暴動の鎮圧を頼まれたのは今朝で、向き合う暴徒に溜息を吐いたのはさっきだった。
ここまで幾つかの紆余曲折があった。
例えば現着したタイミングで小隊の指揮権を制限されたり、そしてついには現場から離れた普段の仕事をしろと言われたり……。
いやね、しかし中々あの憲兵隊も酷い人達だよ。
確かにあの隊長さんは上官ではあるが、些か酷いのではなかろうか……。
それにこれでも私は将校なのだが……どうして孤立させられているというのか。
もしかして嫌われてしまったろうか。
よくよく考えればそうだろう。
この前の尋問の計画も、他のレジスタンス対策の計画も幾つも却下されている。
一体私が何をしたというのか……。これほど熱心に仕事をしているのに。
「よう」
手を挙げて近づいてくる人がいた。
よくよく見知った顔の人である。
「……つい先日ぶりですね。この街は出たのでは?」
「いや、退役するんで旧友に会いに来ようかとな」
正気を疑う発言だった。
そしてその素振りもなかったゆえの驚愕である。
「えっ、辞めちゃうんですか? 折角士官学校も出たのに……」
「いやあ、どうにも俺にはここが合わんかったみたいで……恥ずかしい話だけどな」
「退役したら何やるんです?」
「そうだな……。田舎に帰って、また大学に入る勉強でもするよ」
「そうですか……」
少しながら悲しさもある。
四年を過ごした友人が遠い所へに帰ってしまう。
勿論死んではないのだから会えるが、しかしこの悲しさも仕方ないものだろう。
「何か餞別を、と思いましたが何か欲しいものありますか?」
「じゃあ、これでも貰おうかな」
「あー、別に構いませんが特にいいものではありませよ」
彼が手に取ったのはつい先日買ったペンである。
二束三文のものであるが、それなりに使うことができた。
「お返しだ」
彼は机に黒い瓶を置いた。
ブドウの絵が大きく書かれている。
「赤ワインですか?」
「とっておきさ」
「それじゃあまた夜にでも飲みますね」
……無視をしていた。
ああ、無視をしていたとも。
小さな違和感だ。
私の記憶違いの可能性もあれば、そして単なる勘違いの可能性もある。
彼はこれほど信用のできない顔をしていただろうか?
初めて会った日と同じの、気の良い、奇妙な、優等生じみた隣人の顔だ。
「……一つ聞きたいことがあります。よろしいですかね」
彼は頷いた。
わざとらしい演技を感じた。
なにか殉教して列聖されることを確信する聖職者のような、そんな恐るべき、唾棄すべき愚者の演技だ。
「貴方は私たちの味方ですか?」
「当然だろう。俺はお前と俺たちの分隊の味方だ」
*
「……なるほど」
ことが終わったらしく、小隊のもとへと帰ってきた。
綺麗だった大通りの雪は、赤黒い染みばかりが目立った。
「戦闘でも起きましたか?」
派手に殺し過ぎると住民からの反感を買う。
暴力を振るわな過ぎてもダメなのだが、しかしこれはもっとだめだ。
虐殺だ。反感を買いすぎる。
「いえ、何といいましょうか。バトル国軍の戦車部隊がここを強行突破し、レジスタンスを弾いていったと言いましょうか」
「どういうことです?」
意味が分からない発言である。
戦車もそうだし、そして強行突破し何処へ行くのかという話だ。
「実際それが全てでして……。幽霊のように現れて過ぎ去って行ったんです」
大通りを見る。
血に汚れた、汚い道だ。
……使える。これは使える。
戦車部隊はこの際どうでもいい。
しかし、この道は使える。
「カメラを持ってきてください。そして、こことあそこと、……そうですね、あそこからも撮ってください」