ワタルとウララ   作:パンちゃんドラム

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 この作品は、

 ・物書き初心者による独自設定
 ・各キャラクターによる視点の相違
 ・画面酔いしそうな視点切り替え

 の提供で、お送りします。



プロローグ
遠芽ワタルは流されやすい


 

 突然だが、最近何か困ってる事は無いだろうか?

 

 ──例えば、行く先々で不良に絡まれたり。

 ──例えば、お気に入りだった食堂がテロリストによって爆破されたり。

 

 傍から見れば、『ああ、いつものキヴォトスだな』っていう反応になるのだろうが、当事者にとっては死活問題だ。

 

 ちなみに上記の内容はこの一週間で私に降りかかった出来事である。泣いていいよね?

 

 

 

 

 さて、なぜ唐突にそんな話をしているのかなのだが。

 

(──なんで!相席客が!ゲヘナの子なのよっ!?)

 

 通算8日目となる不幸の訪れ。それに対して、思わず私は心の中で大絶叫を上げた。

 

 照明が明るく照らす、少し落ち着いた雰囲気の店内の中に、緊張した空気が流れる。ウェイターは私達の前にアイスティーを置いた後はそそくさとカウンターに戻り、メニューを見ていた客は帰り支度を始める始末。こんな事になった原因は、いちいち説明せずとも分かるだろう。

 

 

 ──思いっきりトラブルの種になりそうなのが、私の前に座っているからね!

 

 

 雰囲気の悪い店内の空気を意に介さず、向かい側のゲヘナ生がコーヒーを注文する。そんな彼女を見た私の警戒度はさらに跳ね上がり、運悪く注文を任されてしまったウェイターさんは、今にも爆発しそうな爆弾を前にしたかの如く、ビクビクした声で注文を読み上げていた。

 

 トリニティ生とゲヘナ生、犬猿の仲で知られる両校が一同に介すこと、その意味が分からないキヴォトス人は居ない。不幸なウェイターさんの心情に同情しつつ、私は彼女が来る前に注文したパフェを待った。

 

 

 

 ……それにしてもツイてない。最悪な1週間を耐え忍び、せっかく友達に教えられたカフェで、注文を済ませて落ち着こうとした矢先にこれである。これが試練だと言うなら、吹っ掛けてきたやつに文句の1つくらいは言っていいと思うんだ。

 

 そう思った私は、冷や水を垂らすアイスティーに口をつける。喉を滑り落ちるお茶は、自然と熱くなっていた私の頭を冷やし、少しだけ落ち着きを与えてくれた気がした。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 中学の頃、少しばかりだが私は荒れていた。親しい人と突然離れる事になった……といえば良いのだろうか?

 当時、中学校に上がる直前だった私はその現実を受け止めきれず、どこかモヤモヤとしたものを抱えて学校へと通っていた。その時の私は泣く事も笑う事も出来ずに、ただただ来る日を過ごしていたような気がする。

 

 

 ……だが、そんな私に対して無慈悲にも、容赦なくストレスを与えてくるのがここキヴォトス。些細なことで銃撃戦、文句と共にカチコミ上等。言葉を交わすよりも先に爆弾が飛び、治安部隊が駆け回る。

 

 来る日も来る日も銃撃、爆撃、轟音、閃光……。

 日に日に募るイライラに、重ねて絡む厄介な奴ら…………!!

 

 

 私はキレた。存分にキレた。

 結果から言おう、私はグレた。

 

 

 ──しかしまあ、とあるきっかけがあって心を入れ替え、中学3年生の1年間全てを勉強に捧げた私はトリニティ総合学園へ入学した。

 

 生来の気質である喧嘩早さをしまい込み、問題を起こさないよう気をつけながら学園へ登校出来ていたことは、我ながらスタンディングオベーションものだと思っている。

 

 

 うん?下校時?

 ノーコメントよ。

 

 

 ……しかし、今回対面に座る相手は、自由と混沌と不良の飛び交う修羅の国ゲヘナ。面と向かって煽られたが最後、私はその売り言葉を買ってしまう自信しかない。

 

 

 つまり危機である。日刊私の危機一髪である。

 現実を直視してしまったせいで、既にさっき飲んだお茶の効果が切れた。もう私はダメかもしれない。

 

 

 かくなる上は、次の手で。

 私は石。ただの石。物言わず、清水のせせらぎに耳を傾けるただの石。清水なんてカフェの中のどこにも流れてるワケないけれど、そこはフィーリングでどうにかする。

 

 そうして私は対面のゲヘナ生を刺激しないよう、本に集中するふりをした。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 ──面白い子を見つけた。

 

 そう思った私は、目の前のトリニティ生に様子を伺っている事がバレないように、彼女のことを観察する。私が動くと金色の髪はふわふわと揺れ、視線はきょろきょろと落ち着く事がない。私がゲヘナだからって警戒してるんだろうなぁ……。

 本を読むふりをしているんだろうけど、私の動作にいちいちピクっと動くから、動揺してるのが筒抜けだよ。

 

 

 小動物かな?かわいいね。

 

 

 そんな事を思いつつ、コーヒーの香りに身を任せ、私は記憶を掘り起こす。

 

 

 

 きっかけといえば、イロハちゃんからいいコーヒーが飲める店を紹介された事だった。多分、連邦生徒会の混乱に乗じた悪巧みを悟られたくない!というマコっちゃんの我儘に応えるためだろうとは予想する。いわゆる『鬼の居ぬ間に洗濯』ってやつだね。

 

 ま、こんなのいつもの事だし、今回もイブキちゃん用のお土産は買っていこう。マコっちゃんが歯ぎしりをして悔しがる姿が目に見える。

 

 

 ──さて、回想はこのくらいにして。

 ちょうどいい頃合いだし、折角なので向かいの彼女にちょっといたずらを仕掛けよう。

 どんな反応をするのかな?

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「それ、面白い?」

 

 ……なんとか開いた本に集中出来そうだった私に向けて、突然対面のゲヘナ生が話しかけてきた。

 

 

 話しかけてきた。

 

 

 ……予測はしていた。興味本位で話しかけてくるヤツは一定数居るのだろうとは思ってた。だとしても、私は波風を立てたくはないのだ。

 

 視線を、ゆっくりとテーブルの縁へと向ける。

 

 黒と紫で構成された、軍服のような制服が目に入った。ゲヘナ学園における長袖の、コートのようなそれは、私の苦い記憶を呼び起こす。

 

 ……例の定食爆破事件、その下手人がゲヘナ生だったのだ。

 

 

 ……受け入れがたかった。

 

 

 すました顔で、悠々と。優雅に事件現場から立ち去った彼女達の事を思い出すと、ふつふつと怒りが湧いてくる。ちょうどその時頼んでいた、生姜焼き定食が彼女達のせいで木っ端微塵になってしまったのだ。あの時の悔しさと虚しさは、ある意味過去一だったかもしれない。

 

 

 思い出したらムカッ腹が立ってきた。

 

 

 意識が乱れ、顔が紅潮し、不幸の連続で荒みきった脳内が、荒波を立てるように荒れ狂う。グルグルしだした頭と思考で、目の前の景色が回り始めた。

 

 

 ──しかし、しかしだ。目の前の彼女は違うのかもしれないのだ。あのにっくきゲヘナ生とは違うのかもしれないのだ。 

 

 ついさっき頼んだパフェで、私はなんとか気持ちを落ち着けようと試みる。

 

 

 ……が、いくらテーブルの上を見回しても、パフェの器もスプーンも見当たらない。どうやらまだ、パフェそのものが届いてないようだ。

 

 

 ……なるほど、なるほど。

 つまり観念して話せってことね?

 ガッデム。

 

 

 詰みだ。それを自覚した私は胸の内で悪態をつき、本の文章から目を上げて、せめて対面の彼女の顔を拝んでやろうと顔を上げる。

 

 ── ……本のことじゃないかな?

 

 ふと、顔を上げるその最中。そんな思考が頭をよぎった。先程とは打って変わり、思考が急速に冷えていく。

 

 だが、動作をキャンセルする事は叶わない。鳥が枝から飛び立つように、私の頭は動いていく。

 

 車は急に止まれない。

 何故かそんな単語が脳内を過ぎった。

 

(──ええい、ままよ……!!)

 

 スローモーションの時の中、覚悟を決める。

 当たって砕けろの精神で、私は声をかけてきた相手に目を向けた。

 

 

 

 ──ピンクの髪に白い大きな翼、ゲヘナの制服に身を包んだ少女が、コーヒーを静かにテーブルへ置き、私を見ている。鮮やかな桃色の瞳は興味によって丸く開かれ、微笑を湛えた口元は、緩く弧を描いていた。

 

 そして頂点、頭の上には桃色のヘイロー。

 銃の照準を模したような円の中に、瞳のような模様がある。なぜだかそれに見られている気がして、私は咄嗟に目を背けた。

 

 一見すると天使族、もしくは鳥の特徴が出た獣人族か。トリニティ自治区に住まう人々に多いその特徴を備えた目の前のゲヘナ生を見て、私は無意識に思う。

 

 

  ……なるほど。

 もしかしてセーフな人?

 

 

 安心感に包まれた私は、内心ほっと一息ついた。これなら普通に会話出来るかもしれない。

 

 そう思って、彼女の顔を見て口を開く。

 それはそれとして初対面なので、慎重を期しながら……

 

 

 

「──えっと、本の話ですよね?」

 

 

 

 ──推測していた懸念事項を、私は豪速球でぶん投げた。

 

 藪から棒に、いきなり何を?と思われるかもしれない。

 お前、会話下手くそか?と思われた方も居るだろう。

 

 …………安心して欲しい。私もそう思った。

 

 

 

(や、やらかしたーーーーッ!?!?)

 

 

 

 心の中で頭を抱えて絶叫する。あまりの文脈の脈絡の無さに、私は思わず白目を向いた。

 

 ──ど、どうしよう。最初に何を言おうか悩もうとしたら、口から結論が先走っちゃったんだけど!?

 

 焦りで顔からサーっと血の気が引いていく。

 脳内パニック状態。なんとか苦心して組み立てようとしていた会話のプランが音を立てて崩れ落ちていく。並列処理で理性を働かせていた思考から、『ここから入れる保険とか無いんですか!?』と悲鳴が上がった。

 

 ごめん、多分ない。

 私自身に両手を合わせて謝ると、理性担当が膝から崩れ落ちる。私は彼女と抱き合って、おいおい泣きながら沙汰を待った。 

 

 

 対して、彼女の反応は──

 

 

 

「うん、集中して読んでるみたいだから。つい、気になってね」

 

 

 

 ……そう言った彼女は、にこっと笑う。

 大きな天使の白い翼が、軽くパタリと動かされた。

 

 

 セーフだー!!!!

 圧倒的セーフの人だーー!!

 やったー!!!

 

 

 赦しのお告げが流れた脳内にファンファーレが鳴り響く。理性と私は手を取り合い、小躍りしながら喜んだ。

 

 本の話だと分かればこっちの物。

 口八丁でなら、この場を切り抜けられる!

 勝ち確です。対戦ありがとうございました。

 

 勝利を確信した私は、即座に思考の歯車を回し始める。理性の私はすぐさま分離し、撹乱作戦の準備を始めた。

 

 結論を立てて知識を用い、プランを練って言葉を綴る。抑揚は平坦に、だけど熱を込めて。

 

 全ての準備を整えた私の口が、オイルを差した歯車のように回り始める。

 

 

「──えっと、これ。『銃、可愛い、青春』って言うんですけど、いわゆる女子高生が織り成す青春系エッセイ、的なもので……」

 

「うんうん」

 

 

 私のぎこちない説明を聞いて、ゲヘナ生がテーブルの向こうから身を寄せてくる。どうやら掴みは上々の様子、この調子なら大丈夫そうだ。

 

 彼女の様子を確認しながら、私は半分ほどまで読み終えた小説の内容を話していく。

 

 

「女子高生らしい悩みとか、銃にこめた願いとか、そういったキヴォトス特有のメジャーな悩みに切り込みつつも、カラッとした青春ものらしい解決をするっていう作品ですね」

 

 

 ……全ては読んでいない。でも、終わりは何となく予想できた。あっさりとした内容のエッセイだからこそ、もしかしたらという予想混じりの断定で、私は話を回していく。

 

 

「へぇ〜、結構読んでるのね」

 

 ふむふむ、と彼女は頷いた。

 

 

 ───食い付いた!!

 そう確信した私はここぞとばかりに、作品の魅力を畳み掛けにいく。

 

 

「こういった作品ってどこかでモヤッと感が残りやすいと思うんですけど、これにはそういった要素はあんまり無いし。無難に名作なのでおすすめしやすいんですよね!」

 

「確かにね〜」

 

 

 ……よし言いきった!よく頑張った私!!

 無事に、何事もなくやり過ごしきった私を理性(わたし)が褒める。彼女は作品の紹介に対して頷きを見せ、かなり興味を抱いていそうに見えた。

 

 これは作戦成功だよね?

 そう確信した私は、脳内で祝勝会の準備を始める。

 

 

 

 ──しかし、こちらの予想に反して、彼女の表情は申し訳なさそうなものになっていた。

 

 ……嫌な予感がする。

 

 

「……実は、私もそれ読んだんだけどね〜。後半くらいから作風変わるんだよね……」

 

 

 ……渾身の作戦、失敗。

 凶報を告げられた作戦本部の方々(わたしたち)が、お腹を抑えて崩れ落ちた。

 

 勝利を確信していただけにダメージが大きい。

 私は椅子の背もたれに寄りかかって、遠い目をするしかなかった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 目の前の子、なかなかいいじゃない。

 彼女の評価を上方修正した。

 

 『銃、可愛い、青春』は私も読んだことがある。内容が合わなくて売ってしまったが、彼女が話した概要は概ね合っていた。

 

 洞察力は及第点!素晴らしいね!

 

 だけど、説明中の動揺っぷり。合わせて栞の外し忘れ。きっと半分くらいしか読んでなかったんだろうなぁ。本のカバーも掛け忘れてるし、脇が甘くて可愛いね。残念ながら減点対象だよ。

 

 

 温かいコーヒーに口をつけ、私は少し思案する。

 

 

 ──でも、度胸は満点かな?

 コーヒーの香ばしい香りを楽しみながら、満点花丸を彼女に付けた。

 

 

 評価は単純、明快な理由。

 最初は小動物のように警戒心が剥き出しになっていたものの、話している間にちゃんと私の眼を見始めた。声に震えがあったけど、内容自体はまとまっていたし、伝える努力をしていたのが見て取れる。

 

 そして何より、真正面から私を見た。

 

 普通のトリニティ生なら、私のこの制服を見た瞬間、何らかの負の感情を浮かべる事が多い。嫌悪だったり侮蔑だったり、人によっては恐怖だったり。店内に入店する時も感じた、吹くといや〜な風みたいなもの。それを彼女は一切発さなかった。

 

 もしかして、この子はゲヘナへの忌避感情が薄いのかな?

 

 半ば当たっていそうな予想を確信して、心が浮き足立つ。思わぬ収穫を得た事で、私は内心で小躍りした。

 

 

 ──うん、この子面白いね!

 

 

 打てば響きそうだ、と結論付けた私の口元に、にやぁと悪い笑みが浮かぶ。

 

 

 おっといけない、いたずらの最中。

 泡立つ気持ちを抑え、私は急いで表情をバツの悪い顔に修正した。

 

 久しぶりに帰った地元のカフェで、思いがけない出会いを果たす。物語(ドラマ)かな?と思いながら、私は達成感溢れる表情のその子に、申し訳なさを全面に出した嘘の顔を向け、偽りの物語を開帳する。

 

 

「──私もそれ、読んだんだけどね……。後半くらいから作風変わるのよね……」

 

 

 さてさて、貴女(アナタ)はどんな反応をしてくれるかな?

 

 ……両目を両手で覆い隠して天井を見上げる彼女に、私はほのかな期待を寄せはじめた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「ちなみに聞いとくけど、ネタバレOKな感じ?」

 

「アッハイ」

 

「りょ〜……」

 

 

 ──えー、悲報です。

 私、履修勢にドヤ顔で嘘の解説を垂れ流しました。どうも、ド級の戦犯な私です。

 

 目を覆って天井を仰ぎながら、私は現実逃避する。ねぇ、泣いていいよねこれ。応急処置をしようと思ったら、自分で傷口を広げちゃったくらいのショックを受けてるよ今。もしここが自室だったら、ベッドにうつ伏せになって悶え散らかしてるよ?淑女のみっともない取り乱しだぞ?見たいか?見たくないって言え。

 

 荒ぶる頭を理性が無理やり押さえつけ、私は内心で涙を流した。

 

 やったわー、やらかしたわー……、恥っずかしー…………。

 

 しかし、目の前の彼女はといえば。

 申し訳なさそうに、さり気なく!

 私の話した説明に訂正を入れてくれている。

 

 天使かな?

 見た目通りの天使かな??

 この人めっちゃ良い人だよ……!!

 

 

 現在進行形の私の状況、まさに火炙り。優しさという温かい火の遠赤外線で、じわじわこんがり内側まで丸焼きにされていく気分だ。

 

 

 ……もっとちゃんと読んでおけば良かった!!

 

 

 後悔の言葉が、優しさに焼かれる私の中から浮かび上がる。その優しさがとても辛い。身体を突き抜けて頭から火が出そうなくらい、私はさっきの自身の所業を恥じていた。

 

 しかし、彼女は私が悶絶しているのを知ってか知らずか、本来私の口から語られるべきだった、『銃、可愛い、青春』を話し始める。

 

 

「……実は後半から、ドタバタ学園コメディになるのよね。しかもね?親友が原因で引き起こされるタイプのやつ」

 

「──んぇ…?」

 

 

 ──……あれっ?この本って、思ってたよりラノベチックな小説だったりする?

 

 

 語られた内容を聞き、私の興味がむくりと起き上がる。今までの恥ずかしさは嘘のように吹き飛び、現金な私は目の前の面白そうな話に飛びついた。

 

 

「事件が起こる度にね〜、大抵は主人公と親友のどっちかがやらかしたんじゃないか?って疑われるんだけど、原因自体は別にあったり。特に何の関係もない偶然だったりする、っていうね」

 

「ほぇ〜……」

 

「私のおすすめは──、5章の中盤辺りかな〜。あそこら辺はギャグとシリアスのバランスがちょうどいいのよね。銃撃戦の参考にもなるし、ついでに主人公が覚悟決める山場でもあるからね〜」

 

「そうなんだ……」

 

 

 郎報:読んでた小説が意外と面白そうだった件。

 

 対面の彼女の話し方が上手いのか、説明を聞いていくうちに惹き込まれ、途中でパフェが届いた事にも気付かずに夢中で話を聞いていた。次第にカフェ内の空気も弛緩し、客足も戻り始めたように感じる。

 どことなく楽しそうにしている彼女の話を、パフェを食べつつ、私は興味津々で聞いていた。

 

 

「興味、持っちゃった?」

 

「はい!めっちゃ!」

 

 

 だいたいパフェの器が空になり、彼女がコーヒーを飲み終わった頃、彼女が話す『銃、かわいい、青春』は幕を閉じた。

 窓からはオレンジ色の陽光が射し、柔らかく店内を照らしている。思っていた以上に時間が経っていたらしい。

 

 

「読み終わったら感想聞かせてね〜」

 

 

 ──そう言って、彼女はスマホの画面を差し出した。ゲヘナの制服には似合わないが、彼女の髪に似合うピンク色のスマホの画面には、モモトークのQRコードが映っている。

 

 フレンドコードの交換、すなわちモモ友になろうという事だ。

 

 さっきまで私に対し、親切かつフレンドリーに話しかけてくれたお陰もあってか、私の方もすっかり警戒心が消え失せてしまった。肩下げバックからスマホを取り出し、そそくさと操作して彼女のスマホからQRコードを読み取る。

 

 

「ありがと〜、よろしくね〜」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 

 モモトークの交換が終わると、彼女がふにゃりとした表情で微笑んだ。黒猫をデフォルメしたようなアイコンを見て、ちょっとだけ私も嬉しくなる。

 

 ──ふと、画面に表示された時計を見ると、16時を少し過ぎていた。約3時間もカフェで話し込んでいたようだ。

 

 

「それじゃあ、私はこの辺で!」

 

「おっ、気をつけて〜」

 

 

 にこにこと笑顔で見送る彼女に会釈をして、帰路を全力疾走する。まだ見ぬ物語に心躍らせながら、私はまだ青い夕方の空の下を駆けて行った。

 

 

 

 

「──計画通り……!」

 

 

 カフェを去ったトリニティ生を見送って、暫く。

 騙されたとも知らない幼気なトリニティ生を見送り、ニコニコとした笑顔を浮かべるゲヘナ生の口の端に、隠しきれない愉悦の感情が出入りした。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 さて、トリニティの学生寮。

 ……その一室、私の部屋に帰宅した後の話だが。

 

「………何も、無いじゃない」

 

 家事を素早く終わらせ、早速『銃、可愛い、青春』を読破した私の第一声がこれである。

 シンと静かな室内に、失意とか怒りがないまぜになった、少し震えた声が響いた。

 

 ……肝心の『銃、可愛い、青春』だが、終始青い少女の悩みをカラッと解決し、清涼飲料水を飲んだ後のような、綺麗な終わり方で締めくくられている。評価するなら80点、星4レビューが最低ラインと言ったところか。

 

 ……面白かった。ただひたすらに面白かっただけに、1つ言わせてほしい。

 

 

 ──ねぇ、ギャグ要素は?銃撃戦はどこ?

 そんな要素どこにも無かったんだけど??

 

 

 彼女が語ってくれた面白い要素は何1つとして存在せず。あったとしても、それ等の要素は不要とばかりに、かなりあっさりめに描写される事がほとんどだった。

 

 

 ──つまり、どういう事か?

 彼女が語ってくれた心躍る描写は、何一つとして存在していなかったのだ。

 

 とてもがっかりした。あれだけ楽しみにしていた要素の大半は省かれ、残った文章からは『アオハルしろよ!』というメッセージが伝わってくるばかり。ベストセラーに選ばれた事実には頷けるが、私の需要には合致しなかった。

 

 ──なんともモヤモヤした感情が、私の中でぐるぐると渦を巻く。そして、渦が頭の中で一周したその時、とある可能性に思い至った私はスマホの電源を荒々しく入れた。

 

 

 

「────……騙したなぁ!?」

 即座にモモトークを開いた私は思いつく限りの怒りを込めた長文を彼女に送り付け、画面の前で待ち構える。

 

 

 既読が付いた。

 

 アライグマが首を傾げたようなスタンプが送られてきた。

 

 ぜっっっっったい確信犯だな!!

 

 

 

「ふざけやがってぇ!私のワクワクを返せぇー!!」

 

 

 私の怒りは寮母さんに怒られるまで続いた。

 

 

 騒ぎ疲れと怒られた心労で、ヘロヘロになった私は部屋のベットの上に倒れ込む。枕の上でうめき声を上げる私を、窓際の夕陽は柔らかく照らしていた。

 

 私の気分は最悪だよちくしょう。

 私は夕陽に向かってサムズダウンした。

 





・遠芽ワタル
 本作の主人公。トリニティ総合学園に入学した1年生であり、元ヤン。スケバン時代の思考パターンが抜けきらず、定期的に脳内が荒む。

 外見はヒト。たんぽぽ色のウェーブがかったゆるふわボブに、髪色と同じ色の目をした少女。白んだ青空のような水色の、薄い内円と太い外円で構成された二重のヘイローが、頭上にぷかぷか浮かんでいる。


・羽生ウララ
 本作のヒロイン……予定の少女。ゲヘナ学園に所属する、いたずら好きな3年生。定期的にお気に入りを見つけては、ちょっかいを掛けてにこにこしている。タチが悪い。

 外見は天使族。程よい長さに整えられた桜色のロングヘアに、髪色よりも濃い桃色の目。背中からは天使族を象徴する大きな翼が生えている。頭上に浮かぶ桃色の照準のようなヘイローの中には、瞳のような模様が存在しており、ワタル曰く、ヘイローから視線を感じるとの事。謎。
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