十八話め 軍人さんですよ!
「はっ?」
帽子を机に置いて、目前の人物に目を向ける。
彼の名前は知らない。
そもそも内務局からの潜入者と、変に関わり合いを持って芋づる式に露呈するのが一番まずいからである。
「だから、ここにスパイがいる」
「その論拠は?」
「街に潜伏してるジェール人が吐いた」
「潜伏者の名前は?」
「知らん。黙秘を続けてる」
全く面倒な仕事を持ってくるものだ。
どうにかして彼だけで解決をしてほしいものだ。
彼も同僚なのだから。
「それで、他に情報はないんですか?」
「ない」
……一六歳の誕生日プレゼントがこれだとは全く不幸がすぎる。
お偉いさんたちめ! 現場のことを考えておくれよ……。
*
「いやあ、寒いね。アンナちゃん」
「そーですねー」
遠方を見つつ適当にマルファさんに応える。
ヤウザ士官学校を卒業して暫く。私たちは西の方で軍役をしている。
と言っても中央に召還されるまでの少しの間だけであろう。
現場を知る目的に近い。
しかし、軍学校と比べて特別変わったことがあるかというと微妙である。
例えば名前の後ろに少尉が付くことであったり、あとは分隊が散り散りになったことばかりである。
こっちの方に配属されたのは私と、マルファさん、そしてケーレルさんの三人だ。
ああ、少尉というと内務局の方でも名前の後ろが変わることになった。
この前までは二等捜査官だったのだが、あちらでも同様に少尉にあがった。
二階級特進ってやつである。……死んではないが。
この昇進……。赤軍も内務局も恐ろしいと言ったのは記憶の彼だった。
私自身はあんまりここから離れることを望んではいないが、どうやら彼は違うらしい。
卒業するしばらく前に、この国から出て行こうと促してきた。
まあ、無視をしているのだけどね。
「そっちは良い感じ?」
「どうでしょーね。あんまり分かんないです。上から渡されたものに名前書くだけですし」
「あー私も」
中間管理職と言えば都合よいのだが、結局は名目上の仕事である。
小隊の前に立つこともそれなりにあるが、今は戦争もないのだからそれほど忙しくもない。
しかし、何かしがらみが出来たとでもいうべきだろうか……。
自由はあんまりなくなったような気もする。
「……そういえばなんですけど、たばこって吸ってましたっけ?」
少し気になったので彼女の手にしたものを指摘する。
火のついたそれに一度口をつけてから答えがあった。
「うーん、最近かな。アンナちゃんも吸う?」
「やめときますよ」
記憶の彼が健康に悪いと言い出すのもそうだし、他にも隠れづらくなるという理由もある。
煙の臭いは案外残るものだろう。
「あっ、そうだ。週末って暇かな?」
「うーん、どうでしょう。今はまだ予定はないですね」
「お酒って好き?」
「えー、あんまりですね。辛いじゃないですか」
「そっかー」
「ケーレルさんでも誘ってくださいよ」
こんな風に話していると、小走りで男が近づいてくる。
彼は部下である。
「どうしました?」
「失礼します、ヴロンスキー少尉。中隊長がお呼びです」
「了解です。マルファさん、失礼しますね」
さて、中隊長のもとに赴く道すがら幾つかのことを考えていた。
どのようにして内憂を排除すべきかだとか、あるいはもっとどうでもよいことである。