お金の動きを洗う指示を受けて、実際これを洗ってみた。
すると、面白いことに用途不明金が結構見つかった。
「貴方は隠していたようですが、しかしなかなかに下手なもんですね」
椅子に座らされているのは人事部の部長だった。
彼はどうやらそれなりに懐にお金を入れていたらしい。
「お前は! 今度こそクビにしてやる。生きていられると思うなよ」
「はあ。えっと、何やら勘違いしているようですが、我々は貴方を正当に裁くことも、偶然こちらに都合の良い証拠が見つかることもあるのですよ」
「クズどもめ。私はお前らが嫌いなのだよ。貴様らが一体どれほど我々に迷惑をかけているか、これを全く理解していないだろう。貴様らの、カレーニンの暴走はもはや看過できない。アイツを含めお前らを更迭してやる」
どうやら癇癪持ちだったようで、少々眉をひそめた。
そもそも事の発端は彼の着服なのだが……。
しかし、癪に障る。
どうしてカレーニンさんを馬鹿にすることが彼にできるだろうか。
もう私は怒ってしまいましたよ!
「やはり貴方は勘違いしているようですが、貴方はもう直にただの犯罪者となることでしょうよ。そも、実際証拠が見つけたのは我々です。貴方の後ろ盾は効かないわけですよ」
人事部はベズノフの息がそれなりに掛かっている。
部長さんを逮捕したとき、あちらが出張ってきたもののそれを突き返す作業があった。
中々に面倒な作業ではあったが、しかし実際この男が身内の恥なのだろう。
私はとりあえず、目前の男を後悔させることにした。
……手法は秘密である。
それに、大の男が大泣きしているのは少々情けないからね。
*
「おい」
乱暴な声かけに少し驚きつつも、声の主を見てさらに驚いた。
ラヴレンティ・ベズノフだった。
普段内務局ではなく党本部にいるもので、そもそも会うとすら思っていなかった。
「おい、お前。名前も名乗れないのかね?」
ベズノフは小馬鹿にしたように言う。
……忘れられた?
なるほど、どうやら痴呆が進行しているようで。
「アンナ・ヴロンスキー少尉です。何かご用ですか? ベズノフ局長」
「そうか、お前はどうにも礼がなってない。これがあの男の教育か」
嘲笑する言葉に、少々イラつきが募った。
やっぱりこれは嫌いだ。
何とも小物が過ぎる。
「まあいい。カレーニンを出てこさせろ。今すぐにだ」
「承知いたしました。直ちに」
今、拳銃を持ってる。
これをあそこまで歩いて行ってズドンだ。
それで終わる。
終わらせてしまおう。私の手で悪人を、汚れを排除してしまおう。
……。まあ、実際には出来ないのだけどね。
私はそんなに度胸はないのだよ。とほほ。
「カレーニンさん、あの、報告です。ベズノフが来ました」
執務室まで小走りで行き、仕事に囲まれたカレーニンさんに声をかける。
彼に迷惑をかけずに解決を出来たらうれしいのだが、あんまり私には上手くできないだろう。
それに、カレーニンさんはきっと万事解決してくれる。
「はあ。もう来たのか。……アンナ、信用のできる人間をリストにまとめたんだが、確認を頼めるか?」
「はい! 勿論です!」
あんまり本来の業務ではないのだが、やっぱり仕事を任せられるのは嬉しいものだった。
しかし、浮かれてはいけない。真剣に仕事をしようか。
……これはおそらく人事部の部長の後釜を探しているのだろう。
今までの苦労を無駄にしてはいけない。
というのも、カレーニンさんが党本部の討論で、ベズノフの推薦こそが腐敗の原因だとすることに成功したらしい。
尋問とか色々と証拠探しを頑張った成果だろう。
ようは私達の勝利である! 万歳!
*
暫く経って、結構いろんな人が更迭されたり、あるいはクビを切られたりした。
例えば防諜部何かが顕著らしくって、無党派から少しでもベズノフよりだと切られたらしい。
中々残酷なことをするものだなー、と少し恐ろしくはある。
さて、そんな風の昨今私が何をしているかと言えば、色々と資料を集めていた。
例えば幾つかの部署に出向いて、彼らが暖炉に投げ込もうとしているものを受け取ったりする簡単な仕事だった。
他にも個人のお宅訪問なんかもした。
「頼む。一度でいいんだ。見逃してくれ。頼むから。金ならあるんだ。何でもかなえてやる。だから」
這いつくばった男が足に縋りついてきた。
彼が逆上して押し倒されたのなら、もう抵抗が出来ないので逃げたいのだが……。
どうにも逃れることが難しそうに思えた。
「貴方は人事部のお偉いさんでしたっけ? 行動にどうして責任が付き纏わないと思うんですか?」
一度汚れた人間が何らかの手法で、綺麗な人に戻ることは出来るのかもしれない。
しかし、どうせ彼にはそれが出来ないだろう。
次回、ヴァレンティノフ君、ようはようやくスターリンを出せますよ。
それと、前半はもう少しで終わりです。