とても大きなものを握っていることが分かった。
滑らかな先にある突起を確認すると、ゆっくりと引き金を引く。
パンと鳴ったのは確かにそれで、腕が跳ね上がった。
キーンと耳の奥で煩いのが木霊してる。
的から外れた一発は地面を抉っていた。
少し疲れてしまって、一度拳銃を置いた。
黒い塊は確かにそこにある。
しばらく頭の奥で煩い声がする。
もっとしっかりと狙えと。
それに頷いて再び手に取って、揺れる先に的を見る。
またパンと音が鳴ると、今度は何も抉ることなく弾は飛んで行った。
次は再び地面を抉った。次は的を掠った。その次はまた飛んでいく。また地面で跳ねた。次に的の端に穴をあけた。
*
昏い欲望の存在を教えてくれたのは、記憶の中に居る彼だった。
私にはあんまり理解のできないことだったが、もっとも何か生物学によるものらしい。
思えばお母さんのお客さんが持ってたそれも、一種の昏い欲望であったのだろう。
ところで、私自身に何か欲望があるかと言うとあんまりない。
もう雪が街中に残っていないことを惜しむ程度である。
初めての仕事は案外呆気なかった。
そして、大して魅力も感じなかった。
一つの弾丸が消費されたばかりで、しかし人命の損失はないのだからそれなりに僥倖だろう。
二回目の仕事はあんまりよい記憶がない。
けれど、可愛らしい少女だとは思った。
もし死んでいないのならどんな顔をしていたのだろうか?
死んだら死ぬのが世界の法則だ。
これも惜しいことではあった。
……死体は結局は肉の塊だ。
それによって感情を動かされるのは不思議でしかない。
そして、それに欲情するというのもあんまり理解の範囲にはない。
……一つ考えて納得する考えを得れた気がする。
彼らは彼女に夢を見たのだろう。
昏い時代への復古。帝政復古の夢を、あり得ないながらにどうしても描いてしまった。
帝室の血が国を作るのではないだろうに、全く不思議な妄執である。
嬉しいことがなかったかというと、あんまりなかったと思う。
頭の中の彼はよく褒めてくれる。
「生きているだけで偉い」というのは何度だったろうか……。
あと局員さん達もよく褒めてはくれる。
しかし、どこかで軽蔑されているように思われた。
この原因をナスターシヤさんに聞いたことがあった。
どうやらこの仕事をやる私が不気味だという。
同業者を恐れる質なのだろうか……。
「おい、お前」
呼びかけられた声に目を向けた。
確か名前はベズノフさんだったろうか。
「名前はなんていう?」
「アンナ・ヴロンスキー三等捜査官です」
ほうほうと彼は言いながらつま先から顔へと視線を動かした。
……なるほど。
この視線は知っている。
記憶の彼と答え合わせをしなくても良いだろう。
全く理解のできない種の欲望だ。