〔学食での騒動から3時間後〕
学食での騒動はなんとかお咎め無しで済んだ。その場にいた二科生たちが上手く口裏を合わせたのだ。彼らにとって先ほどの光景は実にスカッとする光景だったのだろう。だが、失礼な言い方になるが二科生が口裏を合わせたごときでお咎めなしになるのは不思議だ。まぁこの件についての追及はここまでにしておこう。
放課を迎え、颯太、リュウ、彩名、成実は身支度を整えて帰ろうとした。そんな彼らの前に、一人の生徒が立ちふさがった。エンブレムがあるからして、彼は一科生のようだった。
「君がハ十崎颯太か?」
どうやら颯太の事を知っているようだった。それも当然だろう、彼は入学当初から一科生相手の喧嘩に勝ち続けているからな。
「あぁ。だからどうした。」
「僕は三十辺零士。一応総代ってことになっている。」
三十辺零士。颯太たちの代の総代となっているエリート中のエリートだ。しかも、彼独自の無系統魔法『術式反転(グラムリフレクト)』の使い手として入学以前から注目されている。それに彼の家は魔法棒術の一門『三十辺流』の本家なのだ。どうしてそのようなエリートが不良である颯太の元に来たのか。
「もしかして、さっきの野郎共の敵討ちか?」
「違う。僕は礼を言いに来たんだ。」
「は?」
「僕はエリートぶる人間が嫌いでね。あれを見て久々にスッとしたんだ。」
それはとても意外な回答だった。完全なエリートの零士が、エリートぶる人間を嫌っている、そして気分が晴れたというのは誰も予想していなかった。
「エリートのくせに変わった考えをしているんだな。」
「まぁね。要は傲慢知己な人間が嫌いってことなんだ。少なくとも僕は違うと思うよ。」
「・・・。フッ、お前オレに似ているな。生憎オレもそういう人間でな。」
「ははっ、そうなのか。僕も君と仲良くできる気がするよ。もしよかったら君ともぜひ仲良くしてもいいかな?」
「好きにしろ。」
二人は互いに握手を交わし合った。このような出会いもあるものかと零士とリュウは思った。これで三回目か、と颯太は思った。一科生のヘッドと二科生の総長(通称)が互いに協力する瞬間だ。
「おっと、いい絵をいただきました。オレは御山劉孫。リュウって呼んでくれ。で、ここの二人は・・・」
「賀茂成実よ、よろしく!この子は彩名ね。」
「日暮彩名です。よろしくお願いします。」
こんな感じで互いにライバルとなる颯太と零士は出会うことになったのだ。
〔30分後 校門前〕
結局颯太は、リュウや零士たちと別行動になった。零士は生徒会に呼び出され、颯太は学食の件で料理長から呼び出しをくらい、急きょ割れた容器の弁償をすることになったのだ。
かなりの金が飛んだ、そういう気怠さに見舞われながら校門に向かったとき、更に怠い光景を目の当たりにした。
「嫌ですよ!私はエリカちゃんたちと帰るんです!」
「そうよ、美月も嫌がってるでしょ!いい加減にしなさいよ!」
「偉そうにするんじゃないぞ、ウィードのくせに!」
「森崎に言われただろ?立場をわきまえろって。」
「てめっ、誰が雑草だと?!」
どうやらまた一科生と二科生の喧嘩らしい。しかも三年生同士の。喧嘩の種は、美月と一緒に帰る権利をかけてらしい。美月はその温和な性格から同級生達からの人気が高い。だからそのような喧嘩はたまに起こるらしいのだ。
その醜い喧嘩ですら、颯太にエンジンをかけてしまうのだ。勿論、エンジンのかかった彼を止められる者はいない。
「てめぇらやかましいぞ。場所ってのをわきまえたらどうだ?」
「ちょっと君。やかましいって誰の事よ!」
「アンタではない。そこの一科の馬鹿先どもだ。」
「ば・か・せ・ん?馬鹿先とは何だ!」
「馬鹿な先輩の事だが?」
「貴様!一年、しかもウィードのくせに何を?!」
「馬鹿を馬鹿と言って何が悪い。」
「こいつまだ何か抜かしているぞ。」
今回の敵は強敵だ、言葉だけではどうにもならないかもしれない。颯太はそう思った。だが彼はまだ手出しをしない。相手が男子三人とはいえ、ここで手を出したら今度こそ指導室に世話になることは分かっていたのだ。そして颯太は時を待っていたのだ。
「やはりこいつには先輩として指導が必要そうだな。」
「だな。それじゃあアレを使うか?」
「ここで魔法を使うのはまずいって。やめとけよ。」
「勝てばあいつらは黙るしかない。だったらここでケリをつけるぞ。」
そう言って三人はCADを構えて魔法式を構築し始めた。エリカとレオ、そして美月は焦った。校内での魔法の無断使用は禁止されている。それだけではない。彼らはまだ入学したての一年生に魔法という凶器を振りかざしたのだ。
「君、ここは私に任せて逃げ」
「その必要はない引っこんでろ。」
エリカの呼びかけに、颯太は少し乱暴だがNOと答えた。その言葉には冷静さしか感じられなかった。まるで達也といるときのような安心感が微かに湧き上がってきた。エリカは黙って引き下がり、起動式を読み込もうとしたレオを止めた。
そして奴らは動き出した。起動式の構築が終了し、魔法による空気弾が放たれようとした。エアブリットだ。そう、颯太はこの時をねらっていた。魔法発動時に出来る僅かな隙を。
颯太はすかさず距離を詰めて走り、相手の足元に滑り込み、スライディングの要領で足を薙ぎ払った。この一瞬の出来事に相手は対応できずバランスを崩し倒れこんだ。体制を戻そうとする颯太に、腕に硬化魔法を集中させた二人目が襲い掛かる。だがそれを見事にかわし、また距離を詰めにかかる。そこにまた鉄拳が飛びかかるが、颯太は反転し背中を相手にぶつけた。勢いのあまりむせ返るところで腕をつかみ、そのまま背負い投げた。二人がわずか八秒の間に二人が倒れこんで、砂埃が残りの一人を包んだ。その埃をかき分けるように颯太が現れ、最後の警告を行った。
「今度はお前が相手か?」
その一言の刹那、最初に倒れた奴がエアブリットを颯太の背中目掛けて放った。その微妙な音に気づいてかわしたが、それは颯太の顔を掠めた。掠ったところから血があふれ出す。奴は大きな間違いを犯したことに気づいていない。彼に怪我をさせる=半殺し となるのだ。溢れた血を拭った颯太は発射元の向かい、CADを握る腕を捻り上げた。腕を持たれた三年は悶絶した。これはただの捻りではない、完全に腕を持っていく捻りだ。骨がきしむのが分かった。痛みは痛みすら超えていた。
「お前、それなりの覚悟で狙ったんだろ?」
「くっ・・・ぐあっ・・・やめて・・く・・れ・・・」
「あぁ?」
「頼む・・・頼むからやめてくれ!」
「ダメだね。落とし前は着けてもらうぞ。」
「ぎやぁぁぁ・・・!」
颯太は更に捻りを強めた。骨がきしむ音が大きくなっていく。天下の一科生が命乞いをする痛み、これは尋常ではなかった。見ていたエリカとレオ、そして美月ですら微かな危惧を感じた。腕が折れるのはもう時間の問題だ。
「そこまでです、お止めなさい。」
一人の女子の声が響いた。とても落ち着いた氷のような口調だ。その声の主は深雪だった。その横には幹比古とほのかに雫、そして達也もいた。その声に何かを感じたのか、颯太は急に手を止めた。
「レオ、美月、エリカ、大丈夫か?」
「おう、何ともないが・・・こいつらが相当ヤバい。」
とレオが倒れこんだ二人を指さした。それを見た幹比古は聞いた。
「いったい何があったの?」
「なんかこいつらが美月にナンパしてきて言い争いになってさ、それを注意した彼にこいつらが魔法を使ってさ、結果的にこうなったのよ。」
「そうか、柴田さん大丈夫?」
「えぇ、なんとか。」
「それにしてもお前よく派手にやってくれたよな・・・あっ、お前は!」
レオは突然颯太を指さして叫んだ。どうやら面識があるようだが・・・
「お前って、颯太か?!」
「アンタは・・・レオ先輩か?」
「えぇ?!アンタたちって知り合いだったの?!」
「あぁ、コイツはハ十崎颯太っていうオレの中学の後輩だ。」
「なんで早く気付かなかったの馬鹿!」
「馬鹿とは何だこのアマ!」
(ほう、ハ十崎颯太というのか彼は・・・)
またもや定番の夫婦漫才が行われている中、深雪は達也と幹比古に耳打ちをした。そして二人は頷いて、達也が颯太に近づいて行った。それに気づいた颯太は流石に少し身を引いた。なぜなら達也から放たれた自分を超える何かを感じたからだ。
「ハ十崎、エリカたちに代わって礼を言わせてもらう。ありがとう。」
「例には及ばん。個人的にムカついたからやっただけだ。」
「そうか。そうだハ十崎、これから近くの喫茶店に行くが一緒に来ないか?ぜひ礼がしたいんだが。」
「・・・(コイツも財団並みにモノ好きだな)」
別に礼をされるほどの事ではないが何故か誘われた。颯太が達也たちをモノ好きだと考えるのは無理もないだろう。だが、これには達也と深雪のある策略があることに颯太は気づいていなかった。
続く・・・
とりあえず二つの重要な出会いの会です。果たして達也と深雪の策略とは?
だいぶ慣れてきたのでこの調子で頑張っていきます!