おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
今回は視点がポンポン移動するよ。
ばにたすばにたす
本日4話連続更新!3話目
【トリニティ総合学園・古聖堂跡上空】
雨が降っていた
先ほどまで古聖堂を包んでいた爆炎は、既に大部分が消えている
けれど
瓦礫と化した建物からは、未だに黒い煙が細く立ち上っていた
その遥か上空
地上から、およそ二百メートル
そこに
一人の男が立っていた
足場などない
何もない虚空
ただ、そこに立っている
黒い司祭服
首から十字架のロザリオをかけている
その姿だけを見れば、まるでこの惨劇を見届けに来た異端の司祭だった
グレゴリー
その姿を借りたおっさんは、眼下を静かに見下ろしていた
「・・・・・・。」
遠く
救急車が古聖堂跡から離れていく
その姿が見えなくなるまで、おっさんは視線を動かさなかった
やがて
懐から携帯端末を取り出す
着信
表示されている名前は――陸八魔アル
「・・・はいよ。」
通話を取る
『・・・もしもし。』
いつものアルの声
だが
明らかに様子がおかしかった
「おう。」
『・・・先生の依頼の件。』
「うん。」
『・・・ごめんなさい。』
「・・・・・・。」
『私達・・・守れなかった。』
声が震えている
アルは続けた
『先生が救急車に乗った後、私達は先生に攻撃していた奴らに総攻撃をかけたわ。』
『でも・・・途中で、あいつら・・・。』
一度、言葉が詰まる。
『幽霊みたいな奴を大量に囮にして、戦線を離脱した。』
『追い切れなかった。』
『・・・逃がした。』
「・・・そうか。」
『だから・・・。』
「おぅ。」
『依頼は、ここで中止するわ。』
アルの声に
僅かな震えが混じる
けれど、その奥には明確なものがあった
怒り
「・・・アルちゃん。」
『何?』
「先生は。」
『・・・・・・。』
「生きて、古聖堂から出られたんやな?」
『・・・ええ。』
「ほんなら。」
おっさんは小さく笑った。
「依頼は達成しとる。」
『・・・でも。』
「先生を守り切れへんかった。」
『・・・そうよ。』
「せやけど、生きて外へ出した。」
「先生の護衛、それが今回の依頼やろ?」
『・・・・・・。』
「先生が無事やなかった事については、残念や。」
「せやけど、生きとる。」
「なら、そこまで気負わんでええ。」
『・・・アンラさん。』
「依頼料は後で送っとく。」
『え?』
「それとな。」
「今着けとる腕章。」
『・・・これ?』
「そのまま着けて活動してええで。」
『・・・・・・。』
「アビドス治安維持第二部隊やろ?」
「好きに名乗ったらええ。」
『・・・ふふ。』
僅かに
アルの声が戻った
けれど
「・・・ただ。」
『え?』
「一個だけ聞きたい。」
『何?』
おっさんの声が少しだけ低くなる
「現場で。」
「何か、おかしいと思った事はなかったか?」
『・・・・・・。』
アルは少し黙った
そして
『・・・あったわ。』
「聞かせてもろてもええか?。」
『先生を逃がす時。』
『私達、全員で先生の前に立ったの。』
『壁になるように。』
「うん。」
『その時だった。』
『古聖堂の天井が、突然崩れた。』
『・・・でも。』
アルの声が僅かに強張る
『あまりにもタイミングが良すぎたのよ。』
「・・・・・・。」
『私達が一瞬だけ散った、その瞬間に。』
『そして、落ちてきた瓦礫を避けた直後。』
『帽子をかぶった奴が撃った。』
「・・・・・・。」
『あの銃弾。』
『・・・おかしかった。』
「どないに?」
『瓦礫がまるで・・・銃弾を避けてるみたいだった。』
『本当に、ありえない軌道だった。』
『私達の間に出来たほんの僅かな隙間を、弾丸が通り抜けて・・・。』
『先生に当たった。』
「・・・・・・。」
『偶然にしては・・・出来すぎてる。』
「・・・さよか。」
おっさんは目を閉じた
「ありがとうな、アルちゃん。」
『・・・え?』
「もうええ。」
『アンラさん?』
「先生を頼む。」
『・・・分かった。』
通話が切れる
「・・・・・・。」
静寂
雨だけが空から落ちてくる
おっさんは携帯をしまう
そして
もう一度
眼下の古聖堂跡を見下ろした
「・・・・・・やっぱりか。」
小さく呟く
「またや。」
かつて
柴関、あの場所で
おっさんは一度、爆破を回避した
確かに自分は爆発を避けた
爆発そのものを防いだ
それなのに
まるで
最初から
そこが爆発する事が決まっていたかのように
別の経路から
別の要因が
次々と積み重なり
結果だけが変わらなかった
「・・・・・・。」
おっさんは目を細める
知っている
この現象を
昔、自分の妻が世界に殺された時にも見た
結果が先にあり
そして
そこへ向かうように過程の方が捻じ曲げられる
「修正力・・・。」
おっさんはそう呼んでいた
未来が一つに固定される
そして世界そのものが
その未来へ辿り着くために
都合よく過程を組み替えていく
爆発を防げば
別の原因が生まれ爆破される
誰かを助ければ
別の要因でその人物が犠牲になる
銃弾を防げば
瓦礫が落ちる
瓦礫を避ければ
そこに生まれた僅かな隙間を
弾丸が通る
「・・・・・・。」
それは偶然ではない
世界がそうなるように組み直されている
「厄介やなぁ・・・。」
おっさんは呟く
これから逃れる方法は
多くない
未来を固定した存在
その存在以上の力で未来そのものを捻じ曲げる
あるいは
その存在を消し、固定化そのものを解除する
それ以外
「・・・ほんまに。」
「嫌なもんばっかり思い出させよる。」
そして
今回、神秘の使い方を叩き込んだ、アルを送り込んだ
ただの便利屋68ではない
色付きの閃光を放つまでに至ったアル
ムツキ
カヨコ
ハルカ
全員が現場にいた
それでも先生は撃たれた
その過程には明らかに不自然な事が
一つ
二つ
三つ
「・・・・・・・・・。」
おっさんの表情から
笑みが消える
ならば、推測は一つ
「どっかの未来に固定されとる。」
そして
先生が過去の周回で失敗した事
その記憶を部分的におっさんは知っている
このまま進めば
何が起きるのかも
「アリスが・・・死ぬ。」
その瞬間
空気が変わった
「・・・・・・。」
アンラの周囲
雨粒が
一瞬だけ
空中で止まった
「・・・・・・アリスに。」
低い声
「・・・手ぇ出すんか。」
左手が、右の腰に刺さっている刀に触れる
「あいつを何回も殺したもんが、」
「今度は娘にまで・・・」
瞳の奥
暗い何かが静かに燃え始める
「・・・・・・。」
そして
アンラは
地上へ視線を落とした
「・・・ええ度胸しとるやんけキヴォトス。」
――――――――――――――――――――――
【トリニティの自治区・外郭地区】
夜
雨が降り始めていた
そのトリニティの自治区の外れ
そこに一人の少女が立っていた
アズサ
その前に
ヒフミがいる
「アズサちゃん・・・。」
ヒフミの声は震えていた
「今までどこに・・・。」
「学園は、今・・・大騒ぎで・・・。」
アズサは静かに答えた
「・・・うん。」
「知ってる。」
「・・・・・・。」
その声に
ヒフミは違和感を覚えた
「・・・アズサちゃん?」
アズサは
少しだけ視線を落とした
「・・・これを。」
「誰かが止めなくちゃいけない。」
「それは・・・どういう・・・。」
ヒフミが一歩
近づく
「どうして、そんな顔で・・・。」
「アズサちゃん・・・。」
もう一歩
その瞬間
「来ないで!!!」
「――っ。」
ヒフミの足が止まった
アズサは
そんなヒフミを見つめる
「・・・・・・。」
そして
「・・・ありがとう、ヒフミ。」
「でも、ここまでだ。」
「ここから先には来ちゃいけない。」
「ここから先は私の居場所。」
「ヒフミみたいな善良な人は。」
「これ以上、来ちゃいけないんだ。」
ヒフミが困惑する
「アズサちゃん・・・?」
「あの・・・何の、何のお話ですか・・・?」
「私じゃ、何がダメなんですか・・・?」
アズサは
少しだけ目を細める
「・・・平凡で優しいヒフミには。」
「似合わない話だよ。」
「・・・・・・。」
それでも
ヒフミは一歩踏み出した
「アズサちゃん、私は・・・!」
「人殺し。」
「・・・・・・。」
その二文字が
雨音の中に落ちた
ヒフミの足が
再び止まる
「・・・人殺しになった私は。」
「もう、友達ではいられないだろう?」
「ア、アズサちゃん・・・?」
ヒフミの声が
泣きそうに震える
「だって・・・。」
「だってアズサちゃんは、そんな・・・。」
「私のせいだ。」
アズサは淡々と言った
「私のせいで皆が傷ついた。」
「先生が、撃たれた。」
「正義実現委員会。」
「ティーパーティー。」
「シスターフッド。」
「それにゲヘナの人たちも。」
「学園がここまで破壊されたのも・・・。」
「全部、私のせいだ。」
「ヒフミ、それにハナコとコハル。」
「このままじゃ皆まで危険になる。」
「そ、それは・・・!」
ヒフミが首を横に振る。
「アズサちゃんのせいではありません!」
「だ、大丈夫です、せ、先生は・・・。」
「先生もきっと・・・すぐ目が覚めるはず、ですし・・・。」
「ですから・・・!」
縋るような声
けれど
アズサは
静かに答えた
「ヒフミ。」
「・・・・・・。」
「そんなハッピーエンドは、この世界には無いんだ。」
「・・・・・・。」
ヒフミが黙り、
アズサはそのまま続ける
「今から私は。」
「サオリのヘイローを。」
「【壊し】に行く。」
「――っ!」
ヒフミが息を呑む
「ま、待ってください!」
「方法・・・方法なら、きっと・・・!」
その言葉を遮るように
アズサはガスマスクを取り出し
そして顔へ装着する
「私はこれから。」
「人を殺す。」
「・・・・・・。」
「それが当たり前の場所で。」
「それが当たり前だと教わって。」
「それが当たり前みたいに動けるように。」
「訓練された存在。」
「それが本当の私。」
ヒフミの瞳から
涙が零れる
「こんな私が、ヒフミと同じ世界になんて。」
「いられない。」
「アズサ・・・ちゃん・・・?」
ヒフミはそれ以上何も出来なかった
止めたい、けれど・・・
止める力がない
その事実だけが胸を締め付ける
アズサは、そんなヒフミを見た
そしてゆっくり
ガスマスクを外す
「・・・ヒフミ。」
「私を友達だと思ってくれてありがとう。」
「アズサちゃんって呼んでくれてありがとう。」
「可愛いぬいぐるみをくれて、ありがとう。」
「海に連れて行ってくれて。」
「楽しい思い出をくれて。」
「ありがとう。」
「可愛いものが。綺麗なものが。」
「知らないものがあるって。」
「教えてくれてありがとう。」
「補習授業部での毎日。」
「あんなに素敵な日々を過ごして。」
「沢山の事が学べて、よかった。」
そして
ほんの少しだけ
笑った
今まで見せたことのないような
とても
とても優しい笑顔だった
「学ぶことは。」
「本当に楽しい事だった。」
「これまでの時間は死んでも忘れない。」
「少しでも補習授業部の生徒でいられて。」
「良かった・・・。」
アズサは
一歩
後ろへ下がる
そして
「ありがとう。ヒフミ。」
「さよなら。」
ガスマスクを着ける
背を向け歩き出す
闇の中へ
「アズサ、ちゃん・・・。」
ヒフミの声が
震える
「ダメです・・・。」
「待って・・・。」
「待ってください・・・。」
「きっと他に方法が・・・。」
「せ、先生が・・・。」
「みんなが・・・。」
「だって・・・だって、まだ・・・。」
涙が
頬を伝う
「次は補習授業部の皆で一緒に海に行こうって。」
「約束したじゃないですか・・・。」
「まだ一緒にペロロ様のアニメだって。」
「見れてないじゃないですか・・・。」
「い、行かないでください・・・。」
「アズサちゃん・・・。」
「ダメです・・・行かないで・・・。」
「待ってください・・・アズサちゃん・・・・・・。」
そして
「アズサちゃんっ!!!」
闇へ消えていく背中に
最後の声を投げかける
返事はない
ヒフミはその場に崩れ落ちた
「・・・・・・うっ。」
「うぅ・・・。」
雨の中
一人
泣き続けた
【アリウススクワッド・臨時拠点】
廃ビル
アル達便利屋からの猛攻から撤退したサオリ達は
次の進撃に向けて
作戦指揮を取ろうと拠点まで戻ってきていた
「次は――」
その言葉を発した瞬間、足を止める
「・・・・・・。」
サオリが
ふと
顔を上げる
「・・・あいつがいる。」
「・・・あいつ?」
ミサキが聞き返す
アツコが手話で指を動かした
アズサ
その名を伝える
「・・・・・・。」
サオリの目が細くなる
その直後
――ドォンッ!!!
「きゃあああああっ!?」
ヒヨリが
建物の外へ吹き飛ばされた
「ヒヨリ!」
「動くな!」
サオリの怒声が響く
「ブービートラップだ。」
「どこに仕掛けられているか分からない。」
「下手に動けば、連鎖する。」
サオリは周囲を見る
「・・・・・・。」
「明らかにスナイパーを先に狙った攻撃。」
「接近戦に持ち込む気か?」
銃を構える
その瞬間
「上!」
ミサキが叫んだ
「手榴弾!!」
「――っ!」
全員が飛び退く
手榴弾が床へ転がる
ドォンッ!!
爆炎
煙
その向こうから
アズサは一瞬だけ姿を見せ
「白洲アズサ!!」
その姿はすぐに消える
「追うぞ!」
サオリが走り出した
「待って、リーダー!」
ミサキが声をかける
「罠かもしれない!」
「分かっている!」
それでも止まらない
「だが、ここで逃がせば次にどこを狙うか分からん!」
「私はアズサを追う!ミサキと姫は先回りしろ!」
そう言うとサオリは瓦礫を飛び越え、アズサの後を追う
銃撃
爆発
罠
廃ビルの中が一瞬で戦場へ変わる
「判断は悪くないな、アズサ!!」
サオリが追う
「お前では正面から私に勝てない!!!」
「そうやって逃げて――」
ドォンッ!!
すぐ横で爆発
「――私の隙を狙うしかないだろうっ!!」
アズサは答えない
走る
その先
「・・・・・・。」
アツコが先回りしていた
「――っ!」
瞬間、発砲
アズサは反射的に身を伏せ、
それと同時に手榴弾を投げる
そして物陰へ
ドォンッ!!
爆発
その隙にアズサは別方向へ走った
「アツコ・・・!」
サオリがアツコに駆け寄り
アツコが手話で『大丈夫』と伝える
それと同時に、ミサキも合流する
「私はこのままアズサを追い詰める。」
「ミサキは、反対側から回れ。」
ミサキが頷き
「アツコは別通路。」
アツコも頷く
三人が走り出した
その瞬間
――カチッ
「・・・?」
ドォォォォン!!!
柱が吹き飛ぶ
「――っ!」
上階が
崩れ落ちる
「走れ!」
ミサキが叫ぶ
三人は上の階へと走り出す
しかし
一歩
遅かった
轟音
瓦礫
「――ぐっ!」
ミサキの身体が瓦礫に挟まれる
「ミサキ!」
「・・・大丈夫。先に行って。」
サオリは頷き、アズサを追いかけていく
「アズサァァァァァァァァァァァ!!!!」
咆哮
廃ビル全体を震わせながら、
銃声と爆音が鳴り響く
そしてサオリは
ついにアズサへ追いついた
「――っ!」
追いつかれたアズサが反射的に引き金を引いた
銃声
だが
サオリは撃たれた瞬間、身体を横へ滑らせるようにステップした
弾丸が、そのすぐ横を抜けていく
一発、二発、三発
アズサが追うように銃口を動かす
しかし、サオリは止まらない
右へ
左へ
そして再び右へ
不規則なステップを刻みながら、アズサの射線を次々と外していく
「――っ!」
アズサが銃口を修正する
その瞬間
サオリの姿が、一気に近づいた
「な――」
懐へ入る
同時にサオリの腕が振り抜かれた
ガンッ!!
アズサのライフルを横から殴りつける
銃口が大きく逸れた
その僅かな隙間
サオリは迷わず踏み込む
アズサの懐へ
「――!」
アズサは即座に反応した
完全に入り込まれる寸前
斜めへ一歩、身体を逃がす
サオリの正面から外れながら、同時にライフルを向け直した
「――っ!」
引き金へ指をかける
だがその瞬間にはサオリは既に振り返っていた
「――遅い。」
サオリの手がアズサの銃身へ伸びる
そのまま外側へ弾き飛ばす
ダァンッ!!
アズサの銃弾が、サオリとは全く違う方向へ飛んでいく
「――!」
アズサは即座に後退
距離を取りながら、再び銃口をサオリへ向ける
だが、サオリの方が速かった
下から振り上げるような一撃
ガンッ!!
ライフルを握ったアズサの腕が、まとめて上へ跳ね上がる
両腕が大きく開く
その瞬間サオリはハンドガンを抜いた
「――終わりだ。」
銃口が向く
アズサは即座に膝を抜き腰を落とした
上体を前へ倒す
ダァンッ!!
弾丸が頭上を抜ける
アズサはそのままの勢いで横へ飛んだ
「――っ!」
サオリも追う
銃口がアズサを追いかける
ダァンッ!
ダァンッ!
ダァンッ!
だが、全て外れる
弾丸が床へ突き刺さり、破片を跳ね上げる
アズサは横っ飛びの勢いをそのまま利用して距離を取る
着地し転がる
そして、すぐに立ち上がり
ライフルを構え直した
「――!」
発砲
サオリは、その動きを見た
アズサと同じように
膝から力を抜く
腰を落とす
身体を低くする
そして
弾丸が頭上を通り過ぎるよりも早く
その低い姿勢のまま
一気に踏み込んだ
「――っ!」
速い
アズサが銃口を向ける
だが
サオリは止まらない
銃口の真正面
その瞬間
サオリは片手を地面へ叩きつけた
身体がさらに低く沈む
「――!」
銃弾が、その頭上を通り過ぎる
そして地面についた腕を軸に
サオリの身体が回転した
その勢いを乗せた脚が――
「――ッ!!」
ガッ!!
アズサのライフルを蹴り飛ばす
「――!」
ライフルが宙を舞う
アズサの手から完全に離れる
そのまま落下したライフルを
サオリは一歩踏み出し
グッ
足で踏みつけた
「・・・・・・。」
アズサが息を呑む
目の前
サオリがハンドガンを構えている
逃げ場はない
「チェックメイトだ、アズサ。」
「・・・・・・。」
「お前にしてはよくやった。」
「それでも無駄だ。」
「お前の考え方、思考、その全て。」
「最初からお見通しだ。」
銃口が近づく
「最初から無駄な抵抗だったんだよ。」
「・・・・・・。」
アズサはサオリの顔を見る
そして違和感を覚えた
「・・・いつから・・・?」
「何?」
「サオリは。」
「いつから、そんな顔をするようになったの・・・?」
「・・・・・・・・・。」
サオリが黙る
アズサが続けてサオリに問いかける
「そんな恨み。いつからだ?」
「その恨みは・・・一体、何処から来たものなの?」
サオリは、そのアズサの問を無視し
「これがそうか?」
アズサの胸元から
ペロロのぬいぐるみを奪う
「初めて、お友達がくれたプレゼント。」
「・・・・・・。」
サオリはそれを見つめる
「虚しいな。」
引き金が引かれる
「・・・・・・。」
ダァンッ!!
「虚しい。」
ダァンッ!!
「虚しい。」
ダァンッ!!
「虚しい。」
ダァンッ!!
「虚しい。」
ダァンッ!!
「虚しい。」
「虚しい。」
「虚しい。」
「虚しい。」
「虚しい。」
何度も
何度も
何度も
銃声が響く
弾が尽きる
それでも
マガジンを交換する
「虚しい。」
「虚しい。」
「虚しい。」
「虚しい。」
「虚しい。」
撃つ
撃つ
撃つ
「サオリ。」
アツコが
横からその腕を掴んだ
「・・・・・・。」
首を横に振る
サオリの動きが止まった
その僅かな隙
ボロボロのアズサは窓へ走った
そのまま外へ飛び降りる
【アリウススクワッド臨時拠点・上空】
雨
雨
雨
その中、おっさんは
一人
空に立っていた
探知魔術により、周囲一帯へ広がる魔力
これにより建物の構造、生徒達の位置
銃声、そして、
その全てを把握していた
「・・・。」
おっさんの目が細くなる
サオリ
ミサキ
ヒヨリ
アツコ
全員の様子
そして
首元
「・・・なんやあのキショいチョーカー」
見覚えがない
そんなもの
以前は付けていなかった
「・・・。」
一人だけ
アツコにはそのチョーカーが付いていなかった
「・・・・・・なるほどな。」
おっさんの表情から温度が消える
サオリ達はこんな顔をする子達ではない
こんな憎悪を抱えた子達でもない
確かにアリウスには積み重なった妄執ともいえる怨念がある
おっさんが知っている原作でもそれが精神を蝕む事もあった
だが、
「これは・・・。」
おっさんはサオリを見る
「
そしてサオリの手にある
ペロロのぬいぐるみ
「・・・・・・。」
記憶が繋がる
ヘイロー破壊爆弾
原作でアズサがサオリ達を殺すために使った
あれがあのぬいぐるみの中に
「・・・させるか。」
次の瞬間
おっさんの身体が
落ちた
急転直下
二百メートル
虚空を蹴り加速、さらに加速
そして
――ズガァァァァァン!!!
ビルの天井もフロアもまとめてぶち抜いた
瓦礫が舞う
煙が上がる
サオリとアツコが
同時に銃を構える
サオリがおっさんに向けて問いかける
「何者だ!」
しかし
おっさんは止まらない
一歩
消える
次の瞬間
サオリの懐に現れる
「――なっ!?」
サオリが持っている
ペロロのぬいぐるみを奪い
そのまま虚空へ消す
「・・・・・・!?」
そして
もう一歩
次は
アツコの目の前
小さな声で
「・・・すまんな、アツコ。」
「ちょっとばっかし痛いけど、あと少しの我慢や。」
――ドンッ!!
本気に近い当て身を打ち込む
アツコの身体が木の葉のように吹き飛び
壁へ
ガアァンッ!!!
「―――ッ!」
アツコが付けているガスマスクが砕け
アツコの身体が床へ落ちた
「アツコ!!」
サオリが叫び、おっさんに銃を向ける
しかし
おっさんは既にそこにはいない
「――どこだァァァァァッ!!!」
サオリの咆哮だけが響く
そして
サオリは
アツコへ駆け寄る
「アツコ!」
「・・・・・・。」
返事はない
意識を失っている
そして
その瞬間
周囲にいた白い影が
一斉に揺らいだ
ミメシス
ユスティナ聖徒会
「・・・?」
一体
また一体
白い身体が
霧のように消えていく
「・・・何?」
サオリは
その光景を見る
やがて
最後の一体が
消えた
「・・・。」
サオリは
アツコを見る
そして
判断し、無線を繋いだ
「アツコが負傷し、意識を失った。今はアツコの治療を優先する。」
「カタコンベへ一時撤退する。」
サオリは、そのままアツコを連れて、
ミサキの救助に向かい
その場を離れた
【トリニティ自治区・路地裏】
雨が降っていた
冷たい、激しい雨
そんな中一人の少女が膝を抱えていた
「ごめん・・・ヒフミ・・・。」
「ごめん・・・うっ・・・。」
アズサの身体は震えていた
「私は・・・もう・・・。」
「これで、二度と・・・。」
「うっ・・・ううっ・・・。」
「ごめん・・・ごめん、みんな・・・。」
「うっ・・・。」
「うぅぅぅっ・・・!!」
「・・・ああぁぁっ・・・!!」
泣き声
それは
友達から貰った大切なペロロのぬいぐるみ
それをサオリを殺すための爆弾として
自分の手で使ってしまった
その事への涙だった
「・・・・・・。」
そして
その姿を
上空から
おっさんは見ていた
「・・・・・・。」
本来
ここまで
干渉するつもりはなかった
未来を不用意に変えるつもりもなかった
それでも
一つだけ
約束していた
正常だった頃のサオリから
【アズサを頼む。】
そう言われた
だから
「・・・しゃあないな。」
おっさんは地上へ降りる
――ドンッ
アズサの前へグレゴリーの姿で
「――っ!」
アズサが銃を構える
目は赤く腫れていた
そしてサオリを殺したと思っている
その瞳は深く黒く濁っていた
おっさんは司祭として
口を開く
「・・・迷える仔羊よ――」
「・・・・・・。」
一瞬、止まる
「・・・あぁ、辛気臭い。」
「・・・・・・え?」
アズサが目を見開く
おっさんはもう司祭口調ではなかった
いつもの口調で話していた
「アズサ。お前忘れもんや。」
そう言ってぬいぐるみを投げる
「――っ!」
アズサが反射的に受け取る
「・・・ペロロ・・・?」
「爆弾は抜いといた。」
「・・・・・・。」
アズサは目を見開く
そして理解する
これがここにある
ということは
「・・・サオリを。」
「せや、殺せてへん。」
その言葉を聞いたアズサはおっさんを睨みつける
アズサから睨まれたおっさんは肩を竦める
「おー、こわ。」
「・・・・・・。」
「まぁ。殺してでも止めようっちゅう、お前の気持ちも分かるけどな。」
「・・・。」
「お前も感じたやろ。」
「あのサオリに対する違和感。」
「・・・。」
「その違和感、正しいぞ。」
アズサの瞳が揺れる
「サオリ達は恐らく。」
「あの首のチョーカーに思考を汚染されとる。」
「・・・。」
「あんなもん。」
「おっさんが会ってた時には付けとらんかったからな。」
アズサが不思議そうに見る
「・・・。」
おっさんはその顔を見て
少し考える
「・・・あー。まぁええか。」
「アズサにならこう言えば分かるか?」
そして
「あのタンポポ、今も咲いとるか?」
「っ!!。」
アズサの瞳が大きく開いた
その
「え・・・。」
何年も物資を届けてくれていた
アリウスの足長おじさん
「・・・あなたは・・・。」
おっさんはそれ以上隠さなかった
「アズサ、サオリから。」
「お前の事、頼まれとってな。」
「アリウスがきな臭いから。」
「トリニティに逃がした。」
「でも、人質を取られて。」
「暗殺計画に使われて。」
「お前まで巻き込んでしもた。」
「・・・ってな。」
アズサの手がぬいぐるみを強く握る
「そないな事言うとった奴が。」
「あんな顔してお前に銃乱射すると思うか?」
「・・・・・・。」
アズサの中で何かが崩れた
サオリは自分を暗殺計画のために送り込んだのではなかった
逃がしていた
守ろうとしていた
「・・・。」
それなら
あの憎悪は
あの表情は
やっぱりおかしい
「・・・。」
おっさんが続ける
「とりあえず。ETOの要であるアツコに。」
「かなり強めに当て身いれておいた。」
「暫くは眠ったままや。」
「せやから猶予がある。」
アズサが顔を上げる
「その間に先生が気合で目ぇ覚まして。」
「再攻撃のタイミングが来るはずや。」
「アズサ、お前は。」
「そのタイミングでもう一度。」
「サオリに強襲をかけろ。」
「・・・。」
アズサは
何も言えなかった
ただ
手の中のペロロのぬいぐるみを見る
「・・・・・・。」
そして
おっさんは伝える事だけ伝え地面を蹴った
――ドンッ!!
一瞬で
空へ
雨雲の向こうへ
飛び上がっていく
「・・・・・・。」
アズサは
ただその光景を見送っていた
「・・・。」
手の中には
大切なぬいぐるみ
そして
胸の中にはほんの僅かに
消えかけていたものが
戻っていた
――希望
雨は
まだ
降り続いていた
うおーーー!!
とりあえず連続で書き続ける!!
第三章終わるまで止まらねーぞ!!
アズサVSサオリの戦闘シーンの描写は例の戦闘アニメーションのPVから拝借しました!
ということで!
とうとうあのチョーカーについて、触れられました!
あのチョーカーに内臓されている効果は、
その1、ヘイロー破壊爆弾と同じ効果の爆弾。
その2、蓄積型の思考汚染の洗脳刻印魔術。
その3、汚染の伝播。
その三つが内臓されています。
ちなみにこのヘイロー破壊爆弾の起爆条件ですが、無理に外そうとする場合と、
裏切りが確認できた場合、そしてアツコが言う事を聞かなかった場合で、
ヴェアトリーチェの任意で起爆出来る仕組みになっています。
そして、このチョーカーの汚染伝播の効果により、そこまで強くない一般アリウス生達は、
より速い段階で、汚染が進み、あの補習授業部の合宿場襲撃の際に先生の記憶よりも覚悟が決まっていた理由がこれになります。
ちなみにもっとも近いアツコですが、この汚染の被害にはあっていません。
その理由ですが、今回アンラがアツコを殺す気で打ち抜いた時に壊れたあのガスマスクにより保護されていた為です。
壊れて即座に汚染されるという事はありませんが、
出来る限り早急に対処しなければ、アツコもサオリ達と同じような目になることでしょう。
このチョーカーを装着させたのはもちろんあの紅ショウガですが、
あの紅ショウガも確かに魔術、魔法と言えるものをたしなんでいます。
が、このレベルの物は使えません。
ですが、今回に限り使えた・・・
それが、このシリーズの根っこの部分である、
未来を固定化した奴が居ると言う所に繋がります。
あ、ちなみに修正力の説明は・・・
本文で大体されていますが、一応しておきます。
アンラクラスの力を持つ存在が、
ある未来を求め、その結果に収束する様に力を使う。
そうした際に世界がその結果に向かって改変されていく様。
これが修正力です。
そして、過去アンラはこの修正力を前にし、嫁さんを数えきれないほど殺されてきました。
それが今回、アンラ自身が修正力を確認し、キレた理由になります。
ちなみにある未来に向かって収束していくだけであり、
その過程である現在はセイアの様な予知能力者であれば、その者が定めた未来が変わらない範囲であれば、今回のエデン条約のように近未来を弄って変える事は可能です。
逆に、その人物が求めた未来そのものを変えようと能力を使用した場合は、
世界その物が牙を剥くので身の安全は保障できませんが。
ちなみに、このお話で、アンラがかなり本気でぶん殴った事でアツコが負傷した為、*1
原作と同じく、ETOが不安定な状態になりました。
カタコンベに行き、アツコの治療が終わり次第、再度カタコンベから古聖堂に向かい、
ETOの更新を行おうとするという原作と同じ流れになっています。
さて、
次辺りに先生も起きる事でしょう。
そして、エデン条約3章もこれで佳境に突入し、
おっさんも本格的にトリニティで動けるようになります。