仮面ライダーエンブリオ 〜Episode 0〜(エイプリルフール企画)   作:大島海峡

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第七話:積み上げられた死の果てに

 超絶の規模による爆発に曝された世界の外皮が、黒く溶けて、解けていく。

 枯れた川筋の源と、並べられた枯れ木。

 かつて『ガレリア』があった土地。その跡地。

 

 その地に降り立ちながら、玉石為供は自らのドライバーを剥がした。黒い泡となって、彼の纏う何物かが剥落する。

 

「仕留めたか?」

 プロメトが問う。緩やかに

「やはりしぶとい。あと一歩で逃げられました……が、致命傷です。もう長くないでしょうし、こうして彼のライドパックも手に入れました。あとはこれを解析し、彼の力も模倣(わがものと)する」

 

 『ミラージュファンタジスタ』と銘打たれたカードパックを左手に、携えたままそう言った後、俯いた為供は、噛み締めるように

「……仇は討ったよ、先生」

 と呟いた。

 その彼を、プロメトは白けた様子で眺めつつ、

 

「ならば奴めに引導を渡す役目は譲ってもらおう。佐武兵庫は我が教団にとっても憎むべき相手だ」

 と言った。

 

「……ご自由に。ただし、前回別の拠点が襲撃された折、『りんく』の一機が鹵獲させたという話もあります。あるいは、彼には万一の備えがあるのかも」

 そう呟き翳した右手の中に、黒い泡が浮き上がって離れる。

 それはプロメトが捧げるように天へと向けた掌状に留まり、弾ける同時に

『Ancient Rex』

 裏面にそう書かれた、カードデッキを内より顕現させた。

 

「そして彼を完全に除いた後、僕らは真に一蓮托生となる。僕は他のライダー達を全て倒してその力と世界観を我がものとし、そこから先生の甦る世界観や技術を探す。貴方がたは、その僕のパラダイムシフトに、自分たちの理想を見出せば良い」

 プロメトは重く首肯した。

「残りのガレリアチルドレン、およびそれに等しい適性を持つ人間は我々が見つけ、引き渡してやる。それを糧とし世界を拡げるが良い、エンブリオ……我ら『衝華の会』の、新たな導き手よ」

 

 そして立ち上がるや、敗残の仮面ライダーを追撃するべく、大股で歩き始めた。

 

「ここを出立する前に、()()()()は片しておけよ」

 去り際彼が言い放った言葉で、為供はようやく、足下に転がる少女達を模した残骸(ガラクタ)に、冷ややかな眼差しを落とした。

 偽りの学園にて同級生だったもの。偽りの組織にて同志だとし思い込まされていたもの。

 

 一つ、佐武兵庫は正しいことを言った。

 どれだけ姿形を真似ようとも、これらは、伊地知りんくでは、為供恋い慕う先生ではない。

 ただ都合の良い役割を与えられただけの、空っぽの人形。いずれ彼女の人格のデータを取り戻した時、その『魂』を受容させるための器作りの一環。

 

「個々の死に意味なんてない」

 そう嘯く為供は、兵庫のパックを懐中に納め、それを入れ替えるかたちで、もう一つのライドパックを取り出した。

〈Dead Copy:Occultic〉

 墓場と髑髏を描いた、パラダイムシフトの一つの収束点。その力を使い、世界を塗り替える。

 

 彼を、その手のライドパックを基点として、裏返るような空間は暗転し、平坦な枯野が広がる。

 年齢の差異、服装の差異……そして損壊の差異はあれど。

 同じ顔の女の成れの果てが、その地平の果てまで埋め尽くして、晒されていた。

 そこに、新たに二体の複製が加わった。

 

「だが、こうして積み重ねた屍は、いずれ彼女へと行き着く道となる。そこでようやく、君たちの死は意味を持つ……その日が来るのを、楽しみにしていてくれ」

 

 そう宣い、為供はカードデッキを投げ込む。所詮はこれも、数ある複製の一つに過ぎない。使い捨てて構わない。

 

 そして世界は再び表返り、すでにそこに、玉石為供の姿は無かった。

 

 〜〜〜

 

 暫時の後。

 謎の怪物との戦闘から即時離脱し、山を駆け下った明智一路は、担ぎ上げていた二人の肉体を、麓のパーキングへと下ろし、並べて寝かせた。

 そして、片手を這わせて男女の生死を確かめながら、オクトフォン8なる携帯端末で、ある人物へコンタクトをとる。まるで待ち構えていたかのように、かけた電話はスムーズに繋がった。

 

「……俺だ……あぁ、そうだよ。何かあったよ、惚けてんじゃねぇ。こんなけったいなモン寄越しやがって」

 そう毒づく彼は、臆面もなく、千機りんくの腹を捲り上げた。

 

 胴体に穿たれた大穴。そこには人としてあるべ臓器(もの)がなく、代わり、存在してはならない基盤(もの)が捩じ込まれていた。

 

「とりあえず救急車……いや、もう手遅れだけどな……は? 千機りんくは捜査官が来る前に保護? 俺の裁量で? おい! 無茶言うなっ! こんなロボットどこに……あぁクソ! 切りやがった!?」

 

 舌打ち混じりに用を終えた端末を押し込み、あらためて自ら検分を行う。

 男の方は、やはりすでに事切れている。軽度の火傷、重度の外傷。おそらく臓器類にも相当のダメージが加わっている。何かに護られながら、それでも衝撃を捌ききれなかったか。あるいはそれは、先の爆発に関係するものか。

 

 その身元を確かめる術はないものかと探ったが、財布さえ見当たらない。

 期待薄に探った、破れかけたコートのポケットから、一枚の名刺が出てきた。

 肩書きは大分に胡散臭いが、顔写真付きのそれは、確かに彼自身のもののようだった。明智は胡乱げに、そのまま声にして読み上げる。

 

 

 

「鏡心龍麟拳伝承者、佐武兵庫……?」

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