ゆったりと紅茶を淹れてから書類に目を通す。
これに書かれたものと言えば、何がこの小隊に与えられたとかそういったことばかりである。
たいして前の基地と変わらないこれらの書類に、少しばかりの嫌気が差しつつも暖炉へと目を向ける。
サンクト=ピーテル軍管区旗下の小隊に移ってからというもの、始まった戦争ではこの小隊は戦闘行為を行っていない。
これは何か邪な理由があった訳でも、そして私の卑怯、臆病によるものではない。
駐屯部隊というのがほど近い。
先鋒の部隊は元々こっちの軍管区の部隊が担当して、結局私たちはバックアップ、後詰の部隊である。
しかし、遊ばせているのもということなのだろう。
私たちは住民の管理もほどほどにしていた。
……ほどほどである。
パトロールという名の買い物であったり、世間話に過ぎない。
これらはまた別の部隊の本職であるのだからね。奪うわけにはいかない。
「はあ」
大きくため息をついてから上着を手に取った。
つい先日ピョートル中隊長から頂いたこれは、あんまり暖かくはないのだが折角の貰い物だ。ただ捨てるだけではもったいない。
貰った家から出て、見慣れたご近所と挨拶をする。
徴収された家に来た外国人を受け入れてもらえるのは嬉しいが、しかしそう単純なものでもないだろう。警戒するに越したことはない。
「数はそろってますか?」
「ああ、ヴロンスキー少尉。数えたところ問題はありません」
「なるほど……。あれは?」
「さあ? こちらには載ってません」
軍曹の書類を見ると、私が知っていることばかりしか書いていない。
こんな沢山の何かを納入する予定は知らないのだが……。
「失礼。アンナ・ヴロンスキー少尉です。これは?」
「ヴロンスキー少尉、申し遅れました。輜重部隊のロン曹長です。こちらは前線部隊への補給物資です」
「補給物資ですか? 現地から徴発したものでどうにかなってると聞きましたが」
「……失礼します」
曹長は小さな声で説明を続けた。
少しこそばゆいので突然はやめてほしいものだ。
「どうやら旅団規模の戦車部隊が現れたらしく。……所属はおそらくジェールです」
「なるほど……。あちらからの宣戦布告はなかったと記憶してますが」
「バトル陸軍に巧妙に偽装されているみたいです」
「はあ、撃滅したものが出てくるですから、ほぼ確定したようなものですか」
戦争の最初期の辺りだろうか。
一個旅団の戦車部隊を撃滅したというのを噂で聞いた。
実際連戦連勝を続けているらしく、それも事実なのだろうと勘繰っていた。
「この街はどれくらいで出ます?」
「そうですねー。馬次第です。少々疲労も溜まっていて、おそらく今日明日では難しいです」
「了解です。何か困ったことがあれば言ってください。ある程度手助けします」
「それはありがたいです」
*
「うわー、寒いですね」
手袋の先の冷気に、顔を顰めながらお茶を淹れた。
席に座ったケーレルさんは、お茶菓子を口にしている。
「いやー、冬に戦争なんてありえないよ、ほんと」
彼は文句を、それはそれは嫌そうに口にする。
この街に駐屯する駐屯部隊の一つは彼の小隊だったのである。
これは中々の僥倖で、学生時代の話で花を咲かそうと計画したのだ。
「最近はほんと寒さが染みます。皆さんお酒を沢山飲みますし、中々面倒な季節ですよ」
「あー酒ね。飲んでるかい?」
「いやあ、私はあんまりです」
「そうか、そうか。俺が秘蔵のワインを開けてやってもいいぜ」
「遠慮します。渋いだけじゃないですか」
「分かってないね、お前は」
たわ言を言いあいつつ、お茶をすする。
あんまり美味しいものではないが、とても渋く出してある。
理由はというと、こうした方が飲む量を減らせるからである。
「そういえば、なんか知らんやつら見たけど、あれはなんなんかね」
「ああ、恐らく輜重じゃないですかね。今朝話してまして」
「ああー、輜重。補給が破綻でもしたかな」
「さあ? ここでは聞こえるのは噂ばかりです」
「あれはいつまでいるか知ってるか?」
「えーと、あんまり長くはないらしいですね」
「へー。あっ、そういえばあれってどうなった配置転換」
「私はもうずっとここですね」
ケーレルさんは残念そうに頭を下げた。
本当に残念そうな姿だ。
「俺はもうちょい前線の街だ」
「ああー、でももうそろそろ戦争も終わるでしょうし、それまでの辛抱ですよ。殺されないでくださいよ、住民も恐ろしいものですからね」
*
……夜のことである。
大体三時がもう少し過ぎたところで通信を受け取った。
曰くこちら側の動きがあちらに、バトルに露呈している可能性がある。
補給路の襲撃と、攻撃への対応が早まっているらしい。
しかし、任されたことといえば、レジスタンスを掃討しろというものだ。
いるかも分からないスパイを探す仕事でなくて助かった。
ただ、レジスタンスか……。これも中々に厄介だ。
余談
こことなろうに加えて、カクヨムさんでも連載します。
あちらには少し苦手意識があるのですが、アカウントも持っているので折角ですからということで上げます。