おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

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ばにばに・・・

ヒマリ壊れちゃった・・・

ばにばに・・・・・・

一括投稿1/2です
お気をつけて!


先生とキレたおっさんと吹っ飛ぶケテル

【ミレニアム郊外・特異現象捜査部部室】

 

ミレニアムの郊外にひっそりと新設された特異現象捜査部の部室

まだ出来たばかりの部室には、

最新鋭の観測装置と大型モニターが幾重にも並び

静かな電子音だけが室内へ響いていた

 

ピッ――

 

自動ドアが開く

 

「部長、戻ったよ。」

 

エイミがいつもの調子で部屋へ入る

 

その後ろから私も続いた

大型モニターの前では、ヒマリが振り返る

 

「お帰りなさい。」

「随分と早かったですね。」

 

「もっと時間が掛かると予想していたのですが。」

 

私は思わず苦笑を浮かべる

 

「"色々あったけど・・・。"」

「"ケセドは無力化出来たよ。"」

 

「ほう。」

 

ヒマリの眉が僅かに上がる

 

「それは興味深いですね。」

「それで?」

 

エイミは腰のポーチから記録媒体を取り出した

 

「これ。」

「ケセドから抽出したデータ。」

 

ヒマリは受け取る

 

「ありがとうございます。」

 

そのまま端末へ接続した

幾つものウィンドウが画面いっぱいへ展開される

 

膨大な文字列

暗号化されたログ

通信履歴

座標データ

 

「ふむ・・・」

 

ヒマリの指が高速でキーボードを叩く

私とエイミは静かに待った

 

数分

 

解析は順調に進んでいた

 

しかし

 

「・・・?」

 

ヒマリの手が止まる

 

「・・・妙ですね。」

 

ヒマリの言葉に反応して私はヒマリに目線を向ける

 

「"どうしたの?"」

 

ヒマリは画面を拡大した

 

「このデータです。」

 

一つのウィンドウだけを表示する

そこには、一件だけ登録された座標情報

 

他のデータとは違い

まるで見つけてほしいと言わんばかりに、何の偽装もされず記録されていた

 

「"・・・。"」

 

先生も違和感を覚える

 

「"これ・・・。"」

 

「うん。」

 

エイミも頷いた

 

「目立つ、逆に怪しい。」

 

ヒマリも静かに頷く

 

「普通、このような重要拠点であれば、最低でも複数の暗号化を施します。」

「しかしこれは違う。」

「隠すどころか。」

 

「まるで。」

 

小さく息を吐く

 

「『ここへ来い』と言っているようですね。」

 

部屋へ静寂が流れる

 

「"罠・・・かな?"」

 

「可能性は非常に高いでしょう。」

 

ヒマリは即答した

 

「デカグラマトンほどの存在が、この程度の情報管理しか出来ないとは考えられません。」

 

「むしろ。」

 

「こちらがこの情報を取得する事まで計算へ入れていた。」

「そう考える方が自然です。」

 

エイミが首を傾げる

 

「じゃあ、行かない?」

 

「・・・。」

 

ヒマリは少しだけ考え込んだ

 

「いいえ、行きましょう。」

 

私は思わずヒマリを見る

 

「"え?"」

 

「理由は単純です。」

 

ヒマリはモニターを見つめたまま答える

 

「現在、我々にはデカグラマトンへ繋がる手掛かりが殆ど存在しません。」

「罠であろうと。」

「唯一の糸口である以上、無視は出来ません。」

 

「"・・・。"」

 

私も考え、静かに頷く

確かに、その通りだった

 

「ただし。」

 

ヒマリの表情が少しだけ険しくなる

 

「今回ばかりは。」

「可能な限り戦力を集めてください。」

 

先生が尋ねる

 

「"戦力?"」

 

「はい。」

 

「特に――」

 

ヒマリは一度言葉を切った

 

そして

 

「アンラさんです。」

 

その名前が部屋へ響く

先生が目を丸くする

 

「"ヒマリがアンラさんを頼るなんて珍しいね?"」

 

ヒマリは苦笑した

 

「私も、まだ彼を完全に信用した訳ではありません。」

「ですが。」

 

画面を切り替える

そこにはエイミの観測データ

 

《戦闘時間 1.48秒》

 

《測定不能》

 

《エネルギー上限超過》

 

《計測不可》

 

ヒマリはその結果を静かに見つめる。

 

「この数値だけは。」

「信用せざるを得ません。」

 

さらに別画面

 

工場内部の映像

串刺しになった無数の兵器

崩壊した隔壁

ケセドを貫いた青白い一撃

 

「・・・。」

 

ヒマリは静かに息を吐く

 

「少なくとも。」

「単身でデカグラマトンの預言者と真正面から渡り合える存在を私は他に知りません。」

 

私も映像を見る

 

改めて見ると

やはり異常だった

戦闘ですらない

 

蹂躙

 

それ以外に表現が見つからない

 

ヒマリは私を見る

 

「先生、次の調査では。」

「必ずアンラさんへ同行を依頼してください。」

 

「これはお願いではありません。」

「特異現象捜査部、部長としての進言です。」

 

部屋が静まり返る

 

私は少しだけ考え

やがて小さく頷いた

 

「"・・・うん。"」

「"私も、その方がいいと思う。"」

 

エイミも短く頷く

 

「賛成。」

「アンラさん居ると。」

 

少しだけ考え

 

「安心。」

 

ヒマリは小さく笑う

 

「ええ。」

「今回ばかりは、私も同感です。」

 

部室へ静寂が戻る

 

先生は小さく頷くと、スマートフォンを取り出した

 

「"・・・もう一度、お願いしてみるね。"」

 

ヒマリも静かに頷く

 

「お願いします。」

「今回ばかりは、戦力を惜しむべきではありません。」

 

先生は通話ボタンを押す

 

数回の呼び出し音

やがて

 

『おう、先生。』

 

ついさっき別れたばかりの声が聞こえた

 

私は少しだけ苦笑する。

 

「"ごめんね。"」

「"さっき別れたばっかりなのに。"」

 

『気にせんでええよ。』

『ケセドからなんか出てきたんやろ?』

 

「"え、うん。"」

 

私はヒマリのモニターへ目を向ける

 

「"ケセドから抽出したデータを解析したんだけどね。"」

「"その中に、一つだけ位置情報が残されてたの。"」

 

アンラさんは黙って続きを聞いている

 

「"でも、あまりにも不自然なの。"」

「"重要そうな座標なのに、隠されてもいなかった。"」

「"まるで。"」

 

先生はゆっくり息を吸う

 

「"『ここへ来い』って言われてるみたいだった。"」

 

少しだけ沈黙

 

『・・・へぇ。』

 

アンラさんの声は落ち着いていた

驚いた様子もない

 

私はそのまま続ける

 

「"ヒマリも罠の可能性が高いって言ってる。"」

 

「"でも。"」

 

「"今の私達には、それしか手掛かりが無い。"」

「"だから向かう事になったんだけど……。"」

 

私は少しだけ言葉を止める

 

そして

 

「"アンラさん。"」

「"一緒に来てくれる?"」

 

短い沈黙

 

数秒だけ間が空く

 

そして

 

『ええで。』

 

即答だった

 

その一言を聞いて思わず表情が緩む

 

『どっちみち、おっさんも行くつもりやったしな。』

 

「"え?"」

 

『デカグラマトンはアリスを狙っとる。』

『それが分かっとる以上。』

『放っとく理由があらへん。』

 

その声だけで十分だった

 

冗談も笑いもない

 

静かで

 

けれど確かな殺気だけが滲んでいる

 

『先生、罠やったとしても関係あらへん。』

『向こうが出て来る言うんやったら、まとめて擦り潰すだけや。』

 

私は思わず苦笑した

 

「"うん。"」

「"アンラさんなら、そう言うと思ってた。"」

 

『そらそうや。』

『アリスに手ぇ出そうとしとる相手やぞ?』

『遠慮する理由なんぞ一つもあらへん。』

 

その言葉に

 

私も少しだけ安心したように笑う

 

「"ありがとう。"」

「"集合時間が決まったら、また連絡するね。"」

 

『了解。』

『今回はもうちょっとだけ【全力】で遊ばせてもらうわ。』

 

「"遊ぶって言い方が怖いよ・・・。"」

 

『ははっ。』

 

アンラさんが笑う

 

『ほな、また後でな。』

 

「"うん。またね。"」

 

通話が切れ、私はスマートフォンを下ろした

 

ヒマリが静かに尋ねる

 

「・・・如何でしたか?」

 

私は小さく笑う

 

「"来てくれるって。"」

「"即答だったよ。"」

 

ヒマリは安堵したように息を吐く

 

「それは心強いですね。」

 

エイミも静かに頷いた

 

「安心、これで何があっても勝てそう。」

 

その言葉に、私も小さく笑った

 

 

 

だが

 

 

 

三人の誰も気付いていなかった

 

通話を終えたアンラが、先生達の居るビルの屋上で一人佇み小さく呟いた一言を

 

「・・・原作通り。」

「だが、原作と違いコレは俺に対する釣り餌やな・・・」

 

アンラが獣の威嚇のような、獰猛な笑みを浮かべる

 

舐めやがって釣り銭AI風情が・・・

 

「まぁええ、釣られてやる。」

 

フードの奥で、瞳が静かに細まる

 

「その代わり。」

「釣り上げて出て来たた魚がどない化物でも後悔すんなよ?」

釣り銭AI(デカグラマトン)。」

 

静かな声だった

 

だがその瞳には、ビナーやケセドを相手にした時以上の冷たい殺意が宿っていた

 

 

 

 

【ミレニアム郊外・廃墟地区】

 

モノレールを降りた私達は、そのまま郊外へ向かって歩いていた

 

以前ケセドを無力化した工場地帯を抜け、更に奥へ

 

崩れたビル群

 

錆び付いた高架

 

人の気配は無い

 

そんな静かな廃墟の中を歩いていると――

 

「"そういえば。"」

 

私は隣のヒマリへ視線を向けた

 

「"ヒマリが現場まで来るなんて珍しいね。"」

 

ヒマリは車椅子を静かに進ませながら微笑む

 

「ええ、今回は少し事情が違います。」

「戦力は、一人でも多い方が良いでしょう。」

 

「それに。」

 

少しだけ真剣な表情になる

 

「位置情報を入手してから、更に解析を進めた結果。」

「一つ、気になる事も判明しました。」

 

「"気になる事?"」

 

私が尋ねようとした、その時だった

 

「おーい。」

 

聞き慣れた声が廃墟へ響く

 

振り向く。

 

瓦礫の山の向こうから、いつもの砂色のローブ姿がゆっくり歩いて来た

 

「待たせたな。」

 

「"アンラさん!"」

 

思わず笑顔になる

 

「おう、先生も元気そうやな。」

 

「"うん。アンラさんもね。"」

 

おっさんは肩を竦める

 

「おっさんは相変わらず書類と格闘しとっただけや。」

「今日はその息抜きやな。」

 

そう笑った

 

その横でヒマリが静かに前へ出る

 

「初めまして。」

「特異現象捜査部部長。明星ヒマリです。」

 

おっさんも軽く頭を下げた

 

「祈願屋アルバイト、七篠アンラや。」

「話は先生からちょくちょく聞いとるで。」

 

「ミレニアムの全知さんやろ?」

 

ヒマリはくすりと笑う

 

「その呼び名で通っていますね。」

「ですが、今日は少々自信を失いそうです。」

「貴方という存在が、私の知識では全く説明出来ませんので。」

 

「ははっ。」

 

おっさんが笑う

 

「ほな今日は、おっさんの取扱説明書でも作るか?」

 

「是非お願いします。」

「完成したらミレニアム中で共有しますので。」

 

「やめぇや、仕事無くなるやろ。」

 

「安心してください。」

「恐らく誰も理解出来ません。」

 

「それもそうや。」

 

二人とも少し笑った

その空気に、私も自然と頬が緩む

 

「さて。」

 

おっさんが歩き始める

 

「ぼちぼち行こか。」

 

私達も頷き、その後へ続いた

 

 

 

【ミレニアム郊外・水没地区入口】

 

廃墟を抜けると、景色が一変した

 

道路は途中から水没し

建物の一階部分まで濁った水へ沈んでいる

 

折れ曲がった標識

半分だけ沈んだコンテナ

 

静かな水面だけが揺れていた

 

「ここから先ですね。」

 

ヒマリが周囲を見渡す

 

「座標も、この先を示しています。」

 

その時だった

 

ピピッ

 

エイミが辺りへ視線を向ける

 

「反応、来る。」

 

水面が揺れた

 

建物の屋上

 

水中

 

崩れた橋の影

 

そこから次々と自律型ドローンが姿を現す

 

飛行型、四脚型、警備型

 

数十

 

いや

 

百近い

 

「"囲まれた・・・!"」

 

私は咄嗟にシッテムの箱を構える

 

でも、

 

「先生。」

 

アンラさんは歩みを止めない

 

「雑魚や。」

 

そう呟き、右手を軽く上げた

 

その瞬間だった

 

空間が裂け、何も無い虚空から

 

白いの西洋剣が

 

一本、十本、百本・・・

 

数え切れない程の剣が静かに姿を現した

 

「行け。」

 

その一言だけ

 

ドドドドドドドドッ!!

 

剣が雨のように射出される

 

飛行ドローン

 

四脚兵器

 

監視ユニット

 

全てが逃げる暇も攻撃する暇も無く

 

壁へ

 

道路へ

 

沈んだビルへ

 

次々と串刺しになっていく

 

ガガガガガガガガ!!

 

水飛沫だけが高く舞い上がる

 

数秒

 

それだけだった

 

 

辺りに残ったのは、水面へ突き立つ無数の白い剣だけ

 

私は思わず立ち止まってしまう

 

「"・・・。"」

 

やっぱり何度見ても

これだけは慣れない

 

「終わりや。」

 

おっさんは何事も無かったように歩き始めた

 

しかし

 

「・・・・・・。」

 

後ろでは

 

ヒマリだけが止まっていた

 

その瞳は今まで見た事が無いくらい輝いている

 

「・・・・・・・・・。」

 

数秒

 

完全に固まる

 

そして

 

「アンラさん。」

 

「おん?」

 

「今の、どうやったんですか?」

 

「・・・ん?」

 

「空間内へ質量生成?」

 

「転移?」

 

「圧縮保存?」

 

「重力制御?」

 

「情報体の物質化?」

 

質問が止まらない

 

「いえ、それ以前に。」

「そもそも何故、空間そのものから剣が出現するのです?」

 

「エネルギー保存則は?」

 

「質量保存則は?」

 

「生成原理は?」

 

「維持媒体は?」

 

質問1つ1つにつきずいずいと

おっさんへ詰め寄っていく

 

「教えてください。お願いします。」

 

「私、気になります。」

「今まで生きてきて一番気になります。」

 

「今日は寝られません。」

「寝かせてください。」

 

「いや最後おかしいやろ。」

 

おっさんが思わずツッコむ

 

「そんな一気に聞かれても困るわ。」

「一個ずつ来いや。」

 

「では一つ目。」

 

ヒマリは即答した

 

「今の剣、どうやって出したんです?」

 

「特殊な技術、以上。」

 

「説明になっていません。」

 

「いやな、おっさんの技術を一個一個説明しとったら時間がとんでもなくかかんねん。」

 

「構いません。聞きます。」

 

「いや仕事せぇ。」

 

「今日だけ休みます。」

 

「部長がそれ言うたら終まいや。」

 

私とエイミは思わず顔を見合わせる

 

「・・・。」

 

「"・・・。"」

 

エイミがぽつりと呟いた

 

「部長、壊れた。」

 

「違います。」

 

ヒマリは即座に否定する

 

「知的好奇心が暴走しているだけです。」

 

「それを壊れた言うねん。」

 

ヒマリは尚も食い下がり、

アンラさんの傍に寄っていく

 

「では質問を変えましょう。」

「その魔術というものは、一体どのような理論で――」

 

それを見て、

 

「"・・・ヒマリ。"」

 

私は苦笑する

 

「"アンラさん、本当に困ってるよ?"」

 

「・・・。」

 

ヒマリは私の顔を見て、

何故か口を閉じた

 

「失礼しました。」

「少々、興奮してしまいましたね。」

 

「少々やない。」

 

おっさんが笑う

 

「今のお前さん、研究対象見つけた研究者そのものやったで。」

 

「否定しません。」

 

ヒマリも苦笑した

 

「貴方は私がこれまで学んできた科学を、根底から覆す存在です。」

 

「解析したい。」

 

「理解したい。」

 

「知りたい。」

 

「その欲求を抑えるのは少々困難ですね。」

 

「お、おぅ・・・」

 

アンラさんは肩を竦める

 

「ま、まぁその内な、話せる事なら話したる。」

 

「約束ですよ?」

 

「・・・おう。」

 

そんな穏やかな空気の中

私達は水没地区を更に奥へ進んでいく

 

 

 

 

 

歩く

 

ただ歩くだけ

 

道中現れる自律型兵器は、その度に純白の剣で串刺しにされていく

もはや戦闘ですらない

 

アンラさんが歩けば

その進路上の敵だけが、静かに消えていく

 

「"・・・。"」

 

私はその背中を眺める

 

今のアンラさんは本当に迷いが無い

 

交差点、崩れた高架

水没した道路

 

一度も立ち止まらない

 

まるで

 

最初から道を知っているかのように

 

("・・・。")

 

その時だった

 

ピピッ

 

ヒマリの端末が小さく鳴る

 

「座標を更新。」

「現在位置との差異・・・。」

 

数秒

 

画面を見つめ

 

そして小さく目を見開いた

 

「・・・一致?」

 

「どうした?」

 

おっさんが何気なく尋ねる

 

ヒマリは画面とおっさんを交互に見比べる

 

「いえ・・・現在向かっている進行方向。」

「ケセドから取得した座標と、完全に一致しています。」

 

「"・・・。"」

 

私は思わず足を止めそうになる

 

アンラさんは一度も地図を見ていない

 

座標も知らない

 

なのに、一切迷わず

真っ直ぐ目的地へ向かっている

 

("・・・あ。")

 

胸の奥で

 

一つの記憶が繋がった

 

以前、アンラさんと二人でお酒を飲んだあの夜

 

【おっさんは全部が上手く行った未来を知ってるだけや。】

 

【それは言えん、先生が自分で辿り着かんといけん未来や】

 

あの時、私は詳しく聞けなかった

でも、今なら分かる

 

("この場所を・・・")

("アンラさんは知ってる。")

 

("最初から。")

 

私達が今向かっている場所も

その先で待っているものも

 

全部

 

アンラさんが知っている"あの未来"で一度見ている

 

だから迷わない

だから振り返らない

 

("・・・。")

 

私は静かに息を吐いた

 

("やっぱり全部を知っていても。")

("私には教えないんですね。")

 

私が、私自身の足で

そこまで辿り着かなければ意味が無いから

 

「先生?」

 

エイミがこちらを見る

 

「どうしたの?」

 

「"あっ。"」

「"ううん。何でもないよ。"」

 

私は小さく笑う

 

「"ちょっと考え事してただけ。"」

 

「そう。」

 

エイミはそれ以上聞かなかった

 

その時

 

アンラさんがぴたりと足を止めた

 

「・・・。」

 

その瞬間アンラさんから先ほどまで浮かべていた笑顔が消える

 

「"アンラさん?"」

 

返事は無い

 

代わりにゆっくりと

前方の暗い水路を見つめていた

 

空気が変わる

今まで感じていた穏やかな雰囲気が

 

音も無く消えた

 

私の背筋にぞくりと冷たいものが走る

 

その視線の先、水面がボコリと静かに膨らんだ

 

次の瞬間

 

ゴォォォォォォッ!!

 

巨大な水柱が天へ噴き上がる

 

水飛沫の中から

純白の巨体がゆっくり姿を現した

 

4本の脚に巨大な主砲

幾重にも重なった装甲

異様な威圧感

 

「・・・!」

 

ヒマリが息を呑む

 

「ケテル・・・!」

 

エイミも即座に武器を構える

 

「敵性反応大型。」

「先生!」

 

私はタブレットを構えようとする

 

その瞬間だった

 

「先生。」

 

アンラさんが静かに右手を上げる

 

「今回もお前ら。」

「そこで見とれ。」

 

その声音には

 

一切の感情が無かった

 

アンラは一歩だけ前へ出る

 

ケテルとの距離、およそ100m

ケテルは水面からゆっくりと巨体を持ち上げながら、こちらを見下ろしていた

 

 

水面が震える

 

周囲のビルまで軋み始める

 

だがアンラだけは止まらない

静かに右手を虚空に差し込む

 

空間が裂け、剣を一本取り出した

 

しかし

 

いつものような白いの剣ではなかった

 

虚空の奥から現れたそれは

 

 

いや黒という言葉ですら生温い

光そのものを喰らうような

 

禍々しい長剣

 

柄から刀身まで

赤黒い紋様が脈打つように蠢いている

 

その剣が姿を現した瞬間

 

「”――っ!”」

 

私は息を呑んだ

 

寒い

 

違う

 

身体が拒絶している

 

本能が

 

【あれを見てはいけない】

 

そう叫んでいた

 

エイミも初めて表情を変える

 

「・・・何、それ。」

 

ヒマリも言葉を失った

 

解析

 

観測

 

理解

 

その全てを諦めたように

 

ただ剣だけを見つめている

 

アンラはその剣を静かに握った

 

そして

 

左手に黒い液体が集まり長弓が握られ

ゆっくりと黒い剣を弓へ添える

 

「・・・。」

 

静寂

 

アンラは小さく口を開いた

 

――我が剣を贄に

 

その瞬間。

 

ゴポッ

 

黒い長剣がまるで液体になった様に崩れる

 

刀身が液体になり、圧縮され

 

捻じれ

 

一本の矢へ姿を変えた

 

矢というには

あまりにも禍々しい

 

見ているだけで

命が削られて行くような錯覚を覚える

 

アンラはその矢を番え

ゆっくりと、静かに

弦を引いた

 

ギギギギギギギギギギギギ・・・

 

耳障りな音だった

 

金属のワイヤーを

 

限界まで引き伸ばしたような

 

そんな音が、弦と、

そして矢その物から鳴り響く

 

空気が震える

 

水面が逆巻く

 

周囲の窓ガラスが

 

何も起きていないのに砕け散った

 

ヒマリが震える声で呟く

 

「・・・エネルギーが収束していっている・・・?」

 

アンラは答えない

 

照準はただ一つ

 

ケテル

 

そして

 

静かに一言だけ告げた

 

「――滅びよ、此処に

 

放つ

 

【―――】

 

音が無かった

 

矢が消える

 

視認すら出来ない

 

その次の瞬間

 

ドォォォォォォォォォォンッ!!!!!!

 

ケテルの胴体部へ巨大な風穴が開いた

 

遅れて

 

衝撃波

 

ゴォォォォォォォォッ!!!!

 

大気が裂け、ケテルの砲身が付いた上半分が吹き飛ぶ

 

だが終わらない

 

矢は止まらない

 

廃墟の都市を貫いて行く

 

一棟

二棟

三棟

 

巨大なビル群を紙細工のように貫通し

 

倒壊させながら

 

遥か水平線の彼方へ消え――

 

数秒後

 

―――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!

 

水平線の向こうで

 

巨大な爆炎が空を染め続いて雲を突き破るように

巨大なキノコ雲がゆっくりと立ち昇る

 

数秒遅れて

 

轟音と爆風がこちらへ届いた

 

ゴォォォォォォォォォォ――

 

強い風が吹き抜ける

誰も声を出せなかった

 

ヒマリは呆然と立ち尽くし

エイミは口を開けたまま動かない

 

私もただその光景を見ることしか出来なかった

 

ケテルがいた場所には

巨大な円形の空洞だけが残っている

 

風だけが吹いていた

 

誰も動かない

誰も、言葉を発せない

地面に残された四脚だけが、ケテルという存在がそこにいた証だった

 

「"・・・。"」

 

私は息をする事すら忘れていた

ケテルがたった一射

それだけで上半分が吹き飛んだ

 

「・・・。」

 

エイミも固まったまま、小さく呟く

 

「また一発で終わった。」

 

その声には、いつもの無機質さではなく

純粋な困惑だけが滲んでいた

 

ヒマリは震える手で端末を操作する

 

「反応を・・・確認します。」

 

高速で画面が切り替わる

 

熱量、動力源と

 

ありとあらゆる観測結果が並ぶ

その全ての結果が、ケテルの沈黙を表していた

 

「対象、沈黙・・・」

 

ヒマリの声が震える

 

何度確認しても結果は変わらない

 

《熱源 消失》

 

《対象反応 消失》

 

《エネルギー反応 ゼロ》

 

「・・・・・・。」

 

ヒマリは端末を見つめたまま固まっていた

 

「ケテルの無力化に成功・・・。」

 

静寂

 

誰も動かない

 

「・・・。」

 

やがて、おっさんが何事も無かったように歩き始める

 

「ほな、行こか。」

 

その一言で、ようやく時間が動き始めた

 

「ま、待ってください。」

 

ヒマリが思わず呼び止め

おっさんは足を止め、振り返った

 

「ん?」

 

ヒマリは黒い剣が握られていた右手を見つめる

 

「先程の武装です。」

「あれは、一体何だったのですか。」

「今まで使用していた白い剣とは、明らかに別物でした。」

 

「それに。」

「ケテル相手へ使用するには、過剰過ぎます。」

 

アンラは少しだけ頭を掻いた

 

「あー・・・まぁ、ちょっとムカついとっただけや。」

 

「・・・はい?」

 

ヒマリが瞬きをする

 

おっさんは肩を竦めた

 

「娘に手ぇ出そうとしとる奴ら見とったらな。」

「ついカッとなってもうた。」

「たまにはスカッとしたいやろ?」

 

そう笑う

 

あまりにも軽い口調だった

 

エイミがぽつりと呟く

 

「・・・スカッと、で済む?」

「街一つ消えそうだった。」

 

「気のせいや。」

 

「気のせいじゃありません。」

 

ヒマリが即座に否定した

 

「観測機器の大半が一瞬で振り切れました。」

 

「エネルギー量は測定不能。」

 

「威力も測定不能。」

 

「余波だけで周囲数キロへ甚大な影響を与えています。」

 

「それを『少し怒った』で片付けないでください。」

 

「せやかて。」

 

アンラは困ったように笑う

 

「ホンマにそれしか理由あらへんねんよな。」

「娘狙われたら、親父は怒る。」

「それだけや。」

 

ヒマリは納得していない顔のまま黙り込む

理屈としては理解出来る

 

しかし

 

それだけで、あれほどの兵器を持ち出す理由になるのか

 

答えは出ない

 

「"・・・。"」

 

私は少しだけ前を歩く背中を見る

 

「"アンラさん。"」

 

アンラは振り返らない

 

「何や?」

 

「"本当に、それだけ?"」

 

少しだけ風が吹く

 

「"アリスを狙われたから怒った。"」

「"それだけ?"」

 

アンラは肩を竦めた

 

「それだけや。」

 

即答だった

 

「"・・・。"」

 

私はその横顔を見つめる

嘘は言っていない

それだけは分かる

 

でも

 

("多分全てを話している訳じゃない。")

 

アンラさんは前からそうだ

大事な事ほど隠す

 

「"・・・そっか。"」

 

私は小さく笑った

 

「"なら、それでいいや。"」

 

だからそれ以上は聞かない

聞いても多分教えてくれない

 

それに、教えない理由がある事も知っている

 

アンラさんは少しだけ目を丸くしたあと

困ったように笑った

 

「先生は勘がええな。」

 

「"ふふっ。"」

「"アンラさんほどじゃないよ。"」

 

「それはどうやろな。」

 

それだけ言い、また歩き始める

ヒマリは二人のやり取りを静かに見つめていた

 

「・・・。」

 

違和感は残る

 

だが、先生がそれ以上聞かないのであれば

今は追及するべきではない

 

そう判断し、小さくため息をついた

 

「行きましょう。」

「座標までは、もうすぐです。」

 

エイミも頷く

 

「了解。」

 

再び四人は歩き始める

 

静まり返った水没地区を

 

ケセドが残した座標の、その先へ

 

 

 




ケテル、RIP.
お前は直接アリスを狙ったから。
アンラの逆鱗に直で触れたため、無残な姿になりました。

まぁ例にもれず、予言者連中はこれくらいじゃ死なないので、
くっそ時間はかかるだろうけど、また再生するでしょう。

ちなみに、殺せないではなく、殺さないという所がミソですね。


さて、
今回のデカグラマトン編の知恵の蛇は例外的に
原作ルートから半歩ズレたルートを進んでいます。

これが、アンラの身内が絡んだ時にのみ、制約が無いっていう奴ですね。
でも、契約で原作ストーリー(先生の選択)の邪魔をしない。
そして、原作のストーリーからあまりにも乖離した場合強制介入し、ルートを元に戻す。
そういう契約を結んでいるので、ギッリギリの範囲で、
アリスに手を出そうとしたアホに絶望を味合わせた感じです。

まぁ後はホド君とかも居ますが、
彼は正直・・・うん。
デカグラマトンと会った後に出てくるので、
アンラからすると正直、別にどうでもええ存在ですね。

なんせ、デカグラマトン自身潜伏かますんで、暫くは干渉してこないですし
まぁこのデカグラマトンの詳しい話は次のお話の時にしますね!

あ、ちなみにこの時アンラが使った黒い剣は、
アンラ自身持ってたく無い位ばっちいし、どっかで消費用の弾丸で使いたかった呪いの剣ですね。
製法は、ドカスの召喚者のどてっぱらに拳突き立てて相手の顔面握りながら、
創造魔導で相手をそのまま剣に変えた時の奴ですね。
ちなみにその時の召喚主の依頼内容はまぁ・・・クソのロリコンだったとだけ。



そういや、アンラの制約が無いっての意味が
あまり分からない人もおられるかもしれないので言いますと。
アンラは、常時自身の力を制約と言う名の契約で縛ってます。
それにプラスして力の行使を他者に委ねているんですね。それが契約です。

そして、制約とは自身の意思で力を振るう事を特例を除き封じています。
そして、今回、アンラの身内(娘)に危害を加えようとした。これが特例に当たります。
なので、この時のアンラは力の制限がない状態ですね。
同等で言うならば、ユメちゃんを蘇生した時のあの激重の契約と同じ状態です。
基本アンラの契約はアンラ視点から見た等価の契約が結ばれます。


さて、今日のセイアですが、
このお話と同時投稿するもう一個のお話は同じ日のお話なので、
もう一個のお話のほうで書かせてもらいますね!


デカグラマトン終了後、先生の水着姿を出すにあたって、体系の描写を作者側でしてしまっても良いのか、それとも読者さんがそれぞれ想像しながら読む方が良いのかどっちが良いかちょい分からないので、ここでアンケートを取りたいと思います。

  • 先生の外見を描写する
  • 先生の外見を描写しない
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