ワタルとウララ   作:パンちゃんドラム

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 ワタル、銃を買う(後編)。
 ウララの作った銃の性能の程や如何に。



規格外は二重の意味で

 

 陽光が照らし出す、砂の大地。

 私は銃を抱えて、期待を胸に足を踏み出す。

 

 アーリヒカイットの裏手、店の入口から見て右側の場所。土を固めた硬い地面に、白黒に塗られた木製の的。店に近い場所には木で作られたテーブルと椅子が幾つかペアにされて置かれ、店の軒下でいつでも休憩出来るようにされていた。

 的の奥には広葉樹林が広がり、春の朗らかな陽気に合わせて緑の葉を揺らす。田畑に向かって銃弾が飛ばないように設計されたその演習場は、近隣住民に対して迷惑をかけないというケンさんの配慮が見える。

 

 最初に来た時はヒーコラ言いながら銃を撃ちまくっていて分からなかったけど、やっぱりいいお店だ、ここ。

 

 演習場の風景を見た私は、そう確信した。

 

 

「……早速、撃ってみる?」

 

 

 演習場からこちらへ振り向いたウラちゃんが、私に向かって微笑みかける。

 

 

「──うん、とりあえず試したいかな」

 

 

 私は両手で持った対物ライフルを抱えて、頷いた。金色の飾りがよく映える、黒い銃。黄金の風と草花の装飾を見れば、目蓋の裏に映し出された美しい幻を思い出せる。

 

 青空と黄金に染まった大地、白い雲と雷の幻像(ヴィジョン)。銃が英語で挨拶してきた事で色々頭から吹っ飛んでいたけど、なかなか綺麗な光景だった。空から落ちる感覚が無ければ、定期的に見たくなるいい景色。私は銃身に巻き付く蔓の装飾を撫でながら、あの景色について思いを馳せる。

 

「オッケー、それじゃあそこのテーブルで弾込めしておいて!私は的の準備してくるから!」

 

「いってらっしゃーい」

 

 ウラちゃんがこちらに手を振って、的を準備するために走っていく。私は彼女から目を離して、木造りの丸いテーブルへと移動した。

 

 

 

 さて、テーブルについて取り出したるは、ケンさんから受け取った、20発分の弾丸の入った紙箱。手のひらよりもちょっと大きいこの紙箱の外には、『12.7×99mm弾』と黒の油性ペンで書かれている。この弾はマシンガンや対物ライフル等の高火力銃に使用される事が多く、その威力は他の弾と比べてもケタ違い。頑丈なキヴォトス人であろうとも、当たり所が悪ければ一撃でノックアウトされてしまうヤバい弾だ。

 

 今回、私が受け取った銃が対物ライフルのためにケンさんが見繕ってくれたんだろうけど、正直言うと内心私はめちゃくちゃドキドキしている。

 手に箱を持った時の重量感もそうだけど、個人的にはキヴォトス人が一撃KOするレベルの物が手のひらの上に乗っているという事実がとても心臓に悪い。現に今も、私の心臓の脈は大きな鐘を鳴らすようにドクン、ドクンと波打っている。人に向けたらヤバいってレベルじゃない、普通に使ったら相手は保健室送りじゃなかろうか?

 

 私は真顔で箱の中身の恐ろしさに震え上がった。個人間の喧嘩でこの銃は持ち出したくないなぁ、と銃を抱えながら遠くを見る。

 

 私はどちらかと言えば平和主義なのだ。

 好き好んで喧嘩をしている訳じゃない。

 やられたからやり返しているだけで、私自らが拳を振るった事は一度もない。

 

 『やり返しの時でも適量の力で』

 

 これが私の鉄則である。

 全力出したら1、2時間はラッシュ続いちゃうからね。進んで人間卒業検定をクリアしようとは思わない。番長やってた時も割と徹底していた。じゃないと、普通にやり返しすぎる可能性があるので。

 

 バトルすること事態は好きだけど。

 それとこれとは話が別なのだ。

 

 だからこそ、私は加減の効かない銃という武器が結構苦手である。いくらキヴォトス人が頑丈とはいえ、銃弾で撃たれる事は石を連続で投げつけられていることと同義だ。当たれば痛いし、当たりどころが悪ければ命に関わる。

 『神秘』を込めるなら尚更で、威力が通常よりも段違い。ちょっと神秘を込めたゴム弾ですら、かの『コールサイン00(ダブルオー)』の肌に青痣を残せるのだ。普通なら余裕でおねんね、『12.7×99mm弾』に神秘を込めようものなら、予想を遥かに上回る大破壊力を秘めた弾丸が銃口の先から飛び出てくるに違いない。

 

 神秘の込め具合って難しいんだよね。

 後で絶対慣らし作業はしなきゃ。

 私はそっと銃を撫でた。

 

 ───しかし、それはそれとして私はこの銃に秘められた魅力に惹かれている。ウラちゃん達が作り上げたこの銃のポテンシャルがどれほどのものなのか、気になっているのだ。なんせ、彼等に火力銃の魅力を存分に教えられてしまったもので。折角だし撃ってみたいという気持ちはある。

 

 

 ……まあ最悪、私がこの銃を戦闘に使用しなければ問題ないしね。ウラちゃん達が話していたように、この銃を趣味用にしてしまっても問題は無いのだ。というか、そっちの方がいいまである。好き好んで人を傷付けようとは思わないし。

 

 

 ──そう考えて、ようやく気持ちに整理が着いた私はテーブルの上にライフルと弾を置き、弾込め作業を始めた。

 

 まずは銃とマガジンを繋いでいる『マガジンキャッチレバー』を外して、マガジンを取り出す所から。

 

 カチリ、と硬質な音がなると同時にマガジンが銃の本体から滑り出し、スムーズに手のひらの中へと落ちてくる。鉄っぽい匂いと新品のオイルであろう匂いが混ざり合い、新品特有の油臭が私の鼻を突いていった。

 

「うーん、やっぱ新品の匂いって慣れないわね……」

 

 顔を顰めながらマガジンをテーブルの上に置き、私は紙箱へと手を伸ばす。ジャラリと薬莢が擦れ合う音が箱の中から聞こえた事にビビりながらも、マッチ箱のようになった箱の内箱をスライドさせ、私は12.7×99mm弾を1つ取り出した。

 

「……これ、何発装填だろ?」

 

 ──装弾数を聞いていなかった事を思い出して、私は的の準備を進めているウラちゃんへと大声で質問する。

 

「──ウラちゃーん!この銃って装弾数何発ーー!?」

 

 

 すると彼女はこちらの呼び掛けに答えるように、ピンと指を拡げた片手を挙げた。

 

 

 5発ね、了解。

 私は大きく両腕で丸の字を作って、弾込め作業に戻る。 

 

 続いてはマガジンに弾を込めていく作業だ。指で弾丸の薬莢部分を摘み、慎重にマガジンの内部へセットしていく。1個目は結構楽なのだが、2個目以降は精神的にちょっとキツい。暴発とか起こったら私は泣く自信があるからだ。中学時代に1回やらかしてから、私は弾込めに関してこれでもかというレベルで慎重に作業している。音がうるさいし、怪我するのは嫌だからね!!

 

 ……そして、なんとか5個目の弾丸をセットした私は、一息ついて空を見上げた。

 

 

 

「おっ、終わった」

 

「わっ!?」

 

 びっくりした私は、思わず椅子から飛び上がりそうになる。私が弾込めをしている間に的の設置作業を終わらせたウラちゃんが、興味深げな表情で私の作業風景を覗き込んでいた。

 

「ちょ、ちょっとウラちゃん!?びっくりさせないでよ!!」

 

 私が抗議の声を上げると、彼女は申し訳なさげな顔で両手を合わせて謝ってくる。

 

「ごめんねー、弾込めにそこまで時間かける子って珍しくってさ。つい気になって見入っちゃった」

 

「あ〜……」

 

 どうやらウラちゃんは、私が時間をかけて弾込めする様子が気になって見にきたらしい。いきなり怒って悪い事しちゃったな……と反省する。

 

「ちょっと昔、弾込めしてたら暴発して痛い目見ちゃってね……。それからかなり慎重にやってるんだ」

 

「えぇ?普通にやってたらそんな事起こらない筈なんだけど……」

 

 私が理由を説明すると、ウラちゃんが困惑した様子でそう言った。

 

「……マジで?」

 

「うん、だって銃弾って薬莢のお尻側に雷管が埋まってるでしょ?あれ、2mm程度しかないんだけど、よっぽどのことが無い限り雷管に強い衝撃が走るってことは無いんだよねー」

 

「ほぇー、そうだったんだ……」

 

 彼女の説明を聞いて、私は納得したように頷く。銃のいろはは授業で習ったけど、銃弾についての詳しい事は聞き流していたため、私はそういった情報には疎いのだ。ここで聞けたのはラッキーかもしれない。改めて勉強になった気がする。

 

「コンビニとかでパッケージされてる銃弾って、ペンとか歯ブラシの包装とかと同じでしょ?あれ、まかり間違っても雷管側に倒れないようにする工夫なんだよね」

 

「なるほど〜……」

 

 博識なウラちゃんの説明に関心しながら、私はまだ5発の弾丸が入った紙箱を見た。先程まではジャラジャラと音を立てて擦れあっていた弾丸達は、よく見ると1方向に揃えて収められている。弾の先っぽと箱の間には少しだけ空間があるが、彼女の説明に当てはめれば、これでも弾は暴発しないとの事だ。

 

 ……なぁんだ、今まで心配して損してたじゃん。

 

 今までめちゃくちゃ弾に対して気を使っていた事に馬鹿らしくなった私は、テーブルの上にマガジンを置いて伸びをする。ある程度リラックスした事で少し気楽に銃を撃てるようになった気がした私は、意気揚々と椅子から立ち上がろうとした。

 

 

 

「───ところでワタルちゃん」

 

 

 

 ガシッと、私の左肩が掴まれる。

 

「その暴発が起こった時の詳細。私、気になっちゃうなぁ……?」

 

 油の切れたブリキ人形のようにぎこちなく後ろを振り返ると、そこには張り付いたような笑みを浮かべているウラちゃんが、逃がさないと言わんばかりに私の肩を掴んでいた。

 

 

「あ、いえ……それは───えっとその」

 

 

 一瞬でしどろもどろになった私は、彼女の視線から逃げようと、あっちこっちに目を逸らす。しかし、笑みを深めた彼女の追求は止まることなく、なんなら無言の圧さえ発し始めた。

 

 

「ねぇねぇワタルちゃん、何があったの?」

 

「え、ええっと……」

 

  

 ──や、ヤバい!ウラちゃんの背後から悪魔が見える!?

 さっきから笑顔だけど目が全然笑ってない!

 怖い!!

 

 

 恐怖に怯えながら椅子に座る私と、それを笑顔で見つめるウラちゃんとの距離が、じり……じり……とゆっくり詰まっていく。喉の奥から小さな悲鳴が漏れ、頭の中で危険を知らせる赤いランプがグルグル回った。

 

 

 ──や、やられる……、このままじゃウラちゃんに文字通り()られる……!?

 

 

 身の危険を感じて進退窮まった私は、なんとか口を開いて弁解しようと、悪戦苦闘する。

 

 

「ぅ、ウラちゃん…!あの、あのね……?!」

 

「うん、なぁに?」

 

 

 ヒィ!?もう首がすんでのところまで迫ってきてる!?

 

 下手なホラー映画よりも怖い恐怖映像を間近に見せられた私は、もう時間の猶予は残っていない事を悟った。

 

 ヤバいヤバいヤバい、本気でどうにかしなきゃ……!?

 

 椅子に座る私の右肩へ、さらに手が乗せられる。逃がさない、と暗に言われた気がした私は恐ろしさで気が遠くなりそうになったが、なんとか我慢。お腹の奥から気力を振り絞り、私は彼女に弁解を開始した。

 

「──で、出来心だったんです……!!」

 

 ──ピタリと、彼女の接近が止まる。

 

「つい、カッコつけようとしちゃって……連続でマガジンに弾を詰め込もうとしました……!!」

 

 そう言うと、彼女の頭が右側から私の顔を覗き込んできた。

 

「──ふぅん……、それだけ?」

 

 口元が弧を描くようにつり上がった彼女に対して、頭を上下に動かす事で私は肯定する。それを見た彼女は訝しげな視線を送りながらも、私の肩から手を離してくれた。

 

「そっかそっか、それだけなら良かった」

 

 そう言って、私の近くから離れた彼女を見て私は安心して、緊張した身体を弛緩させた。

 

 

 

 ──だって、本当の事を言えるワケ無い。

 神秘を使って、カッコよく弾込めからリロードする練習をしようとして失敗した結果暴発したとか、ウラちゃんに対して絶対言える訳が無い。言ったが最後、死ぬまで話のタネにされると私の直感が告げている。

 しどろもどろではあったけど、なんとか誤魔化しきれた……そう安堵した私は、椅子から立ち上がり、彼女の後を追おうとした。

 

 

 

「────次はやっちゃダメだからね?」

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

 ……なお、翼を微塵も動かさずに放たれた彼女の一言で、私の安心感は崩れ去る。彼女に背中を向けられたまま釘を刺された私は、赤べこのように頭を縦に振るしかなかった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 固められた土の表面が、太い木の枝に擦れて音を鳴らしている。銃にマガジンを差し込み終えた私がウラちゃんの元へ急いで向かうと、彼女は木の枝を使って的から離れた場所にラインを引いていた。

 

「おっ、きたきた。お疲れ様!」

 

 テーブル席から駆けてきた私を見たウラちゃんが、こちらに対して笑顔を向ける。先程までとは打って変わった様子の彼女には、妙な威圧感は感じられなかった。

 それに安心した私は、小さく息を吸って呼吸を整える。

 

「はい、これ」

 

「ありがと、ウラちゃん」

 

 ウラちゃんが自然な様子で射撃用のゴーグルとヘッドセットを渡してきた。私は銃を一旦彼女に手渡して、ゴーグルとヘッドセットを装着する。そして預けた銃を受け取ろうとして隣を見ると、彼女もゴーグルとヘッドセットを装着していた。

 

────────、(ワタルちゃん、)───────(かわいいよー)。」

 

 くぐもってはいるが私をからかうような声が聞こえたので、彼女から少し乱暴に銃を受け取る。一旦火照った頭を冷やすために、目を閉じて深呼吸した。

 

 

 ──音はあまり聞こえない。

 ──それでも、ほのかな花の香りと鉄臭い匂い、火薬の匂いは感じられる。

 

 

 目を開けた。

 

 遮光が施されたゴーグルの景色に、葉と木と的が映り込む。それを確認できた私は、射撃の準備へと移った。コッキングレバーを引き、中に銃弾が入っている事を確認する。確認を終えた私はフォアエンドを左手で持ち、右手で安全装置を解除しながら、右肩の付け根へストックを当てた。 

 

「──よし、準備完了」

 

 そう呟くと、唇の上を風が滑っていく。

 暖かな陽光に晒された東風だ。

 

 確認する。

 弾は12.7×99mm、大きめ、重量あり。

 現在の風向きは逆風、方角は東。

 標的(ターゲット)との距離、以前と変わらず50m。目標設定は中心の黒点。

 体勢維持、続行。両足、手の震え、共にナシ。

 

 

 ───照準器(アイアンサイト)を覗き込む。

 

 

 狙うは一点、ど真ん中。

 そう思った瞬間に、風が少し弱まった。

 

 

 ──合わせろ(ターゲット)

 

 

 カチリと、引き金を押し込んだ。

 

 

 ──ダァンッッッ!!!

 

 演習場内に、轟音が鳴り響いた。

 

 

 

「…………あれ?」

 

 ふと、違和感を感じる。

 肩に迸るはずの衝撃が一切来ない。

 

「────???」

 

 不発(ミスショット)

 その可能性が頭を過ぎるが、辺りを見回してみると、鈍く輝く銃弾の薬莢部分が地面にちゃんと排莢されていた。

 

 

 ……なんかおかしくない???

 

 

 頭の中に?マークをいっぱい浮かべていると、右肩を誰かにつつかれる。見れば、ウラちゃんが目を輝かせながら、的の方を指差していた。

 

「────!」

 

 何を言っているか分からないけど、興奮してる事は分かる。彼女に急かされながら的の方を見てみると、的の中心部分から灰色の煙が上がっているのが確認できた。

 

 命中である。

 

「──まじぃ!?」

 

 私は大声を上げてびっくりした。急いで銃に安全装置をかけて的の方に向かってみると、確かにそこにはしっかりと銃弾が貫通したと思わしき穴が空いていた。

 

「うっそでしょ……?」

 

 ヘッドセットをズラしながら私は呟く。あの、肩にくる衝撃はどこへ?普通の銃だったら、ストックを通じて衝撃が私に襲いかかってくると思うんだけど……。

 

 

「ふっふっふ……、びっくりした?」

 

 

 いつの間にか隣に居たウラちゃんが、胸を張ってドヤ顔しながらこちらに向かって聞いてくる。開いた口が塞がらない私は無言で頷いた。

 

「それじゃあ、びっくりして貰った所で銃の性能と名前を解説しちゃおうかな!どっちから聞きたい?」

 

 羽をパタパタとさせながら、彼女はさっきより数段増しの笑顔を浮かべ、もったいぶって聞いてくる。

 

「ん〜〜〜、じゃあ名前からで」

 

 ──性能からの場合、私がめちゃくちゃびっくりする事が確定しているので、とりあえず私は名前の方から聞いてみる事にした。

 

「名前から?いいよいいよ、教えちゃう!

 ワタルちゃんが買ってくれた銃の名前は『Sturm(シュトゥルム) shāchan(・シェキナー) 』。マクミラン TAC-50 A1R2っていう銃から作ったの!カッコイイでしょ?」

 

「おぉ、響きがかっこいい感じする……」

 

「でしょ〜〜〜???」

 

 私の顔をつつきながら、凄く自慢げにウラちゃんは銃を撫でる。私は右頬をつつき続ける指を退かして文句を言った。

 

「ちょっとウラちゃん、ほっぺつつくのやめてよね。お餅じゃないのよ?」

 

 私がそう言うと、彼女はきょとんとした顔で揚げ足を取る。

 

「──え、どっちかって言ったらグミ系じゃない?」

 

「黙らっしゃい、まず勝手につつかないでよね?!次、性能!」

 

 もちもちほっぺじゃなくて悪かったわね。好き勝手に人のほっぺを品評しないでほしいんだけど?!

 気恥ずかしさで頭がオーバーフローしそうになった私は怒りつつ、彼女に対して銃の説明の続きを促した。

 

「仕方ないな〜、それじゃあ性能面ね?

 まず、シェキナーはご存知の通り対物ライフル。トンデモ威力の弾丸で狙撃できる火力銃な訳だけど、そこまではワタルちゃんも把握してるよね?」

 

「うん、それは分かってる。けど……」

 

 人差し指をピンと立てながら聞いてくる彼女に同意する。だけど、さっき撃った時の感覚が腑に落ちない。引き金を引いたはずなのに、全然衝撃が襲ってこなかったのだ。

 難しい顔をしながら言い淀む私を見たウラちゃんは、分かっていると言わんばかりに頷く。

 

「言いたいことは分かるよ〜、私も試射してびっくりしたからね。なんせ反動が殆ど来ないんだもん!」

 

「そう、それよ。何あれ?全然反動来なくていつ撃ったのか分からなかったんだけど!?」

 

 彼女がウィンクをしながらそう言ったので、私は食い気味に問いかけた。すると彼女は、また何か言葉に含みを持たせて解説を始める。

 

 

「──ふっふっふっふっふ……ここからがその銃の、シェキナーの真骨頂だよ。

 まずは反動!なんと、元になった銃は他の対物ライフル等と比べて反動を大幅カットしている所を、私が手を加える事でさらにカット!理論上、反動(リコイル)そのものを100%カットできるように調整しました。褒めて」

 

「は?……え???」

 

 何を言っているか分からない。

 私の思考に真っ白な空白が生まれた。ちょっと間を開けて、再度彼女に対して聞き返す。

 

「………反動100%カット?」

 

「うん、理論上」

 

 

 ────????

 

 

 ……あの、この子は一体何を言ってらっしゃるので???

 いい仕事したと言わんばかりにサムズアップしながら微笑むウラちゃん。私の顔は引き攣った。

 

「それじゃあ次に移るね。続いては重量!

 本来の重量は11kgを超えてたんだけど、今回は伝手と技術を駆使して大幅に削減する事が出来ました!ちなみに今の重量は約7.8kgだよ、褒めて」

 

「はい?????」 

 

 いや、褒めてと言われても。

 さらに化け物じみた情報が追加されて、私の脳内処理がキャパオーバーし始める。

 

「いやー、いっつもお世話になってる所が新しい素材入荷しててさ〜。お陰で火力を落とさずに耐久性と取り回しの良さを両立する調整が上手くいったんだよね〜!」

  

 目の前の銃キチお化けは本当に何を言ってるのだろうか?

 そもそも銃の重量を減らす=耐久性の低下じゃなかったっけ??

 

 話に着いて行けなくなった私は、一旦考える事をやめてヤバい性能をしているマイオーダーメイド銃へと目を落とした。

 

「──そして最後に〜、もちろん火力だよね!

 銃は基本スペックに加えて、撃ち手によって最終火力が変わってくるっていう謎があるんだけど……、私が専用チューニングを施したから、威力は他の銃よりも高いはずだよ!」

 

「……あの、ちょっと待ってくんない??!」

 

 しかし、そうは問屋が卸さない。

 思考放棄しようとした瞬間にオカルティックな知らない情報がぶっ込まれたせいで、私は彼女にツッコまざるを得なくなる。

 

 ウラちゃん、なんでそんな事知ってるの?

 そしてサラッとチューニングしたから火力上がったって言ってません??

 

「ウラちゃん、チューニングしたら火力変わるの?」

 

「うん、火力以外にも色々弄れるよ!」

 

 

 ───目の前に居る彼女はどうやら、目を離した隙に第三宇宙速度で大気圏を離脱し始めたらしい。胸を大きく張ってドヤ顔をかますウラちゃんに、理解の範疇を大きく超えた私は頭を抱えた。

 

 

「えっ、いやあの。スペックおかしいよね?」

 

「元からキヴォトス基準でもヤバい銃だから無問題だよ?」

 

「そういう意味じゃないってば!!」

 

 話が通じてない!!

 現実逃避したくても、はるか後方から追いすがってくる事実が私の逃亡を許さない。

 っていうか、そもそも。これ本当に採算取れてるんだよね?!聞いた限りでは42万ぽっちでお出ししていい性能じゃないでしょ!!? 

 

「これ、本当に6桁円で買ってよかったヤツなの?聞いただけでも7桁行ってておかしくないよね?」

 

 私がそう聞くと、言わずもがなと言ったふうな表情で彼女は返答した。

 

「言ったじゃん、友達料金で75%offだって」

 

「えぇー………」

 

 えぇー…………。

 

 あっけらかんと言う彼女に対して、私の口から声が漏れ延びる。普通ならば168万だった銃を、私は友達だからという理由で42万で買ってしまった事になるのだ。これでは私が、銃を彼女から好意で譲ってもらったに等しい。

 

 それはちょっと……個人的に申し訳ない気がする。どこか納得いかない私は、彼女の事をじっと見つめた。

 

「──まあ、久しぶりに凄く楽しい銃を作れたし、そのお礼も込めてその料金でいいよ?どうしてもって言うなら、アーリヒカイットをご贔屓にってとこかな」

 

 ──しかし、彼女は寛大だった。お人好しすぎると言い換えても良いかもしれない。彼女はいい銃を作れた、という理由だけで製作費用の75%を負担してしまったのである。

 

 それは逆に、私の心を苦しめた。

 

 だって、それじゃあ彼女に殆ど得が無い。

 逆にウラちゃんは損してる。

 それはおかしい、対価はちゃんと払うべきだ。

 

 そんな言葉が、私の脳内で回り始める。

 しかし、彼女に払える対価なんて……もうほとんど残ってない。中3の頃に貯めた貯金を崩して、なんなら中学時代の貯金全てを崩しても、この銃の値段の残り75%である126万にはギリギリ届かないのだ。来月分のバイト代でギリギリ届くかどうかなのである。そうすると、折角出会えたウェーブキャットさんを諦める他ない。

 

 あの子を、お迎え出来ない。

 私の心に、薄黒いモヤがかかった。

 それでもと、良心が私の心を照らす。

 

 ───選択は、2つに1つだ。

 

 苦心して、ぎゅっと唇を噛みしめる。

 そんな中、誰かの手が頭に乗せられた。

 

「──あまり気負わなくていいよ」

 

 私の頭を撫でて、彼女は言った。

  

「……あんまり気負わなくていいからね、ワタルちゃん。頑張って作ったから、大事に使ってね?」

 

 

 ………それは。

 それを言われたら、こっちは何も言えない。

 

 解いた唇を真一文字にして、私はそれをへの字に曲げる。

 

 その言い方は、ちょっとズルいよ。

 私はため息をついて、彼女へと向き直った。

 

「…………分かった、ありがと。もうちょっと試射していい?」

 

「いいよ〜、どんどん撃っちゃって!」

 

 試射続行の確認を取ると、彼女は満面の笑みで応えてくる。結局、私は彼女の言葉と好意に甘えてこの銃を──シェキナーを受け取る事に決めた。

 身長にほど近く、黒くて、金色の綺麗な銃を担ぎ直してラインの位置へと私は戻る。その横をウラちゃんは、自然な笑顔を浮かべて着いてきた。

 

「…………あ、そうだ」

 

 ───ゴーグルをつける前に、少し思い付いた事があったので試してみる。私はヘッドセットを再度掛け直し、射撃用のゴーグルを外してシェキナーを構えた。

 

「─────?」

 

 隣で見てくれているウラちゃんが、驚いたような表情を浮かべる。

 

 まあ、見てて欲しい。この距離は照準器を少し見て、私の技術で当てられるだろうから。

 

 ウラちゃんとケンさんが見出してくれた私の技術を信じて、私は照準器を少し覗いた。

 

 

 

 ──標的確認。距離50m。

 風は現在西から、追い風。

 目標は中央より少し上、中心の黒点の外の白円。

 

 的を見つめながら、私は右肩に当てたストックと、銃を支える左手を、一直線のジグザグで同期させる。そして、右足は地面を抑えるように少し後ろへ。左足は自然に肩幅くらいの位置に来るように調整。ストック部分に頬を当て、腕と肩とで銃を固定する。

 

 

『──銃の撃ち方?私は詳しくはないぞ。

 ただ…うーん、ストックを肩に当てて、的の中央に当たるように銃口を向ける。あと、ワタルは小柄だから、発射時の衝撃を上手く逃がす事が出来ればいけるんじゃないか?』

 

 ……兄さんの声が、頭を過ぎった。

 今さら思い出した、幼い頃の私の記憶。学校で授業で初めて銃を触った時、下手っぴだった私は彼からアドバイスを聞いて何とか自己流で撃てるようになったんだっけ。懐かしい。

 

 郷愁に身を任せて、目蓋を閉じる。

 追い風が私の髪を揺らす感覚が、二度三度と繰り返す。

 ……風が止みそうにないので、私は仕方なく目蓋を開いた。

 

 

 

「────綺麗」

 

 

 

 瞳一面に広がる黄金の景色。目蓋を開いたその先には、輝くような光の渦が広がっていた。

 

 思わず見惚れて、口から感嘆の息が漏れる。

 しかし、そんな渦を巻く光達の中でも、しっかりと的は白黒で存在していた。

 

 

「───よし!」

 

 

 構える。アイアンサイトのその先の、モノクロの的を撃ち抜く為に。鋼鉄の弾丸が確かに銃身にあると確信して、安全装置を解除する。

 

 

 引き金に手をかけた。

 

 

 瞬間、渦は光帯へと変化する。

 巻き付き、絡みつき、補強するように。

 それらは銃に刻まれた、草花と風の紋様へと吸い込まれて行く。

 その様を見て、私は口元の端を釣り上げた。

 相棒(あいぼう)の意図を理解する。

 

 性能の程を見せてくれるらしい。

 私は声を張り上げた。

 

 

「───なら、やってみなさい。シェキナー!!」

 

 

 引き金を引く。

 雷鳴が劈くような音と同時に銀のバックブラストが銃身から生まれ、解き放たれた金のレーザーが的の中心を大きく撃ち貫いた。

 

 

 

「────やっっっっば……」

 

 その光景を見て、私はしばらく呆気にとられる。

 ガラガラと音を立てて、木製の的が崩壊した。

 私の目の端に、きらきらと瞬く光の残滓が映る。

 

 ヤバい。泣きそう。

 威力は想像通りだった、反動もなかった、的にもちゃんと命中していた!

 全部申し分なかった。

 

 ──そして、それ以上に……とても綺麗だった。

 たったそれだけの要素で、私の心はこの銃に奪われた。

 

 

「……ね、ねぇウラちゃん!これヤバいんだけど!!?」

 

 

 私は安全装置をかけ、隣のウラちゃんへ詰め寄る。

 

「どうしたの、ワタルちゃん?さっきと比べて凄いびっくりしてない?」

 

 射撃風景を見ていたはずの彼女は興奮した私の様子を見て、不思議そうな顔をした。

 

「撃った時に凄いの!バックブラストが銀色だったり、反動が羽みたいに軽くて!!」

 

 興奮で文法が滅茶苦茶になる。

 語彙が足りない。あの感動を伝えるには、私の貧相なボキャブラリーでは全くと言っていいほど足りなかった。

 それでも相棒(シェキナー)がどのくらい凄かったかを私が伝えると、彼女は満足そうに頷いて、口元に笑みを浮かべる。

 

「ふふふ……、気に入ってくれて何よりだよ。誠心誠意、ワタルちゃんのために丹精込めて作ったかいがあったね」

 

 そう言って、彼女は私の耳元に口を近付けてきた。

 

「───ちなみになんだけどさ、ワタルちゃん。シェキナー用のオプションパーツで、バイポッドとかサイレンサーのセットがあるんだけど……、どう?」

 

 銃の造り手の小悪魔のような囁きに、私の購買意欲はヘッドバンキングの如く縦に揺れる。

 

「買います。買わせてください」

 

 もちろん即決。むしろ買わない方が失礼だ。

 私は彼女の提案に喜んで飛び付く。

 力強い私の宣言を聞いたウラちゃんは羽をパタつかせ、小さくガッツポーズした。

 

「それじゃあ、これからセット持ってくるから待っててね!」

 

「うん!!」

 

 そう言って、ウラちゃんは店の扉に向かって駆け出す。彼女の後ろ姿を見送って、私はそっとシェキナーを撫でた。

 

 神秘を込めて、輝き、照らす。

 遮ることごとくの障害を吹き散らして。

 この銃に、そんな可能性を見出した私は、そっと空に向けてシェキナーを掲げた。

 

 ざわざわと木の葉が擦れ、さざめくように音を鳴らす。空の蒼と雲の白が柔らかく銃身を包み込み、黒い影がひさしを作る。

 

「──これからよろしくね、相棒(シェキナー)

 

 一言。

 私はそう声をかけて、腕の中にシェキナーを戻す。私の新たな相棒は応えるように、キラリと金の装飾を輝かせた。

 

 





・遠芽ワタル
 素晴らしき銃、シェキナーを手に入れたトリニティの1年生。オプションパーツのセットを追加で買って、預金残高に致命的なダメージを叩き込んでしまったが、誤差だと割り切ってホクホク顔。

 なお来週、ボーナス狙いでバイトをデスマーチする事が確定している。


・羽生ウララ
 素晴らしき銃、シェキナーを生み出したゲヘナの3年生。ワタルの驚く顔を見て、今年1番のニコニコ笑顔を浮かべている。

 なお来週、マコトとアコからシェキナーについて詰められまくる事態に陥る事を、彼女は知らない。


・『 Sturm shāchan 』
 読み方はシュトゥルム・シェキナー。
 ドイツ語で『嵐の神』の名を冠する、超火力、無反動、大音量の3点セットを揃えた馬鹿みたいな性能の対物ライフル。やり過ぎの権化。緊急ナーフされてもおかしくないレベル。少なくとも、一個人に持たせていい武器ではないのは確か。
 しかし、使用適性的な擬似プロテクトがある為、ワタルとウララ以外では殆ど使えない。実質専用武器。

 なお、サイレンサーを使うと発射時の音量が、打ち上げ花火のような轟音から空を飛ぶ鏑矢レベルまで落ちる。
 ……もう一度言おう、やり過ぎである。
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