ワタルとウララ   作:パンちゃんドラム

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 連続投稿、2日目─────。
 前回に引き続き、ワタルとカズサsideのお話になります。



問題児2人、地元にて最強。

 ざわざわと、食堂内の騒がしさが収まってきた時間帯。時計の長針が4を示しかける頃、私は未だ皿の上に鎮座するバケット相手に悪戦苦闘していた。

 

 

「大盛りって、バケットの枚数増やす事だっけ?普通厚みをプラスするとかじゃないの??」

 

 

 腹八分目を少し超えないあたりで踏ん張っているお腹を擦りながら、残り1切れとなったバケットを見つめる。

 

「大盛り頼んだのアンタでしょ、残さず食べなよ?」

 

 私がバケットに向かって熱視線を送っていると、既に昼食を食べ終えたカズサが含みを持たせた言い方で私に語り掛けてきた。早く食べろと言いたいらしい。

 

「えっとカズサ……、半分手伝ってもらっても」

 

「──ん?何か言った??」

 

 私が下手に出ながら彼女へヘルプを飛ばしてみると、彼女はにっこりと微笑む。その笑みを見た私は喉の奥で小さく悲鳴をあげた。

 

 どうしよう、カズサの目が笑ってない。

 お前が言い出した事だろ、食えよ。と、彼女の言葉の裏に圧を感じる。

 

 

 ──ええい、ままよ!

 私は勢いよくバケットに噛み付いた。

 

 

 

 

「うぅ……、お腹が重い……」

 

「全く、アンタ自分が食べられる量より多く頼みすぎだって。次からちゃんと加減しなよ?」

 

 結局、私はあの後頑張ってバケットを食べきった事により、現在進行形で満腹状態の苦しみを味わっている。そんな私を見たカズサは、腹ごなしに少し散歩しようと提案した。

 

 そういう訳で私達は今、腹ごなしがてら、本校舎の中を探検している真っ最中である。

 

「あ、そうだ。メガネメガネっと」

 

「……そういやアンタ、まだ見えてるんだっけか」

 

 すっかりかけ忘れていた伊達メガネを装着すると、カズサが横目で話しかけてきた。パーカー状のジャージのポケットに手を突っ込みながら、猫耳を片方下げた彼女は、私の顔を少し見上げる。

 

「まあね。体質上切っても切り離せないモンだし」

 

「ふーん」

 

 私がそう答えると、彼女は素っ気ない反応を返してきた。

 

「ま、今度は私を巻き込まないでね。ああいうの、本当に心臓に悪いから」

 

「それはめっちゃ気を付ける、一般人巻き込まないように対処してくわ」

 

 私は彼女の言葉に力強く頷く。こちらの反応を見たカズサは一先ず安心したのか、下げていた片耳を上げて前に向き直った。

 

 そんなこんなで歩いていると、だんだんお腹の中の物が消化され始めたのか、首の下くらいにあった息苦しさのようなものが取れてきた気がする。

 

「ようやくお腹落ち着いてきたかも……」

 

「そ、なら良かった」

 

 カズサはこちらを少し見た後、教室側にある掲示板の貼り紙を見て立ち止まった。彼女が何を見ているのか気になった私もまた、その掲示板の前に立ち止まって貼り紙を眺める。

 

 

『文芸部、新たな部員募集中!』

『陸上部、新たな風を私達と共に掴みに行こう!』

『新入生歓迎!楽器に興味ある子も大歓迎!吹奏楽部』

 

 

「おー、部員争奪戦の貼り紙じゃん。懐かし〜。今度はグレネードの雨でも降るのかな」

 

「物騒な言い方やめな?」

 

 どうやらカズサが見ていたのは部活動の勧誘に使われる貼り紙だったらしい。熱心かつ目を引くよう、様々な工夫が施されたされた部員募集の貼り紙達に私が感心していると、カズサが私の脇腹を肘でつついてきた。

 

「え?私達の中学校、今のシーズンは爆発と銃声多くなかったっけ?」

 

「いやまぁ……、そうだったけどさ……。あそことトリニティを比べちゃ駄目でしょ……」

 

 私が不思議な顔をしながら我らが中学校を引き合いに出すと、彼女もあそこの様子を思い出したのか、歯切れ悪く返答する。私達は揃って、平和っていいな…と貼り紙を見ながら遠い目で、かの中学校の惨状に思いを馳せた。

 

 

 

 私達が通っていた中学校……、不良達に校名が書かれた看板が破壊されて名前すら分からなかった母校なのだが、毎年春になると各フロア毎に凄まじい抗争が巻き起こされる。抗争の引き金になるのはだいたい不良生徒の授業妨害からなのだが、それに怒った真面目ちゃんグループや受験勉強でピリピリしている最上級生、果ては仲の悪い部活動同士の生徒達の間まで戦いの空気が波及し、だいたい梅雨が始まる辺りまでログインボーナスの如く銃声と怒号が鳴り響く戦場と化すのだ。戦えなければ生き残れない、そんな風潮が学校全体を支配する酷い場所である。

 

 では当時、色々あって今以上に目が死んでいた私がこのストレスフルな環境に置かれるとどうなったか。

 

 

 

『ひぃ……っ、ひぃ……っ!?』

『あ……っがぁ………』

『ゆるしてゆるしてゆるしてゆるして』

 

『…………で、反省しなかったら窓の外に出てる身体ごと、2階の窓からこの首根っこ離すけど』

 

『ごめんなさいッ!ごめんなさぁぁぁぁい!!』

 

 

 

 はい、立派な番長の完成です。

 とりあえず、調子に乗ってた奴らは全て叩きのめして1フロア平定しました。これでみんな静かに勉強出来るよ、やったね!

 

 もちろん、まともなクラスメイト達全員と、ギリギリ授業に付き合ってくれていた職員の皆様方からは目の上のたん瘤扱いされました。悲しい。

 

 その後も、勝負を挑んでくる輩は二度と逆らえないように叩きのめし、私が学校に通っている間は悪い事が出来ないようにしてたけど、私達が卒業した後、あの中学校の治安がどうなったのかは分からない。せめて少しでも勉強がしやすい環境になっててほしいとは、OBとして願っているけどね。

 

 ……余談だが、隣のカズサは叩きのめしても叩きのめしても、何度も立ち上がってきた野生の強者だ。普通に銃撃戦が上手かったし、色々教えてみたらみるみるうちに手強くなっていって、最終的な勝率は五分五分くらい。3年の始めには2人で全ての抗争を鎮圧して、お互い悠々と受験勉強に望めたのはいい思い出だ。

 

 今でも、キャスパリーグ時代の彼女の気迫はありありと思い出す事が出来る。

 本当に、彼女はとても手強い強敵だった。

 

 

 

「あそこ、今も抗争してるのかなぁ……?」

 

「どうだろ、3年の頃には殆ど下火になってたし。案外ゆっくり勉強出来る環境になってるかもね?」

 

「そうだったらいいなー……」

 

 2人で母校の事を思い出して、私達はちょっとだけ笑い合う。あの中学校での記憶は、どうやらお互いの脳裏に焼き付いたまま、未だ離れてはくれないらしい。

 

 そうやってカズサと一緒にかつての母校へ思いを馳せていると、左側から誰かの足音が響いてきた。そしてその足音は、私達の背後で止まる。

 

 

「あれ、カズサじゃん。何してんの?」

 

 

 利発でありながら可愛らしい声。どうやら知り合いらしきその子に呼び止められたカズサは、びっくりしたように耳を立て、バツが悪そうにゆっくりと振り返った。

 

「……ヨシミじゃん、どうしたの?」

 

 彼女は振り返ると同時に、ダウナーモードに口調を切り替える。どうやら後ろの子の前では猫を被っているようだ。

 

 それを察知した私は、務めて彼女達を気にしないように部員募集の貼り紙を、上から下までじっくりと見聞していく。

 

「ふっふっふ……、聞いて驚きなさい!部活に使う部室の認可、ちゃんと下りたわよ!」

 

「いいじゃん、やったね」

 

 嬉しそうな声で話す彼女に、程よく相槌を行うカズサ。その会話を盗み聞く私は素直に感心した。カズサの話の聞き方が上手いのである。相手を立てる返し、ちょうどいい間の取り方。全てが洗練されていて、話を聞いているこっちも気分が良くなってくる。

 

 彼女はスケバンを卒業するにあたって、どれ程の苦労をしたのだろうか。あの頃築いた一時代のプライドを、どれ程削って今くらいまで丸い性格にしたのだろうか。彼女が必至に、普通の女子高生を目指して努力した軌跡に感服しながら、私は思わず腕を組んで何度も頷いた。

 

 

「───それで、カズサ。アンタの後ろで掲示板を見ながら頷いてる子って誰?知り合い?」

 

 

 しかしその直後、カズサの知り合いの興味が私に移ってしまったのか、好奇の視線が私の背中へ突き刺さる。その視線を喰らった私は、蛇に睨まれた蛙のように萎縮した。

 

「あ〜……んっと、中学校の同期。顔見知り」

 

 カズサは少し言い淀みながら、彼女に対して私を紹介する。それに合わせて私はぎこちなく振り向き、出来るだけ笑顔で対応しようとした。

 

 

「ど、どうも〜……」

 

 

 ──が、しかし。振り向いた私の目の前に居たのは、圧倒的な陽のオーラを放ち続けている小さな女の子だった!金髪の髪を白いリボンでツインテールに結び、カズサとは色違いの赤いパーカー型ジャージを身に纏うその子は、声から持ったイメージ通りの利発的で可愛らしい顔立ちをしている。

 

 彼女は私をじろじろと上から下までじっくり見た後、カズサへ興味深そうな顔を向けた。

 

 

 

「───意外。カズサって、こういうThe 普通な感じの奴とも付き合ってたんだ」

 

 

 

 …………えっ、普通?

 私は目を丸くする。

 

 その瞬間、一瞬だけカズサの表情がものすごく複雑そうなものへと変化した。一瞬しか見えなかったが、彼女の表情の中には困惑と納得と、あとついでに若干侮蔑の感情が混ざっている。私の方を目だけでちらりと見たカズサは、なんとも言い難い微妙な表情で、彼女の言葉を肯定した。

 

「あ、ぁあ……うん。まあね。ちょっと縁があっただけだよ」

 

 陽の女の子に向かって否定も肯定もしない曖昧な回答をするカズサ。彼女の答えを聞いた女の子は、その瞬間からさらに私に向けて、好奇心のレーザービームを放ち始めた。

 

 

 ……あの、カズサ。助けて。

 

 

 視線にSOSを込めて、私はカズサの方を見る。

 しかし、カズサはつい、と視線を逸らし、窓の外の景色を眺め始めた。

 

 

 ──は、薄情者ぉ!!

 私は好奇の視線に晒されながら、心の中で悲鳴を上げた。

 

 

「それじゃ、ちょっと質問していい?」

 

「ハイ…ドウゾ……ゴジユウニオトリクダサイ……」

 

 完全に緊張でガチガチになってしまった私を彼女は不思議そうに見たが、気を取り直したように質問してくる。かく言う私は、しどろもどろになりすぎて最早自分が何を言っているのかが分からなくなり始めていた。

 

「私は『伊原木ヨシミ』っていうの。あんたの名前は?」

 

「──え、えっと……ワタルって言います……」

 

 女の子───ヨシミというその子が自己紹介をしてくれた事で、何とか平静を取り戻した私は、彼女に目線を合わせないようにしながら名前を言う。彼女を私が直視した場合、凄まじい陽気の前にジュッと焼かれそうだからだ。それはちょっとごめん被る。精神的に。

 

 私の名前を聞いたヨシミちゃんは少し頷くと、私の方を向いてさらに質問を重ね始めた。

 

 

「ワタルね、OK。趣味は?」

 

「はぇあ!?え、えぇっと読書とゲームと旅行と写真撮影を嗜んでおります……」

 

「へぇー、結構多趣味ね?やるじゃん。ちなみに好きな物は?」

 

「うぇ、ウェーブキャットさんに最近ハマりました。モモフレンズのキャラの」

 

「あぁ、アレね。のびっとしてて可愛いわよね」

 

 

 テンポが、テンポが早い……!?

 目まぐるしく変化する質問に、何とか対応していく私。ヨシミちゃんはこちらの様子を特に気にかける事もなく、矢継ぎ早に質問を重ねていく。

 

「ちなみに、普段は何してるの?」

 

「ちょ、ちょっとしたお散歩とか古本屋を見に行ったりしてます」

 

「いい本見つかったりする?」

 

「たまにぃ……」

 

 最早、後半はほぼ半泣き状態だ。繰り出される質問の渦に、私は捕らわれ飲み込まれそうになっていく。ちょっとだけ絶望しかけたその時、私に救いの手が差し伸べられた。

 

 

「──ヨシミ、ちょっとがっつきすぎだよ。ワタルがちょっと泣いてる」

 

 

「え?あ……、ごめん」

 

 カズサの一言のお陰で、私に対しての追求の嵐がピタッと止まる。感謝感激である。さっきは薄情者って言ってごめんねカズサ。やっぱりアンタは最高だよ。

 

 心の中でカズサを拝んでいると、バツが悪そうにヨシミちゃんが話しかけてきた。

 

「あー、えっとその……悪かったわね。カズサの中学時代の知り合いって聞いたから、つい興奮しちゃって」

 

「あ、いえいえ!大丈夫です!私は私でペースについていけてなかっただけですし……!」

 

 謝る彼女に対して、私は反射的に首を振る。

 彼女自身は特に悪い事はしてないのだ。今回は私がついていけなかっただけで、普通の人ならあの程度、簡単についていける会話のテンポなのだろう。私は自身の会話の拙さを省みて、今度こういった状況で会話に乗り遅れないための方法が、なにか無いか探してみようと思った。

 

「……ま、これで解決かな?他にコイツに対してなんか聞きたいこととかある?」

 

 少し、ヨシミちゃんと私で気まずくなっていると、カズサがいい感じに話を纏める。それを聞いたヨシミちゃんは、思い出したかのように私に問い掛けてきた。

 

 

「あ、そうだ。聞きそびれてたんだけど、ワタルってお菓子好き?」

 

「え、うん。結構好き。和菓子系とか特に」

 

 

 彼女の質問に答えると、ヨシミちゃんは落ち込んでいた顔を再びパッと輝かせて、私に向かって笑顔を見せる。

 

「本当?私も好きなのよね!」

 

「ほ、本当に?!」

 

「えぇ!あんたもそうなのね、カズサと一緒じゃん!」

 

 彼女は私に眩しい笑顔を向けて、言葉を続けた。

 

 

 

「───それなら、カズサとあんた、私も含めて。言わば"スイーツ友達"って事になるわね!」

 

 

 

 スイーツ友達という単語が、私の脳内でリフレインする。

 

 

 スイーツ友達……。

 スイーツ友達!?

 

 

 ───その瞬間、私は天啓を得た。

 

 

「────よろしくね、ヨシちゃん!!」

 

「えっ……あぁ、うん。よろしく、ワタル!」

 

 

 彼女と私は友達だったのだ。

 

 とてもハッピーである。まさかのスイーツ繋がりで、友達が居るとは思わなかった。もしかしたらヨシちゃんと私なら、百鬼夜行の可愛い練り切りやお団子などの、美味しいスイーツを共有して一喜一憂出来るかもしれない。

 

 そう思うと心が踊る。

 私のご機嫌パラメータは、本日絶好調を指し示していた。

 

 

「……おーい、ワタルー。そろそろ戻ってきなよー?」

 

「大丈夫、私は平常絶好調!」

 

「あぁ、スルーした方がいい時のテンションだこれ」

 

 

 何やら私に向けて呆れた空気をカズサが漂わせているが、今の私にとっては関係ない。ご機嫌度がすこぶる高い数値で止まっているなら、何でもスルー出来てしまいそうである。

 

 私はヨシちゃんに対して向き直り、左手を差し出した。さぁ、語り合おうか……スイーツパラダイスの世界を……!!

 

 

「ワタル、ヨシミなら授業が始まりそうだからって言って帰ってったよ」

 

 

 えっ、マジで?

 私はカズサの言葉で呆気に取られる。行き場が無くなってしまった私の左手は、何も無い空間を虚しく切っていた。

 

「……って言うか、ワタル。予鈴まであと5分しかないよ。今から走ればギリギリ間に合うと思うけど」

 

「やっば、急がなきゃじゃん!?」

 

 カズサが壁に掛けられた時計を指差して、ヨシちゃんが居なくなってショックを受けていた私を急かす。私は彼女の指摘に飛び上がって、急いで廊下を走り始めた。

 

 

 

 

 さて、結論から言うと。私達はギリギリ授業に間に合ったのだが、チャイムが鳴る前に職員さんが来ていたので軽めに注意を受けてしまった。次回からはちゃんと、5分前行動を意識しようと思う。クラスメイト達から注目の視線でブスブス刺された私達は、ちょっとだけ反省したのだった。

 





・遠芽ワタル
 お腹いっぱいで逆にお腹が痛くなってしまったアホの子。新しい友達ができてテンションが上がっている。

 スイーツは別腹。

・杏山カズサ
 元相方のせいでコミュニケーション能力とスルースキルが鍛えられてしまった悲しき女子高生。やっぱりコイツ面倒臭いな……と、テンションが上がったワタルに呆れ顔を向けている。

 スイーツは別腹。

・伊原木ヨシミ
 新作スイーツの情報は逃がさない、背丈の小さな女子高生。ワタルの距離感の詰め方に少し戸惑ったが、まあそういう子も居るか、と流している。器が広い。

 スイーツは別腹。

・『モーナ中学校』
 ワタルとカズサが通っていた母校。春から夏にかけて校内学区の治安が悪くなる事で有名だったが、去年とあるスケバン2人組が全ての揉め事を鎮圧した。

 現在は争い事の規模や頻度も常識的な範囲に留まり、キヴォトスの平均的な中学校レベルまで落ち着いている。校内では、元気な生徒達の声が敷地内に響き渡っているようだ。
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