仮面ライダーエンブリオ 〜Episode 0〜(エイプリルフール企画)   作:大島海峡

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第四話:仇の男

 僕には、相棒がいた。

 師でもあり、友でもあり、母でもあり……包括すれば、それは愛だった。

 今でも、彼女と……『先生』と過ごした日々は、かけがえのない記憶だった。

 

「僕のこと……みんなが、ごっこ遊びだって……! マネっこばかりするから、友達になりたくないって……!」

 人知れずそう泣いていた僕に、ずっと彼女は寄り添ってくれた。

「良いじゃ無いか。マネっこで。それで世界を変えられるのなら」

 と、慰めてくれた。

「じゃあ、ボクは君の相棒として、傍で支え続けよう。君の作る世界で」

 硬く冷たい、それでも力強い両腕の中に、僕を抱きすくめて言った。

 

「君たちの才能を、ボクは信じているよ」

 と。

 

 ……だけど、その才能のひとつに、彼女は(ころ)された。

 白服の部外者たちを手引きした、裏切り者によって。

 

「なんのつもりかな?」

 僕らを庇うように前に立ち、そう問いかける『先生』に、傲岸不遜な十五そこそこの少年――佐武兵庫はおもむろにコートを脱ぎ棄てた。その腹には、すでにガレリアドライバーが収まっている。

 

「家族ごっこ、学校もどきの馴れ合いにはもう飽いただけのことよ。己は己の人生を、貴様らから取り返す――変身」

 

 そう言って、自身の世界を集約させたライドパックをベルトに通し、鏡面の装甲を持つ龍騎士へと成った。

 

 ――そして、僕らの目の前で、永久に、彼女は奪われた。

 

 ~~~

 

 その男が今、五年の時を経て、僕の前に立っている。

「おぉぉぉぉッ!」

 飛び上がって繰り出したテレホンパンチを、たやすく彼は腕の動きで軌道をずらし、体勢を崩す僕の胴に、痛烈な掌打を見舞う。

 さらにそこから二撃、三撃とつなげ、なお苛烈に攻め立てる。

 

 激情に駆られ、この男に愚直に仕掛けた己を、恥じる。

 武の極致に達したことによる、異界への接続。そんな男に、挑むべきではなかった。

 

 だがそれ以外に、相手に有効打を与える手段は存在しない。

 レインボーオーロラ。僕の力と才の結晶たる、世界。それこそ所在なく揺らめくオーロラ、実体のない虹のような、無益なライドパック、無用の才……そう言われ続けてきた。

 よって、武装らしい武装はない。この格闘の達人相手に、正攻法で勝てる道理は無かったのに。

 

「どうした? 戦わなければ、生き残れんぞ!」

 佐武の膝蹴りは空気を震わせる。何度となく繰り出される正拳は、空間を打ち砕くほどである。

 ……実際、彼と僕とを分け隔てるかのように。

 

 空間は、割れている。

 砕かれた鏡のように。万華鏡のように。それに吸われることによって、こちらの攻撃の威力は分散される。

 一方で、佐武はその特性や方向性を、把握している。言葉で説明できるような理屈ではなく、もっと根源的な部分で。

 拳を撃ち出せば、砲丸のような重撃が飛んでくる。それが眼前の空間を砕き、散らした破片により、攻撃の範囲と威力とが増す。

 

 それにより後退しつつある僕に追い討ちをかけるべく、彼は長得物と、遠目には判読不能の、としたフレーバーテキストが載せられたカードを一枚、バックルの横、ライドパックの内より抜き取った。空中に散らされた鏡面の一片に、それを挟んだ手を突っ込んだ。

 

〈鏡心終鞭刀!〉

 その内よりカードに代わって引き抜いたものは、己の身長ほどはある真紅の長柄に、龍口を模した刃は、そのマスクの大きさをゆうに超える。いわゆる、青龍偃月刀である。やや、近未来的な造詣を持つが、それによって為すことは変わりない。

 

 すなわち、抜きざま、それで突く。払う。薙ぐ。自他共に息をつかせず、途切れることがない。

 単純な力量差のみならず、リーチや手数でさえ上回られては、こちらには、もはや抗しうる手立てがない。

 

「あの時泣きじゃくるしかできなかったお前が、今になって己に勝てるわけがないだろうが」

 増上のままに、そんな言葉を口にする。

 

 バックルの横から再びカードをドローする。

 それを刃の付け根に備わった装填口へ挿入すると、切っ先を起点に、紅蓮が蛟のごとく螺旋を描く。

 

〈万象転覆! ミラージュファンタジスタ!〉

 

 周囲の鏡片を巻き込み嵐となれば、それは、あらゆるものを切り裂き焼く、絶対的な凶器と化す。

「まとめて消え去れ、教団の残滓よ」

 そう宣いながら腰を沈めて力みを入れた後、飛び上がった。

 

 そして一気に、僕に、いや僕たち全体を指して、炎嵐を放出した。

 

 圧倒的な武力、絶望的な状況。かつて教団を実質単身で壊滅させただけある。あの時の狂猛さだけはそのままに、さらに強くなっている。

 

 ――それでも、証明してみせる。

 僕がもう、あの時の弱い僕ではないことを。

 仮面ライダーたちの、力と歴史と正義によって。

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