喧嘩屋颯太
〔2097年 国立魔法大学附属第一高校入学式〕
春。それは時代が変わっても穏やかな季節だということは変わらない。変わったことがあるとしたら、戦争による気候の寒冷化により少し肌寒くなったくらいだ。込み合うキャビネット乗り場、川のほとりに咲き乱れる桜たち。そして、魔法科高校に続く通学路も新入生たちで埋め尽くされていた。友人と入学の喜びを分かち合う者、同じ学科同士で友情を築こうとする者たち、何故かいちゃつく者たちといった実に青春と言ってもふさわしい光景が広がっていた……ある一か所を除いてだが。
それは、ある青年の周りにぽっかりと隙間が空いている光景だった。しかも、彼の周りの人間たちは少し怯えているようにも見えた。そう、彼からは普通の高校生とは思えない何かが発せられていた。漆黒と言ってもいい髪、そして何かを睨むかのような瞳がそれを感じさせたのだろう。これは殺気ではなく…凶気と言った方が近いだろう。その隙間は校門を潜るまで埋まることはなかった。
校門を潜ってから皆、特に二科生はこの学校の本性を思い知ることになる。第一高校、通称魔法科高校は一科と二科に分かれており、二科はいわゆる補欠だ。カリキュラムの方も教官がいるかいないかの違いがあるくらいだ。しかし、生徒の間では一科生をブルーム、二科生をウィードと呼ぶ差別が密かに行われていた。無論、二科生たちは校門を潜ったと同時にその洗礼を受けるのだった。先ほどの青年もその対象だ。
「なんだよあのウィード。補欠のくせにデカい態度取りやがって。」
「あいつって身の程って言うのを知らないのか・とんだ馬鹿だな。」
早速彼に対した陰口が飛び始めた。普通はそこで落ち込むなりするはずだが、彼は一切動じることはなかった。これも彼がそういう環境を生き抜いた証といえるだろう。その一方で、こんな言葉が聞こえた。
「おい、あれってさ噂の…」
「光井ほのか先輩の従姉妹だろ?あいつ二科生だったんだな。」
「可哀想だなほのか先輩。あんな出来の悪い従姉妹が居てさ。とんだ恥だよな。」
「あっ!それ言えるわ~。」
彼のすぐ後ろ、薄い茶色のポニーテールの少女が悪口の対象だった。名は日暮彩名。彼女には、2つ上の従姉妹が一科生として入学している。従姉妹の名は光井ほのか、実技試験において生徒会長の司波深雪に続く次席を獲得する実力者だ。確かにそういう血縁者がいるとつい比べられてしまうのは当然かもしれない。しかし、恥というには言い過ぎだ。だが彼女には言い返す勇気はなかった。しかし、その悪口に反応したのは本人だけではない。少女の悪口を言った男子たちに近づく一人の影があった。さっきの不良風の青年だ。そして近づいて早々彼は口を開いた。
「黙っとけ」
この一言で一瞬周りの時間が止まった。一言、たった一言が周りの一科生たちを怯えさせた。怒鳴ったわけではないが、人間の神経に冷たく刺さるような一言だった。さっきまで言いたいように言っていた男子たちの額から冷汗が吹き出し、目が泳いで叫ぶことも逃げることも出来なかった。そのまま青年は会場に向かおうとした途端、ある生徒が彼の前に立った。服装からして3年生で、それに腕章には風紀委員長と書いてあった。
「風紀委員長の吉田だ。君、彼らに何かした?」
吉田幹比古。精霊魔法の一門吉田家の神童と呼ばれ、二科生で初めて風紀委員会委員長に任命された彼もまた実力者だ。
「別に。ただ愚痴をやめるように言っただけだ。」
「そうか。疑ってすまなかった、許してほしい。」
「分かってもらえればいい。」
幹比古はそのまま巡回に戻り、青年はそのまま会場へと急いだ。もちろんその後ろには彩名も。
〔同日 会場内〕
青年は二科生たちが固まっている席に座っていた。やはり先ほどの出来事のせいか、まだ彼は怯えられていた。もちろん彼の隣に席は空いていたのだった。
「あの…お隣いいですか。」
声をかけたのは、さっきまで彼の後ろにいた彩名だった。彼は黙ってうなずいて、それを見た彩名は横に座った。
「あの…先ほどはありがとうございました。私、日暮彩名といいます。よろしくお願いします。」
「おう、よろしく。」
実にそっけない返答で、怯える人間が出るかもしれない口調だが、彩名は怯えることはなかった。今の彼女には彼がヒーローに見えてるのかもしれない。
「おっと!話の内容からして君がさっきのフリーザーか?」
フリーザー、どこの漫画のキャラの事やら…少なくとも彼の事だろう。それにかれの馴れ馴れしい態度は完全にチャラ男に近かった。
「おっと、申し遅れた。オレは御山劉孫だ。で、お前は?」
「オレは…ハ十崎颯太。一応百家ってのに入ってるらしい。」
「そうか、んじゃよろしくな、颯太と彩名!」
「こちらこそよろしくね颯太君。それと…りゅう…」
「リュウでいいって。」
こうして、生徒会長のスピーチと総代のスピーチも終わり、入学式は無事に終わった。
〔入学式から3日後 学食〕
入学式の一件から、颯太とリュウ、そして彩名は良く絡む仲になっていた。そこに賀茂成実が加わっていた。成実はやはり颯太に興味を持った人間の一人だったらしく、かえりに突然絡んできた。初対面の割には毒舌を飛ばしまくっていたが。
4人は昼食を囲んでおり、そこで自分の家族の事や将来目指しているものについて語り合っていた。だが突然奥の席から言い争う声が聞こえ始めた。
「なぜ席を奪うんですか!違う場所を使えばいいじゃないですか!」
「補欠は補欠らしくだまっていうことを聞けばいいんだよ。」
「そそ、犬にみたいに従順になれよー」
どうやら一科生が二科生の席を奪って、言い争いになったのだろう。しかも人を犬のように言うのは尋常ではない。
「何よあの男と女たち。あんなのを見せられたら料理がゲロ以下になるわ!」
「おいおい…それは言い過ぎじゃねーの成実ちゃん」
「ちゃん付けは辞めてくれる?気持ち悪い…あれ、颯太君は?」
席には颯太の姿はなく、彩名は少し困惑していた。恐らく彩名は、颯太がまた一科生を懲らしめに動いたのではないかと思っただろう。残念ながら予想は当たったようだ。颯太はまっすぐその一科生たちの元に向かっていた。そして着くや否や、腕を振りあげた。そのまま腕を振り下ろし、彼らのランチプレートをなぎはらった。プラスチックの落ちる音と共に、一科生たちはまた、入学式の時のように静まり返った。そして…
「いい加減調子に乗るのはよしとけ。怪我をしたくないのならな。」
「…」
憎悪を燃やす暇すら与えることはなかった。またもや颯太は一科生を言葉の喧嘩(始まる前だが)で打ち負かした。言い返せなかった、恐怖と危惧しかなかった。そのまま主犯の一科生のグループは逃げるように学食を後にした。その後何秒かの沈黙が続いた。だが、今回に関しては二科生たちの反応はどこかスッとしたように見えた。
そして颯太は自ら塵取りとほうきを持ち出して掃除を始めたのだった。もちろん彩名とリュウも手伝い、成実はうまく誤魔化そうとしていた。
その光景を見つめる2人の影が見えた。司波達也と司波深雪だ。
「どうやら面白い生徒が入ったようだな。」
「はい。ですがお兄様、彼は少しやり過ぎではないでしょうか?」
「確かにそうだが、彼は差別の抑止力になるかもしれない。」
「それは同感ですわ。では彼を風紀委員会にお誘いしましょうか。」
「そうだな。では早速幹比古に話しておこう。」
「はい、お兄様。でしたら誘うきっかけも必要になりますわね。」
まだ彼らは知らない。この後、とても偶然とは思えない形で初めて出会うことになるということを。
あと言い忘れたが、食べ物は粗末にしないように!
記念すべき第一章第一話です。
やはり長文はむずかしいですね。すこし駄文チックに・・・
次回は、ついに達也と颯太が出会う会です!