内務局員アンナはお掃除をがんばります!   作:朝日橋立

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十三話め 貴方の可愛い後輩アンナです!

 イヴァン・アレクセイという名前を聞いたのはつい先日だった。

 砲兵科二年、民生工場長の子らしい。

 尊敬されるべき身分の子供は、どうやら何かやましいものを抱えているようだ。

 

「先輩、ご一緒してもよろしいですか?」

 

 このように声をかけて彼の表情を見る。

 一瞬の鋭い視線があった。

 

「ああ、いいよ。君はカラーモフの分隊の子だったかな?」

 

「はい、先日ぶりですね」

 

 彼とカラーモフさんとの間に繋がりがあったことに、感謝するばかりである。

 どうやらカラーモフさんは入学前の友人があっちの方にいて、それに端を発した関りらしい。

 

「授業では習ってるんですけど、あんまり砲兵さんというのを私理解できてないなって感じがして……。お話が出来たらなって思いまして」

 

「士官の方だったけ。君はやる気がある子だね」

 

 長机の隣に腰を掛けた。

 彼をちらっと見ると、目があった。

 

「どうしました?」

 

「いや、君は何を聞きたいんだ?」

 

「えっと、そうですね。……制圧効果なんかを知りたいんですけど、たぶんこれはあんまり聞いちゃダメですよね」

 

「いいや、君も冬に見ることになるからいいよ」

 

「冬に何かあるんですか?」

 

「総合火力演習があるんだよ」

 

 総合火力演習。諸兵科連携の訓練をしようということだろう。

 なるほどこれは聞いたことがなかった。

 

「へえ、いつもの訓練を大きくした感じですかね?」

 

「俺はそっちの方は知らないけど、まあ似たようなものだよ」

 

 アレクセイさんはこの間に、あんまり瞬きをしていなかった。

 これが緊張によるものにはどうにも思えない。

 

 ……サンクト・ピーテル出身だったろうか。

 あそこはあれの支持基盤もまだ残っている。

 

 レフ・ルイコフ。

 世界永続革命論者でかつ連邦最大の敵。

 まさに赤軍の汚点であるとよく言われたものである。

 

 さて、イヴァンさんへの疑惑が始まった要因は、彼があまりにも外を知りすぎていることであった。

 しかしルイコフ派だと考えると、全くこれは納得できる。

 

 あれらほど軍部での権力を求めてる勢力もない。

 そもそも地盤があるのだ。

 ルイコフが赤軍の創始者であるがゆえに。

 

「私気になってきました。えっと、そうですね……。あっ、もうこんな時間。開いてる時間ってありますか?」

 

 イヴァンさんの顔を見上げて言った。

 彼は頷いて口にした。

 

「夜の方は空いてるよ」

 

 

 

 *

 

 

 

 結局のところ昼と夜の接触を通して、確証は得られなかった。

 しかし、何らかのことは隠しているのではという疑問は深まった。

 それも、彼が出身をヤウザだと偽った事実がある。

 

 本当は怒られる行為なのだが、今は宿舎から抜け出している。

 砲兵科の宿舎にやっと辿り着いたところで、通信機の帯域を変えていく。

 

 やっと聞こえてきたのはモールス信号だった。

 ……端的に言うと、意味が分からなかった。

 数字と文字の混ざった羅列。

 

 ……ああ、暗号文か。

 流石に解読は容易ではないか。

 一つの小さな希望で、記憶の彼を頼ってみても首を横に振った。

 

 一度溜息を吐いて元の道を戻っていく。

 

「ああ、ああ、こちら七五、七五」

 

「七七、七七」

 

「砲兵の落とし物があった」

 

 それから簡単に次回の時間と帯域なんかを交換して通信を終えた。

 

 さて、どうにも面倒な調査になる予感があった。

 しかし、同時にこれは絶対的に解決しなければならない事由だ。

 汚れは排除されなければならないし、善人のふりをした悪人は存在してはいけない。

 そして、その悪性は広がらせてもいけない。

 

 一度汚れた雪を、雪原から取り除いて同じになるとは言えない。

 だが、その一つの汚れを排除しない理由にもならない。

 ただ徹底的な清掃の理由にはなる。

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