隔日、期日の間に合わせ。
ウララ視点でお送りします。
感想とかくれると、とても嬉しいです。
by パンちゃんドラム
休日、私はゲヘナ学園の屋上から、ぼーっとしながら青い空を見上げていた。
耳をすませばくぐもった銃声が遠くから響き、見上げた空にはかたつむりがへばっているような雲がゆるゆると流れている。
今日も今日とて、ゲヘナは平和だね。
……さて、なぜ私が休日にも関わらず学校に居るのかと言えば、万魔殿に用事があったため。マコっちゃんに先日行った、目の前でイブキちゃんにお土産を渡して、マコっちゃんに歯軋りをさせよう作戦の報復を受けに来たからだ。
この手の嫌がらせは軽いうちに受けておかないと、ムキになったマコっちゃんによって面倒くささの増した嫌がらせを受けることをヒナちゃんから学んでいる。
──そのため、つい先ほどまで、マコっちゃんからイブキを独り占めされて羨ましかろう攻撃を食らっていた。
くっ…、過ごしている時間が長い分のアドバンテージをフルに活かしてくるとは思わなかった…。イブキちゃんにプリンをあーんするの、とっても羨ましい……!
そんなこんなで、私のテンションは現在進行形で下降気味である。
「あ〜、鬱〜。イブキちゃん取られちゃった〜……」
なお、上記の発言は微塵もそうとは取られないような声音で呟いたので、この発言を誰かが聞いたとしても本気で心配することは無い。弱味対策もバッチリである。
……しかし、暇ね。今日の予定はこれだけだったし、アパートに帰っても、趣味の銃弄りくらいしかやることが無い……。どうしよ……。
休日が故に人の居ない校舎の屋上を通り越し、私の頭上を流れていく雲を、何気なく眺めていた。
流れる雲を目で追いかけ、一際大きな爆発音の後、視界の端に黒煙が複数立ち昇る。
……その時、私は暇を潰しながらメンタルも回復できる妙案を思い付いた。
──そうだ、ワタルちゃんと遊ぼう!
風紀委員会が到着したのであろう場所から聞こえてくる喧騒と轟音を聞き流し、私は早速ワタルちゃんへ、お誘いのメッセージを送ったのだった。
……なお、誰かを遊びに誘うのは久しぶりなので、どこに行くのかはさっぱり決めてなかった事は、ワタルちゃんに内緒である。
確して、無事にワタルちゃんと遊べる事になったんだけど……。
「ちょっと!試射で初手重量級は聞いてないんですけど?!」
「お前さん、お嬢に気に入られたんだろ?弾代は気にしなくて良いからな!」
「だからって、初手からマシンガンを試させようとするのおかしくないですかぁ!?」
現在、ワタルちゃんは火力至上主義なアーリヒカイットの店主、ケンさんの悪癖に付き合わされてる最中なんだよね。
とりあえずでバイト先に連れてきたの、もしかして裏目っちゃったかな?
「ひぃーっ!?腕が、腕が千切れるうぅぅぅ!!!」
「大丈夫だぜ!人間そんなにヤワじゃねぇからよ!」
「慰めにもならねぇわよチクショーッッッ!!」
あ、結構余裕ありそうだし大丈夫かもしれない。
私はホッと胸を撫で下ろす。どうやらワタルちゃんは、アーリヒカイットの洗礼に耐えられる身体の持ち主なようだ。
「うわーッ!?ヘルプっ、ヘルプゥゥゥ!!」
「ガッハッハッ!そう言いながらも的にちゃんと当ててんじゃねぇか!やるなぁ!!」
「ヘルプっつってんでしょうがぁぁぁ!?!?」
いやー、私も最初びっくりしたよ。ケンさん、お試し感覚でマシンガンとかロケットランチャー持って来るんだもん。でも、最終的にはその人に合った銃を持って来てくれるから、常連さん達からの信頼は厚いんだ。看板に掲げた【
私はそんなことを考えながら、銃を必死に撃つ彼女へこっそりエールを送る。
「───っ!─────……っ!!」
マシンガンの反動で涙目になっているワタルちゃんがこっちを向いた。
とりあえず、ワタルちゃんへ向けてひらひらと手を振ってみる。
裏切り者──!!と言いたげな彼女の視線を受けた気がした。私はそんな彼女に背を向けて、バックヤードへ向かっていく。
さーて、ワタルちゃんが気に入りそうな銃、あるといいな〜。
◇
──アーリヒカイットの裏手に設けられた砂地の演習場、そこで私は今、最後の試射をしようとしていた。
渡された銃はトーラス・レイジングブル、.500 S&W弾が装填されたハンドガン……、否、ハンドキャノンである。
最後まで火力たっぷりだね、笑い事じゃないんだが?
……そんなやさぐれた心情のためか、ヒクつく頬を理性で無理やり抑えつつ、私は木製の的へ向き合った。
両手でしっかりと銃を構える。──姿勢、良し。
試射のために付けたゴーグル越しの視界がクリアになっていく。──照準、良し。
心臓の音がわかるくらいの緊張が、私の身体を支配する。──心持ち、良し。
全身の筋肉と骨が体勢を整え、私と銃を固定する。──準備、良し。
───世界から、音が消える。
標的を捉えた。
引き金を押し込む。
──次の瞬間、銃声と共に、私の全身から緊張がごっそり抜け落ちた。
衝撃が全身に襲いかかる。
発砲した衝撃でレイジング・ブルの銃口が上を向く。
「ちょっ……──!?」
銃口が上に逸れた結果、私の姿勢は完全に崩れ、レイジングブルの反動に耐えることが出来なかった。
「ぬわーっ!?!?」
そして、射撃訓練用の的が木っ端微塵に砕け散ると同時に、発砲した私はコロコロと後方へ転げてしまった。レイジングブル、反動ヤバすぎ……。
「あ〜、やっぱりか。嬢ちゃんの体格だと、反動で身体が持ってかれるっぽいな……。もうちょい鍛えてりゃある程度制御は出来るんだが……」
「だね〜」
ケンさんが残念そうに呟く。
それに追随するように、ウラちゃんが頷いた。
あの、2人して分かってたなら撃たせないで欲しかったんですけど。
土埃に塗れた私が2人に恨みがましい視線を向けると、2人は別方向にそっぽを向く。仲良いなアンタら。
射撃用のゴーグルを外し、グッタリと俯いた私から魂が抜けていくように感じた。
試写場のテラス席からウラちゃんが、冷えた麦茶の入ったグラスとハンドタオルを持ってくる。
「はいワタルちゃん、お疲れ様」
「ありがと…………」
ウラちゃんが持ってきた、冷えた麦茶を一気に煽った。銃を撃ち続け火照った私の身体を、喉を通った麦茶の冷たさが、徐々に沈めていってくれる。
麦茶おいしい。
……さて、身体がクールダウンしていくと同時に、頭の中から納得いかない自分が顔を出し始めた。
ただのショッピングだと思えば、連れてこられたのはガンショップ。
別にいい、これは良いのだ。最近中学時代から使い始めた銃が、成長していく身体と合わなくなってきたから新調しようかなって最近思ってたしね。
だから試射が出来ると聞いた時は、喜んでやらせてもらおうとしたのだ。
──だからといって、初手7.62mmマシンガンはおかしくない?
続く銃達も対戦車ライフル、ロケットランチャー、ハンドキャノンである。
普通の銃もあったけどさ……、全部火力に全振りされてたの、気でも狂ってるのかと思ったよ。
で、これらを撃ち続けた結果。
「ワタルちゃん、大丈夫?せっかくだし、店側でクリーニング代持つよ?」
「だいじょぶ……」
腕がじんじんと熱を持ち、綺麗だった私服は砂埃に塗れてドロドロになってしまった。彼女の心配を手で振って、私は受け取ったタオルを使い、服についた砂埃をほろい落としていく。
あとついでに、さっきから身体の調子が変な気がするけど……いや、これはいつもの事か。
「まあ、しょうがないわよ…。銃の試射させてほしいって言ったのは私だし」
銃を撃つだけでここまで酷い有様になるのは私の体質のせいだし。
「──ふぅ〜」
「?」
2枚目のタオルに顔を埋めて、ため息をつきながら立ち上がった。
そんな私を、ウラちゃんは不思議そうに覗き込んでくる。気にせず私はハンドタオルで汗を拭き、彼女へタオルを返そうとした。
「ん?」
彼女のヘイローに描かれた眼と私の目がバッチリ合ってしまった。ピンク色のそれが、じぃっと、私を見つめてくる。
──あーもう、調子狂うなぁ!?
「あ、ワタルちゃん。元気になった?」
「──……あー、うん。お陰様でね」
ウラちゃんの言葉に追随するように、ヘイローの眼がそれでええんか、的な視線を送ってきている。
余計なお世話じゃい。
私はわしわしと汗に濡れた髪をタオルで乱暴に乾かした。
ヘイローが表情豊かとはこれ如何に。
私は髪を乾かしながら、世界の真理の一端を覗き込んでしまったような気分を味わう。
しかし、悶々とした私の心情を知る由もない目の前の彼女は、パタパタと羽を動かし、私に風を送ってくるのだった。
◆
「──さて、お前さんに色々試してもらった訳だが」
射撃場から店内に戻り、一息ついた後。
タオルを手早く洗濯機に放り込んだ私は、ワタルちゃんがサングラスを掛け直し、服装を正す様子を見ていた。
ケンさんが話しかける。
「……火力が高い銃は向いてないな」
「でしょうねぇ!」
ケンさんの発言に対して、思いっきり噛み付くワタルちゃん。がるるるる……!!と彼へ威嚇する彼女をどうどうと宥める。
先ほどワタルちゃんにタオルを渡した時も、道端で偶然潰れた毛虫を見つけてしまったような表情をしていたので、彼女は相当ご立腹のようだ。
そう思いながらワタルちゃんの頭を撫でていると、私の左脛を目掛けて彼女が蹴りを入れてきた。
無論、左足を後ろに引いて回避する。
ワタルちゃんの怒りの矛先が私へ向いた。
──そんな私達のじゃれあいに気も止めず、ケンさんは続ける。
「しかし、腕は良い。視線の向け方、集中力、反動にやられても即座に受け身を取る対応力。教本通りに銃を扱える優等生、って感じだな」
ケンさんの評価を聞いて、私にじりじりと詰め寄っていたワタルちゃんが虚を付かれた表情を浮かべる。ただただ面白がって火力に特化した銃を撃たせていた訳じゃない、という事に気が付いたようだ。
「おまけにだが、どんな銃を使わせても必ず的には命中してやがる。身体が追い付いていないだけで、射線を合わせるのはそうとう上手いとみた」
彼女の動きが分かりやすく固まった。思考がフリーズしているのか、口がパクパクと上下に開閉している。
「ま、反動の小さい銃でなら百発百中って言っても良いだろうな」
そう言葉を締めくくったケンさんがワタルちゃんを見た。
「──……あ、ありがとうございます」
そんなワタルちゃんはというと、あまり褒められ慣れていないのか顔を赤くして照れている。私より低い身長の彼女の背丈が、さらにひと回りほど縮んだような気がした。
そんなワタルちゃんを見て、うんうん、と私は頷く。
「……だが、ちょっと荒い部分もあるな」
ケンさんからの唐突なダメ出し。
ワタルちゃんはずっこけた。
いい反応だね、連れてきた甲斐があったあった。
「まずは気の向け方だ。弾を当てようとして、視野そのものが極端に狭くなっている」
そんなワタルちゃんに対して、ケンさんはアドバイスをする様に彼女の問題点を挙げていく。
確かに、彼女の試射を手伝っていた際、次の銃を取り替えようとするまでこちらの様子に気付いていなかったように感じた。四方八方から弾が飛んでくるかもしれない銃撃戦にとって、その気質は致命的かもしれない。
ワタルちゃんはこれを聞いて、確かにそうだと言いたげに頷く。
「あと、普段はどうかは知らんが、脚を前に踏み出しかける癖があるな。どんな銃を使っていても、それが起きるってことは多分だが……、身体に染みついている癖じゃないか?」
ワタルちゃんが足を見た。思い当たる節があるみたい。無意識の癖って怖いよね……、私もケンさんに自分の癖を指摘されるまで気づかなかったくらいだ。
「……なんで、そこまで?」
明らかにドン引きしたような表情をケンさんへ向けるワタルちゃん。多分だけど、内心で『えっ、撃ち方を見ただけでそこまでわかるものなの…??』って思ってそうだ。
そんな惚けた顔をした彼女に対して、ケンさんは表情1つ変えずに言いきる。
「ま、沢山見てきたからな。銃が欲しいやつに1番合う銃を買わせたいって、俺はこの商売してて思うんだよ」
ケンさんの誠実さに溢れた言葉を聞いて、ワタルちゃんは何かを考え込むような素振りを見せた。
「──とはいえ、久しぶりに見たぜ。あそこまで銃に嫌われてる奴はよ」
「嫌われてる……、ですか?」
ケンさんの言葉に対して、考え込んでいたワタルちゃんが反応する。彼女の疑問に対して、ケンさんは深く頷いた。
「……そうだ、偶に居るんだ。銃が上手く撃てない奴がな。大抵、そういう問題を抱えている奴らは、集弾性が低い、身の丈に合わない銃を使ってるっていうのを改善してやれば解決するんだが……」
そこで一旦言葉を区切るケンさん。私に視線を送ってきたので、説明してやれという事らしい。
「それでも改善が見込めない子が居る。その現象を、『銃に嫌われている』って私達は呼んでいるのよ」
そう私が続けると、ワタルちゃんはどこか納得したような表情を浮かべた。
『銃に嫌われている』──そう呼称されている現象は、私からケンさんに伝えたものだったりする。
私は小さな頃から、物に触れるとなんとなくだが、その物がどういう状態にあるのか、感覚的に分かった。それは何を望み、何を覚え……どう扱われたがっているのか。トリミング作業のようなもので、その子がどんな姿になりたいか?という情報が、なんとなーく私には分かる。
そして、私はその感覚を技術にまで昇華したのです。
結構頑張った自信あるよ!
そんな中、私が見つけた銃の1つが正しくそんな感じだった。ヴァルキューレの警官の持ち物だったので、おいそれと調整する事ができなかったのが悔しい所。
ちょっと前、彼女と一緒に不良を鎮圧した際は……
「当たってください!」
カンッ!!
「あ痛ーっ!?」
「あっ、も、申し訳ありません!!」
といったような、敵に放った銃弾が私や通行人に向かって飛んでいく事態が頻発した。
彼女からは鎮圧後に平謝りされたっけ……。
銃にはなにも異常が見られなかったので、彼女に問題があるのだろう……と思う。本人は真面目に職務を遂行しているだけに、銃を扱う時だけその有様なのがちょっと見てられなかった。
あー!あの子の銃、せめて手に馴染むようにしてあげたかったなー!!
──それはさておき、こういった事象をそのまま説明すれば、お客様が悪い!と面と向かって言うようなもの。なので、めちゃくちゃぼかして『銃に嫌われている』と呼称していると言うわけだね。
一応ケンさんにはこの事を伝えた。彼もすごーく複雑な表情をした上で納得してくれたのだが、この事を説明する時は大抵私にお鉢が回ってくる。私が見つけたものだし、当然だね。
さて、私の説明をある程度聞いたワタルちゃんはどんな反応を返してくるか。私は彼女の答えを待っていた。
◇
彼女の……ウラちゃんの説明に、私はいくつかの心当たりがあった。
私の愛銃、アサルトライフルの『
オモチャのように鳴る、発射前の待機音。
他の先輩達がさらに付け加えた機能によって、ゴツくなってしまった銃床部分。
兄さんが私の為だけに、こっそり用意してくれたサプライズ。
私は、長年連れ添ってきた相棒たる銃に目を向けた。
『──ワタルのそれは認識の問題でもあるからな。1つ手間を挟めば解決できる』
『要は認識のONとOFFだ。神秘が上手く流れないのなら、回路を切り替えるためのスイッチを作ればいい』
兄さんの言葉が頭を過ぎる。
あの時、どういう意味でそれを言ったのかが分からなかったが……、今、ウラちゃんの説明を聞いてようやく理解できた気がした。
そして、銃に嫌われていたとしても撃てるような工夫を施していたという、兄さんなりの気遣いも。
……また、知らない所でお世話になっちゃったか。
兄さんが残した足跡が、私を助け続けている。その事実に、私はなんだか苦笑してしまった。
「……??」
ウラちゃんが不思議そうに私を見ている。
兄さんがこの場に居ないことに、少しだけ寂しさを覚えたけれど……私は頭を切り替えた。
「あ〜、あれかぁ……。銃を撃った後、なんか身体から力が抜けちゃうのよね」
最後に撃った時の所感を彼女達へ伝える。
普段であれば、姿勢制御とかである程度誤魔化しが効くのだが、今日はやたらと調子が悪い。
また不幸ラッシュが始まったか?と勘繰ってしまう。
「そうそう、それだね。銃を起点に倒れてったから、銃に反発されてるか。──もしくは銃が力とかを吸収してるかって感じに見えたかな〜」
私の話を聞いたウラちゃんは、ゆっくり頷いてから人差し指を立てて同意してくれた。
……凄い、私が体験した事を言い当ててる。
銃を撃った時、私は中からごっそり力を持ってかれたような感覚に陥ったのだ。何回も試射したとはいえ、そこまで分かるものでは無いはず……。
「じゃあ、普通の銃……サブマシンガンとかを撃った時はどうだったの?」
内心で、ウラちゃんの分析力に舌を巻きながら……私はさらに踏み込んだ質問をした。
「あ、そっちは比較的姿勢が安定してたね。反動で身体が持ってかれかけてたけど、力自体はそこまで抜けてなかったかな?」
……大当たりである。普段使いしているアサルトライフルはもちろんの事、ちょっと反動が強いだけならサブマシンガンをある程度撃てるのだ。
私は改めて、目の前の2人が確かな腕を持っている事を思い知らされた。
「それにしても、結構色々聞いてくるね?」
多く質問をした事で、ウラちゃんが何かに勘づいた様子を見せる。期待するような表情を向けた彼女に対して頷き、私はケンさんへと向き直った。
「……ウラちゃんの言う通り、私は反動が大きい銃を撃つのは苦手で、今のアサルトライフルでもいっぱいいっぱいです」
ケンさんは目を閉じて、私の言葉を聞き続けている。
「──でも、試射させてもらった銃を撃った時。的が吹き飛んでいくあの感覚は、私が今まで生きてきた中では味わえなかった……爽快感がありました」
思い出す。マシンガンの反動を、全身を使って制御して的に全弾命中させた達成感を。
思い出す。弾道計算をしっかり行った上で放ち、バックブラストに耐えられなかったロケットランチャーを。
思い出す。射撃姿勢に悪戦苦闘しながらも、分厚い金属の的のど真ん中を撃ち抜けた対戦車ライフルの爽快感を。
……思い出す。コッキング、排莢のスムーズさ。煤の付着が見受けられない──よく手入れされた銃の数々を。
「──オーダーメイドで、私の新しい銃の作成をお願いしたいです」
ウラちゃんのヘイローの目が見開かれる。
ケンさんが目を開き、口の端を釣り上げた。
「──しかしお客さん、オーダーメイドって言われても……どんな機能を求めているかが分からなきゃ、俺たちはいいモノを作れないぜ?」
挑発するようにケンさんが私に告げてくる。
オーダーメイドだから、要望を言ってみろ。彼はそう言っているのだ。
私はその言葉を聞いた上で逡巡する。
今必要な機能は何か?
私が扱いやすいものは何か?
そして──心から欲しいと思えるものは。
……オーダーは決まった。
「……私でも扱える程の反動で、なおかつ爽快感のある、火力が高い銃が欲しいです」
我ながら、大分アバウトな注文である。
反動までなら、何とか出来る腕のガンスミスは沢山いるだろう。しかし、私はそれ以上に火力を付け加えた。
だって、楽しかったから。
今まで知らなかった。銃を撃つだけで吹っ飛んでいく的を見るだけで、あんなに心が晴れ晴れする感覚が。
今まで知らなかった。制御出来ない反動を何とかして扱う、姿勢制御の工夫の楽しさが。
今まで知らなかった。たった1度、引き金を引けば、ただそれだけで……敵を倒せるその火力を。
やっぱり食わず嫌いってダメだね。今日はそれを再確認できた。
そう思った私は、普通の人ならある訳が無いと一蹴されそうな、無茶なオーダーをケンさん、ウラちゃんに依頼する。
──銃を丁寧に扱う腕利きな彼らだからこそ、できる依頼だと信じているから。
「出来ますか?」
沼に沈めてくれた恩人達へ、挑発的に聞いてみる。
「──応よ、任せときな」
ケンさんが白く輝く犬歯を見せつけ、不敵に笑った。
・遠芽ワタル
実は兄が居た。
彼女の良心は兄譲り。
彼女の言動の節々に、兄から影響を受けた部分を垣間見ることが出来る。
なお、兄の知識が信用に値するかと言われると……。
・羽生ウララ
なぜか物体の声を朧気に聞き取れる、ガンスミス系一般美少女。銃に嫌われている云々は、彼女自身が見た時の感覚をどうにかこうにかこねくり回した結果の発言。
なお、物体の声を聞き取れる感覚の事を、彼女は技術の延長線にあるものだと勘違いしている。常人は、頑張っただけでその感覚に到れるわけが無いのだ。
・ケンさん
ガンショップ『アーリヒカイット』の店長さん。犬族。黒と焦げ茶の小さな身体の中に、鍛え上げられた肉体が詰まっているコーギー犬。銃にうるさく、火力至上主義を拗らせた結果、チェーン店のガンショップを辞めて自分の店を開くに至った。
なお、店の評判はそこそこ。D.U.自治区に住む火力至上主義の人々に、足を運ばれるくらいには繁盛している。