戦いというのは正直あんまり好きではない。
結果がどうなるにせよ綺麗なものではないからだ。
その点仕事というのは程よく綺麗で好きだ。
勿論汚い場所も多いのだが、段々と片付いているような気がしてくる。
さて、このように汚いとか綺麗とか考えているのも、原因は大体のところ目前の景色のせいだった。
そもそも墓暴きをするというのも嫌気が差すのだが、墓の下に当然あるものがあることでさえやはり嫌気が差す。
更に嫌なのは私が今警察として動いていることだ。
捜査部の仕事を手伝え、とカレーニンさんに言われたので仕方がないが、やっぱりこの制服はなれないものだ。
……お茶くみの日々を思い出してしまう。
「うわー、中々なものですね。歯型とかは頼みました」
捜査部の人は一瞬怪訝な顔をすると、了解というように頷いた。
確かにこれをあんまり直視はしたくなかった。
……勿論私も見たくはないし、そもそも近寄りたくもない。
何らかの病気が移りそうだし。
遠くまで逃げてから鼻をおさえていた手を離す。
……何だか腐臭がする気もするが気のせいだろうか?
死体漁りをしている。
簡単に言い表せば全くこれなのだが、しかし理由なんかはあんまり知らない。
これもやはりカレーニンさんにやれと言われたためであるからだ。
大体のところこれで仕事は終わったと言っていいのだが……。
恐らくであるが、何か仕事が追加で発生した可能性がある。
先程から妙にこちらを気にしている人がいる。
警察側のそれなりに偉い人だったろうか? よくお茶を汲んだものだ。
「お久しぶりです」
「ああ、君は……。そっちの方でも事務は捗ってるかね?」
「ええ、まあそれなりに」
少しばかり見下されているのが分かる。
実際、この人は秘密政治部を小馬鹿にしているところがある。
薄汚れた警察のまがい物である、と。
「ああ、ところで君? このあと暇かね、積もる話もあるだろう?」
肩に手が置かれる。
この男の趣味として新人いびりというのがある。
どうにも断れなくてご飯を共にしたことがあるのだが、彼の話のつまらなさをよく覚えている。
「ちょっと忙しいので……」
「君はカレーニン第一副局長の寵愛を受けているようだがね、それもどうせ今だけだろう。処世術を学びたまえよ」
言葉に詰まった。
返す言葉が見つからなかったわけではない。
しかし、これを口にすることはあんまり得策ではないと思った。
「それに君は何歳だったか、もういい年だろう? 顔ばかりいいがね」
あんまりにもあんまりなら、いっそのこと冤罪でも吹っ掛けて逮捕するべきかもしれない。
果たしてこの人はカレーニンさんにとって必要な人物か……。
いっそのこと消してしまおうか。そうしたら幾分世界は綺麗になる。
*
死体漁りをしていた理由なんかを聞いたのはしばらく後のことだった。
どうやらあれは元々同僚だったらしい。
私の後輩で、それも同年代だったとかを聞いた。
死んだのだから能力不足とか、言うべきなのかもしれないが幾分酷な話だろう。
顔写真を見てから、それを言うのは何だか憚られたのもある。
さて、どうにかして件の警察官に冤罪を吹っ掛けてやろうと幾つか個人的な調査もした。
行き詰っているところでカレーニンさんからもその指示が出た。
それからはやっぱりカレーニンさんの凄さを感じるばかりだ。
あるいは秘密政治部の凄さかもしれないが、すぐに情報が出てきた。
どうやら件の人物は情報部と繋がっていたらしい。
ラヴレンティ・ニコラーエヴィチ・ベズノフ。内務局長の根拠地である。
あの男の悪性を簡単に言い表すならば、自己中心的だろうか?
あるいはもっと根源的、欲望に忠実だと言える。
少女を攫って殺しているという噂は聞いたことがあったが、事実の可能性が出てくるとはとでもじゃないが思っていなかった。
本章は前半部、後半部と言ったと思いますが、前半部はいわばベズノフ編です。