転スラ~レプリカの鏡~   作:kurry(カリー)

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襲撃の裏編
13話 ついに人間へ


 苦節数か月、ついに人間の姿になる日が来た。

 屈辱的なこの姿にも随分慣れてしまったが、やはり人間の姿に勝るものはない。魔人というだけで格が違うからな。しかし、リムルのおこぼれを貰う形になるのは癪だが。鏡の住人である俺の特性はどこにいても変わらないというわけだ。

 

 リムルの計画通り、村は着実に発展してきている。カイジン達の技術は徐々にゴブリンへと浸透してきており、あちらこちらで骨組みが建てられている。やがて、テントから家へと住居が変化していくのも時間の問題だろう。必死に働くゴブリン達を横目に、スライム状態の俺とリムルは仮として建てられたリムルのテントに急いだ。

 

「よし、誰もいないな」

(なんでコソコソする必要がある?)

「羞恥心ってのがあるんだよ! お前には分からないだろうけど」

 

 元人間の考えていることは分からない。

 もしかしたら、これこそがリムルと俺の最大の違いかもな。そんなことを考えながら、テントの中へと入っていく。主の住まいだからか、他のテントよりかなり内装が整っている。

 リムルは胃袋から修理したシズの仮面を吐き出した。

 

(これ、妙な力が込められているな)

「さすがに分かるか。これは抗魔の仮面っていう代物らしい。シズさんはこの仮面でイフリートを少しだけ抑え込むことができたそうだ」

(へぇ……それ、複製はできるのか?)

「できるけど。お前も使いたいのか?」

(ちょっと試したいことがあってな)

 

 リムルが疑念の目をこちらに向けてくるが、有無を言わさず睨みつけてやると観念して二つ目の仮面を渡してきた。一先ず仮面を畳まれている衣服の上に置いた後、約束通りリムルのスキルの調整に付き合うことにした。

 

(人に見られるのが恥ずかしいっていうなら、俺は大丈夫なのかよ?)

「お前は俺の赤裸々な過去も色々知ってるからな、すでに晒すものもないって感じで……」

(キモイからさっさと人間になれ)

「い、言われなくても……! へ~んしん!」

 

 謎の掛け声と共に、リムルが『擬態』を発動する。スライムの身体がにゅるっと伸びて人間らしい身体と部位を形作った。俺が初めて対面した時より少し幼い印象を受ける。リムルがまじまじと自分の身体を確認しつつ、目を瞬かせる。散々人間に擬態してたってのに今更何を確認してるんだか。

 

「視覚や聴覚はスライムの時の方が聞こえてたな」

(お前は今人間に擬態してる状態だからな、本来のスライムの方が『魔力感知』の性能が良いのは当たり前だろ)

「なるほど……」

(もういいか? やるならさっさと終わらせたい)

「あぁ、使ってくれ」

 

 正直『鏡像者』を使うのは、自分の劣等感の塊を見せつけられるような感覚だが人間の身体は今後のためにも必要だ。『捕食者』を完全に使いこなせていれば、もっと別の方法を考えられたが致し方ない。何故か目をキラキラさせて待っているリムルを殴りたい衝動に駆られるが、後にしておく。

 

 そういえば、俺が意志を持って『鏡像者』を使うのは初めてか。

 あの時はスキルが勝手に発動したからな。リムル=テンペストとリンク……あの後外そうとしても何も効果は出なかった。リムルが成長すれば『鏡像者』も動くかと思ったが、そういうわけでもないらしい。

 『鏡像者』の発動の仕方を知っているわけじゃねぇけど、なんとなく察してる。きっと、イジスの『妄想鏡(メガロマニア)』と考え方は一緒だ。

 遠慮なく借りてくぞ、母さん。

 

 ――鏡世鏡(カガミヨカガミ)。リムル=テンペストを映し出せ!

 

 リムルの身体から、青白い光が漏れ出す。光は俺の身体に集まり、やがて直視できないほどの輝きを放った。浮遊感が全身を支配して、流れる力に逆らわず俺は身体の主導権を手放した。

 

 やがて光が収まると先程感じていた浮遊感が消えた代わりに、俺の視点は若干高くなった。

 

「お前……エミルスか?」

 

 真っすぐ向いた目線の先に、驚いた顔をしたリムルがいた。

 久しぶりに声を出そうとすると、あーと言葉にならない声が口から零れた。つまり、口がある。腕を動かして髪を触ってみる。見覚えのある薄桜色の髪を視界に捉えた。

 

「あぁ、ちゃんと変化できたようだな」

「なんとなく分かってたけど、そっくりだな。シズさんに」

「そっくりなのはお前だろバカスライム」

「……人間になっても暴言は相変わらずだな」

 

 俺は『擬態』して人間になっているわけではない。それこそ、鏡に映った生物を具現化するイジスと理屈は一緒だ。スライムに戻るためにいちいち『鏡像者』を使う必要があるらしい。幸い、鏡に映ったリムルの姿は保存できるので、コイツの前でなくとも変化できる。

 懸念していたスライムと人間の反応速度の違いも特に違和感はない。この感覚、俺の精神体はスライムに依存しているわけではないようだ。

 そうなると、コイツが擬態できる生物はさっきみたいに鏡に映してやれば使えるようになるかもしれないが……いや、別に使わないからいらねぇな。

 

「てっきり全部そっくりになるのかと思ったけど、その白っぽいピンクの髪と紅い目はエミルスらしくていいな」

「……エミルスらしい?」

「そう! どことなくクールな雰囲気を醸し出す感じ、めちゃくちゃ似合ってるよ」

 

 ……前の世界のリムルと、目の前にいるリムルが別人であることは理解している。だが、魂の色は同じなのは確かだ。つまり、初めて出会った時俺とリムルが敵対関係で無ければこんなことを言っていたのだろうか。

 いや、例えそうだとしても環境と出会いかたが違いすぎて考えるだけ無駄になる話だ。運び込まれていた衣服を着て、思考を切り替える。毛皮を使った服だが、凝った装飾品やオーダーメイドはまだできそうにない。そして、今は使いどころがないため抗魔の仮面を腰に着けておく。

 

 一方、リムルは分身体を生み出し自分の身体をまじまじと確かめていた。そして、ある部位をチラッと見たかと思えば地面に倒れ込む。

 

「む、息子復活ならず……」

 

 などと、よく分からん言葉を呟きながら絶望しているようだ。ったく、同じ顔で気持ち悪い顔をしないでほしいものだ。それにしても、『分身体』というスキル。ソウエイとかいう鬼もよく使っていたがアレは便利だ。情報取集を目的としているためぜひとも欲しいのだが、残念ながら手に入れる手段が無い。新しいユニークスキルである『変質者』は貰ったが、やはりイフリートの能力は使えなかった。分身が使えれば結構楽だったかもしれないってのに。

 ……いっそのこと、今目の前にあるコイツを下僕にでもできたらいいんだが。

 

「リムル、ちょっとコイツ借りていいか?」

 

 リムルが着替えている間放置されている『分身体』を指差して問いかける。何を勘違いしているのか、少しムッとした表情をして返答された。

 

「一体何するつもりだよ」

「俺のスキルの実験体に」

「やだよ! 俺も実験したいんだから。分身体一人しか作れないんだぞ。てかそう言って俺のことボコボコにする気だろ」

「嫌なら反撃すればいい。分身体を操ることは出来るんだろ」

「まぁな」

 

 リムルがそそくさと分身体を魔素に変換して吸収すると、大きく背伸びをして人間の身体を堪能した。人間状態のリムルを見ていると、シンシヤのことを思い出して少し心が軽くなる。それと同時にあの時の嫌悪感も思い出すため結局プラマイゼロだ。

 

「リムル様、エミルス殿。ご報告がございます」

「おう、今行く」

 

 どうやらリグルドがやってきたらしい。テントから顔を出すと、リグルドは俺とリムルの顔を見比べ始めた。なんだ? リムル様にそっくりとか言い出したら本気で縛り上げてやるけど。

 僅かに警戒しながら様子を伺うと、特に何の説明もなく村の発展について報告しだした。いや、何も言わねえのかよ。仕方なく、報告の終わりを待つ。

 

「報告は以上であります」

「まてリグルド、俺の顔ジロジロ見て言いたいことがあるならはっきり言えよ」

「言いたいこと、ですと?」

「……何も思わなかったのかよ。俺はリムルと同じ顔と声を持ってるんだぞ」

「いや、それはスライムの時点で」

 

 余計な事を言うリムルの口を手で塞ぎ、リグルドに問いかける。

 

「どうなんだよ?」

「そう言われましても、私はリムル様とエミルス殿が似ているという感覚はしませんな」

「……はぁ?」

「無論、他の者達も同じ意見かと」

 

 ダメだ、リムルの下で育ったぬるま湯みてぇな奴らに意見を聞いても無駄だ。聞くならランガか最悪ゴブタに聞いてみるべきだった。諦めてリムルの口から手を離すと、呼吸が必要ないのにゼーハーと深呼吸をする仕草をみせる。睨みつけられたが顔を逸らして回避する。

 

「あぁ、言い忘れるところでした。お二方、きょうもお食事は必要ないのでありますか?」

「スライムの身体じゃどうせ味がしな……ハッ!」

(人間の身体を手に入れたから、味覚も手に入ったってことじゃねぇか!)

 

 あまりの喜び様で思念が周りに漏れてんなコイツ。

 もちろん、リムルは快諾した。

 

「じゃあ、俺はパスで……」

「何言ってんだよエミルス! 食事は生きるための心の栄養だぞ!」

「別に摂らなくたって生きていけるだろ」

「分かってないなぁエミルスは。今日は絶対一緒に食べるからな、食べなきゃ無理やり引きずっていくつもりだから」

 

 なんでそこまで食べることを強制されなきゃならないんだ。前の世界のリムルも、食文化や娯楽を重視していたが魔物にとっちゃ必要ないってのに。だが、このまま拒否すれば絶対面倒くさいことになる。……はぁ、どちらにせよめんどくさいな。

 手を上げて降参の意を示す。

 

「分かった分かった。食ってやるから熱演してくるのはやめろ、ウザい」

「よし、言質はとったからな」

「お二方が参加されるとは、今夜は宴会ですな!」

「うむ、頼んだぞリグルド」

 

 リムルの圧に負けた。その事実にイラッとしたがこんなことにいちいちイライラしてたらこの先どうなるか分からない。気持ちを切り替えよう。

 テントから歩いている最中も、リムルはすでに今後の食生活の改善を図ろうとブツブツ呟いている。やはりコイツは俺をイラつかせる天才だと思う。

 

 やがて、村の出入り口で出発する直前のリグル率いる警備隊のところに訪れる。アホ面のゴブタも一緒だ。俺とリムルを見ると一目散に駆けつけてきた。

 

「エミルスさん! 無事人間になれたんすね」

「まぁな、そっちはどうだ。ちゃんとバディの練習は出来ているか?」

「はいっす! まぁぼちぼちって感じっすね」

 

 言い方はなんとも頼りないが、『魔力感知』でも分かるくらいコイツの練度は上がっている。やはり天才肌と言われるだけはある。俺の中で利用価値がそれなりに上がった。

 リグルと話終わったリムルがゴブタに声を掛ける。

 

「ゴブタ、お前も沢山獲物を取ってこいよ。今日は宴会の予定だからな」

「リムル様もエミルスさんも、今日は一緒に食べるんすか?」

「おうよ、味覚もゲットしたしな」

「ほぉ~二つのおっぱいが実っていくのは楽しみっすね」

 

 リムルがゴブタを空中に蹴り上げた後、すかさず上に飛び上がり腹パンでゴブタを地面に沈める。初めてとは思えないほど、見事な連携だった。

 

「こ、これがバディ……」

 

 そういってゴブタは沈黙した。余計な事を言うからだ。

 

 それから、森の奥から移動してくる魔獣が多いという話を聞き、リムルは念のためランガをリグル達に同行させた。仲間のことに関しては、妙に慎重になるんだよな。リムルの勘はこういうところで当たるからな、一応警戒しておくか。




ステータス
 名前:エミルス=アゲンスト
 種族:スライム
 加護:逆風の紋章
 称号:"魔物達の試験官"
 魔法:なし
 技能:ユニークスキル『鏡像者』
    (『大賢者』『捕食者』『変質者』)
    スライム固有スキル『溶解,吸収,自己再生』
    エクストラスキル『魔血変換』
    エクストラスキル『魔力感知』
    エクストラスキル『血液操作』
    スキル『威圧』『念話』
 耐性:熱変動耐性ex
    物理攻撃耐性
    痛覚無効,熱攻撃無効
    電流耐性
    麻痺耐性
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