転スラ~レプリカの鏡~   作:kurry(カリー)

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09話 鍛冶

 人数が五百人増えるという事で、土地の開拓を余儀なくされた。元々ヴェルドラがいた洞窟付近の土地もそこから生まれた俺とリムルがいるので、開拓対象になり家を作るために木の伐採を開始した。

 ただゴブリンや狼では伐採するだけで時間がかかるし、なんとなく血刃で斬ってやると住民達は大層喜んだ。褒められるのは悪くなかったからもう少し斬ってやると、木の傍にいたらしい虎の頭を真っ二つに斬ってしまって阿鼻叫喚になりそれ以降手伝おうとするとやんわり拒否されるようになった。

 

 それから数日後、リムル御一行様が帰ってきた。一応様子を見に村の入口のところで待っていたんだが、リムルは俺を見るやいなやランガから降りてきて俺の前にやってきた。開口一番、俺に対してリムルの口から出た言葉は……

 

「エミルス! お前なんかやらかしたりしてないよな、ゴブリンの何人かを行方不明にさせたりしてないか!?」

(おいおいさすがにそんなことはしてねぇよ)

 

 俺はどこのマッドサイエンティストだよ。リムルは俺を戦闘狂か何かだと勘違いしているんじゃないか? ゴブリンと言えば先日の件で色々騒動を起こしはしたが、ほんの少し委縮しない程度には圧をかけてやったがあれはやらかしに入らないだろ? 上下関係を刻み込むのは別に悪いことじゃねぇ。

 

「それならいいが……エミルス、お前の後ろにいる大勢のゴブリン達はなんだ?」

(お前の庇護を求めてやってきた近隣の村のゴブリン達だってよ)

 

「「「リムル様! おかえりなさいませ!」」」

 

 俺が横に引いてゴブリン達にリムルの姿を見せてやると、キラキラした目で御尊顔を眺め未来の主の帰還を喜んだ。村の長達はまだ畏怖の目を向けているが、そいつらに対して僅かに念を送ってやれば目を逸らされた。まぁ、さすがに他のゴブリン達に対して圧をかけるようなことはしない。上に立つ者が恐怖を知っていればいいからな。

 

 分かってはいたが、リムルは五百人のゴブリン達を受け入れることにした。リムルが俺に振り返って、助けを求めてきた。

 

(エミルス、名付けを手伝ってくれたりは……)

(俺が名付けしたら低位活動状態(スリープモード)を通り越して弱体化するからな。遠慮しておく。お前はヴェルドラの魔素もあるんだから、お前が名付けろ)

(お前って納得させられる理由つけてサボるのが上手いよな……)

 

 失礼だな、合理的に判断しただけだってのに。

 

 リムルがドワルゴンから持ってきた成果としては、カイジンらドワーフ族の勧誘だろう。これによって鍛冶だけではなく、建設や衣服も将来的に充実する。ゴブリン達も技術の登場によって職業という概念が生まれ、それぞれのやりたいことで経済を回していくことになる。

 俺もやりたいこと、というよりしてみたいことがあった。後でカイジンに個別で話を通しておこう。

 

 一方、リムルは結局名付けから逃げることが出来ず五百人のゴブリンの名前を付け終え、低位活動状態(スリープモード)で三日間戻ってこなかった。その間に起きた出来事を詳しく話していこうと思う。

 

「エミルスさん! オイラ嵐牙狼族(テンペストウルフ)の召喚に成功したっす!これからは相棒との戦い方も学びたいっす」

「エミルス殿、リムル様が黒嵐星狼(テンペストスターウルフ)という我らの目指すべき先を教えてくれたのです! そのためにも、もっと力をつけるための指導をお願いしたく」

(待てお前等、あの一回で終わりじゃねぇのかよ)

 

 ゴブタとランガの二人はドワルゴンの遠征の中で大いに学びがあったらしく、一段と成長して帰ってきた。俺とコイツらの関係性はアレで終わりかと思っていたが、本人達はそのつもりがなかったらしく、俺の言葉に不思議そうな表情を浮かべていた。

 ……まぁ、可能性の塊みたいなコイツらを俺が鍛えてやったらどうなるのか気になってたし、引き続き教えてやってもいいか。頷いてやると、二人は満面の笑みを浮かべた。

 

 それから更に数日後、カイジン達の為に建てられた鍛冶場に訪れた。鍛冶場が出来てからカイジンは毎日のように鉄を打っている。まさに職人だ。その様子に興味津々なゴブリン達に混ざって、俺はカイジンの動きを観察していた。

 理由は簡単、武器を作るためだ。洞窟の中でリムルと役割分担して俺は魔鉱石を多く持っている。『大賢者』に頼んで魔鉱塊に加工することは出来たが、武器の作り方を知らない俺は大量の魔鉱塊を持て余していた。リムルに頼まれ俺の中の二割ほどの魔鉱塊はカイジン達に提供されたが、まだまだ俺の胃袋の中で眠っている。

 

 作り方が分からねぇなら、作り方を学ぶしかない。俺はカイジンの仕事を観察しながら、技術を盗むは言い方が悪いが勉強することにした。

 炎で鉄の塊をトンカチでたたいて引き延ばしていく。簡単そうに見えるが、綺麗に延ばすだけでも想像を絶するほどの繊細さが求められそうだ。

 

「おや、アンタはエミルスの旦那じゃねぇか。 俺の腕が本物かどうか確かめに来たってことかい?」

(そういうことじゃないさ、むしろカイジンの腕には惚れ惚れしてる。お前から鍛冶を学びたいんだ)

「そいつは嬉しいな、職人として冥利に尽きるってもんだぜ。しかし、申し訳ねぇがエミルスの旦那に個別に教える時間が取れそうにねぇんだ」

(あぁ、この村の整備が整ってきて時間が空いたらでいい。暫くはここで眺めるだけだな)

「へへ、エミルスの旦那に見られてるとありゃ更に気合が入るってもんよ」

 

 会話はそれぐらいにして、カイジンはまた鍛冶に戻った。確か、クロベエという鬼が仲間になっていくと本格的にテンペストの鍛冶技術が仕上がっていくはずだ。俺は剣しか武器を持っていなかったが、こうして前よりできることが少ないと武器の重要性を味わわされる。ゴブタに教えるにしても、色んな武器を使える方がいいだろう。槍、弓、鞭……どれも試してみたい。

 

(そうだ、カイジン。お前の腕を見込んで頼みたいことがある)

「ほう、聞かせてくれ」

 

 『鏡像者』のスキルの応用として、カイジンにとあるアイテムの作成を依頼した。しかし、まず素材が貴重なのと加工技術が必須というわけである程度の時間が必要であると言われた。気長に待つしかないな。

 

 あぁ、ゴブタと言えば嵐牙狼族(テンペストウルフ)の召喚を俺にも教えてくれた。正直ヤツの擬音ばかりの説明ではほとんど分からなかったが、とにかく狼が通れる出口を俺の影に創るイメージで念じてみるとあっさり召喚することに成功した。

 

 ゴブタは結構ショックだったらしく、「オイラの尊厳を犠牲にして出来た召喚が……」とかなんとか言っていたが意味が分からない。せっかくだし召喚に応えてくれた狼と一緒に発展途上の村を駆け回る。

 久しぶりに風に乗ったスピードに心地よさを感じる。まだこの世界に来てから数か月といったところだが、人間の身体に戻りたいと思うことは多々ある。リムルの運命の人とやらが早めに来てくれると助かるんだが。

 

 

 その願いが神様にでも届いたのか、間もなくそのリムルの運命の人は俺の目の前に現れたのである。

 

 

 

 

 やらかしてないなんて真っ赤な嘘だ。エミルスはとんでもないことをやらかしていた。

 前々から新しく入ってきたゴブリン達の様子がおかしいと思っていた。俺の目の前で失敗したというだけで跪いて懇願してきたのには驚いた。別に、新しいことは誰だって失敗するから咎める気なんてなかったんだが……。一体何があったのかと問いかければ、新しいゴブリン達はエミルスに酷い脅しを喰らっていたことを漸く把握した。

 

 急いで本人に聞いてみれば、あれはやらかしの内に入っていないなんて言い放った。

 

「さすがにやりすぎだろ」

(アレぐらいがちょうどいいだろ、お前は五百人以上の命を背負うリーダーだぞ。大体お前が甘すぎるから俺がこうやって厳しさってのを教えてやってるんだろうが)

「あのなぁ……」

 

 エミルスが言っていることは分かるけど、さすがに理不尽すぎる。俺はエミルスに代わりを託せると思ってこの場所に残したんだ。下のランガに顔を合わせる。どうやらランガにも思う事はあるらしく、こくりと頷いた。

 ゴブリン達に言ったあの言葉はまるで必死に部外者であると自分に言い聞かせているみたいだった。それに、水晶玉にエミルスが映らなかったことも気になる。

 よく考えたらエミルスの事、俺達は何も知らないんじゃないか。もう一度口を開こうとした時、俺達を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「リムル様~! エミルス殿~!」

 

 ゴブリン・キングに昇格させた(昇格させられた)リグルドがこちらに走ってきている。他のゴブリンの村長がゴブリン・ロードになり、それを総括するキングになった。なんか更にデカくなった気がしなくもないような……これは気にしない方がよさそうだ。

 

「どうかしたのか?」

「は! リグルら警備班から連絡がありました。森で不審な者たちを発見したそうです」

「魔物か?」

「いえ、人間です」

「人間?」

(ほう)

 

 エミルスの声色が先程までとは打って変わって明るくなった気がする。まさかコイツ、人間を実験体にしようとしてるのか? まぁさすがにそれはしないだろう。……しないよな?

 ともかく、素性が分からない以上ゴブリン達が近づくのは危険なので俺達が出向くことにした。俺とそれにエミルスだったら敵対したとしても生還は出来るだろうし。ランガには待機命令を出した、多分警戒されるだろうからな。スライム二匹は見た目だけだと警戒されにくいし。

 

 こうして現場に急いで到着したものの、そこで見たのは仮面をつけた人間が炎で巨大蟻(ジャイアントアント)の群れを一掃する驚きの光景だった。俺達は迂闊に出ることができなかったが、最後の一匹を倒す前に仮面の人間が地面に片膝をついた。

 

 っ、まずい!

 

 咄嗟に前に出て『黒稲妻』を行使すると、巨大蟻(ジャイアントアント)は塵一つ残さず消滅した。衝撃で砂埃が舞い、やっぱり強力すぎるスキルだ。封印しとこう。

 俺の頭の上に何かが落ちてきた。どうやら先程の人間がつけていた仮面らしい。

 

「……スライム?」

 

 独り言が漏れていたらしく、冒険者らしき三人から不思議そうに問いかけられた。

 

「んっ、スライムで悪いか?」

「あっいや、スライムがしゃべるとは……」

 

 仮面を返すためにゆっくり近づくと該当の人物の顔を見ることが出来た。身軽さでは判断がつかなかったが、どうやら女性らしい。

 

「ほら、そこのお姉さんのだろ。すまんな、怪我しなかったか?」

 

 彼女は仮面を受け取ると、穏やかな顔で感謝の言葉を口にした。

 

「ええ、大丈夫」

 

 その顔は、占いで見た運命の人とそっくりだった。

 思ったより早く出会えたな。

 

 ――運命の人。

 

 で、感傷に浸っている間にせっせと巨大蟻(ジャイアントアント)の死体を喰ってるエミルスは何なんだ。

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