「やっ、調子はどうですかね」
後ろからドミトリー・ジェーヴシキンの手元を覗き込んだ。
彼はナイフを整備していたようで、その灰色が目に映った。
「邪魔をするな」
こういったのは勿論彼である。
やはりというか、当然と言うべきか……。私は彼に嫌われてしまっているようである。
たぶん私の能力に不安を覚えているのかなと思う。
現に彼はマルファさんも同様に嫌悪しているようだ。
「ところで今日の授業って何するんでしょうね。近接だったら私は嬉しいですよ。頭を使うのも好きなんですけど、身体を動かすのも好きなので」
この数週間で気付いたのは、思ったよりも他の隊員たちが有能だということだろう。
ジェーヴシキンさんが疑問視しているマルファさんも同様だ。
そして、誰かが特別抜きんでている訳でもない。
強いて言うなら、カラーモフさんだろうか? まだあんまり会話の弾まない人だ。
「俺は頭の方が好きだ。お前とはあわん」
「へえ、何が好きですかね。私は基本どれでも好きですよ」
これ以降ジェーヴシキンさんには無視されてしまった。
どうやらこれ以上は会話に応じてくれないようだ。
ああ、何て冷たい……。
さて、ジェーヴシキンさんとの関りは今のところこれでよいだろう。
わざわざ悪感情を引き出すのも得策ではないだろうしね。
それに善い人なのかはまだ分からないが、彼だけに注視しているわけにもいかない。
手が足らんよ、これは。
でも、カレーニンさんから頼まれたのだしね。
……まだまだ頑張ってこ。
空が青いなと思った。
確かあの空は積乱雲というのだったろうか?
「ふふふ、私の勝ちだね」
差し出されたマルファさんの手を掴む。
これでもお仕事で近接格闘もやってるのにな、と少しの悔しさがあった。
たぶん彼女の運動能力が優れているか、鈍ったのだろう。
「勝てると思ったんですけどね」
「アンナちゃんは軽いからね。そう軽すぎるんだよ」
笑った調子で言われたことは少しショックだった。
やはり年齢差というべきか、対格差というべきか……。これは埋めがたい。
……だとしても、そう易々と投げられるのは癪だ。
「もう一回ですよ。もう一回」
他の部隊員を見る。ジェーヴシキンさんはケーレルさんと組んでいるようだ。カラーモフさんは他の分隊員とやっている。
特に思うことと言えば、ジェーヴシキンさんは反射神経が強いのかなと思う。
ケーレルさんはよく分からない。カラーモフさんは教本通りな感じだ。
「よし、今度も勝って見せよう」
マルファさんの煽りに乗っかることにした。
決して何か情動があった訳ではない。
結局のところまた投げ飛ばされてしまった。
ちょっと足を引っかけたりと小技を弄したのだが、対格差の前にはどうしようもなかった。
そうだな……しいて言うなら魔法だろうか? 対格差に依存しない武器を有さないといけない気がした。