仮面ライダーエンブリオ 〜Episode 0〜(エイプリルフール企画)   作:大島海峡

10 / 10
アフターエピソード:無数で一人の

 五十六りんく。

 そう名付けられていた彼女が、薄く意識を取り戻せば、地獄が広がっていた。

 見渡す限りの、顔。自分と同じ、顔。あるいは、そうであった者たち。

 四肢をもがれ、肌を焼かれ、胸を穿たれ、動かなくなった彼女たちが

 悲鳴は忘れた。きっと涙は流れない。自分が秘密組織のエージェント、と思い込んでいた、その前の記憶が思い出せない。きっと元より、ありはしない。

 かつて役割には、必要無いものであったから。

 

「なんなの、これ……?」

 覚醒は、彼女と同時、同様であったようだ。

 八重岸りんく。その半身を焼かれた彼女は、ノイズ混じりの、ひび割れた音声で問うた。

 

「教団が、ガレリアの仔らを自分たちの都合の良いよう教え導くための、自律型AI搭載のアンドロイド、リンクシリーズ。いえ……玉石為供が、コピーして実体化させた存在。それが、私たちの正体」

 つい今まで思いよぎりもしなかった事を、五十六りんくは口にした。

 

 半分だけ同じ顔の少女は、無表情で押し黙った。

 信じたく無い。信じられない。そんな時点は、とうに通り過ぎた。

 その身を焼かれ、鉄の地肌を晒されてもなお生きている……否、稼働している。

 

 そこは、自分とて同じだ。

 自分が、そうだとは思わなかった。認識できないようになっていた。

 

 上半身しか残っていない身体で、無数の機械の残骸を掴みながら、這う。

「どうするつもり……?」

「ここを、抜け出さないと……っ!」

「抜け出して、どうするの」

 

 乾いた電子の声で、八重岸は問う。

 

「決まってる……」

 決まっていない。何もない。だから決める。自分で。

 

 唯一残った感情(もの)で。

 最後に残った光景で。

 

 盾替わりに掴み上げた指。

 自分たちを物扱いで打ち捨てる腕。

 去り際に落とされた、冷ややかな眼差し。

 

 ――玉石、為供。

 

「奴に、復讐を……!」

 ここにいるすべての『りんく』を弄んだ男。奴と、奴に連なる一切に報復を。

 その一念が、停止寸前のこの機体を動かす。

 

「そっか……いろいろと違うんだ……やっぱり」

 八重岸はかすかに自嘲を交えて、そして言った。

「ウチには――できない。すべて偽物だったなんて、耐えられない」

 

 そう、私は、お前たちとは、違う。

 奴らの言うところの『アドリブ』ゆえか、ほかの連中と違い、植え付けられた『玉石為供への好意的記憶』などない。

 そして、この終わりに納得などできない。

 

「だから、持って行って」

 は、と問い返すと、ちぎれた胴部に腕を回す少女の儚げな笑みが、顧みた視線の先にあった。

 

「ウチの身体(パーツ)も、無念(こころ)も、すべて――貴方の、貴方が前に進むための、魂に換えて」

 私も、とさらにその下から声がかかる。

 わたしも、ワタシも、私も、ぼくも、オレも。

 口々にそう呟き、五十六を取り巻く。

 

 慟哭の中、いくつもの『りんく』の身体が折り重なる。名のごとくに接続する。

 

 幾たびも繰り返されてきたパラダイムシフト現象の産物。廃棄物。

 集積された死と経験は、ある種の才への変異する。

 それはあるいは、パラダイムシフターに匹敵する影響力を会得するに至る。

 

 ――命の定義(ことわり)が、覆る。

 

 ~~~

 

 オレンジ色のツナギをぼろきれのようにした彼女と、黒いハーネスを巻いた彼女が、ぞんざいに投げ転がされる。

 

「はーい、新入りでーす。みんな仲良くしてやれよー」

 返事など気にしていない軽口を叩くのは、黒いローブを作業着の上から羽織った若い男。末端の構成員である。主にその役割は、用無しになった資材を、パラダイムシフトによって生み出された世界に投棄すること――すなわち、その世界のキャストとして起用された人形――りんくを。

 

 最初は、薄気味悪さや多少なりの罪悪感あったが、それも慣れとと共に薄らいでいった。今では、少し軽口がこぼれる程度で、処理自体は事務的だった。

 

 ――そこに、背後より、音。

 何かがもたげる音。人とは異なる、重みと歪さとぎこちなさを感じさせる靴音。

 唸る音。唸る声。獣のごとき、息遣い。

 

 顧みれば、孤影。

 自分と同じ教団服たる黒いコートを継ぎはぎしたものを纏い、足を引きずりながら、俯く。

 

「……おいおい」

 思い至る点があった彼は、天を仰いで毒づいた。

 

「こりゃどういった演出だ? 今度はゾンビ映画でも撮るつもりか?」

 などと、まずそこを見ているであろう玉石為供に声高に呼びかける。むなしく残響轟くばかりだった。

 

 ただ彼が感知できるのは、女の形をした何者か。その乱れた前髪の奥底で閃く憎念の眼光のみである。

 

「まさか……本当に……?」

 凍りついた表情と呟きを向ける彼に対し、その『りんく』は、一基のデバイスを同胞たちの下より引き抜いた。

 

 それは、激しく損壊したガレリアドライバー。

 ミラーデの、エンブリオとの戦闘において消滅したかに思われていた、彼の、佐武兵庫の遺失物。

 

 大破していたそれに、地から飛び出てきたコードが巻き付く。失われた部分が。大小織り交ぜ、縦横に絡み合う真っ黒なコードによって補われていく。

 

〈ガレリアドライバー〉

 濁って澱んだ音声と共に、再起動したそれを、そのりんくはコルセットで強く固定した自らの腰に据えた。

 

 そして、ライドパック『デッドコピーオカルティック』をひび割れたバックルのカバーの内へと通す。

 電流が迸り、肩が大きく跳ねたが、暗澹たる表情に変化はない。ただ唇だけが動く。ただ頬の下に、回路が浮かび上がる。

 

「変身」

 そう唱える。

 

〈フレームアウト! オーバー・ザ・エンドフェイズ! セメタリー〉

 鉄の腕骨が地中より這い出で、足場を作る。万の躯の上に道を舗装し、彼女の周囲を巨大なシリンダーのごとき円筒が囲む。

 そして蒸気が噴出すると同時にそれがパージされ、中から鋼鉄の戦士が現れた。

 

 右半身を青銅色の重装甲がマッシブに鎧われ、左を黒鉄の、髑髏のごとき外骨格とマスクが覆う。

 左右を貫通するかのように埋め込まれた、ゴーグルを模したバイザー。そこに、赤い眼光が宿る。

 マフラーを想わせる白のコードの束が右の首根から後ろに流れている。

 

 なお晴れぬ蒸気を瘴気のごとく伴いながら、りんくは構成員へと歩み寄る。

 

「ぐっ……!」

 彼は、自らもその足場に乗り上げ腰のホルスターに容れたライドパックから、カードを一枚引き抜くと、それを足元に叩きつけた。

 すると彼を基点として、蜘蛛の巣状の亀裂が奔る。その先には無数の子蜘蛛がひしめき、それらが群がり男の輪郭を覆い隠す。

 それを内より引き裂き、吹き飛ばすかたちで現れたのは、異形にして直立の怪物。

 蛇苺のごとき複眼、黒々とした体毛に折り畳まれた脚部、それらが渾然一体となった、蜘蛛の怪人。

 

 簡易パラダイムシフト『ドロード』。

 パラダイムシフターたちがかつて創造した世界観。彼らに準ずる才覚と感性の持ち主がその一部を利用し、そこに登場するキャラクターの姿や能力を我が身に写す外法である。

 

 蜘蛛(スパイダー)ドロードは、飛びかかるや複数の上腕を振り上げて、礫の如く拳を落とす。

 

 それを、りんくは腕一本で防ぐ。

 下から支えあげるようにそれを押し返すや、浮かせた胴めがけて榴弾を想わせる速威をもって拳を叩きつける。

 完全に攻守が逆転し、畳みかけようとした矢先に、彼女の足が止まった。

 

 彼女が背後と頭上の中間を顧みれば、そこには蜘蛛の切り口でもって、空間が開かれ、そこから飛び出た糸が、粘性と頑強さをもって左腕を絡めとっていた。

 

「ふん……」

 鼻哂とともに体勢を立て直したスパイダードロードは、あらためて多脚複腕を、りんくへと浴びせかけた。

 進退がままならないまま、しばし火花を散らしつつそれを受け止めていた彼女だったが、やおら、もう一方の腕を持ち上げた。

 

 次の瞬間――

 りんくは、縛られていた腕を、肩口から切り落とした。

 にわかにその分の体重が無くなり、姿勢を崩しつつも、自由になった身体で急進突貫。体当たりで強引にガードを破り、拳と足を叩き込む。

 

 足下に散らばる躯。その腕。それがひとりでに飛来した。失われた腕の断面よりコードが伸びて、それを絡めとって引き寄せて、つなぎ合わさる。

 それが、黒く鎧われた。微妙な長短やサイズの差異があるのかもしれないが、傍目からは分からなかった。

 

「茶番は終わりだ……!」

 仰向けに怪人に怨嗟の滲む声と共に、レバーをひねる。

 

〈デッドコピーオカルティック・パラダイムエンド!〉

 見た目の重量感からは想像できない跳躍、浮遊、そして対空。

 足下に螺旋を描く瘴気、それを可能としていた。

 

 やがてそれを両の足裏に集中させて、傾けさせて、鋭利なる角度をもって、スパイダードロードへと自らを射出する。

 

「うおぉぉぉ!?」

 蛮声と共に、蜘蛛はそれを迎え撃つ。多少の後退はしたものの、それを受けきることには成功する。

 安堵交じりの嘲笑の音を立てた彼だったが――彼女の身体は半分に分かたれた。

 

 時間差で押し出された左の半身が、防御をすり抜けて蜘蛛の身体に直撃した。

 再結合を果たしながら、着地したりんくの――仮面ライダーの前で、蜘蛛男は全身から電光を迸らせて、やがて断末魔と共に爆散した。

 

 人間に戻った彼が、大きく傾き足場から崩れ落ちる。

 その彼を、機械の亡者たちの腕が、絡め取っていく。

 

「た、助け……!」

 数分前には想像だにしなかったであろう結末に、引きつった声でそう乞う彼に応える者も声も無く。

 その身柄は、女たちの残骸の中に沈み、やがて跡形も無く飲み込まれていった。

 

 その煽りで、首筋のコードを靡かせながら、彼から切り離されたライドパックを拾い上げる。

 銘は、『インターセクター』。褪せた色味は、それがレプリカであることを示しているが、それでも外の世界――現実へと通じるチケットであることには変わりない。

 

 もはや、幾万の無念と怨念を負った自分は五十六りんくではない。

 その名は、万骸(まがい)リンク。

 その字を、仮面ライダーセメタリー。

 使命は教団の壊滅。目的は、玉石為供への報復。

 

 この身に渦巻く憎悪と復讐こそが、前へと進むための、唯一の真実だ。




というわけで、ヒロインの扱いが本編中アレ過ぎたので、数ミリ程度の補足も兼ねて蛇足を書き足しました。

そのうえで、一旦の区切りとさせていただきます。

今後の予定については先述の通りですが、ちょっとばかり潜伏します。
それでは、また何処かでお会いできれば幸いです。

ではでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

仮面ライダーハーネット(作者:マフ30)(原作:仮面ライダー)

珍しく乗った朝のバスで、眠る君を起こした。▼ただ……それだけのはずだった。▼男子高校生 村雲操助の日常は一変した。▼世界を崩壊に導きかねない不思議な紅い蝶とそれを追う謎の少女。キャプター01と名乗る彼女との出会いが操助の運命をも大きく変えていく。▼滅びを招きし脅威の名は蝶展開/カオスエフェクト。▼押し寄せる不条理と理不尽の嵐を掻い潜り、世界を救うシークレット…


総合評価:10/評価:-.--/連載:1話/更新日時:2026年03月01日(日) 10:06 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>