おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
コミケ前のラッシュで死にかけたけど
また別の山が舞い込んできた死ぬ!!
おっさん祈願屋の休日 前編
【祈願屋・事務所】
「ただいまー!」
勢いよく事務所の扉が開き
「お。」
ユメが事務所に入ってきた
「おかえり。」
おっさんは書類から顔を上げる
「お使い、終わったん?」
「うん、終わったよ。」
ユメは荷物を机の脇へ置くと、ふぅっと息を吐いた
「ただ。」
「どうしたん?」
「・・・寒かった。」
「そらそうやろ。」
「百鬼夜行の奥地。」
「しかも雪山の廃寺院やし。」
「分かってるけど・・・。」
ユメは頬を少し膨らませる
「もう少し近くにしてくれても良くないですか?」
「場所を別にしたら意味ないやろ。」
「何の意味があるんですか、あれ。」
「・・・・・・。」
「何か月かおきに雪山の奥地まで行って。」
「お酒を置いて。」
「転移魔道具で即帰還。」
「本当に何の意味があるんです?」
「いやぁ・・・。」
おっさんは少しだけ視線を逸らした
「荒御魂を鎮めるための供物・・・かね?」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「それ、冗談ですよね?」
「せやな。」
「絶対に冗談ですよね?」
「多分。」
「多分って何ですか!?」
ユメが呆れたように声を上げる
「他所の自治区の神様を怒らせたなら。」
「自分で行ってきてくださいよ。」
「いやぁ・・・。」
おっさんは苦笑する
「百鬼夜行に入った時点で。」
「おっさん襲われるから無理。」
「・・・・・・。」
数秒ユメが固まった
「・・・え?」
「本当に神様怒らせたんですか?」
「・・・・・・。」
「もしかして。」
「私も襲われてた可能性があったり・・・?」
「いや。流石におっさん以外は襲わん・・・・・・と思う多分。」
「多分!?。」
「まぁ、あっても神隠しに遭うくらいや。」
「神隠し・・・それも十分嫌なんですけど。」
「せやから。」
おっさんは机の上に置いてある小さい剣の様な魔道具を指差す
「転移用の魔道具、渡してるんよ。」
「置いたら即帰ってこい、って。」
「・・・・・・。」
ユメが半眼になる
「一体、何をしたら、そんなに怒らせるんですか・・・。」
「・・・・・・。」
おっさんは黙って
そっぽを向いた
「・・・・・・。」
ユメの視線が刺さる
じーっ
「・・・・・・。」
じーっ。
「・・・・・・。」
「なんよ。」
「いえ。何も?」
「・・・・・・。」
ユメは小さくため息を吐いた
「まぁ、いいです。」
そのまま
少し考えるようにしてから
「あ。アンラさん。」
「ん?」
「私、休暇が欲しいんですけど。」
「あーええよ。」
おっさんが即答すると
ユメの顔が少し明るくなる
「本当に?」
「おう。ユメちゃん休み全然取れてへんしな。」
「・・・ありがとうございます。」
ユメは嬉しそうに笑う
けれど
すぐに
「あの、アンラさんも、」
「休んでもらってもいいですか?」
「・・・ん?」
おっさんは首を傾げた
「おっさんも?」
「はい。」
「二人で?」
「はい。」
「なんで?」
そこでユメが
少しだけ視線を逸らした
「えっと・・・リゾートホテルの宿泊券が。」
「二人分あるので。」
「一緒に休暇に行きませんか?」
「あーそういうことか。」
「休みの間は。」
「対策委員会のみんながパトロールを代わってくれるって言ってくれましたし。」
「・・・・・・。」
おっさんは少し考える
まぁ、ユメちゃんが休みたいっていうのなら
それ自体はええことやねんけんど・・・
ただ、
「まぁ・・・ユメちゃん休暇全然取れてへんし。」
「それはええんやけど。」
「それ、おっさんやないとあかん?」
「・・・。」
ユメの動きが止まる
そして
「・・・ダメです!!」
「今回は、アンラさんと行きたいんです!!」
思いのほか
強かった
「さ、さよか・・・。」
思わず気圧される
ユメは言ったあとで自分でも少し気恥ずかしくなったのか、頬をほんのり赤くしていた
「えっと・・・。」
「その、前のリゾート島は最後、結局慌ただしかったじゃないですか。」
「今回はちゃんと、ゆっくりしたいなって。」
「・・・・・・。」
なるほど
それならまぁ
「せやなぁ。」
「前みたいにならんように。」
「今回はほんまにのんびりしよか。」
「・・・うん!」
ぱぁっとユメの顔が明るくなる
「やった!絶対ですよ?」
「絶対。」
「仕事を持ち込まない。」
「持ち込まん。」
「急な依頼も受けない。」
「・・・善処する。」
「そこは絶対って言ってください。」
「はいはい。絶対な。」
「ふふっ。」
ユメが嬉しそうに笑った
【数日後・アビドス駅前】
「待たせたな。」
「いえ、私も今来たところです。」
今日はいつものローブを脱いで
完全に私服の綿パンにTシャツというラフな格好だった
対してユメは
いつもの仕事姿とはかなり違う
服装も変えて、髪型も変えて
普段のゆるい雰囲気を隠すように
少し大人びた女性らしい雰囲気を出している
「・・・えらい、雰囲気かわったなぁ・・・そっちも似合っとるやん。」
「・・・ありがとうございます。」
少しだけ照れくさそうに笑う
「では。行きましょうか。」
「せやな。」
二人で駅へ向かい
電車へ乗り込む
そして
数十分後
「・・・・・・。」
駅のホームで
おっさんは遠い目をしていた
「・・・・・・。」
横では
ユメも完全に疲れ果てた顔をしている
「・・・アンラさん。」
「おん?」
「私。」
「ゲヘナって。」
「噂が先走ってるだけの学校だと思ってました・・・」
ユメが遠い目をする
「まさか。」
「電車の中で。」
「いきなり銃撃戦が始まるなんて……。」
「まぁ・・・無賃乗車はゲヘナやと、ようある事らしいからなぁ。」
「・・・・・・。」
「ハイランダーの連中も。」
「慣れた結果があれなんやろな・・・。」
車内での出来事思い返す
乗車中にゲヘナの生徒が何食わぬ顔で無賃乗車し
切符を確認しにきたハイランダーの生徒が無賃乗車を確認したその瞬間
「・・・切符を持ってないって・・・ふざけてるのか?」
「どうせゲヘナ行きの列車なんだから、まともなものじゃないだろうって?」
「うるさい乗客ばかりだから、乗務員の目を誤魔化せるとか・・・!」
「無賃乗車くらい許されるとか思ったんだろ・・・?」
「言い訳なんて、もう分かってんだよ!」
「どうせ無法地帯だろうなんて考えで・・・白昼堂々、無賃乗車をしようってんだろ!!」
「もう限界だ!!クソゲヘナがいつも馬鹿にしやがって!!!」
狂乱しながらそのセリフを吐いたハイランダー生が、笛を吹いた
その瞬間
ハイランダー生がわらわらと大量投入され
銃と工具で
「ちょ、ちょっと待て!」
「払えばいいんだろ!?」
「うるせぇくたばれ!!」
ドカッ
バキッ
ガンッ
そんな効果音がなりそうなタコ殴りにしていた
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
おっさんとユメはその横で
黙って座っていた
「・・・・・・。」
「・・・これ。」
ユメが呟く
「観光地ですよね?」
「一応な・・・」
「・・・・・・。」
そんな道中を超えおっさんたちは
ようやく目的地へ到着した
【ゲヘナ自治区・アラバ海岸】
ゲヘナとは思えないほど
静かな場所だった
海、砂浜
そして
ほとんど人がいない
「・・・あれ?」
ユメが辺りを見回す
「お店。」
「結構あるのかなって思ってたんですけど。」
「全部閉まってますね・・・。」
ちょっと寂しそうな雰囲気だった
おっさんも周囲を見る
「せやなぁ。」
そして
「あ。」
遠くで風紀委員会の生徒たちが
せっせと何やら走り回っている
水着に風紀委員会の帽子
そして
銃
「・・・・・・。」
嫌な予感しかしなかった
「ユメちゃん。」
「はい?」
「ホテル。」
「先に行こか。」
「え?」
「早めにチェックインして、なんかご飯食おかー」
「・・・はい!」
ユメの顔が一気に明るくなる
「温泉!。」
「ホテルのご飯!!。」
「楽しみですねー!」
すっかりテンションが上がり、スキップしながら歩いていく
「・・・・・・。」
おっさんはその背中を
ちょっと生暖かい目で見ながら追いかけた
【アラバ海岸・アラバリゾート】
「いらっしゃいませ。」
ホテルのフロントで
支配人が丁寧に頭を下げる
「この度はご宿泊いただきありがとうございます。」
受付を済ませながら、
ふとロビーの中へ視線を向ける
「・・・。」
思ったより
「・・・えらい豪華やな。」
ホテルのロビーは、
海辺のリゾートホテルらしい開放感に満ちていた
中央部分は大きく吹き抜けになっており、
二階、三階と続く回廊がその周囲を囲むように作られている
その吹き抜けの遥か上
天井には大きな天窓が設けられていた
そこから差し込む自然光が
ロビー全体を柔らかく照らしている
雨上がりの空から降り注ぐ光が
磨き上げられた床へ反射し、
館内をゆっくりと明るく染めていた
吹き抜けの各所には、
大きなシャンデリアも吊り下げられている
昼間だから照明そのものは控えめやったが、
光を受けて無数のガラスがきらきらと輝いていた
壁際には観葉植物や、
海を意識した装飾が置かれている
中央の広い空間には
大きなソファやテーブルが配置され、
宿泊客がゆっくりと寛げるようになっていた
「わぁ・・・。」
隣から
ユメの小さな声が聞こえる
「綺麗・・・。」
その視線は、
すっかりロビーの景色に釘付けになっていた
「最近、全面的にリニューアルしまして。」
支配人が説明を続ける
「大浴場も露天風呂式の温泉へと生まれ変わりました。」
「ぜひごゆっくりお楽しみください。」
「温泉・・・。」
ユメの目がキラキラと輝く
「それから。」
「レストランはビュッフェ形式となっております。」
「ゲヘナ各地の料理をお楽しみいただけるよう、様々な料理を――」
「ビュッフェ・・・!」
ユメの目がさらに輝く
「行きましょうアンラさん!」
「ちょ、待て待て。」
おっさんの腕を掴んで
そのまま引っ張って行く
「お部屋、ご飯。」
「早く!」
「お、おう。」
(なんや今日のユメちゃん)
(いつも以上にえらい元気やな・・・)
2人はエレベーターに乗り込み
扉が閉まる
エレベーターの中も
ホテルらしく落ち着いた造りになっていた
壁面には木目を活かした装飾が施され、
所々に間接照明が入っている
足元には
薄い絨毯が敷かれていた
「・・・。」
ユメは
まだ少し浮かれているのか
エレベーターの階数表示を
じっと見上げている
「あと少し・・・。」
「そんな楽しみなん?」
「はい!」
即答やった
「だって、スイートルームですよ?」
「・・・・・・。」
まぁ、確かにそうやな
おっさんも
ちょっとだけ楽しみになってくる
やがて
小さな電子音が鳴る
――チン
エレベーターの扉が開く
「着きました。」
「おう。」
2人はそのまま廊下へ出る
そこはロビーとはまた違った
静かな空間やった
広々とした廊下の両側には
客室の扉が一定間隔で並んでいる
壁には
海を意識した風景画や
抽象的な装飾が飾られていた
天井には
柔らかな光を放つ照明
足元の絨毯も
波を思わせるような模様が入っている
「・・・・・・。」
ユメが
きょろきょろと辺りを見回す
「静かですね。」
「せやな。」
ロビーとは違って
宿泊客の姿もほとんどない
聞こえるのは
自分たちの足音くらい
「こっちです。」
支配人から受け取った
カードキーを確認しながら
ユメが先導する
「えっと・・・312・・・」
「こっちですね。」
廊下の角を一つ曲がる
さらに少し進む
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
歩くたびに
ユメの足取りが少しずつ軽くなっていく
「アンラさん。」
「ん?」
「もうすぐですよ。」
「そうやな。」
「楽しみですね。」
「せやなぁ。」
そんな会話をしながら
さらに進んでいく
そして
廊下の少し奥
そこだけ
他の客室とは少し雰囲気の違う扉があった
幅も少し広い
扉の横には
小さなプレートが取り付けられている
「・・・・・・。」
ユメが立ち止まる
「ここです。」
俺も足を止める
「おお。」
扉の前には
カードキーをかざすための端末
その横に
控えめな照明
なんとなく
普通の客室とは違う雰囲気がある
ユメが
カードキーを取り出す
「・・・・・・。」
そして
「・・・・・・。」
一度だけ
俺を見る
「開けますね。」
「おう。」
ユメが
カードキーを端末へかざす
――ピッ
小さな電子音
続いて
――カチャ
鍵が解除される
ユメはドアノブへ手を伸ばした
「・・・。」
その顔は
もう完全に
これから始まる休暇を楽しみにしている顔だった
「行きましょう、アンラさん。」
「せやな。」
そしてユメがゆっくりと扉を開いた
【アラバリゾート・スイートルーム】
「・・・・・・。」
扉の向こうに広がっていたのは
ただの客室ではなかった
「・・・・・・。」
まず目に入ったのは
部屋の奥まで大きく取られた
広々としたリビングスペース
その先
壁一面と言っていいほどの
巨大な窓があった
「・・・。」
窓の向こうには
どこまでも続く海
青く広がる水平線
雨上がりの光を受けた海面が
きらきらと輝いている
そして
その窓の外には
大きなバルコニーまで備え付けられていた
白を基調とした床
海風が通り抜けるように設計された
開放感のある空間
そこから眺める景色は
まるで、
部屋そのものが海の上に浮かんでいるようだった
「・・・。」
ユメが
完全に固まった
「・・・・・・。」
おっさんも思わず室内を見回す
リビングには
ゆったりとした大型ソファ
その中央には低めのテーブル
さらにその奥には
二人で食事を取るのに十分な大きさの
ダイニングテーブルまで置かれている
壁際には小さな観葉植物
照明は天井から直接照らすものだけではなく、
壁や床を柔らかく照らす間接照明まで配置されていた
昼間の今は窓から入り込む自然光が室内を満たしているが
夜になれば
きっと、全く違った雰囲気になる事だろう
さらに
部屋の一角には
小さなキッチンまで備え付けられていた
コンロ
シンク
冷蔵庫
簡単な調理器具
食器まで綺麗に揃っている
「・・・・・・。」
その先には
扉が二つ
それぞれ別の寝室へ続いている
どちらも十分な広さがあり、
大きなベッドとサイドテーブル
そして
窓からは
当然のように海が見える
「・・・・・・。」
ユメが
ゆっくりと
一歩
部屋の中へ入る
そして
次の瞬間
「わぁぁ・・・!」
一気に顔が輝いた
「すごい・・・!」
そのまま
巨大な窓へ駆け寄る
「海・・・!」
「きれい・・・!」
窓の向こうを眺めながら
しばらく立ち尽くしていたかと思えば
「バルコニーもあります!」
そのまま勢いよく外へ出ていく
「わぁ・・・!」
「すごい・・・!」
「本当に海が見渡せますよ、アンラさん!」
「おうおう。」
おっさんが後ろから近づくと
ユメはすっかり旅行に来た子供みたいな顔になっていた
「この部屋、本当に私達が使っていいんですか!?」
「ユメちゃんが当てたんやろ?」
「そうですけど、こんなにすごいと思ってなくて・・・。」
そのまま部屋の中へ戻ってくる
今度はソファへ向かう
「これ、大きい・・・!」
ぽすっ
試しに腰掛ける
「ふわっ・・・。」
「・・・・・・。」
「すごい。」
「・・・・・・。」
「これ、ずっと座ってられそうです。」
「ホテルやからな。」
「それは分かってますけど。」
そのまま立ち上がり
今度はキッチンへ
「キッチンまでありますよ!」
「せやな。」
「冷蔵庫も大きいです!」
「せやな。」
「食器もいっぱいあります!」
「せやな。」
「しかもちゃんと二人分以上ある!」
「せやな。」
さらに
「寝室も二つ!」
「せやな。」
「ベッドも大きい!」
「せやな。」
「しかも窓から海が見えます!」
「せやな。」
「・・・・・・。」
「なんや。」
「・・・・・・。」
ユメは
少しだけ頬を膨らませた
「アンラさん。」
「ん?」
「さっきから【せやな】しか言ってませんよ?」
「いや。おっさんも十分感動しとるで?」
「ほんとですか?」
「ほんまほんま。」
「・・・・・・。」
ユメが
じーっとおっさんを見る
「・・・・・・。」
「なんや。」
「・・・なんでもないですよー。」
そう言いながら
また部屋を見回す
そして
今度はバルコニーの方へ視線を向ける
「・・・・・・。」
どうやら
まだまだテンションは上がるらしい
おっさんはそんなユメの様子を見ながら
(なんというか。)
(ゲーム開発部の子ら思い出すなぁ。)
(あの子らも船でロイヤルスート見た時はこんな反応やったしな・・・)
「アンラさん!」
「ん?」
「こっち!」
「見てください!」
「おうおう。」
「本当に海が綺麗です!」
「せやな。」
「寝室も二つありますよ!」
「せやな。」
「キッチンも!」
「せやな。」
「ソファも大きい!」
「せやな。」
「バルコニーもあります!」
「せやな。」
「むぅ・・・。」
「なんや。」
「なんでもないですよー。」
どうやら
このまま放っておいたら、いつまでも部屋を見て回りそうだった
(まぁ気持ちは分からんでもないわな。)
(せっかくの休暇やしな。)
おっさんも窓の外へ目を向ける
海は穏やかで
波の音も、ここまで来るとほとんど聞こえへん
その代わり
遠くから聞こえる潮騒と、空調の小さな駆動音
そんな静かな音だけが、部屋の中に流れていた
「・・・・・・。」
「ユメちゃん。」
「はい?」
「ちょっと早いけど。」
「昼飯、行かへん?」
その瞬間ユメが振り返った
「行きます!」
凄まじく返事が早い
「さっきから部屋ばっかり見とったけど。」
「お腹空いてきたんか?」
「はい!」
「それに。」
ユメは少しだけ嬉しそうに笑う
「ビュッフェ、楽しみです。」
「せやったな。」
そうして部屋を後にした
【アラバリゾート・レストラン】
ホテルのレストランは
ロビーと同じく、海を意識した開放的な造りになっていた
大きな窓が何面も並び、その向こうには海が広がっている
昼の光がガラス越しに差し込み、店内を明るく照らしていた
天井から吊るされた照明も、ロビーほど豪華すぎず
海辺のホテルらしい、落ち着いた雰囲気を作っている
そして
何より目を引くのは
レストランの中央にずらりと並んだ料理
「・・・・・・。」
ユメが立ち止まった
「・・・・・・。」
視線が完全に料理へ釘付けになっている
「・・・・・・。」
「ユメちゃん?」
「・・・・・・。」
返事がない
これはあかんな
完全に目の前の料理に魂持っていかれとる
「温泉卵。」
「・・・・・・。」
「地熱を利用した温野菜。」
「・・・・・・。」
「ゲヘナ産の野菜を使ったカレーに。」
「・・・・・・。」
「各種スープ。」
「・・・・・・。」
「火山灰を使った黒パン。」
「・・・・・・。」
さらに海沿いらしく
その日に取れた海の幸まで並んでいる
刺身、煮付け、焼き魚
魚介を使った料理
それだけじゃない
肉料理や温かい惣菜もあり
デザートコーナーまで、かなり充実していた
「・・・・・・。」
「すごいですね・・・。」
ようやくユメが呟いた
「思ってたより。」
「ずっと種類多いです。」
「せやなぁ。」
「どれから食べよう・・・。」
ユメが真剣な顔で悩み始める
その一方
おっさんは、まず手軽な物から取る
黒パン
スープ
それから温野菜を少し
「・・・・・・。」
黒パンを手に取る
「火山灰使っとるんか。」
見た目は普通の黒パン
ただ、こういうのは食ってみんと分からん
一方、ユメは
「・・・・・・。」
完全にデザートコーナーへ移動していた
ケーキ
パンケーキ
ゼリー
焼き菓子
「・・・・・・。」
そして
その中に
あった
紫色のパンケーキ
「・・・・・・。」
触手付き
(パンちゃん居るやんけ・・・)
「・・・・・・・・・。」
・・・見なかったことにしよう
「こっちは普通のやつにしよっと。」
ユメが普通のパンケーキを取る
「賢明やな。」
「・・・?」
「いや、何でもない。」
そのまま
二人で料理を持って席につく
窓際の席
海がよく見える場所やった
「いただきます。」
「いただきます。」
まずは黒パンを一口
「・・・お。」
思ったより・・・
というか普通にうまい
「火山灰って言うから構えとったけど。」
「うまいな、これ。」
続いてスープ
口に入れると野菜の甘みと、少し香ばしい風味が広がる
「これもええな。」
「ほんとですか?」
「ああ。」
ユメもパンケーキを一口
「美味しいです……!」
顔がめっちゃ幸せそうやな・・・
「ほんまか?」
「はい!」
「よかったなぁ。」
そのまま、2人でしばらく食事を楽しむ
温野菜
カレー
スープ
ユメが気になった料理を少しずつ持ってきては
「これも美味しいですよ!」
と勧めてくる
おっさんも
「ほんまやな。」
と返す
(なんやろな・・・普段なら)
(仕事の合間に急いで飯を済ませることも多い)
(こうして何も気にせず、ゆっくり飯を食うというのも悪くない。)
しばらくして
もう一度、料理の方へ立つ
今度は刺身を取る
海が近いだけあって身が綺麗だった
席へ戻ると
「私もそれ取ってきます!」
「お。」
ユメも同じものを取って戻ってくる
「・・・・・・。」
「何や?」
「いえ。」
ユメはなんだか嬉しそうだった
刺身を前にちょっとだけ頬を緩めている
「・・・・・・。」
(まぁ。たまの完全な休みくらいゆっくりするのも悪くないわな。)
食事を終え
空になった皿をテーブルへ置き、
おっさんは小さく息を吐いた
「ふぅ・・・お腹いっぱいです。」
向かいでは、
ユメも満足そうにお腹をさすっている
「せやな。」
「思った以上に美味かったし。」
「はい!特にお刺身!」
「せやなぁ。前におっさんが捌いたけど、」
「やっぱ本職の刺身はちゃうなぁ・・・」
海が近いだけあって、
あれは中々良かった
しばらく、二人で食後の余韻に浸っていた
けれど
やがてユメが、
何かを思い付いたように顔を上げる
「アンラさん。」
「ん?」
「このあと。」
「ちょっとだけ運動しませんか?」
「運動?」
おっさんが首を傾げる
「はい。」
「ほら、食後ですし。」
「少し歩いた方が、身体にも良いかなって。」
「・・・・・・。」
なるほど
確かに、
腹いっぱい食べた後にそのまま部屋でだらだらするよりは、
少しくらい歩いた方がええやろな
ユメはそのまま、窓の外へ視線を向ける
そこには
ホテルの向こう側に広がる青い海
「・・・・・・。」
そして
「浜辺。」
「ん?」
「一緒に歩きませんか?」
「・・・・・・。」
その顔がほんの少しだけ、楽しそうだった
「せやな、行こか。」
「はい!」
ユメが嬉しそうに笑った
「ちなみに泳ぐん?」
「それは、その・・・。」
ユメが少し考える
「もう少し後でもいいかなって。」
「まずは浜辺を歩いてみたいです。」
「なるほどな。」
「じゃあ、行こか。」
「はい!」
おっさんたちは席を立った
【アラバ海岸・ビーチ】
ホテルの外へは昼間の太陽は少し傾き始めているものの、
まだ十分に暖かい
海から吹いてくる潮風が、
火照った身体に心地よかった
「・・・・・・。」
目の前には
砂浜、青い海
そして
水平線
「綺麗ですね。」
ユメがぽつりと呟いた
「せやな。」
「やっぱり来てよかったです。」
「そりゃ良かったわ」
そんな風にのんびり歩こうとした
――のだが
「・・・・・・。」
少し先を
水着姿の風紀委員会の帽子を被った生徒が走っていく
「・・・。」
一人
「・・・。」
また一人
「・・・。」
さらに一人
全員ものすごく急いでいる
しかも何故か何人かが水着姿
「・・・・・・?」
ユメが首を傾げる
「何かあったんですかねー?」
「いや。」
おっさんも周囲を見回す
「水着の子、多いし。」
「事件とかやないんやない?」
「・・・そうですかねぇ?」
「せやせや。この辺はリゾート地やし。」
「きっと何かのイベントやろ。」
「・・・・・・。」
ユメは少し納得しきれていない顔をしながらも、
それ以上は聞かなかった
今日は休暇やし、そういうことにしておこう
おっさんたちはそのまま
ゆっくりと浜辺を歩き始めた
砂を踏む感触
寄せては返す波
海鳥の声
潮風
遠くから聞こえる人の声
「・・・・・・。」
さっきまでのゲヘナの街中とは、まるで別世界だった
「静かですね。」
「せやな。」
「こういうの、いいですねぇ・・・」
「せやなぁ。」
ユメの声も、いつもより少し柔らかい
そんな時間が
しばらく続く――
はずだった
――ダァンッ!!
「・・・・・・。」
銃声
少し遅れて
ドォォン!!
爆発音
「・・・・・・。」
ユメが
ゆっくり
おっさんを見る
「・・・やっぱり何かあったんですかね?」
「まぁ。」
俺は肩を竦める
「ゲヘナやしなぁ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「それで済ませていいんでしょうか?」
「ええんちゃう?」
「よくない気がします。」
「気のせいや。」
「・・・・・・。」
どうやら
納得はしてへんらしい
おっさんはそんなユメを横目に、
虚空へ手を突っ込む
「え?」
ずるり
何かを引っ張り出す
木の棒
その先端に取り付けられた
妙に物騒な金属製の塊
「・・・・・・。」
ユメが
じーっと見る
「なんですか、それ?」
「対戦車用決戦兵器。」
少し間を置く
「刺突爆雷くん。」
「・・・?」
ユメの顔に見事なまでの
【何それ?】
が浮かぶ
「先生とおっさんの故郷でな。」
「究極の馬鹿が考えた。」
「棒の先に対戦車地雷付けて。」
「そのままランスチャージさせよう。」
「っていう兵器や。」
「・・・・・・・・・。」
ユメの表情が引き攣る
「もしかして。」
「先生とアンラさんの故郷って。」
「キヴォトスみたいに戦車砲の直撃に耐える人達が普通なんですか?」
「いや。普通に木っ端微塵になる。」
「・・・・・・・・・。」
ユメの顔がさらに引き攣った
「せやから。」
「ほんまにこれ考えた奴。」
「アホなんよ。」
「・・・・・・・・・。」
おっさんは刺突爆雷くんを肩に担ぐ
「・・・?」
「どこに投げるんですか?」
「何か騒がしい所。」
「・・・それだけですか?」
「せやで。」
「・・・・・・。」
ユメがものすごく微妙な顔をしている
おっさんは気にせず
そのまま、やり投げの要領で
「ほーらヨッ!!」
ぶんっ
刺突爆雷くんが、
青空へ向かって高く舞い上がった
「・・・。」
「・・・。」
ユメと二人
飛んでいくそれを見上げる
「・・・・・・。」
数秒
「・・・・・・。」
さらに数秒
そして
――――ドォォォォン!!!
遠くで
大きな爆発音
その直後
先ほどまで断続的に聞こえていた銃声が
ぴたりと止まった
「・・・・・・。」
ユメが遠い目をする
「・・・あぁ。」
「騒がしい所って、さっきの銃声の所に投げたんですね・・・。」
「せや。」
おっさんは笑う
「まぁ。休みの日くらい。」
「のんびりしたいやろ?」
「・・・・・・。」
ユメが少しだけ黙る
そして
「・・・まぁ。そうですねー!」
ぱっと
太陽みたいな笑顔になる
「せっかくの休暇ですし!」
「事件に首を突っ込む必要もないですよね!」
「せやせや。」
「ゆっくりしましょう!」
「その意気や。」
そう言って二人でまた歩き始める
波の音、潮風、砂浜
今度こそ
静かな時間が戻ってきた
しばらく何も言わずに歩く
こういう時間も悪くない
――ただ
一つだけ
気になった
ほんの少しだけ
感知魔術を広げる
「・・・・・・。」
魔力が周囲へ静かに広がっていく
そして引っ掛かった
「・・・・・・。」
先生
そして
ヒナちゃん
さらに
海岸周辺に展開している風紀委員会の主力
「・・・・・・。」
間違いなく
この辺りで何かやっとる
(ほんまに何しとるんや。)
・・・まぁええか
これ以上詳しく探ったら
藪蛇を突くことになる
何よりここには先生がおる
こんなんで深入りしたら高確率で
【アンラさん!手伝ってください!】
とか言われる
「・・・・・・。」
それだけは避けたい
「見なかったことにしよう。」
「何も知らん。」
おっさんは感知魔術を閉じる
「今日は休暇やしな。」
「アンラさん?」
「ん?」
ユメがこちらを見る
「どうしました?」
「いや。」
俺は海の方を見る
水平線
穏やかな波
そして
「なんでもない。」
「そっか。」
ユメは
また笑う
そのまま
おっさんたちは何も知らないふりをして
静かな浜辺をゆっくりと歩いていった
仕事の合間にセコセコとかき終わり!
前に先生とアンラがディナーデートをしていた時に、
ユメとホシノがテーブルで言っていた、リゾート宿泊券のお話がこれです!
ちなみにこのリゾート宿泊券は、
【丸くなった小鳥遊ホシノ買い物に行く】で、ユメが福引で自分で当てた奴です。
この後、アンラとユメちゃん視点書いて、
数日視点を巻き戻して、先生とヒナちゃん視点を書いて、
この三章の閑話は終了という感じになります!
頑張って書くぞー!