「いやー、中々うまくいかないもんですねー」
気の抜けた声に苛立ちを覚え、そのヘルメットを叩きつけた。
コンと鈍い音が鳴る。
「それでどうするんですかね。大佐」
「今、考えている。邪魔をするんじゃない」
「それは今朝も聞きましたぜ」
やはりこの男は癪に障る男だ。
もとはと言えば、この作戦も癪に障る。
大佐はイラついたように貧乏ゆすりを繰り返す。
バトル共和国への義勇軍団はたった二個旅団である。
その内一つは防衛線の末に壊滅し、今は彼の旗下に移った。
「我々は怨霊らしいですし、やっぱり怨霊らしく戦いましょうぜ」
これは我々義勇旅団につけられたあだ名というべきものだった。
突如出現し、破壊的打撃を行う。
まさに怨霊部隊である。
「縁起の悪い名前だ。全く」
大佐は熱心な無神論者である。
旧ジェール帝国の王権神授説ですら疑っていた。
彼が信じていたのは端正で、正確な軍部独裁こそを信仰していた。
その彼は亡霊を嫌っていた。
これはジェール帝国の亡霊であるし、そして今の政界に座るピエロの小男である。
彼はまさに帝国の亡霊、悪霊である。
「我々はこの森を突破し、前線への復帰を目指す」
「正気ですかい? これは無理があるでしょう。森の兄弟の案内なしに行ったところで、さらに状況を悪くするだけでしょうよ」
「それじゃあ他に何がある」
「いつも通りアカどもの物資を頂いて、味方がくるのを待てばいいでしょうよ」
「それじゃダメなのだ。じきに我々は完全に孤立する」
アカの亡霊はついには前線を食い破ろうとしている。
まさに飽和的攻撃によって。
反撃をしようにも惰弱なバトル国軍では勝ちようがない。
大佐は行き詰っていた。
進むも引くも、留まるのも全てが地獄への片道券である。
加え、彼らへのアカの圧力も強まっている。
襲撃に即応する部隊が幾つか出来ていた。
現状はいまだその部隊を挫く能力は有している。
しかし、もはや戦車に継続的戦闘能力はなかった。
捨ておくことも考えたが、足を捨てることは出来ない。
「……我々はあと何回戦える?」
「規模によるもんですが、砲弾を集めれば二回は戦えることでしょうよ」
「……そうか。一つ作戦を思いついた」
大佐は広げた地図に線を描き足した。
現在地から南下し、そのままジェールへと帰国する進路である。
「あっはは、これは地獄ですな」
「我々は怨霊なのであろう? であるならば、ここに地獄でも作ってやろう」
「補給はどうするんで?」
「ここに通る補給部隊を強襲し、最低限のガソリンと食料を奪う。これが一回目。二回目の戦闘は国境部の突破だ」
「しかし、ここはどうすんで? こんな平原は抜けられんでしょう」
「……我々はこの街を強行突破する」
とんとんと街を叩く。
我々の味方、おぞましい狐野郎によるとここで民衆蜂起が起きるらしい。
それに乗じてまっすぐと走らせるだけだ。戦闘行為はしない。無理やりにでも抜けてしまおう。
「始動はいつですかね?」
「ここで野郎を回収したらすぐに突っ込む」
大佐。コンスタンティン・ホト大佐は悪運の強い男である。
そして生きぎたない男であった。