《ガコン》
《ガコン》
《ガコン》
次々と吐き出される戦闘用ドローン
四脚兵器
飛行型
重装機
瞬く間に部隊が形成される
「"来るよ!"」
先生が声を上げる
エイミもマルチタクティカルを構えた
「敵性反応。」
「大量。」
「数、まだ増える。」
しかし
アンラは一歩も動かなかった
右腕を真っ直ぐ右に伸ばす
静かな声だけが工場へ響く
「――【魔術術式解凍:貫く者:右腕装填】」
その瞬間だった
《バチッ――》
右腕へ青白い雷光が走る
腕の内部へ
骨へ
筋肉へ
一本の"槍"が収束するように力が凝縮されていく
空気が震え、床へ青白い放電が走る
先生が息を呑む
「"・・・これは。"」
エイミの観測機材が高速で数値を書き換え続ける
《ERROR》
《ENERGY ERROR》
《MEASUREMENT LIMIT OVER》
「・・・また測定不能。」
ぽつりと呟く
その時だった
《TARGET LOCK》
ケセドの周囲へ展開した無数の兵器が、一斉にアンラへ照準を向ける
発射
そう判断した瞬間
おっさんの姿が消えた
「"っ!?"」
先生の目では追えず
エイミも僅かに目を見開いた
「速・・・。」
言葉が終わらない
アンラは既にケセドの目前まで到達していた
その移動
僅か一歩
その一歩と完全同時に周囲の虚空が裂ける
《ギィィィィン》
無数
数百にも及ぶ純白の西洋剣
空間そのものから射出される
ドシュッ!!
ドシュッ!!
ドドドドドドドドドッ!!
飛行兵器
重装兵
四脚機
生産された全てが
一体残らず
壁へ
床へ
天井へ
まとめて串刺しになり、
ケセドだけが残る
アンラの右拳が
静かに球体へ添えられる
「終いや。」
小さく呟き
その瞬間、右腕へ収束していた雷光が限界まで圧縮される
そして
「――ぶち抜け。」
「【ブリューナク】」
ズドォォォォォォォォォォォォン!!!!!!
雷鳴
否
それは槍だった
青白い極光が一本の巨大な槍となって右拳から解き放たれる
純白の外殻
その装甲を抵抗なく貫通し
内部に隠された中枢コア
そこも一直線に撃ち抜きなお止まらない
背面装甲までも貫き抜け
そのまま後方の隔壁へ突き刺さった
まるで
巨大な団子を一本の串へ刺したように
工場全体が震えた
数秒
青白い雷光だけが残る
やがて
槍は粒子となって静かに消滅した
《SYSTEM ERROR》
《CORE LOST》
《FUNCTION...STOP》
純白の球体から光が失われる
ゆっくり
ゆっくりと
ケセドは地面へ崩れ落ちた
静寂
戦闘終了
戦闘開始から経過時間、約1.5秒
「"・・・・・・。"」
先生は言葉を失っていた
エイミは観測機材へ視線を落とす
画面には一言だけ。
《経過時間:1.48秒》
「・・・データ取れた。」
少しだけ間を置いて
「でも、これ多分解析出来ない。」
おっさんは肩を回しながら振り返る
「終わったで。」
「ほな、ちゃっちゃ中のデータ吸いだそか。」
まるでコンビニへ寄ってきたくらいの軽さで言うおっさんに、
先生は思わず額へ手を当てた
「"アンラさん・・・。"」
「"討伐方法が根本から違うよ・・・。"」
RIP.ケセド
まぁ死んでませんが。
アンラという人物の一番得意とするのが対多戦なので、
手加減してもこんな事になっちゃいました。
まぁ手加減は手加減でも、アリスが関わってる時点で、
全力ではないが、本気は出しているといった手加減なので、
予言者程度だったらこんな感じですね・・・
さて、それでは、作中に出てきた色々を解説していきます!
まず、セイア様!
前回の今日のセイアで、急にとんでもない飯が出て来てびっくりしたと思われます。
その背景を今回深堀してみました。
ちなみに現在、特殊な環境でアンラから武術を教わり、
ユメと模擬戦をするという訓練をしています。
その特殊な環境と言うのはまぁ、魔導的なアレなので。
本来は自己強化系の魔導を今回はセイア様の肉体改造に使っています。
一週間でその実一ヶ月程本気で筋肉を仕上げたようなものになっています。
ですが、皆さんが想像するような、ボディービルダーな筋肉ではなく。
武術家とかがもっている筋肉の鎧に仕上げています。
シャープかつ、筋密度の高い筋肉ですね。
これでセイア様を格闘術で一番優れている肉体に仕上げていきます。
最低ライン、アンラの様に、ミカ様の神秘を受け流せないと、本当に死んじゃいかねないので。
なので作中でもありましたが、ユメが神秘を込めた拳をセイア様に叩き込んで
セイア様は必死に回避や受け流しを習得している所ですね。
ちなみに、アンラがグレゴリーコスプレしてる時に使っていた拳法は、
元々は拳法家の弟子に教えていた技でして、
セイア様にそれを教えてる時にちょっと懐かしんでたりします。
次にユメ社長あらため、ユメちゃんですね。
この作品で出てくるときのユメは殆ど、
仕事中もあり、仕事スイッチが入っている敬語モードですが、今回は仕事も終わったので、
完全オフモードのユメちゃんを描画しました。
あの高校時代のユルフワの皮を被ったユメちゃんは消えたわけではなく、
社会人の仮面をかぶっているだけです
さて、最後に今回の被害者
ビナーの時と同じ様に、静かにキレてるアンラがかなり本気で潰しに行きました。
道中の処理具合から見ても、
普段は絶対にしないような、先手打って全部潰すという事をしています。
ギリギリ未来が変わらないであろうラインで、本気出してる感じですね。
そして今回と前回出てきた剣が同じデザインだという描写が先生がしてくれましたね。
これも実は理由がありまして、
アビドス自治区にクッソ大量にあったあの砂。
何処に行ったと思いますか?
そうです、この弾丸(剣)に変わりました。
以前どっかで説明したと思いますが。
アンラが本来使い捨てとして使っていた刀剣類はどれもこれも、とんでもない品物なので、
一番火力が低いので、エデン条約の巡航ミサイルと同等だと思ってください。
なので、アンラが生徒を殺さないように、本気出せるラインでアビドスの砂を対価に、
代償魔術を行い、その代償で補強しつつ、アビドスの砂で剣を大量生産していました。
なので、アンラが整備した都市部に広がっていた砂は数億発の数打ちの鈍らになっています。
アンラからしたらアビドスの砂の山が弾丸の貯蔵庫なので大歓喜ですね。
おっさんプチ情報
さて、ここまで色々情報が出てきましたが。
ここで見なさん不思議に思うのは、このおっさんの戦闘力無駄に高すぎる事ですね。
使い捨ての武器で、最低火力が巡航ミサイル。まぁ数値にするなら40億ジュールですか。
これがジャブとして数千発同時発射しながら、
アンラのあの魔導や魔術とセト神を一撃で葬り去った剣術を同時使用する。
逆に言うならば、それをしないといけない環境下に居たということですね。
そして、そのおっさんと同格の存在が何名か、おっさんが居た世界には存在すると言いましたね。
そして、おっさんの過去で唯一名前が出てきた人物も居ましたね。
まぁキヴォトス君、君の耐久度チェックの時間は結構近くまで迫ってるよ。