ワタルとウララ   作:パンちゃんドラム

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 ワタル in 放課後スイーツ部。
 今作でやりたい事の1つです。
 原作のグループの雰囲気から乖離する事は確定しました。
 ワタル、割とギャグ時空寄りの人間なので……。



お菓子な話と変わったカズサ

 

 ──ザァ……。

 

 トリニティ総合学園の名所でお馴染み、『トリニティ・スクエア』。

 

 白い彫刻が彫り込まれた装飾噴水の頂点からは、吹き出した水が上段、中段、下段の層に滑らかに流れ落ちていき、時折、下段のプール層からも空に向かって程よく水が吹き上げられる。広場に敷き詰められた白いレンガと、丁寧に整えられた青い芝生のコントラストに調和するその噴水はこのスポットの立役者だ。

 

 そして付近には、これまた清純な水を湛えた扇型の白い貯水池が噴水を囲うように設けられ、それらの前に木目調のベンチが一定の感覚を開けて備え付けられている。景色も良く、冬以外の季節なら気温や湿度も調度良いここは、平日のお昼休みで生徒が場所の取り合いが始まるくらいの人気スポットなのだ。

 

 

 そして今、そんな人気スポットのベンチ1つを、私達は5人で占拠している。今、この瞬間からベンチの上は、イマドキJK達によるスイーツの祭典会場に変わろうとしていたのだ────!!

 

 

「──……おーい、1人で悦に浸らないで自己紹介しなよー」

 

「だいじょーぶ、言わなくてもわかってるわよ」

 

 思考を途中で打ち切った私は、カズサへ向けてひらひら手を振る。本当か……?と疑わしげな彼女の視線が私に突き刺さった。他にも、私達のやり取りを見て興味津々な視線や、どこか戸惑うような視線、ちょっと困惑気味な視線が私に対して向けられている。

 

 そんな彼女達の視線を気にせず、私は自己紹介をするべく口を開く。

 

「──改めまして、遠芽ワタルです。好きな物は和菓子系、最近は餡団子にハマってます。よろしくお願いします」

 

 彼女達に向けてゆっくりお辞儀をすると、ぱちぱちとまばらに拍手が送られてきた。

 

 どうよカズサ、挨拶するのは簡単なのよ──と、彼女へ向けて内心でドヤ顔をかましていると、私に対して質問が飛んでくる。

 

「はい!」

 

「ヨシちゃんどうぞ」

 

「さっきのあれはなんだったの!?」

 

 

 …………。

 

 

 気まずさから、私はヨシちゃんからそっと目を逸らす。顔見知りに変な挙動の一部始終を見られていたという事実に、今更ながら気付いたからだ。つい、カッとなってカズサに飛び蹴りをしちゃったけど、よくよく考えてみたらあの行動も一般的では無い。『アイサツ』というコミュニケーションは、誰彼構わず通用する訳じゃないのである。それくらい『古事記』に書いといてよ!と、私は思った。

 

 なので、ここは説明上手なカズサに向けてヘルプを飛ばす。アンタなら、昔私が説明した『アイサツ』の意味を、分かりやすく、丁寧に皆へ伝えられるはずだ!頑張れカズサ!!

 

「……カズサ、パス」

 

「キラーパスやめろ。あんたが答えるべき質問でしょうが」

 

「え〜……」

 

 助けを求めたはずなのに、彼女はつっけんどんに私を突き放す。獅子は千尋の谷へ子を落とすと言うが、ネコ科の彼女もやはりそうなのか。ショックだ。

 

 カズサの冷たい態度に打ちひしがれながら、私は1回両手で頬を叩く。観念した私は、素直にヨシちゃんの質問に答える事にした。

 

 

 …………『アイサツ』って、一般人にはどう伝えればいいんだろ。

 

 

「んーとね……、ヨシちゃんには前に会った時、カズサと同じ中学に通ってたって言ってたじゃん。そん時の私達がやってた、挨拶がわりの腕試しのグレードアップバージョン」

 

「……うん、うん?」

 

 私が自分とカズサを右手の親指を使って交互に指すと、困惑気味のヨシちゃんが質問を返す。とりあえずで事実のみにフォーカスした私の説明は、なんとなく彼女に伝わったようだ。

 

「ごめん、ちょっと理解出来なかったからもう1回言ってもらっていい?」

 

 伝わっていなかったらしい。

 じゃあ、分かりやすくもう一度。

 

 

「挨拶がわりの腕試しのグレードアップバージョン」

 

「挨拶がわりの腕試しのグレードアップバージョン!?」

 

 

 驚いた様子で、私とカズサの顔を交互に見るヨシちゃん。とても良いリアクション。凄くウラちゃんが喜びそうな反応の良さに、私は分かっているじゃないか……と頷く。

 

 なお、私の発言に対してカズサは何も言わずにそっぽを向いた。カズサとしては掘り下げられたくないもんね、中学時代。だからある程度、私に対しての注目の比重を傾けた言い方にしたんだけど……。

 

「──カズサ、どういう事なのか説明しなさいよ!放課後スイーツ部みたいな活動してたんじゃないわけ!?」

 

「え、一言も言ってないんだけど……」

 

「嘘でしょ!?」

 

 やはり、付き合いの長さからかカズサの方へと飛び火してしまったらしい。ごめん、カズサ。

 

 それはそれとして、会った時からそうだったがヨシちゃんはとてもお喋りである。気になった事はズバズバと質問し、会話のエンジンを温めるスターターのような子だ。彼女が居るだけで、初対面の人と話すのが苦手な私でも会話のテンポに乗れそうな気がする。乗せ上手というのはこういう事を言うのだろうか?

 

 ……しかし、カズサとの相性はそこまで良くなさそうに感じた。私が知っているカズサは、どちらかと言うとマイペース寄り。自分のテンポで話す事を好むきらいがある。現に今も、ヨシちゃんに肩を掴まれて詰問されている彼女の顔は、とても鬱陶しそうに歪んでいた。こういう時のカズサは、拘束時間が長引けば長引くほど、どんどん機嫌が悪くなっていく。このままでは楽しい楽しいコミュニケーションタイムがおじゃんになってしまうかもしれない。それは避けたい。

 

 ──これは助け舟を出した方が良いかもしれない。そう結論付けた私は口を開こうとした。

 

 

「──まぁまぁ、ヨシミちゃん。そのくらいにしておいてあげようよ。カズサちゃんも困ってるし……」

 

 

 だが、その前に黒髪ロングヘアの子がヨシちゃんの詰問を止める。どうやら私が止めるまでも無かったらしい。

 

「し、仕方ないわねぇ……」

 

 彼女に窘められたヨシちゃんは、カズサへの詰問を渋々止めて席に座り直した。それを見たカズサは、ようやく終わったと言わんばかりに小さく嘆息する。黒髪ロングの子はそれを見て、彼女達の諍いが終息したと判断したのかこちらへと向き直った。

 

「え、え〜っと……私も質問してもいいですか?」

 

 そう言った黒髪ロングの子が控えめに手を挙げ、私を見る。若干おどおどとした様子が見受けられる彼女だが、メンバーの諍いを仲裁出来ている事を見るにそれなりの発言力があるらしい。このグループの会話のバランサーだろうか?

 

 ……そう考えた私は一、二もなく頷いた。彼女は言わばまとめ役、蔑ろにしたらダメなタイプだと私の直感が囁いている。そも、質問されて困る理由も無いしね。

 

「いいですよ。……えーっと、お名前を聞いても?」

 

「あ、そうだった。私は『栗村アイリ』っていいます。よろしくね、ワタルちゃん!」

 

 そういえば名前を聞いていなかったな…と私が彼女に問いかけると、彼女ははにかむような笑顔で答えてくれた。それも初手名前呼びである。

 

 

 ワタルちゃん。

 ワタルちゃんかぁ……。

 

 

 私のご機嫌パラメータの数値が急上昇した。

 

 

「──うん、よろしくねアイリちゃん!」

 

「えっ……あっ、うん。よろしくね!」

 

 私が元気よく挨拶に答えると、ちょっと間が空いて彼女から返事が返ってきた。少し変な間が空いてた気がするけど気の所為だね!

 

「──ねぇ、カズサ……。私の時もそうだったけど、あの子の距離感ちょっとおかしくない?」

 

「あ〜……うん。おかしいよ。ついでに一般常識もちょっと怪しいレベル」

 

「えぇ……」

 

 それはそれとして、何やらアイリちゃんの横でひそひそ話をしている彼女達は何なのだろうか。詰問状態から短時間で平常復帰するとは、日頃からとても仲がいいようである。ちょっと羨ましい。

 

「……それでなんだけど、さっき質問したかった事聞いてもいいかな?」

 

「うん、いいわよ。じゃんじゃん聞いて!」

 

 おっといけない。今はアイリちゃんの方に集中しなきゃだった。私は胸を張って彼女に向き合う。

 

「なんでナツちゃんと一緒に歩いてたの?」

 

「あ〜、それね。ナッちゃんが過去の私に助けられたらしくて、それのお礼された後の成り行きで」

 

 そう私が答えると、彼女は目を丸くした後にナッちゃんの方へと振り向いた。会話に上げられた彼女はというと、私達の会話を然程気にすること無くのんびり牛乳を飲んでいる。

 

「ナツちゃん、ワタルちゃんに前に助けられたって本当?」

 

 アイリちゃんが彼女に聞くと、紙パックのストローから口を離し、赤い瞳を動かしてゆっくり首肯する。

 

「──ん。うん、そうだよ。マリトッツォの恩人」

 

「らしいわ」

 

「らしいって……あんた覚えてないの?」

 

 ナッちゃんの言葉に私が同意すると、カズサが会話に混ざってきた。ヨシちゃんとの内緒話は一区切りついたのかな?

 

「うん、それっぽい事した記憶はあるけどいつだったかは覚えてない」

 

「あっけらかんとしちゃってまぁ。またコイツは……」

 

 ため息をつきたそうに膝上で頬杖をつくカズサ。私のやってきた行動の数々を今まで見てきた彼女は、言葉の意味をなんとなーく察した様子。ナッちゃんはというと、私の方へ向いて眉を下げている。

 

 彼女には悪いが本当に覚えてないのだ。誰かの落し物届けたりとか、木に引っかかった風船を取ってあげたりとかの、私にとってのごく当たり前の人助けの何処かしらで、偶然彼女のマリトッツォの件があったのだろう。私の記憶に残ってないってことはそういう事だ。だけど、巡り巡ってその時助けた子からイチゴパイを貰えるんだから、やっぱり人助けはやり得よね。

 

「でも、イチゴパイめっちゃ美味しかったわ。ありがとね!」

 

「やっぱり?よかったぁ」

 

 因果応報の意味を噛み締めながら、私はしっかりナッちゃんにお礼をする。お礼に対して彼女は、ちょっと目尻を下げた。

 

  

「……そういえばなんだけどさ、ナツ。今日ってどうして遅れたの?」

 

 

 と、カズサの質問の矛先がここでナッちゃんに向く。

 

 あれ、ナッちゃん遅刻してたの?

 結構ゆっくり私と歩いてきてたよね?

 

 私が驚いてナッちゃんの方を見ると、彼女は小首を傾げて口を開いた。

 

「うん?ワタルにパイを渡しに行ってたからだけど」

 

「えっ」

 

 さらっと言われた彼女の発言に私は驚く。遅刻しているにも関わらず、彼女とのんびりゆっくり歩いてきた私は、顔から波が引くように、サーッと血の気が引いていった。

 

 

「……ふーん、そういう?」

 

「みんなの分もちゃんとあるよ、安心して」

 

 

 ナッちゃんの話を聞いたカズサが、私にアルカイックスマイルを向ける。ナッちゃんの咄嗟のフォローに対して私は、そういう問題じゃない気がする、と口の端を引き攣らせた。

 

「……つまりナツが遅れてきた理由はワタルにあるって事?」

 

「おぐっ」

 

 カズサの指摘に、私の喉奥から変な声が漏れ出る。私の返答を聞いた彼女は、こちらに向ける表情を呆れたものへと変貌させた。

 

 

「まあ、ワタルの事は責めないよ。悪いのは遅れてきたコイツだし」

 

 

 ため息をつきながら、カズサはナッちゃんに半目を向ける。

 

「……?」

 

 対して、ナッちゃんはのんびり牛乳を飲みながら不思議そうに首を傾げた。

 

 

「……たださ、ワタル。パイ、食べたんだよね?」

 

 

 するとここで、カズサが腕を組んで私を見据える。気迫に押されて私がコクリと頷くと、彼女は組んだ腕を解き、アイリちゃん達の方を手で指し示した。

 

 

「ワタルにはまだ紹介してなかったんだけどさ、私達は『放課後スイーツ部』っていう部活を結成しててね。文字通り、学校が終わってからみんなでスイーツを楽しもうって部活なのよ」

 

「放課後スイーツ部……!?」

 

 

 トリニティに入学してから初めて聞く名前の部活を前に私はたじろぐ。ベンチに座っているにも関わらず、彼女の泰然自若とした姿からは確かな貫禄が感じられた。

 

 学校説明会や部活動紹介の時には一切名前が出てこなかったという事は、まさか作ったとでも言うのかこの子達は。1年生で。

 もしそうなら、この子達ってとても行動力が凄いんじゃなかろうか。

 

 

 ……あれ、もしかしなくても私、とんでもない子達と対面してる?

 

 

 その事に気が付いた私にさらに追い討ちをかけるかの如く、カズサは話を続けた。

 

 

「そして今日は、部のみんなでスイーツを持ち寄って食べようっていう、『お菓子交換会』の日だったのよ」

 

 

 ──す、スイーツを持ち寄ってパーティーする!?

 

 私は彼女達が陽キャ感溢れるイベントをしようとしている事実にショックを受けた。

 

「──という事は、ワタルも何か出さないとじゃない?」

 

「そうだね……!!」

 

 彼女のどうしようもなく真っ当な正論にハッとした私は、唇をギュッと噛み締める。呻き声をあげながら苦悶する私に、紙パックのストローから口を離したナッちゃんは、びっくりしたのか目を白黒させていた。

 

 

「──い、一応持ってきておいた、とっておきの抹茶ポッキーならここに……!!」

 

 

「うわ、すっごい苦しそうな声出してる」

 

 これでもか、と未練タラタラな声を出しながら、私は持ってきておいたお菓子の中のとっておき、『春限定版:天使印の抹茶ポッキー』を取り出した。美味しい割に意外と売ってなくて、探すのが大変だったやつである。出来ればこれは、ウラちゃんと一緒に食べたかった。

 

 

 ──しかし、だけど……!!

 

 

「ぐぬぬぬぬ…………!!」

 

 私は彼女達『放課後スイーツ部』に向けて、お詫びの意味も込めてポッキーを差し出す。なんせ、放課後スイーツ部の皆に振る舞われる予定だったパイの1つを、先んじて食べてしまったからだ。ある意味、彼女達の楽しみを先取りしてしまったと言ってもいいし、奪ったとも取れる。

 

 ならば、それに並ぶお菓子で補填せねばなるまい。

 

 そして、貢ぎ物のパッケージを見て満足したのか、カズサは私から抹茶ポッキーを受け取った。

 

「これでお咎めなしってことにしとくよ」

 

「うわぁ……」

 

 何やらヨシちゃんが引いたような声を出したが、あまり気にしないで欲しい。私はベンチの上で足を組み換え、姿勢正しく座り直す。

 

「……ちょっとカズサ、これ貰っちゃって良かったの?ワタル、めちゃくちゃうめき声上げながら渡してなかった?」

 

「ん?ああ、大丈夫だよ。ワタル、こういったケジメはしっかり付けておかなきゃ気が済まない奴だったし」

 

 私はゆっくり頷いた。

 カズサは私の事をよく分かっている。

 

「──じゃあ、ベンチの上で正座してるのは?」

 

「……アレは管轄外。ほっといた方がいいよ」

 

 だけど、私の誠意までは汲み取ってくれなかったようだ。悲しい。私はしょんぼりしながら普通にベンチへ座り直した。

 

 

「あ、あはは……元気出して、ワタルちゃん。お菓子があるなら、私達と一緒に食べようよ!」

 

 

 しかしここで女神様が again(アゲイン)

 なんと、アイリちゃんが私のスイーツパーティーへの参加を打診してくれたのである。

 

「い、いいの……?私、部外者だけど……」

 

「うん、いいよ!──だって、お菓子好きなんでしょ?」

 

 天使のような笑顔を向けられ、私ははらはらと涙を流した。無償の優しさが私を(つつ)み、心が綿毛に(くる)まれる。何故だか身体がぽかぽかしてきて、私は彼女に手を合わせた。

 

 

「それじゃあ、皆!ワタルちゃんもお菓子交換会に参加させてあげようと思うんだけど、いいよねっ?」

 

 

 アイリちゃんの溌剌とした声が目蓋の向こう側から響いてくる。目を開くと、『放課後スイーツ部』の面々は、それぞれの歓迎の表情を私に向けていた。

 

 

「私は問題なし」

 

「異論は元々無いよ」

 

「全くもう……しょうがないわね!」

 

 

 つん、と澄まし顔のカズサ。

 ふにゃっと口角を上げるナッちゃん。

 腕を組んで、勝気な笑みを浮かべるヨシちゃん。

 

 ──そして、私に手を差し伸べるアイリちゃん。

 

 スイーツパーティーへの参加の承認。

 彼女達の総意をしっかり受け取った私は、万感の思いを持ってその言葉を聞き入れた。

 

 

「……ありがたき、幸せ!」

 

 

 仰々しい言葉で私が深く深くお辞儀をすると、クスッと誰かから笑いが起こる。

 

 

「まぁ、とにかく、これで全員集合だね!」

 

 

 ぱん、と手を打ってアイリちゃんが場を和ませると、空気が柔らかく弛緩する。私は思わず瞠目した。たった一言でみんなの心を変え、纏めあげるその姿はまるでリーダーだ。ちょっとした後光みたいな緑色の光が彼女の後ろから見える気がする。

 

 

「──それじゃあ、みんな集まった事だし、お菓子交換会していこー!」

 

 

 うわっ、眩しい!?

 彼女が発言すると同時に、緑の後光が緩やかに明度を上げた。もしや彼女、常時癒しの波動が身体から漏れているのだろうか?

 

 ……であれば、カズサがあまりピリピリせずに部活動を続けられている理由に説明が付くかもしれない。彼女を取り巻く良縁が、末永く続くものであって欲しいと私は願う。私は友達の行く末が幸せであって欲しいタイプなのだ。かつての願いが叶えられた今こそ、元相方な彼女には存分に青春を堪能して欲しいと、私は思っている。

 

 私はうんうんと頷いた。

 やっぱり、他人の笑顔を見ると元気になるね。

 

 

 そう思って、ふと気付く。

 よくよく考えるとこのグループ、会話をするに当たってのバランスが非常に良い。スターターのヨシちゃん、バランサー兼リーダーのアイリちゃん、ツッコミ兼常識枠のカズサ、ムードメーカーっぽいナッちゃん。

 

 凄い、全方位隙がない。めちゃくちゃ整った理想形に近い女子グループだ。私は思わず軽く唸る。

 

 

 もしかしてここ、学園生活をフルで満喫出来る素敵なグループなのでは?

 

 

 ちょっと考えて、私は悟った。

 スクールカースト、上位。『番長』などという仰々しい肩書きとは比べ物にならない程の、光の化身。闇のカシラたる番長程度では、相対するのも烏滸がましい輝く花園に、私は今、足を踏み入れている。

 

 それに気付いた瞬間、私の背中に冷や汗が流れた。

 

 

「ワタルー、うかうかしてるとポッキー食べ切られるよー」

 

 

 ───しかしカズサの一言で、警戒態勢に入りかけていた私の思考が切り替わる。

 

 ヤバい!あの抹茶ポッキー、2袋入ってるけどそこまで本数入ってないやつだった!?

 

 頭をぶんぶん振って思考をクリアにすると、私の抹茶ポッキーの現状が見えてくる。

 

 

「──さすが天使印……チョコと抹茶の風味が濃厚だ」

 

「学校付近だと売り切れてるから、ここで食べられるのはラッキーじゃない?」

 

「お、おいし〜!たっぷりのチョコとカリッとしてる食感がちょうどいい感じだね!」

 

 

「……もう残り1本になってる!?」

 

 

 なんと1袋目のポッキーが既に狩り尽くされかけているではないか。

 私の目玉は飛び出しかけた。

 

 えっ、いくら何でも早くないですか。

 呆然とした表情でカズサを見ると、得意気な表情で戦利品のポッキーを私に見せ付ける。

 

 

「──ワタル、いい事を教えてあげるよ。私達は放課後スイーツ部。その名の通り……スイーツには妥協しない(容赦しない)んだよ」

 

 

 ──彼女の言葉と同時に、空気がピリッとヒリついた。見れば、ヨシちゃんも、アイリちゃんも、ナッちゃんも。全員がおいしい餌を目の前にぶら下げられた獣のように、6つの目をギラつかせている。

 

 

 ……そしてもちろん、それはカズサも。

 

 

「───精神が中学時代よりも緩んでるかと思ってたけど、私の間違いだったみたい。今のアンタ、すっごく研ぎ澄まされてる……」

 

 冷や汗を垂らしながら私が彼女に向けて威嚇紛いの皮肉を飛ばすと、カズサは余裕の笑みで返してきた。

 

 

「……まさか。今の私は別方向に尖ってるよ」

 

 

 私に対して粋なアンサーを返す彼女の姿は、中学時代には感じられなかった、強者の風格を漂わせている。

 

 ───ヤバい、これは勝てない。

 

 そう錯覚する位に、今のカズサの発言は私に対して突き刺さった。

 

「……で、この最後の1本。ワタル用なんだけど?」

 

「いただきます」

 

 降伏宣言。無理です。勝てません。

 私は彼女に対して瞬時に白旗を上げ、残り1本の抹茶ポッキーを摘み上げる。

 

 

 ……深緑色のポッキーは、いつも通り美味しかった。

 

 





・遠芽ワタル
 一般常識が若干危うい、脳内誤変換多発中の女子高生。ハムスターとかモルモットみたいな枠。そそっかしい。

 この後、スイーツ部の面々にいっぱい餌付けされた。


・杏山カズサ
 中学時代のワタルの振る舞いを反面教師として、一般的な常識力を身に付けた、クールキャットな女子高生。しかし、隙が少なくなっただけで根っこの部分は原作時空とほぼ変わらず。おおむね人慣れした拾われ猫枠。

 今日はフルーツいっぱいのパウンドケーキを持ってきた。


・栗村アイリ
 アイスの中でもチョコミントに最近ハマっている、トリニティにおける一般的な女子高生。コミュ力が高い。放課後スイーツ部を作ろうと言い出したのは彼女らしい。

 今日はスイーツショップでたまたま見つけた、チョコミント味のブラウニーを持ってきた。


・伊原木ヨシミ
 常にスイーツに関する話題にアンテナを貼る、スイーツガチ勢な女子高生。スイーツ部の常識人2号。最近ネットで話題の『S.C.H.A.L.E.』という組織へボランティアに行こうと思っている。

 今日は手軽に食べられる物として、彩り豊かな箱入りのマカロンセットを持ってきた。


・柚鳥ナツ
 のんびりゆっくりマイペースな、牛乳を愛する女子高生。ワタルも含めたスイーツ部の面々が笑顔になっているのを見て、1人満足そうに微笑んでいる。
 なお、後でカズサに遅刻の件をしっかり詰められた。

 今日持ってきたのは懇意にしているスイーツ店の、おいしいおいしいストロベリーパイ。

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