今までにない緊張がある
寝不足に苦しみ、喉の渇きを覚え
餓死寸前で、病気に怯える
この世の地獄を味わった
慣れるとそう苦ではないけど
近接ビルド!最高
バットで邪魔なレイダーをぶっ飛ばそう
承認期限まで、残り12時間。
俺は机の奥から、ずっしりと重い鉄の塊
――『ツクヨミ』を取り出した。
正規のP.A.C.T.の上からそれを強引に嵌め込むと、
鋭い金属音が響き、ロック機構が俺の手首を締め上げる。
『――外部デバイス、オンライン
システム、コールドブート開始』
網膜に、正規のシステムではありえない
「漆黒のノイズ」が走り、続いて古い大和存立機構
のロゴが浮かび上がった。
[……生体反応をスキャン。登録との照合……失敗
心拍、網膜パターン、遺伝子情報
すべてが一致しません。
……最後のバイタルチェックから100年以上経過
前管理者は、死亡したと判断。
スタンドアロン・プロトコルに基づき、現装着者
を暫定管理者として登録します]
『おはようございます。暫定管理者の名前を教えてください』
「うわっ……!? し、喋ったのか?」
鼓膜を直接震わせるような、無機質だが明晰
な「声」に、俺は思わず声を上げた。
けんご君のような合成音声の垂れ流しではない。
こいつは今、明確に俺に問いかけてきた。
「お前……P.A.C.T.のAIなのか? けんご君の親戚か何かか?」
『否定。私はアマテラスの管理下にある
リソースではありません。大和存立機構
試作型自立演算ユニット、コードネーム
「ツクヨミ」。
……質問を繰り返します。暫定管理者の名前を教えてください』
アマテラスではない、別の知性。
俺はごくりと唾を飲み込み、寮の排気ダクトの格子を外し、
暗い「鉄の静脈」へと滑り込みながら、短く答えた。
「……セブだ」
『登録完了。暫定管理者:セブ。
現在、この部屋の監視カメラは、セブが
「幸福な眠り」についている偽の映像をループ再生中。
……さあ、行きましょう。心拍数が上がっていますよ。
無駄な情動は生存確率を下げます』
「……ルートはどうなっている」
『セブ、警告。当初予定していた最短ルート、
C-4ハッチが最近の構造変更で閉鎖されています。
アマテラスの監視が厚い中央通路を避けるなら
代替案は一つだけ……最下層近域の「聖域」
をバイパスするルートです』
「聖域……奉仕者たちが最後に行く、あの場所か」
そこは国民が立ち入ることを許されない、
ジオ・TOKYOの最深部。俺はツクヨミが
強制解除した非常用タラップを駆け降り、
重冷房の効いた静寂な区画へと足を踏み入れた。
だが、そこで目にしたのは、学校で教わった
「安らかな魂の休息所」などではなかった。
「……なんだ、これは」
広大な空洞に立ち並んでいたのは、
巨大な産業用シュレッダーと、不気味なほど清潔な
「生体処理ライン」だった。
そこでは、P.A.C.T.が赤く点滅し、幸福信号を
限界まで叩き込まれた奉仕者たちが、ベルト
コンベアに乗せられていく。
彼らの表情は「幸福」に歪んだまま、機械の手に
よって衣服を剥ぎ取られ、殺菌され、そして――。
『解析完了。奉仕者たちは死ぬのではありません
彼らの身体は、都市全体の幸福指数を維持する
ための演算リソース……ではなく、単純な
「資源」として再利用される。
脳内のナノマシンからはレアメタルを抽出し、
身体は高タンパクな栄養ブロックの原料へと精錬される。
彼らが感じる「永遠の幸福」は、処理コストを
下げるための麻酔に過ぎません
……セブ、彼らは文字通り、この街の「礎(栄養)」
にされています』
吐き気がした。
エトが、あの優しいエトが、こんな肉の原料にされるのか。
俺は震える足で聖域を駆け抜け、専門セクターの
薬品庫へ辿り着いた。警備ドローンの銃口を
ハッキングで逸らし、抑制剤を奪い取る。
「待ってろ、エト……! あんな場所には、絶対に行かせない!」
心臓の鼓動が、鼓膜を直接叩くような錯覚。
奪い取った『抑制剤』の小瓶を握りしめ、
俺はボロボロになった身体を引きずって、
寮の自室へ滑り込んだ。
「エト! 間に合った、薬だ……!」
日本政府はアメリカのVault技術を導入しようとしましたが、
ある「日本独自の判断」が下されました。
理由:高すぎるライセンス料と「実験」への不信感
Vault-Tech社のシェルターは、住民を
「社会実験」のモルモットにする契約が含まれていました。
当時の日本政府(あるいは独自の官僚機構)は、
米国の不透明な実験を拒否。
自国の高い土木技術と管理能力を過信し
「日本人のための、完璧に制御されたシェルター」
を自前で作ることを決意しました。