「分かりますね?」
こんな風に声をかける。
椅子に縛り付けられた男は軽薄な笑みを浮かべている。
理解ができないと宣言するような顔だった。
「気持ちよかったですか? 革命家を気取るのは」
まとめられた調書をパラパラとめくる。
案外欲しい証言は得られていたようだ。
他の局員の尋問はやはりうまいのだろうか……。自信失くしちゃう。
「革命に対する革命の罪と言うべきでしょうか? イヴァン・アレクセイ先輩」
パタンと閉じた調書の束を机に置いた。
しかし、黙ったままのアレクセイさんはこちらばかりを見た。
「いやあ、私は貴方の可愛い後輩としてというべきか、あるいは一つの役職をもってしてか……。少しばかりの協力を欲してましてね」
「それじゃあ、可愛い後輩としてで頼もうかな」
「ええ、ええ。承知いたしました」
尋問。といっても、申し訳程度のものだ。
これに意味はない。
まあ、私も一人の仕事人なのだね。やはり。
「じゃあ、お願いです。死んでください」
「そういわれて死ぬ人間はいないものだろう」
「ここは先輩の気概を持って聞いて欲しかったものですよ」
どうにも一応の会話が必要なようだ。
書記の方からも睨まれてしまった。
……記録に残さないでくれると嬉しいが。
「さて、レフ・ルイコフはよく知っている名前でしょう。犯罪者です」
「犯罪者ねえ」
「事実でしょう。結局のところ何事も運とごくわずかな視点によるものです」
対面するように腰を掛けた。
何か暴力的な手段を用いてもいいのだが、全く可哀そうに思えたところがある。
どうせ死ぬのだ。無為な拷問は結局趣味になる。私にそんな趣味はない。
「それなら少しばかりの慈悲が欲しいものだ」
「それは出来ませんよ。運が悪かったとしても、貴方は明確にその汚れに与したのでしょう。だったらこうなるのも当然のことです」
「与してないと言いたいところだが」
「言うのなら自由ですよ。この国では法律の定める範囲での自由が認められてます」
髪の毛を弄りながら会話を続けた。
少し伸びてきたかもしれない。
「そうですね。一つの慈愛……。まあ趣味なんですが遺言でも聞いてあげましょう」
「これが終わったら殺されるのかな?」
「形式上の裁判があります。判決はまあ知っての通りです」
「そうか……。それじゃあお前は狂ってるとでもいおうかな」
「私、ですか?」
全く理解が出来ない言いがかりだった。
私ほど仕事に真面目な人間も珍しいだろうに……。
「ああ、お前だとも。お前は悪魔だ。神に裁かれるだろうさ」
「共産主義者が悪魔だ、神だとお笑い話ですか?」
「お前もこの国も、病理に侵されているんだ。ペストだ。まさにペストだ。黒く染まった手足に気付いてないだけだ」
そうだとしたら何だというのだろうか?
私はあくまで掃除をするだけだ。
いうなれば白血球だろう。
例え腐り落ちても、それは今の話ではない。
「ああ、でも私は病原菌を排除しているじゃありませんか。いずれ快癒するかもしれませんね」
*
ことの顛末である。
久方ぶりの仕事の成果と言えば、何人かの捜査員と犠牲と幾つかの死体。
いつも通りのことではあるが、かなりの無駄があったというのが事実だろう。
実際アレクセイさんがルイコフの一派だったのは概ね事実だったようだ。
そしてルイコフが新大陸の方で潜伏していることも、噂では聞いていたがやはり事実。
あとはアレクセイの日記にはよくジェール国の名前が出ていた。
近頃は何て名乗っていただろうか……。
そう! 大三ジェール帝国だ。
あっちの党員が暗殺された云々を聞いたものだ。
しかしながら、どうにも直接的繋がりを見つけることは叶わなかった。
上の方はどうやらルイコフ一派がファシズムの走狗と喧伝しているが、その裏は取ることが出来ていない。
全く嘆かわしいものである。
「はあ」
こんなため息を吐くと、ジェーヴシキンさんと目があった。
彼は少し目を逸らしたように見えた。
「どうかしましたか?」
「いいや、何もない」
「そうですか」
紅茶を口にした。
上の方から仕事の報酬とばかりに貰ったクッキーを手に取った。