勢いって大事だよね
読んでくれてありがとう
みんなもfalloutシリーズ楽しもう
エトが倒れたのは、午後の「情動育成講義」
の最中だった。
かつての流行歌を聴き、そのメロディが心に
どんな彩りを与えるかを語り合う、この都市で
最も平穏な時間。
スピーカーから流れる古いピアノの旋律に合わせて
エトは急に椅子から崩れ落ち、喉をかきむしった。
「カハッ、あ、が……っ!」
彼の首筋にある味覚コントロール・パッチが、
見たこともない禍々しい「赤色」に激しく点滅している。
駆け寄ろうとした俺を制したのは、教室の隅に
控えていた『監督官』だった。
黒い強化樹脂のバイザーで顔を隠し、胸元には監督官を
示す不気味な記号が刻印されている。
監督官が、冷淡な手つきでエトの状態を確認する。
「……Unit A-18。脳内ナノマシンの異常過熱を確認。
修復コスト、許容範囲外。このままでは全体の
幸福度を0.00007%低下させる。幸福効率を下げる前に
『聖域』での奉仕が推奨される」
「待てよ、監督官! 抑制剤を使えばまだ抑えられるはずだ!
そうすれば成人認証までに回復して、また社会に
貢献だってできる!」
俺の叫びを、監督官はバイザー越しに冷たく切り捨てた。
「不許可だ。現在の彼への抑制剤投与は、全体幸福に
寄与しないという計算結果が出ている。……安心しろ
A-17。彼は今日、予定より少し早く、みんなの『礎』
になる名誉を得ただけだ」
社会を維持する歯車となる『労働者』
システムを運用する側に回る極少数の『執行者』
専門分野での開発研究を行う『専門者』
そして――
自らの幸福を全て社会に捧げる『奉仕者』
奉仕者は、都市の最深部にある「聖域」で
社会全体の幸福を祈り捧げる。最も名誉ある役割。
だが、一度「聖域」へ入れば、二度とそこから
出ることは許されない。
幸福度を維持するため、ただひたすらに、死ぬまで
社会の礎として祈り続ける。
本来、それは18歳の成人認証で、アマテラス様から
直接「聖別」される輝かしい未来のはずだった。
だが、著しく社会の幸福に貢献できないと
判断された者には、選択の余地などない。
監督官は倒れ伏すエトの左腕を掴み、埋め込まれた
P.A.C.T.のホログラムを強制起動させた。
「Unit A-18。奉仕者への意向確認を行う。
自ら『承認』を押せ。期限は今日中だ。
私は君の――自発的な決断を尊重する」
その瞬間、教室に残された生徒たちが一斉に拍手を始めた。
「おめでとう、A-18」
「最高だね」
「みんなのために、頑張って」
狂気じみた祝福の雨が降る中、俺だけが拳を握りしめ
拍手を拒んだ。監督官の無機質な視線が、俺を射抜く。
「Unit A-17。Unit A-18を部屋に連れて行け。
同室者として、彼の決断を最後まで見守る義務を命じる」
監督官の声は、父親のような慈愛を装いながらも
絶対的な拒絶を含んで耳の奥に響いた。
静まり返った寮の自室。
ベッドに横たわるエトの首筋では、いまだに
パッチが不吉な赤色を放っている。
ナノマシンの暴走による熱のせいか、彼の視線
はおぼつかない。
「……ねぇセブ。僕、みんなの『礎』に
なれるのかな……。怖いよ、
でも……みんなが拍手してくれたんだ。
僕が奉仕すれば、世界が幸せになるんだろ?」
左腕のP.A.C.T.には、無機質な【奉仕への同意:承認】
のボタンが、まるで奈落の入り口のように浮かび上がっている。
「俺は、エトと一緒に成人認証を受けて、一緒
に幸せになりたいんだ。奉仕を選んだら…
…もう二度と、会えないんだろ」
俺は机の奥に隠していた「それ」を取り出した。
数ヶ月前、エトと一緒に廃棄場で見つけた旧型のデバイス
――大和存立機構(J.E.C)と『試作型ツクヨミ』
の刻印が刻まれたガラクタだ。
今のスマートな埋め込み型と違い、手首に無骨な
金属をはめて使う旧世代の遺物。
二人で夜を徹して修理し、ようやく起動にこぎつけた。
だが判明したのは、膨大なジャンクデータと
今のマップからは抹消された古い工事区画や隠し通路の記録だけ。
何が起こるかわからないその「異物」を装着することは
今まで怖くてできなかった。
「セブ……それ、何をして……」
「エト、動くな。ガラクタのマップに隠し通路がある。
それも元に今、薬を取ってくる。抑制剤さえあれば
お前のナノマシンを鎮めて、成人認証を一緒に受けられる」
俺はエトの震える手を握り、自分に言い聞かせるよう
に力強く言い放った。
「俺の『最大幸福』は、お前と一緒に生きることだ」
【件名:選ばれし貴方へ――アマテラス様からの特別な招待状】
Unit ◯-◯◯殿
あなたは、このジオ・TOKYOにおいて、
誰よりも「優しく」「自己犠牲の精神に富んだ」
魂を持っていることが証明されました。
本来、社会を維持する労働者となることは尊いことですが、
アマテラス様はあなたに、それ以上の光栄を用意されました。
『聖域の奉仕者』
あなたはもう、労働に疲れることも、将来に不安を抱く
こともありません。
「聖域」の揺籠の中で、ただ幸福を感じ、その余剰分
を社会へ分け与えるだけの、最も神聖な人生が始まります。
これこそが、あなたが生まれてきた真の意味です。
共に、完璧な世界を完成させましょう。
-承認-