「あ、エミルスさん!」
三人組を探せば、村の中心で何か話ながら歩いているところを発見した。ぽよんぽよんとわざとらしく音を立てて近づいてやれば、エレンが真っ先に気づいて両腕を広げてきた。
……まさか、飛び込んで来いとでも言うのだろうか。エレンがキラキラした目でこちらを見つめてくる。無視するかどうか数秒悩み、そんなことに悩む時間が面倒くさくなってエレンの腕の中にすっぽり収まった。
(テントに行くぞ)
「お、ちょうどお見舞いに行くところだったからよかった」
「シズさん、大丈夫かな?」
「リムルの旦那がいるなら大丈夫でやすよ」
雑談しつつ、テントの前までやってくる。すると、リグルドが着替えを持ってこちらに近づいてきた。カバルがそれに気づき、声を掛けた。
「エミルス殿、それに皆さんも。揃ってお見舞いですかな?」
「リグルドさんもっすか?」
「はい、シズ殿の着替えをお持ちしたことです」
(……)
リグルドが先にテントに入って中を確認する。俺もエレンの腕から降りてリグルドの足の隙間からその姿を確認する。ランガも主の新たな進化に気づいたようだ。
「我が主!」
「えっ!」
「そのお姿は……」
「「「ええ~っ!」」」
「そ、その子が、リムルの旦那~?」
――あれが、リムルの人間の姿。
シズエ・イザワの受け継がれし想いってやつか。……想い、か。
三人組とリムルで話し合いが行われた。シズを喰ったことに対する説明と追及だ。
魔物の俺達にとって、リムルの見た目が変わろうが本人であることに変わりはない。だが、人間にとってそう簡単に割り切れるもんじゃないらしいからな。寿命という概念があるのは、人間くらいなものだ。
改めてリムルを見ても、俺にはリムルであるという事しか分からない。あぁでも、俺が知ってるリムルよりほんの少し幼く見える。そこにシズの面影があるとか、形見だとか言われてもよく分からん。それは、魔物だからなのか。それとも俺が、コピーだから中身を伴っていないからか。
少なくとも、俺はシズとの約束を忘れるつもりはない。果たすかどうかは、未来の俺が決める。
ちなみに、途中から話が脱線して旅路のエピソードを聞かされたがさすがにシズに頼りすぎだろ。って感じの内容だった。
それから数日後、結局一ヵ月ぐらい滞在していった冒険者三人組は、国に報告するために帰ることとなった。悪いようには報告しない、とは言っていたが。
……念のため、バタフライ・エフェクトの可能性を鑑みて対策を講じることにした。
(お前達、一つお願いしたいことがある)
「エミルスさん?」
(リムルと他の住民やら報告するのは構わないが、俺の事は一切報告するな)
「え、どうしてだ?」
三人組だけでなく、リムルも疑問に感じたようで俺に問いを投げてくる。
(俺は人間を簡単に信用するつもりはない。お前達は大丈夫だとしても、上層部が魔物を排他してこようとする可能性だって否めない。なら、渡す情報は少ないに越したことはないだろ)
「確かに……」
「納得しちゃうんすね、リーダー」
「私達のことは信用してくれたってことぅ?」
(……別に俺を報告しなくたって成立するだろ。町の主はリムルだ。俺は保険的な役割を果たすためにここにいる)
「なるほどな、分かった。エミルスさんのことは報告しない方向で」
納得したように頷く三人組に、一先ず安心した。後はコイツらが上司と話すときについ口走ってしまわないように祈るだけだな。そう思っていると、リムルから念が送られてくる。
(お前、結構考えてるんだな)
(能天気なお前と違ってな)
(ハハ、それよりエミルス。後でスキルの調整を手伝ってもらうついでに、お前の『鏡像者』も使えよ? お前もシズさんに思うところはあるんだろ)
(フン……)
チッ、こういうところは鋭いのが面倒だ。
否定せずにいると、肯定と受け止められたのか嬉しそうな気配が伝わってきた。
冒険者三人組が、もう一度だけリムルに人の姿をとってほしいと頼み込みリムルはそれを了承した。シズの面影があるリムルに、頭を下げて感謝を伝える。
「「「シズさん、ありがとうございました!」」」
「俺、あなたに心配されないようなリーダーになります!」
「あなたと冒険出来たこと、生涯の宝にしやす!」
カバルとキドが決意を述べた後、リムルを抱きしめたエレンが泣きながら言葉を口にする。
「ありがとう。お姉ちゃんみたいって、思ってました……!」
人の一生なんて、俺には分からないが。
コイツらみたいなヤツが近くにいるのは、退屈しなかったろうな。
リムルは餞別として、カイジン達の防具を三人に送った。あまりにはしゃぎすぎてなりふり構わず抱き着いていたのには驚いたが、ここ一ヵ月ですっかりアイツらのペースに慣れちまったみたいだ。
「エミルスさんって、抱いてみると結構触りごごちがいいんですよね……離れたくないなぁ」
エレンに頬ずりされるのにも慣れた。慣れてしまった。
前の俺ならすぐに逃げるか稲妻でも食らわせてたってのに。コイツらは運がいい。
「残念だけど、エミルスはうちのもんだから置いていってくれ」
リムルが人間形態になってニヤリと笑い、エレンから俺を奪い取る。
クソッ、リムルが人間形態になったらウザさが三倍に増えたな。まぁ俺が人間のリムルの方が見慣れているというのもある。スライム状態だと表情が無いからある程度抑制されていたが、本来のコイツは表情豊かでウザい。
三人は、リムル、それから俺と再会を約束した後この町から去っていった。アイツらにはもったいないぐらいの餞別が、上司にどんな印象をもたらすのかは分からない。リムルはきっとそんなこと考えてもいないのだろう。
町を一望できる高い丘の上に、シズの墓を建てた。手を合わせて祈るリムルを、俺とランガは静かに見守る。これが二ホン流の故人に対する哀悼の捧げ方なんだろう。
「エミルス、ランガ。俺は魔王レオン=クロムウェルに会いに行く。シズさんとそう約束したからな」
「どこまでもお供いたします」
(そうか。好きにしろ、俺は目的が果たされるならその過程はどうでもいい)
「素直じゃないな、お前は」
リムルは俺の身体を抱き上げると、町の方をじっと眺める。心臓の音は聞こえない。残念ながらコイツはスライムのため、見た目は人間だが中身はやはり魔物である。
そう、コイツが人間の姿を手に入れたということは、そろそろ本格的に町づくりが始まるのだ。
(というか、アイツらはいなくなったんだからなんで抱き上げる必要がある)
「お前さぁ、多分人間の姿手に入れたらほとんどスライムになるつもりないだろ?」
(当たり前だ。こんな不便な身体に好き好んでなるヤツなんてお前みたいな変人だけだ)
「変人とは失礼な、綺麗なお姉さんに抱きしめられるって結構……」
(はぁ?)
「……スマン、エミルスには関係ない話だったな」
勝手に憐れまれてる気がして、無性に腹が立った俺は血の腕を作ってリムルの顔を殴った。シズの顔? そんなこと関係ない。リムルの顔を殴っても特に心は痛まない。むしろ、めちゃくちゃスカッとした。
「イッテェ……! いや、痛くないか。いきなり何すんだよ!」
(不遜な態度の気配がしたから、殴った)
「今、スライム状態だっていうのを忘れてないか? 俺はお前に対してアドバンテージがあるんだよ」
(アドバンテージ? んなもんないだろ)
「お前をこうやって腕の中で潰すことができる」
(できるもんならやってみろよ)
その後、リムルと俺は久しぶりの醜い争いをした。
具体的には、血の腕と人間の腕で互いに殴ったりしただけだ。もちろんどちらにも効果はない。あの三人組のたくましさを見習い、しんみりした空気を解消することにしたのだ。シズがもしこの場面を見ていたのなら、きっと微笑ましく眺めていたことだろう。
二匹のスライムは、今後激動の時代を歩むこととなる。一匹は台風の真ん中、そしてもう一匹は台風から少し離れたところで。
※台風は真ん中よりも周りの方が被害が大きい