仮面ライダーエンブリオ 〜Episode 0〜(エイプリルフール企画)   作:大島海峡

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第五話:虚影反転

 その場には、爆発が収まってもなお、火炎が燻っている。

 だが、居合わせた全員が凍り付いていた。

 

 八重岸りんくも。仕掛けた後に着地した佐武兵庫も。指揮官の座に座したままのプロメトも。

 

 ただ一人。

 玉石為供を除いて。

 

「……なるほど」

 独り合点した様子で、彼は頷いた。

 

「たしかに、火の粉を払う程度には、その頑丈さが役立ったかな」

 と、突き出した腕の先には五十六()()()が、吊るされて、未だ熱気を籠もらせた偃月刀に貫かれていた。

 

 その腰から先は爆風で吹き飛ばされ、配線や焦げ付いたパーツが露わになっていた。

 にも関わらず、痛みよりもむしろ愕然とした衝撃が上回るように、目を剥いて、自身の失われた半身と、そして為供を見遣っていた。

 

「な……に」

 佐武の心に、隙が生じた。それを、為供は見逃さなかった。

 

「今だ!」

 勇ましい声と共に、仮面ライダーは拳を仇敵に叩き込む。刃が女の――正確には女の形を成したガラクタから抜けないまま偃月刀は地に落ち、金属音を立てて転がった。

 

 立て直す機会など与えない。そのまま、なお連続したパンチを畳みかける。

 それは紫光の輝きを帯びて、本来の実力(スペック)以上の連打が、兵庫を襲う。

 

「やっぱり、『彼女』を二度殺すことは、さすがの君で気が引ける……ということかい? そんな甘さが、君の中にも残っていたんだね」

 と煽り立てながら。

 

「黙れ……!」

 膝をつきながらも、振り下ろされた拳を支えるように打ち返し、兵庫は呻いた。

「そんなわけがあるか。こいつらは、あの女……伊地知りんく――ヒューマノイド12型ではない……! ただの貴様の妄執(パラダイムシフト)が生んだ、二次創作のキャラクターだ!」

 

 え……と乾いた声が、彼らの横から漏れた。

 八重岸りんくのものだった。

 そしてその彼女もまた、爆風に直接さらされた結果、胴から上は、酸鼻極まる有様だった。

 右半身は緑青色の機械の地肌が露わとなり、左は人工皮膚が黒く焦げ残っている。

 それを鏡で見ることはかなわずとも、痛みも感じず意識もはっきりしているということが、そしてそれに一片の同情も見せずに冷ややかに見下ろす仮面の戦士のたたずまいが、その言葉を証明している。

 

「――まったくだ。そこは認めよう。まだ彼女を呼び戻すには、至らない。こいつらは、彼女たりえない。ただの試作品のポンコツさ……まだこのパラダイムシフト現象――『アーティファクトシティ』は使いこなせていない」

「パクリ野郎が……ッ! それさえも、真機谷(まきや)から奪った能力(ライドパック)だろうが!」

「奪ったとは心外だな。友人たちの力と伝説を、僕と彼女が掴むべき輝きに加え、昇華させたのさ……『彼』が、そうであったように」

 

 吐き捨てた彼の左腕が、泥の泡のように、あるいは肺胞のように、不自然に隆起する。

〈エンブリオトレーサー!〉

 それが弾けたとき露わとなったのは、短冊を横に広げたかのような、平たい紫紺の装置。

 

 そこへ、一枚のカードを滑らせた。

 それは、ライドパックならぬ、異なる仕様のカード。三隅をバーコードで囲み、黄金の獅子の栄光を、光背から両手で包み込まんとする黄金のライダーの肖像。

 ただしその中心には、斜めがけに鋭い刃物に切り裂かれたような痕跡が奔っていた。あるいは、実際両断されたのかもしれない。だがそれを繋ぎ合わせ、復元させたかのように今、為供の手に渡っている。

 

〈トレースライド! レジェンド!〉

 それを、盤上に滑らせた。

 

〈Chemy ride! Le-Le-Le-Legend!〉

 黒いボディスーツ、虹のライン。その眼の妖光はそのままに、流暢にして軽妙な、聴き慣れない造語と共に青紫の、複数の溝が彫られバーコード状となったの装甲が為供を補強する。

 その指先を虚空に舞わせ、うそぶく。

 

 

 

「――『模倣』。それが、君たちが蔑んできた、僕のパラダイムシフトの適正(アプローチ)……そしてこの、仮面ライダーエンブリオの能力だからね」

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