仮面ライダーエンブリオ 〜Episode 0〜(エイプリルフール企画) 作:大島海峡
「……で、あらためて聞かせてもらおうか」
旧特殊状況下防衛センタービル、地下研究室。その廃墟に、明智はりんくを、りんくだったモノを、持ち込んで、長机の上に寝かせていた。
死体、と呼べるものでは無い、と思う。男の方の
だが彼女の方は、迷いに迷った。
順当に考えれば、
だが、明智はそれを、彼女を、未だ復活の目処がある、一個の知性として認めて自らの許へ留め置いた。
……たとえその破れた腹部から導線らしきものが零れ出たとしても。
そして文句と当惑は、彼女を遣わした相手に、特注の携帯端末越しにぶつける訳だ。
『彼女こそが、今回の事件を知る人間からの、贈り物だったわけよ』
と、かつての上司は朗々と響くその声を、電波に乗せて送り出す。
『彼女……千機りんくという名と共に、彼女は匿名の人物から警視庁に送られてきたの、箱詰めでね。そして開けると同時に、彼女は「ロボット刑事」として起動した。自分を伴い、山麓にある旧首衝会の施設『ガレリア』跡地で彼と落ち合うこと。それが、彼女にプログラムされていた唯一の記憶と指示」
「彼……あの死んだ男か?」
『たぶんね』
回収した名刺をあらためて摘まみ上げて、名を見る。
佐武兵庫。
『彼もまたかつてガレリアチルドレンと呼ばれた、特殊な才能を持った人間。内部から手引きし、宗教団体「衝華の会」の壊滅に加担したとされてる。その後も何度となくその後継団体の拠点を襲撃した容疑者として、警視庁は行方を追っていた』
「で、今度は返り討ちに遭ったと?」
明智はシニカルに唇を歪ませた。
「だが奴は死に、コイツも動かなくなった……もし目覚めなければ、少なくとも残骸から情報をサルベージ出来なければ、ふりだしに戻る。俺より、
やや間を置いてから、ため息混じりに答えは返ってきた。
『当然、彼にも協力と意見を求めた。でも、「専門外だから他を当たった方が良い」って』
「は? あいつが分かんなけりゃ、誰が専門なんだっての」
五乗……旧友の弟は、ハッカーであり、一流のエンジニアである。
つまりは、こういったソフトハード問わず、機械仕掛けの代物のプロだろうに。
『曰く、「内部機構や回路はメチャクチャ。思考アルゴリズムをはじめとしてソースコードはデタラメ。これで動くはずがない。まぁプログラムなんて多少そんなところもあるけど、コイツはその多少の範疇を超えている。まるで専門知識なんて持ち合わせちゃいない三流作家が、作劇上の演出として適当に書き連ねた、羅列のようだ」って』
当人の口ぶりまで、それなりの完成度で模倣して。
『「それはきっと、理の外で動いている」』
と。
「……」
半笑いにも似た胡乱な面持ちで、明智はそっと、腹部を閉じた。そのためのカバーは、不安定ながらもかろうじて原型を留めてつながっている。
――直後。
千機りんくは、刮目と同時に上体を持ち上げた。
うおッと頓狂な声をあげて飛び退く明智に向けて、りんくは微笑を浮かべ、着衣の乱れを可能な限り整えた。
「おはようございます。と言っても、もともと意識は偏在状態にありましたが」
「は? あ、お前……大丈夫なのか?」
「はい、貴方が腹部の破損を隠したことで、『再起不能のスクラップ状態』という事実は形而下のものとなり、刑事として再起動できました。補足しますと、形而と刑事、これは所謂ダジャレではなくたまたま同音異義語が連続して続いただけであり、決してそういう意図があったわけでは」
「そういうことを聞いてんじゃねぇ!」
まったく要らないフォローへと移ろうとするりんくに、混乱に沈む前頭部を押さえながら、明智は睨み上げる。
「お前、何なんだ、ほんとに」
なるほど、この時点をもって、これが理外の存在だということだけは解った。
『……だからこそ、刑事として、かつて仮面ライダーとして、いろいろなものを見てきた、君に判断をお願いしたい』
電話越しの彼女が、口を挟む。
『彼女は、刑事として適確か。敵か、味方か。事件の手がかりか、それとも罠か。この件を、このまま彼女に委ねて良いのか』
そう、あらためて己の声音で問う。
「……そんなの、お前が、判断して同行すりゃ良いだろ」
『ダメダメ。こっちはこっちで忙しいのよ。ほら、件の幽霊チャンネル、
「思い付きとライブ感で決断するのは、相変わらずか……俺をその気にさせるためにわざわざ、こんなモンまで寄越して」
千機りんくの横に据え置かれた、二種のドライバーを流し見る。
『結果的に、いいタイミングだったでしょ?』
「……いや、千機りんくがブッ壊された後だから微妙に遅ぇよ」
だが、結果的に正しい方向へと進む。腹立たしほどに。
それが、彼女だった。
「千機りんく」
あらためて、彼女に首を振り向ける。
「一つ、お前に確認しておきたい」
「はい、なんでしょうか」
機械さなどまるで感じさせない自然な動作で、彼女は問い返した。
お前は何者だ、という最大級の疑問は苦労の末に飲み下した。
知っていれば、嘘偽りなく名乗ったことだろう。
「腹をブチ抜かれるあの瞬間、お前何考えてた? 自分を犠牲にする覚悟で、とうに死んでいる可能性が高いあの男を助けようとした。何故だ? 内蔵されてる良心回路でも働いたか? それとも、大切なご主人様を守るようプログラムされてたか?」
多分に毒のある絡み方をしながら、明智は反応を窺う。
「……すみません。分かりません」
その問いに対する、処理の時間、一瞬の光芒が過ぎる双眸。そこに明智は、千機りんくのわずかな隙を見出した気がした。
「プログラムは自己犠牲を選択しません。記憶容量の多くが意図的に空白化していて、彼が私の所有者であったことを今初めて知りました」
ですが、と。
辿々しく、言葉を紡ぐ。
「その理由を含めて、わたしは知りたい。私が本当は一体、どこから来た、何者なのかを」
明智一路の、眇められた瞳に、赤い影がちらつく。
『知りたいんだ。わたしが、いったい誰から生まれたのか。そしてわたしが、本物にわたしなのか』
かつて画面越しに、そんな風に決意を表明した相棒がいた。
「……」
長く深い溜息の後で、明智は顔を上げて言った。
「良いだろう」
と。
「いや、自分で言ってて何目線だって感じだが……少なくとも、中身のない綺麗事を押し通そうとする奴よりかはよっぽど良い。自分が何をすべきかさえも見定められないまま動くような『人間』が、他人や他ごとをどうこう出来るとも思えないしな」
いずれにせよ、と明智はその手を、ドライバーの横へと伸ばし、方形の塊を掴み上げた。
それは、スワンプを名乗っていた連中と同じ種のもの。
赤錆びた色味で、トレーディングカードのデッキやパックのごとき、紙片を括って構成された集積体。その銘には、ボルトで
『Steampunk Vehicle』
と打たれている。
その名前だけは、知っている。
たしか、それなりに売り出されている少年漫画だった。
乱戦の最中、あの怪人から強奪したものに、何故その名がついているかは知らないが、無関係というわけでもあるまい。
「現場の手がかりは、こいつと、お前自身。だったらそれに賭けるしか無いだろ」
『決まり、だね』
その鶴の一声を以て、明智はりんくにそのパックを手渡さんとした。
だが次の瞬間、それは黒い泡に包まれて、沈むようにして消えた。
ふいに重みの無くなった自らに手に視線を向けた明智は、憮然と閉口した。
「心配無用です」
この何もかもが曖昧な状況で平然としているのは、相変わらず千機りんくのみである。
「おそらく、彼の下に送り届けられたのでしょう」
「彼?」
「この儀における、本物の手元へ」
抽象的な答えである。意を問い返したとてやはり満足な答えは得られまい。
ふいに気配ないし視線めいたものを感じて、明智は天へと目線を上げたのだった。
〜〜〜
『おそらく、彼の下に送り届けられたのでしょう』
『彼?』
『この儀における、本物の手元へ』
その吹き出しのコマも、見上げる監察官の構図も、ペンで引き回してページを握り締める。歪に力の込められた手元には、いつの間にか仕事道具ならぬものが置かれていた――現れた。
『Steampunk Vehicle』
自身の漫画と勝手にコラボレーションしたカードゲーム『スワンプワールドトレーディングバトル』の、パッケージ。
だがそれが、流通している玩具ではないことを、彼はよく承知していた。
これは、ライドパック。パラダイムシフトの概念を物質化させたもの。
つい今しがたまで、そんなものは存在さえしていなかった。
パラダイムシフター。ガレリアチルドレン。その一人たる彼にとって、不意に描いて
それは――いずれ現実として顕れる。
「……いよいよ動くか……エンブリオ」
その運命を噛み締めながら、パックを掴み上げて、漫画家は立ち上がったのだった。
まさかの唐突な新キャラ。
一応補足説明的かつ本来の第一話的な話を想定して、次からはこの漫画家が引きなのですが、(あくまで個人的に)思ったより世界観の説明と話のまとめがこの時点でできているので、どうしようかという感じではあります。受け身な態度で恐縮ながら、需要があれば継続するといったところです。
それはそれとして、今回のエピソードに対する後日談的な話を続ける予定ではあります。
また、今後の予定ですが、最後のリクエストの消化となります。
レオウではなく、完全な新作としてやる予定で。こちらも短編予定です。
ただ、これ以上に陰惨で救われない話になる予定なので(というかそれしか思いつかなかったので)、自分の心身のバランスと相談しながらマイペースにやっていこうと思います。
それでは、また次回にて。