ワタルとウララ   作:パンちゃんドラム

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 3本目、投下!
 今回はウララsideとなります。
 銃の完成まであともうちょっと……。



友達と腐れ縁は少しだけ違う

 

 少しだけ、陽が眩しい快晴の午後。私はミレニアム行きのモノレールに揺られながら、外の景色を眺めてぼーっとしている。空調が効いた車内でも、日が当たれば暖かい。平日の午後、学園行きのモノレールだからだろうか?車内は比較的静かで、乗客は私を含めて3,4人ほどしか居なかった。

 

 ……普段通りならアーリヒカイットでバイトをしている私が、なぜミレニアムへ行くのか。それはだいたい1時間くらい前、私がアーリヒカイットで昼休憩をしていた時に遡る。

 

 

 

 アーリヒカイットで昼食を摂り終わった私は、自分の作業室に備え付けられたベッドでぐうたらしながら、ワタルちゃんから送られてきたデータを見て首を傾げていた。

 

(おっかしいなー、あの子、もうちょっと動けそうなんだけどな〜)

 

 つい昨日、体力測定の記録を送ると言っていたワタルちゃん。お昼ご飯を食べていた時にその結果が届いたのだが、なんというか……ワタルちゃんの記録は思っていたよりごちゃごちゃしていた。

 

(150m走が9.4秒、シャトルラン136回ねぇ)

 

 シャトルランは良いとして、私が気になったのは150m走。彼女は近〜中距離の高速戦闘が得意とは言っていたが、この足の速さで戦闘を行っていたとは考えにくい。

 

(そいで、反復横跳び84回と上体起こし23回かぁ……)

 

 あまりにもチグハグな結果を見て、私はため息をついた。勢いに任せて反復横跳びを頑張った結果、体力が持たずに上体起こしで力尽きたとかなのだろうか。ワタルちゃんならありそうだなぁ……。

 

 正確なデータとは言えないそれらの結果を見て、私はまた頭を抱える。ここからの調整は、ある程度憶測も含まなければならないようだ。

 

 ふと、壁に掛けられた時計を見ると短針が12を少し過ぎた辺りを刺している。今日はワタルちゃんに作る銃の素材を受け取るために、ミレニアムサイエンススクールの『新素材開発部』へ掛け合う予定なのだ。到着予定は午後13時、もうそろそろ動かなければならない。

 

「……とりあえず、気分転換も兼ねてミレニアム行こっと」

 

 ──そう思った私は、ベッドから起き上がって身支度を始めたのだった。

 

 

 

 ……と、まあこういう理由である。悩んでいても仕方ない時は、とりあえずリフレッシュするに限るのだ。

 

「ふわぁ……」

 

 ……車内の丁度いい気温と、暖かな陽射しのせいで私の口からあくびが出た。これから一応商談も兼ねて行くのだから、気を緩めすぎてはダメなんだけど……、なんだか春の陽気は、こうして座席に座る私を眠りに誘ってくる。

 

 これぞ春眠暁を覚えず、か。

 

 そんな割とどうでもいい事を考えつつ、モノレールに揺られてうとうとしていると、だんだん走行速度が落ちてきた。どうやら、目的地の駅に到着したらしい。ゆったりとした眠気を振り払い、私はしっかりとした足取りで席を立つ。

 

 

 〔ドアが開きます〕

 

 

 機械の合成音声とともに、フシューッと圧縮された空気が抜けるような音がした。横へ滑るように開いたモノレールのドアの先から、少し湿度の高い空気が車内へ流れ込んでくる。

 

「さーて行きますかっと」

 

 私は軽やかな足取りで、駅の構内に降り立った。

 

 

 

 平日だからかあまり人の行き交う様子の無いモノレールステーションの売店で、ササッと買い物を済ませて駅を出る。

 駅から歩く事だいたい3分くらい、キヴォトス屈指のテクノロジーが集中する学園である『ミレニアムサイエンススクール』、私はその校門前に到着した。

 

 白く輝く建物が点在するミレニアム。そこかしこでハイテクな機器を見る事が出来るこの地域は、色々な物が自動化されていたりする。例に上げるとするなら、先程の駅の無人販売店や、今横を通り過ぎていった無人タクシーがそうだろう。AIによって制御されたそれらは、プログラムによって受けた命令に従い、正確に一連の作業を実行してくれる。とても便利だ。

 

 しかし、そんなハイテクっぷりを見せ付けてくるミレニアムでも、未だに人力で稼働している場所は幾つか存在している。

 

 

「──すみませーん、新素材開発部へ商談予定の羽生ですがー」

 

 

 そして、ここもその1つ。ミレニアムサイエンススクールの校門横にある守衛所は、未だ自動化されず人力で稼働する施設だ。

 

 ……しかし、軽く受付を見た感じ、そこに居るはずの守衛さんの姿が見えない。

 おかしいな……、普段通りの人だったら顔パスで通れるのに。

 

 違和感を感じた私は、門の周りを少し見回す。もしかして自動承認システムを導入したのかもしれないからだ。

 

 なお、それっぽい物は探してみても見つからなかったんだけどね。セキュリティ上、ハッキングとかでガバガバ承認される可能性があるため手動の方が安心感があるだろうし、何よりここはミレニアムだ。凄腕のハッカーなんて、そこら辺の土の中からゴロゴロ取れるくらいには居ると思う。

 

 つまるところ、まだまだ守衛さんは現役らしい。

 

 そんな風に考えた私が、ちょっとした時間で自動化と手動化のメリットデメリットを考察していると、奥の方からガサゴソと物音が響き、慌てた様子で女の子が走ってきた。

 

 

「……お待たせしました。通行証をご提示ください」

 

 

 多分にして昼休憩明けであろう守衛さんは、平静を装って私の事を対応する。思いっきり走っていたさっきの様子は無かった事にしたいようだ。

 

 見慣れない顔だから新人さんだろうか、ご苦労さまだね。予定の時間ピッタリに来たから、少し驚かせてしまったかもしれない。その証拠に、休憩中に寝ていたのか髪が若干跳ねていた。指摘しない事も優しさだし、私はツッコまないであげよう。

 

 そう思った私は、事前に発行されていたミレニアムサイエンススクール用の通行証を守衛さんに見せる。

 

「──はい、通行証を確認致しました。どうぞ」

 

「ありがとね〜」

 

 そんな事を考えていると、通行証を確認した守衛さんが門を開けてくれた。軽く守衛さんに手を振って、私は学園の中央部へと向かう。

 

 あ、守衛さんも手を振り返してくれた。ノリがいい人っぽいね、将来有望。

 

 いい子を見つけて調子が戻ってきた私は、軽い足取りでミレニアムタワーへ向かっていく。しかし、よく見るとタワーの玄関前に誰か居た。

 

 

「おっと、待たせたかなー?」

 

 

 そう呟いた私は、胸ポケットに入れてあるスコープを覗き、私を待っているであろう人物を確認する。

 

「───」

 

 スコープ越しに見えた人物は、白いストレートヘアーにヘッドセットを装着し、きっちり制服を着込んだ少女だった。その子は何かを確認するようにタブレットを覗き、紫色の瞳は画面の上を滑っている。そんな彼女の口元には穏やかな微笑みが浮かんでいた。

 

 セミナー書記の『生塩ノア』ちゃん。彼女が今日、ミレニアムを案内してくれるらしい。ノアちゃんがタワーの前に立っている事に驚いた私は、急いで彼女の元へ走っていく。私の慌ただしい足音に気付いたのか、ノアちゃんはタブレットから顔を上げ、走る私に会釈した。

 

「──ようこそお越しくださいました、ウララ先輩」

 

「ノアちゃんがお出迎え!珍しいね!」

 

「ふふっ、はい。お久しぶりです、ウララ先輩」

 

 走ってきた私がノアちゃんの数歩前で停止すると、ノアちゃんはにこやかに笑みを見せ、私の側に移動する。まさか、今度は私が走る羽目になるとは思わなかった。想定外である。

 

「ウララ先輩、そんなに急がなくても良かったんですよ?時間通りピッタリでしたから」

 

「いやー、だってノアちゃんだもん。多分私が来る時間を逆算してスタンバってたでしょ……」

 

「ふふ、ご想像にお任せします」

 

 意味深な発言をしながら微笑む後輩に、私は苦笑いを浮かべた。ノアちゃんのタブレットに一瞬目を落とすと、時間は『13:00:00』と表示されている。

 

 ……彼女の明晰な頭脳に、私は今日もぎゃふんと言わせる事が出来なかったらしい。

 

 

 

 

 ……私は、自分の事を案外友達と言える子は少ないと思っている。ゲヘナのマコっちゃんは愛すべき悪友だし、万魔殿や風紀委員会は知り合いから少し上。お客さん達とはある程度会話するがあくまでビジネス。一応昔、友達と言えないこともない子も居たが……、別々の学校に進学したので疎遠気味である。

 

 まあ、そんなこんなで友達が少ない私だが……友達自体がいない訳ではない。ノアちゃんはそんな少ない友達の中でも、私が自然体で接する事が出来る珍しいタイプなのだ。

 

「今日も銃の作成用に素材調達ですか?」

 

「そうそう、そういう事だね」

 

 私を知る人達は、素直に答えた私を見て目を丸くするかもしれない。なんせ、私は彼女に対して一切言葉を取り繕って無いのである。ワタルちゃん辺りは頭の具合を心配してくるかもしれない。失言癖がありそうな彼女なら言いそうだと思ってしまった。

 

 ちなみに、ゲヘナ方面での私の評価はと言うと、風紀委員のイオリちゃん曰く、話し方は一貫しているけどなんだか胡散臭いらしい。心外である。

 もはや胡散臭さがアイデンティティなんじゃないかと言ってくれた風紀委員のイオリちゃんには、もれなく銃をきっちりA分解してあげた(落とし前をつけてあげた)

 

 余談だけど、以前ノアちゃんへ含みのある話し方をすると、すぐに言葉の裏を看破されてしまう。彼女曰く、脈拍とか表情の動きで分かるらしい。そんなに分かりやすいのかな……?

 

 そんな事もあってか、私は彼女の前では自然体で居ることにしていた。

 

 

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 

 

 割と頻繁に、銃作成のためにミレニアムを訪れる私だが、いつもはC&Cの誰かか、セミナー所属の会計、『早瀬ユウカ』ちゃんが案内をしてくれる事が多い。ノアちゃんはむしろレアキャラである。その事を珍しく思った私は、会話の途中でノアちゃんへ顔を向けた。

 

「それにしても、ユウカちゃんもメイド部の人でもないって、……みんなそこそこ忙しい感じ?」

 

 私の質問に対して、ノアちゃんは曖昧な微笑みを浮かべ、困ったような様子で説明する。

 

「そうですね……、C&Cはここ最近の治安悪化の対応に。セミナーはそれらの事後処理や対応などがあって忙しそうにしています」

 

「そっか……。ゲヘナはヒナちゃん達が頑張ってくれてるから何とかなってるけど、やっぱりどこも忙しいんだね〜」

 

 それを聞いて、私は改めてゲヘナの風紀委員会に尊敬の念を覚えた。いつも頑張っている彼女たちには、後でお土産を持って行きがてらビシバシ指導を入れようと思う。

 

 暖かい風がミレニアムの敷地内に敷かれた道路を吹いて、私とノアちゃんの髪を揺らした。歩道から建物へ、地面へ横たわるように敷かれた道路を渡りきった私は、少しだけ風を遮るように左翼を広げてノアちゃんヘ向き直った。

 

 

「忙しい中ありがとうね、ノアちゃん!」

 

「いえいえ、これも仕事ですから」

 

 

 口元に手を当て、上品に笑うノアちゃん。彼女と談笑しつつ、私達は新素材開発部の部室へゆっくりと向かっていった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 大きなフラスコ、揺れるビーカー。ラックに収められた計測機器が整然と並び、白衣を着た生徒達が行ったり来たりを繰り返す。

 

 固体から液体、果ては気体までも素材とみなす、ミレニアム屈指の素材バカ達が集まる『新素材開発部』、その部室に私達は到着した。既に幾度か爆発が起こっているのか、扉から漏れ出る空気が若干焦げっぽい。ノアちゃんはその扉を、慣れたような手付きで横に引く。

 

 

「頼もー!アーリヒカイットの天才ガンスミス、ウララちゃんのご到着だよ!!」

 

 

 いつも通り、私が片手を上げながら入室すると新素材開発部のメンバー達が足を止め、幾人かが作業の手を止めてこちらを向いた。

 

「あ、ウラちゃんパイセンちーす。ノアちゃんもお疲れ様〜」

 

「こんにちはー、ご予約の素材取り揃えておきましたよー!」

 

「部長待ってるって言ってたから行ったげてねー」

 

 かれこれ3年間、銃を作る際にお世話になっているからか、慣れた様子で挨拶を交わす部員と私。一部の部員は気後れしているみたいだけど、多分1年生だからだね、仕方ないね。

 

 1人の部員に言われた通り、私とノアちゃんは一緒に奥の部屋ヘ向かった。奥のドアを開ける際に私が手を振ると、部員の皆も片手を上げてくれる。私達がドアを潜ると同時に、喋り声と一緒にガラス同士が擦れ合う音が部室内に響き始めた。

 

 

 

 ──カーテンが締め切られ、暗室のようになった部屋の中。ポツンと置かれたパソコンの光が誰かの背中を照らしている。金属製の棚の中には幾多にも素材のサンプルが敷き詰められ、ガラス貼りの扉には『持ち出し厳禁!!』と大きく書かれた張り紙が張られていた。

 

 

「……ようこそ、新素材開発部ヘ」

 

 

 暗いながらもその室内は、意外な事に清潔さを保っており、塵は一つとして舞っていない。

 その部屋の奥、回転式簡易マッサージチェアに座る怪しい影。新素材開発部の部長、『天基ソルト』がマッサージチェアに取り付けられた備え付けテーブルの上に肘を乗せ、口元で両手を組みながら不敵に笑う。

 

 

「ここでは日夜、新たなる素材を探究し、開発している。それは斯くも、古の大地を掘り起こして油田を採るかのように……、浪漫に身を委ねた同志達が、日夜研究を続けている」

 

 

 ソルトは組んだ両手を開いて、大袈裟に身体を逸らした。ノアちゃんは曖昧な笑みを浮かべ、私は頷きながら彼女の話を聞き続ける。

 

 

「さて羽生女史……、貴女はなんの素材がお望みだい?」

 

 

 決まった……!と言わんばかりの表情を浮かべたソルトの様子を確認したノアちゃんが、暗い部屋に備え付けられたスイッチを押し、明かりを灯した。いきなり明るくなった部屋に、ソルトは椅子から飛び上がって取り乱す。

 

「わ、わーっ!?何をするんだ生塩女史ィ!」

 

「ソルト先輩、私がこの行動を起こしたのは19回目ですよ?先輩の反応が全く変わらないので、私はとても悲しいです」

 

「そうだとしてもねぇ!もっとムードとかねぇ!」

 

 わーわー騒ぐ白衣を着た赤髪のちびっ子、ソルトを呆れたように諭すノアちゃん。ユウカちゃんだと結構初めの方で止めるので、ソルトの完全詠唱を聞くのは久しぶりだ。

 

「──羽生女史もなにか言ってやってくれぇ!」

 

 少し彼女達から目を離して素材サンプルを見ていると、ノアちゃんに理詰めのお説教を受けたのか、ソルトが涙目でこちらに助けを求めてくる。

 

「うーん……、色々足りないから15点。赤点落第!」

 

「ぬわーっ!!」

 

 先程の完全詠唱を採点して、ソルトを突き放す。彼女の詠唱は、ケンさんがお客様を引き込む時に使う『まごころスピーチ』をオマージュしたものなのだが、いかんせん渋さや真摯さが足りない。

 

 私に突き放された彼女は、白衣が汚れる事も厭わず床に崩れ落ちた。悔し涙を流す彼女を見て、私はふっ、と鼻で笑う。

 

「ウララ先輩もあまり乗ってはいけませんよ?ソルト先輩が調子付くと、部室棟内で爆発が多くなってしまうので……」

 

「まあ、お約束だからねこれ。善処はします」

 

「ふふ、知ってます」

 

 床でへこたれているソルトを無視して部屋の椅子に座る私とノアちゃん。彼女が復活してくるまで、私達は近況報告をしあった。

 

 

 

「──それでね〜、ここで私は金額を釣り上げてね〜」

 

「あらあら……、手心を加えなかったんですね」

 

「随分と楽しそうにしているじゃないか、君達ィ……!」

 

 しばらくノアちゃんと談笑していると、ソルトがようやく精神的ダメージから立ち直ったのか、恨めしそうにこちらを見て起き上がってくる。それに気付いた私達は会話を止めて彼女を見た。

 

「あ、おはようソルト。よく眠れた?」

 

「硬いコンクリートみたいな床の上で眠れるわけないだろう、何を当たり前の事を聞いているんだ!」

 

「ソルト先輩、この床の基礎はコンクリートですよ」

 

 軽くおちょくるとこの反応、打てば響くを体現している彼女は、私がゲヘナ学園に入学する前からの腐れ縁。よく銃を作るための素材を融通して貰ったり、素材入手のために危ない区域ヘ突っ込む時に付き合わされたり……。私と彼女は、言わば持ちつ持たれつな関係である。

 

 そんな彼女だが、素材研究のためにミレニアムへ進学し、素材に関する知識を元に、その才能をメキメキと開花させていったらしい。その結果、2年の頃には新素材開発部のメンバー全員が彼女を部長に推薦し、自分以外全員賛成で部長就任が決定していた時の反応は、それはもう面白かった。

 

 その下りだけでも面白かったから、嬉々として彼女を弄り倒しに行ったっけ。まあ、反撃とばかりに襲いかかってきたから花壇に植えたけど。懐かしい思い出だ。

 

「おい羽生女史、なにか失礼な事考えてないか?」

 

「いやー、少しだけしか考えてないよー?」

 

「その失礼な反応、だいぶ失礼な何かを考えてるな君ィ……!!」

 

 つい先程まで考えていた事を頭の隅に追いやって、私は視線を彼女へ戻した。へそを曲げるとそこそこ面倒なのだ、彼女は。前髪の間から少し見える緑色の目を細くして怪しんでくる彼女に勘づかれないうちに、私はさっさと話を進めることにした。

 

「さて、それじゃあ商談……もとい技術交流の話やっちゃおう」

 

「ちっ、仕方あるまい。言及はまた今度にしてやる」

 

 舌打ちを鳴らして矛を収めた彼女は不機嫌そうにしながらも、再度マッサージチェアに座る。

 ここからは、楽しい楽しい交渉タイムだ。

 

「──それじゃあ最初に、私からの注文だね。今、新作の銃を作ってるんだけど、ちょっと素材が不足しててね。懇意にしている素材開発部からいい物を目利き、若しくは条件に合致する新素材が欲しいと思ってきたの」

 

 まずはジャブ。私は挨拶代わりに、事前に条件を書き込んだ自前のタブレットを取り出し、ノアちゃんとソルトの目の前に置く。

 

「拝見しよう」

 

 タブレットを食い入るように見つめたソルトは、ふむ……と唸りながらも左手でメモ帳を取り出し、パラパラとページを捲っていく。ノアちゃんも彼女の横手からタブレットを覗き、条件を確認していた。

 

「軽くて丈夫、それでいて耐熱性がある素材か」

 

 ソルトはそう言うと、少し考え込みながらページを捲る手を止め、タブレットから顔を上げる。彼女は徐ろにポケットからヘアピンを取り出し、目元を隠す前髪を脇へとずらして留めた。本気モードだ。

 

「……まず前提としてだが、注文していたニオブ

コルンビウム、スカンジウム等の軽量型の銃器に使われる素材では条件に届かない可能性がある……ということで間違いないかね?」

 

 軽量型銃器に使われている高価な金属2種を例に挙げ、質問してくるソルト。もちろん私は頷く。

 

 ニオブコルンビウム、スカンジウムは主に耐熱性、耐食性に秀で、何より軽いという特徴がある金属だ。しかし、試しに以前その2種の金属で作った銃身(バレル)で試射してみた所、1発撃っただけで割れてダメになってしまったのである。そこで、素材に詳しいソルトに頼ってみたという訳だ。

 

「おいおい、どういう機構を組んだら銃身が割れるんだ……、相変わらずお前が作る銃はどこかおかしいな?」

 

 呆れたように肩を竦めるソルト。まあ、手間暇かけつつ色々拘ってるからね、私の銃達(子供達)は。とはいえ、今回は機構の問題では無いのだ。その事をまずはソルトに伝えなければなるまい。

 

 

「一応現時点での想定だとね、撃鉄にヴォルフスエッグ鋼鉄を採用しようと考えてるんだけど……」

 

 

 私がそのことを口にした時の2人の反応はバラバラだった。ノアちゃんは私の口からオーパーツの1つである『ヴォルフスエッグ鋼鉄』の名前が出てきて驚き、ソルトは半ば閉じられかけていた目を見開いて、信じられないものを見るように私を見てきた。

 

「ウララ先輩、それって確か……」

 

「うん、オーパーツ。たまに銃を作る時に使うんだよね〜」

 

 シレッとオーパーツを所持しているという情報を明かし、会話の主導権を握る。無論、ソルトは付き合いが長いため知っている情報なのだが。

 

「おいおいおいおい、撃鉄に採用だと……?!ロマン砲でも作る気か……!?」

 

 ヴォルフスエッグ鋼鉄の性質を把握している彼女は、撃鉄に採用という正気とは思えない情報で殴る。

 

 ヴォルフスエッグ鋼鉄は、古代文明によって造られたとされるオーパーツ。知り合い曰く、それを使えば『生徒の神秘伝導率を上昇させる事が出来る』とか言っていた。眉唾物な話ではあるが、実際に銃の部品ヘそれを加えてみると、威力や射程などの性能が跳ね上がり、市販の物とは隔絶した性能を発揮する。なおかつ、部品として高純度のヴォルフスエッグ鋼鉄を使った場合、その部品に応じた性能が強化される事が分かっているのだ。

 

 ……つまるところ、今回ワタルちゃんに作る銃は今まで作ってきた銃達の中でもぶっちぎりのピーキーofピーキー。彼女の射線合わせの腕前を信頼して作成に踏み切った、『威力特化、集弾性皆無な銃』なのだ。普通の銃に慣れ切った彼女たちには、にわかに信じられない話だろう。なんせ、撃鉄とは銃から弾丸を撃ち出すための部品。撃ち出す反動は計り知れず、それを支えきれるかどうか以前に、そもそも弾が当たらないかもしれないのだから。

 

 

「それで、ある感じ?新素材」

 

 

 私は目を細めてソルトを見た。LEDの証明に照らされた部屋に、少しだけ緊張感が張り詰める。彼女にプレッシャーをかけた私は、次の返事を待った。

 

 

「───あるぞ」

 

 

 素材狂いが不敵に笑う。

 

「へぇ、やっぱり?」

 

 私は既に、ページを捲る手を止めた時点からソルトが条件に合致する金属を見つけていた事を確信していた。ソルトの方も条件を見た段階で察していたのだろう。私の方へ、テーブル上に置かれたメモ帳を滑らせてきた。

 

「……ちょうど3ヶ月前、だいたい1月の始め頃に先輩達と完成させた試作合金『アルゲントゥム鉄鋼』。ヴォルフスエッグ鋼鉄をステンレスの17-4鋼と混ぜ合わせた物で、特殊条件下において銀色に光る性質を持っている。耐久性に秀で、ネルの掃射を食らってもある程度耐えた。無論、特許も取得済みだ」

 

「ほほう」

 

 ソルトの自慢げな発言を聞いた私は驚く。

 コールサイン00(ダブルオー)、ミレニアム最強のエージェントと謳われた『美甘ネル』のマシンガンの掃射を食らってある程度持つということはかなり信頼がおける合金のらしい。ソルトの緑色の目は、確かな自信を灯して私を見据えていた。

 

 改めて、私は彼女から受け取ったメモ帳を確認する。そこにはびっしりと文字が書き込まれ、ページの端から端まで黒く染まった合金の説明が記されていた。まるで取扱説明書と言わんばかりのそれに隅から隅まで目を通した私は、不敵にソルトヘ微笑んだ。

 

「……良いわね、最終条件のバレル問題もクリア出来そう」

 

「──あぁ、本来ならヴォルフスエッグ鋼鉄を採用した時点で重さはそれなりに加算される。外の世界基準でなら眉を顰められるだろうが……」

 

 

 ──私とソルトは、お互いに悪い笑みを浮かべる。

 

 

「──キヴォトス人なら問題無い!」

 

完璧(パーフェクト)よ、ソルト」

 

 

 くつくつと笑い出すソルト。満足そうに微笑む私。

 そんな雰囲気に待ったをかけるが如く、ノアちゃんが会話へ割り込んできた。

 

「……ちょ、ちょっと待ってください。そんな希少な素材を渡すのは、いくら信頼のおけるウララ先輩だとしても看過出来ませんよ?セミナーとしては、この取引をこちらに預けてもらいたいのですが……」

 

 珍しく慌てた様子のノアちゃんを見て、私達は顔を見合わせる。

 

「……なあ、ウララ。女史は何か勘違いしているらしいな」

 

「あーね〜、ネタばらししてもいいんじゃない?」

 

 一拍おいて私達が可笑しそうに笑うと、彼女は何が何だか分からない様子で目を瞬かせた。

 

「言っただろう、生塩女史。これは技術交流の一環なのだよ」

 

 ソルトがしてやったり、と言いたげな表情でノアちゃんを見る。

 

「悪いね、ノアちゃん。ソルトはこういうロールプレイをしながらの取引が好きだから、勘違いさせちゃったみたいだね。この後、ソルト側からも要求があるのよ」

 

 私がソルトに親指を向けると、ノアちゃんは完全に気が付いたようで、みるみるうちに顔が赤くなっていった。彼女は場の空気に呑まれてしまったみたいだが、これは私達の間で行われる茶番劇(おふざけ)。ソルトの趣味に付き合い、私側がそういう銃屋(ロール)を演じているだけだ。

 

 その事に気付いた彼女は、私達を見て口元の笑みを深くする。それはそれとして目が笑ってない。こわやこわや……。

 

「……先輩方、後でセミナーにも、詳しくお話を通して貰いますからね」

 

「アハハハハ、もちろんそうするよ!お詫びのお菓子も持ってくから楽しみにしててね!」

 

 私が上下に手を振るジェスチャーをしながら謝罪すると、嘆息しながらも元の表情に戻るノアちゃん。そんな中、空気が読めてなさそうなソルトが、私に向けて嬉しそうに発言した。

 

 

「──生塩女史の貴重な一面を見れただけでも一芝居打った価値はあったものよ。ウララよ、感謝するぞ!」

 

 

 あっバカ。

 

 

「……天基先輩、後でお話しましょうか。」

 

 余計な一言を言ったソルトのせいで、またノアちゃんの表情はとっても怖いものになってしまった。

 

 ソルトって怖いもの知らずだよね、悔い改めて。

 

 微笑を浮かべたノアちゃんに、またもや理詰めのお説教をされ始めた彼女に対し、私はやれやれと肩を竦めるのだった。

 





・羽生ウララ
 交友関係が広い割に友達が少ないという意外性を持つ営業職兼ガンスミス系な女子高生。ノアとはからかったり、からかわれたりな仲。

 ソルトは中学の時の腐れ縁。

・生塩ノア
 ミレニアムの生徒会組織『セミナー』で書記を務めている、容姿端麗な2年生。ウララの事は飄々としながらも、ミレニアムにいい影響を与えているいい先輩だと思っている。

 しかしソルトに対しては、頭が良くて尊敬出来るが性格に難ありな、少し困った先輩だと思っている。

・天基ソルト
 ウララと同じ中学校に通っていた、野生の素材キチ生徒。素材の知識に関してはミレニアムにおいて、右に出る者はいないと評されるほど。

 だが、素材に執着するあまり、自分の身の回りに関しては蔑ろにしがち。最近、自腹で新素材用の研究材料を買ったところ通帳残高が尽き、突如として1ヶ月1万円生活がスタートした。この後アルゲントゥム鉄鋼のお陰で貯蓄がV字に回復する。

・『アルゲントゥム鉄鋼』
 彼のミレニアム最強と名高いC&Cのエージェント、『美甘ネル』の掃射を合計6マガジン分耐えた凄い合金。特定条件下で銀色に光る性質を持っており、新素材開発部では装飾品等に組み込めないか研究中。現在、ミレニアムプライスに提出するかどうか部内で議論されている。

 なお、『やわらかセメント』のコストパフォーマンスに負けて選出予選で敗退する未来が確定している。所詮、オーパーツ頼りではミレニアムプライスで上位入賞出来るわけが無かったのだ。

 そしてなぜか、『やわらかセメント』の方は量産体制が整っているらしい。さすがミレニアム、恐るべき技術力である。
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