おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
同時投稿二話目!
【リゾート施設・コテージ】
ホシノの案内で、一行はコテージの中へ足を踏み入れる
木の香りが漂う廊下
新品同然になった内装に、皆が感嘆の声を漏らす
「すごぉ~い!」
ノノミが嬉しそうに辺りを見回す
「ベッドまで新品ですよ~!」
「ほんとだ!」
セリカも思わず駆け寄る
「これなら普通にホテルじゃない!」
「ん。」
シロコも静かに頷く
「寝心地、良さそう。」
「水回りも全部使えそうです!」
アヤネが洗面所を確認して声を上げた
「お湯も出そうですね。」
「よかったよかった~。」
ホシノものんびり笑う
そんな賑やかな声が響く中
廊下の奥で、不意にホシノの足が止まった
「・・・・・・。」
その視線の先
少し色褪せた一枚のポスター
壁へ丁寧に貼られている
『アビドス砂祭り』
砂漠の中の大きなピラミッドに
太陽と大きなオアシスが書かれた
ごく普通のイベントポスターだった
だが
ホシノだけは動けない
「・・・。」
その表情から
いつもの気の抜けた笑みが消えていた
「ホシノちゃん。」
隣へユメが静かに並ぶ
ホシノは小さく笑う
「うへぇ・・・懐かしいですねぇ・・・。」
「・・・うん。」
ユメも優しく微笑む
しばらく
二人ともポスターを眺め続けた
「あの時・・・。」
ホシノがぽつりと呟く
「私。」
「ユメ先輩に、ひどい事言っちゃったなぁって。」
「今でも思い出すんですよね。」
「・・・。」
ユメは何も言わない
ただ
そっとホシノの頭へ手を乗せた
優しく
昔と何一つ変わらない手つきで
ゆっくり撫でる
「・・・。」
ホシノは少しだけ目を細めた
「ふふ。」
ユメが静かに笑う
「最初から気にしてないよ。」
「・・・うへへ。」
ホシノも少しだけ笑った
「・・・ありがとうございます。」
その光景を
少し離れた場所から
おっさんは静かに眺めていた
何も言わない
何も聞かない
ただ、少しだけ安心したように笑う
(・・・よかったな。)
その一言だけを
胸の中で呟いた
すると
ガチャッ
コテージの入口が勢いよく開く
「え?」
一人のヘルメット団員が中へ踏み込み――
部屋の中の大人数を見て固まった
「なんだ、人・・・!?」
「・・・あっ!!」
顔色が変わる
その直後
外から怒鳴り声が聞こえた
「ここだ!」
「ヤツらがこっちにいるぞー!!」
さらに
ダダダダダッ!!
大勢の足音
「隊長!」
「ここです!」
「ヤツらを見つけました!!」
入口から現れたのは
ジャブジャブヘルメット団
「まさか。うちらより先にこの島を見つけるなんてねぇ。」
ラブはニヤリと笑う
「ふふっあんた達もリゾートハンターなんでしょ?」
「その目、見れば分かるよ。」
「・・・・・・。」
おっさんだけ
首を傾げる
「は?」
意味が分からない
ラブは勝手に納得したようにショットガンを担ぐ
「まぁ、隠したいなら隠せば?」
「でもさ。ライバルがいるなら。」
「追い出して勝ち取る。それがここの掟だからね!!」
ショットガンを構える
その瞬間
おっさんの姿が消えた
「・・・え?」
気付けば
目の前
ラブの胸倉を掴んでいた
「邪魔。」
たった二言
ブォンッ!!!
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
ラブの身体が一直線に空へ飛ぶ
コテージを越え
ヤシの木を越え
砂浜を越え
遥か彼方の森まで吹っ飛んでいった
「・・・・・・。」
ヘルメット団全員
硬直
おっさんがゆっくり振り返る
「次。」
「ひっ!!」
ブォン!!
ブォン!!
ブォン!!
一人
また一人
全員が全く同じ方向へ
全く同じ軌道で
悲鳴を上げながら空の彼方へ消えていく
数秒後
ラブ達が島の彼方へ吹き飛ばされ
その場には静寂だけが残った
「で、アレ誰や?」
「「「「"知らずに投げたんですか!?"」」」」
先生達の声が綺麗に揃う
「いや。」
おっさんは本気で不思議そうな顔だった
「せっかく直した所で暴れられたら怠いやん。」
「先止めただけや。」
「止めたってレベルじゃないから!!」
セリカが思わず叫ぶ
「ん。」
シロコも静かに頷く
「100メートルくらい飛んでた。」
「うへぇ~。」
ホシノが苦笑する
「隊長さん、すっごく飛んでったねぇ。」
「まぁキヴォトス人やし死なんやろ。」
おっさんは軽く肩を竦めた
「加減くらいしとる。」
「十分怖いです・・・。」
アヤネが苦笑する
その時だった
カチッ。
先生が壁のスイッチを押す
しかし
照明は点かなかった
「"・・・あれ?"」
もう一度押す
カチ、カチ。
それでも何も起こらない
「"電気が来てないね・・・"」
アヤネが配電盤を開き、中を確認する
「建物そのものは修復されていますけど・・・。」
「施設全体への送電は停止したままみたいです。」
「つまり。」
セリカが肩を落とした
「今日このままだと夜は真っ暗って事?」
「そうなりますね・・・。」
「うへぇ~。」
ホシノが頭を掻く
「それじゃ先に制御室かなぁ。」
先生も頷いた
「案内図を見る限り、発電設備は島の中央にあるみたい。」
「ほな。」
おっさんは荷物を肩から降ろす
「先に荷物置こか。」
「その方が動きやすいやろ。」
全員が頷いた
ホシノがパンフレットを片手に皆を見回す
「コテージは五棟あるからぁ。」
「アンラさん一人。」
「先生一人。」
「私とユメ先輩。」
「ノノミとシロコ。」
「アヤネとセリカ。」
「これでいいかなぁ?」
「異議ありません。」
アヤネが頷く
「私は大丈夫ですよ~♪」
ノノミも笑顔で答える
「ん。」
シロコも短く頷いた
「じゃあ。」
ホシノが手を叩く
「一回荷物置いて、十分後くらいに外で集合しよっか。」
「了解。」
それぞれが自分のコテージへ向かっていく
数分後
全員が荷物を置き終え、コテージ前へ集まる
すると
「ん。」
シロコだけが
一本の釣り竿を肩へ担いでいた
「「「"・・・。"」」」
全員の視線が自然と集まる
シロコは真剣そのものだった
「無人島で生存するには。」
「まず動物性たんぱく質を確保するのが先決。」
「だから。」
釣り竿を持ち上げる
「魚を釣る。」
さらに餌箱、バケツ、小さな道具箱
「なんと。」
「ここに釣り道具がある。」
「準備は出来てる。」
「ん。必ず獲る。」
「生存のために。」
珍しく止まることなく話し続けるシロコ
「いやいや。」
セリカが苦笑する
「やる気ありすぎでしょ・・・。」
「うへへ。」
ホシノも肩を震わせた
「シロコちゃん、今日は珍しくマシンガントークだねぇ。」
先生も思わず笑う
「"ふふっ。"」
「"そんなに楽しみだったんだ。"」
「ん。」
シロコは力強く頷く
「魚は裏切らない。」
「ええやん。」
おっさんが笑う
「ほな、おっさん付き合うわ。」
するとホシノが真剣な顔で先生へ視線を向けた
「先生。」
「シロコちゃんとアンラさんを二人で行かせたら。」
「2人でテンション上がって何しでかすか分からないから」
「一緒に付いて行ってくれる?」
「もちろん。」
先生はすぐに頷いた
「私も一緒に行く。」
「ありがとう。」
ホシノは安心したように言う
「おっさんなんやと思っとんねん。」
おっさんが一人文句を言うも
先生はおっさんの文句を無視し、話を続ける
「ホシノ達は?」
「おじさん達は制御室にいってくるよ~。」
ホシノがのんびり答える
「施設全体の電気を復旧させないとだからねぇ。」
アヤネも頷いた
「暗くなる前に終わらせたいですから。」
「それじゃあ、終わったらまたここに集合と言う事で。」
先生が確認する
「うん。」
ホシノも頷いた
「それじゃあ行こっか。」
「ほな。」
おっさんがシロコを見る
「魚、頼んだで。」
「ん。」
シロコは静かに頷き
釣り竿を抱えたまま、一番最初に歩き出した
その後ろを先生とおっさんが続く
一方
ホシノ、ユメ、ノノミ、アヤネ、セリカの五人は、
施設中央にある制御室へ向かって歩き始めた
こうして一行は二手に分かれ、それぞれの目的地へ向かうのだった
【岩礁海岸】
白い砂浜から少し離れた場所
波が砕ける岩礁帯
水深もあり、魚影も濃そうな海だった
「ん。」
シロコは満足そうに頷く
「ここなら釣れそう。」
先生も海を眺めながら微笑む
「"本当に景色が綺麗ですね。"」
おっさんは辺りを見回し
「せやな。」
「岩もあるし流れも悪ない。」
「釣るにはええ場所や。」
シロコは既にやる気満々だった
肩から釣り竿を下ろし
バケツを置き
餌箱を並べる
「ん。準備は出来てる。」
「今日はいっぱい釣る。」
珍しくテンションが上がってるシロコ
先生が思わず笑う
「"ふふ。そんなに楽しみだったんだね。"」
シロコは真顔で頷いた
おっさんは周囲を見回す
「ほな、ちょっと足りん物だけ出すか。」
そう言うと何もない空間へ右腕を突っ込む
ズブッ・・・
先生が一瞬だけ固まる
("また普通に空間へ手を・・・。")
ごそごそと探ると
最初に取り出したのは
ステンレス製のサーフスタンド
続いて、大きな玉網
折り畳み椅子を三脚
ゴトッ ゴトッ ゴトッ
次々と岩礁へ並べられていく
「ほい、椅子。」
先生へ一脚
シロコへ一脚
最後は自分用
「サーフスタンドはここ。」
岩礁の比較的平たい所で三脚を立てる
「竿立てとけば楽や。」
「あと玉網。」
「大物掛かったら使う。」
シロコは網を見つめる
「・・・網。いる?」
「私が撃てばいい。」
先生が一瞬固まる
「"え?"」
シロコは真顔だった
「魚が掛かったら。」
「銃で撃てば。」
「釣りあげるのは簡単。」
おっさんが即座に突っ込む
「アホか。5.56mmNATO弾なんぞ魚に撃ったら。」
「粉みじんになるわ。」
先生が吹き出す
「"ふふっ。"」
シロコは少し考える
「・・・確かに。」
「粉みじんになったら食べれないから困る。」
「困るんかい。」
おっさんは笑いながら頭を掻く
「まぁ釣れたら締めから血抜きまで、おっさんが全部やったるさかい。」
「安心して任せとき。」
シロコは小さく頷いた
「ん。よろしく。」
先生も安心したように笑う
「"じゃあ私は網を持って待機してますね。"」
「それが一番助かる。」
三人は椅子へ腰掛け静かに海へ糸を垂らす
波の音だけが聞こえる
「・・・。」
「・・・。」
「"平和ですね。"」
先生がぽつりと言う
「せやなぁ。」
「こんくらい静かな方がおっさんは好きや。」
シロコも頷く
「ん。魚も落ち着く。」
しばらく穏やかな時間が流れた
――その時だった
ダダダダダダダッ!!
「ここにいたぞーーー!!」
聞き覚えのある声
おっさんは嫌そうにため息を吐く
「はぁ・・・またか。」
浜辺から走ってきたのは
先ほど投げ飛ばしたラブ達だった
「ここにいたのか!!」
ラブが顔を真っ赤にして叫ぶ
「よくもさっきはぶん投げてくれたなーーー!!」
おっさんは座ったまま海を見る
「・・・。」
そして深いため息
「はぁ・・・今度は森林浴やなくて。」
「
ラブがピクリと肩を震わせる
「ふっふっふっ!今回は違うわよ!」
「うちらだって学習するんだから!」
「今回は応援部隊を呼んでるの!」
胸を張る
「さぁ!出番よ!」
「給料分はちゃんと働いてちょうだい!」
ラブが高らかに叫ぶ
「ワカモ!!」
おっさんが眉をひそめる
「・・・は?ワカモ?」
岩陰から
白い狐面の少女がゆっくり姿を現した
「あらあら・・・。」
「正直、がっかりです。」
ラブへ視線を向けたまま続ける
「たったこれっぽっちの人数に苦戦されていたのですか?」
「それでどうやって、この広いリゾートを狩り尽くすというのです。」
「たった三人すら――」
言葉が止まる
「・・・ん?」
ゆっくり顔を上げる
おっさんと目が合う
合ってしまう
「・・・。」
「・・・。」
おっさんはもう頭痛がするように額を押さえていた
先生は横で苦笑するしかない
(ああ・・・終わった。)
ワカモは目を見開く
「その・・・お顔・・・。」
「もしかして・・・。」
「貴方様・・・?」
おっさんは即座に首を横へ振る
「チャウ。」
「オッサンチャウ。」
「貴方様チャウ。」
完全に片言だった
しかし
ワカモには届いていない
「え・・・。」
「えっ・・・?」
「ど、どういう事なのです・・・?」
「何故・・・貴方様が・・・こちらに・・・?」
完全に思考停止
その場で固まる
ラブが青ざめる
「ちょっとワカモ!?」
「ねぇ!?ワカモ!?」
肩を揺する
「・・・。」
反応なし
「ダメだ!反応が無い!」
ラブは即断した
「今は撤退よ!!」
「ほらワカモ!帰るわよ!!」
ぐったりしたワカモを肩へ担ぎ
ダダダダダダッ!!
全力疾走で森の奥へ消えていった
「・・・・・・・・・・・・。」
おっさんは空を仰ぐ
「頼むから・・・。」
「マジで・・・。」
「二度と来んといてくれ・・・・・・。」
切実だった
先生は苦笑する
「"それは・・・。""」
「"相手がワカモだから、たぶん無理だと思いますよ?"」
「・・・やっぱそうか。」
おっさんが肩を落とした――
その瞬間
ギュゥゥゥゥンッ!!
「!」
先生が竿を見る
「"アンラさん!"」
「"シロコ!"」
「"竿が!"」
サーフスタンドへ立てていた竿が、
信じられないほど大きくしなっていた
「ん!!」
急いで竿を持ったシロコは歯を食いしばりながら竿を支えていた
竿は大きく弓なりになり、今にも折れそうなほど悲鳴を上げている
ギギギギギ・・・!!
「重い・・・!」
「無理に巻いたらアカン!」
おっさんがすぐ横へ立つ
「テンションだけ維持や!」
「魚に走らせろ!」
「ん!」
シロコは素直に頷く
リールを無理には巻かず
魚が走れば糸を送り止まれば少しだけ巻く
その繰り返し
先生は思わず息を呑む
「"これが釣り・・・"」
しばらくの攻防
すると
ドッパァァァァンッ!!
海面から巨大な影が飛び出した
長い吻
鋭い背びれ
青黒く輝く巨体
それを見ておっさんが固まる
「・・・・・・。」
先生も固まる
「・・・。」
シロコだけが真顔
「・・・カジキ。」
数秒の沈黙
そして
「いや。」
おっさんが思わずツッコむ
「なんでやねん!!!」
「なんでこんな浅瀬にカジキおんねん!!」
「しかもデカいわ!!」
先生も苦笑するしかなかった
「"私も初めて見ました・・・。"」
「ん。」
シロコは冷静だった
「大きい。」
「大きいちゃうねん!」
アンラが頭を抱える
「普通もっと沖や!」
「こんな浅瀬で何しとんねんこのアホ!!」
バシャァァァッ!!
再びカジキが跳ねる
「ん。」
シロコは竿を立てる
「逃がさない。」
「ええで、その調子や!」
おっさんも真面目な顔へ戻る
「あと少しや!浮かせろ!」
数分後
巨大な魚体が
ゆっくりと岩場へ近付いてくる
先生が目を丸くした
「"本当に寄せた・・・。"」
「ん。」
シロコが小さく頷く
「勝った。」
「よし。」
おっさんの手に黒い液体が集まり、
次の瞬間、刀が握られる
「ここからはおっさんの仕事や。」
そう言うと、岩場を軽く蹴る
ドンッ!!
一瞬で跳ねたカジキの横へ
「"え。"」
先生の目から
おっさんの姿が消える
次の瞬間
ズッ――
刀が
カジキの頭部へ寸分違わず突き刺さった
「ここ。」
おっさんが静かに呟く
それだけだった
さっきまで暴れていた巨体がぴたりと止まる
先生は息を呑んだ
「"一撃で締めた・・・。"」
海に落ちたカジキは力を失い
ゆっくりと海中へ沈み始める
その時だった
タンッ!!
おっさんが空中で身体を捻る
そのまま海面へ降り立った
チャプッ・・・
小さな波紋だけが広がる
沈まない、足首すら濡れず
まるで陸地へ立つように海面へ自然に着地していた
「"・・・・・・。"」
先生が固まる
「"・・・アンラさん。"」
「ん?」
「"今さらなんですけど。"」
「"なんで普通に海の上へ立ってるんですか?"」
おっさんはきょとんと振り返った
「なんでって言われても。」
「歩けるからやで?」
「"質問を質問で返さないでください。"」
先生は思わず額へ手を当てる
「"普通は歩けません。"」
「そうなん?」
「"そうなんです。"」
「へぇ・・・。」
おっさんは少し感心したように頷いた
「おっさんらの所じゃ、神秘とか魔力を足裏から流せたら大体歩けるからなぁ。」
「空も海も変わらへん。」
「"・・・・・・。"」
先生は返す言葉を失う
("また基準がおかしい・・・。")
その横では、シロコだけが真面目な顔で海面を見ていた
「ん。便利。」
「便利やで。」
おっさんは笑う
「慣れたら空飛ぶより楽や。」
「私も練習したら出来る?」
「シロコなら出来るんちゃう?」
「神秘の扱い方もっと上手なったらな。」
「ん。」
シロコは少しだけ目を輝かせた
「頑張る。」
先生は思わず苦笑する
("それも教えるつもりなんですね・・・。")
おっさんは沈みかけたカジキの吻を掴み
軽々と持ち上げる
ザバァッ!!
巨大な魚体が再び海面へ姿を現す
「ほな。」
「岩場戻るで。」
そう言うと
おっさんは巨大なカジキを片手で担ぎ
当然のように海面を歩き始めた
チャプ・・・チャプ・・・
歩くたび静かな波紋だけが広がる
先生はその姿を眺めながら
小さくため息を吐いた
「"・・・もう驚かないようにしようと思ってたのに。"」
「"毎回ちゃんと驚かされるんですよね・・・。"」
ドスンッ
巨大なカジキが岩礁の上へ横たえられた
尾鰭が海側を向くように向きを整え
おっさんは腰へ差していた刀を抜く
「血抜き始めるで。」
ス――
迷いなく尾鰭の付け根へ一閃
尾鰭がポロッという効果音が似合いそうな綺麗な落とされ方をした
「ん。」
シロコが少しだけ目を丸くした
「速い。」
「骨の位置分かっとるからな。」
おっさんはそのまま膝をつき
右腕をカジキの鰓蓋の中へ深く差し込み、指でなぞり切り口を作る
「ほな。」
静かに魔術を紡ぐ
「魔術術式解凍:射流:右腕装填」
右腕へ魔力が収束する
次の瞬間
ゴォォォォォォォッ!!!!
鰓の奥から
凄まじい勢いで水流が流れ込んだ
同時に
切断された尾鰭の血管から
ドバァァァァァッ!!
真っ赤な血が
大量の水と共に噴き出した
先生が思わず息を呑む
「"水圧で血液を押し出してる・・・。"」
「ん。」
シロコも興味深そうに覗き込む
「全部出る?」
「出るで。」
おっさんは頷いた
「こんだけデカイ奴で心臓止まっとる魚は、ただ切っただけじゃ血が抜けへん。」
「せやから外から流してやる。」
「血が残ると臭みも出るし鮮度も落ちるさかいな。」
「食うなら最後まできっちりや。」
先生は感心したように見つめる
「"なんか普通に勉強になりますね・・・。"」
しばらくすると
尾鰭から流れ出る液体は
赤から桃色へ
ザァァァァ・・・
やがて
透明な水だけになった
おっさんは魔術を解除する
「よし。」
腕を引き抜き
満足そうに頷いた
「これで締めから血抜きまで完了や。」
先生は思わず苦笑した
「"アンラさん、前に漁師でもしてたんですか?"」
「ちゃうちゃう。」
おっさんは笑いながら首を振る
「ただの生き字引や。」
「必要になった知識は、その都度覚えてきただけや。」
「"なるほど・・・。"」
先生は苦笑するしかなかった
すると、おっさんは足元へ視線を落とした
岩礁には
血抜きの際に飛び散った血が少しだけ残っている
「最後に。」
再び右手を掲げる
「魔術術式解凍:射流:散水」
シャァァァァァッ!!
今度は先ほどとは違う
柔らかな水流
まるで高圧洗浄機のように
岩礁の隅々まで水が走る
血痕は綺麗に洗い流され
岩の隙間まで丁寧に流されていく
最後は海水と共に沖へ流れ
岩礁には何一つ血が残らなかった
おっさんは満足そうに頷く
「よし、これで終わりや。」
先生が首を傾げる
「そこまで徹底するんですね。」
「釣り場は皆で使う場所やしな。」
おっさんは当たり前のように答えた
「血ぃ残したら乾いて臭うし。」
「次に来た人が気持ち良ぉ使えへん。」
「釣りする以上最後まで綺麗にして帰るんが礼儀や。」
先生は優しく微笑んだ
「"・・・そういうところ、本当に礼儀正しいですよね。"」
「ん。」
シロコも静かに頷く
「勉強になった。」
おっさんは照れ臭そうに頭を掻く
「そんな大した話やない。」
「当たり前の事をやっとるだけや。」
潮風が静かに吹き抜ける
血抜きを終えた巨大なカジキが、岩礁の上へ静かに横たわっていた
「ほな、鮮度落ちる前に仕舞っとこか。」
そう言うと、おっさんは何もない空間へカジキを押し込む
ズズ――
空間が裂けてカジキが消えていく
先生は特に驚く様子もなく、その様子を眺めていた
頭、胴体、尾
数メートルはある魚体が跡形もなく消える
「これでよし。」
おっさんが軽く手を払う
先生はふと尋ねた
「"そういえば、その中って時間も止まってるんでしたよね?"」
「せやで。」
「せやから鮮度もそのままや。」
「飯の時に捌いて余った分を後で食べても問題あらへん。」
「"なるほど・・・。"」
先生は納得したように頷く
「"それなら安心ですね。"」
「便利。」
シロコも真面目な顔で頷いた
「魚も新鮮。」
「肉も野菜もな、保存には困らへん。」
おっさんは笑う
「長旅する時は重宝しとる。」
シロコは少しだけ羨ましそうに黒い空間が消えた場所を見つめた
「・・・本当に便利、欲しい。」
「残念、これは自前で習得せんとあかへんわ。」
「ん。そう。」
少しだけ残念そうだった
先生はそのやり取りを見て、小さく笑う
「シロコ、そんな顔しなくても、また釣れたらアンラさんが運んでくれるから。」
「ん。安心。」
「完全に扱いが冷凍車かなんかやな。」
おっさんが苦笑する
「適材適所。」
シロコは真顔で答えた
「否定できへんなぁ・・・。」
三人の間に笑いが広がった
その時、先生が腕時計へ目を向ける
「"あ。そろそろホシノたちも制御室へ着いている頃ですね。"」
「あぁ。」
おっさんも頷いた
「電気通さんと夜困るしな。」
「迎え行こか。」
「ん。」
シロコは釣り竿とバケツを抱え直す
三人は岩礁を後にし、仲間たちの待つリゾート施設の制御室へ向かって歩き始めた
ホシノとユメが例のポスターを発見しましたね。
アンラが再構築したので綺麗なさらっぴんのポスターです。
ホシノはずっと後悔していたので、ここいらでその後悔を一つ取り除いてあげたかったんですよね
これで、今のホシノには本当に心につっかえてる負債は無くなりましたね。
あ、ちなみに、このコテージでお湯が使えそうなのは、
全部電気ではなく、ガスボンベでの湯沸かしだからですね。
大型コテージでもないので小型湯沸かし器なので乾電池かなんかで動いてるんでしょう。
そして、次ですね!
ワカモが再登場!
先生と初遭遇した時以来ですねー・・・
いやぁワカモってキャラ濃いけど本編にはマジ絡みが無いの。
そして、イベントの時と同じ様にこの後の流れはまぁお察しです。
そして、岩礁なんていう浅瀬で釣れてしまった
カジキマグロ・・・
これ小説のネタだけだと思うかもしれないですが、
マジでたまーに、浅瀬でカジキ釣れたりするんですよね。
なんでもバカみたいに獲物を追ってきて、浅瀬まで突っ込んでくるアホが居るらしいです。
自分もギャグとして書いてから後で調べたらマジでアホな奴がおってびっくりしました。
あと作中で出てくる、締め方と血抜き方法は実際の奴を参考にしていますー
そして、血抜きを岩礁でする時は、作中でも書いた通り、
岩礁の波とかで流れない所に血が付いてたら海水とか水とかで洗い流しましょう。
後で地獄になるので。
そしてアンラの技法で海の上に立ってた奴ですが、正直既に近いのは出てるんですよね。
ほら、ビナー戦の時に空中で立ってたじゃないですか、あれと原理は一緒なんですよね。
ちなみにセイアも空を一歩だけ駆ける事が出来るので、
近い将来同じ様に空や水面に立てるようになりますね。
そして、久々におっさんプチ情報!
今回作中で新たに出て来た魔術の解説!
射流、文字通り、射る流れ。
つまりまぁ貫通特化のウォーターカッターな使い方が本来の使い方ですね。
本来は微細な石を生成する術式を入れて、水流の通った場所は全部削ぎ落す。そういう魔術です。
今回は術式に改変を入れてある方を解凍、起動し高圧洗浄機みたいな使い方をしています。