fallout-error17-   作:ジュメイ

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続けて第1話をどうぞ
ウーン ディストピア


第1話:幸福

『――おはよう、ジオ・TOKYO!

 今日も最高に『幸せ』な一日が始まったよ!』

 

耳元で、弾けるような合成音声が響いた。

 

網膜に投影された視覚インターフェースの中

ジオ・TOKYOのマスコット『けんご君』が、

不自然なほど白い歯を見せて笑っている。

 

[ジオ・TOKYO、学園セクター男性寮舎]

 

「……ん、ああ。おはよう、けんご君」

 

隣の寝台から、眠そうな、でも穏やかな声が

返ってきた。

 

同室者のエトだ。

 

彼は俺より少しだけ早く起き上がり、

寝癖のついた頭をかきながら、網膜ディスプレイ

に映る今日の幸福予報を眺めている。

 

「セブ、見てよ。今日の僕の幸福指数

 寝起きで『82%』だって。昨日

 レクリエーションが効いてるのかな」

 

「ああ、エト。お前はいつも安定してるな。

 俺は今『75%』だ。……さあ、行こうぜ。

 遅れるとグラフが下がる」

 

俺たちは手際よく身支度を整え、肩を並べて

食堂へと向かった。

白い廊下を歩く俺たちの足音は、他の生徒たちの

それと完全に同調している。

エトは時折、廊下の窓から見える偽物の青空を

眩しそうに見上げ、小さく微笑んでいた。

その横顔は、この世界の「正解」そのものに見えた。

 

食堂に着き、俺たちは並んで用意された

朝食を手にする。

そこにあるのは無味無臭の、グレーの

栄養ペーストを固めたブロックに過ぎない。

 

だが、首筋に貼られた味覚コントロール・パッチが

「旨味」の電気信号を神経に叩き込む。

 

「……美味い」

 

 エトが隣で、幸せそうに喉を鳴らす。

 

喉を通る感触は粘土のようだが、脳だけが

狂ったように歓喜の声を上げている。

俺の『朝食満足度』が、左腕のデバイスに

鮮やかな緑色のグラフで表示された。

 

『P.A.C.T.(Personal Assistance & Control Terminal)』

 

全国民の左腕に埋め込まれた、この都市で

最も重要な「命の証」だ。

脳内のナノマシンと連動し、心拍、バイタル

そして感情の揺らぎまでをリアルタイムで

監視・数値化する。

 

アマテラスはこの端末を通じて、俺たちが常に

「最適で幸福な状態」であるよう、神経系に

微弱なパルスを送って調整し続けているのだ。

 

『Unit A-17、君の今の幸福指数は「88%」!

 社会全体の平均を上回っているね! 素晴らしい貢献だ!』

 

網膜ディスプレイの中で、けんご君が拍手をする。

エトのP.A.C.T.からも、小さなファンファーレが聞こえた。

 

俺は端末のホログラムを操作して、今日の

ニュースを網膜に表示する。

エトもそれを見ながら、時折「へぇ、すごいね」

と相槌を打つ。

 

この地下都市において、個人の欲望は社会の

不純物(エラー)と見なされる。

 

すべてのリソース、すべての時間、そして

すべての「命」は、『総幸福量最大化原則』

という巨大な数式に捧げられる。

 

一人の飛び抜けた幸せより、百万人の平均的な満足を。

 

かつて、地上が核の炎に包まれた日。

選ばれた俺たちの先祖は、この「聖域」へと導かれた。

 

統制AI『アマテラス』が管理する、完璧な揺籠。

 

ここでは飢えも、寒さも、理不尽な暴力も存在しない。

17歳までの「情動育成期」を、俺たちは何不自由なく

ただ「幸せ」であることだけを求められて過ごす。

 

『見て! 今朝の「専門」セクターからのニュースだよ!

 新しい合成肉の開発に成功したんだ。

 これで来月の栄養ブロックのカロリーは0.6%上昇だね!』

 

網膜に、笑顔で働く労働者たちの映像が流れる。

 

エトは「あと1年だね」と、俺の肩を軽く叩いた。

 

「18歳になったら、僕もあそこで働きたいな。

 誰かの幸せの役に立てるなんて、最高じゃないか」

 

誰もが、自分が社会という巨大な生命体の

「一部」であることに、抗いがたい誇りと

喜びを感じている。

 

18歳になれば、誰もが「成人認証」を受け、

労働者、執行者、専門者……あるいは最も

名誉ある『奉仕者』として、この完璧な社会の礎になれる。

それこそが、国民としての最大の栄誉であり、17年間の

「自由」を与えてくれたアマテラス様への恩返しなのだ。

 

部屋に戻りながら、今日をどう過ごすか考える。

エトは「午後の講義、楽しみだね」と、

いつものように屈託のない笑顔を見せていた。

 

『さあ、今日も一日、みんなのために、

 自分のために、最高に笑おう! アマテラス様は

 いつも君を見守っているよ!』

 

けんご君の声に合わせて、俺は鏡の中の自分に

向かって、教えられた通りの「幸福な笑顔」を作った。

隣でエトも、鏡の中の自分に笑いかけている。

 

 この世界は、完璧だ。

 この幸せが、永遠に続く。

 

……あの日、俺のすぐ隣を歩いていたエトが

倒れるまで、俺も本気でそう信じていたんだ。




「アメリカのVaultは狂った実験場だったが、
日本のジオ・TOKYOは……狂ったほどに完璧な飼育場だった。」
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