はあ、と息を吐くと真っ白なものが昇っていく。
手袋をつけているというのに、指先は痛いほどに冷えている。
「それにしても暇だね」
「そうですねー」
こんな風にマルファさんと話しているのも、演習が始まって早々に撃破判定を言い渡されたためだった。
運動をしていても寒くないということはないが、如何せんじっとしているのは辛いものがある。
現にケーレルさんなんかは、小刻みに揺れている。
はあ、と息を吐く。
これはどちらかと言えば溜息に近い。
こんな寒いところで苦しんでいることもそうだし、近頃中々うまくいかないことが多いこともそうだ。
「おーい、死体ども。お前ら塹壕掘れよ。ポイントネモの辺りで」
「はあ、行こうぜ」
溜息がちに歩き始めたカラーモフの後を追う。
首都ヤウザから程遠いカートランドのはずれ。晴れていれば遠方に、大きな山脈が見えたことだろう。
「あっ、死体さん達ですか?」
暫く歩いていると、このように声をかけてきたのはヘルメットを目深に被った青年である。
「第三小隊102分隊。分隊長カラーモフ以下五名──」
「ああ、それはいいよ。それで、仕事なんだけどもね。ここからあそこまでずっと塹壕を掘ってほしくって」
示された距離に、また溜息が出そうになる。
しかし、今度は頑張って耐えた。全く偉いものだろう。
元はと言えば、大体先輩の責任である。
彼の間違った戦術指揮の為にここにいる。
だのに彼は人手不足と早々と復活した。
……歩く死体、ゾンビだ。
ただ文句を言っていても物事は好転しないもので、スコップを手に取って地面を削っていく。
掘るというよりも、やはり削るだ。踏み固められた雪は相当に硬いし重い。
「はあ、やばい。だいぶ疲れたかも」
十分の一も終わってないのに弱音を吐いたのはマルファさんだった。
実際私も少し疲れ始めていた。
私はどっちかというと肉体労働より、知能労働が得意なタイプなのだ。
確かに内務局でも色々歩き回った。だけど、全く私を分かってない業務だったに違いない。
ちょっと考えて嵌めるだけの仕事で、褒められたのは嬉しいんだけども!
ぶーぶーと心中小言を繰り返している。
少し額に垂れた汗を、風が冷やしていく。
ぶるりと身体が震えた。
汚くなった雪を掬って遠いところへとぽいっとする。
綺麗なままだったら幾分も楽しいのだが……。
「おーい、追加の死体が来たぞ」
こんな風に話しかけてきたのは、やはり先程命令を下してきた青年だった。
死体と呼ばれた人たちは気だるげに歩いてきた。
「第三小隊105分隊。レフ・ルージン以下六名です」
こんな風に名乗った彼らと、仕事を分担することになった。
ところで105分隊は砲兵科だったろうか?
「砲兵さんですか?」
こんな風にレフさんに声をかける。
彼は一瞬戸惑ったようだが返してくれた。
「はい、そうですね」
「最初の方は実包撃ってた気がしますけど、それからは何してたんです?」
「空砲をちょこちょこですね。たださっき砲撃受けちゃって」
「ええ移動間に合わなかったんですか?」
「いや、アレクセイ先輩の進言でね」
どうやら聞いたことのある苗字が出た。
もう少し会話を続けることにする。
「ええと、二年のアレクセイ先輩ですかね?」
「ああ、うん。知り合い?」
「はい。えっとこの前お話をしてですね。あっ、自己紹介まだでしたね。アンナ・ヴロンスキーです」
私は彼に手を差し出した。