おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

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ばににに!!



おっさん祈願屋の休日 後編

【アラバリゾート・スイートルーム】

 

翌朝

 

カーテンの隙間から差し込む朝日を感じて

おっさんは、ゆっくりと目を開けた

 

「・・・・・・」

 

しばらく天井を見る

昨日は、久しぶりに酒をよく飲んだ

 

(まぁ楽しかったからええけど)

 

「・・・・・・」

 

身体を起こし、隣の寝室の気配を探る

 

「まだ寝とるな・・・」

 

ユメは、まだ起きてないようだった

 

「まぁ、ええか」

 

無理に起こす必要もない

おっさんは、そのままベッドから降りる

 

そして備え付けのキッチンへ向かった

 

「・・・・・・」

 

棚を開ける

 

「お。」

 

インスタントコーヒーが置いてあった

 

「ホテルにしては気が利いとるなぁ」

 

湯を沸かし、カップへ粉を入れお湯を注ぐ

 

「・・・・・・」

 

ふわっとコーヒーの香りが広がった

 

「朝はこれやなぁ」

 

一口

 

「ふぅ、美味い・・・」

 

そのままカップを持ってバルコニーへ出る

朝の海は昨日とはまた違った顔をしていた

波は穏やかで空は青く、遠くの水平線から朝日が昇っている

 

「・・・・・・」

 

椅子に座り、海を眺めながらコーヒーを啜る

 

「静かや・・・」

 

(昨日の騒がしさが嘘みたいやなぁ)

 

そんなことを考えながら

しばらくぼんやりしていると

 

「・・・ん。」

 

後ろから

 

小さな声

 

「ん?」

 

振り返るとそこには

寝ぼけ眼のユメが立っていた

 

「・・・・・・」

 

髪は少し乱れている

そして片手で頭を押さえていた

 

「・・・痛い。」

 

「あー二日酔いやな。」

 

「・・・これが・・・」

 

ユメが苦しそうに眉を寄せる

 

「二日酔い・・・」

 

「せや。」

 

「・・・・・・」

 

「水飲むか?」

 

「お願いします・・・」

 

おっさんは立ち上がり

冷蔵庫から水を取り出してユメへ渡す

 

「ほら。」

 

「ありがとうございます・・・」

 

ユメは両手でペットボトルを受け取る

 

そして、ごくごくと勢いよく飲んでいく

 

「ゆっくり飲み」

 

「はい・・・」

 

しばらくして、ユメもバルコニーの椅子へ座った

 

「・・・・・・」

 

2人並んで海を見る

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

会話はない

ただ朝の海を眺めている

 

しばらくするとユメの表情がほんの少しだけ楽になった

 

「少し・・・楽になりました。」

 

「そらよかった」

 

「昨日のお酒」

 

ユメが少し恨めしそうに海を見る

 

「・・・すごかったですね」

 

「せやな」

 

「私、昨日は全然平気だったんですけど」

 

「飲んでる時はな」

 

「はい・・・」

「朝になったらこれですよ・・・」

 

ユメは頭を押さえる

 

「飲み過ぎました・・・」

 

「まぁ、そこそこ飲んどったからなぁ」

 

「・・・これが二日酔い・・・」

 

「せやで」

 

ユメがしばらく黙る

 

そして

 

「もう、こんなに飲みません・・・」

 

おっさんはコーヒーを啜り

 

「そのセリフ酒飲みなら全員、一回は言っとる名言やな」

 

「・・・・・・」

 

「ただし、その誓いが一切守られへんところまでがセットや。」

 

「えぇ・・・」

 

ユメが露骨に嫌そうな顔をする

 

「私は守りますよ」

 

「どうやろなぁ」

 

「守ります!」

 

「はいはい」

 

「・・・・・・」

 

ユメが、じとーっとおっさんを見る

 

「・・・・・・」

 

「何や」

 

「なんでアンラさんは昨日、私と同じくらい飲んでたのに」

「そんなに平気そうなんですか・・・?」

 

恨めしそうな目

 

「・・・・・・」

 

おっさんはカップを口へ運ぶ

 

「年季や年季」

 

「・・・ずるいです」

 

「経験値の差やな」

 

「そんな経験値いらないです・・・」

 

「そのうち付く」

 

「付けたくないです・・・」

 

「まぁ、そう言うな」

 

おっさんはもう一度コーヒーを啜った

 

「・・・・・・」

 

しばらく2人で海を見る

朝の風が少しだけ頬を撫でていく

 

やがて

 

「・・・・・・」

 

ユメのお腹が

 

ぐぅ

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

おっさんは横を見る

ユメが固まっている

 

「・・・・・・」

 

「お腹空きました・・・」

 

「そうやろな・・・朝飯行くか?」

 

「行きましょう!」

 

即答だった

 

 

 

【アラバリゾート・レストラン】

 

朝の時間帯は昨日の夜と雰囲気がまるで違う

照明は明るく窓から差し込む朝日が店内を柔らかく照らしている

 

そして並んでいる料理もディナーほど豪華ではないけれど

朝食としては十分すぎるほど充実していた

 

目玉焼き、スクランブルエッグ

ベーコン、ソーセージ

焼き魚、温野菜

サラダ、焼きたてのパン

おにぎり

 

そして

 

味噌汁

 

ユメが料理を見る

 

「・・・どれにしよう」

 

「昨日ほど悩まんでええやろ」

 

「でも、いっぱいありますよ?」

 

「まぁな」

 

おっさんも皿を取る

目玉焼き、ベーコン、焼き魚、パン

少しだけ野菜

 

そして

 

「・・・味噌汁」

 

「ん?」

 

「二日酔いには味噌汁ええで」

 

「お味噌汁・・・!」

 

ユメの目がぱっと輝いた

 

「ちょっと取ってきます!」

 

「お、おう」

 

ユメはそのまま味噌汁のところへ

少し急ぎ足で向かっていった

 

「・・・・・・」

 

そして戻ってくる

 

「取ってきました!」

 

「そらよかった」

 

席に座る

 

「いただきます。」

 

「いただきます。」

 

まずユメは味噌汁を持ち上げ

 

ずずずずずっ

 

「・・・・・・」

 

「はぁ~~~~・・・」

 

「どうや?」

 

「美味しいです・・・」

 

「そらよかった」

 

ユメはもう一口

 

ずずずずずっ

 

「・・・・・・」

 

おっさんはそんな様子を見て

思わず微笑む

 

「?」

 

ユメがおっさんを見る

 

「なんで見てるんですかー?」

 

「いやぁ、昨日からほんま楽しそうに飯食うからなぁ」

「微笑ましいなと思って」

 

「・・・・・・」

 

ユメの頬が少し赤くなる

 

「食いしん坊みたいじゃないですかぁ・・・」

 

「お、おぅ・・・」

 

(みたいなんやなくて食いしん坊そのものやけどな・・・)

 

「まぁ・・・楽しそうに食うのはええことや」

 

「・・・そうですけど」

 

ユメは少し照れながら

また味噌汁を飲む

 

ずずずず・・・

 

「・・・・・・」

 

その後も2人でゆっくり朝食を食べた

 

そして食事を終える頃には

ユメの二日酔いもかなりマシになっていた

 

 

 

「今日こそは!」

 

客室へ戻る道すがら

 

ユメが元気よく言った

 

「海行きましょう!」

 

「せやな」

 

「昨日は夕方でしたから」

「今日はちゃんと遊びたいです!」

 

「おう」

 

「約束ですよ?」

 

「分かっとる分かっとる。」

 

ホテルの部屋へ戻り

それぞれ寝室へ

 

「じゃあ着替えてきます!」

 

「はいよ~」

 

おっさんも自分の寝室へ入り着替える

今回はちゃんと水着を持ってきている

 

前にリゾート島へ行った時ズボンで行ったら

後日セイアから、それはもう、長々とした嫌味を言われた

 

「・・・アンラ、キミの知性の水準を疑うような設問で申し訳ないが、」

「人の形を成した霊長類が、なぜわざわざ砂浜という開放的な環境において、」

「戦術的擬態を強制されるようなミリタリーショーツを着用し、」

「さらにそれを海水へと晒すという暴挙に出るのか、」

「その心理的機微を私に論理的かつ説得力をもって説明してくれないかい?」

 

「――もちろん、答えられなくて構わない。」

「なぜなら、そこには何ら高次な論理的整合性など存在せず、」

「ただ【思考の省力化を図った結果の、環境適応不全】という客観的事実が残るのみだからね。」

「幾重にも張り巡らされたポケットという名の無駄な意匠が、」

「潮風と海水によって重圧へと変貌し、」

「キミの歩容を滑稽なものに貶める様を想像するだけで、」

「退屈な書類仕事の優れた清涼剤にはなったが・・・」

「ああ、安心したまえ。」

「これ以上、キミのプライドの残骸をすり潰すような野暮な詮索はしないでおこう。」

 

・・・思い出すだけで

 

「ミカの気持ちが理解できてしまうくらいにはやかましかったなぁ・・・」

 

そのため今回は普通の海パンを買ってきていた

 

「まぁこれで文句ないやろ。」

 

着替え終わり、リビングへ戻り

しばらく待っていると

 

「・・・・・・」

 

寝室の扉が開いた

 

「お待たせしました。」

 

「お。」

 

ユメが出てくる

黒を基調としたハイネックタイプの水着

腰には薄手のパレオが巻かれている

 

「・・・・・・」

 

おっさんは一瞬だけユメを見る

この水着、前に見たことがある

 

ホシノ達とリゾート島へ行った時のものやった

けれどこうして改めて見ると

 

「似合っとるやん。」

 

「・・・・・・」

 

ユメが固まり

 

「・・・・・・」

 

そして耳まで少し赤くなり

 

「・・・ありがとうございます。」

 

小さな声で呟くようにお礼を言う

 

「ほな、行こか」

 

「はい!」

 

2人でホテルを出る

 

 

【アラバ海岸・ビーチ】

 

昨日も歩いた海岸

けれど昨日とは何もかもが違って見えた

 

昨日は夕方前から散歩し、夕日が海を赤く染めていた

 

今日は真っ青な空、強い日差し

そしてどこまでも続く青い海

 

「わぁ・・・」

 

隣からユメの声が漏れる

 

「・・・・・・」

 

その顔を見れば

楽しみにしていたんやなぁ、とすぐに分かった

 

「そんなに海好きやったんか?」

 

「好きですよー」

 

ユメは海を見つめたまま答える

 

「昨日は眺めるだけでしたから、今日はちゃんと遊びたいんですよね♪」

 

「せやな~」

 

おっさんも海を見る

 

「ほな、今日は一日、海で遊ぶか」

 

「はい!」

 

その返事が妙に嬉しそうだった

 

2人で砂浜を歩き波打ち際まで来る

 

「・・・・・・」

 

ユメが足先だけ、そっと海へ入れる

 

「冷たい・・・」

 

「まだ朝やからな」

 

「でも・・・」

 

もう一歩、さらに一歩

 

「気持ちいいです。」

 

ユメはそのまま振り返る

 

「アンラさん」

 

「ん?」

 

「早く来てください!」

 

「おっさんも入るんか?」

 

「遊びに来たんですよ?」

 

「まぁ、そらそうやな」

 

おっさんも海へ入る

膝、腰、そして胸元まで

 

「・・・・・・」

 

波が身体へ当たる

 

「おー、気持ちええなぁ」

 

「でしょう?」

 

ユメが笑う

 

そして、そのまま

少し深いところへ泳いでいく

 

「おいおい、どこまで行くんや」

 

「遠泳です!」

 

「もう始まっとるんかい」

 

「アンラさんも来てください!」

 

「はいはい。」

 

おっさんも後を追う

波を掻き分け青い水の中を二人で泳いでいく

 

しばらく並んで泳いだら、やがてユメが

 

「・・・・・・」

 

ちらっと

 

おっさんを見る

 

「・・・・・・」

 

「なんや?」

 

「競争・・・」

 

「・・・・・・」

 

「ここから、浜辺まで勝負しませんか?」

 

「おー言うようになったなぁ」

 

「負けませんよ?」

 

「ほな、やろか」

 

2人、スタート地点を決める

 

「いきますよ!」

 

「いつでもええで」

 

「よーい・・・・・・スタート!」

 

同時に海を蹴る

 

「・・・・・・!」

 

ユメが思った以上に速い

 

「おー、やるやん」

 

「ふふっ・・・!」

 

ユメが少し得意そうに笑う

 

けれど

 

「・・・・・・」

 

おっさんはその横をすっと追い抜く

 

「えっ!?」

 

「・・・・・・」

 

「ちょ、待ってください!」

 

「勝負やからなぁ」

 

「待ってって言ってるじゃないですか!」

 

「それはもう勝負ちゃうやろ」

 

「ずるいです!」

 

「何がやねん」

 

「大人げないです!」

 

「おっさん大人やからな」

 

「そういう意味じゃないです!」

 

ユメが必死に追ってくる

 

そして浜辺へ到着し、おっさんが先に砂浜へ上がる

 

「はい、おっさんの勝ち」

 

「・・・・・・」

 

ユメが肩で息をしながら、こちらを見る

 

「・・・悔しい」

 

「そない本気で悔しがる?」

 

「悔しいですよ・・・」

「もう一回!」

 

「お?」

 

「次は絶対勝ちます!」

 

「はは、ほなもう一回やな」

 

それから何度か勝負をした

 

もちろん、結果は・・・

 

「・・・また負けた」

 

「せやろな」

 

「・・・・・・」

 

「もう一回!!」

 

「まだやるんかい」

 

「次こそです!!」

 

「元気やなぁ」

 

「だって悔しいですから!!」

 

そんな調子で何度も泳いだ

そのうち勝負なんかどうでもよくなって

2人で波に揺られながら、ぷかぷか浮かぶ

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

空を見上げる

視界には真っ青な空、白い雲

そして遠くには水平線

 

「・・・・・・」

 

「なんか」

 

ユメがぽつりと言う

 

「こうしてると、時間が止まったみたいですね」

 

「せやなぁ」

 

「アビドスに戻ったら、また忙しくなりますし」

 

「はぁ・・・そうなるやろなぁ・・・」

 

「だから」

 

ユメが少しだけ笑う

 

「今は、いっぱい遊んでおきたいです。」

 

「・・・ええと思うで」

 

「はい!」

 

そのまま2人でしばらく海に浮かぶ

 

――しかし

 

「・・・・・・」

 

突然、ユメがおっさんへ水を掛けた

 

「ぶへ・・・何しとんの?」

 

ユメは、にこっと笑う

 

「さっき私を追い抜いたので、その仕返しです!」

 

「・・・ほぉ、そういうことするんか」

 

「えへへ、しますよ~?」

 

「・・・・・・」

 

おっさんも手で水を掬う

その瞬間ユメの顔から笑みが消える

 

「・・・アンラさん?」

 

「なんや?」

 

「それ、やめません?」

 

「何が?」

 

「その手」

 

「・・・・・・」

 

「水を掬ってますよね?」

 

「せやな」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

次の瞬間

 

ばしゃっ!

 

「きゃっ!?」

 

ユメの顔へ海水がかかる

 

「ちょっ!」

 

「はは、」

 

「アンラさん!」

 

「先にやったんはユメちゃんやろ」

 

「これは反則です!」

 

「海で水掛けて反則も何もないやろ」

 

「あります!」

 

「ないない」

 

「ありますってば!」

 

ユメも負けじと

 

ばしゃっ!

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

2人しばらく無言で水を掛け合う

 

ばしゃっ

 

ばしゃっ

 

ばしゃっ

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

やがて2人とも疲れて

その場で笑い出した

 

「ふふっ・・・」

 

「ははは・・・」

 

「もう、」

 

ユメが息を整えながら言う

 

「何してるんでしょうね」

 

「休暇らしいことやっとるんやろ」

 

「・・・それもそうですね」

 

その後も浅瀬で波に追いかけられたり

 

砂浜へ戻って波が来るたびに足を取られたり

 

ユメが

 

「見てください!」

 

と貝殻を拾ってきたり

 

おっさんが

 

「それも食うんか?」

 

と言って

 

「食べませんよ!?」

 

と怒られたり

 

そんな他愛もない時間を二人で過ごした

 

そしてしばらくして2人とも浜辺へ座る

 

「・・・・・・」

 

ユメが濡れた髪を手で整える

その顔には満足そうな笑みが浮かんでいた

 

「・・・・・・楽しかったですねー」

 

「せやな」

 

「昨日も楽しかったですけど、」

「今日は・・:もっと楽しいです」

 

「そらよかった」

 

「・・・・・・」

 

ユメは海を見る

 

「こういう時間、ずっと続けばいいのになぁ」

 

「・・・・・・」

 

おっさんも同じ海を見る

 

「まぁ、そういう訳にもいかんけどな」

 

「ですね。」

 

それでも今だけは

2人とも何も考えずに、ただ海を眺めていた

 

 

――その時だった

 

 

「うわあぁぁんっ!!」

「こんなの、こんなの私にどうしろって言うんですかぁっ!?」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

おっさんとユメが同時に声のした方向を見る

 

「・・・・・・」

 

昨日、風紀委員会がせっせと設営していた

 

あのテント

 

その方向から

 

明らかに

 

アコの絶叫が聞こえてくる

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、そっと海へ視線を戻す

 

「・・・・・・聞かなかったことにできへん?」

 

ユメは少し考えて

 

「・・・でも、大変そうですよ?」

 

「・・・・・」

 

「助けましょうか」

 

「・・・・・・」

 

おっさんは深いため息を吐いた

 

「・・・しゃーないなぁ」

 

「行きましょうか」

 

「はいよ」

 

二人で浜辺を歩く

さっきまでの楽しかった空気が

少しずつ現実へ引き戻されていく

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

そして近付くにつれて

聞こえてくる声がどんどん鮮明になっていく

 

「だから無理ですよぉ!!」

「こんなの私一人でどうしろって言うんですかぁ!!」

 

「・・・・・・」

 

おっさんは思わず額を押さえる

 

「やっぱり、アコやなぁ」

 

「あはは・・・」

 

ユメも苦笑している

 

やがて昨日風紀委員会の生徒たちが設営していたテントが見えてくる

 

その前には

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

先生、そして

イオリ、チナツ、アコ

 

4人が揃って頭を抱えていた

 

「・・・・・・」

 

なんやこの光景

 

先生がおっさんの姿を見つけた瞬間

ぱっと顔を明るくする

 

「"あ!アンラさ――"」

 

そこまで言って先生の視線がおっさんの隣へ移る

水着姿のユメ、その横には同じく水着姿のおっさん

 

「"・・・・・・・・・"」

 

先生の顔から表情が抜け落ちた

 

「・・・・・・」

 

なんや、この空気

 

「先生?」

 

「"・・・ううん、なんでもないですよ?"」

 

笑っている

 

笑ってるけど

 

なんか、ちょっとだけ機嫌が悪そうだった

 

「・・・・・・」

 

おっさんは取り敢えず気付かなかったことにし

 

「で、何があったん?」

 

「"・・・・・・"」

 

先生が疲れ切った顔で口を開く

 

「"ヒナがストレスを溜めてたから数日休ませようと思ってね。"」

「"ホテルでちょっと騙すような形で休息を取ってもらってるんだけど。"」

 

「ほーん」

 

「"でも今、このアラバ海岸がゲヘナで一番ホットな場所になっててね・・・"」

 

「は?・・・どういうこっちゃ?」

 

先生が指を折りながら説明する

 

「"まず、二個大隊規模のヘルメット団とスケバンの連合部隊"」

 

「・・・・・・」

 

「"次に、アラバ海岸近辺を爆破して採掘しようとしてる温泉開発部"」

 

「・・・・・・・・・」

 

「"さらに観戦場所を巡って別地域のスケバン同士が銃撃戦"」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「"そして大通りのど真ん中で営業を始めた美食研究会の焼きトウモロコシ屋台"」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

おっさんは空を見上げる

 

「・・・なんやそれ・・・」

 

ほんまになんでそんな事になっとんねん

昨日、焼きトウモロコシを買った時は普通に屋台やっとったやろ

 

「・・・・・・」

 

ユメも少し困ったような顔をしている

 

「これ休暇中に起きる規模の騒ぎ・・・なのかな・・・」

 

「おっさんもそう思う」

 

「ですよね・・・」

 

先生がおっさんへ視線を戻す

 

「"だから・・・アンラさん、これ何とか出来ませんか?"」

 

おっさんは少し考える

 

「うーん・・・」

「流石に他所の自治区でこの規模の戦闘に堂々と参加するんはなぁ・・・」

「アビドス側の政治的な隙を作ることになりかねん」

 

「せやから、表立っては動きにくいわ。」

 

先生が少し残念そうな顔をする

 

「"そうですよね・・・"」

 

先生とおっさんがそんな事を話している

 

その時

 

「方法も何も!!」

「こんなのどう解決しろって言うんですかぁ!?」

 

アコがが頭を抱えたまま叫ぶ

 

「ゲヘナで一番静かな海岸とは何だったんですか!?」

「今やゲヘナで一番ホットな場所ではないですか!!」

 

その瞬間

 

「なるほど」

 

静かな声が先生とおっさんの背後から聞こえた

 

「鉄床戦術の状態ね」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

先生とおっさんが同時に振り向く

そこには、ホテルで休んでいる筈のヒナが立っていた

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

2人同時に頭へ手を当てる

 

「あぁー・・・」

 

「・・・・・・」

 

アコは、ヒナの声が聞こえた事に

疑問を持つことなく作戦を考え続ける

 

「い、言われてみれば・・・確かにそうですね!」

「流石は委員長です!」

 

「・・・・・・」

 

先生がそっと目を閉じる

おっさんも見なかったことにしたい

けど、もう遅い

 

アコは完全に作戦立案モードへ入っていた

 

「となると、この状況を打開する戦略は籠城ではなく」

「美食研究会、ヘルメット団、スケバン」

「それに温泉開発部・・・数は多いけど連携が取れているわけじゃない。」

「ヘルメット団とスケバン集団の指揮命令系統もそれほど確立されていないはず・・・」

 

「まずは包囲網の隙間に割り込む。」

「となると取るべき戦術は・・・電撃戦」

 

「そう。」

 

ヒナが頷く

 

「相手は円形包囲網で来るだろうけど、その何処か一点を電撃戦で突き崩すのは難しくない。」

「そこからはいくらでもやりようがある。」

 

「なるほど・・・!」

 

アコがぱっと顔を輝かせる

 

「流石は委員長です!」

「一発で解答が見つかりました!」

 

「では!作戦を実行します!」

「すべては委員長の――」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

そこでようやく思考が追いついたのかアコが止まり

イオリ、チナツの3人揃って完全に無言になる

 

「・・・・・・」

 

おっさんも無言

 

先生も無言

 

ヒナがため息をつく

 

「ふぅ・・・」

 

ヒナがアコを見る

 

「アコ?」

 

「あ・・・は、はい・・・」

 

「訓練が、どうしてこんな事になっているのか、」

「その話は、また後で。」

 

「・・・はい。」

 

アコの顔が死んだ

 

そしてヒナはこちらへ向き直る

 

「アンラさん」

 

「・・・ん?」

 

「貴方に確かセクハラの時に出来た借りがあったよね?」

 

「あー・・・あれな」

 

おっさんは苦笑する

 

すると隣から妙に冷たい視線が刺さる

 

「・・・・・・」

 

ユメがおっさんを見ている

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

なんやろ、めっちゃ怖い

 

「・・・アンラさん」

 

「ん?」

 

「セクハラって・・・何をしたんですか?」

 

「・・・いや、それはやな」

 

「・・・・・・」

 

ユメの目がさらに細くなる

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「いやぁ、色々あってなぁ」

 

「・・・そうですか」

 

絶対納得してへんし

むしろおっさんを見る目が明らかに変わった

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「まぁ、それは今度説明するから」

 

「・・・本当に?」

 

「ほんまや」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

ユメはしばらくおっさんを睨んでいたが、

やがて小さく息を吐く

 

「分かりました。」

 

「助かったわ・・・」

 

ヒナが静かに言う

 

「それで、手伝ってくれる?」

 

「・・・・・・」

 

おっさんは少し考える

 

「表立っては動けへん」

「でも、後方支援くらいなら出来る」

 

「十分」

 

ヒナが頷く

 

「何をするの?」

 

「ここから爆発物を投げる」

 

「・・・・・・」

 

先生が

 

「"爆発物?"」

 

と呟く

 

「おぅ、これや」

 

おっさんは虚空へ手を伸ばし

 

そこから一本、また一本と

木の棒に金属がくっついただけのような物体を取り出す

 

「刺突爆雷くん」

 

「・・・・・・」

 

「昨日も投げてたやつや」

 

「・・・・・・」

 

先生が遠い目をする

 

「"昨日急にスケバンの戦線が爆散した理由・・・・"」

 

「せやで」

 

ヒナは刺突爆雷を見て

 

「それでいい」

 

即答だった

 

「分かった」

「ほなそっちが包囲食い破った後、輪っかが繋がらない様に邪魔する様に投げとくわ」

 

「お願い」

 

ヒナが風紀委員会へ向き直る

 

「全員、戦闘準備」

「行こう。」

 

「はい!」

 

「了解!」

 

「了解です!」

 

先生もその後へ続く

 

「"じゃあ、行ってくるね。"」

 

「おう、まぁ頑張ってな」

 

四人が一斉に走っていく

 

しばらくその背中を眺め

 

「・・・・・・」

 

やがて

 

遠くから

 

ドドドドドドドドッッ!!!!

 

ヒナのデストロイヤーの銃声が鳴り響く

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

おっさん思わず

 

「これ、おっさんら出て来んでも、なんとかなったんやないか?」

 

ユメも少しだけ苦笑する

 

「かもしれないですね・・・」

 

「せやろ?」

 

「でも、手伝うって言っちゃいましたし」

 

「まぁそうやな・・・」

 

おっさんは刺突爆雷を一本空へ投げる

 

「・・・・・・」

 

さらに一本

 

「・・・・・・」

 

もう一本

 

「・・・・・・」

 

上空へ飛んでいった刺突爆雷がやがて敵陣へ落下する

 

「・・・・・・」

 

遠くの方で爆発音が鳴り響く

 

ドゴォンッ!!

 

「・・・・・・」

 

「もう一本」

 

投げる

 

「・・・・・・」

 

「もう一本」

 

「・・・・・・」

 

「もう一本」

 

「・・・・・・」

 

そんな調子でおっさんは淡々と刺突爆雷を投げ続けた

 

十本

 

二十本

 

三十本

 

四十本

 

そして五十本ほど投げ終えた頃、

戦闘音が消えた

 

「・・・・・・」

 

海岸に静寂が戻る

 

空を見上げれば太陽も沈みかけていた

 

「・・・終わったみたいやな」

 

「そうですね・・・」

 

しばらくして、遠くから人影が見えてくる

 

「・・・・・・」

 

イオリ、チナツ、アコ

 

その他の風紀委員会所属の生徒達

その誰もが見るからにボロボロだった

その中で一人だけやたら元気なのがいる

 

「・・・・・・」

 

ヒナ

 

「・・・・・・」

 

おっさんは思う

この子、ほんまに休ませる必要あったんか・・・?

 

「アンラさん」

 

ヒナがこちらへ来る

 

「ありがとう、助かった。」

 

「おう、おっさんは大したことしてへんけどな」

 

「十分」

「私たちは今日はこのまま訓練に入るから」

「また何か私が手伝えることがあったら連絡して」

 

「おー、まぁ機会があれば声かけさせてもらうわ」

 

「じゃあ、また」

 

ヒナが歩くだけでフラフラな風紀委員会を連れてその場を離れていく

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

残ったのは

おっさんとユメと先生

 

先生が何やら言いにくそうにこちらを見る

 

「"・・・・・・"」

 

「どうしたん?」

 

「"えっと・・・"」

「"アンラさん・・・"」

 

「おん?」

 

「"アンラさんとユメさんは・・・"」

「"ここのホテルに一緒に泊まってるの?"」

 

「せやで。」

 

即答

 

「"・・・・・・"」

 

先生の表情がほんの少し固まる

 

ユメが補足する

 

「先生も一緒に居た、あのデパートの抽選で当たったリゾートホテルの宿泊券」

「ここだったんですよ。」

 

「"あぁ・・・"」

 

先生が納得したような顔をする

 

「"そういうことだったんだ。"」

 

「せやね。」

 

「"・・・・・・"」

 

けれど

 

その表情がほんの少し

引っ掛かっている

 

「"・・・・・・・・・"」

 

たぶん同じホテル同じ部屋

そこまで考えている

 

まぁ説明する必要もないやろ

 

「ほな、おっさんら、そろそろホテル戻るわ。」

 

「"はい。今日はありがとうございました、アンラさん。"」

 

「おぅ、気にすんなー」

「ほなまたな」

 

先生と別れる

 

 

 

そのままユメと二人

ホテルへ向かって歩く

 

「・・・今日は色々ありましたね」

 

「せやなぁ」

 

「朝は海で、昼から夕方は戦闘」

「休暇とはなんなんでしょうね・・・」

 

「知らん。」

「おっさんも知りたいわ。」

 

「ふふっ」

 

ユメが楽しそうに笑う

 

「でも、楽しかったです。」

 

「そりゃよかったなー」

 

「海も、昨日のご飯も、今日も」

「全部」

 

「・・・・・・」

 

「また、来たいです。」

 

「また仕事がひと段落したら休み取ってくればええんよ」

 

「・・・」

 

ホテルが見えてくる

 

「そういえば」

 

ユメが何か思い出したように言う

 

「アンラさん」

 

「ん?」

 

「温泉、また行きません?」

 

「おぅ、ええよー」

 

「それでですね・・・」

 

「うん・・・?」

 

「奥に・・・混浴あるじゃないですか・・・」

 

「・・・は?」

 

ユメが顔を赤くしている

 

「いや、あんのは知っとるけど・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「水着」

 

ユメが慌てて続ける

 

「水着着用で入れるらしいですし!」

「このまま!」

「水着で入りましょう!」

 

「はぁ・・・」

 

おっさんが深いため息をついた

 

(まぁこのホテル自体、ユメちゃんが当てたもんやし)

 

「やりたいようにさせるかぁ」

 

「本当ですか?」

 

「しゃーない」

 

「やった!」

 

ユメが嬉しそうに笑う

 

そのまま2人でホテルの中へ

そして大浴場へ向かう

 

 

【アラバリゾート・大浴場】

 

脱衣所

 

海水を落とすためシャワーを浴びる

身体についた砂を流して

髪も軽く洗う

 

そして、そのまま

露天風呂へ

 

「・・・・・・」

 

夜の露天風呂

 

照明は控えめで空には星が輝いていた

 

遠くから波の音が聞こえる

 

そのさらに奥

 

案内板が立っている

 

【混浴露天風呂】

【水着着用可】

 

「・・・ほんまにあるな」

 

その先へ進む

 

そこには少し離れた場所に男女どちらからでも入れる

 

小さな露天風呂があった

 

そして

 

「・・・・・・」

 

ユメがもう入っていた

 

肩まで浸かって

 

顔はほんのり赤い

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・アンラさん」

 

「ん?」

 

「来ましたね」

 

「おう、せやな」

 

「・・・・・・・・・」

 

「そない緊張せんでもええやろ」

 

「・・・・・・」

 

「海と状況一緒やん」

 

「違います!」

 

即答

 

「お風呂はお風呂で恥ずかしいんです!」

 

「・・・・・・」

 

おっさんは心の中で思う

 

(いや、恥ずかしいんやったら)

(そもそも混浴に誘わんかったらええのに・・・)

 

「・・・・・・」

 

言わない

口から出そうもんなら絶対しばかれる

 

「・・・・・・」

 

おっさんも湯へ入り

肩まで浸かる

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

2人、しばらく何も言わず

 

ただ、湯の音と波の音だけが聞こえる

 

「・・・・・・」

 

ユメが小さく息を吐く

 

「・・・気持ちいいですね」

 

「ええ湯やなぁ」

 

「今日は本当に色々ありましたけど」

「最後がこれなら・・・悪くないです」

 

「せやなぁ・・・」

 

しばらくして、ユメが

 

ぽつり

 

「・・・また」

 

「ん?」

 

「また一緒に来たいですね」

 

「・・・・・・」

 

おっさんは夜空を見る

 

「まぁ、直近で色々ありそうやから」

「それが終わったら、また来るか・・・」

 

「・・・・・・」

 

「今度は、おっさんから誘うわ」

 

「!」

 

ユメが顔を上げる

 

そして

 

ぱぁっと、本当に花が咲いたみたいな笑顔になる

 

「はい!約束ですよ!」

 

「おう」

 

「絶対ですよ!」

 

「分かった分かった。」

 

「ふふっ」

 

ユメが嬉しそうに笑う

 

夜の海から

 

涼しい風が吹いてくる

 

湯気が静かに夜空へ溶けていく

 

「・・・・・・」

 

その横で

 

二人は

 

ただゆっくりと

 

湯に浸かっていた

 




祈願屋の休日終了!

今の祈願屋は事務処理能力の高かったセイアが抜けたこともあり、
元の地獄に戻ってるので、休憩が終わって待っているのは
都市部開発当時くらいの書類地獄ですね。

どっちも人間辞めてるんで、過労死はしないので頑張ってもらいましょう

そして、アンラがヒナにしたセクハラってのは、
アビドス編でヒナが初登場した時に、
アンラが、ヒナに疲れてない時は人相もよくなってたやろって突っ込んだ時の奴ですね!


さて、それでは、次のお話は
今回のこの祈願屋の休日の裏側、
というより、ゲームで言うなら、イベントの
風紀委員会行政官緊急特務命令ヒナ委員長のなつやすみっ!をお送りしたいと思います。

なんせまぁ、ヒナちゃんエデン条約でなんだかんだで心身共にかなりのダメージを負ったのでね。
休養も必要でしょう。
アンラ視点から見た結果、そんなん要るん?って感じでしたけど・・・ね。

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