内務局員アンナはお掃除をがんばります!   作:朝日橋立

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十六話め アナタの知っていることを教えてください!

「なるほど……。理解しました」

 

 手渡された紙を返す。

 目深に帽子を被った教官らしい人は、それを受け取ると礼をしてすぐに背中を向ける。

 

 銃を構えなおしてから、ヘルメットに触れる。

 手袋の先に硬いものを感じた。

 

「ふう」

 

 息を吐いてから、再び木の間を歩いていく。

 遠いところには薄っすらと光が見えるが、あれは前進陣地である。

 暫く後ろの警戒陣地はここからでは見えない。

 

 ちらちらと雪が枝葉の隙間を縫って落ちてくる。

 何度目かも分からないが肩の雪を下ろす。

 随分と軽くなったように感じて、また遠くばかりを見る。

 

 人の気配のない林間に、少々物寂しさを感じる。

 人の多いところは好きだ。そもそも人も好きだ。

 話すことは楽しい。雪みたいな綺麗な感情を、言葉から感じるのが好きだ。

 

 でも……。

 まあ、いいだろう。

 

「こんばんは、交代ですよ」

 

 暫く歩いてから警戒陣地へと舞い戻ってきた。

 マルファさんの頬を叩いて彼女を起こす。

 

「ええ、もう」

 

 薄っすらと目を開けた彼女は小さく零した。

 気持ちは痛いほどに分かる。

 

「今日は一等寒いですから気を付けてくださいね」

 

「ええ、そんな!」

 

 絶望したとばかりの彼女を少し笑いつつもヘルメットを外す。

 ペタンと潰れた前髪を感じた。

 

「紅茶でも淹れて待ってましょうか?」

 

「うーん、嬉しいけどアンナちゃんは寝といて。朝からあんまり寝れてないでしょ」

 

 昨日は確かに少し眠れなかったところがある。

 それも理由はと言えば、遠い砲声がうるさかったからである。

 

「それじゃあお休み」

 

「頑張ってください」

 

 見送ってから寝床に着く。

 土の臭いを感じつつも、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

 さて。

 手紙の内容を整理しよう。

 もっとも整理する必要はないほどに簡潔なものであったが、これを再び理解することにはなる。

 

 結論としてはイヴァン・アレクセイは黒だった。

 これは何か確かな証拠があった訳ではないが、上の方がこれは怪しいと判断したのである。

 仮に彼が白だったとしてもこの時点で黒だ。

 

 そして、彼の一派自体にも嫌疑が掛かった。

 学校へと帰ったらどうにも大きな仕事をすることになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

 久方ぶりに内務局の制服を着るのが、このようなことだとは予想はしていなかった。

 確かにこういった可能性はあったのだが、無視をしていたと言えるかもしれない。

 

「えっと、君はアンナだよね」

 

「はい、レフ・ルージン砲兵科一年」

 

 全くこの行為の必要性は感じない。

 だが、上の方曰く本人の証言以外にも欲しいらしい。

 それで適当に関わりのある砲兵の名前を出したらこれだ。

 

「さて、唐突にはなりますが、私は特にあなたの善良さを疑っているところではありませんよ」

 

 既に少々疲れがある。

 これで何人目だったろうか……。

 途中から数えるのをやめているから分からない。

 

「それじゃあ君はなぜ僕を呼んだのかな」

 

「これはある一つの仕事として、と言うべきなのでしょう。しかし実際に言葉にした方が早いものです。イヴァン・アレクセイとその一派を私たちは、反革命の一派であると考えています」

 

「なっ……」

 

 言葉を失ったと言う様子だ。

 実際それにも疑問はない。

 

「そこに掛けてください。今からの言葉は全て記録されますから、考えて発言していただけるとこちらも嬉しいです」

 

 いまだ納得していない様子であるが、彼は腰を掛けた。

 このとき抵抗するようだったら、黒と確定を出されるものだから彼は賢いものだ。

 

「難しいことを抜きに問いかけましょう。貴方は党の敵に加担しましたか?」

 

「してない!」

 

 一瞬視線をやると、書記がカタカタとペンを走らせている。

 彼と視線が合った。

 

「しかし、そうとは思えない。我々はある通信を傍受しました。内容はと言えばいうことも憚られるものです」

 

 彼の側まで寄って手を握った。

 

「けど、私にはアナタがそんなことをするとは思えません。ですから協力していただけませんか。ただ、イヴァン・アレクセイは反革命だったと言っていただけばいいんです」

 

 …………暫くして書記と目があった。

 存外に仕事はすぐに終わった。

 

 やはりあの通信に何かあったのだろうか……。

 全く自分たちの組織を信用できていないというべきか、あるいは純情というべきか。

 

 リストを見ると、やっと終わりが見えてきた。

 しかし、この内何人かは既に極東へと送られてしまった。

 どうやら私が担当していない何人かは、致命的なことを吐いたらしい。

 ……それを吐かせた手法は知らないが。

 

 レフ自体も始末はどうなるものだろうか。

 まあ、他と同じく配置転換で終わりだろう。

 これから彼を殺す証言が出ないのであれば。




余談
タグに「女主人公」「戦争」「成り上がり」タグを追加しました。
ネタバレ的タグ追加は憚られるものですが忘れないうちにね。
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