ワタルとウララ   作:パンちゃんドラム

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 連絡投稿4日目。
 今回もウララsideです。
 それぞれのキャラ達から派生する交友関係もちゃんと描写していきたいと思う、今日この頃です。



契約履行と小さな約束

 

 例のロールプレイ交渉劇後、部屋の中には風船を針でつついた後のような空気が流れていた。

 理由はもちろん、目の前の空気読み能力-50点の大バカ者のせいである。

 

 現に今、大バカ者(ソルト)は針のむしろに立たされたように縮こまり、ノアちゃんから鬼の表情で詰められまくっていた。

 ゲヘナにも、《総取りは袋叩き(出る杭は打たれる)》って格言があるからね。調子に乗りすぎはよくない。

 

 かくいう私はというと、椅子の背もたれに身を任せ、淡々としたトーンでノアちゃんにお説教をされるソルトを眺めている。

 

「──次からは、あまりこういったからかい方はやめてくださいね?」

 

「はい……、そうします……。ごめんなさい……」

 

 にこにこしながらソルトを見ていると、彼女は恨めしそうに私を見てきた。この件に関しては、謝罪より先に煽り表現を出した彼女の方が悪いと思う。ソルトの自業自得だね。

 

 私があからさまに肩を竦めると、彼女はとても悔しそうな表情で私を睨んできた。あらやだ怖い。

 

 そんな彼女の様子を意図的に無視した私は、ソルトへのお説教を終えたノアちゃんへ話しかける。

 

「ノアちゃんお疲れ様。ちょっと温いけどジュース飲む?」

 

 綺麗な佇まいを少し崩して一息ついたノアちゃんは、懐からジュースを取り出した私を見て目を丸くし、にこりと微笑んだ。

 

「お気遣いありがとうございます、ウララ先輩。いただきますね」

 

 そう言ったノアちゃんにジュースを渡して、徐ろにソルトへ視線を戻すと、ソルトは物欲しそうな目で私の事を見ている。

 

 

 ふむ。

 欲しがりさんめ、ありがたく受け取るがいい。

 

 

「ほいっソルト、パース」

 

「おいっ、コーラを投げるな!部室が大変な事になるじゃないか!?」

 

 ソルトへ雑にコーラを投げ渡すと、彼女から不満げな声が上がる。文句を言うなら返してもらおうかな?

 

「買ってきた人に対してそれは無いんじゃな〜い。

 

 

 ───没収してもいいんだよ?」

 

「ちぃっ……!」

 

 渋々と、投げ渡したコーラを部室内の冷蔵庫へと入れに行くソルト。部屋の扉を静かに開けて、そっと締める彼女の背を見た私は小さく呟く。

 

「──几帳面なのは美徳なんだけどね〜……」

 

「素材に対する愛が人一倍大きいですからね、ソルト先輩は。今も棚が揺れないよう、静かに扉を閉めていらっしゃいましたし……」

 

「ね〜」

 

 私の呟きに反応したノアちゃんは、扉を見つめて同意した。私は彼女の言葉を肯定する。

 

「──ソルト先輩はサンプルの保管の為に、毎日棚の掃除や室温管理を欠かしていませんから。そういった、細かい事に気を配れるのは一種の才能ですね」

 

「……神経質っても言えるけどね」

 

「物は言いよう、ですね」

 

 私の発言にふふっと笑うノアちゃん。やっぱり彼女もそう思ってるみたい。実際、ソルトと付き合う場合は、几帳面さよりも神経質さを受け入れられるかどうかがネックよねぇ……。

 

「……そういえばこの前、セミナーへサンプル保管用の追加予算を打診してきたんですよ。流石にユウカちゃんでも怒ってましたね。『部費を使い込みすぎよ!いくつ保管用のラックを増やせば気が済むワケ!?』って」

 

「ソルトらしいねぇ……」

 

 困ったような表情を浮かべたノアちゃんは、私に最近のソルトの様子を教えてくれた。

 またユウカちゃんに怒られてやんの、懲りないというか諦めが悪いというか……。

 

 中学時代、アーリヒカイットに素材の納入に来た時も同じような事を言っていたので懐かしさを覚える。あの時も、

 

『素材の保管状態が整ってないじゃないか?!』

 

『…………おいおい、おいおいおい。大事な素材を地べたに置きっぱなしだと……?』

 

『──雑置き、整頓不足、機材の集中……!どれもこれも中途半端!!』

 

『───ここを保管場所とする!!!!』

 

 ……ってうるさかったな〜。最上級生になっても相変わらずだね。

 

 そう思った私は、懐かしさを感じて天井を見上げる。

 

 ──私にとって、激動とは言わずとも……なかなか刺激的だった中学時代。あの頃は色んな事があった。

 

 

 ──ある時は、ソルトと一緒に雨上がりの野山を駆けずり回って、泥だらけになりながら素材集めを手伝わされたり。

 

 ──またある時は、ソルト発案でこっそり廃墟の外周部に忍び込んで、当時の治安維持組織から逃げ回る羽目になったり。

 

 ──またまたある時は、ソルトからロマン砲を作ろう!と誘われ、当の本人が素材を揃えてないばかりに、あちこちの店をはしごする羽目になったり。

 

 

 

 …………よく思い返してみたら、コイツに迷惑かけられてばっかりだね?

 

 

  

「……昔っからだからね、ソルト」

 

 ──主にソルトが原因で巻き起こされた数々のトラブルを思い出し、なんかちょっとだけムカっ腹が立った。部屋を照らすLEDライトは白く澄んだ光を灯し、光に照らされる私の顔は、逆に陰影を濃くしていく。

 

 ……そんな私の様子を見ていたノアちゃんは、くすりと口元に手を当てて笑った。

 

 

「ノアちゃん?」

 

 

 ノアちゃんが笑った。

 私は思わず彼女の方へ顔を向ける。

 

「──ふふっ、なんでもないですよ?」

 

 ノアちゃんはそう言って、いつも通りの澄ましたような表情になり、私から顔を背けた。

 

「え〜、教えてよ〜」

 

 彼女から愉悦した時のような、笑いをかみ殺してそうな雰囲気を感じとった私は、先ほどの発言の意図を聞き出そうとする。

 

「…ふふっ、ダメです。教えてあげません」

 

「けち〜……」

 

 しかし残念ながら、ノアちゃんはあっさりとしたお返事で追求を躱してきた。私は意地悪な彼女に口を尖らせる。

 

「……生塩女史相手に何をやってるんだ、ウララ」

 

 彼女の言葉の裏を探ろうと躍起になった私を、のらりくらりと躱すノアちゃん。2人でじゃれあっていると部屋の扉が静かに開き、私に対して半目を向けたソルトが入ってきた。

 

「───あっ、おかえり!コーラ美味しかった?」

 

「まだ飲んでないわ!誰かさんが振動を与えたからな!!」

 

 全く、こいつはいつもいつも……とため息を付きながらソルトがマッサージチェアに腰掛ける。

 

 ──なるほど。いい度胸だ。 

 彼女の小癪な態度に対して、私はとてもイラッとした。

 喧嘩売ってるならなら買うよ?実は今の私、絶賛堪忍袋の緒がギチギチいってるんだよね。

 

 そんな事を思いつつ、ソルトに向けて威圧感を込めた渾身の笑顔をちょっとだけプレゼント。

 

 ……彼女の肩がピクリと跳ねた。

 

 

「──はい、先輩方。そのくらいにしておいて下さい。話が全く進みませんよ?」

 

 

 パン、と両手を叩いて再度ピリピリとした空気が流れ始めた私達に、ノアちゃんは交渉の続きを促してきた。そうだね、そういえば交渉途中だったもんね。

 

 本来の目的を忘れかけていた私は姿勢を正す。

 ソルトは姿勢なぞ知ったことか、とマッサージチェアに深く腰掛けながら私の方を向いた。

 

「──さて、話がだいぶ逸れてしまったな。こちらの要求に移らせてもらおう」

 

 真剣な表情に戻ったソルトは、再度マッサージチェアの上で両手を組み直す。ヘアピンで留められた、彼女の赤い前髪の間から覗く緑色の瞳が、しっかりと私を見据えていた。

 

「いいよ、聞こっか」

 

 私も両手を組んでテーブルの上に肘を置く。

 

 ……交渉も大詰め、不敵な笑みを浮かべた私は先程までの感情を排斥し、1人の商売人としてソルトへと向き合う。

 

 そんな私達の様子を見たノアちゃんは嘆息しつつ、しっかりと交渉の行く末を見届けてくれた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 ──才羽モモイは1年生である。この春、姉妹揃ってミレニアムサイエンススクールに『合格』の二文字を勝ち取ったイケイケJKだ。

 

「よしっ、これでクリアー!」

 

 ──才羽モモイはゲームが好きである。夜が明けた事も分からないままゲームをし続け、クリア画面が見えた辺りで妹のミドリに雷を落とされた事もあった。

 

「えーっと、今日のログボはだいたい回収したから〜…。うん?」

 

 ──才羽モモイは好奇心旺盛である。目新しい事にはとりあえずチャレンジ。最近話題のフィットネスゲームでは、ミドリと一緒に悲鳴をあげたばっかりだ。

 

「なんだろうあそこ……、すっごい人集りが出来てる!」

 

 モモイがミレニアムに入学して約10数日。好奇心の赴くままに様々な場所へ出入りし、目を輝かせてきた彼女のイベントセンサーが告げている。

 

 ……目の前の人集り、風が通らないように締め切られた体育館に詰めかけ、時折館内から生徒達の歓声があがる様子に、モモイの視線は吸い寄せられた。あそこには面白いものがある、と直感的に理解する。

 

「よーっし、行ってみよっと!」

 

 そう思った彼女は、ゲームをしながら歩いていた足を止め、騒がしい人集りへと向かって突撃していった。

 

 

 

「──よいしょ、よいしょ……っと。ふぅ、やっと抜けれた!人多すぎなんだけどー!?」

 

 好奇心とともに人集りへ突撃したモモイだったが、彼女の予想以上に人垣は厚く、小柄な体格の彼女がぎゅうぎゅうと揉まれる。

 

 ──やっとの思いで人集りの最前列に出たモモイは、そこで行われていた見世物のような光景に目を丸くした。

 

 

「ほいっと、3点バースト」

 

 

 桃色の髪と白い羽根をたなびかせ、黒いコートのような制服に身を包んだ少女が拳銃をラフに構える。次の瞬間には空気の抜けたような音が連続し、銃の的として設置された看板に1つの穴が開いた。

 

「──オッケーでーす。次お願いしまーす」

 

「ういうい〜」

 

 くるくると拳銃を回しながら、PCを覗き込む生徒の返事に応えた彼女はすぐに次弾の発砲準備へと移る。

 

 ……ガンスピンを止め、銃口を斜め下へと向けた。銃の回転が止まると同時に彼女の右手が動き、拳銃の撃鉄をスムーズに起こす。

 

 一連の、堂に入ったその仕草は……慣れ親しんだ相棒に語りかけるかのごとく、銃に対して発射の合図を知らせているようだった。

 

 

「えっ……、嘘でしょ!?」

 

 

 自然と行われたその動作、彼女の銃口の先を見たモモイは驚愕する。

 

 ……鮮やかなガンスピンから始まり、的を狙わず照準を床に定めているその様子。普通の射手ならまず行わない体勢だ。

 

 しかし、モモイは知っている。銃を撃つ技術の中には、『変態じみている』と称されるようなトンデモ技術が存在する事を。

 

 

「じゃ、撃つよ〜」

 

 

 ──パンッ。

 

 

 モモイが的に目を向けると、そこには先程穴が空いた箇所に隣接する、2つ目の円が生まれていた。

 

 

 ………跳弾だ。

 

 

「──すっご……!!」

 

 射手の少女によって行われたその仕草の、鮮やかな手際に見惚れたモモイの口から、驚嘆した声が漏れ出る。その呟きは銃を撃った彼女に届くことなく、熱気を帯びた人垣の中へと溶けていった。

 

 

 ──そんな中、桃色の髪の少女は的にした看板へと近付き、しゃがんで1つのゴム弾を取り上げる。

 

 

「動作良好、摩擦と弾力共に問題ナッシング。私の銃にも対応可能で、耐久性も充分にある。『Maxwell』ブランドに対応可能な、新規軸のゴム弾として申し分ない性能だね!」

 

 羽根を僅かに動かしながら立ち上がった少女は、PCを覗き込んでいた生徒へ向けてゴム弾の評価を口にした。その評価を聞いた生徒は、わなわなと身体を震わせ、顔を俯かせる。モモイが不思議そうにその様子を見ていると、突然生徒が顔を上げて叫んだ。

 

 

「───よっしゃああああ!これで卒論取り掛かれるぅぅぅぅ!!!」

 

 

 その言葉を皮切りに、モモイの周りからワッと歓声が上がる。PCが置いてあるテーブルから勢い良く立ち上がった少女は、ガッツポーズをとると共に、滂沱のごとく涙を流し始めた。

 

「うおおおお!七瀬やったなーー!!」

 

「新素材開発部の誇り〜!」

 

「誇らしすぎて今までの天狗鼻もげちゃいそうだよ私ァ〜!」

 

 そんな涙を流して喜ぶ生徒へ、仲間と思わしき少女達が駆け寄っていく。その少女達の顔はどこかキラキラと輝いていて、待ち侘びていたものを前にしたかのように、とても晴れやかなものだった。

 

 

「み、皆ぁ〜っ!!」

 

 

 そんな彼女達の様子は露知らず、『七瀬』と呼ばれた少女はとても嬉しそうに仲間の元へ走っていく。駆け寄って来た少女達は即座に七瀬を取り囲み、元気よく彼女へ向けて宣言した。

 

 

「──全員円陣!新素材開発部の伝統、胴上げ開始!!」

 

 

『わあああぁぁぁーっ!!』

 

「み、皆ぁ……?」

 

 騒がしくも暖かな空気のもと、成果を上げた生徒は少女達の手によって空中へと打ち上げられる。

 

『わーっしょい、わーっしょい!』

 

「──み、皆ぁ〜。降ろしてぇぇぇ……!?」

 

 仲間達から祝福された七瀬はというと、嬉しさと悲鳴が綯い交ぜになったような表情をしながらありったけの賛辞を受け取っていた。

 

 

 ──若干彼女の叫びに恐怖が混じっている気もするが、たぶん気のせいだと思われる。彼女は栄誉あるミレニアムの学徒として、学園の歴史に名を刻んだのだ。その悲鳴は、嬉しさのあまりに口から漏れ出た感激だろう。

 

 だからその涙は嬉し涙なのだ。多分。

 

 

 ──そんな彼女達の様子を見ていた桃髪の少女と、いつの間にか彼女の横に並んだ赤髪の少女は、少女達の微笑ましくも尊い光景を見て、したり顔で頷いている。

 

 

「えっ……と、なにこれ?」

 

 

 ……突然起こった一連の出来事に、何が起こっているのか分からないモモイは体を固まらせ、目を瞬かせた。

 

「──新素材開発部で成果が認められた際に行われる、『祝いの胴上げ』ですね。私が入学してから、これまで34回ほど行われていると記憶しています」

 

 そんなモモイの疑問に応えるように、横合いから涼やかな声が響く。白いロングヘアーにヘッドセットを付けたその先輩は、入学式や説明会でも見かけた事があった。確か、名前は……。

 

 

「──ノア先輩!」

 

「ふふっ、正解です。才羽モモイちゃん」

 

 

 凛とした佇まいで壇上に立ち、学園の事を分かりやすく説明していたその先輩が、モモイの目の前にいる。彼女が自身の名前を言い当てた事に、モモイはとても驚いた。

 

「えっ、名前教えてないのになんで分かるの!?」

 

「入学してくれた子達の名前ですから。全員覚えていますよ」

 

 事も無げにそう言ったノアを見て、モモイは目を輝かせる。

 

「すごーい!めっちゃ頭良いじゃんそれ!?」

 

 モモイの言葉を聞いたノアは、にこりと元気な彼女へ微笑みかけた。

 

「ふふっ、お褒めいただきありがとうございます。モモイちゃんも元気いっぱいですね」

 

「うんっ、なんせ私はピチピチの1年生!元気が有り余ってるからね!」

 

 そう言ったモモイは学生服の袖を巻くって力こぶを作る動作をする。しかし、残念ながらその腕にはこぶは出来ておらず、健康的な少女の細腕があるだけだ。

 

 ──新入生の力強い言葉を聞いて、笑顔を浮かべる頼れる先輩。モモイとノア、2人の生徒のファーストコンタクトは成功したと言えるだろう。

 

「──ん〜、おしまいおしまいっと。いい物作るね、さすが新素材開発部」

 

「当然だろう、我らの部活はミレニアムプライス入賞の常連だぞ。このくらいは造作もないさ」

 

 そんな中、和気あいあいとした空気を纏った2人がモモイ達へと近付いてきた。

 

 ……交渉中の空気感はどこへやら、お互いを認めあうバディのような雰囲気を出すこの変わり様。

付き合いがそれなりに長いノアにとって、その光景は見慣れたものである。

 

「お疲れ様です、ウララ先輩、ソルト先輩」

 

「うむ、立ち合い感謝する。生塩女史」

 

「これにてお仕事完了だよっ!」

 

 しかし、その2人はモモイにとって見慣れぬ人物。

 

 ──1人はモモイよりかは少し背の高い、赤髪の白衣を着用する、腕を組んだ尊大な態度の少女。

 ……そして、もう1人。慣れた様子で手を挙げ、ノアに対して気さくな態度をとるのは……

 

 

「あっ!?さっき銃撃ってた人!」

 

 

「おっ?」

 

──桃色の髪に白い翼、黒と紫を基調とした制服を身に纏う、背の高い少女だった。

 

 モモイは思わず声を上げる。

 

「……む、なんだ。新入生(ニュービー)か?」

 

「なになに?もしかして、さっきの見てくれてた感じ?」

 

 モモイの反応に気付いたのか、彼女達はモモイの方へ振り返った。

 

「うん、そう!凄かったよー!ゲームのキャラみたいだった!」

 

 しかし悲しいかな、モモイの興味は1年生らしく、派手に動いていた羽の少女へと向けられる。

思いっきりスルーされた白衣の少女はがっくり肩を落とした。哀れなり。

 

 モモイが目を輝かせ、羽の少女……ウララへと称賛の言葉を浴びせる。突然のファンガールの登場に、ウララはとても不思議そうな顔をするも、瞬時に頭を先輩モードへと切り替え、彼女に対して向き直った。

 

「ありがと〜!あなた、お名前は?」

 

「才羽モモイ!」

 

「モモイちゃんね、よろしく〜」

 

「うん!お姉さんは?」

 

「お姉さん……。──私の事はウラお姉ちゃんと呼びなさい!」

 

「えー!?さすがにお姉ちゃんは恥ずかしいよー!名前、名前だけでいいから教えて教えてー!」

 

「仕方ないなぁ……、私はウララよ!よく覚えて帰ってね!」

 

「了解!ウララお姉さん!」

 

 突如として始まったマシンガントーク。

 頼れるお姉さんモードに切り替わったウララがモモイに対して即ファンサ。

 年上に対してほぼタメ語で話しかける後輩。

 ソルトは戦慄した。 

 

「……私が出る幕は無さそうだな」

 

 片や自校の1年生、片や別学校の3年生であるにも関わらず、淀みなく会話をし始めた彼女達に赤髪の少女…ソルトは恐怖する。なんせ、彼女は生粋の陰の民。あの会話の中に混ざろうものなら、ミキサーにかけられた生クリームのように泡を噴いてしまうだろう。

 

 君子、陽には近寄らずと言わんばかりにその場を去ろうとする彼女の様子を、ノアは愉悦の感情をオブラートに包んだような目で見つめた。

 

「──先輩は混ざらないんですか?」

 

「……混ざれる訳がないだろう。ウララの会話に着いていける奴は、総じて強者側だとデータが出ているんだ。自ら会話の洗濯機に巻き込まれようとは思わないからな」

 

 呆れるほどに素早い理論武装。ソルト、戦わずして戦略的撤退である。無論、ノアは面白がって彼女の様子をしっかり記憶した事は言うまでもない。

 

「よしっ、取引終了だ。各々、注文された素材の梱包に移れよ!!」

 

 機材を撤収していく部員達へと向け、号令をかけるソルト。

 

「ふふっ……」

 

 そんな彼女を見るノアの目には、喜悦が入り交じっていた。

 

 

「じゃあじゃあ、お姉さんやっぱり銃とか詳しいんだ!」

 

「ふふふ、そうなのです……。銃とか詳しいんです……」

 

 

 なお、横2人の少女達の会話はあまり気にしない事にした。一応敬称を使っている1年生と、会話に乗ってあげている先輩の会話の中身は、だいたいノリと勢いで構成されるためである。それでも3年生であるウララにタメ口で話しかけているモモイが注意されずに見逃されているのは、ノアがウララの度量の大きさを知っているからだ。

 

 ……生塩ノアは『瞬間記憶能力』を持っている。

 一度見聞きした情報は必ず彼女の記憶領域へと保存されるのだ。なのでまあ、2人のプロフィールをよく知っている彼女からすれば、上記の会話というのは学園間の問題にはなり得ない。彼女はそう判断する。

 

 ……そんなノリとノリで通じあった彼女達2人のマシンガントークは、彼女の中に一言一句、微笑ましいものとして記録されたのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ──これまた面白そうな子だ。目の前の彼女、才羽モモイちゃんに私のセンサーが反応する。

 桃色の猫耳型ヘッドセットに、アンプのような猫のしっぽ。ピンクのスカートにミレニアム指定のピンクの裏地の白衣を着た金髪少女。元気っ子な1年生だね。

 

「それでそれで、さっきの撃ち方ってどうやってたの!?」

 

 それでいて、話の取っかかりを自分の興味で作り出せる。コミュ力高いね、将来性あるよ!

 

「ふっふっふ、それはねぇ……」

 

 もったいぶってタメを作ると、モモイちゃんはごくりと唾を飲み込む。

 

 

「────慣れだよ!」

 

 

「えーー!!?慣れーー!?」

 

 そう、慣れなのです。

 私は鷹揚に頷いた。

 

 正確には、知識と継続と経験なんだけどね。興味を持ってくれてるみたいだから、わざとハードルを低く設定した。初心者はゆっくり沼に漬け込まなきゃね……。

 

「うんうん、そうだよ。厳密には、反射させたい場所と跳ね返り方を身体に覚えさせなきゃだけどね〜」

 

 とは言え、前提条件だけはしっかり明言しておかないと勘違いを起こしてしまいそうなので教えておく。

 

 なお、説明を聞いた彼女はがっくりと肩を落としてしまった。オーバーリアクション気味なところ、ちょっとワタルちゃんに似てるね。

 

「そんな〜……、カッコよかったからアタシもやってみたかったのにぃ〜……」

 

 残念そうに呟くモモイちゃんを見て、次の言葉を考える。跳弾はカッコいいもんね、分かるよ。私も小学生の頃にみっちり練習して出来るようになったからね。

 

 なので私は指をふる。悩める少女に道を指し示すのは、先達としての誉れであるが故に。

 

「でも、きっと出来るよ。5月半ばの日曜日、私が直々にモモイちゃんを鍛えてあげる!」

 

 私の言葉を聞いたモモイちゃんが、勢いよく顔をあげた。

 

 

「えっ、いいの!?やった〜!!」

 

 

 先程の様子とは打って変わって、嬉しそうな表情へ変わるモモイちゃん。お仕事には関係ないけど、趣味で教える分には問題ないからね。

 

「そういう訳だから、モモトーク交換しとこっか」

 

「うん、ありがとう!」

 

 ということで、モモイちゃんのモモトークゲット!字面がギャグじゃないの面白いね。

 

「よし、このくらいかな?」

 

「そうですね、そろそろ時間です」

 

 ノアちゃんの言葉に頷いて、私は出口に向けて歩き出す。その際、

 

「──モモイちゃん、彼女はゲヘナの3年生なので、次に会う時は失礼のないようにお願いしますね」

 

「えっ。そ、そうだったんだ……。気付かなかった……。教えてくれてありがとうございます……」

 

 ──なんて会話が聞こえてきた気がしたけど、知らんぷりしてあげる事にした。

 

 

 ま、他校の事だからね。気にしない気にしない。

 

 





・羽生ウララ
 3点バーストから跳弾まで、銃に関しては何でもござれなガンスミス系一般美少女。元気で可愛くて反応のいい子が好き。

 実は自分のブランドを持っている。


・天基ソルト
 意外と部員に対する面倒見はいい、素材キチ系のチビッ子少女。過去、ウララの話のスピードに着いていこうとした事はあったが、彼女のペースに振り回されて尽く失敗している。

 今夜、もやし炒めの味付けに失敗する。


・生塩ノア
 キヴォトス屈指の記憶力を誇る、ミレニアムの敏腕セミナー書記な女の子。元気な1年生の姿に、口元が手を当てて微笑んでいる。

 一応念の為、ウララに気安く話しかけたモモイに注意した。

・才羽モモイ
 今年ミレニアムサイエンススクールに合格した、新米生え抜きな1年生。ゲームが好きでこの間、とある同級生の部屋へ妹のミドリと一緒に押しかけた。

 この後、作ったゲームが『クソゲー・オブ・ザ・イヤー』を受賞する。


・『Maxwell御用達、新素材開発部の新作ゴム弾!』
 ミレニアムの新素材開発部がお送りする、ゴム弾業界に彗星の如く現れた新たな商品。撃ったゴム弾が1発で駄目になる『Maxwell』ブランドでも15回以上使い回せるという脅威の耐久性を誇ると宣伝されており、各銃種ごとに対応したゴム弾が取り揃えられている。

 お値段は少しお高め、1セット60発入りで1580円。
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