ワタルとウララ   作:パンちゃんドラム

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騙して悪いが隔日投稿。
4話まではストック投げていくスタイルです。
対戦よろしくお願いします。


天使と悪魔は銃に踊る
確定エンカウント


 

 うららかな春の陽射しが、窓の外から射し込む気持ちのいい朝。少し遅い朝食のトーストをもそもそと食べていると、テーブルの上に置いたスマホからモモトークの通知音が鳴った。

 

 

ウララ◀

『ワタルちゃーん、今日お出かけしに行かない?』

 

「だいぶ唐突だね?」

 

 

 最近カフェで知り合い、友達になったウラちゃんからだった。先日の嘘バレでかなりキレたのだが、それはそれとして話をしていると妙にウマが合う。

 それからは、なんやかんやでお互いに名前を教え合い、私達は互いを愛称で呼び合うくらいには仲良くなった。

 

 

「とはいえ、今日かぁ……」

 

 

 窓の外の小鳥が奏でる囀りをBGMに、私は少し考える。

 

 ……たしか今朝、ニュースで犯罪率が300%だとか、銃の流通量が2000%超えとかいう頭がおかしいんじゃないかって数値を目にしたんだっけ。数値があまりにもデカすぎて、私は素っ頓狂な声を上げたことを覚えている。

 

 しかもそれが原因なのか、今日は平日にも関わらず臨時休校となっているのだ。外出でもしようものなら、何らかのトラブルに巻き込まれる事は間違いない。バカじゃないの?とは思う。

 

 

 ──とりあえず、ウラちゃんに聞いてみよう。

 

 

 一旦深呼吸をして、スマホに文字を打ち込む。

 

 

ワタル▷

『今朝のニュースで治安悪化してるって言ってた』

『正気?』

 

 

 ──そう、念の為だ。念の為。さすがに彼女もそこまで危機管理意識がないとは思いたくない。私が軽く笑っていると、割とすぐに返信が返ってきた。

 

 

ウララ◀

『イエース、正気正気』

 

 

 アライグマがサムズアップしているスタンプが送られてきた。

 

「ばか〜……」

 

 言うと思ったよちくしょうめ。

 私はテーブルに突っ伏し、ちょっとした現実逃避をしながらトーストを口に突っ込む。

 

 ……にっくきアライグマによって、私の平穏な休日は、ここに消滅する事が確定した。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 時刻は9時半、私は利用客がまばらな電車を降りる。こんな慌ただしい日だと言うのに、駅の構内は賑いを見せ、列車はせかせかと停車と発車を繰り返していた。ハイランダーの方々はいつもお疲れ様である。

 

 駅の改札を整備する駅員さんを尻目に、私はホームを抜けて外へ向かう。

 

 

 ──ドッガァァァァン!!!!!

 

  

 ……耳をつんざく轟音がホームの喧騒を突き抜け、私の鼓膜に響いてきた。治安悪化、ここに極まれりである。絶対まだ上はあるんだろうけど。

 しかも、よりにもよって私が進もうとしている方からの爆発音だ。もう嫌な予感がする。

 

 ちょっとだけ不愉快な気分になりながら、私は物陰に隠れて出口付近の様子を伺った。

 

 

「オラオラ、ここは『ウキウキヘルメット団』のナワバリになったぜェ!!」

「ここを通りたきゃ通行料を払うんだな!ま、1人につき30万ってところかァ〜?」

「ギャハハハハハ!!払えるわけね〜!!」

 

 

 ……うーんこの、予想通りすぎてコメントしづらい。私が通ろうとしている出口付近には、不良達が陣取っていた。柱の陰から出口の様子を伺っていた私は、首を引っ込めて思案する。

 

 

 ……敵の構成はSR(スナイパーライフル)2、MG(マシンガン)3。脳筋弾幕ゴリ押し部隊だ。

 ここ、駅の南口はアーケード通りのようになっており、出口から大通りまでは開けた一直線の道になっている。

 しかも、ヘルメット団達は程よく駅の出口から距離を置き、大通りの真ん中に陣取っていた。

 

 ──対して、ハイランダーの生徒の手持ちの銃はHG(ハンドガン)1、AR(アサルトライフル)2、SMG(サブマシンガン)1と近~中距離より。開けた地形で遠距離を相手するには心許ないと言える。

 

 現に、ヘルメット達に相対している駅員の方々は、彼女達相手に中々手が出せないようで苦々しい表情を浮かべていた。

 

 

「あー、めんどくさ……」

 

 

 ヘルメット団を見て、思わず声が出てしまう。ああいうタイプを相手するのは面倒くさいのだ。

なんせ、無駄に知恵が回るので、絶対何かにつけてはいちゃもんを付けてくる。そして、駅員さんに加勢しようとする通行人を彼女達が見逃す理由もない。どうせ顔を覚えられて後から絡まれるだろう。

 

 ……頭の悪いカラスみたいなものだ。しつこいだけで烏合の衆な。

 

 つまり、アレをどうにか駅員さん達に倒してもらわないと私はこの道を通れない。

 

 

「──はぁ〜……、よし。通り抜けたら裏道に向かっとこ。今日はこういう日」 

 

 

 ──眉間を揉んで心を落ち着けた私は仕方なく道を引き返し、駅構内のエンジェル24に寄る。店内は涼しく、不良達が入り込んで居ないためか空気が明るい。私はそんな店内を、目的の場所に向かって進んだ。

 

 ペン、消しゴム、雑貨用品……、それらが並べられている中のそれを、1つ手に取る。

 

 

「お会計お願いします。」

「はい、スモークグレネード1点ですね!500円です!」

 

 

 手に取った商品は『スモークグレネード』。煙幕爆弾と呼ばれるこれを使えば、ヘルメット団達の脇を楽に通る事が出来るだろう。出費は痛いけど、必要経費として割り切るしかないわね……。

 

 そう考えた私は再度駅の出口へと向かい始める。

 

 そんな私の後ろ姿を、青い髪の店員はにこやかに見送った。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 ハイランダー鉄道学園、D.U.自治区管轄部署。私、『鈴城ライカ』はそこで駅員を勤めている。

 元々、列車が走る様子を見ることが好きで就いたこの職だったのだが、最近は駅を行き交う人の表情を眺めることに楽しみを覚えていた。

 

 とはいえ、仕事は仕事。お客様に不快感を示されないよう寡黙に、厳格に職務をこなすことも大事だと私は考えている。

 

 しかし、しかしだ。今日という今日は、そんなポリシーを掲げる私でも、その信念を曲げて大声を上げざるを得なかった。

 

 

「ギャッハッハッハ!ハイランダーの腰抜け共にはこの場所には届かねぇよなァ〜!!」

 

「貴様ら……!一方的に撃つとは何たる非道か!!お客様がホームを出入り出来ないだろうが!!」

 

「それを狙ってやってるって事が分からないのかなぁ〜?時計の見過ぎて頭の柔軟さが足りないナイなんじゃないの〜?」

 

 奴らに好き放題言われる現状に歯噛みする。既にヴァルキューレには通報したのだが、いくら待っても駆け付けて来る様子はない。やはり、今朝のニュース通り治安が悪化しているのだろう……。ここは私達だけでアイツらを対処するしかないようだった。

 

「ライカさん……、わたし我慢の限界ですよ……!あんな奴らに好き勝手されてるまんまで良いんですか?!」

 

「よく分かっている……。だが、迂闊に踏み込もうとすれば奴らの思う壷だ……今は待て……!」

 

 今にもヘルメット達へ向けて突撃しようとする部下を諌め、私は彼女達を鎮圧する方法を模索する。

 

 

 相手はまず、前提としてMG(マシンガン)SR(スナイパーライフル)等の遠距離武器を保持している。物陰から飛び出ようものなら、アイツらは嬉々として、遠距離から私達を滅多撃ちしにかかるだろう。

 

 さらに、その弾幕を潜り抜けられたとしても……、奴らの陣地には『クレイモア地雷』が仕掛けられている。前方に対して鉄の弾を飛ばす、対近距離の地雷だ。

 

 十中八九、ブラックマーケットで手に入れたものであろうそれは、拳銃を握る私にとって不利な物。部下にAR(アサルトライフル)SMG(サブマシンガン)を持つ者も居るが、前述の通り遮蔽物から出ようものなら、彼女らは容赦なくMG(マシンガン)から弾幕を解き放つだろう。

 

 

 ……どうしても、あと一手が足りない。

 

 ──だが、部下達の我慢ももうすぐ限界に達しそうだ。

 

 こうなったら一か八か、攻勢に転ずるしかない。分の悪い賭けだが、お客様に安心して駅を利用して貰うにはこうするしかないだろう。

 

 

 ───そう思った私は、ハンドサインで部下達に合図を送ろうとした。

 

 

 

 ──風切り音。

 

 

 

「うわっ!?アイツらスモグレ投げてきやがった!!」

 

「これ不味くない?撃つね!!」

 

「おい、やめろ?!銃身を振り回すな!?」

 

 

 突如、ヘルメット団側の方で動きが見られた。部下達へ待機のサインを送り、遮蔽物から顔を出して様子を伺うと……。

 

 

 ──ドンッ!!

 

 

「うわぁっ!?誰だクレイモア倒したやつは!?」

 

「知らねぇよ!てか煙で前が見えねぇ!!」

 

「いてぇ…いてぇよォ……」

 

 

 ヘルメット団側はどうやら、どこかから投げ込まれたスモークグレネードによって混乱状態にあるようだった。

 

 ──今が好機、そう判断した私は部下達に『突撃』の指示を出す。同時に、私は遮蔽物を乗り越えて走り始めた。

 

「あっ!ヘッドー、撃つー!」

 

 私が走り出した足音を聞いたヘルメットの1人が、銃を構えた音がする。勘がいい奴が居るようだ。

 

 

 発砲音が顔を掠める。

 

 

「ふッ……!」

 

 咄嗟に身体を右へ逸らし、被弾面積を抑えたのが幸をそうした。私の口から吐かれた空気をと頬を割いて、細長い銃弾が通り過ぎて行く。

 

 腕のいいスナイパーだ。

 

 

 ……ダンッ!!

 

 

「……!?」

 

 ──それがどうした。

 足を地面へ強く叩きつけ、私は前へ跳ぶ。次の射撃が来るよりも早く。

 

 煙幕発生地点まで、残り3m。

 

 

 鋭い発砲音が眼下を貫く。

 

 

 煙の中から、銃弾1つが飛び出してくる。私が来るルートを見越して、置くように弾を放ったのだろう。

 

 ──だから読めていた。

 

 

 地面を蹴る。

 宙を舞う。

 陽光に、後ろに纏めた私の茶髪が翻る。

 

 ───そして、煙の中の敵を捉える。

 

 

「素直な弾だ、だから読みやすい。」

「なっ……!?」

 

 驚きの表情がありありと見えるスナイパーに向け、構えた両手の拳銃が火を噴いた。

 

「さっきはよくも煽りやがってくれたねぇ!!」

 

「徹夜明けの恨みィ!!!」

 

「ぎゃああああ!?」

 

「ちょっ、ま」

 

 私がスナイパーを仕留めたと同時に、中距離へと到達した部下達が煙の中へと弾を叩き込んでいく。殺気立って居る者が多い気がするが、仕方ない。煽ったのは向こうなのだから。悲鳴をあげるヘルメット達に、部下と一緒に弾を叩き込む。

 

 

 ──程なくして、駅の南口周辺の安全は確保され、『ウキウキヘルメット団』と名乗った彼女達はヴァルキューレに捕まった。

 

 

「現行犯での対応、ありがとうございました」

 

「いえ、そちらこそお疲れ様です」

 

 

 少し疲れた様子のヴァルキューレ生徒が、護送車へとヘルメット団員達を押し込んでいく。そんな中、私はぎゅうぎゅうと詰め込まれていく彼女らを後目に考え事をしていた。

 

 

 ──しかし、どこの誰がスモークグレネードを投げ込んだのだろう?あれが無ければ、迅速に彼女達を制圧する事は出来なかったのでお礼をしたいのだが……。

 

 

「──では、私達はこれで」

 

 

 そうこうしてるうちに、ヘルメット団員達を全て入れ終わったヴァルキューレの護送車が、乗員の安全を省みることなく急発進で走り出す。

 

「……ともあれ、これで南口は利用できる。ありがとう」

 

 青い空、浮かぶ飛行船がTV放送を流す中、またどこかから爆発音が聞こえる。私は名も無き誰かへ感謝の言葉を口にして、自身の業務するべく構内に戻って行った。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 目的地までは少しあるので、ゆっくり歩いて待ち合わせ場所へ向かう。駅の出口にたむろっていたヘルメット達は、駅員さん達が速やかに処理してくれたようだ。感謝感謝。

 

 それにしても、ニュースで言ってたとおり…D.U.自治区の治安はとてつもなく悪化しているらしい。さっきからヴァルキューレのパトカーのサイレンが鳴り止まなず、絶えず車が行き交う音が聞こえてくる。不良達が暴れている様子をもう3回も目撃した。市街地のこの有様を目にして私は本当に遊びに出て良かったのか、小一時間ほどウラちゃんを問い詰めたくなる気分に駆られた。

 

 

 

 裏道の路地を3回ほど曲がっただろうか?程なくして、私は目的地と思わしき場所へ到着する。

 

 そして、その場所を見た私は困惑した。

 

 

「……なにこれ?」

 

 

 集合場所。そこは中央に、ねじれたこんにゃくのような謎のオブジェが建っており、それを囲むように、規則性なく互い違いに椅子が並んでいるという……、なんとも変な場所だった。

 

 寮を出る前に予め待ち合わせ場所を決めておこうと相談した結果、彼女がモモトークで送ってきた住所。どう見てもマップ上では建物がひしめく中の空き地にしか見えなかったのだが……

 

 

ウララ◀

『何があるかはお楽しみに♪』

 

 

 ……と、彼女が送ってきたので仕方なく出発。

 とはいえ、如何せんチョイスが分からなさすぎる。待ち合わせ場所を再度見た上で、私は珍妙なオブジェに対して眉を顰めた。

 

 にしてもここ、待ち合わせ場所にするには不向きである。名前の知らない通りの裏道をジグザグに曲がり、それでいて広場はビルに挟まれて薄暗く、日照権もありゃしない。似たような場所を知っていなければ、私は場所を再確認するために踵を返していたところだ。

 

 

 ちなみにウラちゃんには予め、分かりやすい場所を待ち合わせ場所にしてほしいと言っている。

 

 コミュニケーションって難しいね。

 私が指定したのは分かりやすい場所だが????

 

 電車の中で地図アプリを起動して、私の拳は唸りを挙げそうだった。

 

 

 

 ──それにしてもこんな日に、手間をかけてでも出歩くという発想にはため息が出る。ゲヘナではこんなのが日常茶飯事だからかな?

 

 辺りを見回しながら、心の中で少しボヤく。

 怪我をしにくいように配慮してくれるのは嬉しいけれど、もうちょっと安全性に目を向けて欲しかったなぁ。

 

 そんな事を考えながら、私は木々の騒めきに耳を傾けた。

 

 そういえば、オブジェが見える範囲に彼女の姿が見当たらない。時計を見ると、9時40分を指していた。集合時間は10時なので、早めに来すぎてしまったらしい。

 

「……早く来すぎて損しちゃったかぁ」

 

 私は結局、謎のオブジェがある広場で時間を潰す羽目になった。ちょっと変な写真が撮れて楽しかったかもしれない。

 

 

 

 

 

 ……しばらく時間が経ち、私がスマホをいじっていると、突然後ろから伸びてきた手を両肩に置かれた。ちょっと艶っぽい声が耳を擽る。

 

「……来ちゃった♪」

 

「待ち合わせだから当然でしょうが」

 

 当たり前のようにボケてきたウラちゃんへツッコミを返した。

 くすくすと笑う彼女に対して、帽子を抑えながら、私は首を後ろへと傾ける。

 

 

 

 そこには、いつものゲヘナの制服に身を包んだ彼女が、上機嫌といった風にニコニコしながら立っていた。

 

 

 

 思わず、掛けていたサングラスが斜めにズレる。

 

 

 うん、ちょっと待って欲しい。

 

「……お出かけよね?」

 

「そうだよ?」

 

「……制服で?」

 

「うん!」

 

 なるほど、頭が痛くなってきた。

 お出かけって言ったらオシャレするわよね?私も滅多に着ない私服を着てきたって言うのに……。

 

 そう心の中で疑問符を浮かべる私のコーデは、白シャツにダボッとしたベージュのボトムス、白い肩掛けバッグと青いハンチング帽、黒い丸サングラスでまとめた街女子コーデ……?だったっけ。ファッションとか詳しくないからわかんないや。

 

 対して、お出かけに誘ってきたウラちゃんと言えば。

 

 

 

 ──ゲヘナ学園の制服!以上!!

 

 

 

 OK、ちょっと待ってほしい。

 さすがに無頓着が過ぎるんだけど!?

 

「うごごごご……」

 

「??」

 

 あまりにもあんまりな、彼女のオシャレへ対しての無頓着ぶりを前に、頭を抱えて私は呻いた。

 

 女子のお出かけって言ったらオシャレするのが常識よね?常識に疎い私でも知ってることをこの子はなんで知らないのよ!

 

 苦悶の表情を浮かべる私を不思議そうに見つめるウラちゃん。呑気にオブジェの縁を指でなぞって遊んでいる。

 

 呑気がすぎる……、こっちはウラちゃんの常識の無さでうごうご苦しんでるんだけど?

 

 そんな私の様子を知ってか知らずか。一通りオブジェの構造を見終わった彼女は、私の方へと向き直った。

 

 

「──じゃ、行こっか!」

 

 

 そう言うと、ウラちゃんは後ろへ向いて歩き始める。

 

 あの、私のことは無視ですか?

 曲がりなりにも遊びに誘った相手だよね?

 

 そんな疑問を抱く間にも、彼女は路地裏に向けて軽やかな足取りで進んでいく。

 

 ……止まる気配無し。ちくしょうめ。 

 

 

「ちょっ、待ってよ!?」

 

 

 オブジェの広場に置いていかれかけた私は急いで走り出した。慌てていたためか、椅子の足に左足が引っかかってコケかける。

 

 

 サングラスと帽子が若干ズレた。

 

 

「───ひょえっ!?」

 

 一瞬ズレたサングラスの先。トンデモない景色が見えて悲鳴を上げる。急いでサングラスのズレを直し、私は慌てて広場から離脱した。

 

 

 ──安全ってのはなんだったのよ!?

 あそこ、そこそこヤバい場所だったんだけど!?

 

 

 悲鳴を押し殺しながら私は走る。

 あんなの、直視していいものじゃない。

 水面に垂れた灯油のような、歪んだシャボン玉を泥に浸して3日間漬けたような景色から顔を背け、私はウラちゃんが居る場所まで全力疾走した。

 

 なお、あの場から脱兎のごとく駆けてきた私を見たウラちゃんは、あの景色の事を知ってか知らずか、にこにこな彼女のヘイローと一緒に、イタズラっぽく笑っていた。

 

 こ、こいつ〜〜〜!!

 

 

 

 ◇

 

 

 

 さて、私達が今日遊びに来た『D.U.自地区』。

 ビルや車がひしめき合うこの都市はキヴォトスの中枢であり、行政、金融、果ては大企業がオフィスを構える、いわゆる大都市に分類される場所だ。

 

 言わずもがな、キヴォトスの学園全てを統括している『連邦生徒会』もこの地区に存在している。いわゆる政府とか教育委員会とかが混ぜ混ぜになった組織だね。

 

 お察しだと思うが、大都市なので人口の流入も激しい。なので……

 

「あ、向こうのお店が爆発した」

 

「そりゃねぇ……」

 

 こんな事が起こる。

 そりゃそうだ。天下の連邦生徒会がある場所とはいえ、人が多く行き交いする場所。そして今日はえげつないくらいに治安が悪い日。

 

 これらがミックスされた結果、どうなってしまうのかはお察しの通り。 

 

「おー、戦車がドリフト失敗してコケてる〜」

 

「なんで履帯でドリフトしようと思ったのよ……。馬鹿じゃないの……?」 

 

 ……といった様に、明らかに失敗しそうな事をやるタイプのやつも出てくる。もちろん、やらかしていた奴らは即座にヴァルキューレのパトカーが駆け付け逮捕された。さもありなん。

 

 こういった風景が、路地裏から表通りを見物しながら歩く私達にも見えているのだ。ウラちゃん、やっぱり出歩く時期を間違えてるって。

 

 なお、前を歩く彼女は鼻歌まじりに歩いており、表通りの惨状を楽しむ様子を見せている。これが治安最凶格と名高いゲヘナの風格ってやつだろうか。慣れって怖いね。

 

 

「じゃ、次はこっちの通り通ろっか。巻き込まれたら大変だしね!」

 

 

 時折、路地の曲がり角で立ち止まって次に進む方向を決めるウラちゃん。どうやら彼女も騒ぎに巻き込まれるのは嫌らしい。私も彼女の案内に従って裏道を、奥へ奥へと進んでいく。 

 

「……そういえば気になったんだけどさ」

 

「な〜に〜?」

 

 ふと、歩いている最中に疑問が浮かんだので彼女に質問してみた。ウラちゃんはこちらを向かずに、周囲を見回しながら答える。

 

「ゲヘナって、いっつもこのぐらい治安悪いの?」

 

 ウラちゃんは私の質問に対して、ちょっと悩む素振りを見せた。

 

「……郊外だとそうかも?」

 

「中央は意外と平和なんだ……?」 

 

 少し立ち止まって考えた彼女は、意外な答えを返してくる。若干迷いはしたらしいが、案外治安は悪く無いらしい。治安維持組織かゲヘナのトップが、はたまたその両方が有能だからだろうか?

 

 私はゲヘナに対しての評価を、ちょっとだけ改めた。

 

 

 

 

「もうちょっとで着くからファイトだよ〜」

 

 大都市にそぐわない木々のアーチが組まれた裏道や、人があまり通っていないような閑散とした畑道を、ご機嫌なウラちゃんの案内で進んできた。

 

 ……なんで大都会D.U.自治区にこんな田舎とかにありそうな畑道とか、やたらめったら入り組んだ住宅街があるのかが分からないんだけど。

 

 大丈夫?ここ変な場所じゃないよね?

 明らかにショッピングモールとかのお店の類いが見当たらないよ?

 

 だんだん心配になってきた私は、羽をパタパタさせている彼女に声をかけようとする。

 

 しかし、彼女の足がとある一軒家に止まったことで、一旦質問は保留にする事にした。

 

「到着!」

 

 彼女はそう言うと、私が目の前を見やすい様に横へと捌ける。私は彼女に促されるまま、彼女の視線の先を見た。

 

 

「……うーん?」

 

 

 ──なんか変。

 私が最初にその店を見て、思い浮かんだ一言がこれである。目の前のお店は、どこか草臥れたような雰囲気を出す木造二階建てで、看板の文字は靄がかったように掠れすぎて読めない。

 さらに言えば、ショーケースであろうウィンドウ部分は全て磨りガラスであり、飾られている商品の類いはよく見えないのだ。建物の周りには広葉樹と思わしき木々が林となって茂っていて、林の奥の視認性はすこぶる悪い。

 

 木製であろう扉の、横にあるプラスチック製のケースに積まれた金具類を見るに、かろうじて金物屋な事が推測出来る。とはいえ、目で確認できる情報はそこまでだった。

 

「行こ行こ〜」

 

「待って」

 

「?」

 

 なんの躊躇もなく、ウラちゃんが私の手を引っ張って入店しようとするが、目の前の店に疑問を持った私は待ったを掛ける。

 

「……普通の店じゃないよね、ここ?」

 

「そうだよ?」

 

 そうだよ?じゃないんだが。

 明らかに怪しいお店なんだが。

 

 あっけらかんと言うウラちゃんを見て、私はこのお店を警戒すればいいのかどうかが分からなくなった。多分、彼女が連れてくるだけあって、安全性はある程度保証されてるんだろうけど…。

 

 

「──それにここ、私のバイト先だし」

 

「バ先!!?」

 

 

 悩む私に対して、彼女はまさかのカミングアウト。目の前のお店は、どうやらウラちゃんのバイト先だったようだ。分かるか!!!!

 

「ちなみにガンショップ!品揃え豊富、整備とかも出来るよ!」

 

「えぇ……」

 

 百歩譲って遊びに来る場所じゃなくない?  

 ウラちゃんの考えが全然読めないんだけど……??

 

 混乱状態にある私に対して、ドヤ顔らしき表情を見せつけてくるウラちゃん。予想外のオンパレードで私はもうヘトヘトである。勘弁してほしい。 

 

「それなら早く言ってよ……、外行き用の服着てきちゃったじゃない……」

 

 彼女へ遠回しに苦言を投げかける。

 せっかくオシャレをしてきたのに無駄になりそうというモヤモヤを言外に含めて。

 

 

「いやー、ごめんね?友達を遊びに誘う方法、久しぶりすぎて忘れてたんだよね〜」

 

 

 しかし、彼女には伝わらなかったようだ。

 遊び場なんて全然分かんないしねー、と頭に手を当てながら笑う彼女を見て、膨れていた怒りの芽が萎む。

 

 ……まあ、うん。そういう事なら仕方ないか。

 

 伝わらないならそれでいいのだ。これは友達にぶつけるようなものじゃない。

 私は喉の奥に溜まった苦いソレを、お腹の奥へと落とし込んだ。

 

 

「ではではいらっしゃいませ、ガンショップ【アーリヒカイット】へようこそ」

 

 

 彼女が扉の前に立ち、仰仰しく挨拶をする。

 右手を胸に添えて、左手を広げて。

 片方の足を後ろに下げたお辞儀で。

 ──怪しげで、どこか危ういような雰囲気だ。

 

 私が出会った不思議なお店。

 これから先、私がずっとお世話になる事になったガンショップとの始まり。

 これは、最初のその1歩。

 

  

 ──私は彼女に手を引かれるまま、その店へと足を踏み入れた。

 





・遠芽ワタル
 不思議なものが見えている。
 なんならヘイローも見えている。
 何がどこまで見えるのか、彼女自身には分からない。

・羽生ウララ
 ゲヘナの騒乱に慣れてしまったせいで、治安の悪さに動じもしない、メンタルつよつよ系一般美少女。ワタルが的確なツッコミをするのでご満悦。
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