仮面ライダーエンブリオ 〜Episode 0〜(エイプリルフール企画)   作:大島海峡

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第六話:歪める

 仮面ライダーエンブリオ。

 それが彼の司る力の集大成。パラダイムシフト現象を世界に上乗せした仮面の戦士の姿。

 だが、かつてはそれは、グループの中で最弱のライダーであったはずだ。今、この瞬間までそうであったように。偽物は、どうあがこうとも本物に劣る。どれほど精巧に模倣しようとも、実物には及ばない。そのはずだ。

 

 ――だが、はるか上の位格の他存在を模倣したのなら、あるいは別の本物を凌駕する――そう、言いたいのか。

 

 そう問う前に、エンブリオはその手に黄金銃のデバイスを黒い泡と共に、虚空より浮かび上がらせた。同じく内包された二枚のカードを、ライダーたちの肖像を、

 

〈Decade Rider!〉

〈Decade Rider!〉

 その銃器に装填させて射出する。

 

「行け、我が傀儡たちよ」

 走行するバイクの幻影が駆ける。

 そこに乗りつけてきたライダーの虚像が実体を得て、為供の前に馳せ参じる。

 

 見たことも無い、マゼンタとシアンの、複数の凹凸を持つライダー。

 剣と銃とをそれぞれに携えて、義務的に声を発して、無機質な所作と共に、ミラーデへと攻めかかった。

 

 カードホルダーと一体化したかのような直剣でマゼンタのライダーが斬りかかり、何度も刃を叩きつけてくる。その後ろで、精妙な銃さばきと弾道でシアンのライダーがそれを援護し、行動を制限する。

 

〈Final Attack Ride:De-De-De-Deacade!〉

 そしてマゼンタのライダーは跳躍した。

 

 写真のネガのようなエネルギーフィールドが兵庫と彼との間に展開し、それを突き破る形でライダーは威力と速度を増していくや、飛び蹴りの態勢をとった。

 

 それを、ミラーデは真正面から受けて立つ。キックを流動的な所作で、紙一重の間合いで無力化するや、伸ばした腕でライダーの喉輪を掴み取り、締め上げる。

 

 そして彼を盾に、早歩きにて前進する。

 シアンからの連射をその背で防ぎきり、銃口に密着させてそれ以上の銃撃を封じる。

 

 そのうえで、空けた手で自らのドライバーのレバーを、捻るように操る。

 

(ミラージュファンタジスタ・パラダイムエンド!〉

 音の高低差自体は激しいものの、機械的な抑揚とともに声が鳴り響き、足に蛟竜が蜷局を巻き、鏡片が渦を作る。

 

「言っただろう、足癖が悪い方だと――消えろ」

 無慈悲な宣告と共に、半身を切り回し、その脚を旋回させる。その威は、二体のライダーをまとめて屠るには十分なほどであった。

 

「下らん。影法師を生み出したところで、本物には届かん」

 そう断ずる彼に、為供はうろたえる様子も無く、

「……たしかに」

 と、素直にそれを認めた。

 

「ただの技術・純粋な力の比べ合いという点では、僕は君たちの言う『本物』には勝てない」

 ただし、と付け加えて、冷ややかに返した。

「僕もパラダイムシフターだからさ」

 と。

 

 瞬間、兵庫の足下が振動し、彼は身構えることもできないままに支えを失った。

 投げ出された彼の身の下に広がっていたのは、学校の外の街並み。その高層ビル群ひしめく都会の風景だった。

 

「模倣するのは――彼らの世界、そのものだ」

 そう嘯く青紫の鎧を持つエンブリオは、巨大な機械にまたがっていた。

 

 首長く、四つ足で大地を踏みしめる、機兵。名を、ダイマジーンという。

 『レジェンド』が搭乗するそれの頭部が、にわかに赤熱を帯びて、そして光線を放出した。

 その光柱は、兵庫もろともに街を薙ぎ払い、ビルを溶解し、倒壊させ、一瞬で廃墟へと変えた。

 

「ぐっ!」

 線を意識した攻撃であれば、曲直と正奇を問わず、兵庫はそれをことも無げに捌き切ったであろう。

 だが、面的な、個人を対象に絞ったものではない範囲的な破壊に対しては、後手に回る。勢いそのままに彼が墜落したのは、どこかのテナントの手前だった。どこぞの探偵事務所と、ビリヤード場が併設されたそこに、巨大な風車が傾き迫り、その建物ごと、兵庫へと叩きつけられた。

 

「『さぁ、お前の罪を数えろ』」

 無慈悲な宣言が、灰色の雲の下で轟いた

 

「……なんてことは、言わないさ。僕は彼ら仮面ライダーを、その世界観ごと理解している……が、賞賛も尊崇もしていない」

 どこからともなく聞こえてくる、為供の声。武芸者としての五感を頼りにその位置を探らんとしていた兵庫の周囲は、再び一変していた。

 

 草萌ゆるなだらかな丘陵。見渡す限りの青い空。そしてそこにひしめく、異形の怪物たち。

〈トレースライド! ガッチャード!〉

 陽に焼かれたかのような、くすんだ水色の装甲に身にまとった、ゴーグルのようなバイザーを額に帯びた、エンブリオの別形態であった。

 

「冥黒に染まれ」

 と、異形たちの眼前を横切りながら、エンブリオが呟くように命じるや、彼らは黒い霧のようなものに包まれ、飲み込まれた。

 

 それに視界が覆われた後、現れたのは夕焼けの墓場。

 闇に包まれた人造生物――ケミーたちを飲み込んだ闇は、地面に吸い込まれていく。

 

 さながら大昔のホラー映画よろしく、手足が、地中から這い出て来た。

 有機物無機物のシンボルを鉄の帯で締めあげたかのような、異形の頭部を持つ怪人――マルガムだった。

 

「一ノ瀬宝太郎は、こういう力の使い方をすべきだった。後手に回り、地球人口を減らすよりかは、すでに壊れたものを再利用(リサイクル)した方がよほど効率的だ。そして僕は彼らがつまらない倫理観に囚われて出来ないことを、超えたことが出来る。だから僕は、彼らよりも強い」

 

 誰ぞの名を挙げながら書評家のような口ぶりで論じる。地中に眠っていたであろう死者と、怪物が融合したその軍勢に向けて、指を傾ける。

 その命じるところはただ一つ。目の前の仇敵を、押し包んで、討て。

 

「だが、僕もいまだ未熟。ノーバディーズパーフェクトってやつさ――彼ら仮面ライダーたちの未熟さと抱えた矛盾が、その過ちが、僕の行いを肯定する。目的のためなら、譲れない信念や夢があるならば、どれほど犠牲を出そうとも押し通すべきだと」

 断末魔にも似た叫びと共に殺到する、百体を超えるマルガムたちに組み付かれる兵庫を冷ややかに眺めつつ、

 

 しばらく後。

 圧倒的数の不利を覆し、兵庫はそのことごとくを逆に殲滅した。

 

 燎原の只中、くすぶる火に囲まれながら、息も絶え絶えに、しかしてなお気勢を衰えさせることなく。

「どうした! もう自論(ハナシ)のネタと手札は尽きたか!?」

 そう吐き捨てる兵庫だったが、ふとその頭上に、影が差し込む。

 

 仰げばそれは、翼を広げたかのような基盤を左右に展開した、巨大な球体だった。

 その中央には簡易的なディスプレイが埋め込まれ、デジタルで数字を刻む――減らしていく。

 

「は…………?」

 兵庫が呆気にとられている間さえ無く。

 その装置――ドゥームズクロックはタイムリミットを迎え、そこを起点に起こった爆発は周辺の空間を捻じ曲げながら爆発し、龍騎士もろともに、彼の居る偽りの世界を崩壊させたのだった。

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