ワタルとウララ   作:パンちゃんドラム

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 四捨五入して1.4万文字です。
 切るに切れなかったのでドバっと行きました。
 オリ設定マシマシで、どうぞお楽しみください。
 


汝、ネコと和解せよ。

 

 

 ──猫が、見ている。ガラス張りの向こうから、猫が私をジッ……と見ている。

 

 猫はうんともすんとも言わないが、私は何故だかその猫から目が離せなくなっていた。

 

 

 

 時は少し前に遡る。

 毎月行われる定期検診を終えた私は、意気揚々と帰り道を歩いていた。今日は平日なのだが、病院に行くという事で、授業の受講を午前のみに調整してある。つまり、今日は実質半休なのだ! 

 

「ん〜、帰ったら何しよっかな……。読書もアリだし、溜まってる積みゲーの消化も捨て難いわね」 

 

 学生にとって、降って湧いた休日は望外の幸運と言い替えてもいい。それはもちろん私も同じで、帰ったらどの趣味に没頭するか、と道を歩きながら考えていく。 

 

「────……うん?」

 

 ……しかし、私はいつの間にか、帰り道とは全く異なる知らない通りへと出てしまっていた。いつも通っているクルミ通りより、少し奥まった場所に来てしまったらしい。

 

 建物と建物の間には影が差し、ガス灯のガラスは曇りが目立つ。なんだか風景全体に物悲しさというか、寂れたような印象を私は抱いた。 

 

「参ったな……、こういう時に限ってメガネ持ってきてないのよねぇ」

 

 ……やっぱり、行きつけの病院などの近場に行くとしても、メガネ類はちゃんと用意しておいた方が良いようだ。私は自身の迂闊さに頭をかく。

 

 いや、私が考え事で周りを見る事を疎かにしてたのが悪いんだけどね?

 

 ……幸いというかなんというか。普通に電波が繋がるので、スマホのマップを使えば寮へ戻れそうではある。

 

 そう考えた私はスマホを取り出そうとして、肩から下げたカバンに目を向けた。

 

 

 じー……

 

 

 そしてその際、店のショーウィンドウ越しから覗く黄色の瞳と、私の両目が合ってしまったのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ──さて、困った。ちょっと目の前の猫が可愛すぎて目が離せない。紺色の毛並みに、トゥーン調とも言えるくらいに長い胴体、ちんまりとした肉球がデフォルメされ、白い手袋を着けたような毛並みの猫が、ガラスの中でぐでっ……と座っている。

 

 動かない事を見るに、多分ぬいぐるみとかなのだろうか?ぽけーっとした顔をした猫の表情に、私は無性に惹かれていた。 

 

「むむむ……」

 

 ショーウィンドウの前にしゃがみこむ。

 少し場所を移動してみると、猫の長い胴体が緩やかな弧を描いてしなっており、その姿が『伸び』をしているかのように見える。

 ショーウィンドウのレイアウトを考案したスタッフは、この猫の魅せ方をよく分かっているのだろう。 

 

「──うーん、良い……」 

 

 どうしよう、ちょっと気になる。

 

 思い立ったが吉日、私はつい先程まで考えていた午後のプランを捨て去り、目の前の店に飛び込む事にした。

 

 

 

 店内に入ると、お砂糖のような甘いにおいが私の鼻を刺激する。日が高くても薄暗かった外とは違い、店内にはポップなBGMが流れ、パステルカラーに彩られた商品達が所狭しと並べられていた。私が入店して来た事に気が付いた店員さんが、いらっしゃいませー!と元気に挨拶をする。

 

 どうやらここはファンシーショップだったらしい。平日だからか人は少なく、陽気にかかるBGMが、店内の人気のなさを殊更際立たせている気がした。 

 

「ほわぁ、カラフルすぎて目が回りそう……」 

 

 店内を見回し、少し歩く。

 ざっと見ただけでも、可愛らしい携帯デコ用のパーツや、パステルカラーのスライムのようなキャラクターのチャームなどがあった。

 その手のものを何一つとして触れてこなかった私はあまり興味を惹かれなかったが、イマドキ女子には人気なのだろう。

 

 それらの商品を横目に流し、私は目当ての猫を探した。

 

 うーん、目星を付けられそうな手掛かりが無いから時間かかりそうだなぁ……。

 

「おーい、猫〜。猫やーい、どこー?」

 

 猫へ向けて呼びかけながら、私は棚を漁っていく。

 

 

 かれこれ5分くらい探し回っただろうか?

 例の猫を探して不審者と化した私は、目的のその子をなかなか見つけられず、店の中で途方に暮れていた。

 

「猫……見つからぬ……」

 

 だって、店内を一回りしてもそれっぽい猫が居ないのだ。背の高い棚や、足元近くの棚の列まで隅々見たけど見つからない。

 もしやあれはショーウィンドウ限定の、客寄せ猫だったのだろうか。店員さんに聞こうにも、彼女はゲームのショップNPCのように笑顔を浮かべてその場から微動だにしない。

 

 ……不本意ながらも仕方ないので、棚をひとつひずつ確認していこう。そう考えて、ズレてきた帽子のつばを直して歩き始める。

 

「───あの〜、すみません。何かお探しでしょうか?」

 

「んぇ?」

 

 突如として、後方から声をかけられた。

 慌てて振り向くと、亜麻色の髪をリボンで2つに分けた、トリニティのセーラー服を着た少女が立っている。彼女の頭上には淡い黄色に輝く、外円に翼が生えたヘイローが存在していた。

 

 ……店員が後方にワープしてきたのかと思ったけど、どうやら違うらしい。

 

「……えっ、と。どちら様でしょうか……?」

 

 いきなり話しかけられた私は、彼女に警戒しながら向き直る。メガネをかけていないので念の為。

 

 というか、あからさまに変な場所であるここへ、一般生徒が来れるはずが無い。彼女の場合、意図して来たか、もしくは巻き込まれたかだと思うのだ。

 

 そして厄介な事に、そういう輩は大抵余計な事を仕出かす。警戒するに越したことはない。帽子のつばをぎゅっと抑えて、目元を隠して顔バレをケアしに行く。リベンジなんちゃらとか怖いしね。

 

 そんな私の警戒心を剥き出しな対応を見た彼女は、アワアワとした様子で弁解しだした。

 

「あっ、ごめんなさい!私、阿慈谷ヒフミっていいます!何か困ってそうだったので、つい話しかけちゃったんです……」

 

「あっ……、あぁ……そういう事だったんですね。身構えちゃってごめんなさい」

 

 ……なぁんだ、ただの一般生徒か。

 心配して損した。

 

 私は目深に被った帽子のつばを上げ、彼女に対する警戒を解く。

 

 どうやら、私が普通に困っていたので手助けしようとしてくれていたらしい。私の早とちりだったようだ。

 

「あっ、いいんですいいんです!私もいつもの癖で、つい話しかけちゃって。あはは……」

 

「あー……いえ、私もだいぶ変な風に探し物してたので。お互い様ですね……」

 

 気まずそうにする彼女を見て、私も先程までの猫探しの様子を思い出す。

 

 思い返せばだいぶ変な探し方していた。ショーウィンドウに飾られてるのは人形だから、呼んでも来るはずがない。とは言え、店の中にあの猫が居る気がしていたから呼んでいただけなのだが。

 

 せめて商品名でもネットで調べれば良かったかな?

 名前を呼んだら来てくれそうな気がするし。

 

 とりあえず、私は目の前の彼女……ヒフミさんへ猫について、心当たりが無いか聞いてみることにした。

 

「えーと。実は今、猫を探してまして」

 

「猫、ですか?あの……お魚が好きな?」

 

 私の探し物を聞いて、頭に『?』を浮かべたヒフミさんは、質問に対して首を傾げる。条件が曖昧すぎて分かりにくいと思った私は、さらに外見の特徴を付け加えた。

 

「──ええっと、生き物じゃなくてぬいぐるみなんです。確か、紺色と白の毛並みで黄色い目、トゥーン調の身体が長い猫なんですけど……」

 

 私の説明を聞いて、ヒフミさんが合点がいったとばかりに手をポンと叩く。猫の正体に思い至ったのか、ヒフミさんの目が嬉しそうに輝いた。

 

 

「……あぁ!『ウェーブキャット』さんを探していたんですね!」 

 

 

 ヒフミさんが、あの可愛らしい猫の名前を教えてくれた。あの猫はどうやら『ウェーブキャットさん』というらしい。

 

 ウェーブ、という事はうにょうにょ身体が動くのだろうか?私の頭に浮かんだイメージが妙にシュールで、思わずクスリと笑ってしまう。

 

 そんな中、うきうきとした表情を浮かべたヒフミさんの顔が、勢いよくこちらを向いた。

 

「モモフレンズの商品棚にあると思うので、案内しますね!」

 

「──あ、ありがとうございます」 

 

 彼女の元気な宣言に、私は若干気圧される。目が輝く、といった表現は、正しく目の前の彼女の様子を言い表すのにピッタリだろう。

 

「こっちです!」

 

「はーい」

 

 目的の猫がある場所までの案内を自ら引き受けたヒフミさんは、棚の間をスキップでも踏み出しそうな様子で進んでいった。すごく楽しそうだ。心なしか、彼女の背中に背負われている白い鳥のリュックサックも嬉しそうに弾んで見える。

 

 歩幅の違う彼女の後を追い、私はぱたぱた歩き出した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 前言撤回。

 あの鳥、めっちゃ苦しそうな見た目してた。

 

 現在、私は案内された商品棚にデン、と座る、ヒフミさんが教えてくれた『ペロロ様』というキャラクターを見てドン引きしている。

 

 身体は白くてまんまるで、黒と黄色のアホ毛なトサカ。焦点の合わない目で虚空を見つめ、クチバシの先からベロを垂らすその鳥は、控えめに言って気持ち悪い。首を思いっきり絞めてようやく、体と顔の表情が一致しそうなくらい、そのキャラクターからは正気を感じられなかった。

 

 これはアレだ。ゲテモノの類いだ。

 私の好みには合致しないタイプ。

 

 いや……まぁ……、フォルムから愛嬌は感じられるんだけどさぁ……。

 

 しかし、ヒフミさんは目を輝かせている。

 きっと彼女はペロロ様が好きなんだろう。

 私はキモかわ系の鳥を視界から外し、モモフレンズの棚を見渡した。

 

 ここは、店の最も西に位置する商品棚。さっきまでは無かったはずの、ポップアップで飾られた大きな商品スペースである。ウキウキした様子のヒフミさんに連れてこられたこの場所は、白くまん丸な身体の『ペロロ様』や、黒いボディに骸骨の面を付けたような可愛らしいキャラクター達がぎゅうぎゅうに詰められており、棚の中で雪崩が起きそうな程のモモフレンズアイテムで埋め尽くされていた。

 

 総数、ざっと見ただけで100以上。

 とんでもない数である。私は天井近くまで積み上がったグッズの多さに圧倒された。

 

「多い……」

 

「そうですよね……。今まで発売されてきたグッズ数、数百種類ですからね……」

 

 ファンシー山の頂きを見上げる私の隣で、ヒフミさんが補足する。グッズの多さで呆気に取られた私は、思わず口をぽっかり空けた。

 

「──ぐ、軍艦ペロロ様っ!?」

 

 そんな私を余所にして、ヒフミさんが山に飛び付く。

 

「……ま、間違いありません!本物です!やりました!!」

 

 そして山の前で、手のひらサイズの人形を手にしたヒフミさんが小躍りし出した。何がなにやら理解できず、私はこっそり彼女から離れる。

 

 ほら、その……。邪魔しちゃ悪いよねって。

 

 彼女の喜びを邪魔しないよう、私は静かに商品棚を見回した。

 

 

 

 ────そうして、程なくして。

 私は看板猫を発見する。

 

 モモフレンズの大きな展示棚、その一角に『ウェーブキャットさん』が狭苦しそうに身体を畳み、棚の中に収まっていた。愛くるしいぽけーっとした顔が、下を向いている事も相まって、どこか哀愁が漂う悲しげなものに見える。

 

 商品を置くスペースが限られているから仕方ないのだろうけど、肩身が狭そうな彼に、私はちょっとだけ同情した。

 

「あっ」

 

 ヒフミさんが声を上げる。何かあったか、とそちらを振り返ってみると、彼女は口元に手を当て、困ったように悩んでいた。

 

「──そういえば、名前。教えて貰ってませんでした……」

 

「……たしかに」

 

 そういえば私、自己紹介してなかった。

 恥ずかしや。アイサツは大事って、古事記にも書かれてたじゃん。

 

 コミュニケーションのいろはを忘れていた私は、ヒフミさんへと向き直る。

 

「遠芽ワタルって言います。苗字だと他人行儀っぽいので、名前で呼んでもらって大丈夫です」

 

「あっ、はい!ありがとうございます!ワタルちゃんって呼ばせていただきますねっ!」

 

「はい、よろしくお願いします。ヒフミさん」

 

 自己紹介すると同時に、私はヒフミさんにお辞儀した。歳上の雰囲気があったため『さん』付けで呼ばせてもらったが、特に悪くは思われてなさそうで安心する。

 

 ……よし、これでコミュニケーションはバッチリだね!

 

 これで彼女とはちゃんと話せた。

 ミッション完了と共に私は彼女から目を背け、ウェーブキャットさんの棚に視線を移す。

 

「──それじゃあ、改めまして。ワタルちゃんはモモフレンズの事をご存知ですか?」

 

 ……が、しかし!

 ヒフミさんはコミュ強族だった!

 彼女の突然の質問に、私の心がビクッと跳ねる。

 

「……えっと、モモフレンズってヒフミさんが言っていた?」

 

 恐る恐る尋ねると、彼女は大きく頷いた。

 そして、彼女はポケットからスマホを取り出し、画面をすいすい操作する。

 

 スマホカバーはペロロ様だった。

 

 しまった!?オタクだ!!

 布教ターンだ!!?

 リュックがペロロ様な時点で気付くべきだった!?

 

 内心で悲鳴を上げた私は長丁場を覚悟する。

 オタクの語りは長いからだ。

 私は目を遠くして、ちら、とウェーブキャットさんの棚を見る。

 ウェーブキャットさんはポケっとしていた。

 

「そうです!モモフレンズっていうのは、モモトークのアプリを運営している────」

 

 そうしてスマホを操作し終えたヒフミさんの、長い長い布教ターンが始まった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その店に惹かれたのは、偶然でした。

 学校からの帰り道。通学路からはだいぶ離れた、少し奥まった細道に建つ、ライムグリーンの簡素なお店。ショーウィンドウには何も置かれず、店内と窓を隔てるように青色のカーテンが掛けられています。一見すると、そのお店は既に営業を取り止めた後の、空き店舗のように見えました。

 

 だけど、何故かやっている。

 そんな気がして、私はそのお店に足を踏み入れたんです。

 

 

(こ、これって……『軍艦ペロロ』様じゃないですか!?)

 

 そうして、足を踏み入れた先で、ちょうど私が探していたレアなペロロ様グッズと巡り会う事が出来たんです!まさかのまさかでした!

 

 もしかしたら何軒もお店を回らなきゃ行けないと思っていたので、ここで出会うことが出来たのは望外の幸運です!

 

 私は神様に感謝しました!

 

 そして、目の前の女の子、ワタルちゃん。彼女も私と同じように、探し物をしていたんです。それもウェーブキャットさん!モモフレンズのキャラクターのウェーブキャットさんですよ!?こんな偶然ってあるんでしょうか?!

 

 しかも、ワタルちゃんは初めてウェーブキャットさんの姿を見たとの事です!

 それなら、私からウェーブキャットさんの事を教えてあげよう。そんな気分になりました!

 

 

「モモフレンズっていうのは、モモトークを運営している会社のイメージキャラクター達の事です。いろんな可愛い仲間達が日常を過ごす様子を写した、ほっこり系のアニメ作品ですね!」

 

「はぇ〜」

 

「モモフレンズはメディアミックスも盛んでして、様々な企業とのコラボ商品も発売されているんですよね。今回、私が見つけた『軍艦ペロロ』様もその1つです!ペロロ様のコラボグッズって結構多くて、集めるのが大変なんですよ……」

 

「ふんふん」

 

「あ、あと他にも、ピンキー・パカさんやアングリー・アデリーさん、スカルマンさんなどの魅力的なキャラクターが沢山居るんです!」

 

「ほぇ〜」

 

 ……あ、あれっ?!

 思っていたより反応が薄いです!?

 私はワタルちゃんの反応の薄さに困惑しました。

 

 ……というか、そもそも。ワタルちゃんはウェーブキャットさんに興味を持っていたんですよね。関係ない話ばかりだと、興味を持ってくれていたのに飽きるって聞いた事が……。

 

 あ、あうう……!

 つ、つい舞い上がってしまいました!

 急いでウェーブキャットさんの話をしなきゃ、せっかくモモフレンズに興味を持ってくれたワタルちゃんがそっぽ向いちゃいます……!

 

「……そして、そんな魅力溢れる仲間達の1人が、ウェーブキャットさんなんですよ!」

 

「おぉ……!」

 

 私がウェーブキャットさんの名前を急いで出すと、ワタルちゃんは興味津々と言った様子で身体を乗り出してきました。

 

 良かったです。興味を引くことが出来たみたいで……。

 

 私は内心で冷や汗を拭います。

 

 しかし、ワタルちゃんもお目が高いですね。

 ウェーブキャットさんは長い胴体を持つ猫のキャラクター。あのなんとも言えない表情と長い胴体、だっこー。というセリフから推し量る事の出来る甘えん坊さんな一面。モモフレンズ内でも屈指の人気を誇ると言っても過言ではない彼の魅力に、ワタルちゃんも撃ち抜かれたんでしょう。ファンが多い彼のグッズは供給量が多いので、是非ともワタルちゃんにはウェーブキャットさんの沼を体感して貰いたいですね!

 

「そしてこちらが、ウェーブキャットさんの公式まとめ動画なんですが……」

 

「見ます!!」

 

 その先駆けとして、私はワタルちゃんに公式サイトで毎週更新されているまとめ動画をお見せしました。

 

 動画を見た彼女の表情はくるくると変わっていきます。嬉しさ、楽しさの入り交じる彼女の表情は、推しに出会えた幸せに満ち溢れていました。

 

 この動画、『モモフレンズ傑作選』と題名が振られた動画は、簡単にキャラクター達の魅力を理解することが出来る素晴らしいもので、ワタルちゃんみたいな初見の方に見せるのにピッタリなんですよね。各キャラクター達の魅力を最大限に魅せられる、公式さんの上手い采配です。

 

 ウェーブキャットさんの活躍シーンで、ワタルちゃんは真剣な様子で画面を見つめ、ラストで視聴者に対して甘えにくるサービスシーンでは完全にメロメロな表情を浮かべていました。私もペロロ様にそれをされて同じ気持ちになったので、ワタルちゃんの気持ちがよく分かります。

 

「──良い!とっ……ても良い……!!」

 

 動画を見終わったワタルちゃんの目は眩しいほどに輝き、力強く拳を握って頷いていました。

 

 これは……!

 モモフレンズの布教、成功ですね!

 

 新しく沼に落ちたワタルちゃんを見て、なんだか私も嬉しくなっちゃいました。

 

「───そして、これがウェーブキャットさんのぬいぐるみ……!」

 

 あ、あれっ?

 様子がおかしいですね……??

 

 私はあどけない顔をしたワタルちゃんが見せた、あまり人にはお見せできなさそうな表情にギョッとします。ぐるんと勢いよく振り返ったワタルちゃんは、ヨダレを垂らしそうな勢いで、ぬいぐるみの棚に近づいて行きました。

 

 あの、これって……。

 ちょっと……、なんですけどね……?

 

「あはは……、お店の物なので汚しちゃダメですからね……?」

 

「もちろんです……、命に替えてもお守りします」

 

 ……な、なんだか思ってた以上にワタルちゃんを駄目な方向へ導いてしまった気がしました。

 あの様子だと、将来的に物凄く駄目なモモフレファンが生まれてしまいそうな気がします……。

 

 華奢な身体付きの、白いワンピースを着た小さな彼女の背中を見つめて、私は冷や汗を流します。

 

「ふ、ふへへへへ……。ウェーブキャットさ〜ん……!」

 

 ワタルちゃんからは、あまり目を離さない方が良さそうですね……。

 

 ワキワキと手を動かしながらぬいぐるみの棚に近づくその子の姿を見て、私はそう思いました。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 こ、これがウェーブキャットさん……!!

 ヒフミさんから見せてもらった動画を見て、彼のポテンシャルの高さに戦慄した。

 

 可愛い。可愛すぎる。あざといと言っていいかもしれないくらいだが、普段から個性豊かなキャラクター達の緩衝材を務めている彼が視聴者に向けて甘えてくるギャップ……。

 

 ……完敗だ。彼の魅力に心を完全に撃ち抜かれてしまった私は、完全にウェーブキャットさん推しとなってしまった。そして、私が横を見れば、そこに彼がしまい込まれている棚がある。

 

 彼を触りたくてうずうずしていた私は、ウェーブキャットさんを静かに棚から引っ張りだした。

 

「………長い!」 

 

 棚から出てきたウェーブキャットさんのぬいぐるみ。予想していたよりも彼の全長は長く、私の背中の中ほどまでありそうな胴体に、私はとても驚いた。

 

「おぉ……!!」

 

 次に手触り。ぬいぐるみ特有のもちもちとした低反発の弾力感に、さらさらと手の間を流れる毛並みの感触が素晴らしい。新品のぬいぐるみ特有のにおいが鼻に付くが、買った後すぐさま顔を埋めたくなってしまいそうになる。もうこの時点で100点満点の花丸をあげて良いだろう。

 

「………!!!」

 

 極めつけはこの顔だ。ぽけっとした、気の抜けた表情。彼は胴体の長さも相まって、抱き枕としても使えそうなのだが、朝起きた時に見ても食傷気味にならないこの丁度いい顔!作成した担当者の手腕は然ることながら、デザインに携わった全ての人へ私は感謝した。このなんとも言えない表情が、私の心を掻き乱す。素晴らしい……。

 

「……良いですよね、ウェーブキャットさん」

「うんうんうんうん」

 

 ヒフミさんの言葉に、私の頭が激しく上下する。

 買いたい、かわいい、めっちゃいい。

 

 すぐにでもお会計に移りたい私だったのだが、ここで1つ重要な事を思い出す。

 

 ……今月、いくら使ったっけ。

 

 頭に過ぎったその可能性を、ウェーブキャットさんを前にして認めたくはなかった。

 

 ……まさかまさか、と頭を振りながら、スマホを取り出し家計簿アプリを開く。そして、私は嫌な予感を拭いきれないまま、祈るように画面をスクロールした。

 

 ……アプリの中に羅列された数字達、その1番上に刻まれた『-¥420000(マイナス42万)』の文字が、私に無慈悲な現実を突き付けてくる。

 

 ──予算オーバーだ。

 

「しまった……!?衝動買いしたせいでしわ寄せが……!」

 

 ウェーブキャットさんを汚すまいと頭上にかかげたまま、私は床に崩れ落ちる。ウェーブキャットさんの手が、私を慰めるかのように、頭の上にポンと添えられた。

 

 彼の手の感触を感じながら、精神的ショックによって、私の意識は闇へ向かって落ちていく。

 

 ……またこれかぁ。

 最近は起こってなかったんだけどなぁ。

 

 ヒューズが切れたロボットのように、私は膝から崩れ落ちる。ヒフミさんと思わしき足音が慌ただしく響くと同時に、私の意識は強制シャットダウンと相成った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ──ドサッ!

 

 何かが崩れ落ちる音が聞こえました。

 なんだろう、と思ってそちらを見ると……。

 

「───………………」

 

 ワタルちゃんが倒れています。

 ウェーブキャットさんを頭上に掲げながら倒れる姿に一瞬身体が固まりますが、何か病気を患っていて倒れたのならば一大事です。

 

 私はすぐに彼女へ駆け寄り、保険の授業で習った通りに脈や呼吸を確かめようとしました。

 

 

 ────────………。

 

 

 無音。肌に吸い付く柔らかな肌の下からは、血管が跳ねるような感覚が感じ取れません。

 

 

 ───脈がありませんでした。

 

 

「だ、大丈夫ですかっ!?もしかして、救急車を呼んだ方が良いんでしょうか……!?」

 

 脈拍が消え、体温も低いワタルちゃんに、私は顔を青くしてしまいます。お店の人を呼ぼうにも、先程からずっと、店員さんの姿が見えないので今ここに居るのは私達だけ。

 

 呼吸だけは不規則に続く、白目を剥いたワタルちゃんへ、私は必死に呼びかけます。

 

「ワタルちゃん……!しっかりしてください…!ワタルちゃん……!!」

 

 青い顔で、必死になって。

 私は今までにないくらいの声で彼女の身体を揺さぶります。

 

 ですが、彼女からの返事はありません。

 意識を失った状態では、言葉を返す事も出来ませんから。

 

 狼狽した私は、震える指でスマホの画面をつけて、彼女の為に救急車を呼ぼうとしました。

 

 その時です。

 

 ───ピクリ、とワタルちゃんの腕が動きました。呼びかけが届いたのでしょうか、彼女はゆっくりと目を瞬かせ、深く呼吸を行います。

 

 ワタルちゃんのその様子を見た私は、少しだけ安心しました。安堵の息をつき、私はワタルちゃんへ声を掛けます。

 

「……ワタルちゃん!大丈夫でしたか!?」

 

 ……しかし、私の心配を余所に。

 薄ぼんやりとした様子のワタルちゃんは大きく息を吸い込んで、腕を振って勢いよく立ち上がります。

 

「──大丈夫です、予算オーバーでウェーブキャットさんを買えない事実にショックを受けてただけなので……」

 

 落ちた白いつば広帽子を拾って、ワタルちゃんが頭を抱え始めました。

 

「えっ、えぇ……」

 

 私は困惑の声を上げます。

 

 なんで失神して脈が止まっていたのに、平然と立ち上がっているのでしょうか?

 なんで、慣れた風に身体のチェックを済ませてるんでしょう??

 あと、失神理由がおかしくないですか???

 

 私の心の中で、絶えず疑問が湧き出てきます。

 そんな私の横で、ワタルちゃんは何事も無かったかのようにスマホと睨めっこを再開しました。

 

 さっきまで心配してた私の気持ちを返してほしいです。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 茫洋とした意識の底で、暗い私の意識が揺れる。

 私の意識に先はなく、ほどける感覚に神秘が揺蕩う。

 

 

 ────……ん!────て…………!

 

 

 ……声が聞こえる。水底の向こうから。

 …………微睡みたい。眠っていたい。

 

 

 けれど、水面は応えない。

 ちゃぷちゃぷと、揺れたまま。

 

 

「──ワタルちゃん……っ!!」

 

 

 ………今回も、駄目なんだ。

 

 …………ケチ。

 

 

 

 

 

 目を開く。

 いったい、何秒眠っていたんだろう。

 私は切り替わる視界の中で、木目の天井の年輪を数える。

 

「……ワタルちゃん!大丈夫でしたか!?」

 

 ──……あぁ、そっか。

 今はファンシーショップの中だっけ。

 

 認識に伴い、視界の色が切り替わった。

 

 立ち上がる。

 関節部、異常なし。

 神秘の巡り、異常なし。

 柔軟性に欠けはなし。

 ウェーブキャットさんはこの手の中に……っ!?!?

 

 くらり。立ちくらみが起きた。

 第三種接近遭遇(サードインパクト)がそこにある。

 

 高鳴る心臓を落ち着けて、私は平静を装った。

 

「心配かけてごめんなさい、あれ、私の体質的な物でして……」

 

「は、はぁ……」

 

 そんな体質あってたまるか、と言わんばかりのヒフミさんの視線が私を突き刺してくる。

 

 まぁ、はい。言い訳を言いたいわけではないのだが。私の身体はとある事情から不安定であり、今回の場合は『テンションが上がりすぎて失神を起こす』という症状が発生したのだ。

 

 兄さん曰く、オタクが限界化した時に失神してしまうという事象の極端なものがコレらしい。昔聞いた時はよく分からなかったが、今この瞬間から理解できるようになってしまった。複雑である。

 

 余談になるが、私の体質は他にも色々とヘンテコな症状があり、その手の症例に詳しいおじさんに毎月身体を診てもらっているのだ。

 

 ……今日はその検査の日だったんだけれど、まさか検査帰りに症状が発生するとは思いもしなかった。たまたま巻き込んでしまったヒフミさんには、本当に申し訳ないと思っている。

 

 彼女へ謝りつつ、制御の効かないこの身体に内心悪態を突く。私がスマホの画面へと視線を戻すと、そこには相変わらず予算オーバーを示すアイコンが灯っていた。現実から目を逸らすなと言わんばかりに訴えてくる貯金アプリの赤数字から、スッと目を逸らす。

 

 ……私は買いたい衝動と、毎月の通院費、生活費などの諸々を含めた計算を、脳内でシュミレートしていく。そうして弾き出された結果は、ぬいぐるみすら買える余裕はないという、ある種予想通りすぎる答えだった。

 

 中3の時のバイト代?まだまだあるけど、ポンポン使っていくのは違うわよね。

 

「うぅ…、買ってあげられなくてごめんね……」

 

 激しい葛藤の末、私は申し訳なさを口にしながらウェーブキャットさんへと謝罪する。そうして私は名残惜しむように、彼を元の棚へ棚に戻そうとした。 

 

 

 

「──メです」 

 

 低い声が聞こえる。

 

 ──突然、私の肩をヒフミさんが掴んだ。ギョッとした私は、思わずヒフミさんの顔を見る。窓から逆光が差して表情が見えづらくなった顔から、そんな事は許せないと言いたげな、ヒフミさんの強い瞳が覗いていた。

 

「──そんなの、絶対にダメです。だって、ウェーブキャットさんを見た時の顔が、あんなにも輝いてたじゃないですかっ……!」

 

「──……っ」

 

 思考の虚(ずぼし)を付かれ、黙ってしまう。何も言わずに俯いた私を見たヒフミさんは言葉を続けた。

 

「諦めちゃダメです……!なんだったら、私からお金を出してでも買ってあげます……!せっかく好きになれたものを諦めるしかないなんて、そんなの絶対ダメです……!!」

 

 ヒフミさんが、私にしっかりと目を合わせて言い切った。

 

 

 ───逡巡する。

 もし仮に、私が彼女の言葉に甘えても良いのならば、今ここでウェーブキャットさんを手に入れる事が出来るだろう。

 

 

 ───葛藤する。

 ……しかし、それでいいのか?と自分の良心が囁いてくる。今月分の予算は使いきったが、来月分は余裕もあるだろう。

 

 

 ───思案する。

 少しくらいなら予算をオーバーしてでも手に入れるべきでは?と頭の中で暗い欲望が、私の心へと侵入してこようとしてきた。

 

 

 ヒフミさんの善意と、私の欲望。

 道標のない二択を提示された私は心を揉まれ、判断を下せなくなってしまう。

 

 

(どうしよう……。私はどうしたらいいの……?)

 

 

 心の中がぐちゃぐちゃとしてきた私は、縋るようにウェーブキャットさんを見た。

 

 本来なら、ぬいぐるみとして何も言わないはずの彼だが、今この時だけはいつも通りのぽけっとした顔が安心感を与えてくれる。

 

 

 

 ────ええんやで。

 

 

 

 ウェーブキャットさんが、そう言った。

 一瞬、私に対して優しく笑ったような。そんな彼の柔和な表情を見て、私は決心する。突然発作を起こした私にも、親身になって心配してくれたヒフミさんに対して向き直った。

 

「ごめんなさいっ!ありがたい申し出ですけど、私は自分の手でこの子を手に入れたいです……!」

 

 

 私は、自分の欲望と私自身の満足感を天秤に掛けた。

 

 無論、感情の天秤は満足感へと傾く。

 分かりきっていた。

 

 

 『迷ったら、後悔しない方を選ぶといい』

 

 

 兄さんの言葉が、私の意思を後押ししてくれる。

 

 私の、心から発した言葉を聞いたヒフミさんは、その顔を覆っていた鬼気迫る表情を和らげ、納得したように笑った。

 

「──そうですよね……、自分で手に入れた方が、思い入れも強くなりますからねっ!」

 

 あはは……と、ヒフミさんははにかんで笑う。

 彼女に釣られて、私も照れて笑ってしまった。ちょっと恥ずかしい。

 

 そんな私達の微笑ましい会話を、ウェーブキャットさんは静かに見守っていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 覚悟が籠った目をしたワタルちゃんが、ウェーブキャットさんを棚に戻しました。歯を食いしばって、痛みに耐えるように。沈痛な表情を浮かべるワタルちゃんに、私はもう一度声を掛けようか悩みましたが、やめます。

 

 ワタルちゃんがウェーブキャットさんの事を知った時の目は、キラキラと輝いていましたから。

 だからこそ、私が無理を強いてはいけませんよね……。

 

 私は先ほどの、自身の行動を恥じました。

 ワタルちゃんの言う通り、欲しいものは自分の手で手に入れた方が、買った時より何倍もの愛着が湧きますからね。

 そんな、当たり前の事に気付けないなんて……。

 あ、あうう……。恥ずかしいです……。

 

 だけど、ワタルちゃんはそんな私よりも立派です。自分の力でウェーブキャットさんを手に入れるために、彼女はその手でウェーブキャットさんを棚に戻したんですから。

 

「……くぅ、出ましょうヒフミさん。ここに居たら名残惜しすぎて欲望が再燃しそうですっ……!!」

 

「あはは……、そうですね。そうしましょうか」

 

 ものすごく悔しそうな表情を浮かべながら、店のドアを開けるワタルちゃん。結局、最後まで店員さんを見つけられませんでしたが、こんなにもモモフレンズを、ウェーブキャットさんを好きになってくれた子と出会えた事は、私にとって凄く幸せでした。

 

 

 ──チリン。

 

 退店のベルが鳴り、私達は細道へと出ます。

 影が差す、薄暗い路地の向こう側に太陽が見えました。

 

 ふと、私は買いに来ていたはずの『軍艦ペロロ』様を、棚に戻していた事に気付きます。ワタルちゃんに釣られて、私も棚に戻しちゃったみたいです。

 

 私はお店の扉へ振り返りました。

 ライムグリーンの不思議なお店は静かに佇んだままで、空っぽのショーウィンドウには青いカーテンが掛けられています。

 

「ヒフミさん?どうかしましたか?」

 

 ワタルちゃんが、心配そうに声を掛けてきました。

 

 私は頭を振ります。

 

「──いえ、なんでもないです!」

 

 立派な姿を見せてくれた彼女に向かって、もう1回なんてあんまりですもんね。私は心残りをその場に置いて、ワタルちゃんに歩み寄ります。

 

「あー、と。ヒフミさん。もし良ければなんですけど……」

 

 私が店に気を取られている間に、ワタルちゃんは少し離れた場所で待っていました。照れくさそうに笑ったワタルちゃんが、私に向けて水色のスマホを差し出しています。

 

「モモトーク、交換しませんか?また買いに行く時に、ご一緒したいです!」

 

 今日、たまたま偶然お店で出会い、仲良くなった新しいモモフレンズ友達からの願ってもないその言葉に、私は快く返事を返します。

 

 

「──はい、もちろんっ!」

 

 

 その時、風が私達の間を吹き抜け、建物を通り過ぎていきました。その風はどこか暖かく、私達を祝福しているかのように感じます。

 

 風が吹き抜けていった空を見上げ、私達はクスッと笑いました。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 マップを見ながら、ヒフミさんと私は名も無き道を歩いていく。細い道を2人で並んで歩く間、私達はずっとモモフレンズの話をしていた。

 

「あっ、あれってもしかして!」

 

 ヒフミさんが、何かを見つけたように声を上げる。彼女の視線の先を追うと、そこには見慣れた大通りの姿があった。

 

「あ〜、やっっっと元の道に戻ってこれた〜」

 

 疲れがどっと襲いかかってくる。かれこれ30分くらいあの変な場所に居たのだ。

 

 息を吐き出し、ようやく戻ってこれた実感を持ちながら伸びをする。

 

「あっ、今のそれ……、ウェーブキャットさんみたいですね!」

 

「マジですか……、つまり私はウェーブキャットさんだった?」

 

「あはは!似てませんって!」

 

 すっかり距離感が近くなったヒフミさんから軽くイジられた。ついでに私も軽くボケ返す。イジられても悪い気は起こらず、今までずっと普通の友達が居なかったので、むしろ新鮮まであった。

 

 ウラちゃんと同じく、ヒフミさんとは末永くお付き合いしていきたいと、私は思う。

 

「──それでは、また!」

 

「ヒフミさんもお気をつけて〜!」

 

 横断歩道まで辿り着く。

 丁度よく青になった信号で、横断歩道を元気に走っていくヒフミさんに手を振って見送る中、どこからか猫の鳴き声が響いた気がした。

 

 ……私はくるりと振り返り、誰にも気付かれないように。

 

「──また、来るね」

 

 

 にゃおーん……。

 

 

 ……どこか抜けてて、伸びをしたような鳴き声を聞いた私は、安心して元の道へ向き直った。

 

 街路樹の葉が日差しを遮り、心地よい風が吹く。そんな青い春の日差しの通りを、私はスマホ頼りにのんびり歩いて帰っていった。

 

 





・阿慈谷ヒフミ
 自称が『普通』な、トリニティの2年生。ペロロ様を愛してやまない、ちょっと変わった女の子。押しが強い面がある。

 最後まで、店内の違和感に気が付かなかった。


・遠芽ワタル
 その日、運命に出会ってしまったウェーブキャットさん限界推し系女子高生。ウェーブキャットさんを直視して、スリップダメージを受けるという特性を獲得してしまった。発作発動率アップ。

 ちなみに、病院へは学校を早退してから直行している。もちろん、帽子は被らず制服のままで。


・【ねこのおみせ】
 人生で一度だけ巡り会える、欲しいものを何でも買えるお店。訪れた人が欲しいものを想像すると、店内のどこかにその商品が現れる。

 ただし、買えるものは1つだけ。
 2つ以上は持ち出せない。
 対価を払って、正しくお買い物しましょう。
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