おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

89 / 89
宣言します!
今回のディナーデートの話は約1.5万文字と長いです!

ばにたすばにたーたむ!


おっさん先生とディナーに行く

【アビドス都市部・祈願屋事務所】

 

夜九時頃

 

事務所の中には静かな時間が流れていた

 

机の上には依頼書や報告書が積まれ、壁掛け時計だけが規則正しく時を刻んでいる

 

カタカタ・・・

 

ペンを走らせる音だけが部屋へ響く

 

セイアはソファーへ腰掛け、資料へ目を通していた

 

向かいではユメが帳簿をまとめている

 

「・・・ふぅ。」

 

一息ついたところで、おっさんは椅子の背にもたれた

 

「やっと終わったわ。」

 

机の上へ書類を置く

 

ユメが顔を上げる

 

「今日は珍しく早く終わりましたね。」

 

「こっちで処理する案件が少なかったからな。」

 

そう言いながらスマホを取り出す

 

画面を数秒眺め――

 

「・・・よし。」

 

どこか決心したように頷いた

 

その様子を見ていたセイアが首を傾げる

 

「誰かに連絡かい?」

 

「あぁ、前にちょい約束しとってな、先生誘って飯食いに行くって。」

 

ユメの手が止まる

 

「・・・・・・。」

 

セイアは何故か嫌な予感がした

 

「・・・・・・。」

 

向かいのユメの表情を見る

 

笑っている

笑っているのだが――

 

目だけが、まったく笑っていない

 

(・・・あ、これはまずいね。)

 

セイアは本能的にそう察した

 

しかし当のおっさんは全く気付いていない

 

「アビドスに新しく出来たあの店、予約制らしいねん。」

「せやから空いてる日だけ聞いとこ思てな。」

 

そう言って、先生へ発信する

 

prrr・・・

 

数秒後

 

『"・・・はい。シャーレの先生です。"』

 

少し眠そうな声

 

「おう、先生。」

 

『"アンラさん?"』

 

「あぁ、今大丈夫か?」

 

『"はい、大丈夫ですけど・・・。"』

 

先生は少しだけ不思議そうな声になる

 

『"何かありましたか?"』

 

「いや、前言うとったディナーの話や。」

「店予約しよう思うねんけど、先生、いつ空いとる?」

 

電話の向こうが静かになる

 

「・・・・・・。」

 

数秒

 

本当に数秒

 

『"・・・えっ?"』

 

「せやから、先生の空いてる日。」

「そこに合わせて予約取ろ思うて。」

 

再び沈黙

 

『"え、あ、その・・・"』

 

『"えっと・・・"』

 

『"えぇっと・・・"』

 

完全に慌てている

 

おっさんは苦笑する

 

「そんな焦らんでも。」

「今予定表見たらええやん。」

 

『"あっ、そ、そうでした・・・!"』

 

電話越しに何かを探す音

 

タブレットの画面を叩く音

 

「・・・・・・。」

 

その様子を聞きながら、おっさんは笑って待っていた

 

一方

 

事務所の中では

 

ユメの笑顔が

 

すぅ・・・

 

完全に消えていた

 

「・・・・・・。」

 

 

まさに無表情

 

しかし、その無表情から放たれる圧だけは凄まじい

 

セイアは恐る恐る目を逸らす

 

(怖い。何だいこの空気は。)

(冷気すら感じるのだが。)

 

思わず持っていたティーカップを机へ戻した

 

(本当に、ここに身を寄せてから碌な目にあわないね・・・)

 

冷や汗が一筋流れる

 

その間にも電話は続く

 

『"予定わかりました!"』

『"三日後なら、一日空いてます!"』

 

「三日後か。」

「ほな、その日に合わせるわ。」

 

『"はい!"』

 

先生の声が少しだけ明るくなる

 

『"・・・楽しみにしてます。"』

 

「おう、おっさんもや。」

「ほな予約取れたらまた連絡するわ。」

 

『"はい、お待ちしてます。"』

 

通話が切れる

 

ピッ

 

スマホをデスクに置く

 

「さて。予約でも――」

 

そこまで言って

ようやく異変に気付いた

 

「・・・なんや?」

 

部屋が妙に静かだった

 

ユメは無表情

 

セイアは視線を逸らして紅茶を飲んでいる

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・なんかあったんか?」

 

セイアは紅茶を一口飲んでから

 

「いや、私は何も見ていないし、何も聞いていない。」

 

即答だった

 

「?」

 

おっさんは首を傾げる

 

その横では

 

ユメだけが

 

にこっ♡

 

と、いつもの笑顔を浮かべた

 

「ううん。」

「何にもないよ?」

 

その笑顔がセイアにとって今日一番怖かった

 

 

 

3日後

 

夕方

 

「ほな、行ってくるわ。」

 

玄関でおっさんが、いつもの調子で振り返る

 

しかし

 

今日だけは、いつもと違った

 

砂色のローブは羽織っていない

 

代わりに身を包んでいるのは、黒を基調とした落ち着いたタキシード

 

白いシャツに黒いベスト

 

首元には深いワインレッドのネクタイ

 

普段の気の抜けた雰囲気とは打って変わり、

その立ち姿だけ見れば、どこかの名家に仕える執事か、

あるいは高級ホテルの支配人にも見える

 

ユメは思わず目を丸くした

 

「・・・・・・。」

 

(え、かっこいい。)

 

その言葉を飲み込む

 

一方

 

ソファーへ腰掛けて書類を読んでいたセイアは、ちらりと一瞥すると小さく肩を竦めた

 

「成程。」

「馬子にも衣装・・・とは、よく言ったものだね。」

 

おっさんは苦笑する

 

「一言多いねん。」

 

「これでも一応褒めているのだけどね?」

 

「何処がや、完全に嫌味やろ。」

 

「そうだね。」

 

即答だった

 

セイアはふっと笑う

 

「しかし。」

「似合っているのは事実だよ。」

 

「ありがとうさん。」

 

おっさんは照れ臭そうに後頭部を掻いた

 

 

その横で

 

ユメは、いつも以上に明るい笑顔を浮かべる

 

「いってらっしゃーい!」

「楽しんできてねー!」

 

「あぁ。ほな行ってくるわ。」

 

軽く手を振り

 

カラン、と扉が閉まる

 

静寂

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

「・・・・・・。」

 

ユメの笑顔が消えた

 

 

完全に無

 

セイアは視線だけ上げる

 

「・・・始まったね。」

 

「始まりました。」

 

ユメは静かに頷く

 

そのまま

 

ポケットからスマホを取り出す

 

番号を押す

 

プルルルル・・・

 

数秒後

 

『もしもし~?』

 

眠そうなホシノの声

 

「ホシノちゃん。」

「緊急事態です。」

 

『・・・はい?』

 

「アンラさんが先生と。」

「ディナー。」

 

『・・・・・・。』

 

ホシノは数秒黙った

 

『・・・ユメ先輩。』

『落ち着いて下さい。』

 

「落ち着いてるよ?」

 

『全然落ち着いてないですよね?』

 

「落ち着いてる。」

 

『無感情なのが逆に怖いんですけど・・・。』

 

ユメは静かに言う

 

「尾行します。」

 

『却下します。』

 

即答だった

 

「お願いします。」

 

『嫌です。』

 

「お願い。」

 

『嫌です。』

 

「ホシノちゃん。」

 

『・・・・・・。』

 

「お願い。」

 

沈黙

 

長い沈黙

 

『・・・はぁ。』

 

電話越しに、深く長いため息

 

『ユメ先輩。』

 

『絶対バレますよ?』

 

「バレない。」

 

『バレます。』

 

「大丈夫。」

 

『大丈夫じゃないです。』

 

さらに数秒

 

『・・・分かりました。』

 

『でも。』

 

『本当に見るだけですからね?』

 

ユメの顔がぱっと明るくなる

 

「ありがとう!目的地はドレスコードがあるからドレス着て来てね!」

 

『えぇ!?私、そんなの持っ――。』

 

電話を切った

 

セイアはその一部始終を見届けると、紅茶を一口飲んだ

 

「・・・・・・。」

 

「デバガメも程々にした方がいいと思うけどね。」

 

ユメは振り返る

 

「大丈夫。」

 

「私もちょっと外に出てくるだけ。」

 

「その格好で?」

 

セイアの視線が向いた先

 

いつの間に着替えたのか

 

ユメは淡い薄緑色のイブニングドレスに身を包んでいた

 

派手ではない

 

しかし上品で、落ち着いた色合いがユメによく似合っている

 

セイアは思わず苦笑した

 

「随分と準備がいいじゃないか。」

 

「偶然だよ?」

 

「・・・・・・。」

 

「その偶然は信用出来ないな。」

 

ユメは照れ笑いを浮かべる

 

「じゃあ。」

「行ってきます。」

 

「はいはい。」

 

セイアは再び書類へ目を落とした

 

「仕事は私がやっておくとするよ。」

 

「ありがとう!」

 

カラン

 

扉が閉まる

 

セイアは一人になった事務所で、深いため息をついた

 

「・・・・・・全く。」

 

「好意とは。」

「人をここまで行動的にするものなのだね。」

 

誰に言うでもなく呟き

何事も無かったように仕事へ戻っていった

 

 

 

祈願屋の前

 

夕暮れの街

 

少し、したらホシノがやってきた

 

ホシノも今日は制服ではなく、

何処かでレンタルした淡い桃色のイブニングドレスを着てきていた

 

肩を軽くすくめながらユメを見る

 

「・・・ユメ先輩。」

「私達何してるんでしょうね。」

 

ユメは真顔で答えた

 

「尾行。」

 

「堂々と言わないでくださいよ・・・。」

 

ホシノは額へ手を当て、大きくため息を吐く

 

「もうここまで来たら付き合いますけど・・・」

 

「ありがとう、ホシノちゃん!」

 

ユメは嬉しそうに笑う

 

二人は顔を見合わせ

 

目的のレストランへ向かって歩き始めた

 

 

 

【アビドス都市部・高級レストラン前】

 

 

昼間の熱気が嘘のように和らぎ、街には静かな風が吹いていた

 

ライトアップされた街路樹

 

穏やかな音楽

 

最近オープンしたばかりだという高級レストランは、

外観からして落ち着いた高級感を漂わせている

 

その入口から少し離れた場所で

 

おっさんはスマホを見た

 

「・・・まだ五分前か。」

 

タキシード姿

 

いつものボロボロのローブとは違い、

黒を基調にした仕立ての良い一着だった

 

とはいえ本人は特に気負う様子もなく、

壁にもたれながらぼんやり夜空を見上げている

 

(今日は静かやなぁ。)

 

そんな事を思っていると

 

足音

 

ゆっくりとこちらへ近付いてくる

 

おっさんが視線を向ける

 

街灯の明かりの向こうから、一人の女性が歩いて来ていた

 

淡い青色のイブニングドレス

肩から腕にかけては薄いレース

裾は歩く度に静かに揺れ、夜風を受けて淡く波打つ

 

普段の先生とはまるで違う

 

柔らかな化粧

 

髪も綺麗に整えられていて

 

どこかのお嬢様が、そのまま舞踏会へ向かう途中と言われても違和感がない

 

おっさんは思わず少しだけ目を見開いた

 

(・・・ほぉ。)

 

先生もおっさんを見つける

 

「あっ。」

 

少しだけ歩く速度を上げた

 

「こんばんは、アンラさん。」

 

「おう。」

 

おっさんはいつも通り軽く手を上げる

 

「こんばんは。」

「時間ぴったりやな。」

 

それだけ

 

普段と何一つ変わらない調子だった

 

先生は数秒固まる

 

(・・・え。それだけ?)

 

今日は少しだけ頑張って準備した

 

ドレスも、髪型も、全部

 

なのに

 

「・・・・・・。」

 

ほんの少しだけ頬を膨らませる

おっさんはその様子を見て首を傾げた

 

「どないした?」

 

「・・・いえ。」

「別に。」

 

明らかに拗ねている

 

おっさんは数秒だけ考え

 

「あぁ。」

 

何に拗ねているのかようやく理解した

 

苦笑する

 

「聖良ちゃん。」

 

「はい?」

 

「・・・そのドレス。」

 

先生が顔を上げる

 

おっさんは照れ臭そうに頭を掻きながら言った

 

「よう似合っとる。」

「すごい綺麗やな。」

 

その一言

 

先生の表情が一瞬で変わった

 

「・・・!」

 

耳まで赤くなる

 

そして

 

「・・・ありがとうございます。」

 

さっきまでの不機嫌さはどこへやら

 

思わず笑みが零れる

 

「じゃあ!」

 

先生はくるりと振り返った

 

「行きましょう!」

 

「料理、早く見てみたいです!」

 

そのまま少し先を歩き始める

 

「アンラさん、早く早く!」

 

「はいはい。」

 

おっさんは苦笑しながら後を追う

 

「そんな急がんでも店は逃げへん。」

 

「逃げませんけど!」

「楽しみなんです!」

 

「そらよかった。」

 

二人は笑いながらレストランへ入っていく

 

 

その様子を

 

少し離れた裏路地から

 

じぃーーーーーーっと見つめる影が二つ

 

建物の角から

 

ぴょこん、淡い桃色のアホ毛

 

その隣に

 

ぴょこん、薄緑色のアホ毛

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

二本だけが

 

ひょこっと夜風に揺れていた

 

そして

 

誰にも気付かれないまま

 

二本のアホ毛は、そろーっと建物の影へ引っ込んでいく

 

 

 

【高級レストラン・店内】

 

店内へ一歩足を踏み入れた瞬間

柔らかなクラシック音楽が耳に届く

 

照明は暖色

 

壁には在りし日のアビドスオアシスを描いた絵画

大きな窓の向こうには夜景が広がり、落ち着いた雰囲気が店全体を包んでいた

 

スタッフロボットが丁寧に一礼する

 

「本日ハ予約済ミノ二名様デスネ。」

「オ待チシテオリマシタ。」

 

二人は案内され

 

窓際の席へ腰を下ろした

 

テーブルクロスは純白

 

銀食器が整然と並び

 

中央には小さなキャンドルが揺れている

 

先生は思わず周囲を見回した

 

「・・・素敵なお店ですね。」

 

「やろ?」

 

おっさんも椅子へ腰掛ける

 

「料理も評判ええらしいで。」

 

そこへ

 

ソムリエ型のサービスロボットが静かにやって来る

 

銀のワインクーラーから一本のボトルを取り出し、二人へラベルを見せた

 

「本日ハ、アビドス産赤ワインヲ御用意イタシマシタ。」

「強イ日差シノ下デ育ッタ葡萄ヲ使用シテオリ、芳醇ナ果実香ト穏ヤカナ渋味ガ特徴デス。」

 

ロボットは慣れた手つきでコルクを抜く

 

静かな音

 

そして

 

透明なグラスへ、深い紅色のワインが静かに注がれていった

 

ロボットは静かにボトルを下げる

 

「ゴユックリ、お楽しミクダサイ。」

 

一礼すると、そのまま音もなく去っていった

 

店内には穏やかなピアノの旋律だけが流れている

 

先生はグラスをそっと持ち上げた

 

「今日は誘ってくださってありがとうございます。」

 

「こちらこそ。」

 

おっさんもグラスを持つ

 

「前から約束しとったしな。」

 

二人は自然と微笑み合い、グラスを小さく持ち上げた

 

「乾杯。」

 

「乾杯。」

 

 

先生はグラスを軽く揺らし、深紅のワインが静かに波打つ

そのまま目を閉じるようにゆっくり香りを確かめる

 

甘く熟した葡萄

 

樽由来の僅かな香ばしさ

 

それらを十分に楽しんでから

 

ほんの少しだけ口へ含む

 

舌の上を転がし

 

空気を含ませ

 

ゆっくりと喉へ流していく

 

「・・・・・・。」

 

おっさんはその一連の所作を黙って見ていた

 

(・・・慣れとる。)

 

グラスの持ち方、香りの楽しみ方、飲み込むタイミング

 

全部が自然だった

 

見様見真似ではなく身体に染み付いている

 

おっさんは思わず笑う

 

「なぁ聖良ちゃん。」

 

「はい?」

 

「聖良ちゃんって・・・。」

 

少し言葉を探す

 

「実はええとこのお嬢さんなんか?」

 

先生はグラスをテーブルへ戻した

 

そして少しだけ照れ臭そうに笑う

 

「そんな大したものじゃありませんよ?」

「でも・・・。」

 

少しだけ遠くを見る

 

「一応、キヴォトスへ来る前は、古い家の出でした。」

 

「ほぉ。」

 

おっさんは感心したように頷く

 

「なるほどなぁ。」

「だからこない自然なんか。」

 

先生は少し肩を竦める

 

「昔から食卓で厳しく教えられていましたから。」

「姿勢とか食器の持ち方とか。」

「ワインの飲み方とか。」

 

おっさんは何度か頷いていたが

 

ふと、何かを思い出した

 

「・・・・・・。」

 

先生を見る

 

先生も首を傾げる

 

「どうしました?」

 

「いや、なんというかなぁ・・・。」

 

おっさんは苦笑いした

 

「前の飲み会で。」

「火酒をストレートでガンガン飲んどった人と同一人物とは思えへんなぁ。」

 

先生の肩がぴくっと震えた

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

数秒の沈黙

 

先生はむぅっと頬を膨らませる

 

「・・・あれは。」

「・・・あれはあれで美味しいんです。」

 

「ほんまかぁ?」

 

「本当です。」

 

先生は真剣な顔で頷く

 

「ちゃんと味も分かってました。」

 

「へぇ。」

 

おっさんは笑いながら相槌を打つ

 

(いやあれ。)

(どう見てもストレスで酒浴びるように飲んどっただけやろ・・・。)

 

そんな事を考えていると

 

先生がじーっとこちらを見ていた

 

「・・・アンラさん。」

 

「ん?」

 

「今、何か失礼なこと考えてませんでした?」

 

おっさんは一瞬も間を置かず答える

 

「いんやー。」

「なんも思とらんでー。」

 

棒読みだった

それはもう誰が聞いても棒読みだった

 

先生はじとーっとした目になる

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

「アンラさん。」

 

「はい。」

 

「絶対何か考えてましたよね?」

 

「いやいや、ほんまやって。」

 

「嘘です。」

 

「即否定かい。」

 

おっさんが苦笑すると

 

先生も堪えきれず吹き出した

 

「ふふっ、今日はなんだかアンラさんが少しだけ話しやすいです。」

 

「普段からこんなんやけど?」

 

「今日は少し違います。」

 

「そうか?」

 

「はい。」

 

先生は嬉しそうに笑いながら、もう一度グラスを口元へ運んだ

 

その笑顔を見て

 

おっさんも自然と笑っていた

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

レストラン店内・窓際の席

 

先生達の席から数テーブル離れた窓際

 

そこにも一組の客が座っていた

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

薄緑色のイブニングドレスと着た普段より少しだけ大人びた装いのユメは

 

メニューを開いているように見せかけながら

 

その実

 

視線だけは一直線

 

先生達の席へ向いていた

 

「・・・・・・・・・。」

 

(見てるよ。)

(めちゃくちゃ見てる。)

 

向かい側では

 

淡い桃色のイブニングドレス姿のホシノが、

葡萄ジュースを一口飲みながら深いため息をつく

 

「ユメ先輩。」

 

「ん?」

 

「そんなに凝視してたら気付かれますよ?」

 

「むー・・・。」

 

ユメは頬を膨らませる

 

「でもぉ・・・ホシノちゃんは気にならないの?」

 

ホシノは少しだけ言葉に詰まる

 

「そりゃあ・・・気になりますけど・・・。」

 

視線だけ横へ流す

 

先生とアンラさんが楽しそうに談笑している

 

ワインを飲みながら

 

自然に笑い合っている

 

(・・・まぁ、あんまり面白くはないよねぇ。)

 

そんな本音を心の中へ押し込み

 

もう一口ジュースを飲んだ

 

その前で

 

ユメは机の下で拳をぎゅっと握る

 

「前から怪しいとは思ってたけど・・・。」

「まさか、こんな所でデートする仲だったなんてぇ・・・。」

「ぐぬぬぬ・・・。」

 

本当に悔しそうだった

 

ホシノは思わず苦笑する

 

「ユメ先輩・・・。」

「それ完全に嫉妬してますよね。」

 

「してないもん!」

 

即答だった

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

ホシノは何も言わない

 

ただ、生温かい目だけ向ける

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・ちょっとだけ。」

 

「ですよね。」

 

また葡萄ジュースを飲む

 

(まぁ私だって気持ちは分かるけど。)

 

先生が幸せそうだった

 

あんな穏やかな笑顔・・・

 

(先生が幸せなら。)

(それでいい・・・。)

 

そう思う反面

 

心のどこかが少しだけ引っ掛かる

 

ホシノ自身も

 

その感情にはまだ名前を付けられなかった

 

「・・・・・・。」

 

横目でそっと先生達を見る

 

ちょうど

 

先生が笑いながらアンラさんへ何か言っていた

 

アンラさんも肩を揺らして笑っている

 

その自然な空気

 

長い付き合いだからこそ出来る距離感

 

それを見たユメは

 

「むぅぅぅぅ・・・。」

 

さらに頬を膨らませた

 

「なんか、あの二人。」

「息ぴったりなんだけどぉ・・・。」

 

「気のせいですよ。」

 

「絶対気のせいじゃないよぉ・・・。」

 

ホシノは苦笑しながらナプキンで口元を拭く

 

「ユメ先輩。」

 

「はい?」

 

「とりあえず、その目だけは何とかしましょう。」

「今、完全に獲物狙ってる目です。」

 

「えっ。」

 

ユメは慌てて自分の頬をぺたぺた触る

 

「そんな顔してた?」

 

「してました。」

 

「ひぃん・・・。」

 

ホシノはまた一つため息を吐く

 

(この人、ほんと二年でめんどくさくなったなぁ・・・。)

 

そんな事を思いながら

 

再び視線は

 

先生とおっさんのテーブルへ向けられた

 

そこでは、オードブルが静かに運ばれてきていた

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ロボットの給仕が静かにオードブルを運んでくる

 

白い皿の中央には、色鮮やかな野菜と薄く切られた魚

 

その周囲を彩るソースまで、一つの芸術品のようだった

 

「わぁ・・・。」

 

先生は思わず目を輝かせる

 

「綺麗ですね。」

「食べるのが少し勿体ないくらい。」

 

「こういう店は見た目も料理の一つやからなー。」

 

おっさんはそう言いながら、自然な動作でナイフとフォークを手に取る

 

その動きには、一切の無駄がない

 

先生も食べ始める

 

静かな音だけが二人のテーブルを包んだ

 

しばらく料理を楽しんでいた先生だったが

 

ふと、向かい側に座るおっさんの手元へ視線を向けた

 

(・・・あれ?)

 

ナイフの角度

 

フォークの持ち方

 

姿勢

 

料理を口へ運ぶ所作

 

どれを取っても自然過ぎる

無理に取り繕っている様子がまるでない

それはまるで、長年体に馴染ませた人の所作だった

 

「・・・アンラさん。」

 

「ん?」

 

「今ふと思ったんですけど・・・。」

 

おっさんはオードブルを口へ運びながら首を傾げる

 

「なんや?」

 

先生は少し言いづらそうに笑った

 

「その・・・アンラさんって。」

「普段はあんなボロボロのローブ着てますけど・・・。」

「実は良い所のお家の出だったりするんですか?」

 

おっさんは一瞬だけ動きを止めた

 

それから

 

苦笑しながら肩を竦める

 

「いんや。おっさんは孤児やから。」

「出生なんて分からへんで。」

 

「・・・・・・。」

 

先生の手が止まる

 

「あっ・・・。」

 

しまった

 

そんな顔だった

 

「す、すみません!」

「私・・・。」

 

「いやいや。」

 

おっさんは笑って手を振る

 

「気にせんでええ。」

「こういう話ってな、案外本人はそんな気にしてへん事、多いねん。」

 

その口調は軽い

 

本当に気にしていないようにも聞こえる

 

だからこそ

 

先生も少しだけ肩の力を抜いた

 

おっさんは先生の表情を見て笑う

 

「で、今の質問。」

「この食べ方見て疑問に思ったんやろ?」

 

「はい。」

 

先生は素直に頷く

 

おっさんはフォークを置いて少し考える

 

「昔な、仕事の都合で、こういう店に何回も顔出す事があってな。」

「その時に自然と身に付いた。」

 

「仕事・・・。」

 

先生は興味津々で身を乗り出した

 

「アンラさんって前は何のお仕事を?」

 

おっさんは少しだけ笑う

 

「まぁ、ボディガードみたいなもんや。」

 

それだけだった

 

さらりと料理へ戻る

 

先生は数秒固まる

 

(・・・いやいや。)

(絶対それだけじゃないですよね。)

 

「アンラさん。」

 

「なんや。」

 

「経歴、謎過ぎません?」

 

「まぁ、基本誰にも話してへんしな。」

 

あっけらかん

 

先生はじーっと見つめる

 

(ほら。)

(今です。)

(昔話する空気ですよ。)

 

(ここですよ。)

(早く吐いてください。)

 

そんな視線

 

おっさんは一瞬だけ目を合わせる

 

(あぁ。)

(その目ぇな。)

 

意味は完全に理解した

 

理解した上で

 

「うん。このソース美味いな。」

 

知らんぷりして食事を続ける

 

「・・・・・・。」

 

先生はぷくっと頬を膨らませた

 

(分かった上で無視しましたね。)

(絶対分かった上で。)

 

「むぅ・・・。」

 

おっさんは肩を震わせる

 

「なんや、食べへんの?」

 

「食べます。」

 

少し拗ねながら前菜を口へ運ぶ先生

 

その様子が可笑しくて

おっさんはまた笑ってしまった

 

そんな穏やかな空気のまま

 

オードブルは綺麗になくなり

 

ポワソンが運ばれてくる

 

魚料理から立ち上る香ばしい香り

 

先生は目を輝かせた

 

「美味しそう・・・。」

 

「せやな。」

 

二人は自然と食事を再開する

 

料理も半分ほど進んだ頃

 

先生はナイフを置き、小さく息を吐いた

 

「そういえば。」

 

「ん?」

 

「アンラさんはエデン条約の調印式には来るんですか?」

 

おっさんは魚を一口飲み込んでから答える

 

「調印式には出ぇへんな。」

「表向きにはおっさんら、そういう立場の組織でもないし。」*1

 

先生は少しだけ首を傾げる

 

「でも。近くには居るんですよね?」

 

おっさんはワインを一口飲む

 

そして意味ありげに笑った

 

「さーなー?」

 

「・・・・・・。」

 

先生は深いため息をつき苦笑いしながら呟く

 

「本当に何も教えてくれないんですねぇ・・・。」

 

おっさんは肩を竦める

 

「前、浜辺で自分で言うてたやろ?」

「意味ないって。」

 

先生は思い出す

 

【私が自力でたどり着かなければ意味がない】

 

「それは・・・。」

「そうですけどぉ・・・。」

 

少しだけ不満そうに唇を尖らせる先生

 

おっさんはその様子を見て、小さく笑うのだった

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

レストラン店内・窓際の席

 

ユメとホシノが居る窓際の席

 

「・・・・・・・・・。」

 

ユメは頬杖をついたまま

 

じぃーーーーーーっと

 

おっさんと先生の席だけを見つめていた

 

先生が笑う

 

おっさんが笑う

 

二人の間に流れる空気は自然で

 

肩肘を張らない、気を遣い過ぎる事もない

 

その穏やかな距離感が

 

余計に

 

「むぅぅぅぅ・・・。」

 

ユメは机の下で拳をぎゅっと握る

 

「なんか・・・いい雰囲気だよぉ・・・。」

 

本当にしょんぼりした声だった

 

向かいではホシノが長いため息を吐く

 

「ユメ先輩・・・。」

 

「はい・・・。」

 

「この二年でめんどくさい人になりましたね・・・。」

 

「ひぃぃん・・・。」

 

ユメが肩を落とす

 

「ホシノちゃん・・・。」

「それはあんまりじゃない・・・?」

 

「だって。」

 

ホシノは苦笑しながら肩を竦めた

 

「そんなに気になるなら。」

「二年もあったんですし、どうとでも出来たでしょ・・・。」

 

「うっ。」

 

痛い所だった

 

ユメは視線を逸らす

 

「・・・そうだけどぉ。」

「そうだけどぉ・・・。」

 

しゅん

 

完全に小さくなる

 

ホシノはもう一度ジュースを飲み

 

思い出したように口を開いた

 

「そういえば、ユメ先輩。」

「この前、抽選で当たったリゾートホテルの宿泊券。」

「あれ、どうなったんですか?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

ユメが止まる

 

数秒

 

「あっ。」

 

ホシノは額へ手を当てた

 

「・・・はぁ、忘れてましたね?」

 

「ひぃいん・・・。」

 

ユメは両手で頭を抱える

 

「リゾート島で色々あったからぁ・・・。」

「すっかり忘れてたよぉ・・・。」

 

「やっぱり。」

 

ホシノは呆れ半分

 

苦笑半分で息を吐く

 

「折角ですし、今度。二人で行って来たらどうです?」

 

「・・・え?」

 

ユメが顔を上げる

 

「その宿泊券。」

「まだ期限ありますよね?」

 

「あります!」

 

即答だった

 

「じゃあ、使わないと勿体ないですし。」

 

「・・・・・・。」

 

ユメは数秒きょとんとして

 

それから

 

ぱぁっと花が咲くように笑った

 

「そうだね!」

「ありがとうホシノちゃん!」

 

「どういたしまして。」

 

ホシノもつられて小さく笑う

 

ユメは元気よく頷くと

 

再び

 

視線だけは

 

おっさんと先生の席へ向けた

 

「あ。また笑ってる・・・。」

「むぅ・・・・・・。」

 

せっかく元気になったのに

 

また頬が膨らむ

 

ホシノはそんなユメを見て

 

「・・・・・・・・・。」

 

本当に忙しい人だなぁ

 

そう思いながら

 

自分もそっと横目で先生達の席を見る

 

談笑する二人

 

自然に笑い合う姿

 

その光景を静かに見つめていた――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

ヴィアンドも綺麗になくなり

 

スタッフロボットが静かに皿を下げていく

 

店内には相変わらず穏やかなピアノの旋律

 

窓の外には、夜のアビドスが静かに広がっていた

 

おっさんはワインを一口だけ口へ含み

 

グラスをゆっくり置く

 

「・・・なぁ。」

 

先生は顔を上げる

 

「はい?」

 

おっさんは少しだけ考えるように顎へ手を当てた

 

「先生は・・・何処まで行けてるんや?」

 

「・・・?」

 

先生の頭の上へ、小さな疑問符が浮かぶ

 

「何処まで・・・ですか?」

 

「あぁ。」

 

おっさんは少しだけ言葉を探す

 

「なんて言えばええかな・・・。」

「・・・調印式の後や。」

「このキヴォトスで起こる問題。」

 

「先生は、今どこまで辿り着けとる?」

 

その言葉だけで先生は何を聞かれているのか理解した

 

「あぁ・・・。」

 

少しだけ表情が曇る

 

グラスへ視線を落とし、静かに口を開いた

 

「そうですね・・・。」

 

「私は・・・何度やっても。」

「空が赤く染まった後。」

「どうしても障壁を突破する方法が見つかりません。」

 

「・・・・・・。」

 

おっさんは黙って聞く

 

先生は続けた

 

「あそこから先へ進もうとしても。」

「必ず同じ所で止まってしまうんです。」

 

「だから、その先で何が起きるのか。」

「私はまだ知りません。」

 

おっさんは静かにワインを見つめた

 

(・・・やっぱりか。先生が経験した未来は)

(全部、アリスが犠牲になる世界やったんやな。)

 

そこまで理解すると

 

おっさんは小さく笑う

 

「そうか。」

 

先生が顔を上げる

 

おっさんは肩を竦めた

 

「まぁ今回は、おっさんもおるし。」

「そこは何とかなるやろ。」

 

それだけ

 

根拠も説明もない

 

それでも先生の表情が

 

ぱぁっと明るくなった

 

「・・・!」

「はい!ありがとうございます!」

 

その笑顔を見て

 

おっさんは思わず吹き出す

 

「ははっ、聖良ちゃんは。」

「ほんま表情ころころ変わるなぁ。」

 

先生はきょとんとして

 

数秒後

 

「あっ・・・。」

 

意味を理解した瞬間

 

耳まで真っ赤になる

 

「そ、それは・・・。」

 

俯く

 

「恥ずかしいので。」

「あんまり見ないでください・・・。」

 

「いやぁ、見えるもんはしゃあないやろ。」

 

「もう・・・。」

 

先生は照れ隠しにグラスを持ち上げた

 

その時だった

 

ガタッ!

 

少し離れた席から

 

椅子が鳴る音

 

「むーーっ!」

 

「ユメ先輩!ダメです!」

 

「でもぉ!今のは反則だよぉ!」

 

「だからダメですって!」

 

ガタガタガタッ

 

何やら誰かが暴れようとして

別の誰かが必死に止めているような物音

周囲の客は不思議そうにそちらを見る

 

おっさんだけは深々とため息を吐いた

 

「はぁ・・・。」

 

先生が首を傾げる

 

「どうしました?」

 

おっさんは苦笑する

 

「いや、なんでもあらへんよ。」

 

(あいつら何しとんねん・・・。)

 

頭の中へ浮かぶ

 

さっき建物の影から覗いていた

 

ぴょこん、薄緑色のアホ毛

 

その隣に

 

ぴょこん、桃色のアホ毛

 

(・・・絶対あいつらやろ。)

(おっさん気付いとる言うのに。)

(まだ隠れられとる思っとるんやろか。)

 

思わず肩を落とす

 

先生は何の事か分からず

 

「?」

 

と首を傾げるだけだった

 

店内には、再び穏やかな空気が戻っていた

 

ロボットの給仕が静かにテーブルへやって来る

 

「食後ノデザートヲ御用意イタシマシタ。」

 

二人の前へ置かれたのは

 

薄く焼き上げられたタルト

 

その上には、アビドス産の果実を使ったコンポートと、小さなバニラアイス

 

さらに香り高いコーヒーが添えられる

 

「わぁ・・・。」

 

先生は思わず目を輝かせた

 

「最後まで綺麗ですね。」

 

「料理長の趣味らしいで。」

 

おっさんはフォークを手に取る

 

「最後まで見た目も楽しませたいんやと。」

 

「素敵ですね。」

 

先生も小さく頷き

 

ゆっくりとデザートを口へ運ぶ

 

「・・・美味しいです。」

 

「甘過ぎへんな。」

 

「はい。」

 

「果物の味がちゃんとします。」

 

二人は他愛もない感想を言い合いながら

 

ゆっくりとデザートを楽しんでいく

 

料理は終わった

 

ワインも空になった

 

食後のコーヒーを飲みながら

 

他愛もない話が続く

 

シャーレの日常

 

祈願屋の日常

 

最近増えた依頼

 

アビドスで新しく出来た店

 

話題はころころ変わり

 

気付けば一時間近くが過ぎていた

 

「・・・・・・。」

 

先生はカップを静かに置く

 

「楽しかったです。」

 

その一言は飾り気が無く

心から出た言葉だった

 

おっさんも自然と笑う

 

「それなら誘った甲斐あったわ。」

 

ちょうどその時、スタッフロボットが静かに近付いてくる

 

「本日ノ御食事ハ以上トナリマス。」

 

「御会計ハイカガナサイマスカ?」

 

先生はすぐにバッグへ手を伸ばした

 

「私が払います。」

 

財布を取り出そうとした、その瞬間

 

おっさんが先に立ち上がる

 

「いや、今回は、おっさんが誘ったんや。」

「会計は持つわ。」

 

先生が慌てて立ち上がる

 

「いえ、それは・・・!」

「私も払います!」

 

「ええから。」

 

おっさんは笑って首を振る

 

「こういうんは誘った側の役目や。」

 

「でも・・・。」

 

「ええからええから。」

 

「聖良ちゃんは先、外出といて。」

 

「すぐ行く。」

 

先生は納得出来ない様子でおっさんを見る

 

「でも、本当に・・・。」

「半分くらいは・・・。」

 

「却下。」

 

即答だった

 

「今日は譲らへん。」

 

「・・・・・・。」

 

先生は少しだけ唇を尖らせる

 

数秒

 

おっさんと見つめ合い

 

最後には観念したように苦笑した

 

「・・・分かりました。」

「今日は、ご馳走になります。」

 

「おう、次なんかあったら、その時は頼むわ。」

 

「はい。」

 

先生は小さく笑うと

 

スタッフへ軽く一礼し

 

先にレストランの外へ出て行った

 

自動扉が静かに閉まる

 

それを見送ったおっさんは

 

「さて。」

 

と小さく呟き

 

懐から財布を取り出した

 

その視線が

 

ほんの一瞬だけ

 

店の奥――

 

そこでは未だに

 

「離してぇぇ!」

 

「離しません!!ユメ先輩落ち着いてください!!」

 

二人が静かに格闘していた

 

おっさんは苦笑する

 

「ほんまに何しとんのやあいつら・・・」

 

財布を取り出し

 

「あと、あっちの二人分も。」

 

店員ロボットが一瞬だけ目を瞬かせる

 

『承知致シマシタ。』

『合計金額ヲ表示シマス。』

 

「はいよ。」

 

財布から現金を取り出し、会計を済ませる

 

『アリガトウゴザイマシタ。』

『マタノオ越シヲオ待チシテオリマス。』

 

おっさんは軽く手を振る

 

「ほな、また来さして貰うわ。」

 

そう言って静かに店を後にした

 

レストランを出るとアビドスの夜風は心地良かった

 

先生はレストランから出て来たおっさんの姿を見つけると、小さく頭を下げた

 

「今日は、本当にありがとうございました。」

「凄く良いお店でした。」

 

おっさんは肩を竦める

 

「おっさんもここ初めてやったけど喜んでもろたなら何よりや。」

 

先生は嬉しそうに微笑いた

 

「はい、とっても楽しかったです。」

 

その笑顔を見て、おっさんも自然と笑う

 

「ほな、駅まで送るわ。」

 

「ありがとうございます。」

 

二人はゆっくり歩き始めた

 

 

 

【アビドス都市部・表通り】

 

夜のアビドス

 

人通りは少ない

 

遠くでは列車の走る音だけが聞こえていた

 

しばらく他愛のない話をしていた二人だったが

 

やがて先生が静かに口を開く

 

「・・・これから忙しくなりますね。」

 

おっさんは前を向いたまま頷く

 

「あぁ。」

 

先生も夜空を見上げる

 

「エデン条約調印式。」

 

「古聖堂。」

 

「そして・・・。」

 

少しだけ表情を曇らせた

 

「アリウス。」

 

「爆破のあと、きっとアリウス生の皆も動きます。」

「ヴェアトリーチェも放っておくとは思えません。」

 

歩く速度は変わらない

 

おっさんも何も言わない

 

先生はその沈黙を気にする事なく続ける

 

「だから、私は。」

「アズサだけじゃなくて。」

 

「ミサキも。」

 

「ヒヨリも。」

 

「サオリも。」

 

「そして、アツコも。」

 

「全員を救いたい。」

 

少し息を吐く

 

「ヴェアトリーチェから、ちゃんと助け出したいんです。」

 

おっさんは何も答えない

 

先生も、それ以上何も求めなかった

 

夜風だけが二人の間を通り抜けていく

 

しばらく歩いたあとだった

 

「・・・ふふ。」

 

先生が小さく笑った

 

「ん?」

 

おっさんは怪訝そうに横を見る

 

「なんや、一人笑って。」

「ちょっと不気味やぞ。」

 

「失礼ですね!」

 

先生が少しだけ頬を膨らませる

 

「ちゃんと理由はあります。」

 

「ほう?」

 

先生は少しだけ悪戯っぽく笑った

 

「アンラさん、さっきから何も言ってくれませんよね?」

 

「あぁ、せやな。」

 

「だからです。」

 

おっさんは首を傾げた

 

先生は優しく微笑む

 

「アンラさん未来の事になると」

「絶対に余計な事は教えてくれません。」

 

「はいはい。それは前にも言うたな。」

 

「でも。」

 

先生は歩きながら続けた

 

「もし、私が今、誰も救えない道を歩いているなら。」

「アンラさんならきっと、何かしら軌道修正しようとします。」

 

おっさんは黙って聞いている

 

「でも、今日は私が話しても何も言わなかった。」

 

「という事は。」

 

先生は少し照れ臭そうに笑う

 

「多分私は今皆が救われる道をちゃんと歩けてるんですよね?」

 

その言葉に

 

おっさんは足を止めそうになった

 

「・・・・・・。」

 

数秒

 

本当に何も言えなかった

 

先生はその反応を見て

くすっと笑う

 

「当たり。」

 

「・・・・・・。」

 

おっさんは額へ手を当て、大きく息を吐いた

 

「おい・・・おっさんの反応見て。」

「判断しよったな・・・?」

 

先生は悪戯が成功した子供みたいな笑顔になる

 

「えへへ、しました。」

 

「いやぁ・・・。」

 

アンラは苦笑するしかない

 

「賢いんか、ずる賢いんか。」

「どっちなんやろな。」

 

「もちろん。」

 

先生は胸を張る

 

「先生ですから。」

 

「便利な肩書きやなぁ・・・。」

 

おっさんは頭を掻きながら笑う

 

「まぁええわ。」

「今回は一本取られた。」

 

先生は満足そうに笑う

その笑顔を見ながら

おっさんも自然と笑っていた

 

やがて

 

駅の灯りが二人の前に見えてくる

穏やかな夜は、まだ静かに続いていた

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

レストラン店内・窓際の席

 

おっさんと先生が店を出てから数分後

 

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

ようやく

 

ホシノがユメを押さえ込むことに成功した

 

「はぁ、はぁ・・・。」

「やっと落ち着きました?」

 

「・・・うん。」

「でも。」

 

ユメはふと

 

先生達の席を見る

 

「・・・あれ?」

 

誰も居ない

 

「・・・・・・。」

 

「ホシノちゃん。」

 

「はい?」

 

「アンラさん達・・・。」

「もう出ちゃった。」

 

「・・・・・・。」

 

ホシノも振り返る

 

「・・・え?」

 

二人で数秒固まる

 

「い、行かなきゃ!」

 

ユメが慌てて立ち上がる

 

ホシノも続いて会計へ駆け寄る

 

「すみません!」

 

「お会計を——」

 

店員ロボットが丁寧に頭を下げた

 

『オ客様ノオ会計ハ既ニ終了シテオリマス。』

 

「・・・え?」

 

「え?」

 

ユメとホシノの声が重なる

 

『先ホドオ帰リニナラレタオ客様ヨリ、オ支払イヲ承ッテオリマス。』

 

店員ロボットは

 

アンラと先生が座っていた席へ視線を向けた

 

『アチラノオ客様デゴザイマス。』

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

沈黙

 

ホシノがゆっくりユメを見る

 

ユメもゆっくりホシノを見る

 

二人の脳裏に

 

同じ結論が浮かんだ

 

((・・・バレてた。))

 

「ひぃぃぃぃん!!」

 

ユメがその場でホシノへ飛びつく

 

「ホシノちゃぁぁぁん!!」

「バレてたよぉぉ!!」

「明日怒られるぅぅぅ!!」

 

「だから。」

 

ホシノは深く深くため息を吐いた

 

「だからやめた方がいいって言ったじゃないですか・・・。」

 

「ひぃぃぃん・・・。」

 

レストランの一角で

ユメの情けない泣き声だけが、いつまでも響いていた

 

 

 

 

*1
秘匿されているが一応公的機関




とりあえず最初に書いておきます!
今回の先生は、電話の時以外、先生という仮面は被ってません!
なのでほぼ全編通して先生の素でお送りいたします!



またもやコース料理!
ちなみに今回は演出上割愛してますが、
コースには順番があり、
今回はフランス料理系だったので9品ですね。
アミューズ、オードブル、スープ、ポワソン、ソルペ、ヴィアンド、デセール、プティフール

ちなみにイタリアのコースの場合は、
アペリティーヴォ、アンティパスト、プリモピアット、セコンドピアット、コントルノ、
フォルマッジョ、ドルチェ、カフェの8品出てきます。

そしてその二種類のコースどちらでも、お酒が提供される場合は、
食前、食中、食後のざっくりこの三回、それぞれ口当たりなど、種類が違うお酒が提供されます。

ここまでがコース料理の豆知識です!


さて、作中に触れていきましょうか。

とりあえず最初に触れるとしたらこれですね。
ユメが抽選で当てたリゾートホテルの宿泊券。
夏のホテル・・・はて、何処かで聞いた組み合わせですね?
答えはエデン条約4章終わってからで!

それにしても、
今回もちょっと可哀想なセイア様。
ちなみにこの日、既にユメとアンラからの扱きと言う名の黄泉の門出の様な訓練は終わった後です
その上で、一日で一番怖い笑みを見ました。
あ、ちなみにミネ団長はセイアの部屋でまたお料理中です。

ちなみにアンラが着ていたこのタキシードは、
以前ゲーム開発部の子達と船にのった時に使ってたタキシードです。
ユメはアンラがタキシード着てる所初めて見たので、
というかユメ自身アンラは普段だるっとした普段着か、ローブ姿くらいしか見てないので、
新鮮な感じがしてガン見してました。

あ、ちなみに先生の着ていたドレスは、実家を出る時に持たされた一品です。
結構な価格の物なので、
今の貧乏性な先生にはレンタルは出来ても買うのは厳しいでしょうね・・・

レンタルで思い出しましたが、可哀想なホシノ。
ユメ先輩から急に電話かかって来てなんやろーって出たら、
強制招集させられた上に、急遽アビドス都市部で衣装レンタルで、ドレスをレンタルさせられる。
なんだろうね・・・微妙に体育会系の匂いがするよ・・・w

ちなみに店を出て別れる前に
ユメがせっかくだからって写真を撮ってました、
あの写真立てと同じ構図ですね。
表面上凄く嫌がってたけど、内心あのユメ先輩と新しい思い出を作れた事に大歓喜のホシノ。


さて、ここから先生のお話です。
先生、今回アンラから連絡があって、
アビドスで何か起こったのか!?って急に頭が回り始めた所で、爆弾をぶち込まれ、
思考回路がショートしました。可愛いですね。

その後、なんだかんだで、凄く楽しみにしながらディナーに向かいっていました。
ちなみにタブレットの住人にドレスの感想を先生が求めてたらクッソ苦笑いを浮かべて居ました。

そして、今回出てきましたね、先生の家のお話が、
後書きでがっつり情報公開したのであれですが、
作中だとアンラですら把握していない先生の血縁の家です。
ぶっちゃけて言うと先生の血筋はアンラ視点から見てもかなりアレな血なので、
苗字を名乗った瞬間多分ドンびきます。


さて・・・これで本当に長かった閑話も終わります。
ここから本来のお話、
エデン条約編の佳境の始まり始まり。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

楽しい銃社会の生き抜き方(作者:WEVE)(原作:ブルーアーカイブ)

ミレニアムサイエンススクールに所属するキヴォトス唯一の男子生徒『居待(イマチ) ウツキ』がなんやかんやありながら学園生活を満喫(?)する話▼今後必須以外タグ追加の可能性があるので苦手な方はブラウザバックを推奨してます▼大体許せるよって方は是非読んでいってください!


総合評価:466/評価:6.76/連載:45話/更新日時:2026年08月04日(火) 15:30 小説情報

(またしても)原作を知らないオリ主inキヴォトス(作者:朧月夜(二次)/漆間鰯太郎(一次))(原作:ブルーアーカイブ)

 雑にキヴォトスに放り込まれた何も知らない主人公。▼ 神様の手違いで事故死という雑な理由で転生――かと思いきや、そんな都合の良い異世界がたくさんある訳ねえでしょ(呆れ)という正論パンチで異世界転生は却下され、ただ次は死なないようにと人外めいた身体能力を貰い生き返らせてもらった。▼ ただ神様のサービスか「それじゃ能力持て余すしストレスやろね……なら一か所だけ暴…


総合評価:1764/評価:7.52/連載:26話/更新日時:2026年04月15日(水) 14:53 小説情報

自由自在に反転できる男(作者:鬼猫 優真)(原作:ブルーアーカイブ)

転生してから反転できる何でもありな男がキヴォトスで生きる話▼尚、元の世界でもチートだった模様


総合評価:363/評価:5.36/連載:24話/更新日時:2026年07月27日(月) 12:00 小説情報

銃弾が飛び交う学園都市?!んでもって銃の耐性なし?!・・・やってやろうじゃねえかこの野郎!!(作者:オーバジン)(原作:ブルーアーカイブ)

突如としてキヴォトスに来てしまった何も知らない無知無知な男子高校生!ブルーアーカイブをやったことない?!噓だろ!マジかよ!▼何とかお情け程度であった特殊能力を活かして生き残れ!銃弾一発が致命傷だゾ!▼そんな男子高校生が歩むキヴォトスでの笑いあり、涙あり、曇らせあり、恋愛あり、シリアスありの、青春物語です。良ければどうぞ見ていってください。


総合評価:1454/評価:6.53/連載:84話/更新日時:2026年08月04日(火) 13:34 小説情報

Blue Legend〜一般男子の物語〜(作者:宗也)(原作:ブルーアーカイブ)

簡単なあらすじ▼これは何故か中途半端な特典を持ってブルーアーカイブの世界であるキヴォトスに来てしまった一般男子の青春の物語である。▼なお、一部生徒は結託して一般男子を囲い込もうとしている模様。▼詳細なあらすじ▼目が覚めると何故かブルーアーカイブの世界にやって来ていた一般男子高校生。特典みたいな物はあるが、何故か中途半端。しかも原作の9ヶ月前の世界だった。▼原…


総合評価:1201/評価:6.38/連載:71話/更新日時:2026年08月05日(水) 00:37 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>