大変、遅くなりました。申し訳ございません。
作ったプロットの再構成に手間取りました。
という訳で、バイト編の続きです。どうぞ。
※設定周りを読み返していたら、カズサの身長がワタルよりも高い事に気付き修正しました。
あの子、思ってたより小さくなかった……。
木曜日、放課後。
花曇りと呼ばれる微妙な天気の空の下。春の陽光を青緑色に染め上げる、緑色の葉を付け始めた桜の木のアーチの下を、私は微妙に眠気が残る眼を擦りながら、徹夜明けでくたびれきったサラリーマンのように歩いていた。
「ふわぁ……。ナカミさん、夜中の2時まで付き合わせてくれちゃって……」
疲れと眠気でレンガの上を滑る足を引き摺って、私は地面に擦れる靴音と共に、昨夜の彼女が行った蛮行を思い出す。
『んだラァ!もう容赦シネェぞ!?アタシが勝つまで寝れっと思うナヨォ!!?』
『ハァ!?ふっざけんじゃないわよ!こちとらアンタが泣き喚くまでペキョってもいいんだかんね!?!』
『やってみろォ!!』
『──やったるわぁっ!!!』
22時を越えた辺りからは特に酷かった。
本当に勝つまで寝かせてくれなかったし、意識が飛びそうになっても無理やりリボンでコントローラーを操作させられたし。
なんであの人、日付け変わってもプレイ精度落ちないのよ。2手詰めまで食い下がらせられるとは思わなかったんだけど。最後ら辺はリボンと両手を使ったインチキ操作で食らいついて来てたし。バケモンかと思ったわ。
「お陰で朝帰りする羽目になって、寮母さんに怒られたじゃないのよ……」
今朝方、リボンを使って私をベシベシ叩き起こしてきた彼女の姿を思い出して独り言ちる。自分から付き合わせといて、なんだあの起こし方。しかも寝落ちした後、私を部屋のベッドに運ばないで、カーペットの上に転がして放置してたっぽいし。そのせいで、私は部屋に帰った後即座に湿布を貼る羽目になったのだ。
ふざけんじゃないわよクソ店長。
再戦したら目にもの見せてくれるわ。
……そんなこんなで寮に戻ったら、仁王と化した寮母さんが門の前に、腕を組んで佇んでいた。
『…………遠芽さん、おかえりなさい』
『あっ、寮母さん……』
『何か申し開きはございますか?』
『申し訳ございませんでした』
平謝りしましたとも、ええ。
寮母さんの目がめちゃくちゃ怖かったです。
久しぶりに命の危機を感じた。
凄みながら指の骨を鳴らすのは、ちょっとカタギ仕草じゃないですよ寮母さん。次からはちゃんと門限を守るように言い含められて解放されたけど、正直今でも震えが止まらない。トリニティの上層部は何故、彼女に寮の管理なんて仕事を任せてしまったんだろうか。どう考えても在野の強者な立ち振る舞いしてるし、正義実現委員会辺りにでも放り込んだら大活躍しそうなんだけど。
そんな事もあり、今日の私のコンディションは微妙に不調。授業中にも居眠りしかけ、危うく先生が居る目の前で、顔面から書きかけノートのページにダイブするところだった。
今日はマジでヤバかったね。
夜更かしして『ペキョリス』とかやるもんじゃないわ。
反省反省、と呟きながら生暖かい風に吹かれつつ、私は重たい身体を引き摺って歩いていく。
「──ぁふ……、ねむ……」
このまま部屋に帰っちゃおうかな……。
お布団入ってぬくぬく寝たいな……。
そんな欲望が、眠気に揺れる私の頭を支配した。欠伸を促す本能は朝からずっとお眠な状態で、しょぼつく両目を擦った私は制服のポケットに手を入れる。
──ピロン。
「……ん?」
スカートのポケットから通知音。
それに気が付いた私は、ポケットの中からスマホを取り出した。
『モモトーク:メッセージ2件』
表示されたスマホの画面に、ポップアップが映し出される。私はスマホの画面をスライドし、ロックを解除してモモトークのチャット画面を開いた。
ウララ◀
『ワタルちゃーん、お出かけしに行かない?』
『今度、シェキナーのベースになった銃を運んで来てくれた子達にお礼しに行こうと思ってるんだよね〜』
ウラちゃんからだ。どうやらシェキナー……今は寮の部屋でお留守番をして貰っている、私の新たな相棒銃を運んだ人達にお礼しに行くらしい。
私はちょっと考えてから返信を打つ。
ワタル▷
『私も行きたい』
「…………」
画面に表示された6つの文字。了承を伝える端的な文章を薄目で見て、私は手を止めた。
……お出かけ費用、かかるよね。
そう思った私は、徐ろに家計簿アプリを開く。
赤く灯る
……お出かけ用の資金、稼がなきゃなぁ。
「……バイトするかぁ」
モモトークを再度開いて、送信ボタンをタップする。青空を模したチャット背景に浮かぶ青の吹き出しが、カクつくように上へスライドした。
2秒と立たずに現れる、サムズアップのアライグマ。私はそれを確認し、スマホの画面を暗くする。これで後には引けなくなった。
さーて、バリバリ働くぞっ、と。
頬を叩いて眠気を覚ました私は、ウォームアップがてら軽くステップを踏んで、小走りに学園を後にする。
──そして2時間後。
「………………」
学園に続く並木道の隅っこで、私はロクな成果も得られず、意気消沈して蹲っていた。
「うーそーでーしょー……?」
息を吐き出し、俯く私。
開いたメモ帳のページは真っ白。
ちゃんと市街地方面で聞き込みしたにも関わらず、何の成果も得られませんでした。
どうしろってのよ。
「もー、ちゃんと範囲絞って調べたわよね私。距離もちゃんと1km範囲だったわよね?」
片手持ちしたスマホの画面の、マップを見つめて私は愚痴る。マップ上ではイチョウの葉っぱのような四分円が、川や道路の上を占拠し、我が物顔で跨っていた。
トリニティ総合学園を中心として、北から東の半径1km。人が多く集まりそうな場所を中心に聞き込みし、なにかありそうな怪しい場所をしらみ潰しに探し回った徒労の跡。私はそれをねめ付けて、虚しく感じてため息を吐く。
「どうすりゃ良かったのよ〜……」
も〜……、と不満を喉の奥から漏らしつつ、私はメモ帳に調査結果を書き込んだ。
『調査経過:特になし
調査範囲:学園の北から東の1km
調査時間:14:38~16:41まで』
……情報が薄い。
ページを見つめて私は思う。
これっぽっちの手がかりで、どうやって残りのオーパーツを探せばいいものか。約2時間をかけて集めた調査結果を前に、私はメモ帳を閉じて嘆息した。
空を見上げる。
木立ちに遮られた灰白色の曇り空の中を、角度の落ちた太陽が薄白に染め上げていた。
薄く陰った白色光に染まる、灰色の空。
キャンパスみたいだと思った私は、見えないペンを目で動かして、空にちょこっと落書きする。
「……ふふ、涙べしょべしょのナカミさん」
描き上がった。昨夜のペキョリス耐久対戦で、私から渾身のはめ殺しを喰らってカーペットの上に轟沈した哀れな着ぐるみ店長の姿だ。くてっと萎びて茹で揚げられた小松菜のように、力なく床に広がる布の質感がこだわりポイント。神秘で描いた絵にしては良さげな感じだったので、写真を撮ってナカミさんに送る。
店長◀
『仕事しろクソガキ』
そりゃそう。
ド正論で即レスされた私はスマホを閉じて、しゃがんだまま大きく伸びをした。眠気がある程度取れてきたので、身体に喝を入れて立ち上がる。
昔の偉い人は言っていた。
──『信じよ、さすれば与えられん』
何事も、信じてやり遂げなければ結果は着いてこない。トリニティの聖典に書かれてあった言葉を胸に、私は大きく腕を振り上げる。
為せば成る、為さねばならぬ何事も!
手がかりゼロで終われるか!
こうなったら寮の門限ギリギリまで、オーパーツ捜索続行じゃい!
曇り空に向けてやるぞー!と叫んだ私は、白いお日様に向かって拳を突き出した。
……そういえば。
「──ケープちゃんとか、何か知ってたりしないかな?」
ふと、疑問が口をついて出る。
聖典
もしかしたら、ここら辺の立地とかに詳しいんじゃなかろうか。私は腕を組んで考える。
「うーん……」
これは実に悩ましい問題だ。
ケープちゃんに協力を仰いで、オーパーツの捜索を手伝ってもらう。私的には全然アリな案だけど、懸念点が少しあるのだ。
ケープちゃんや、実家のご近所に居た幽霊シスターさん達。私の記憶違いでなければ、彼女達は各教会ごとに3人くらい在中している。
それも、日付けが変わる度に3人。
見覚えのある顔触れが揃って教会の前に、ユラリと音もなく現れるのだ。
幽鬼のように教会前で佇むシスターさん達。
祈るでもなく、膝を着く訳でもなく、ただただそこに居るだけの【なにか】。気になって彼女達の事を調べようとしたら兄さんが、顔を青くしながらキツめに止めてきたくらいの謂れを持つ存在。
……だけど、その正体は近所のおばちゃん。
昼間は教会の敷地内で、きゃぴきゃぴ井戸端会議を開いているだけの無害な方々である。
そんな愉快な方々の1人であるケープちゃんを私が勝手に借りて行った場合、シスターさん達の方で何か不具合が起こらないかちょっと心配なのだ。
ほら、3って神聖な数字だし。
欠けたら悪い事起こるんじゃないかなーって。
「なんかあったら困るわよねぇ……」
ため息混じりに呟いて、視線を感じた私は上を見上げる。
木立ちの中からぴょこり、とケープちゃんが顔を出していた。
噂をすれば影が差す……って奴?
【
「呼んでな──い訳では無いか。多分呼んだ」
やった!と両手を大きくあげるケープちゃん。
それでいいのか、と困惑する私。
ぴょんと彼女は枝から飛んで、音も立てずに私の前に降り立った。
【──────!】
そしてドヤ顔を決めるケープちゃん。
腕を組んで胸を張り、私に向かってアピールする。
……何言ってるのか、相変わらず分かんないけど。
「もしかして聞いてた?」
ぶんぶんぶん。
彼女の頭が縦縞オレンジの
【──、────!!】
そして、天に向かって突き立てられる親指。
これは……お任せあれ!って言ってるのかな?
彼女の動作から意図を汲み取き、私は微笑む。
人手が増えるのは大歓迎だ。
ただでさえ広いこのトリニティ領内、情報求めて一日中走り回ったとて、私の脚で稼げる範囲はたかが知れてる。それに加えて、私には学校に通う時間もあるし、1日の間に調査出来る時間は片手の指で数えられる程しか無い。最悪、2日間で見つからなかったら奉納料を握り締めて【ごろごろさま】チャレンジしようと考えていたくらいだ。
故に、ケープちゃんからの申し出は渡りに船。
望外の幸運と言っても良かった。
なんせ、彼女が協力してくれたら人手と時間と地図とナビゲート役が同時に解決するも同然。そしてついでに保険のために用意していた、【ごろごろさま】への
頼るだけで5アド確定。
神か?
神だね。
神すぎるね。
流石ケープちゃん、評価は天元突破の"神"とさせていただきます。
私は大きく頷いて、彼女のドヤ顔を褒め称えた。
逸れるケープちゃんの胸。
機嫌よく上下する小さな翼。
風も吹いていないのに、はためくケープとオレンジヘアー。
うーん、よくある謎現象。
機嫌が良さそうで何よりだ。
じゃあ早速、と言いかけて、私は懸念事項を思い出す。
勝手に持ち場を離させて大丈夫なんだろうか?
ますますドヤった笑顔を深める彼女に、私は念の為確認を取った。
「ちなみに、お仕事とか大丈夫?」
【………………】
ケープちゃん、沈黙。
よくよく見ると彼女の両目が、右へ左へあらぬ方向に向かって泳いでいる。ダメっぽいですね。
「………………」
【……───?】
私が無言で顔を見つめていると、彼女は都合が悪い事を誤魔化すように、とてもキュートな愛想笑いを浮かべた。
もちろん私は流されない。
ケープちゃんのおでこに汗が浮かぶ。
効果はいまひとつのようだ……と脳内で茶化しつつ、私は彼女に問いかけた。
「この前、寝てるシスターさんにお仕事しろーってしてなかったっけ?」
ワタルのマジレス口撃!
効果はバツグンだ!
ケープちゃんは崩れ落ちた!
テレレレレレ〜。
格付け終了と同時に脳内で、愉快な電子音が流れ出す。確か兄さんが遊ばせてくれた、外の世界のゲームのやつだ。懐かしいなぁ、と思いつつ、私はしゃがんでケープちゃんをつつく。
レンガタイルの道の上では、頭を抱えてうごうごする黒い芋虫と化した
なにこれ、おもしろ。
「……えいえい」
とりあえず、そこら辺に落ちてた木の枝で彼女の身体をつんつんしてみる。
ゾワっ!とケープの裏側で、よろしくないもの達が反応した。
私は木の枝を投げ捨てて、頭を捻って考える。
これはアレだね、駄目なパターン。
ケープちゃんがやりたくても、【変なの】の性質上無理なやつだ。もしくは、【変なの】側のルールに則って動かなきゃならないルーチンが
私は顎に指を乗せ、トン、トン、トンと3回叩く。ルールに則って動いてくれるなら指令が楽だけど、下手な事言うとハルシネーション起こして取り返しがつかなくなるかもしれない。
具体的には、いきなりあっちこっちの寝てる人達に干渉して、悪夢を見せまくるマシーンになるとか。
【
手当り次第に寝ている人間を起こそうとして、怪獣みたいに暴れる彼女の姿を何故か幻視してしまった。街を襲う怪獣のコスプレが妙にサマになっていて、夕日をバックに火を吹く彼女はまるで、特撮映画のワンシーンのようである。
……いや、流石に怪獣化は無いか。
しょうもないイメージ映像を脳内から蹴り出して、私は目の前で蠢き続けるケープちゃんに声を掛けようと目を向けた。
薄らと、彼女の身体が青白く変色している。
──変異の兆候。
やっば、放置しすぎた。
私は急いで彼女の状態を確認し、症状が悪化しないようにスマホで写真を1枚撮る。
ケープちゃんの蠢きは、一先ずのところ治まった。私は額の汗を拭って、経過観察のために彼女の前へしゃがみ込む。
危なかった。
危うく中学時代の二の舞いになる所だった。
過去に処した数々の【変なの】の姿を思い出して、私は渋い顔をする。アイツら、変異すると他人様に迷惑をかけるような行動しか取らなくて、対処するのがひたすらに面倒だったのだ。
『──おいコラァ!勝手に黒板の枠組み消してんじゃねぇ!!先生もみんなも怪我するでしょうがっ!?』
『だぁれが他人の顔が分からなくなるようにしていいって言ってんだコラ!アホ!顔面ミンチに変えてやる!!』
『バカがよぉ!!しこたま転ばせやがって、てめェぶち転がしてやるかんねぇ?!』
──上記の発言。過去、キレてた私が【変なの】に発した暴言を見てもらえれば一目瞭然だろう。
そう、奴らの相手をするのは面倒くさい。
私が中学時代の休み時間全てを捧げて撃滅に動かなければならないレベルで、彼らの起こす行動はどれも"厄介"の一言に尽きた。
自分のルールに則って動いてるからって、他人様に迷惑をかけんな!!と、彼らと相対した中学時代にどれほど叫んだ事か。しかもソイツらの発生する要因を見つけたと思ったら、噂話に尾ひれ胸びれ背ビレがくっ付きまくって変異してた【変なの】だったなんて……。
あの時程ガックリ来たことはない。
しかも噂の発信源を突き止めたら、その女子生徒が生者の枠組みから若干外れかけていたと判明してさあ大変。全力で殴り倒して"こっち側"に引っ張り戻したけど、事後処理含めて地獄を見た。
なので、私は彼ら【変なの】の変異にはかなり敏感になっている。
嫌だよ私?【間違った存在】に変異したケープちゃんを悪・即・斬!しなきゃいけないの。私はちゃんと、今の可愛いケープちゃんのままで協力して欲しいんだからね?
そんな事を思いながら、私は言葉を選んで口を開いた。
「……お仕事優先でいいなら、お願いしようかな?」
【!!】
よし、好反応。
対処成功を確信した私は内心ガッツポーズする。見ればうごうごしていた芋虫の背中がシャキッと伸びて、直立不動で立ち上がった。
青白い変色はもう無い。
いつも通り、暖色系な髪色の可愛いケープちゃんに戻っている。
ホッと一息ついた私は、彼女を撫でてスマホを見せた。
「はい、じゃあこれ。今探してる落とし物の画像と、それの元画像。半分にちぎれちゃった本のページだから、この上半分探してきてくれない?」
【────!】
了解!と言わんばかりにビシッと敬礼した彼女は、すぐさま私に背を向けて跳躍し、木立ちの中へ消えていく。目にも止まらぬ早技に目を丸くした私は、固まった掌を摩りつつ、スマホの画面を暗くした。
「調子いいわねぇ……」
彼女を見送って、私は手の中に残るサラサラとした髪の毛の感触を思い出す。
キヴォトス人とて、健康に関しては外の人間とほぼ同じ。有り余る体力があろうと、驚異的な頑強さを持とうとも、
……少女であるなら尚の事。お肌と髪の荒れは、世の女性達が気を遣う部分だ。
神秘のコリが取れてきた手を少しずつ動かして、私は彼女の生前に想いを馳せる。
「愛されてたんだろうなぁ、ケープちゃん」
手櫛がすんなり通りそうなサラサラの手触り。
キューティクルの無い、整った髪質。
自然な光沢が綺麗なオレンジの髪色。
昔の人の筈なのに、今の子達と遜色ないくらい、綺麗に整えられた髪形。
彼女の髪には愛が詰まっていた。
髪質もそうだし、可愛らしい髪形にも。
きっと、彼女は愛されて、愛されたまま死んだのだろう。
「……いいなぁ」
口をついて出た言葉を誤魔化すように、私は1回、深呼吸。
もうこんな事言わなくてもいいのだ。
私も立派に生きていくのだ。
頭をぶんぶん振り回して、私は両手を握り締める。神秘のコリはもう無くなった。動き出す気力も十二分にある。
ならば動かない理由は無い。
私は彼女が跳び去っていった方向に背を向けて、レンガの道を歩き出す。
今日のタスクはオーパーツ探し。
やらねば稼げぬバイトの
私は肩を回しながら、両手を伸ばして空を見上げた。
木立ちの上の空の雲にはいつの間にか切れ目が走り、淡い光が差し込んでいる。
──『天使の梯子』だ。縁起がいい。
これなら、案外オーパーツの残りなんてすぐに見つかってしまうかもしれない。なんせ、『天使の梯子』は幸運の先触れ。運気が上向く予兆の印なのだから。
──であれば。
「……最後、
最低限の仕込みをした後、幸運バフを盛るに限る!
そう考えた私はすぐに、並木道を駆け出した。
『果報は寝て待て』。
『寝る子は育つ』。
『春眠暁を覚えず』……!
……なんて素敵な響きだろうか!
目指すはトリニティの治安維持組織、『正義実現委員会』の部室。最近よくお世話になるそこで最低限の仕込みをした後に、私はお部屋でぐっすり寝るのだ!
ステップを刻みながら、軽い足取りで並木道を駆け抜けていく。妙に生暖かい風は頬を抜け、私の後ろ髪をかき上げた。
まるで、後ろ髪を引くように。
でも知らない。
これから私は惰眠を貪る。そう決めた。
なんせ、私も人間なので。
睡眠欲には、抗えないっ!!
ひゃっほーい、とジャンプして、目の前に現れた下り階段を15段飛ばす。眼下に広がるトリニティの市街地風景を視界いっぱいに取りこんだ私は、ご機嫌に学園の敷地内を飛び出して行った。
・遠芽ワタル
眠気と疲れで思考がとっ散らかり、何もかもがどうでも良くなった深夜テンション女子高生。眠気のせいで素の部分が見え隠れしており、後に正気を取り戻して悶絶する事が確定している。
そして、感の良い方ならお気づきだろう。
彼女が最後にダッシュした方角は北である。
・【ケープちゃん】
ここ最近、情緒が見るからにハッキリしてきた際どいシスター服にケープを羽織る幽霊ちゃん。過去の自分の行いに後ろから刺され、この度無事に悶絶した。
現在、学園内に捜索物が落ちてないか手早く確認中。
すごい!ワタルよりも仕事ができる!
実はほんのちょっとずつ、彼女に変異が始まっている。
・ナカミさん
昨夜の醜態をワタルに煽られ、大人気なくキレた着ぐるみ店長。絶対わからせてやる、と息巻いて、今日もゲームコントローラーを取り出した。
彼女が言っていた通り、店の経営はほぼ道楽。
株やら何やらで稼いでいるとは言っているが、どこまで本当か分からない。
少なくとも、ワタルに月10万円のお小遣いを渡すくらい稼いでいる事は確かなのだが。