具体的にいうと、性的描写の示唆があります。
今日も今日とて曇った空を見上げる。
もうすぐ雪が降り始めるだろうか?
そう考えると、今日の仕事終わりが楽しみだ。
今日の仕事は孤児院への潜入だった。
聖フランコ孤児院は旧体制時代の名残らしい。
ナスターシヤさん達の捜査も芳しくなく、私に潜入しろと命令が下りた。
というのも、私は年齢も年齢だから容易に孤児院へと潜入できるのだ。
実は今年で十一歳になる訳だからね。
さて、目の前で椅子に座る女性はシスターさんのような調子だ。
宗教的なものは身に着けていないが、何だか目の奥に厭な光がある。
「これまでどうやって過ごしてきたの?」
彼女は恐る恐るというように聞いた。
全く私を疑っている様子はない。
「えっと。親戚のおじさんのお家で」
拙いように言葉を並べる。
頭に思い浮かべたのは初めて逮捕したおじさんである。
彼はいけ好かない奴だった。
私を連れ込んですぐに殴られた驚きは忘れられない。
「そこで沢山叩かれて、怖くって……」
この渾身の演技は決まったと思い、シスターさんの方を見る。
彼女は同情するように目に涙を浮かべている。
この演技の為に腕につけた打痕を彼女にちらっと見せる。
まあ、というように口を覆うのだから面白い。
これはあのおじさんに殴られた意義もあったなと思う。
ちなみに、そのおじさんにはお酒も飲まされそうになった。
ヤバいなと思って銃をばんっと撃つと、すぐに大人しくなったので私に銃の素晴らしさも教えてくれた。
「もう安心して。ここは新しい家よ」
シスターさんは私を抱きしめた。
それに身体を震わせる。これは驚いたためだった。
手の先に銃の存在を認識してから、弱く抱き返す。
……服が随分とさらさらしている。絹だろうか?
この人は善良に思えるが、違うのかもしれない。
実際今見てみると、肌艶も良い。
観察をしていると、シスターさんは満足したのか私の手を引いて歩き出した。
孤児院の中は質素というよりも、金欠という様子が強い。
廊下の壁紙の一つに、不自然に綺麗な箇所があった。ちょっと前までは絵画があったのだろう。
「院長先生と面談をしましょう。きっと受け入れて頂けます」
シスターさんは私を院長室と書かれた部屋に通した。
ここは成金趣味を感じた。
お金の流れがよく分からない。
院長先生と呼ばれた男はこちらを一瞥すると、分かりやすく笑顔となった。
私が次に絵を描くとき、彼を参考にすることだろう。
「君、名前はなんて言うんだい?」
「えっと、アンナです。ずっとおじさんの家に居て、それ以外は分からないです。ごめんなさい」
大人しく本名を名乗ることにした。
嘘の中に真実を混ぜた方が信じられるらしい、という言葉を思い出したためだ。
シスターさんが院長さんに耳打ちをした。
彼は悲し気な顔をすると、私を抱きしめた。
私は大体肩にかかるくらいに髪を伸ばしているのだが、彼は私の髪をその手で掬った。
「困ったことがあったらおじさんに頼りなさい」
院長さんは耳元で囁いた。
いまだ彼は髪を撫でている。
私自身、こういった人種は得意ではない。
母のお客さんを思い出すためであるが、仕事だからある程度我慢をしないと……。
そう! 我慢して、終わったらまたクッキーでも買って帰ろう!
よし、やる気が出てきたぞ。
「部屋に案内してあげましょうか」
シスターさんがそう言うまで、私は院長さんに抱きしめられ続けた。
その間何度か銃を触れたが、これは盗まれていないかを確認するためだった。
案内された部屋は六人部屋で、他の五人の子供たちも揃っていた。
顔を見ると、とても苦労してそうだなぁと思う。
「アンナです。しばらくお願いします」
子供だけになった部屋で頭を下げる。
全員が私を遠巻きに見ていた。
仲良くはしてくれないらしい。少し悲しい。
……とりあえず夜に院長室に潜入しようかな。
何か見つかるといいな。ここは少し気が滅入ってしまう。
*
闇夜に紛れて院内を歩くのはそう、私です。
何だかこういった所の夜は怖くてあまり好きじゃないなって思う。
キシキシと小さくなってしまうのは床が悪いだろう。
これでバレてしまったらと考えると冷や冷やする。
……最悪はもう銃を撃っていいだろう。
本来の計画では汚職の証拠を見つけて、外で待機してる局員と合流するというものだ。
しかし、臨機応変に対応することが必要だろう。
銃を確認してから院長室の扉を開ける。
静かな室内に安堵してから電灯をつける。
室内の沢山の引き出しに、やはり溜息が漏れる。
仕方ないと割り切って資料に適当に目を通し、外れを投げ捨てることを繰り返した。
結果としてそれっぽい資料はなかった。
人身売買か売春の斡旋とかが見つかると思ったが、それ相応の隠蔽をしてるらしい。
「何本骨折ったら吐くかな」
面倒になって院長さんを探すことにした。
資料を吐かせるか、あるいは認めるまで頑張ってみようか。
こんな簡単な解決策があったのに、どうして無駄なことをしていたのか……。
内務局らしい方法で解決が出来たのに。
疲れた疲れたと、思いながら部屋を出たところで、視界が回った。
電灯が視界に映っている。
院長さんの顔がぬっと現れて、押し倒されたことに気付いた。
なるほど。どうやら警戒を忘れていたらしい。
これは大変だなと思う。
「驚いたよ。会いに行ったのに」
「私も驚きましたね。どいてもらえますか?」
「どうしてさ」
これは困った。
……手は動かせるし、いけるね。
「もう一度言いますよ。善良なあなたの隣人として。どいてくれませんか?」
院長さんは何も答えなかった。
二度銃声が響いた。私がいえるのはそれだけである。
*
「無事解決してよかったですね!」
暗くなった空からは雪がしんしんと降っている。
指揮をとってるナスターシヤに声をかけた。
「大丈夫だったの?」
彼女は心配するように声を発した。
無事情報は手に入れたために頷いた。
今回は人身売買と自白も引き出せたのだから万々歳だろう。
多少の反省文は免除されるはずだ。
それに汚れを排除できたと考えると、清々しい気分ですらあった。
私はやはり掃除が好きらしかった。
シスターさんが連行されているのが見えた。
彼女と目が合う。
何だか恨めし気な目に思えた。
善良な人がそのような目をすることは理解ができる。
でも、善良でない彼女がその目をするのが不可解だった。
「どうかしたんですか?」
「お前を呪ってやる」
短い言葉にやはり不可解は深まる。
善人が一度の悪で裁かれるのに、どうして悪人が裁かれないことがあるんだろう。
「本当に厭な汚れだなぁ」
そんな言葉が思わず口から出ていた。
自重したのですが嫌な要素がだいぶ残りました。