おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
暑い。否熱い。殺意。
丸くなった小鳥遊ホシノ買い物に行く
【アビドス自治区・都市部】
照り付ける太陽
容赦なく降り注ぐ日差しに、アスファルトがゆらゆらと陽炎を揺らしていた
そんな炎天下の中を、五人の少女が並んで歩いている
「うへぇ~・・・」
先頭を歩いていた私は、肩を落として大きなため息を吐いた
「何もこんな暑い日に買い物なんて来なくてもいいじゃないのぉ・・・」
幅広の帽子を押さえながら空を見上げる
暑い
眠い
帰りたい
そんな本音が全部混ざったような声だった
すると、その隣から呆れた声が飛んでくる
「何言ってるのよ、ホシノ先輩。」
セリカちゃんは腰に手を当て、呆れ顔で私を見る
「バーゲンよ、バーゲン。」
「今日を逃したら損なんだから。」
「うへぇ・・・」
私はさらに肩を落とした
「おじさん、バーゲンよりクーラーの効いた部屋でお昼寝したいなぁ・・・」
「もう!」
「その怠け癖何とかしなさいよ!」
「うぇへへ~。」
そんな私達のやり取りを見ながら、ノノミちゃんがにこにこと笑う
「私は楽しみですよ~☆」
「新しい水着も欲しかったですし、こうして皆さんとお買い物に来られるのも嬉しいです♪」
「そうだねぇ~」
隣を歩くユメ先輩も笑顔で頷く
「私も二年くらいどこにも遊びに行ってないから」
「持ってる水着もスクール水着しかないんだよね~」
「だから今日は可愛いのを買いたいなって。」
「スクール水着しかないの・・・?」
アヤネちゃんが少し驚いたように目を瞬かせる
ユメ先輩は照れ笑いを浮かべた
「ずっと仕事ばっかりだったからね~」
「海なんて全然行ってなかったし。」
「今年は皆と行けそうだから、楽しみなんだ~」
その言葉に、自然と皆の表情も緩む
先生が提案した、小さな旅行
場所はまだ決まっていない
けれど海へ行って、キャンプをして、皆で遊ぼう
そんなざっくりとした計画だけでも、十分楽しみだった
「着いたわよ。」
セリカちゃんの声で顔を上げる
そこには最近オープンしたばかりの、大型商業施設が堂々と建っていた
巨大なガラス張りの建物
入口には人が絶えず出入りし、館内へ吸い込まれていく
空には警備用と思われる無人ドローンが何機も巡回し、安全確認を続けている
「すご・・・」
思わず、私は足を止めた
(・・・こんなに。)
(こんなに、人が。)
目の前に広がる光景を見つめる
学生同士で笑い合う少女たち
観光客
行き交う人、人、人
(あのアビドスに、こんなに人が居るんだ。)
少し前までなら考えられなかった
砂ばかりで、人影なんてほとんど無かった街
歩けば聞こえるのは風の音だけ
そんなアビドスに
今は、こんなにも人がいる
街が、生きている
「・・・」
その光景を見ているだけで、不思議と胸の奥が温かくなった
(アンラさん、頑張ったんだなぁ。)
再開発
企業誘致
商業施設
交通網
全部
一朝一夕で出来るものじゃない
きっと想像も出来ないくらい忙しかったんだろう
(・・・まぁ、だからって。)
(最近ずっと祈願屋行っても居ないのはどうなのかと思うけどね。)
私は少しだけ頬を膨らませる
(たまにはおじさんともお昼寝くらい付き合ってくれてもいいじゃん。)
(忙しい忙しいって。)
(この前なんて三回行って三回とも居なかったし。)
(・・・ちょっとくらい。)
(寂しいじゃん。)
その時だった
ぽん
「・・・っ?」
突然、頭に優しい感触が乗る
顔を上げると
隣に立ったユメ先輩が、にこにこと笑いながら私の頭を撫でていた
「よかったね。」
「え?」
「街、賑やかになったでしょ?」
その一言だけだった
「・・・・・・。」
私は思わず目を丸くする
(・・・読まれた。)
そんな気がした
「ど、どうしたんですか?ユメ先輩、急に・・・」
少しだけ照れ隠しに帽子を深く被る
ユメ先輩はくすっと笑う
「ホシノちゃん。」
「嬉しそうな顔してたよ?」
「・・・。」
「うへぇ・・・。」
私は顔を逸らした
「そういうの、分かっても言わなくていいんですよ・・・」
耳が少し熱い
何だか、全部見透かされてしまった気分だった
「えへへ。」
ユメ先輩はもう一度だけ優しく頭を撫でる
「さ、行こっか。皆待ってるよ。」
「・・・はい。」
私も小さく笑い返し、皆と一緒に商業施設の中へ足を踏み入れた
冷房の効いた館内へ一歩足を踏み入れた瞬間
「はぁぁぁぁ・・・」
私は思わず天井を仰いだ
「生き返るぅ・・・」
「ほらほら、そんな所で立ち止まってない!」
セリカちゃんが呆れたように手を引っ張る
「今日は見る所いっぱいあるんだから!」
「うへぇ~・・・。」
「セリカちゃん元気だねぇ。」
「ホシノ先輩がやる気なさ過ぎるの!」
そんなやり取りをしながら、エントランスホールへと進む
館内は外以上に人で溢れていた
吹き抜けになった巨大な空間
四方へ伸びるエスカレーター
夏物衣料の特設会場
イベントスペースでは子供向けのショーまで開かれているらしく、
あちこちから楽しそうな歓声が聞こえてくる
頭上では何機もの警備ドローンが静かに巡回していた
「警備もしっかりしていますね。」
アヤネちゃんが感心したように見上げる
「ん、この人数だと何かあってからじゃ遅い。」
シロコちゃんも周囲を見回しながら呟いた
「そうだねぇ。」
ユメ先輩も頷く
「最近出来た施設だから、警備もかなり力を入れてるんだろうね。」
私はぼんやりとその光景を眺めていた
誰もが楽しそうに歩いている
(・・・いいなぁ。)
こんな景色、昔は想像も出来なかった
アビドスはずっと静かで
人が居なくて
砂だけが広がる街だった
それが今では休日ともなれば、こんなにも人が集まる
(本当に変わったなぁ。)
自然と口元が少しだけ緩む
その様子を見たユメ先輩が、何も言わず微笑んでいた
「・・・。」
(また見透かされそう。)
私は少しだけ照れ臭くなり、視線を逸らした
「さて。」
エスカレーターの前まで来たところで、シロコちゃんが口を開く
「私達はキャンプ用品を見に行こう。」
「そうですね。」
アヤネちゃんも頷く
「テントや寝袋は実際に見て決めたいです。」
「バーベキューセットも見ないとね。」
セリカちゃんが指を立てる
「火起こし担当はホシノ先輩じゃ絶対無理だし。」
「うへぇ。失礼しちゃうなぁ~」
「事実でしょ。」
「うん。」
シロコちゃんが即答した
「ホシノ先輩は寝てそう。」
「そこは否定してよぉ。」
「しません。」
「うへぇ・・・。」
三人はくすくす笑いながら手を振る
「じゃあ後で連絡する。」
「迷子にならないでくださいね。」
「ホシノ先輩限定でね!」
「酷くな~い?」
三人は笑いながらキャンプ用品売り場へと歩いていった
残されたのは
私、ノノミちゃん、ユメ先輩
「それじゃ。」
ノノミちゃんが満面の笑みを浮かべる
「私達は水着売り場ですね~♪」
「うへぇ・・・。」
「逃げちゃダメですよ?」
「顔に出てた?」
「すっごく。」
ユメ先輩が笑う
「大丈夫大丈夫。」
「可愛い水着選ぼうね。」
「可愛いは余計なんだけどなぁ・・・。」
そんな事を話しながらエスカレーターで上階へ
そこに広がっていたのは
「「「うわぁ・・・。」」」
思わず三人同時に声を漏らした
水着売り場、そこはまさに戦場だった
「期間限定!」
「サマーセール開催中!」
「最大七〇%オフ!」
店員の声が飛び交い
ワゴンの前では人だかり
試着室には長蛇の列
商品を抱えた人々があちこちを行き交っている
「すごいですねぇ・・・。」
ノノミが目を丸くする
「ここまで混んでるとは思いませんでした~。」
「うへぇ。帰っていい?」
「ダメです♪」
即答だった
「あはは・・・」
ユメ先輩も苦笑する
「頑張ろ?」
「頑張る事なのかなぁ。」
そんな時だった
「・・・ん?」
私の視界の端に
妙な動きをする人影が映る
人混みの隙間を
まるで水の流れのように滑るように進む一人
立ち止まる時間は一秒もない
目的の棚へ
欲しい商品だけを迷いなく取り
サイズ確認
籠へ
次
次
また次
「・・・。」
あまりにも無駄がない
まるで
バーゲンセールという戦場を何百回も経験してきた熟練兵
「すごい・・・。」
ユメ先輩が思わず感心する
「プロですね。」
ノノミも目を丸くしていた
その人物は、ちょうどこちらへ背を向ける形で商品を籠へ入れる
「あれ?」
見た事が無いダサいTシャツに
何処で買ったのか分からない位にダサいズボン姿だけど
どこか見覚えがある
あのくせ毛のミディアムヘアの髪型
そしてシルエット・・・
「あ。」
頭に一人だけ該当する人物を思い出し、
私は思わず小さく声を漏らした
「先生?」
その瞬間だった
びくっ!!
肩が飛び跳ねるほど大きく震えた
ゆっくり
本当にゆっくりと
その人物が振り返る
「"・・・・・・。"」
やっぱり先生だった
しかも三人の顔を確認した瞬間
「"っ!!"」
一瞬で顔を真っ赤にし
何も言わず、くるりと踵を返しそして――
全力疾走
「えっ先生?」
「逃げました!?」
私とノノミちゃんが呆気に取られる中
「はい、そこまでー」
穏やかな声が響く
いつの間にか先生の進行方向にはユメ先輩が立っていた
さっきまで隣にいたはずなのに
まるで瞬間移動でもしたかのような速度だった
「"えっ。"」
先生が急停止する
右を見る
ユメ先輩
左を見る
人混み
後ろを見る
私達
「・・・・・・。」
数秒の沈黙
そして先生は
「"・・・捕まっちゃった。"」
肩を落としたまま、私達の前まで連行されてきた
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
誰も喋らない
先生は気まずそうに目を逸らし
私は腕を組み
ノノミちゃんはにこにこ
ユメ先輩も笑顔
何とも言えない沈黙が流れる
やがて
私が小さくため息を吐いた
「で?先生、何で逃げたの?」
「・・・。」
先生はしばらく黙っていたが、観念したようにぽりぽりと頬を掻いた
「"・・・先生として。"」
「"バーゲンセールに必死になって買い物してる姿を見られるのって。"」
「"・・・ちょっと恥ずかしくて。"」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
三人は顔を見合わせる
そして
「ぶふっ。」
私が思わず吹き出した
「うへへっ!」
「そんな理由なの!?」
「もっとこう・・・」
「悪い事でもしてたのかと思ったよぉ。」
ユメ先輩も肩を震わせて笑う
「先生らしいね。」
「必死だったもんね。」
「・・・。」
先生は恥ずかしそうに視線を逸らした
「年に一度のバーゲンだから・・・。」
「欲しい物いっぱいあるし・・・。」
「サイズ無くなる前に・・・。」
「うへへ。」
私はもう一度笑う
「先生も案外庶民派なんだねぇ。」
「"・・・そんなに給料も多くないよ?"」
先生は小さく頷いきならが呟いた
その時だった
ノノミちゃんが先生の買い物カゴへ視線を向ける
「あれ?先生。」
「先生も水着を買いに来たんですか?」
「"え?"」
先生は一瞬固まり
嫌な予感しかしないと言った表情でゆっくり頷いた
「"・・・う、うん。"」
「"海に行くし、新しいの買おうかなって。"」
「見せてもらってもいいですか?」
「"えっいや。その。"」
「"別に普通のだから・・・"」
「いいじゃないですか~」
ノノミちゃんは笑顔のままカゴを覗き込む
そして
「・・・・・・。」
笑顔が止まった
「先生。」
「"・・・え?"」
「これ。全部ですか?」
「"う、うん。"」
私も横から覗き込む
「どれどれぇ・・・。」
数秒後
「・・・。」
「・・・。」
私も黙った
そこに入っていたのは
黒、紺、グレー
露出ほぼゼロ
ラッシュガード上下
長袖
長ズボン
体型を隠すことだけを追求したような競泳寄りのデザイン
可愛い要素、ゼロ
「先生。」
ノノミちゃんがゆっくり顔を上げる
笑顔
なのに
何故だろう
すごく圧を感じる
「せっかく先生可愛いのに。」
「こんな水着・・・」
「もったいないです!!!」
「"ひゃっ!?"」
先生の肩を
がしっ!!
ノノミちゃんが両手で掴んだ
「先生!もっと先生に似合う水着があります!」
「絶対あります!!」
「"えっ、いや。"」
「"私はこういうので十分・・・"」
「ダメです!!今日は!私に任せてください!!」
「"ちょっ。ノ、ノノミ!?"」
そのまま
ずるずるずるずると先生は首根っこを掴まれた猫のように引きずられていく
「先生ぇ~可愛くしましょう~♪」
「"待って!ちょっと待って!"」
「"人が見てる!恥ずかしい!"」
「大丈夫です!可愛いので!」
「"何が大丈夫なの!?"」
私はその光景を見送りながら苦笑した
「うへぇ・・・先生災難だねぇ。」
「ふふ。」
ユメ先輩も笑っている
「ノノミちゃん、本気だねー」
その時、ずるずる引きずっていたノノミちゃんが振り返る
「あれ?ホシノ先輩!ユメ先輩!」
「何してるんですか?」
「え?」
「え?」
「もちろん。」
満面の笑み
「お二人の水着も選びますから!」
「早く来てください!!」
「・・・。」
「・・・。」
私とユメ先輩は顔を見合わせる
「・・・逃げます?」
私が小声で聞く
ユメ先輩は少し考えて
「・・・無理だと思うよ?」
「ですよねぇ・・・。」
その直後
「二人ともーー!!」
ノノミが大きく手を振る
「早くですよーー!!」
周囲の視線まで集まってしまった
「あーもう!」
「行くよぉ!」
私は帽子を押さえながら小走りになる
ユメ先輩も笑いながら後を追う
「待って~!」
「うへぇ・・・」
(今日は、絶対疲れる。)
そう確信しながら
私は試着室へと連れて行かれる先生の背中を追いかけた
【アビドスデパート・水着売り場試着室前】
「先生!まずはこちらです!」
ノノミちゃんが差し出したのは、肩を大胆に出したワンショルダータイプの白い水着だった
先生は水着とノノミの顔を交互に見つめる
「"・・・これ?"」
「はい!先生に絶対似合います!」
「"いやでも・・・。"」
「試着です!試着だけですから!」
「"・・・。"」
数分後
カーテンがゆっくり開く
「"・・・ど、どう?"」
遠慮がちに姿を現した先生に、売り場の空気が一瞬止まる
白を基調としたワンショルダー水着は、先生の落ち着いた雰囲気と意外なほど相性が良かった
「おぉ・・・。」
私は思わず声を漏らす
「先生、普通に似合ってるじゃん。」
「ですよね!!」
ノノミちゃんは目を輝かせる
一方の先生は耳まで真っ赤だった
「"やっぱり恥ずかしい・・・。"」
「もっとありますよ~!」
「"えっ?"」
先生の嫌な予感は、ここから現実になるのだった
試着室のカーテンが閉まる
「先生~!次はこちらです!」
「・・・まだあるの?」
「もちろんです♪」
ノノミちゃんが満面の笑みで次々と水着を差し出していく
「これはハイウエストのセパレートです!」
「こっちはフリル付き!」
「これはオフショルダー!」
「"えっ、これ全部着るの・・・?"」
「はい!」
「うへぇ・・・。」
隣で見ていた私は思わず苦笑した
「先生も大変だねぇ。」
「もう完全に着せ替え人形じゃん。」
「えへへ。」
ユメ先輩も笑いながら頷く
「でも先生、案外何でも似合うね。」
その言葉通りだった
試着室から出てくるたび
先生は耳まで真っ赤にしながら
「"こ、これでいい・・・?"」
と、おそるおそる姿を見せる
ワンショルダー
ハイウエストセパレート
スポーティーなラッシュガード
どれを着ても違和感がない
「先生、スタイルいいですねぇ。」
ノノミちゃんが嬉しそうに頷く
「手足もすらっとしてますし。」
「変に筋肉質でもなくてモデルさんみたいです!」
「"そ、そんなこと・・・。"」
先生は照れたように首を横に振る
私も改めて見てみる
(・・・そういえば。)
先生はシャーレの制服姿しか見たことがなかった
こうして水着になるとよく分かる
166cmくらいだろうか
背は女性としては少し高めで胸もCからDの間くらいだろうか?
全体的に無駄な肉付きがなく、細身で均整の取れた体つき
腕も脚もすらりと長く、健康的で引き締まっている
決して華奢すぎる訳ではない
かといって主張し過ぎるような体型でもなく、自然で落ち着いた印象だった
「うんうん!」
ノノミちゃんは満足そうに頷く
「先生なら、もっと可愛い水着も絶対似合います!」
「"いやいや・・・。"」
先生は苦笑いを浮かべる
「"もう十分じゃない?"」
「まだです!」
「"え?"」
「まだなんです!」
ノノミは売り場へ走っていく
そして
数十秒後
「先生!」
「こちらです!」
「"・・・・・・。"」
先生が固まった
私も固まった
ユメ先輩も思わず目を瞬かせる
ノノミちゃんが両手で掲げていたのは
極端に布面積の少ない、マイクロビキニだった
「"・・・・・・・・・・・・。"」
先生は無言
ノノミちゃんは笑顔
「着てみましょう!」
「"いや。これは・・・さすがに遊んでない?"」
先生がじとっとした目でノノミちゃんを見る
ノノミちゃんは一瞬だけ視線を逸らして
「・・・ちょっとだけ。」
「"やっぱり!"」
思わず先生が声を上げる
私も吹き出した
「うへへっ!」
「ノノミちゃん、今のは完全に遊んでたよねぇ。」
「えへへ~。」
ノノミちゃんは悪戯が見つかった子どものように笑う
「でも先生なら絶対似合いますよ?」
「"似合う似合わないの問題じゃないから・・・。"」
先生は顔を真っ赤にしながら首を振る
「"これは無理!絶対無理!"」
その必死な様子に、四人は思わず笑ってしまった
「じゃあ。」
ノノミは改めて売り場を見回す
「最後です。本当に最後ですよ。」
先生は半信半疑のまま頷いた
「"・・・うん。"」
ノノミちゃんがゆっくり選んできたのは
白を基調としたバンドゥビキニだった
胸元はすっきりとしたチューブトップ型
肩紐は取り外しも出来るシンプルなデザイン
腰には小さなリボン
派手さはない
けれど上品で、どこか大人びた雰囲気のある水着だった
「先生、これはどうでしょう?」
「"・・・。"」
先生は少しだけ安心したような顔になる
「"これなら・・・。"」
「"着てみる。"」
試着室のカーテンが閉まる
数分後
静かにカーテンが開いた
「"・・・・・・。"」
先生は頬を真っ赤に染めながら立っていた
白いバンドゥビキニは、華美すぎないデザインだからこそ、
先生の落ち着いた雰囲気によく馴染んでいた
細身で均整の取れた体つきは、
そのシンプルなデザインをすっきりと着こなしている
すらりと伸びた手足が涼しげな印象を与え、
健康的な細身のシルエットがよく映えていた
胸元も決して派手ではないが、
自然な丸みがあり、全体として上品にまとまっている
派手に目立つというよりも、【清楚】という言葉がよく似合っていた
「・・・。」
ノノミちゃんは口元を押さえた
「・・・可愛い。」
「先生これです。これが一番です!」
ユメ先輩も嬉しそうに何度も頷く
「うん。先生らしい!すっごく似合ってますよー!」
私も帽子を少し上げながら笑った
「うへへ。これは反則だねぇ。」
「普通に可愛いじゃん。」
先生は耳まで真っ赤になりながら視線を泳がせる
「"ほ、本当に・・・?"」
「"これ・・・私が着るの・・・?"」
その声には、照れと恥ずかしさが半分ずつ混ざっていた
「もちろんです!」
ノノミちゃんは満面の笑みで親指を立てる
「決定です♪」
「"えぇぇぇ・・・。"」
先生はその場で力なく肩を落とすのだった
「じゃあ次は!」
ノノミちゃんが両手を合わせて笑う
「ホシノ先輩です♪」
「うへぇ、やっぱり来たかぁ・・・。」
私は観念したように肩を落とした
「ほらほら!」
「今日はおじさんじゃなくて、女の子らしくです!」
「おじさん十分女の子なんだけどなぁ。」
「ダメです!もっと可愛く!」
「うへぇぇ・・・。」
そのままノノミちゃんに背中を押され、試着室へ
数分後
「・・・。」
カーテンをゆっくり開く
「う、うへぇ・・・。」
帽子を目深に被ったまま
私は照れ臭そうに姿を見せた
白のフリル付きのセパレート水着
その上から羽織る淡い水色のラッシュパーカー
肌の露出は控えめながら、爽やかな夏らしいデザインだった
「おぉー!」
ユメ先輩が目を輝かせる
「ホシノちゃん可愛い!」
「ですよね!」
ノノミちゃんも嬉しそうに拍手する
「ホシノ先輩って可愛い系も似合うんですよ~!」
「いやいや。」
私は耳を赤くしながら帽子を押さえる
「おじさんにはちょっと若すぎない?」
「全然!」
「似合ってます!」
「似合う。」
先生も頷く
「"すごく自然。"」
「・・・。」
その一言で私は少しだけ目を丸くした
「・・・。」
(先生に言われると。)
(なんか照れるんだけどなぁ・・・。)
「うへへ・・・。」
照れ隠しに頭を掻く
「まぁ・・・海ならこれくらいでもいっか。」
「はい♪」
ノノミちゃんは満足そうに頷いた
「次はユメ先輩ですよ!」
「私?」
ユメ先輩はきょとんとする
「はい!」
「ユメ先輩、絶対似合います!」
「えへへ、それじゃお言葉に甘えようかな。」
そう言って試着室へ入っていく
数分後
カーテンが開く
「どうかな?」
少し照れ臭そうに笑うユメ先輩
黒を基調としたホルターネックのハイネック水着
胸元はスポーティーなデザインながら、
ユメ先輩の凶器の様な胸を強調して見せる作りになっている
腰には薄手のパレオ
全体として大人びた印象だった
「・・・。」
私は思わず息を呑んだ
(綺麗。)
そんな言葉が自然に浮かぶ
「どう?」
ユメ先輩はその場で一回くるりと回る
「ホシノちゃん似合う?」
「は、はい!」
私は慌てて頷いた
「凄く似合ってます!」
「えへへ~。」
ユメ先輩は本当に嬉しそうだった
「二年間ずっと仕事ばっかりだったから。」
「こうやって皆で買い物するの、久しぶりなんだ。」
「だから、今日はすごく楽しい!」
その笑顔は
普段会社で見る社長の顔ではなく
年相応の、一人の少女の笑顔だった
「そうですね・・・」
私も嬉しくなり頷く
そんな事をユメ先輩と話していると
「私も終わりましたよ~!」
そう言ってノノミちゃんも試着室から出てくる
白いシアーシャツを羽織ったホルターネックの薄い黄色の三角ビキニ
いつもの明るい雰囲気によく似合っている
「"わぁ。"」
先生が思わず声を漏らした
「"ノノミも似合ってるよ!"」
「えへへ~ありがとうございます、先生♪」
こうして
四人それぞれお気に入りの水着姿になり
「やっぱり海って楽しみだねぇ。」
私が笑う
「うん!」
ユメ先輩も笑う
「早く行きたいね!」
「ふふっ、みんなでいっぱい遊びましょうね♪」
ノノミも楽しそうに頷いた
穏やかな笑い声
賑やかな売り場
夏休みを前にした、何気ない一日
――その時だった
パンッ!!
乾いた破裂音
一瞬
誰も反応できなかった
「・・・え?」
続いて
パンパンパンパンッ!!
今度は連続する銃声
そして
「きゃああああああ!!」
悲鳴
逃げ惑う人々
店内放送よりも早く
水着売り場全体が混乱に包まれる
「な、何!?」
私が思わず振り返る
その横で
さっきまで顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた先生の表情が、一瞬で変わった
「・・・先生?」
その瞳から、照れも、戸惑いも全て消えていた
教師として
大人として
数え切れない戦場を潜ってきた、あの真剣な目
「"みんな。"」
先生は短く言う
「"ここから動かないで。"」
そう言い残すと
白いバンドゥビキニ姿のまま
ためらうことなく試着室を飛び出していった
「先生!」
私が呼び止めるよりも早く
その横を、一陣の風が駆け抜ける
「ユメ先輩!?」
ユメ先輩だった
先ほどまでの柔らかな笑顔は消え
鋭い視線で銃声の方向を見据えている
「先生、私が前に出る。」
短くそれだけ告げる
先生は一瞬だけ頷いた
「"うん、お願い。"」
次の瞬間、二人はほぼ同時に駆け出した
残された私は、その背中を見送りながら帽子を深く被り直す
さっきまでの買い物気分は、もうどこにもない
「・・・うへぇ。」
小さく息を吐く
その声には、もう気怠さはなかった
「せっかくの休日だったのになぁ。」
そう呟くと、ゆっくりとショットガンへ手を伸ばした
水着売り場を飛び出した瞬間
先生達の視界に飛び込んできたのは、地獄絵図だった
ガガガガガガッ!!
無数の銃弾が吹き荒れる
悲鳴を上げながら逃げ惑う買い物客
割れるショーウィンドウ
倒れる商品棚
そして
天井付近を飛び回る十数機もの警備ドローン
普段は館内を巡回しているだけの警備機が、
赤い警告灯を点滅させながら無差別に銃撃を続けていた
『全館に緊急警報!』
館内放送が鳴り響く
『警備システムに異常を確認しました!』
『お客様は直ちに避難を――』
その放送は途中で途切れた
バチッ!!
火花が散る
「"放送まで落とされた・・・!"」
先生は舌打ちする
("クラックされてる。")
("しかも完全に乗っ取られてる。)
その瞬間、横に人影が並ぶ
「先生。」
ユメだった
さっきまで水着を見せて笑っていた少女とは別人のような鋭い眼差し
「指示を。」
先生は一瞬だけ状況を見渡す
逃げ遅れた子ども
ドローンは十九機
射線、遮蔽物、避難経路
全てを数秒で頭の中に叩き込む
「"ユメさん、近距離のドローンを落として避難経路を作って。"」
「"私は民間人を誘導する。"」
「了解。」
返事は一言
次の瞬間だった
――ドンッ!!
床が砕けユメが消える
「え?」
近くにいた避難民が思わず声を漏らす
あまりにも速かった
残像すら見えない
次の瞬間には
ガァン!!
一機目
盾による体当たり
ドローンが壁へ叩き付けられ、
そのまま
ダァンッ!!
ユメの銃が火を噴いた
一発
コアへ命中
爆発
「一機。」
ユメは止まらない
ガンッ!!
盾で弾き
ダァンッ!
撃ち抜き
ガァン!!
蹴り飛ばし
ダァンッ!
撃墜
わずか数秒
近場を飛んでいたドローンが次々と火花を散らしながら床へ落ちていく
「す、すご・・・。」
誰かが呟いた
先生はその隙に避難民を誘導する
「"皆さん!こちらです!"」
「"走って!止まらないで!"」
その時だった
「先生!!」
聞き慣れた声
振り向くと
ホシノとノノミが駆けて来る
もちろん
まだ水着姿のまま
「状況は?」
私はショットガンを構える
先生は短く答える
「"警備ドローン暴走。"」
「"民間人優先。"」
「了解。」
私の頭から眠気が消える
「"ノノミ、右お願い。"」
「はい!」
ノノミちゃんはリトルマシンガンⅤを構え
「先生!」
「避難は任せてください!」
「"お願いね!"」
ドドドドドドドッ!!
ノノミのリトルマシンガンⅤが火を吹く
重い銃声
圧倒的な弾幕
二機、三機、四機
ドローンが空中で爆散する
「うんうん!当たってますよ~!」
その隣で私は盾を構え
「こっちだよ~。」
逃げ遅れた親子の前へ立つ
ガガガガガッ!!
銃弾が盾へ降り注ぐ
「無駄だよ~。」
そのまま前進
ドン!!
盾で体当たりしドローンが大きく仰け反る
「おしまい。」
Eye of Horus
ゼロ距離
バァン!!
散弾がコアを吹き飛ばした
「クリア。」
その時だった
二階
吹き抜け
誰かが手すりを飛び越えた
「・・・。」
黒い翼
ゆっくりと滑空する少女
風を切り裂きながら
静かに着地する
「・・・。」
その人物を見て、私は目を丸くした
「あれ?委員長ちゃん?」
ゲヘナ学園風紀委員長、空崎ヒナ
委員長ちゃんは軽くため息を吐く
「・・・また面倒な事になってる。」
「何でアビドスに?」
私は尋ねる
委員長ちゃんはデストロイヤーを肩へ担ぎながら答える
「最近この施設。」
「ゲヘナの生徒も結構利用してるから。」
「管轄外だけど、一応パトロール。」
「それと、アビドスの生徒会宛てに一報いれたのだけど、読んでないの?」
「うへぇ・・・」
私は苦笑する
(最近書類が多くてどっかに埋まってたかな・・・)
「そ、それにしても委員長ちゃんは相変わらず働き者だねぇ。」
「・・・。」
委員長ちゃんは肩を竦めた
「仕事だから。」
その言葉とは裏腹に
ドローンへ銃口を向ける速度は異常だった
ガガガガガガガガガガッ!!
デストロイヤーが咆哮する
圧倒的な連射、逃げ場など存在せず、
空を飛ぶドローンが紙吹雪のように砕け散る
「さすがだねぇ。」
私が感心した、その時
キュルルル・・・
履帯が回転し、地面に擦れる音が聞こえる
デパートの奥から、大型のドローンが姿を現す
通常の警備ドローンとは比較にならない巨体
周囲のドローンが一斉にその後ろへ集まり始める
委員長ちゃんの目が細くなる
「・・・指揮官機。」
私も同時に気付く
「だねぇ。」
私達は視線を合わせ同時に笑った
「先やる?」
「いい。」
委員長ちゃんはデストロイヤーを構える
「脚を止める。その方が早い。」
私も帽子を被り直した
「了解~じゃあ。」
「おじさんが仕上げるねぇ。」
次の瞬間
委員長ちゃんのデストロイヤーが轟音を響かせ、
巨大ドローンの履帯へと火線を叩き込み始めた
ガガガガガガガガガガガガッ!!
「・・・面倒かけないで。」
気怠そうに呟くその声とは裏腹に
放たれる弾丸は一切の無駄がない
巨大ドローンの履帯へ正確に叩き込まれていく
ガンッ!!
ガガガガッ!!
履帯を守る装甲が弾ける
火花が散り、履帯が外れる
「"履帯損傷を確認。"」
先生が即座に叫ぶ。
「"ホシノ!"」
「"今だよ!"」
「了解~!」
先生の指示を聞いて思わず笑みがこぼれる
「おじさんの出番だねぇ。」
ドンッ!!
床を蹴る
その瞬間にはもう姿が消えていた
「速っ・・・!」
近くにいた風紀委員が思わず息を呑む
私は大型ドローンへ一直線に進み
途中で飛来する護衛ドローンを
「邪魔~。」
ドパァンッ!!
散弾で撃ち落とし
その勢いのまま
ガンッ!!
壊れかけた履帯の装甲を踏み台にして跳ぶ
「っと。」
大型ドローンの背中へ着地
「お、意外と広い。」
そんな呑気なことを言いながら
巨大な装甲の中央
赤く点滅するコアへ歩いていく
「止めないとねぇ。」
周囲の護衛ドローンが一斉に銃口を向ける
しかし
「遅いよ~。」
私は帽子を押さえながら身を低くした
銃弾が頭上を掠める
そのまま
Eye of Horusをゆっくり構える
コアとの距離
一メートルもない
「じゃあ。おーしまい。」
ドォンッ!!
散弾が炸裂する
一発、二発、三発、四発、五発、六発
連続で撃ち込まれたバックショットがコアを粉砕する
ビシッ・・・
巨大な亀裂が走る
「・・・。」
一瞬の静寂、そして
ドゴォォォォンッ!!
コアが内部から爆ぜ、爆風が吹き荒れる
私はその反動を利用して後方へ飛び降り
軽やかに床へ着地した次の瞬間
ズズズズズ・・・
巨大ドローンがゆっくりと崩れ始めた
館内に響く重低音
そして空を飛び回っていた全ての警備ドローンがピタリと停止する
『ERROR』
『Connection Lost』
『Command Signal Lost』
赤く点滅していたセンサーが次々と消え
ガシャン
ガシャン
ガシャン
床へ落下していく
「"ふぅ・・・終わった。"」
先生が小さく息を吐く
館内を包んでいた銃声は、完全に止んでいた
「ふぃ~」
私はショットガンを肩へ担ぐ
「てきとうで勝っちゃったなぁ。」
そんな軽口を叩きながら笑う
「・・・。」
委員長ちゃんがゆっくり歩いてくる
私を見るなり、小さくため息を吐いた
「小鳥遊ホシノ。」
「ん?」
「いろいろ言いたいことはある。」
「うへぇ。」
「でも。」
委員長ちゃんは私の全身を見て
先生を見て
ノノミちゃんを見て
最後にユメ先輩を見る
四人とも
水着姿だった
「・・・。」
数秒の沈黙し
「どうして。」
「みんな水着なの?」
「・・・。」
私は思わず頭を掻いた
「まぁその場の流れ?」
「流れで水着で戦闘する状況って何・・・?」
「うへぇ、説明すると長くてねぇ。」
委員長ちゃんはもう一度ため息を吐く
「・・・そう、聞かないでおく。」
「その方が精神衛生上良さそう。」
そのやり取りをして張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ
そこへ
「"みんな!"」
先生が駆け寄ってくる
無事を確認するように、一人ひとりへ視線を向ける
「"怪我は?"」
「私は大丈夫です~。」
「問題ない。」
「へーきへーき。」
「私も大丈夫だよー」
全員の返事を聞き
先生はようやく安堵したように笑った
「"よかった・・・。"」
そして、そこで初めて
自分の格好に気付く
「"・・・・・・。"」
白いバンドゥビキニ
周囲には避難を終えた大勢の一般客
警備員、風紀委員
さらにスマホを向けかけている野次馬までいる
「"・・・・・・・・・。"」
先生の顔がみるみる赤くなる
耳まで
首まで
真っ赤になった
「"っ~~~~~!!?"」
両手で顔を隠す
「"わ、私っ!!"」
「"この格好のまま戦ってたぁぁぁぁぁ!!?"」
次の瞬間
ダッ!!
ものすごい勢いで水着売り場へ走り出した
「ちょ、ちょっと先生!?」
「先生、待ってくださーい!」
ノノミちゃんが慌てて先生の後を追いかける
「うへへ。」
私はその背中を見送りながら笑う
「先生も案外、恥ずかしがりなんだねぇ。」
「さっきまであんなに真剣だったのに。」
ユメ先輩も苦笑する
「戦ってる間は完全に忘れてたんだろうね。」
「私も気付かなかったよ。」
「私もですね。」
「まぁ・・・」
私は肩を竦めた
「緊急時時に服装なんて気にしてられないですし。」
「そうだね。」
私達はそのまま試着室へ戻り、それぞれ制服へ着替え始める
数分後
最初に会った時のクソダサい私服に身を包んだ先生が、
どこか気まずそうな表情で待っていた
「"・・・ご、ごめんね?"」
「"さっきは取り乱しちゃって・・・。"」
「えへへ。」
ユメ先輩が笑う
「先生らしくて可愛かったよ?」
「"か、可愛いって・・・。"」
先生はまた少しだけ顔を赤くした
「"からかわないでよ・・・。"」
「ふふっ♪」
ノノミも思わず笑う
「先生、本当に可愛かったです~。」
「うへへ。」
私も帽子を深く被る
「おじさん、あんな先生初めて見たかも。」
「"もう・・・。"」
先生は恥ずかしそうにため息をついた
「"お願いだから忘れて・・・。"」
「無理ですね♪」
「満場一致だねぇ。」
「"・・・・・・。"」
先生は観念したように肩を落とした
「"もういいよ・・・。"」
そんなやり取りをしながら売り場を出ると
「あっ!」
聞き慣れた声が響く
「先生!」
振り返ると
シロコ、セリカ、アヤネの三人が駆け寄ってきた
「"みんな!"」
先生もほっとしたように笑う
「皆も来てたたんだね!」
「うん、ホシノ先輩たちとは別行動してた。」
シロコが静かに頷く
「私達が居たキャンプ用品売り場にもドローンが何機か来た。」
「でも、すぐ制圧した。」
その横でセリカが胸を張る
「まったくもう!」
「せっかくバーゲンだったのに!」
「何なのよあいつら!」
「買い物どころじゃなくなっちゃったじゃない!」
「セリカちゃん。」
アヤネが苦笑する
「そこじゃないでしょう・・・。」
「でも皆さん、本当にご無事で良かったです。」
そう言って胸を撫で下ろす
「こっちも。」
私が答える
「先生とユメ先輩が最初に飛び出してくれてね。」
「ノノミちゃんとおじさんも途中から合流した感じ。」
「途中で委員長ちゃんまで来たよ。」
「風紀委員長さん?」
アヤネちゃんが驚く
「"うん。"」
先生が頷く
「"ゲヘナの生徒もこの施設を利用してるから、パトロール中だったみたい。"」
「なるほど・・・。」
アヤネちゃんは納得したように頷いた
「だからあんなに早く・・・。」
「まぁ。」
私が笑いながら言う
「相変わらず仕事人間だったよ。」
「面倒かけないでって言いながら全部片付けちゃった。」
「風紀委員長さんらしいですね。」
先生も思わず笑みを浮かべる
その時だった
「皆様!」
スーツ姿のロボットが、数人のロボットスタッフを連れて駆け寄ってきた
何度も頭を下げながら近付いてくる
「この度は・・・!」
「このような事故に巻き込んでしまい、本当に申し訳ございませんでした!」
深々と頭を下げる
「皆様のお陰で、多数のお客様の命が救われました!」
「本当に・・・ありがとうございました!」
先生は慌てて首を振る
「"頭を上げてください。」
「"私たちは当然のことをしただけです。」
「しかし・・・!」
スーツ姿のロボットが申し訳なさそうな表情を浮かべる
「本来ならば、このような事態を起こすこと自体あってはならないことでして・・・。」
その言葉を聞いたユメ先輩が、一歩前へ出た
先ほどまでの柔らかな少女の雰囲気ではなく
祈願屋の代表としての落ち着いた表情
「少し、お話を聞かせてもらえますか?」
「私は祈願屋の山梔ウツツです。」*1
「今回の件について確認したいことがあります。」
管理責任者は驚いたように目を見開く
「祈願屋の・・・!」
「は、はい!もちろんです!」
ユメ先輩は小さく頷いた
「まず確認ですが。」
「今回暴走したドローンは、元々正常に稼働していたんですよね?」
「はい。」
責任者は即答した
「監視ログを確認しましたが、警備システム自体に故障はありませんでした。」
「外部から何者かが管理ネットワークへ侵入し、」
「全警備ドローンを一斉に乗っ取ったものと思われます。」
「現在、サーバーも完全にダウンしております。」
「"・・・やっぱり。"」
先生が静かに呟く
戦闘中に感じていた違和感は、間違っていなかった
ユメ先輩も表情を引き締める
「詳細なログデータは残っていますか?」
「はい!」
「可能な限り保全しております!」
「分かりました。」
ユメ先輩は落ち着いた声で答えた
「この件は祈願屋でも調査を引き継ぎます。」
「後日、担当者を派遣しますので、データは削除せずそのまま保管しておいてください。」
「承知いたしました!」
責任者は再び深々と頭を下げる
その様子を見ながら私は心の中で苦笑した
(あーあ。せっかくの買い物だったのになぁ。)
(アンラさんがいたら、また仕事増えたなぁって頭抱えてそう。)
そう思った瞬間
(・・・最近本当に全然会ってないなぁ。)
帽子のつばを少しだけ下げる
ほんの少しだけ、胸の奥がむず痒くなった
ユメ先輩の説明が終わると、管理責任者は何度も頭を下げた
「本当にありがとうございました。」
「もし皆様が居なければ・・・。」
「この施設はもちろん、多くのお客様にも甚大な被害が出ていたと思われます。」
先生は苦笑する
「"それは結果論ですよ。"」
「"今回はたまたま私達が近くにいただけです。"」
「それでもです!」
責任者は強く首を振った
「感謝をお伝えしないわけには参りません。」
そう言うと、後ろに控えていたスタッフへ視線を送る
スタッフは慌てて一冊の分厚い冊子を抱えて戻ってきた
「こちらを。」
責任者が冊子から何枚もの券を切り離し始める
ビリッ、ビリッ、ビリッ、
「"あの・・・?"」
先生が目を丸くする
「"結構ありますね・・・?"」
「本日、当施設ではサマーセール記念の大抽選会を開催しております。」
「本来は1万円ご購入ごとに一枚なのですが・・・。」
責任者は笑顔で先生へ差し出した
「皆様への謝礼として。」
「人数分・・・いえ。」
「少々多めにご用意させていただきました。」
「"えっ。"」
先生が思わず固まる
「"こ、こんなにいただいていいんですか?"」
「もちろんです!」
「どうか受け取ってください!」
ユメ先輩が券を一枚手に取り、軽く眺める
「ユメ先輩数えました・・・?」
私が覗き込む
「ううん。」
「でも。」
ユメ先輩は苦笑した
「20枚以上はあるかな・・・」
「えぇぇ!?」
セリカちゃんが目を丸くする
「こんなの全部回していいの!?」
「はい!ぜひ皆様で。」
責任者は嬉しそうに頷いた
「・・・。」
私は先生を見る
先生も困ったように笑っていた
「先生、どうする?」
「"うーん・・・。"」
先生は少し考えたあと
「"せっかくいただいたご厚意だから。"」
「"ありがたくいただこうか。"」
「やったー!」
ノノミちゃんが嬉しそうに拍手する
「抽選会ですね~☆」
「おじさんこういうの結構好きなんだよねぇ。」
私も少し笑う
「うぇへへ、一等とか当たったらいいなぁ。」
「一等なんてそう簡単に当たらないでしょ。」
セリカちゃんが呆れたように言う
「まぁ参加賞のお菓子でも貰えれば十分よ。」
「セリカ。」
シロコちゃんが静かに言う
「そういう人ほど当てる。」
「え?」
「なんとなく。」
「何よその根拠!」
思わず笑いが起きる
【アビドスデパート・抽選会会場】
セール会場の一角には、大きな特設ブースが設けられていた
「いらっしゃいませー!」
「サマーセール大抽選会でーす!」
イベントスタッフが元気よく呼び込みをしている
ガラガラ
ガラガラ
周囲では抽選器を回す音が響いていた
「うわぁ・・・。」
アヤネちゃんが辺りを見回す
「結構本格的ですね。」
「最近出来た施設だからね。」
ユメ先輩が頷く
「イベントにも力を入れてるみたい。」
「"それじゃあ。"」
先生が券を配っていく
「"みんな順番に回そうか。"」
「はーい!」
ノノミちゃんが真っ先に前へ
ガラガラガラ・・・
コロン
白玉
「参加賞でーす!」
「ありがとうございます~☆」
大きなお菓子セットを受け取り、満面の笑み
「参加賞でも豪華ですね~♪」
続いてアヤネちゃん
ガラガラ・・・
青玉
「四等です!」
「えっ。」
「アウトドアチェアになります!」
「あ、ありがとうございます・・・!」
アヤネちゃんは恐縮しながら折りたたみチェアを受け取った
「"キャンプ用品が増えたね。"」
先生も思わず笑う
次はシロコちゃん
ガラガラ・・・
黄色
「三等!」
「高級BBQセットです!」
「・・・。」
シロコちゃんは少しだけ目を見開く
「ん、これで焼き肉が出来る。」
「そこ?」
セリカちゃんが思わず突っ込む
「まぁ、便利そう。」
シロコちゃんは満足そうだった
続いて私
「うへぇ~。」
「こういうの運ないんだよねぇ。」
ガラガラ・・・
白
「参加賞でーす!」
「うへぇ・・・やっぱりねぇ。」
「"ホシノらしいね。"」
先生も笑う
ユメ先輩も回す
ガラガラ・・・
赤玉
「二等!」
スタッフが声を張る
「高級リゾートホテル宿泊券! 二名様です!」
「おぉー!」
ホシノが拍手する
「ユメ先輩、運いいですね!」
「えへへ。」
「でも、」
ユメ先輩は笑いながら首を傾げた
「人数足りないね。」
「そうですねぇ。」
ノノミちゃんも苦笑する
最後
「はいはい。どうせ私もお菓子の詰め合わせよ。」
セリカが適当にハンドルを回す
ガラ・・・
その瞬間
カランッ!!
金色の玉が勢いよく飛び出した
「・・・・・・。」
スタッフが固まる
周囲も静まり返る
「・・・え?」
セリカが玉を見る
スタッフが震える声で確認した
「き、金・・・?」
「金玉ですっ!!」
次の瞬間
カランカランカランカラン!!
鐘が勢いよく鳴り響いた
「おめでとうございまーーーーーーす!!!」
会場中にスタッフの絶叫が響く
「特賞です!!」
「サマーリゾート・グランドアイランド!」
「人数無制限の利用権ご当選でーーーす!!」
「・・・・・・・・・。」
一瞬
全員の思考が止まった
「・・・・・・・・・え?」
セリカちゃんが口を開けたまま固まる
先生も瞬きを繰り返す
私が帽子を押さえながら呟く
「・・・うへ?」
ノノミが目をきらきらさせる
「人数・・・無制限?」
アヤネちゃんが抽選券と景品パネルを何度も見比べる
「えっ、本当に・・・?」
シロコちゃんだけが静かに一言
「・・・海。」
そして次の瞬間
「「「えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!?」」」
対策委員会全員の叫び声が、抽選会場いっぱいに響き渡った
以前何処かで書いたと思いますが、先生とユメちゃんは年齢も近いのもあって結構仲が良いです。
なのでユメと話す時の先生は普段生徒に向けて話す口調よりもちょっと砕けています。
ただまぁ今回は先生は恥ずかしさで普段繕ってる口調が若干ぶっ壊れていますが。
そして皆さん覚えていますでしょうか。
このお話の元ネタは、1.5周年のショートアニメです。
なんというか、初めて自分がコレを見た時は、動画で動いてる姿をみてちょっと感動しましたね
デパートでいろんな生徒が居て、それぞれ生活をしている。っていう感じがしまして。
まぁそれは置いておきまして。
アンケートの結果、過半数の方が先生の体型を描写しても良いそうなので。
今回思い切って全部描写していきました!
ちなみに大分昔にGPT君に、体型とか雰囲気を掴むために作って貰った参考資料の絵もあります。
一応張っておきますが、AIイラストなので嫌いな方は見ない方で良いですね。
【挿絵表示】
張っておきますねー閲覧は注意で、
ちなみに今回の水着仕様の設定画になっています。
そして、先生。
今まで頑なに肌を露出してこなかったので、
肌を露出する事を極端に嫌がります。
因みに言うとバニーチェイサーでのバニー服も裏ではひと悶着あって、
ネルたちに取り押さえられて無理矢理着替えさせられてたりしてました。
まぁ・・・ここで先生が渋々この水着をOKしたのは、
結局全員女しかいないから、まぁいいか。っていう気持ちでした。
ハッハッハ、そうですよ。
次の話で、ユメとホシノがアンラをリゾートに強制連行して、
その結果、結構気になってる異性に恥ずかしい水着姿を見られた先生が暴れ倒します(笑)
そう言えば、
感想にて、先生の情報を出して欲しいと言ってくださった方が居るので、
ちょっと出してみますね。
過去周回のお話はこの世界のお話のネタバレになる部分があるので、
基本は既出の所のみになりますが・・・
まず聖良先生ですね。
まず、先生には苗字があります。
そしてその苗字が、悪神の巫女と言われた理由なんです。
先生のフルネームは『
少し詳しい方ならピンとくるかもしれませんが。
物部という苗字は、古代の日本から続く氏族であり、
その祖は朝廷の軍事や警察等の機関を司った家でした。
そして、それと同時にこの氏族は祭祀氏族でもあり、
現代風に言えば神に仕える神職でもありました。
先生はこの氏族の直系です。
まぁ流石に
もし、してたら、本格的に原作がブレイクしていましたね。
まぁこれが先生は指揮能力に全才能をブッパしたとアンラが評する理由ですね
そして、先生の過去周回の出来事ですが、
本編でもかるく触っていますが、
まずアビドス編では、
セリカは誘拐されそのまま消息不明。
ホシノはゲマトリアに連れていかれ死亡。
カイザーにアビドスを乗っ取られ、アビドスという自治区が消滅。
アビドスではこういった過去を経験しています。
ミレニアムでは、
ゲーム開発部が廃墟に行こうとするも、戦力と指揮能力が足らず、途中撤退し、
鬼気迫りながら、出来る限りのゲームを作るも受賞できず廃部。
別の周回では無理矢理廃墟を突破しようとしてミドリを庇ったモモイが負傷し意識不明の重体、
ゲーム制作が出来ず廃部。
その次では、隠密にて廃墟を進み、アリスのいる工場までたどり着くも、
先生自身がモモイとミドリを庇って落下死。
それ以降はそれぞれ対策を繰り返し、アリスを連れてくる事は出来たが、
TSCを使ってアリスを破壊していない為、人間ではない事がバレ、
更には学籍を偽造しようとしたことも一緒にバレ、モモイとミドリ両名の退学。
TSCをやらせる事でやっとアリスになるも
鏡争奪戦にて、全員拘束されたりなどし、ゲーム開発が出来ず廃部。
ミレニアムはこういった周回を重ねています。
パヴァーヌ二章での周回未来も存在しますが、
あれに関してはモモイ生徒会長ルートが多いですね。
トリニティでは、
作中でも触れましたが、第二次試験で、先生が瓦礫に押しつぶされ圧死。
第二次試験の後、アズサが皆がボロボロになっていく姿に耐えられず、
一人自首しナギサに拘束される。
第三次まで行くも、ミカのクーデターによりそもそも試験が中止しトリニティが内乱に突入する。
全てが始まる前にミカの裏切りの証拠をすべて集め、ミカを拘束し、エデン条約調印まで進むも、
先生自身が調印式の巡航ミサイルにて即死。
ミカの裏切りの告発ルートで進み、調印式にて降ってくる巡航ミサイルを迎撃し、
その後のアリウスとの全面戦争を経験し、その戦争の中で、アリウス側がヘイロー破壊爆弾による自爆特攻を敢行し、死傷者多数を出す戦争になりました。
それ以外のルートで、初期対応でアリウスとの戦争に舵を取らず、
原作と同じブルーアーカイブ宣言をする未来もありましたが、ナギサが巡航ミサイルで重症を負っていない為、この宣言を聞き、ヒフミを退学させる未来もありました。
これが以前書いた、ヒフミアビドス生ルートです。
これ以外のヒフミのルートは、もっと早い段階でファウストとバレて、
ブラックマーケットの女王として君臨するヒフミの女王ルートもあります。
因みに先生が一番困惑した、ヒフミ教祖ルートというものもありまして、
ペロロ信教という新興宗教を起こし、トリニティに文化侵略をするルートも存在しています。
ちなみに何気にこのヒフミ教祖ルートでのヒフミが一番苛烈だったりします。
ちなみにどのルートでもまれに存在する可能性で、
セイアが本当に生存出来ておらず、
人の形をした肉になっている未来も常に存在し続けています。
以上がトリニティでの先生の周回です。
正直に言うと、
先に進めば進むほど、先生の周回した回数は先細りしていき、経験も浅くなっていきます。
なので最初のアビドスのようにメタ対策を叩出し、初動で全対応するなんていう事が殆ど出来なくなっています。
それを抜きにしても、トリニティでのルートは原作ルートを踏めていないので、既に先生にとっては未知の経験なんですが。
パヴァーヌ二章なんてやり直し経験二桁ですし
その先の未来は一桁です。
そして、先生はどのルートを通っても、アリスを救えていません。
そしてアリスを救えていないが為に、多次元防御を抜けない為、
アトラハーシスの攻略が出来てない状態です。
他にも、色々な生徒達が個別にモモイの身に起こった様な悲劇に見舞われるお話もありますが、
それらのお話は、今後の本筋と関わってくる為、今回は触れないでおきます。
あ、ちなみに先生の周回記憶で、テラー化した生徒は何人か出て来ています。
ちなみにモモイもその一人です。
先生視点ではないので。今日のセイアはお休みですけど、
祈願屋での一幕だけ書いておきますね。
「アンラ・・・」
「んあ?なんやセイア。」
「君は・・・私に恨みでもあるのかい?」
「別にあらへんぞ。」
「では・・・何故毎回君との組手で私は死にそうになっているのだい?」
「そりゃーミカと同じ程度の神秘と膂力で組手してるからやろ。
これで死にそうってんならトリニティに帰ったらホンマに死ぬからもっと気張れよ?」
「・・・・・・ここに就職するというのは、」
「アビドスがトリニティに戦争ふっかけられるから却下。」
「・・・・・・・・・」