おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
ばににににい!!!
本日2話同時更新!2/2!
【古聖堂跡】
サオリは、倒れ伏したアンブロジウスを見つめていた
「・・・・・・。」
拳を握る
爪が掌へ食い込む
それでも
痛みなど、今のサオリにはどうでもよかったのだろう
胸の奥から湧き上がってくる、黒い感情の方が遥かに強い
怒り
憎しみ
焦燥
そして
自分だけが取り残されるような恐怖
「・・・まだだ。」
誰に言うでもなく、サオリが呟く
「まだ、終わってはいない。」
私は、その姿を見つめていた
視線の先には、青空
雨上がりの光
その中で
ヒフミたちは、互いを支え合っている
笑っている
アズサも
先ほどまでとは違う顔をしていた
「・・・・・・。」
その光景を見つめるサオリの表情が、僅かに歪む
胸の奥が
焼けるように痛んでいるのが、見ているだけでも分かった
(どうして。)
(どうして、お前だけが――。)
「・・・アズサ。」
サオリの口から、名前が漏れる
アズサが振り返った
「サオリ。」
「・・・。」
その声を聞いた瞬間
サオリの頭の奥で
何かが囁いた
――虚しい
――全部、偽物だ
――そんなものは長く続かない
――また奪われる
――また失う
――だから
――壊せ
「・・・・・・。」
サオリは頭を振る
「違う。」
それでも
その声は消えない
「違う・・・。」
ミサキがサオリを見る
「リーダー。」
「・・・。」
「どうする?」
サオリは答えなかった
ただ、アズサを見ていた
ヒフミを
ホシノを
アルを
そして
私を
「・・・あいつらは。」
サオリの声が震える
「まだ、諦めていない。」
ヒヨリが小さく息を呑んだ
「リーダー・・・。」
「なら。」
サオリが銃を握り直す
「私達も、まだ終われない。」
ミサキが頷く
「・・・そう。」
その目にも
未だ憎悪が残っている
「なら、行こう。」
ヒヨリは一瞬だけ躊躇った
けれど
「・・・はい。」
三人が身構える
サオリが叫ぶ
「ミサキ!」
「うん。」
「ヒヨリ!」
「はい!」
「――行くぞ!!」
三人が一斉に駆け出した
その声と同時だった
古聖堂の地下
崩れた床の向こうから
「「「うおおおおおおおおおっ!!!」」」
怒号が響いた
「――っ!?」
私は反射的に振り返る
瓦礫の隙間から
次々と
白い制服姿の生徒達が飛び出してくる
一人
二人
十人
それどころではない
まるで地下にいた兵士を、一斉に吐き出しているかのように
次々と
次々と
アリウスの生徒達が古聖堂へ雪崩れ込んでくる
「まだいたの!?」
セリカが叫ぶ
「ちょ、ちょっと待ってください~!?」
ノノミも目を丸くする
そして
先頭のアリウス生徒が盾を構えた
「押し込め!!」
「前へ出ろ!!」
「敵を分断しろ!!」
「――っ!」
ドンッ!!
アリウス生達の盾がホシノの盾へぶつかる
「うへぇ・・・。」
ホシノが苦笑する
「力技かぁ。」
その直後
左右からも
「行け!!」
「押せ!!」
複数の盾が一斉に押し込んでくる
「ぐっ・・・!」
「ちょっと!」
セリカが踏ん張る
「数が多すぎるって!!」
「ノノミ先輩、こっち手伝って!」
「はい~!」
便利屋68も応戦する
「ちょっと!?」
アルが叫ぶ
「私達をどこへ押し出すつもりよ!?」
カヨコが即座に答えた
「このままじゃ先生達と離される!」
「分かってるわよ!」
アルが銃を撃つ
しかし
アリウス生達は盾を並べ
弾を受けながら前へ進んでくる
「・・・・・・っ。」
ムツキが笑う
「うわぁ。」
「これ。完全に押し出す気だねぇ。」
ハルカも必死に応戦する
「そ、それでも・・・!」
「先生を置いていくなんて・・・!」
その時
「ハルカ。」
カヨコが短く言う
「今は無理。」
「え・・・。」
アルが歯を食いしばる
「っ・・・。」
そして
「・・・仕方ないわね。」
「一度、外へ出るわよ!」
「対策委員会のあなた達も!」
ホシノが振り返る
「そうだねぇ・・・」
「ここに残っても押し流されるだけだね。」
「一旦、外で立て直そう。」
「ん、分かった。」
シロコが応える
セリカも
「くっ・・・!」
ノノミも後退する
「先生~!」
「――!」
声が聞こえた
けれど
私には、その声へ返事をする余裕がなかった
アリウス生達の怒号
銃声
瓦礫の崩れる音
それらが全てを掻き消していた
「・・・先生。」
ハナコが私に話しかけてくる
「どうやら。」
「私達、完全に分断されましたね。」
私はすぐに周囲を見る
確かに、そこにいたのは
私と補習授業部の皆、
そしてアリウススクワッドの4人だけだった
「"・・・"」
私は一度だけ深呼吸する
("これが狙いか。")
("外に戦力を押し出して、こっちだけを切り離した。")
遠く
崩れた壁の向こうでは
まだアリウス生と
正義実現委員会
そして風紀委員会が
激しい銃撃戦を続けている
ホシノ達もそちらへ合流していく
「先生!」
ホシノの声
「こっちは大丈夫!」
「絶対そっちに戻るからねー!」
私は少しだけ笑った
「うん!」
「任せたよ、ホシノ!」
その姿が瓦礫の向こうへ消えていく
私は改めて
目の前の三人を見る
サオリ
ミサキ
ヒヨリ
「・・・。」
そして
少し離れた場所に
アリウスの増援が完全に戦線を構築したことを確認すると
サオリが銃を構えた
「これで。」
「邪魔者はいなくなった。」
私は苦笑する
「"最初から私達を孤立させるつもりだったんだね。"」
サオリは答えない
その代わり
「ミサキ。」
「うん。」
「ヒヨリ。」
「はい。」
三人が
それぞれに位置を取る
私は
その動きを見た瞬間
過去の記憶を辿った
サオリは正面
ミサキは高所
ヒヨリは遠距離
("・・・いつも通り。")
("なら。")
私は即座に指示する
「"みんな、瓦礫を使って!"」
「"絶対に開けた場所には出ないで!"」
「"スナイパーの射線と、ミサイルの上空攻撃を意識して!"」
「え?」
ヒフミが目を丸くする
「先生、分かるんですか?」
「"うん。"」
「"私はこの三人の戦い方を知ってる。"」
アズサが頷いた
「なら、私も一緒にやる。」
「"コハル!"」
「わ、分かってる!」
「"ハナコは後衛!"」
「はい♡」
私は周囲の瓦礫を見渡す
崩れた柱
砕けた壁
倒れた石像
使える遮蔽物はいくらでもある
「"アズサ!"」
「うん。」
「"正面の瓦礫を使ってサオリを止めて!"」
「"ヒフミとコハルはその一歩後ろ!"」
「"ハナコは左右から射線を作って!"」
「分かりました!」
「うん!」
「了解です。」
その瞬間サオリが動いた
「――行くぞ。」
ダァンッ!!
一発
アズサが瓦礫の陰へ滑り込む
「――っ!」
銃弾が石壁へ突き刺さる
「今!」
アズサが反撃
ダダダダッ!!
サオリが横へ跳ぶ
「そこです!」
ハナコの射撃が飛ぶ
サオリはその射線を読んだように身体を捻る
だが
「・・・!」
コハルが別方向から撃つ
「こっち!」
サオリの足が止まる
その瞬間アズサが前へ出る
「――サオリ!」
ダダダダダッ!!
「・・・っ!」
サオリが後退する
「やった!」
ヒフミが声を上げる
しかし
「――えへへ、虚しいですね。」
ヒヨリの声
私は即座に顔を上げた
「伏せて!!」
ズドォォォンッ!!
ヒヨリの持つ
背後の瓦礫を粉砕する
「――っ!」
「ヒフミさん!」
ハナコがヒフミの肩を引く
その瞬間
ヒフミの頬を
細かな石片が切った
「・・・っ。」
「ヒフミ!」
アズサが振り返る
「だ、大丈夫です!」
ヒフミが頷く
「これくらい・・・!」
私はすぐに視線を上へ向ける
("次はミサキ。")
「"ミサキが来る!"」
「え?」
次の瞬間
ミサキがランチャーを構えた
「――塵は塵にかえるもの。」
シュッ!!
弾頭が上空へ飛び上がる
「"全員、動いて!"」
私は叫ぶ
「"今いる場所から三歩以上離れて!"」
アズサが走る
ハナコ
コハル
ヒフミ
全員が遮蔽物を変える
その直後
空中で
ミサキの弾頭が炸裂した
「・・・来る!」
ドドドドドドドドッ!!
子弾が降り注ぐ
瓦礫が次々と吹き飛ぶ
「きゃあっ!」
ヒフミが転倒する
「ヒフミ!」
コハルが駆け寄る
「大丈夫!?」
「は、はい!」
だが
制服の袖
肩
そして頬に
細かな傷が増えている
「・・・っ。」
アズサの目が細くなる
「サオリ。」
「・・・。」
サオリは答えない
そのまま、煙の中を突っ切った
「――っ!」
アズサも動く
二人が瓦礫の間で交差する
ダァンッ!!
サオリが撃つ
アズサが身を伏せる
その直後
アズサが撃ち返す
サオリが柱の陰へ
「今です!」
ハナコが撃つ
サオリが横へ出る
コハルが撃つ
「くっ・・・。」
逃げ場が少しずつ削られていく
しかし
ヒヨリが再び狙う
「"・・・。"」
私は気づいた
「"ヒヨリの次の射線は――。"」
その瞬間
ズドォンッ!!
瓦礫が吹き飛ぶ
ハナコが咄嗟に伏せた
「・・・危機一髪・・・でしたね。」
私は叫ぶ
「"ハナコ! 大丈夫!?"」
「はい。」
「少し掠っただけです。」
「"・・・。"」
私は歯を食いしばる
("全員、少しずつ削られてる。")
("このまま長引けば、こっちが先に持たない。")
その時サオリが
ゆっくり立ち上がる
「・・・お前達の戦い方も。」
「随分と覚えられてきたようだな。」
私は目を細める
「"そうだね。"」
「"でも。こっちも、君達を知ってる。"」
サオリが笑う
「なら。どちらが先に崩れるか。」
再び銃口が向く
「確かめよう。」
そして銃声が
再び古聖堂へ響き渡った
ダァンッ!
アズサが瓦礫の陰から飛び出す
一発、二発と
サオリへ向けて撃ち込む
「・・・っ!」
サオリは身を低くする
弾丸が頭上を通過する
そのまま横へ一歩
さらに一歩
瓦礫の間を縫うように移動していく
「・・・そこ。」
サオリが銃口を向ける
アズサは即座に身を伏せた
ダァンッ!!
弾丸が頭上を掠める
「っ・・・!」
アズサはそのまま転がり
倒れた柱の向こうへ飛び込む
「アズサちゃん!」
ヒフミが叫ぶ
「大丈夫!」
アズサが返す
「まだ戦える。」
その言葉に
ヒフミは小さく頷いた
「・・・はい。」
そして再び銃を握り直す
その手はほんの少しだけ震えていた
「"・・・。"」
私はそれに気づいた
ハナコも同じように気づいたらしい
「ヒフミちゃん。」
「大丈夫です。」
ヒフミは笑おうとする
「私も。皆さんの力にならないと・・・。」
しかし、その直後
ズドォンッ!!
ヒヨリの対物ライフルが火を噴いた
巨大な弾丸が瓦礫を粉砕する
「――っ!」
アズサが横へ飛ぶ
「アズサ!」
コハルが叫ぶ
アズサは転がりながら
なんとか着地する
けれど
その直後
サオリが瓦礫の陰から飛び出してきた
「・・・遅い。」
「――っ!」
距離が一気に縮まる
サオリが撃つ
ダァンッ!!
アズサが銃を持ち上げ、弾丸と弾丸が交差する
アズサの射撃はサオリの肩を掠めた
しかし、サオリも
ほぼ同時に
アズサへ照準を合わせていた
「――アズサちゃん!!」
ヒフミが叫ぶ
アズサの足が
瓦礫に引っ掛かった
「――っ!?」
ほんの一瞬
体勢が崩れる
サオリの銃口が
真っ直ぐ
アズサの額へ向いていた
「これで」
引き金に指がかかる
「終わりだ。」
「――――っ!!」
時間が、止まったように見えた
「アズサちゃん・・・!」
ヒフミの声が震える
目の前
大切な友達へ
銃口が向けられている
撃たれる
そう思った瞬間
胸の奥から
何かが、一気に溢れ出した
怖い
嫌だ
失いたくない
もう、二度と
一人にしたくない
「――嫌。」
小さな声
「・・・嫌です。」
誰にも聞こえないほどの声
けれど
次の瞬間
ヒフミは自分でも気づかないまま
銃をサオリへ向けていた
「――アズサちゃんを。」
握りしめた手に力が入る
「アズサちゃんを・・・撃たないでください!!」
その瞬間銃口が光った
「・・・え?」
ヒフミ自身が目を見開く
銃の周囲に
淡い光が集まっている
白
そして
少しずつ
薄い黄色へ
光が圧縮されていく
「な、何・・・これ・・・。」
ハナコが息を呑む
コハルも
アズサも
その光を見つめている
「ヒフミ・・・?」
私も思わず目を見開いた
(・・・神秘が圧縮されてる・・・?)
「"――まさか。"」
私は呟いた
「"ヒフミ・・・!?"」
本人はそんな事など知らない
ただ
「アズサちゃんを。」
「守りたい。」
その一心だった
その感情だけが
神秘を
一つへ
一つへと
押し込めていく
そして
「――――っ!!」
薄黄色の光が
一気に膨れ上がった
「撃ちます・・・!」
その声は震えていた、
でも、その瞳には迷いがなかった
「アズサちゃんを―――守ります!!」
バァァァァァンッ――!!!
薄黄色の閃光が
銃口から撃ち出された
「――――ッ!?」
サオリの目が見開かれる
回避しようと
身体を捻る
しかし遅い
閃光が真正面からサオリを捉えた
「――ぐっ!!」
ドォォォォォンッ!!!
サオリの身体が吹き飛ぶ
地面を何度も転がり
瓦礫を砕きながら
最後には
巨大な柱へ叩きつけられた
「――――カハッ!!」
轟音
大量の粉塵が舞い上がる
「・・・え。」
ヒフミは呆然と自分の銃を見る
銃口には、まだ淡い黄色の光がほんの僅かに残っていた
「――私、今・・・。」
「何を・・・?」
「ヒフミちゃん・・・。」
ハナコも言葉を失っている
コハルまで珍しく何も言えない
アズサも、ただ目を見開いてヒフミを見ていた
「・・・・・・。」
私はしばらく何も言わなかった、
そしてゆっくりとヒフミを見る
("神秘の圧縮を・・・。")
("ヒフミまで・・・。")
けれど
その驚きより
今はもっと大事なことがある
私は小さく笑った
「"ヒフミ。"」
「は、はい・・・?」
「"助かったよ。"」
ヒフミの目が。
少しだけ潤む。
「はい、私も・・・。」
「自分でも、まだよく分かりませんけど・・・。」
銃を握り直す
「・・・アズサちゃんを守れて。」
ほんの少し嬉しそうに笑った
「・・・よかったです。」
その言葉の向こう
崩れた瓦礫の中で
サオリがふらつきながらも立ち上がった
「・・・っ。」
サオリが膝をつく
呼吸が荒い
ヒフミから受けたダメージは決して軽いものではなかった
「リーダー、大丈夫?」
ミサキが駆け寄る
「・・・まだだ。」
サオリが瓦礫を掴み立ち上がる
「まだ・・・古聖堂の地下に。」
「あれが。」
その言葉にヒヨリが目を見開いた
「あ、あれを使うんですか・・・?」
サオリは答えない
そのまま古聖堂の奥へ走り出した
「サオリ!?」
アズサが叫ぶ
「追います!」
ハナコが走り出す
私も続く
けれど
その前へ何人もの白い影が現れた
「・・・!」
ユスティナ聖徒会の輪郭が明滅している
それでも、まだ動いていた
「・・・まだ、こんな力がありましたか・・・。」
ハナコが銃を構える
「・・・私が行く。」
アズサが言った
「え?」
ヒフミが振り返る
「アズサちゃん・・・。」
「私が、サオリを追う。」
「だ、だったら私も・・・!」
ヒフミが一歩前へ出る
けれど
身体がふらついた
「――っ。」
アズサが支える
「その怪我だ。」
「安静にしてて。」
「・・・でも。」
「心配しなくても平気。」
アズサは微笑んだ
「サオリを止めて。」
「すぐに戻ってくる。」
「アズサちゃん・・・。」
私は口を開く
「アズサ。」
「私も行くよ。」
「・・・。」
アズサが私を見る
そして
少しだけ笑った
「・・・ありがとう、先生。」
ヒフミが小さく頷く
「アズサちゃん・・・気を付けて。」
アズサは振り返る
「・・・うん。」
「私はもう大丈夫。」
「ヒフミ。」
「ハナコ。」
「コハル。」
「・・・行ってくる。」
「はいっ!」
「待ってますよ。」
「き、気を付けてねっ!」
アズサが頷く
私は言った
「じゃあ、行こうか!」
二人で
古聖堂の地下へ続く階段へ駆け出した
【古聖堂・地下】
地下は
まるで巨大な洞窟だった
石造りの階段の先には
剥き出しの岩
ごつごつとした壁
そして
何処までも続いているような暗闇
水滴が
ぽたり
ぽたり
と落ちている
「・・・・・・。」
少し先
そこに
サオリが一人で立っていた
「アズサ・・・。」
「サオリ。」
アズサは銃を構える
「今のサオリは。」
「そのチョーカーに思考を汚染されてる。」
「だから・・・今から助ける。」
私はその言葉を聞いてサオリの首元を見る
黒いチョーカー
「"・・・・・・。"」
記憶を探る
過去の周回
私が知っているサオリには
あんなものは付いていなかった
「"・・・。"」
そして
理解する
("あれは・・・ベアトリーチェが。")
胸の奥が
一気に冷える
("生徒達の心を・・・何だと思ってる・・・!!")
サオリが銃を構える
「お前は・・・まだ私と一対一で。」
「正面から勝てると思っているのか?」
アズサは静かに答えた
「いや。」
「私は一人じゃない。」
「・・・何?」
サオリが
初めて、アズサの背後を見、私と目が合う
「っ先生・・・!!。」
その表情が歪む
「何もかも、全て片付けてやる・・・」
「お前も・・・その大人も!!」
私は叫ぶ
「"サオリを必ず救うよ、アズサ!"」
アズサが頷く
「・・・うん。」
洞窟の中
私達はそれぞれ岩陰へ隠れる
サオリが撃つ
ダァンッ!
岩壁を弾丸が削る
アズサが撃ち返す
ダァンッ!
サオリが別の岩陰へ移る
「"右。"」
私は言う
「"次は右から出てくる。"」
「分かった。」
アズサが照準を変える
サオリが飛び出す
「――っ!」
弾丸が飛ぶ
サオリは身を捻って避けた
「"次!左奥!"」
アズサが撃つ
サオリの進路を塞ぐ
「・・・!」
サオリが一瞬止まる
その間にアズサが別の岩陰へ移動する
互いに相手の射線と遮蔽物を利用しながら
少しずつ
少しずつ
距離が縮まっていく
「・・・。」
サオリが
ふと、手榴弾を構えた
しかし
「"アズサ!"」
私は叫ぶ
「サオリ、左へ回り込もうとしてる!」
アズサが即座に動く
撃つ
撃つ
サオリの足元へ制圧射撃
「・・・くっ!」
サオリが進路を変えた
その瞬間
アズサが無言でグレネードを投げる
高い放物線
暗い洞窟の天井
そこから
突然
サオリの視界へ
「――っ!?」
手榴弾が頭上から落ちてきたサオリは咄嗟に後退する
直後
ドゴォンッ!!!
爆炎
砂埃
視界が真っ白になる
「――ッ!」
サオリが腕で顔を覆う
その瞬間
砂煙の中から
アズサが飛び込んだ
「――!」
サオリが迎撃しようとする
しかし
先ほど後退した体勢のまま
一歩遅れた
アズサが身体ごと押し込む
銃を横へ弾く
「っ!」
サオリの銃口が逸れる
アズサは
ライフルを肩に構えない
腰だめに銃を短く握る
そして至近距離から
引き金を引く
ダダァンッ!!
「――っ!!」
サオリがよろめく
アズサはさらに撃つ
一発
二発
三発
サオリが後退する
「ぐっ・・・!」
咄嗟に岩陰へ隠れようとする
その瞬間
アズサが
別のグレネードを投げた
「――!」
サオリが目を見開く
グレネードが
隠れようとした岩陰へ落ちる
ドォンッ!!
「――ッ!!」
サオリの身体が吹き飛び岩壁へ叩きつけられる
「――ぐっ・・・。」
アズサが荒い呼吸を繰り返しながら
サオリの前へ立つ
銃口が真っ直ぐ向く
「・・・終わり。」
「これ以上・・・サオリを傷つけたくない。」
「うっ・・・。」
サオリがゆっくり顔を上げる
「―――くっ・・・。」
「アズ・・・サ・・・。」
昔のサオリの目が戻りかけていた
「・・・。」
アズサの身体がふらりと揺れる
「はぁ・・・。」
「はぁ・・・はぁ・・・。」
連戦、傷、疲労
今のアズサは限界だった
私は慌てて駆け寄る
「"アズサ!"」
「・・・大丈夫。」
けれど、その足元は
明らかにふらついている
その時、足音が聞こえた
ゆっくりと
こちらへ近づいてくる
「・・・?」
アズサが振り返る
そこにいたのは
「・・・アツコ。」
サオリも
驚いたように目を見開く。
「姫・・・?」
アツコはゆっくり歩いてくる
そして、サオリの前へしゃがみ込む
「サッちゃん。」
「もういいよ。」
「もう・・・大丈夫だから。」
「・・・。」
サオリが首を振る
「だ、ダメだ、姫。」
「喋ると・・・彼女が――。」
アツコは微笑んだ
「大丈夫。もう全部終わりだから。」
「それに、どちらにせよ。」
「彼女は私を生かしておくつもりは無かったはず。」
「だから・・・良いの。」
そしてアツコがサオリの首へ手を伸ばす
「逃げよう?」
「・・・。」
「皆で。」
サオリの瞳が揺れる
「逃げる・・・?」
「うん。」
アツコは頷く
「これも、外す方法が見つかったの。」
チョーカーへ触れる
「だから、逃げよう、サッちゃん。」
「この場から。」
「アリウスから。」
「・・・・・・。」
その瞬間
ゴゴゴゴゴゴゴゴ――――
地鳴りが洞窟全体へ響いた
「・・・何?」
アズサが振り返る
地面が大きく揺れる
岩壁から小石が落ちてくる
「先生!」
「"うん、分かってる!"」
洞窟の奥
暗闇の中から
何かが這い出してきた
巨大な身体、赤いフード、赤いローブ
まるで司祭服を巨大化させたような姿
6メートルにも届こうかという巨体
そして四本の腕、
上の二本は指を組みまるで祈りを捧げているように
下の二本には金色に歪んだ巨大な槍を携え、
背中には聖像を思わせる巨大な光背を背負っていた
その巨体の全身からは、黄金色の神秘が立ち昇っていた
「・・・・・・。」
その姿を見た瞬間
アズサの顔から血の気が引いた
「こ、これは・・・。」
アツコも
言葉を失う
「まさか・・・あの教義が完成した・・・?」
サオリが瓦礫に手をつきながら立ち上がる
「どういう・・・ことだ・・・。」
その異形を見上げる
私は
ただ、その存在を見ていた
そして確信する
("――ヒエロニムス。")
("人造天使の失敗作・・・でもこれは・・・それよりも・・・。")
「・・・。」
アツコが震える声を漏らす
「これは・・・レベルが違う・・・。」
アズサが私を見る
「せ、先生、これは・・・。」
そして
「不味い、逃げないと・・・!」
アズサが私の手を掴む
「早く!」
けれど
私は動かなかった
「・・・先生?」
アズサが振り返る
私は静かに呟いた
「"・・・どうやら、反則みたいだね。"」
「先生・・・?」
「"アンラさん。ごめんなさい。"」
「"約束、破ります。"」
懐から
黄金色のカードを取り出す
それを
掲げる
「"――――。"」
カードが光を放つ
その瞬間横から
私の手首を掴む者がいた
カードを持った手がゆっくり下へ押し下げられる
「"――え?"」
黒い司祭服、首から下がるロザリオ
「・・・グレゴリーさん!?」
私は目を見開く
しかし、その口から出た言葉は
いつもの司祭のものではなかった
聞き覚えのある声
そして聞き覚えのある口調
「まぁ、ようやったわ。」
「アレはこっちで潰すさかい。」
「先生は、その物騒な物仕舞っとけ。」
「"・・・・・・・・・。"」
私は思わず目を見開く
「"・・・え?"」
「"アンラ・・・さん?"」
グレゴリーの姿をしたアンラさんは何でもないように
「せやで?」
と答えた
そして
そのまま
ヒエロニムスへ歩いていく
「さーて・・・せっかくパチモンのヒエロニムスや・・・」
「なら、本物をぶつけたるか。」
おっさんが
ゆっくりと聖句を唱える
「
一歩
踏み込む
「
その踏み込みと同時にその姿が消えた
次に姿を現した時には
ヒエロニムスの懐
「――ッ!」
「
聖句と共に拳が巨体の腹部へ叩き込まれる
「ゴァァァァァッ!!」
巨体が吹き飛び岩壁へ
ドゴォォォンッ!!
「
おっさんはそのまま両手を虚空へ突き入れた
小指から人差し指
それぞれの指の間へ
3本ずつ
合計6本の西洋剣が引き抜かれる
「――――。」
6本
同時に投げる
4本はヒエロニムスの両腕へ
2本両足へ
ドドドドドドッ!!
深く
剣の根元まで
巨大な身体を岩壁へと縫い付ける
「――――ッ!!」
「et
おっさんは聖句を告げながら
ゆっくり歩き近づく
磔となったヒエロニムスの前へ
そして
黒いチョーカーを持った左手を
ヒエロニムスの
「ッ――。」
ヒエロニムスの赤いローブも、その肉体も、まとめて貫通し、
そのまま黒いチョーカーを3つ
「・・・。」
腕を引き抜くと同時に飛び退き
最後の聖句を告げる
「
その瞬間
ヒエロニムスの身体が光に包まれ
「――――。」
次の瞬間
ドゴォォォォォォォォォン!!!!
凄まじい爆発が起こった
光、炎、瓦礫
四本の腕、巨大な光背、金色の槍
その全てが爆炎の中へ消えていく
そして飛び散った欠片すら
まるで存在そのものを失うかのように
一つ
また一つと
消滅していった
「・・・・・・。」
おっさんは。
洞窟内のある一角を一瞥する
(あの木偶は・・・もう引いたか。)
それだけ確認すると
私の方へ歩いてくる
「先生。」
「"・・・・・・・・・。"」
私は
まだ
呆然としていた
グレゴリーの姿をしたアンラさんを
ただ見つめていた
「先生。」
「"・・・・・・。"」
「先生、まだ呆けとるんか・・・?。」
「"い、いやだって・・・。"」
私はアンラさんの顔を指差す
「"アンラさん、顔が・・・。"」
「あー。」
アンラが自分の顔を触る
「せやったな。」
すると
全身から
黒い煙が溢れ出した
身体が一瞬
輪郭だけの黒へ変わる
そして再び人の形へ固まった時には
砂色のいつものローブ
そして、いつものアンラの顔へ戻っていた
「ほら。これでええかー?」
「"・・・・・・。"」
私は、まだ復帰できない
いや、むしろ更に悪化した
アズサがアンラさんを見つめた
「・・・足長おじさん?」
「せやでー。」
「・・・・・・。」
アズサが
周りを見渡す
「・・・サオリ?、アツコ?」
誰もいない
二人の姿は
既に消えていた
「――っ!」
アズサが叫ぶ
「サオリ達のチョーカーが!」
「あー。」
アンラさんは何でもないように言った
「あれな、大丈夫や。」
「スクワッドの全員分回収して。」
「さっきの化物の腹にぶち込んで、諸共、消し飛ばした。」
「"・・・・・・。"」
私はようやく動けた
「"・・・あのチョーカー。"」
「"一体何だったんですか・・・?"」
アンラさんは首を傾げる
「知らん。」
「"・・・。"」
私は思わず目を吊り上げる
「"今は先の事とか言ってる場面じゃ――"」
「ああ。」
アンラさんが被せる
「いや、ほんまに知らん。」
「あれはおっさんが知ってる物でもない。」
「何処で生えてきたんかも知らん。」
そして、僅かにアンラさんの目が鋭くなる
「まぁ。アレをサオリ達に付けた奴なら。」
「先生がおもとる奴と。」
「同じ奴が犯人やと思うけどな。」
「"・・・・・・・・・。"」
私は
アンラさんのその目を見る
("怒ってる・・・。")
声こそ穏やかだった
でも、その奥には明確な怒りがあった
アズサはその言葉を聞いて
ようやく少しだけ肩の力を抜いた
「・・・よかった。」
アンラさんがアズサの頭へ手を置く
「よう頑張ったな。」
「アズサ。」
「・・・・・・。」
アズサは目を閉じ
そして少しだけ安心したような顔をした
「"・・・・・・・・・。"」
私は二人を見る
「"・・・二人は。"」
「"知り合いなの・・・?"」
アズサが答えた
「アリウスに毎月物資を届けてくれた。」
「足長おじさん。」
「"・・・・・・。"」
私の視線がアンラさんへ向く
じっと
じーっと
アンラさんは
その視線を受け流し
「まぁ。そういうこっちゃ。」
「"・・・・・・。"」
私は深いため息を吐いた
「"もう、色々聞きたい事が多すぎる・・・。"」
「まぁ今は後にしよや。」
アンラさんが崩れた階段を見上げる
「上で補習授業部の子らも待っとるんやろ?」
「"そうですね・・・"」
「ほんなら。一回、上戻ろか。」
「アズサも。」
「・・・分かった。」
三人で地下洞窟を歩き始める
暗い岩壁の間を抜け、崩れた階段を一段ずつ上がっていく
やがて遠くから
僅かに地上の光が見えた
雨上がりの空
その向こう
青空
そして
そこには
まだ仲間達が待っている
私はその光を見上げながら
小さく息を吐いた
隣では
アズサも
同じように空を見上げている
アンラさんは
少し後ろから
私達の背中を眺めながら歩いていた
古聖堂
その地下から
私達三人は
ゆっくりと地上へ戻っていった
うおー・・・
エデン条約第三章完!!
まぁ間髪入れずに四章入るんですけどね!!!
そしてまぁ本文の解説行ってみましょうか!
まず最初!
あの大量のアリウス生はどっから湧いてきたの?
これは、単純に、先生達がアンブロジウスと戦闘中に、
カタコンベ経由で増援が間に合っただけです。
そして二つ目、ヒフミの神秘の発現。
これは伏線がだーいぶ前に在りました。
それは対策委員会編の『セリカの平凡ではない一日』で、
アンラが言った
「いんや、なんで使い方を知ってるかは知らんなぁ、
正直アレを使おうと思って使ってる奴を見るのは初めてやわ
テンション次第で無意識に使ってる奴ならチラホラおるけどな。」
という一言でした。
つまり、もともと神秘はテンション。
その心次第で生徒であれば扱える品物だったという伏線です。
そして、ヒフミは、何人もの神秘圧縮を複数回にわたり見て来た。
これが今回のヒフミの神秘圧縮による、薄黄色の閃光に至った理由ですね。
最後のアズサとサオリのタイマン。
この時、サオリが最初のアズサとのタイマンの時よりも遥かに弱い理由ですが。
前記した、ヒフミによる色付きの閃光の直撃を貰ったせいですね。
ぶっちゃけ気絶していないだけで凄いです。
そして、最後、アンラとヒエロニムスの戦闘
まぁ・・・ここは色々ツッコミどころが多いので、
一個一個解説していきますね。
まず、あのヒエロニムスは原作通り、マエストロが作った作品です。
ですが、今回明らかに強かった。
その理由は、生徒達が原作よりも遥かに神秘を扱い技能が高い為、
その神秘についての研究が原作よりも遥かに進んでいるからと言うのにつきます。
そして、アンラの戦闘ですね。
これはもうせっかくなので、元ネタをクッソパクリスペクトしました。
元々戦闘手法も剣の投擲をする人物なので、アサシンをぶっ飛ばして剣ぶっ刺したあのシーンのオマージュに最適でしたしね。
そして、最後の詠唱もそれオマージュです。
ですが、こちらはどっちか言うと、原本ですかね・・・
あの胡散臭い神父が唱えた洗礼の元ネタ。
それが今回詠唱に使った、旧約聖書の「申命記」第32章39節です。
それのラテン語訳になります。
これで更にもう一個小ネタを挟むと。
アンラが言ったパチモンのヒエロニムスに本物ぶつけるか。はここからきてます。
何せ、旧約聖書の「申命記」をラテン語に翻訳したのが、
本物の実在したヒエロニムスですからね。
あ、もう一個最後に言うとKyrie eleisonはギリシャ語ですね・・・
これは当時のキリスト教でも既に浸透しきっていたので、ラテン語に直さず、
そのままギリシャ語で浸透していったっていう背景があります。
~今日のセイア~
さて、今日もセイア様の様子を見て行こうと思います!
ん?、祈願屋さんの事務所が慌ただしいですね・・・
セイア様が何やら必死の形相で外に出ようとするのを
ユメ社長が羽交い絞めにして抑えてますね・・・
何かあったのでしょうか?・・・ちょっと話を聞いてみます
えっと・・・何々・・・?
このままだと、私が学校の柱に潰される・・・?
セイア様、何やら錯乱してるのでしょうか・・・
あ、祈願屋の事務所の扉が開きましたね。
ミネ団長がセイア様のアタッシュケースを持って出てきました。
どうやらミネ団長も、セイア様と一緒に外に出るようですね。
あ、ユメ団長がセイア様の拘束を解きましたね。
なにやら、ユメ社長、笑顔で手を振っています。
セイア様も、そのユメ社長をみて、笑顔でお礼を言っていますね・・・
どうやらセイア様、とうとうトリニティに戻るようですね。
でも・・・セイア様そのお姿でお戻りになられるのですか・・・?
今ダボダボのTシャツにホットパンツなんですが・・・
あ、ミネ団長と共に走って行っちゃいましたね・・・
あと、ミネ団長は救護騎士団の制服にちゃっかり着替えてましたね・・・
あれは多分わざとセイア様に服装を指摘しなかったような気がしますね・・・
それにしても・・・
長かったようで短い、セイア様の観察日記・・・
これにて一旦の閉幕となります。
今までのご愛読ありがとうございます!