内務局員アンナはお掃除をがんばります!   作:朝日橋立

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閑話三 思い出の話です!

 とても大きなものを握っていることが分かった。

 滑らかな先にある突起を確認すると、ゆっくりと引き金を引く。

 パンと鳴ったのは確かにそれで、腕が跳ね上がった。

 

 キーンと耳の奥で煩いのが木霊してる。

 的から外れた一発は地面を抉っていた。

 

 少し疲れてしまって、一度拳銃を置いた。

 黒い塊は確かにそこにある。

 

 しばらく頭の奥で煩い声がする。

 もっとしっかりと狙えと。

 それに頷いて再び手に取って、揺れる先に的を見る。

 

 またパンと音が鳴ると、今度は何も抉ることなく弾は飛んで行った。

 次は再び地面を抉った。次は的を掠った。その次はまた飛んでいく。また地面で跳ねた。次に的の端に穴をあけた。

 

 

 

 *

 

 

 

 昏い欲望の存在を教えてくれたのは、記憶の中に居る彼だった。

 私にはあんまり理解のできないことだったが、もっとも何か生物学によるものらしい。

 思えばお母さんのお客さんが持ってたそれも、一種の昏い欲望であったのだろう。

 

 ところで、私自身に何か欲望があるかと言うとあんまりない。

 もう雪が街中に残っていないことを惜しむ程度である。

 

 初めての仕事は案外呆気なかった。

 そして、大して魅力も感じなかった。

 一つの弾丸が消費されたばかりで、しかし人命の損失はないのだからそれなりに僥倖だろう。

 

 二回目の仕事はあんまりよい記憶がない。

 けれど、可愛らしい少女だとは思った。

 もし死んでいないのならどんな顔をしていたのだろうか?

 

 死んだら死ぬのが世界の法則だ。

 これも惜しいことではあった。

 

 ……死体は結局は肉の塊だ。

 それによって感情を動かされるのは不思議でしかない。

 そして、それに欲情するというのもあんまり理解の範囲にはない。

 

 ……一つ考えて納得する考えを得れた気がする。

 彼らは彼女に夢を見たのだろう。

 昏い時代への復古。帝政復古の夢を、あり得ないながらにどうしても描いてしまった。

 帝室の血が国を作るのではないだろうに、全く不思議な妄執である。

 

 嬉しいことがなかったかというと、あんまりなかったと思う。

 頭の中の彼はよく褒めてくれる。

「生きているだけで偉い」というのは何度だったろうか……。

 

 あと局員さん達もよく褒めてはくれる。

 しかし、どこかで軽蔑されているように思われた。

 

 この原因をナスターシヤさんに聞いたことがあった。

 どうやらこの仕事をやる私が不気味だという。

 同業者を恐れる質なのだろうか……。

 

「おい、お前」

 

 呼びかけられた声に目を向けた。

 確か名前はベズノフさんだったろうか。

 

「名前はなんていう?」

 

「アンナ・ヴロンスキー三等捜査官です」

 

 ほうほうと彼は言いながらつま先から顔へと視線を動かした。

 ……なるほど。

 この視線は知っている。

 記憶の彼と答え合わせをしなくても良いだろう。

 

 全く理解のできない種の欲望だ。

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