仮面ライダーエンブリオ 〜Episode 0〜(エイプリルフール企画)   作:大島海峡

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第一話:偽りの日常

「へへーっ、ウチの勝ちー!」

 私立ガレリア学園。

 ごく普通の進学校では、その休み時間中に、生徒たちは今流行りのカードゲームに興じている。

 その男子たち相手に、何ら気後れすることなく、八重岸(やえぎし)りんくが交じっている。

 プレイスキルは、彼らのうちでもトップクラス。

 そして何より分け隔てのないその気安さによって、幅広い人望を獲得していた。

 

 何より、膝上まで短く切り詰めたスカートに、胸元を大きく広げたブラウス。モデル体型にその着崩し方なのだから、本人にそのつもりはなくとも、如何にも扇情的だ。

 

「君もどーぉ? 持ってるんでしょ? 『スワンプ』」

 偶然その横を通り過ぎた僕にさえ、親しげに声をかけてくれる。

 

 『スワンプ』。正式名称『スワンプワールドトレーディングバトル』。

 世界が混沌の沼で出来ていた時代。そこから生まれ、色づき、数多く築き上げられた文明同士で戦うというバックストーリーを持つ、対戦型のカードゲームだ。

 

「……悪いけど、先生に呼ばれてるんだ。進路相談の件でね」

 と、僕はさも申し訳なさげに眉を下げて、断りを入れた。

 

「つれねー奴」

 そんな風に取り巻きの男子たちが悪態をつくのを、りんくはまぁまぁと宥めている。

 

 ……彼女は知らない。彼女たちには分からない。

 自分たちが遊んでいるカードには、『本物』が紛れていることを。

 そしてその平穏を守るために、人知れず悪の侵略者と戦う、仮面のヒーローがいることを。

 

 〜〜〜

 

 あらためて、僕のことについて話そう。

 僕の名前は、玉石(たまいし)為供(ためとも)

 自分で名乗るのも口幅ったいけど、この世界を護るヒーロー……皆が仮面ライダーと噂する戦士だ。

 

 そしてこれから僕が向かうのは、進路相談などでは無い。向かう先にある一階東棟の奥には用具入れがあるが、そこが目的となる場の入口だった。

 

 本来なら使い古した掃除道具が押し込められた狭い空間だが、僕のような人間が入れば、違う世界が広がっている。

 ドーム状にくりぬかれた異空間。天井にはいくつもの疑似天体がまたたき、それを光源として一人の男が座している。質実剛健の四字を、魂魄まで染めつけたかのような、恵まれた肩幅を持つ男だが、口に朱のようなものが差して、それが異彩を放っている。

 

 プロメト。それが彼を表す名である。

 衝華。それが、僕らの属し、世界の均衡と秩序を保つ、組織の名だ。

 

 分厚く、硬い印象を受けるデスクの上には、天球儀以外、何も置かれていない。その表層をなぞるようにして、おもむろにその口を開いて、朱を蠢かした。

 

「あの男が、来ている」

 と――。

 

 瞬間、僕は知らず身を固くしていた。

 かつてこの世界は、一度破壊されかけた。組織を裏切った、極悪非道の男によって。

 あの男。そこに込められた重力を伴う忌々しさは、それを想起させるのに十分すぎた。

 

 僕の脳裏に、とある光景が浮かび上がった。

 それは五年前、現実で、そして僕の目の前で起こった惨劇。

 

 深い山。朝霧の中、黒い影を伴って現れた男。

 進み出たのは、僕らの師、僕たちの親代わりだった人、そして――僕の相棒。

 

 敢然と、僕を守って無法に立ち向かった彼女は、異形と化したそいつの手にかかり、あえなく――

 その時、ひとつの世界が終わった瞬間だった。

 

 奴が再来した理由は明白だった。

 僕の世界を壊そうとしている。またしても。

 

 そんなことはさせない。何度壊そうとしても、叩き潰す。何度壊されても、やり直してみせる。

 

「わかりました。進入ポイントを教えてもらえれば、すぐさま迎撃に向かいます」

 そう意気を放つ僕に、彼は軽く首肯してみせた後、おもむろに視線を横へと投げた。

 

 そこには、一人の少女が立っている。

 歳頃は僕と同じぐらいに見える。黒く長くしなやかな髪を切り揃えた、向こうっ気の強そうな女の子だった。

 

「ヨーロッパ支部より帰投しました、五十六(いそろく)です」

 硬い声音でそう名乗る彼女に、僕は一瞬虚を突かれた。

 

「彼女を連れて行きなさい」

 と、プロメトさんは言った。

 

「これは――何かのアドリブですか?」

 やや間を置いてそう問う。

 

「君の嗜好に付き合うのは問題ないが……こちらの計画を滞らされても困る。カンフル剤と考えて起きたまえ。用がないというのであれば、壁役にでも使えば良い」

 

 と慈悲や容赦などない物言いに、五十六という少女はムッとして

「確かに私にはライダーとしての、『パラダイムシフター』としての能力は有りません。ですが、それでも組織のために、世界を守るための一助を担っている自負と覚悟は持っています」

 そう、意気込んだ。

 

「……だそうだ」

 隣で短くそう付け足したプロメトさんに、やれやれと僕は肩をすくめたのだった。

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