第二分隊の中で一番単純な人というと、レフ・カラーモフさんだろうと思う。
実際彼とはあんまり話したことがない。
彼に価値がないというと、たぶん嘘になってしまうんだけど、優先的に関わる必要性には欠けていた。
しかし、彼自体には疑いの目を向けていることは、嘘偽りのないことだった。
さて件の青年カラーモフさんであるが、彼は目前で暇そうに教科書を眺めている。
「数学の予習ですか?」
目があった。
怪訝そうに顔を顰めた。
……全く失礼だ。
「数学に不安がある感じですか?」
「……ない」
「ええ、本当ですか?」
何とも嘘っぽい言葉を疑う。
彼の実際の成績は知らないが、凄惨だとは聞いたことがない。
「私が勉強を見ても良いですよ。これでもこの分隊だと、一番か二番には勉強ができる自信があります!」
根拠のない自信なのだけど、教鞭を振るえる自信自体はあった。
再び目が合う。少し先程よりは目が開いている。
「問題はないんだが」
「ああ、えっ?」
呆れたような言葉に、こちらが戸惑ってしまう。
仮に先程の言葉が真だとすると、あの間は何だったというのか……。
少し苦手な人かもしれない。
「暇をつぶせそうと思ったのに、残念です」
はあ、と溜息を吐くように言う。
カラーモフは教科書を閉じ、こちらに差し出した。
「それじゃあ教えて貰おうか」
「ええ、ええ、よかろうというものです」
*
レフ・カラーモフ自体について、特段評価を変えるべき出来事はなかったと思う。
彼が有能か無能かというと、どちらかというと確かに有能ではある。
しかし、彼が内務局の同僚であるならば、何かにかこつけて排除していた可能性が高い。
だって、私が反革命の方に居たら絶対に利用するもん。
理解力があることは認める。
けど、如何せん応用力がないよね。うん。
……ああ、でも彼自体は有用かもしれない。
価値がないという評を改めるべきだろう。
「教えるの上手いな」
カラーモフさんがそのように言った。
あんまりそのような実感はなかったが、褒められたことは純粋に受け入れることにした。
「ありがとうございます。でも、カラーモフさんが凄いだけですよ」
さて、一体彼をどのように利用すべきだろうか。
まだ私は完璧に彼を制御できるとは限らないが、まあ大丈夫だろう。
「私あんまりカラーモフさんと話したことなかったですけど、本当に面白い人ですね」
「まあ、そうだな。俺は別の分隊の方に仲がいい奴が多いし」
近頃気になる噂を聞いたことがある。
ある人達が不法な通信機を持っていると。
現実にそうだ。内務局との通信のノイズが多すぎた。
しかし、これで外との交流経路を得た。
「そうだとしてもです! これからはよろしくお願いしますね」
差し出した手を、彼は確かに握った。
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