ワタルとウララ   作:パンちゃんドラム

25 / 26

 お待たせしました。続きです。
 ずっと後に出す予定のキャラに囁かれてプロット爆砕しておりました。トリックスターキャラって滅茶苦茶ですね……。

 ではバイト編2日目前半、どうぞ。



暮天、声を覆い隠し

 

 オーパーツ捜索、2日目────。

 

 現在時刻、14:30。授業の単元をそこそこ減らしてもぎ取った休息の時間を惜しみなく投入するも、埋まらないメモ帳の余白に涙を流しながら歩く、哀れな少女がここに1人。

 

 

「──見つかんなぁぁぁぁい……!!」

 

 

 そう、私である。

 現在、絶賛調査の進捗がかなり低迷中。

 集めど集めどオーパーツにカスりもしない情報群を前に、住宅街のど真ん中で情けない悲鳴を上げた私はがしゃがしゃ髪をかき混ぜた。

 

 酷くない?たかだか紙切れ1枚だよ?

 ここまで見つからない事ってある??

 

「なーんでこんなに見っかんないのぉ……!?」

 

 悲鳴混じりに泣き言を言って、メモ帳のページを私は捲る。そのページには、ジンちゃんとコハルちゃんに教えてもらった『遺失届』の書類の書き方が要点を抑えて書かれていた。

 

 はい。お察しの通り成果ゼロです。

 お昼食べてからずっと探してるけど、なんの情報も入ってきません。昨日に関しては、ジンちゃん達に落とし物をしたって勘違いされて心配された後、交番とかで書く遺失届の書き方を事細かくレクチャーされました。泣くぞ。

 

「──……あんな顔向けられたら、バイトの為に探してるとか言える訳ないじゃ〜〜〜ん!!」

 

 昨日の事を思い出し、悲しみの鳴き声を上げた私は青空を見上げる。ちらほら疎らに雲が浮かぶ、のどかな青空だった。それは悶々とした気持ちを抱える私の内心とは大違いで、抑えきれないモヤモヤが喉の奥から吐き出される。

 

 集めた手掛かりはどれも()()

 探すべき()()は増えるばかり。

 やれどもやれども終わらない、先の見えないトンネルを掘るような作業を前にして、私は疲れと徒労感を覚えていた。 

 

「ふざけんなぁぁぁ……」

 

 トリニティの古い裏道に、私の声がぼんやり反響する。なんか、すごく虚しくなってきた。ちょっぴり涙が出てきて私は、服の袖で目を擦る。

 

『──ジンちゃん、私の他に破けた古い紙切れを探してる人って居る?』

 

『んー……、ちょっと分かんないな〜。多分届け出BOX見れば分かると思うけど……』

 

『で、でもジン先輩。それ、言っちゃダメなんじゃないの?ハスミ先輩が前に言ってた、守秘義務?に抵触するんじゃ……』

 

『お〜、そうじゃんそうじゃん。よく覚えてたなコハル、ありがとな〜。…………ってワケだから、ごめんなワタル?』

 

 申し訳なさそうな顔をして、私に両手を合わせる彼女の顔を思い出す。 

 

「うぅ〜……、ぬぅぅぅ……」

 

 フラッシュバックする昨日の光景。

 お似合いだった。私よりも。

 あんな顔をされて、なおかつコハルちゃんに対してほにゃっとした顔で頭を撫でていれば、彼女の心は否が応でも理解が及ぶ。……ワザとっぽく届け出BOXに目線を向けたあの行動が、コハルちゃんの研修目的のためだったとしても。

 

 悶絶する。

 煩悶する。

 そして結局消沈する。

 虚脱感に苛まれた私の心が、徒労と混ざってじんわり濁った。

 

 ヒヤシンスを守っていた時よりも嬉しそうで。

 小さな私を守っていた時よりも楽しそうで。

 褒められたコハルちゃんは嬉しさで挙動不審になって。

 

 理不尽に疲れて、グレてしまった私とは大違いだった。

 

「……楽しそうだったなぁ」

 

 楽しそうに会話するジンちゃんと、恥ずかしがりつつもどこか嬉しそうなコハルちゃんの姿を思い起こしてぼそりと呟く。

 

 なんだか心の奥がチクチクした。

 ジンちゃんがあんなにリラックスしてる顔、何年ぶりに見たっけか。脳裏を過ぎる過去に目を向け、私はそっと目を閉じる。

 

 ……もう5年、か。

 

 過ぎ去った時間を数え直して、私はゆっくり目蓋を開いた。目頭から滲む涙液でぼやけた路地の先は、水滴を垂らされた水彩画のように霞んで、見えない。

 

 視界をクリアにすべく、私はまた目元を擦る。

 

 ぽろっと、何かがこぼれ落ちたみたいだ。

 飴玉みたいに。あめ玉みたいに。

 だから私は落とさないように、しっかり服で受け止める。

 

 気を取り直して前を向き、古い裏道の先を見据えた。

 

「──くっそー……、こうなったら()()使わなきゃじゃん」

 

 雲たちを見下ろす青空に、私は拳を振り上げる。

 

 制限時間まで、残り4時間半。

 使いたくはなかったが仕方ない。

 全ては門限までに帰るため。そして、明日のお出かけを心置きなく楽しむため。私はここで後顧の憂いを断つと決めた。

 

 つまるところ、疾風迅雷。

 タイムアタックの始まり始まり。

 覚悟を決めた私は最高効率でバイトを終らせるべく、小銭入れに手を突っ込む。

 

「──【ごろごろさま】、今回もお願いします!!」

 

 再び勢いよく空に向かって振り上げた拳の中には、金ピカメッキで輝く500円玉。キヴォトス中央銀行で発行される、国が認めた円通貨だ。本来であれば、この後私のおやつ代になるはずだったそれを私はギュッと握りしめ、苦悶と共に放り投げる。

 

 ──チャリン、チャリン……。

 

 澄んだ音が鳴り響き、投げた硬貨は大地に立った。

 

 

 カラカラカラカラ……。

 

 

 硬貨が転がり始める。

 遅れて響く、大きな鈴が転がるような音。

 厳かな気配を湛えた転がる硬貨を前に、私は小躍りして喜んだ。

 

 はい勝ち確。後は硬貨の後を追うだけ。

 期待に胸を膨らませながら、私は彼の後ろを着いていく。

 

 さぁ、頑張れ【ごろごろさま】!

 私の心と明日以降の懐の暖かさは、貴方の探索成果に掛かっている!!

 

 空元気に、上の空に、明日のお出かけにのみ意識を向けて、私は裏道を進んでいく。

 

 

 

 

 ……で。歩くこと2時間半。

 

「──ここどこぉ……??」

 

 寂れた公園の前で途方に暮れる、哀れな少女がここに1人。【ごろごろさま】の後ろを着いてくついでに目新しい【変なの】の噂話をSNSで探していたら、知らない場所まで来てしまった。

 

 一体どこ、ここ。

 私は当たりを見回して、スマホの地図アプリを開く。

 

 ……電波圏外、情報ナシ。

 位置情報もプッツリ切れた。

 GPSは、途絶中。マップの矢印大回転。

 つまるところ、どういう事か。

 見知らぬ土地で帰れまテン!

 

 おーまいがー。

 私は頭を大きく抱えた。

 

 毎度の事ながら、探索後のアフターケアだけはしてくれない【ごろごろさま】。噂話から産まれているとはいえ、さすがは神様と言ったところか。あとは自分でなんとかしなさいってこと?

 

 試練をもたらす厳格な【変なの】に、私は口を尖らせる。

 

 うーん神様、勘弁してくんないかな。

 よりにも寄って今日この日、急いでるタイミングでこういう事されると困るんですけど。

 

 そこんとこどうでしょう?と、私は彼に目配せする。彼の500円玉はうんともすんとも言わずに、寂れた公園の入口ポールの前で静かに倒れ伏したまま。

 

 

 ──そして厳かな気配は消えた。

 

 不満が顔に現れて、私の眉間にシワがよる。

 仕事を果たしたと言わんばかりに、硬貨はアスファルトの上に身体を寝かし付けていた。

 

 ……これ以上は無意味らしい。

 私はぐりぐり眉間を揉んで、硬貨の横を通り過ぎる。

 

 金ピカコインは物言わない。

 既にゆっくりと高度を落とし始めた夕日を、メッキを通して金色の輝きに変化させるだけだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ──とは言ったものの、現在に至るまで【ごろごろさま】の捜索的中率は100%。彼はお願いしたものに関わる物品、手掛かり問わず必ず見つけてくれている。流石はもの探しの達人と言ったところだ。

 

 人?って言ったら違うとは思うけど。

 【変なの】だし。

 

「──ま、いつもありがとうございますってね。ちゃんとお礼は言わないと」

 

 500円玉に両手を合わせて一礼した後、入口ポールの内側に足を踏み入れる。

 

 寂れた公園。人気は感じられず、私の()におかしなものは映らない。ガランとした敷地内には鉄棒、うんてい、すべり台といったスタンダードな遊具達が置かれており、砂地の地面から巻き上がる空気が埃っぽい事以外は普通の公園のように見えた。奥には古びたトイレの建物。他に目立つのはジジ、と音を立てて稼働している赤と白の2台の自販機くらいか。

 

 緩やかにカーブを描く遊歩道の途中に立ち、私は辺りを見回して公園内の様子をメモ帳に書き留めていく。そしてもう一度、見落としが無いかと公園内を見回した。

 

 人影は無し。異常も無し。

 夕焼けに沈む園内を、チカチカしているガス灯が照らしている。

 

 

 ……んん?

 ()()()()()()()()()??

 

 

 ハッとして公園の入り口を振り返れば、そこは遥か後方にあって。私はと言うと、公園に敷かれたぐねぐねの遊歩道の真ん中に取り残されている状態だった。

 

 ……ねぇねぇねぇねぇねぇ、勘弁してよ。

 こんな時に限って【異界】に迷い込むなんて事あるぅ!?

 

「うーそーでーしょー……???」

 

 本日2度目となる、頭を抱えるモーション発動。

 私はさっきまで書いていたメモ帳のページを破り捨て、新しいページの上に【異界調査】と書き殴る。

 

 あったま来た。

 なんてタイミングで来てくれやがった。

 ふざけんな。

 

 私の頭から怒りが噴出する。こっちがようやく真面目に調査を始めようとする矢先に、夕陽の【異界】が空気を読まずにやって来た。キッ、と周りに鋭く視線を巡らせれば、一面夕焼けの(あか)(あか)(あか)。遠くに見える信号機のライト3つすらも全て(あか)く染まっており、色の濃淡の判別も付かない。足を踏み入れた公園内に至ってはもっと顕著に(あか)の影響を受けていて、遊具、建物、公園内に彩りを加えている筈だった木々ですら、全てがセピア色に変色している。

 

 そう、全ての景色が夕焼けの影響を受けていた。

 

 唯一その場で存在する事を許された色は、景色に陰影を落とす()と、ぼう、と私の身体を優しく包む()のみ。燃えるような(あか)に染まった景色の中心で、空の7割を占有した大きな太陽が、私と大地を睥睨している。

 

 無論、癇に障った私は太陽に向けて、即座に中指を突き立てた。太陽は面白そうに笑っている。

 

【────っ、────!】

 

 

 ──(いや)、違う。笑い声。

 

 

「……出たわね、陰険クソポニテ!!」

 

 視界の端に映った真っ赤な長髪目掛けて、私はスリッパをぶん投げた。

 

 

【──あっはははは!よ〜うやく気付いたか!】

 

 

 ぬるり、と身体を滑らせるようにスリッパを避けた【そいつ】は、いたずら少年のような哄笑と共に朱い景色から現れる。

 

 丈長のスカート、ダサい結び方が特徴的な黒いリボンに、白と紺のセーラー服。そして夕焼けに負けず劣らずな(あか)を灯した、記憶の底にへばりつく双眸とポニーテールに結ばれた長髪。

 

【ようこそ、ボクの領域(テリトリー)へ!ボクは人呼んで「『陰険赤髪(いんけんあかがみ)クソポニテ』!」、人畜無害なキミの友達さ!…………あれぇ??】

 

 ──【陰険赤髪クソポニテ】、それが奴の名だ。中学時代から今に至るまで、定期的に現れては私にちょっかいを掛けて去って行く厄介者。そして、中学時代に私が大事な定期考査をすっぽかす羽目になった、【異界拉致未遂事件】を引き起こしたのも【こいつ】である。

 

 あの件に関してだけはマジで許してない。

 そんな事もあって、私は【こいつ】の事が大嫌いだ。

 

【ねぇねぇ酷いよー。せっかくキミとお喋りするための時間を設けたのに、自己紹介を遮るなんてさ〜?】

 

「なら心を読むな。あと性質暴露でサラッと存在確立狙おうとしてんじゃないわよ」

 

【ぶーぶー】

 

 なので私は抗議してくる嫌いな【変なの】を無視して、サッサと遊歩道を歩き始める。

 

【ねーぇ〜、キミ〜、お喋りしよ〜よ〜】

 

「はん。話す事なんて無いわよ。消えろ」

 

【えー、ツレな〜い】

 

 口を尖らせ、スキップのような足取りで着いてくる【そいつ】から、私は早歩きで距離を離した。

 

【でもさぁ】

 

 ……が、しつこい【そいつ】は真正面に現れる。

 

 

【──()()、出れないよ?】

 

 

 にやにやと、底意地悪そうに。

 【そいつは私の顔を覗き込む】。

 

 ……どうやらこの【クソポニテ】には、相変わらず『距離』という概念がインプットされていないらしい。私はため息を吐いて、面白そうに下から私の顔を覗き込んでくる【クソポニテ】の顔を、がっちり左手でホールドした。

 

 そして思いっきり力を入れる。

 

「──ふんッ!」

 

【ほぎゃぎゃぎゃぎゃあああ!?!?】

 

 アイアンクローだ。バトル系漫画をちょっと齧っている人なら誰でも知っているプロレス技。変な事をしてきたのでお仕置きである。

 

 だがしかし、【こいつ】はまだまだ余裕がありそうだった。悲鳴を上げているにも関わらず、口の端っこにニヤニヤがある。キヴォトス人由来のまぁまぁな怪力で頭を掴んでいる筈なのに、未だに【クソポニテ】はへらへらと笑っていた。

 

 うーん、どうしたもんか。

 私は【こいつを『引き摺りながら』】、少し考え事をする。

 

 ……そういえば、私の神秘って【変なの】特攻入ってるらしいのよね。

 

【──タップ、タップタップ!?】

 

 おっ反応した。やっぱり心を読んでたらしい。

 頭を掴む左腕を、【ポニテ】は叩いて白旗を振る。

 

 ──しかし、最初から許す気など更々ない。

 私はもっと笑みを深めた。

 そのまま鳴いてろ。あと干渉出来ないように徹底的に痛め付けてやる。

 

 私はミチミチいっている左の手のひらをさらに補強すべく、《凝固》の性質を腕に流す。

 

 手の中から聞こえる悲鳴がとても苦しそうになった。効果抜群のようだ。

 

「なにか言う事は?」

 

【ごめんなさいっ!!!!】

 

「よろしい」

 

 素直に降伏したので、私はスリッパを《凝固》で補強し、左手で万力のように挟まれた【クソポニテ】の頭を梃子の原理を応用し、無理やり手のひらの中から追い出す。

 

 解放された【変なの】は涙目になっていた。

 

【酷いよぉ……、ボクは人畜無害なキミの友達なのに……】

 

「ハッ」

 

【鼻で笑ったなぁ!?】

 

 可愛子ぶって女の子座りをする【クソポニテ】を鼻で笑う。本当に人畜無害を自称するなら、【異界】なんてのに私を招いてくるんじゃないと言いたい。

 

 しかし【ポニテ】は心外そうに片眉を上げ、毎度お馴染みのセリフを吐いた。

 

【──だってキミ、面白いくらい入り口に吸い込まれてくじゃん】

 

「まず人が通りそうな場所に入り口置くなって、毎度毎度言ってんでしょ」

 

 すかさず私は反論を入れる。

 【ポニテ】の理論は間違っているのだ。

 『在る(ある)から侵入る(はいる)』。そこを履き違えてはいけない。誰だって道のど真ん中に、いつの間にか【異界】の入り口があったらその気は無くとも迷い込んでしまう筈だ。あまつさえ、常人は【入り口】が見えづらい性質を持っている。これ、この前【異界】で鉢合わせた時に説明したと思うんだけど?

 

 そう訊ねると、彼女は肩を竦めて首を振った。

 

【いや、最近はちゃんと警告的なものは出してるよ?ここ異常だよーって】

 

「はぁ?そんなのあった────」

 

 ──っけ…………?

 言葉を続けようとしてなにか引っ掛かる。

 そういえばあの時、確かに異常な事が起こってたような……。

 

 瞬間、脳内で再生される公園侵入前の記憶。

 

 電波圏外。

 位置情報は消えて。

 GPSも途絶した。

 

 ……よく考えたら、確かに異常だった。

 そしてそういえば、あともう1つ。

 あともう1つ、何かあった気がする。

 

 それって……たしか……うーんと、まさか……!?

 

「──マップの矢印大回転!?!?」

 

【ごめん、それは知らない】

 

「違うんかい」

 

【目的地に到着したからぐるぐるしてたんでしょ、それ】

 

「【ごろごろさま(アイツ)】かぁ!?」

 

【えぇ〜……】

 

 真実に気付いた私に呆れた目を向ける【そいつ】は、腰に手を当ててやれやれと首を振る。

 

 なんだよこの野郎、喧嘩売ってんのか。

 私は即座にファイティングポーズを取った。

 

【違う違う。何も売ってないよボク?】

 

「フンッ!」

 

【相変わらずキミは血の気が多いなぁ!】

 

 私が軽く放った右フックをバックステップで躱し、おどけたように笑う【クソポニテ】。ムカッとしたのでスリッパもおまけで投げてみるが、やはりぬるりと躱される。どういう避け方してるんだか。

 

【──っていうかさぁ、キミ。【ごろごろさま】に道案内して貰ったって事はバイト中でしょ?ボクに構ってる暇ってあるの?】

 

「お前から話し掛けて来たんでしょうが!!」

 

【あはっ、そうだったそうだった!】

 

 こいつほんっっと……!!

 自分から【異界】に連れ込んどいてその言い草かぁ?!

 

 けらけらと他人事のように笑う【クソポニテ】にキレた私は、曲がりくねった遊歩道の上を後ろ歩きで進む奴へ向け、鋭く攻撃を放った。

 

 《凝固》の続く左で貫手、右足を少し引く。

 敵、左方に回避行動。

 なら右足を軸に捻転、スリッパ居合の構え。

 敵、着地後、後方に回避行動。

 引き寄せ、投げたスリッパをリロードついでに背面強襲。

 

【ぐえ】

 

「っしゃ獲った死ねオラァッ!」

 

【女の子が死ねとか言っちゃダーメーでーすー!?】

 

 なんか言ってら。

 態勢崩れにジト目でスリッパ振り抜き。

 が、また避けられて居合は不発。

 ふわりとセーラー服が宙に漂う。

 じゃあ回転スリッパで《炸裂弾(メテオラ)》撃墜するか。えい。

 

【え、ちょっ】

 

 ドパンッ!!

 

【グエーッ!?】

 

「よっしゃ命中」

 

 ガッツポーズ。私の勝ちだ。

 どうやら【クソポニテ】、回避時に必ず一呼吸挟まないと動けないらしい。新しい発見。使ったスリッパを回収した私は、これ幸いにとメモに記す。

 

 ……ブラフの可能性も考えたけど、その時はその時だ。また別の手札を暴けるし、やはり連撃系のコンボは出し得だと思われる。今度【こいつ】(しめ)る時は擦り倒すか。

 

【……勘弁してよぉ】

 

 【ポニテ】の鳴き声を背景に、私はうんうんと頷いた。やっぱり対戦するなら相手の嫌がる行動擦んなきゃね!

 

 夕陽に向かってピースピース。

 アイムWINNER(ウィナー)

 褒めたたえよ……。

 

 【ポニテ】をボコって溜飲を下げた私はふふん、と機嫌よく腰に手を当てる。ズモモ、と動いた【ポニテ】は地面に這いつくばりながら不機嫌そうに口を尖らせた。

 

 とは言えしかし、【こいつ】は今回なんでまた、【異界】なんかに私を連れ込んだんだろうか?

 

【入ってきたんでしょ、そっちから】

 

 首を捻った私に奴は答えた。

 

 さっきから何を言ってるんだ【こいつ】は。

 入り口設置したのはそっちでしょうに。

 怪訝な表情を浮かべた私に彼女は続ける。

 

【ん〜、と言うか多分。案内されたって感じ?】

 

「案内ぃ?」

 

 素っ頓狂な声を上げると、彼女はうつ伏せのまま頷いた。

 

 案内……?

 案内って言われても、私の中で思い当たる節は【ごろごろさま】しか無いんだけど。

 

 ……いや、もしかして?

 

 首を傾げて約数秒。【ごろごろさま】に願掛けした内容を思い出して、私はなるほどと手を打った。

 

 そういえば私、最短最速で『オーパーツ』の手掛かり見付けて!ってお願いしていた。いきなり【異界】に拉致……迷い込んで忘れてたけど、【ごろごろさま】も公園前で止まってたし。

 

 これ、もしかしてそういう事だったりする?

 

【そうじゃないかな?ボクはキミがどんな風に彼へお願いしたのかは知らないけどね!】

 

「はぁ〜、なるほどねぇ」

 

 【ポニテ】の答えに納得して、私はふんふんと頷いた。

 

 顔を背ける。

 

 嘘でしょ【ごろごろさま】。

 正気か【ごろごろさま】。

 口を開けば胡乱で余計な一言しか言わない、性根が道化師みたいな【こいつ】が重要情報握ってるって?

 

 私の頬が引き攣りを起こした。

 バカバカしいにも程があるけど、いつの間にか起き上がって隣に居る【こいつ】、意外と頭がキレる奴である。発言の裏には意図たっぷり、なにかを見透かす朱い双眸はここでは無い何処かを捉え、利己的な愉悦主義の行動理念で数多の事件を引っ掻き回す。言わば、荒らし、嫌がらせ、混乱の元。いつも飄々としている【こいつ】の腹黒い策に私は何回踊らされた事か。なんならさっき、私が襲いかかった時も避けてばっかりだったし。

 

 明らかに底を見せてない。

 微笑だけでも薄気味悪い。

 そんな【こいつ】が重要情報を握ってるとなれば、そりゃあもう面倒くさいとしか言いようがない。

 

 はは、まっさかぁ……と、心の中で手をヒラヒラさせつつ、チラ、と私は視線だけ動かす。【ポニテ】は私の懸念をどこ吹く風と言った風に、セピア色に染まったブランコが揺れる様を眺め、微笑んでいた。

 

 う、胡散臭い……。

 

 

【──ショートカットじゃない?】

 

 

 不意に、彼女はそう言った。

 発言の意図を問うべく、私は口を開く。

 

「どゆこと?」

 

 すると彼女はこちらへ振り向き、ちょいちょい、と人差し指で道の先を示して歩き始めた。

 どうやら歩いて話そうと言うことらしい。

 

 歩幅のリズムを不規則に変化させる彼女の足音に続いて、私は歩く。

 

 たたん、と、たん。

 たん、た、たんたん。

 

【いや〜、ボクって凄くってさぁ。こうやって他の同類(お化け)達が占有出来ない場所を縄張り(テリトリー)に出来ちゃうんだよね〜】

 

 いきなり自慢が始まった。

 

「何の話よ。てか初耳なんだけどそれ」

 

【言ってなかったからね】

 

 ふふん……と胸を反らして威張る【ヤツ】へジト目を送り、私は彼女の姿を()で捉える。

 

 ……気配に揺らぎなし。

 素直にメモっとくか。

 

【──で、話を続けると、こういう縄張り……『領域』って言った方が伝わりやすいかな。領域っていうのは、キヴォトスの土地に重なり合っているようで少しズレた場所に存在してるんだよね】

 

「はぁはぁ」

 

 嘘はついていなさそうだと感じた私は、適当に相槌を打ちながらペンを動かす。

 

 たん、たん、たんた。

 とと、たん、と。

 

【そして、その"ズレ"にはボク達みたいなお化けみたいなやつらが暮らしてて、好き勝手に生きている】

 

 ふむふむ。サラサラ。

 

 たん、とと、たん。

 

【……で、ズレた位相と重なっている場所を、ボク達は出入りしてる訳さ。それがキミの言う【異界】の入り口。ボク達目線で見れば"玄関口"ってやつだね】

 

 マジか、と私は目を見開く。どうやら【変なの】、位相と位相を行き来しているらしい。

 

 確実にこれメモんなきゃじゃん。

 説明を受けた私は、急いでメモに情報をまとめる。ついでに私の神秘の謎も、彼女の一言でシレッと解明された。

 

 ちょっとこの情報爆弾すぎやしないですかね?

 私は真顔でペン尻を押す。

 

 目から鱗をボロボロ落としながらメモ帳のページを捲る私を余所に、彼女はステップを踏みながら話を続けた。

 

【キミも聞いた事はあるだろう?【お盆には、地獄の釜の蓋が開く】って】

 

 ああ、なるほど。聞いた事はある。

 私はコクリと頷いた。

 

「オーボンだからか、納得。ミヤモト=サンが言ってたのってそういう事ね?」

 

【アストモフィアに解釈しないでよ】

 

 もう、困ったなぁ……と頭を掻きながらも彼女は首肯して、夕陽の差す道を軽やかに進み続ける。

 

 たんた、たん。

 たん、とん、たん。

 

 その足音が奏でるリズムは、私の耳には楽器の調律をしているかのように聴こえた。

 

【──その理論を利用するとね。なんと、とある事が出来ちゃうんだ】

 

 とん、とん、とん。

 

 そして【ポニテ】は足を止め、爪先を地面に3度打ち付け、クルッとターン。夕陽へ向けてバッと腕を広げる。

 

【長距離移動のショートカット。それが、彼がボクを呼んだ理由────】

 

 ぐっ……とタメを作って、振り向いた彼女は私にサムズアップ。

 

【即ち、キミの成就した願いは座標違いによるイベントスキップ!ゲーム的に言うなら、フラグを飛ばして報酬だけ獲得する、味気ないストーリーを味わう事ができるってコト!良かったね!寄り道なしの一直線だ!】

 

「コイツやっぱり処した方が良いのでは?」

 

 解説によって好感度がそこそこ上がっていた矢先の余計な一言により、私の『お前を処理処理ゲージ』が一気に溜まった。私は【クソポニテ】に見せ付けるように、ゆっくり懐から白いスリッパを抜き出す。

 

 今なら私でも三角様(エクセキューショナー)になれそうだ。

 

【やめてね?本当にやめてね??】

 

「ビビり散らかしてて草」

 

 ほう、メメント(ぶちころ)されたくないらしい。私は鷹揚に頷いて、肩に白いスリッパを担ぐ。

 

 ……どこから切り落とそうか?

 やっぱり左肩?

 

 ニコッと微笑みを浮かべたら、【ポニテ】の顔が真っ青になってしまった。脅かしすぎたかな。

 

 ほーら、スマイルスマイル。

 

【ヒエ】

 

 あらヤダ悲鳴だ。そんなに怖かったのか。

 仕方ないのでペペイ、と猫の画像を彼女に送り、アニマルセラピーを試みる。あとついでにウェーブキャットさんの布教動画も。……あ、やべ。

 

 音割れリックの動画間違えて送っちゃった。

 

 向かい側からガガ、と壊れたラジカセみたいな音がする。

 

【ま、つまりボクは人畜無害なキミの友達として、【ごろごろさま】からヘルプに呼ばれた、って事さ。2日で物探しを終わらせるなんて、この広い自治区の中じゃ無謀な話じゃない?】

 

「大丈夫?白目剥いてるけど」

 

【ははは、これが大丈夫に見えたらその眼は節穴だよ】

 

 わはは。

 私は意図的に知らんぷりした。

 

「──とは言われてもなぁ……、それはそうなんだけどさぁ……」

 

 それはそれとして、私は納得出来ずに口をもにょらせる。真っ当な意見を述べてくれたところで悪いのだが、私としてはもっとこう……依頼人との出会い!とか、事件の痕跡!ババンと解決!!みたいなドラマが欲しいのだ。

 

 なのでまあ、納得いかない。

 もっといい方法って無かったのかな?

 

【時間的な問題を考えたら、夢見過ぎだとボクは思うよ】

 

 【ポニテ】はそう言って、遊歩道の先へ歩き始める。そこには赤の系統色に染められている2人掛けの小さなベンチと、2つ仲良く並んだ赤色の自動販売機があった。

 

 【ポニテ】は歩道から外れて、自販機の前に立つ。

 

【2日ってさ、48時間なんだよ。1日換算で24時間。星が1回転する速度を分割して、ボク達が理解できるように切り分けた『人間の時間』。そしてキミ達はそれに縛られて、命を数えて生きている】

 

 彼女は腕を組んだまま、うーんと唸って自販機を眺める。

 

「それがどうしたのさ?」

 

 私は聞いた。

 

【いや、ね?現実的に考えて、2日でキミが捜し物に見つけ出すなんて、それこそ天文学的数字の確率を引き当てるしかないんだよ。砂浜の中に埋まってるダイヤモンドを見つけるくらい無謀だ】

 

 彼女は腕を解いて、続けた。

 

【しかもキミ達には暮らしがある。営みがある。命を育む時間がある。そんな大切な時間を切り詰めて、人間(ヒト)は24時間動き続ける事はできない】

 

 首を振って肩を竦める彼女に対して、私は目を瞬かせる。

 

「……アンタ、他人の心配するとか出来たんだ」

 

 意外だった。こいつが人を心配するなんて。

 彼女はずっと、会った時からずっと誰かの周りを彷徨(ふらつ)いて、イタズラを仕掛けては逃げていくようなヤツで。こんな綺麗な考え方を、理路整然とした星空のような世界を胸の内に秘めているとは思わなかった。

 

 私は言葉を発さない。

 こいつは思考を読んでくるから。

 しかし。

 

【……ん?心配というか、呆れ?かなぁ】

 

 あっけらかんと彼女は言う。

 

【だって、世界は法則で動いてるんだよ?ロマンチックな出会いですらも、弾かれたおはじきの先。結局、ヒトは別のおはじきにぶつかるだけなんだからさ!】

 

 たはー!と笑って、身も蓋もなく、浪漫の一欠片も無い考えを示した彼女は大仰におどけた。

 

 私はため息をつく。

 いい話だったのに台無しだ。

 

「……友達自称する癖にロマンないのどうなのよ」

 

【そこはほら、ボクはお化けだけどリアリストだからね!】

 

「お化け名乗るの辞めちまえ」

 

 非現実的存在が現実を語る。

 それでいいのか世界観。

 私は今日も非日常に向かって、あらん限りのツッコミを入れる。

 

【ふふ、見てよこれ。ボタンを押すとおしるこ缶ばっかり出てくる自販機】

 

 そしてそんな非日常は、ポチポチ自販機をつついている。本当にどこからツッコめばいいいいんだろうね、私。

 

【わぁ凄い!あったかいのしか出てこない!】

 

「うーわ絶妙に要らないやつ」

 

 ガラガラと音を立てて、壊れたスロットマシンから溢れるコインのようにおしるこ缶が取り出し口から吐き出される。何回押した?というツッコミはもう野暮だ。だってもう出ちゃってるんだもん、いっぱい。

 

 【ポニテ】が私に出てきたおしるこ缶を2つ、ほいと渡す。受け取ったドリンク缶は何故か人肌レベルで(ぬる)く、振ると缶の内側に白玉が当たる感覚が手に伝わってきた。夏にも冬にも要らない子扱いされそうな、微妙なおしるこ缶を彩る赤いパッケージには『オイシイよ!』という文字がデカデカと強調されている。

 

 ……絶対微妙で売れなかったパターンのヤツだこれ。

 

 私が受け取った缶をくるくる回して渋い顔をしていると、彼女は微笑を浮かべて口を開いた。

 

 

【──さ、行っておいで。()()()が待ってるよ】

 

 

 気付けば、遊歩道の先は公園の出口。

 彼女は【異界】のズレを弄って、現世への道を作ってくれたらしい。

 

「……礼は言わないわよ」

 

【言わなくたっていいさ。キミとボクは友達なんだから!】

 

 にっこり笑顔でそう言って、彼女はおしるこ缶を手に取りながら片手を上げる。

 

 お別れの時間だ。

 私も彼女に背を向ける。

 空の太陽はいつの間にか沈みかけ、瞑色のマジックアワーが白む月と一番星を引き立たせるべく、雲のドレスを縫っていた。私はチカチカ瞬くガス灯に別れを告げて、1歩、公園の外に踏み出す。

 

【──あ、そうそう言い忘れてたー!】

 

 振り向く。

 手を振る彼女はベンチに座って、おしるこ缶を煽りながらこちらを見ていた。

 

 

【おめでとう!()()()()()()()()()()()()()!】

 

 

 ……

 …………

 ………………はぁ〜〜〜っっッッッ……!!!

 あんにゃろう、人が1番気にしてる事を……!!

 

 満面の笑みを浮かべて大きく手を振る【クソポニテ】。こめかみにピキリと青筋が浮かんだ私は、拳を握りしめて前を向く。

 

 綺麗に私の地雷を踏み抜きやがったあの【バカアホ赤髪クソポニテ】にもう用は無い。振り向く私は中指をおっ立てて、踵を返してブチギレた。

 

 ──やっぱり【あの野郎】、大っ嫌いだ!!

 





・遠芽ワタル
 ヒトの道をフラフラ歩く主人公。
 神秘の性質を弄って、自分や物を強化、操作できる。
 非日常よりは日常を、普通で楽しい学生生活を望んでいる、普通ではないキヴォトスの女子高生。

・《炸裂弾/メテオラ》
 文字通り、炸裂する神秘。性質は《発散》。
 『爆発属性』とも言い、衝撃を与えたり、受けたりするとその場で爆発する。

 派手で何かと応用が効き、扱いやすさはトップクラス。スリッパがめちゃ強スタンバトンに早変わりするので、ワタルは好んで愛用している。

・【ごろごろさま】
 硬貨を使って物を探す、ダウジングのような降霊術。
 コックリさんと原理は同じ。憑かせているモノが違うだけ。ワタルは彼に敬意を込めて、いつもなけなしの500円玉を捧げている。

 そのせいか、彼女は儀式手順の大半をすっ飛ばして彼に頼み事が出来るようだ。

・【異界】
 【変なの】が住む場所。もしくは領域。
 キヴォトス各地の至る所に点在している。
 普通は見えない。触れられない。
 一部の人間は平然と知覚し、出入りしてるけれども。

・【????→陰険赤髪クソポニテ】
 荒らし、嫌がらせ、混乱の元。出会う度に制服が変わってる、はた迷惑な赤髪お化け。
 人を食ったような性格で遭遇者を振り回す。
 友達を自称する失礼な奴なので、出会った瞬間殴りましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。